“Every picture tells a story” ポートレート写真のアート性と投資価値

先週末にアクシス・シンポジア・ギャラリーでBOWIE:FACES展が開催された。(17日よりブリッツへ巡回)
同展にあわせて、テリー・オニールのエージェントである英国アイコニック・イメージスのロビン・モーガン氏が来日。在日米国商業会議所メンバーの前で、”Passion Investing in Fine Photographs”という講演を行なった。
講演タイトルを和訳すると”アート写真投資への情熱”というような意味になる。他の美術品とくらべて写真市場はまだ歴史が浅く、いまでも比較的低価格で質の高いコレクション構築が可能というような趣旨だ。このあたりのアート作品間の比較分析は特に目新しくはないだろう。
興味深かったのは、彼が頻繁に引用した”エヴリ・ピクチャー・テルズ・ア・ストーリー”というキーワードだ。直訳すれば、ここでは「写真」だが、すべての絵がそれぞれの物語を語るという意味。ロッド・スチュワートの1971年の名作LPを思いだしてしまうのだが、これはアート写真の中でどの分野を買えばよいかという流れで語られた。もちろん、彼が取り扱うテリー・オニール氏のポートレート系写真作品を念頭に置いているのは明らかだ。
彼の発言はだいたい以下のような内容だ。コレクターが写真を購入して、自宅に飾った場合、友人や仲間に写真が撮影制作されたバックグランドを語って自慢したいもの。複数のレイヤーのストーリーを持つ作品ほど人気が高く、投資的な将来性が高い。もちろん自分が好きで気に入った作品を選ぶのが一番重要。しかし、写真の選択肢は非常に幅広い。判断に悩んだ時は、出来るだけ自分の心が踊る様々なストーリーを持つ写真を選ぶべきということだ。それは、見る側が持つ多種多様な感情のフックに引っかかりを持つ写真を意味すると思われる。
例えばファイン・アート系写真の場合、語られるストーリーとはアーティストの提示する現代社会の様々な問題点などのテーマ性になる。それらは時にコレクターと見る人の高いレベルの知識と理解力が求められる。しかし、モーガン氏が重視するポートレート作品撮影時の様々な逸話には、特に高い理解力は必要とされないのだ。私はこれはアートとしてのファッション写真の評価軸と似ていると直感した。アート系ファッション写真と同様に、撮影された時代の気分や雰囲気が反映されたストーリーが提供されることで、コレクターの興味が喚起されるという意味だと感じたのだ。ただし単に撮影秘話や背景のようなストーリーが語られれば良いのではない。この点は勘違いしがちなので注意が必要だろう。
ヴィジュアルに含まれる情報が多いファッション写真と比べて、ポートレートは、写真を見ただけではなかなか作品の時代性までが読み解けない場合が多い。そこで時代性を持つストーリーが語られることでコレクターの持つ感情のフックへの引っ掛かりが提供されるのだ。様々な情報が伝わることで、撮影された時代背景が見る側で明確化してくるわけだ。ここにポートレート写真がアート作品になり得る可能性を見ることができるだろう。
またモーガン氏は触れていなかったが、ポートレート写真の持つ時代性を見立て、情報として伝えるキュレーター、編集者、ギャラリストが必要とされるのも明らかだ。
BOWIE:FACES展のカタログには、ボウイのポートレート写真とともに、それぞれの写真家のプロフィールや撮影時の様々な興味深いストーリーが紹介されている。これらは、ボウイ好きなコレクターに当時の時代が持っていた気分や雰囲気を思い起こさせる仕掛けとして作用する。それらが自分のパーソナルな経験と重なると、ボウイのポートレートを通して、コレクターと写真家とのコミュニケーションが生まれる。それなくして写真を買おうという気持ちは起きないのだ。
BOWIE:FACES展では、ボウイのスナップやライブ写真の割合が非常に低い。それは、それらの写真は記録的要素が強く、多くを語ることが難しいからだろう。被写体に重きが置かれたブロマイド的な写真と、写真家と被写体とのコラボで作り上げられたアート作品との違いでもある。ファッション写真が1990年代以降にその価値観が体系化され再評価されたように、いまポートレート写真もアート性の再評価が進行しているのだ。その一端を類まれなアーティストでもあったボウイのポートレート作品に見ることができる。
BOWIE:FACES展
ブリッツ・ギャラリー(東京・目黒)
東京都目黒区下目黒 6-20-29 TEL  03-3714-0552
2017年2月17日(金)~4月2日(日)
13:00~18:00入場無料、本展は日曜も開催(月・火曜休廊)

アート写真コレクション
中長期投資の可能性は?

前回、ササビーズ・ロンドンでデヴィッド・ボウイのコレクション約350点のオークション”The Bowie/Collector”が開催されたことを紹介した。ボウイの持つ優れたアートの見立て力が評価され、全作完売のホワイト・グローブ・オークションだった。オークションで最も話題になったのはジャン・ミッシェル・バスキアの2点だ。”Air Power、1984″が710万ポンド、(@135/約9.58億円)”Untitled、1984″が280万ポンド(@135/約3.78億円)で落札された。2点は1995年に購入されたもので、購入金額は前者が7.85万ポンド、後者が5.87万ポンドだったという。約21年で各90倍、47倍も価値が上昇している。
貴重な1点ものの絵画はアーティストの人気が高まると相場が急上昇する。価格が高いものほど将来の上昇率が大きいのだ。同時としては高額だったバスキア作品を購入したボウイの決断が見事だったということだろう。

アート・コレクションはコレクターの余裕資産によって購入する分野が違ってくる。高額な絵画などは富裕層が、エディション数がある版画や写真は中間層が購入してきた。

ちなみに90年代の写真作品の相場をいまと比べてみよう。
ヘルムート・ニュートンの”Private Property”というエディション75点のシリーズがある。これはフォトブックにもなっているので知っている人が多いと思う。90年代初頭の販売価格は1枚2500ドルだった。ちなみに為替レートは1991年が1ドル/約134円、1995年が1ドル/約94円。ニュートンは2004年に亡くなっているが、現在の”Private Property”の価値は絵柄の人気度によって7500~25000ドル。数が多いのに関わらず、だいたい3倍~10倍になっている。

ちなみにオープン・エディションが中心の欧州系写真家はもっと安かった。ジャンルー・シーフの14X17″作品は850ドル、ホルストの11X14″が1200ドルだった。二人ともいまは亡くなっており、相場は絵柄の人気度によってシーフが2500~12000ドル、ホルストが3500~15000ドル程度になっている。こちらもだいたい3倍~6倍だ。
まだ高いと感じる人に画集やフォトブックのコレクションはどうだろうか。ボウイのコレクション展で高額落札されたバスキアの例で思いだしたのが、1985年に刊行されたバスキアのエディション1000点のサイン本。当時渋谷パルコ・パート1の洋書ロゴスで8,000円くらいで売られていた。彼は1988年に亡くなっているが、現在の相場は3000ドルになっている。こちらはなんと30倍以上だ。
これらの例はファイン・アートとして売られている作品の中には、数十年で価値が驚くべく上昇するものがあることを示している。しかし一方で価値がゼロになるアート作品も存在するのだ。コレクション初心者は、何を基準に判断すべきか悩むだろう。もちろんアートは作品への情熱で買うのが本筋で投機目的は邪道といえる。しかし、価値上昇は自分の目利きが正しかったことが時間経過の中で証明され、結果的にコレクション価値に反映されたとも解釈できるだろう。

では何を基準にコレクションを始めればよいか簡単にアドバイスしてみよう。よく若手アーティストを支援するために彼らの作品を買うと主張する人がいる。富裕層の人はアート業界支援のためにぜひお金を使って欲しい。残念ながら、多くの若手新人の作品価値はあまり上昇しないという歴然たる事実がある。作品制作が継続できないからだ。彼らを支援する富裕層は、数多くの新人若手をコレクションして、その一部でも超有名になればよいと考えているのだ。資金的な余裕と情報収集力が必要不可欠になる。資金をより有効的に使いたい人には、新人作品だけを集中的に購入する手法はあまり推奨できない。

作品の価値はアーティストのキャリアの積み重ねによる業界での評価が関わってくる。それゆえ、ある程度のキャリアを持ち、コマーシャル・ギャラリーが作品を取り扱い、フォトブックの出版実績がある人が好ましい。ただし、まだオークション実績が低く、相場が高くない人を狙うべきだ。
彼らは新人より値段が高いものの、すでにベースの評価が確立しているので将来的に相場が上昇する確率は高いのだ。そしてアーティストが亡くなったりしてセカンダリーのオークションに出品されるようになると相場が本格的に上昇する。価格は需給で決まる。作品の供給が減ったり、途絶えても、欲しい人が多ければ作品がオークションで取引されるようになる。

また相場の上昇率は絵柄の人気度が影響する。絵柄選定で悩んだら、自分の予算内で多少高価でも写真集の表紙やフライヤー、カードへ採用された人気の高い方を選ぶべきだ。プライマリーでの多少の価値の違いは、セカンダリーでは非常に大きな差に広がっていく。ちなみに新作展の場合、だいたいすべての作品は同価格になっている。
またアーティストの年齢では、50代くらいまでのキャリア・ピーク時の代表シリーズから作品を選びたい。
写真家のプリント制作にこだわる必要もない。専門のプリンターが制作していれば価値に変わりはない。
将来の価値を予想するのは困難なのだが、上記の点に注意すれば質の高いコレクション構築の確率が高くなると考える。作品の将来性の予想には業界情報が非常に役に立つ。作品購入を通してギャラリストやディーラーと親しくなると各種の内部情報が聞こえてくる。例えば数年後の美術館展や有名な奨学金受給が決まっている人は、将来的に価値が上昇する可能性が高い。また価格上昇のきっかけになる、個別作品のエディション情報や個展の開催予定などには留意しておくべきだろう。これらの情報で、ディーラーやコレクターは相場を予想して行動しているのだ。

シンプル系とライフスタイル系
展示空間によるアート写真の違いを知る

壁面にアート、写真などを展示するギャラリー。店舗の一種類なのだが、内装の設備投資などが最も少なく開業できる業種だろう。ほとんど什器など必要なく、ホワイト系の壁面と、簡単なスポットライトさえあればすぐにオープン可能だ。
ファイン・アート系作品の展示では、ギャラリー空間はできるだけシンプルな設えが好ましい。アート・コレクターはテーマ性の見立てを行うからフレームや展示空間など作品以外の周りには過度に主張してほしくないのだ。
また私が最近提案している限界芸術や民藝の写真版のクール・ポップ写真はどうだろうか。コレクターは写真家の作品制作背景の見立てを行い、購入後のアート展示スペースを意識して、場所との取り合わせと、フレームの設えの見立てを行うことになる。こちらも想像を膨らませられるように展示空間はミニマムな方が好まれるだろう。
作品を自律した存在として取り扱う美術館はいわゆるホワイトキューブが基本だろう。しかし本音を言うと、売買を前提として作品を取り扱うアートギャラリーにおいては、作品と相性の良いフレームや壁面色が存在するのも事実だと考える。欧米では、展覧会ごとに壁面を塗り替え、フレームも特別に用意するブランド・ギャラリーも存在する。彼らはアート・フェアでも、出品作にあった壁紙をわざわざ数日間のイベントのために設える場合もある。また欧米のコレクターの中には1点の作品のためにインテリアをすべてを変えてしまう人もいると聞く。しかし、単価の低いアート写真系はそのような予算はギャラリーにもコレクターにもない。上記のような理由を述べながら無難な白色の壁面で対応してきたのが実情なのだ。
最近では、白色壁紙の空間ではなく、個性的な色や素材の壁面や家具を設え、豊富なフレームの選択肢を提案するギャラリー・スペースも散見されるようになった。会場を作ったインテリア・デザイナーの名前が誇らしく謳われていることもある。
これらは、いま流行りのライフスタイル系のショップの傾向が強いといえるだろう。欧米では、この分野の作品供給のために広告写真家が仕事の一環として綿密なマーケティングを行い商品開発を行っている。それらはデザイン重視のインテリア系アート写真作品として様々な場所で売られている。市場規模もアート市場よりもはるかに大きい。このカテゴリーでは、フレーム・デザインやショップ・インテリアも作品の一部と考えられているのだ。実際のところすべての顧客が自分で作品の見立てができるわけではない。見立てができる人はかなりのベテラン・コレクターだ。
世の中には、経験も知識もないがアート作品を求める顧客層が多数存在する。これら一般客には、専門家によりトータルかつ巧みにマーケティングされて提示される作品の方がアピールするのだ。
ギャラリーと同様に、写真家の中にもフレームや展示スペースにこだわる人がいる。作品のテーマとコンセプト等が明快に語られるのなら、作品展示方法やフレーム選択は作品の一部と解釈される。ただし作品をデザイン感覚で理解している人もいるので注意が必要だ。それらもインテリア系のアート写真作品と判断したほうが良いだろう。
同じ写真というメディアで制作され、同じ価格帯でも、実は様々なカテゴリーのものが混在しているのだ。ファインアート系写真のコレクションでは、作品購入は自己責任が基本だ。自らが情報を収集蓄積して、考えて判断を下さなければならない。ギャラリーはそれらの情報をコレクターに提供するメディア的な役割も担っている。
ライフワークとしてコレクションに取り組む人は、ヴィジュアルの表層、ショップの展示方法、セールス・トークに惑わされることなく、能動的に作品と接して、各種の見立てを行う努力を心掛けて欲しい。それが、将来的に資産価値を持つ作品をいち早く見極めて選ぶことにつながるのだ。経験を積むと今までは見えなかった作品の良さが突然見えてくる。自分のアート写真リテラシーが次第に高まっていくのだ。それこそがコレクター冥利に尽きるだろう。
シンプル系かライフスタイル系か、お店構えのなかにも作品の本質を見極めるヒントが隠れている。

コレクションの基礎(5)
エステート・プリントの資産価値

写真はネガがあれば、そこから何枚でもプリント可能である。しかし写真家が生きているときに自らの管理下で手作業で制作されたオリジナル・プリントは印刷物では表現できない優れた再現力やクオリティーを持つ。それらは単なるネガからの複製品ではなく、それぞれが写真家による一点もの作品であるとアート写真界では言われてきた。
20世紀のアート写真市場が成立する以前に制作された写真作品は、撮影時とプリント制作時の時間経過の違いにより価値が区別されてきた。珍重されるのが、いわゆるヴィンテージ・プリントと呼ばれる、撮影から約1年以内にプリントされて作品だ。
一流の美術館では、写真家の作家性が一番反映されているという理解から、ヴィンテージ・プリントににこだわって収集・展示を行ってきた。
撮影後に時間経過して制作されたものはモダンプリントと呼ばれ、市場価値はやや下がる。写真撮影時の感動の薄れ、制作意図がプリントへ反映されている度合いが低いという解釈だ。
コンテンポラリーの写真作品の場合、最初から販売を念頭に置いてプリントが制作されている。初期制作時のデータが厳密に管理されているので、ヴィンテージ・プリント、モダン・プリントによる価格差はない。
このあたりまでのことは、写真コレクションに興味を持つ人はだいたい知っているだろう。
今回は作家の死後に制作された作品の市場価値について探求してみよう。
それらはポーツマス・プリント、エステート・プリント、トラスト・プリントなどと呼ばれている。写真家が死亡しているので、もちろん作品承認の印であるサインの記載はない。しかし、その中にも将来的に価値が上昇するものと、変わらないものがあるのだ。
まず価値が上昇するものを見てみよう。それらには以下のような要件が認められる。複数項目の要件を満たしている方がより高額になっている。
  1. 作品管理が写真家の直系の親族などにより財団などを創設して行われている。
  2. 上記の親族の承認サイン。
  3. エディション番号をつけ限定数で販売。
  4. 死亡後に写真家の仕事が写真史上で再評価され、サイン入りオリジナル作品の市場評価が上昇する。
典型的な例が、エドワード・ウェストンのエステート・プリントだろう。息子のコールが制作し、サインしたコール・プリントと呼ばれる作品だ。コールは写真家の生存時に共に作品制作に関わっていたし、彼自身も写真家として評価されていた。エドワード・ウェストンのヴィンテージ作品の価値上昇やコールの死亡もあり、人気イメージはエステートプリントでも1万ドル(約110万円)を超える。
アウグスト・ザンダーは、息子と孫までがプリント制作に携わっている。孫の関わったプリントは年間に制作枚数を限定していた。ザンダー人気の高まりもあり、5000ドル~(約55万円)の相場がついている。
80年代にファッション写真で活躍したギイ・ブルダン。ファッション写真のアート性が再認識されて死後に人気が盛り上がった。息子サミュエルが限定数で作品を制作してサインして販売。さらにデジタル技術を利用して作品サイズを巨大化させ、元々がシュールなイメージに現代アート的な要素も加えて提示している。ギャラリー店頭では1万ドル(約110万円)を超える値段がついている。
デビッド・ボウイのLPジャケット「アラジン・セイン」のビジュアルで知られるブライアン・ダフィー。彼の息子クリスも同様なアプローチでエステート・プリントを制作して成功を収めている。
一方でその要件に当てはまらない作品のアート性評価は低く、オークションなどのセカンダリー市場で取引されることはない。つまり、以下のように上記の逆の要件と考えてもらいたい。
  1. 作品の管理を、写真家の作品制作意図を知らない第3者が管理している。
  2. サインなし。もしくは親族と関係のない人のサイン。
  3. オープン・エディションで販売。
  4. 死亡後に写真家の写真史上の評価が変わらない。オリジナル作品の相場に変化がない。
アンセル・アダムスのヨセミテ・スペシャル・エディションは、オープン・エディションで26種類の写真が295ドル~(約32,450円)でいまでも販売されている。20世紀を代表する人気写真家の素晴らしいクオリティーの作品なのだが、オープンエディションで今までに膨大な数が制作されたこともありセカンダリー市場で取引されることはない。
しかし、さすがにアンセル・アダムス。ヨセミテ・スペシャル・エディションの初期作品は、セカンダリーを扱うギャラリーで現在価格よりも高く値付けされている。
その他、ジャック=ヘンリー・ラルティーグは、オープン・エディションが800ユーロ~(約10万円)、エルンスト・ハースは、オープン・エディションが1500ドル~(約16.5万円)。
注意が必要なのは、同じエステートプリンの同じイメージでも、サイズ違いでエディション付き、オープン・エディションがあることだ。それらの将来の市場価値は区別して考えるべきだ。またエディション付きでも、例えばファッション写真家ホルストのエステート・プリントの最小サイズは限定250点で180ドル~(約1.98万円)となっている。3サイズ販売されていてエディション合計は550点にもなる。これらはオープンと変わらないと判断すべきだ。高品位のポスターとも解釈できるだろう。
これらの例から、親族のサインがあって、リミテッド・エディションの作品は、アート写真市場の相場が参考に値段が決められていることが分かる。それらはオークションにも出品される可能性がある資産価値を持つアート作品になる。一方で、親族のサインなしのオープン作品は写真の一般商品で、売られた後は中古品としての価値しか持たない。したがって販売価格の基準は原価計算などを考慮して行われる。基本的には売り手の事情で決まるので、販売価格はばらばらになる。
この分類に当てはまらないのが、ヴィヴィアン・マイヤーのエステート・プリントだ。これは、リミテッド・エディション15点、アーカイブスを発見した歴史家ジョン・マーロフが認証のサインを行っている。値段は数千ドルしているという。強気の価格設定ができるのは、取り扱いギャラリーがニューヨークの老舗ギャラリーのハワード・グリンバーグだからだと考えている。つまりグリンバーグ氏の「見立て」がエステート・プリントの価値を担保しているのだ。作者不詳のファウンド・フォトが専門家の「見立て」により価値が認められるのと同様の構図だ。ヴィヴィアン・マイヤーは有名になったことで、著作権に関わる色々な権利関係の問題が発生している。権利関係が最終決定した後の市場動向は非常に興味深い。
それでは、現在ブリッツで展示中の新山清のエステート・プリントはどのように評価すべきだろうか。全作が写真家の息子の新山洋一の管理下で銀塩写真で制作され、彼のサインが入る。またエディション数は11×14″で10点としている。
間違いなく上記の値上がりする要件を満たした作品となる。あとは写真家の評価が今後どうなるかだろう。若くして亡くなった新山清。もし生きていれば、植田正治と同様の評価を受けていたかもしれないという人もいる。実際にドイツ・ベルリンのキッケン・ギャラリーは、彼のヴィンテージプリントの名品をすでにかなりの点数コレクションしているのだ。実は本当の価値は彼のヴィンテージ・プリントの方にある。海外の同世代の写真家のヴィンテージと比べると、現在の約60万円程度の作品価格は非常に魅力的なのだ。将来的にヴィンテージ・プリントの相場が上がると、エステートプリントの値段も上昇することにだろう。上記エディション10のうち3までが一番安い価格帯で、それ以降は値段は上昇するステップ・アップのシステムを採用している。日本のコレクターにとっての朗報は、新山清のエステート・プリントはつい最近から販売開始されたということ。まだ市場の大きな海外では販売されていないのだ。写真集の表紙やDMで使用された代表作もまだ一番安いに価格帯で購入可能なのだ。絵柄も、抽象、スナップ、風景、シティースケープなど多様だ。モノクロの抽象作品はインテリアに飾りやすい、初めて写真を買う人には最適だと思う。その上で、絵柄によっては資産価値を持つ可能性もかなり高いと考えられるのだ。
新山清のエステート・プリントは3.5万円(税別)から。エディション4/10以降は8万円(税別)となる。

コレクションの基礎(4) 資産価値を持つ写真作品の見分け方

前回は、市場には一般商品であるインテリア向け作品と、資産価値を持つファイン・アート作品が混在しており、コレクション初心者には見分けが非常に難しい状況を説明した。最も手っ取り早く、信頼できる判断基準はオークション市場での作品の取引実績だ。大手のササビーズ、クリスティーズ、フィリップスでの取り扱いと落札実績は資産価値の裏付けの指針になる。ただし、それは個別作品の人気度とも関わるので注意が必要だろう。
また、オークションでも、中小業者や、ネット・オークション、大手でも新人に特化した実験的オークションでの取り扱いは重要視されない。参考程度にとどめ、あまり過大に評価しない方が賢明だろう。

さらに状況を分かり難くかつ複雑にしているのは、インテリア向け作品の中にもレアなコレクター向け商品と同様の理由で値段が上昇するものも存在することだ。実際に、オークションではポスターのカテゴリーが存在しているくらいだ。多くの場合、ポスター分野で取り扱われるのは現在の有名作家の過去に制作された印刷物になる。それらで特に価値が上昇しているのはサイン入り展覧会ポスターだ。
ただし、価格の上昇率がアート作品と印刷物は全く違う点への留意が必要だ。有名作家による作品の上昇率は、1位が絵画のような1点もの作品、2位が版画や写真のようなエディション付き作品、3位がサイン付きオープンエディション作品、4位サイン入りポスターとなる。上昇率は1位以下は逓減していくような曲線となる。
同じエディション付きでも、数が少ない方が上昇率が高くなる。一般的な傾向として、アート系はエディション50点くらいまでと少なめで、インテリア系は1000点に近いものも存在している。また、銀塩写真の方が、インクジェット作品より上昇率が高い。

インテリア向けでも、サイン、エディションがついていれば、上記の3~4位の上昇率の範疇の作品に入る可能性を持つのだ。ただし、それは作家がその後の創作活動を通して。アート界で作家性が認知されることが前提となる。判断基準は、その写真家が単に商品開発やデザインをしているのか、それとも社会と接点を持つアート表現を試みているかだろう。そして以前も指摘したように長期にわたり作品制作を継続できるかが重要だ。可能性としては、高いアート志があるが生活のために確信犯でインテリア作品を制作しているような人や、キャリア中途で作家に転身した人だろう。ただし、確信犯でも売れたら今度はインテリア系のレッテルを張られるリスクを合わせもつ。アート指向の強い人は、このレッテルを張られるのが嫌なので、インテリア向けの写真の専門業者での作品販売はあまり行わない。

販売されている現場での見分け方についても触れておこう。ヒントはスタッフやオーナーのセールストークの中にある。注意が必要なのは「海外で注目されている、話題になっている、いま人気が高い、評価されている」というようなワンフレーズのアピールだ。海外での評価を謳い、国内市場をせめるのはマーケティングの常套手段だ。世界には膨大な数の写真展示を目的としたフォトフェスティバルが行われている。そこで展示されたことが、アート界の普遍的な評価に直接つながらことにはならないのだ。しかし実際には「海外で人気の高く、評価されている日本人作家」のような意味不明の説明が普通にされている。
見極めのポイントは、どのような点での話題性、評価、高人気なのか、その理由が明確に語られているかどうかだ。それも、作品のヴィジュアルの表層面や方法論ではなく、表現者としての作家性の評価が具体的に提示されなければならない。ただ上記のようなセールストークしかされない作品は、インテリア系だと疑った方がよいだろう。

見極めには制作技法も多少のヒントにはなる。インクジェット作品はインテリア系に圧倒的に多い。しかしもし作品テーマとの関わりが明確に語られている場合は問題はない。この点の見分けは経験がないと難しいだろう。

こうやって、あれこれと色々な情報を例外もあることを前提に提供し続けると、コレクター初心者は情報過多で判断不能に陥るだろう。
ここでコレクター初心者にもお薦めしたいのが、誰でも知っている有名アーティストのプリント付の限定写真集だ。写真集刊行時に、普及版とは別にボックスにサイン入りプリントと写真集が入れられた特装版が用意されることが多い。数はだいたい50~100点程度。これらは写真集としては高価だが、オリジナル作品としては非常にリーズナブルに価格設定されている。オリジナルプリントが高価で手が出ない人でも、購入できる可能性があるのだ。ただし世界的人気作家の場合は、予約時点で瞬く間に完売してしまう。普段から、取り扱いショップやギャラリーからの情報収集が重要だ。

リチャード・アヴェドンが亡くなる前の2001年にフレンケル・ギャラリーから刊行したプリント付写真集「Made  in  France」がある。限定100部で、当時としては異例に高価な約25万円だったが、市場に出る前に完売。作家が亡くなったこともあり、いまではかなり高額で、アヴェドンのオリジナル・プリント相場と完全にリンクして流通している。
普及版フォトブックでさえ、限定5000部と数が多いのに関わらず古書市場で5万円以上する。
プリント付のほかに、サイン入り限定特装版が刊行されることもある。ただし、写真家によっては普及版にサインすることも多いので、こちらの上昇率はあまり高くない。ただしもし好きな作家で、金銭的な余裕があるならば限定特装版を選んだ方がよいだろう。いまは、知名度が低い写真家もプリント付の限定写真集を発売する。いくら限定でも人気がなければ資産価値は出てこないので、十分に作家の将来性を吟味して購入してほしい。いままで色々と思いつくままに書いてきた。将来的に資産価値のある作品を見分けるのはかなり複雑で分かり難いと感じている。骨董収集などでは、贋物を買ってしまう人は、頑固で専門家の言うことを素直には聞けない人が多いという。アートの判断は個人の感覚が重要だと考えられているからだろう。もしこれから真面目にアート写真コレクションを始めたい人は、業界で長く営業をしている複数の専門家の意見を素直に聞くことをお薦めしたい。情報収集した上で、最終的な判断は自分の好みで下せばよいのだ。アート写真では、骨董の世界のように偽物を掴まされることはない。しかし知識と経験がないと、資産価値がまったくない見映えだけのインテリア系写真を高額で買ってしまうのだ。

コレクションの基礎(3) インテリア向け写真作品の現状

今回はインテリア展示用に商品開発された写真作品の現状を説明しておこう。これらは呼び方を変えると、応用芸術のデザインの範疇に含まれる一般商品だ。アートを拡大解釈するとそれに踏まれるともいえる。しかし、ここでのアートはファイン・アートのことを意味しているので混同しないでほしい。
多くの人は、欧米にはアート写真市場しか存在しないと誤解している。実はインテリア用写真の巨大市場が存在するのだ。専門の販売店が存在しており、見本市もある。最近はオンラインでの販売が増加している。
それらの写真はインテリア展示に合うように、綿密なイメージのマーケティングが行われている。わがままな顧客ニーズに対応するように、様々な作品サイズや豊富なフレームの選択肢も用意されている。モチーフのカテゴリーも豊富で、抽象、建築、海外シティースケープ、自然風景、音楽、 モノクローム、夜景、ポートレート、ヌード、ヴィンテージ、クルマ、海景、動物などの作品が提供されている。商業写真家が商品開発の一環として制作する場合もある。
またアイコン&スタイル系で、作家のアート性が低い作品はこのカテゴリーで販売されることが多い。物故作家の財団から権利を買ってエステート・プリントを制作するケースも散見される。

専門販売店は大都市やリゾート地などの集客が期待できる場所に、複数のフランチャイズ店舗を構えている。一般的にアートギャラリーは高利少売だが、インテリア系は薄利多売のビジネスモデルとなる。デジタル技術の発達で、在庫を持たずに注文ごとに簡単に作品制作できるようになったことが普及のきっかけだ。かつてのポスター販売店に新形態だと理解すればよいだろう。

この分野の購入者層もかなり多様だ。購入予算が少ない一般庶民向けの市場だと考えられているが、アートの購入経験が少ない中間層や富裕層も主要な購入者だ。このような人は、アートは自分の感覚で選べばよいと考えている場合が多いのだ。価格帯もかなり幅広い。ポスター感覚の低価格作品から、2000~4000ドル(約25~50万円)程度までが含まれる。日本の感覚ではかなり高額に感じるかもしれない。しかし、日本でも広告や雑誌で活躍している人気写真家が自らのファンのコミュニティーを作って写真を数十万円で売っている例も数多くある。それらは顧客が好きだから買う一般商品であり、資産価値を持つアート作品ではない。

以前紹介した、世界一高額の写真が売れたと自身で発表したピーター・リック(Peter Lik)。彼については様々な議論が巻き起こされたが、アート界の専門家はインテリア系の写真家と考えている。彼は自身の名前を付けたギャラリーを世界中で展開しており、販売価格は3950ドル(約47万円)からスタートする。親しみやすいヴィジュアルを気にいってコレクションしている人が数多くいるらしい。お金の価値基準は人によって様々なのだ。

アート写真市場で適用される一般的基準では、低価格帯作品は1万ドル(約120万円)以下をさす。通常この半分の5000ドル(約60万円)以下の作品に、投資的な価値を見出さないほうが賢明だといわれている。この種の作品の流通からは、日本でかつてイベント会場などで長期分割払いで数十万円で売られていたハッピー系の版画が思い起こされる。実際、いまではインテリア向けのアート分野では写真と版画が混在している。ともに作品はデータ化されて、インクジェット・プリンターで制作されているのだ。ジグリー・プリントも同じ意味になる。

インテリア向け作品とアート作品は、両者の境界線に位置する作品もあり価格帯では区別しにくい。アート系でも、中堅作家の代表作でない作品、若手写真家の作品が同じ価格帯になることが多い。販売方法での区別も難しくなっている。インテリア用でもアート作品同様にエディションをつけて、段階的に販売価格が上昇するステップ・アップ方式で価格設定している業者も存在するのだ。
写真制作方法は大まかな目安になる。インテリア系は量産しやすいインクジェット・プリンターを使用したデジタルプリントが多い。しかし、デジタル技術を利用するアーティストも存在するので、明確な線引きは不可能だ。結局のところ、店頭では、どのような種類の作品を、いくらで、何点販売しようがそれは売り手の自由なのだ。

このように、現場では様々な種類の写真作品が混在している。海外ではインテリア向け作品として販売する専門業者が存在する。それゆえ、ある程度の情報収集を行うとアート系との区別ができるようになる。しかし、日本ではデザイン重視の作品をアートとして販売している業者もいる。一般の人には非常に分かり難い状況になっているといえる。作品の価値が適正か判断できない商品を、消費者は買わないだろう。これが日本で写真が売れない理由の一つだと考えている。

次回は、現状認識を踏まえて、資産価値を持つ写真作品の見分け方について説明したい。

コレクションの基礎(2)
資産価値はどのように決まるのか

前回はコンテンポラリー作家の市場で付く作品価値について考察した。それでは、すでにオークションで取引されるような作品の資産価値はどうして決まっているのだろうか? 以下にいくつかの理由を上げてみた。

・希少性などの歴史的価値
いまや入手困難な、19世紀写真、20世紀初頭の写真。無名の人の写真の価値は骨董的な価値しかないが、写真史に残る写真家のヴィンテージプリント、つまり撮影から1年以内にプリントされたは写真作品は非常に高価だ。これらの写真作品は現存する絶対数が少ないうえに、一度美術館や有名コレクションに入ったものは二度と市場に出てこない。オークション・ハウスの担当者は、コネクションを駆使してそれらをカタログに掲載するために日々尽力しているのだ。
写真史を念頭に置いて系統的に収蔵、展示する美術館や有名コレクションは、基本的にヴィンテージプリントを購入する。世界的に美術館の数は増加傾向にある。また、いくらヴィンテージプリントが高価といっても他の美術品と比べては安いのだ。この分野には定常的に潜在ニーズがあるのだ。需給関係から相場が大きく下がることはない。

・現代アートの視点での再評価
かつて写真は独立したカテゴリーとして存在していた。モノクロ写真の抽象的な美しさやファインプリントのプリントクオリティーを愛でる分野だった。しかし、現代アートが市場を席巻し、いまや過去の一連の写真史は現代アートの視点で再評価されるようになった。何らかの時代性があるメッセージを持った写真家や、写真表現の可能性拡大を探求した人の作品の市場価値が高くなっている。ウィリアム・エグルストン、アンセル・アダムス、ロバート・アダムスなどだ。

・写真史で認められた有名作家
その他の、ドキュメント、スナップ系では、写真史でその仕事が評価されている写真家の場合は、そのサインの価値は認められている。しかし、高い資産価値を持つのは一部の代表作だけになる。知名度の低い作品は価格も安く、流動性も低くなる。これは、アンリ・カルチェ=ブレッソンやロベルト・ドアノーでもおなじだ。
20世紀に活躍した写真家の場合、数点だけの代表作しか高い市場性がない場合も多いのだ。

・キャリアに話題性がある作家
写真史上に優れた作家性を持つ人は数多くいる。その中でキャリアに話題性がある写真家の資産価値は高くなる。特に悲劇的なキャリアを持つ写真家の場合、その豊富な話題性からコレクター人気がある。画家のゴッホと同じような構図だろう。 自殺した女性写真家のダイアン・アーバスやフランチェスカ・ウッドマン。エイズで亡くなったロバート・メイプルソープ。アマチュア写真家で死後に評価を受けたヴィヴィアン・マイヤーも話題性で注目され作家性が認められた。ピーター・ベアードも、アフリカを舞台にした数々の逸話や、有名人との華やかな付き合いなどから注目されるようになった。
この分野で、本人が制作した作品は非常に高額だ。死後に制作されたエステート・プリントでさえも資産価値を持つ場合が多い。

・時代性を撮影したアイコン&スタイル系作家
この分野では、単にセレブリティーが撮影されているだけのブロマイド的な写真の価値が低い。撮影時にどれだけ写真家に自由裁量が与えられていたか、写真家と被写体との関係性が問われるのだ。ファッション系も、ただ単に洋服やモデルを撮影しただけの写真のアート的な価値は認められていない。写真家がどれだけ当時の社会や時代の価値観を感じ取って作品に反映させているかが問われるのだ。またこのカテゴリーは、インテリアに展示しやすいから人気が高いともいえるだろう。

オークションの市場動向を20年以上に渡ってフォローしているが、高額で取引されている作品の種類はそんなに多くないと感じている。最近の平均落札率が60%前半くらいであることからわかるように、オークションに出るような有名作家の作品でも約1/3は不落札になるのだ。写真家の作家性が評価されていても作品が売れるわけではない。資産価値が認められてコレクションされる写真作品は、全体の中では限定的なのだ。
しかし、欧米のアート写真市場では、シリアスなベテラン・コレクターは、既に評価されている作品にあまり興味を示さない。資産価値の視点から作品を買うのはあまりアート写真リテラシーが高くない富裕層の人たちなのだ。ベテランは、資金があれば有名作はいつでも買えると考える。彼らは常に情報収集と分析を行って、過小評価されている分野や将来性が期待できる写真家を探している。自分の目利きを市場に問うのがコレクションの醍醐味だと考えているのだ。
このように様々な視点を持った買い手が併存していることが、欧米のアート写真市場にダイナミズムを与えている。

次回は、いま話題の多いインテリア向け作品の資産価値について検討する。

コレクションの基礎(1)
資産価値を持つアート写真とは

・人気作家の不人気作品
よく市場性の高い人気作家という言い方がされる。いかにもその人のすべての作品にアート性と資産価値があるような印象を一般の人は持つのではないだろうか。しかし、それは作家の個別作品について当てはまること。市場では同じ作家でも個別作品の人気度によって相場や流動性が異なるのだ。
いくら写真史上の有名写真家でも、高額で取引される人気作と、買い手がつかない不人気作は存在する。それら不人気作は市場に出てくることが少ないので、あまり意識されることがないのだ。

・作品が売れる様々な理由
写真作品が売れることは、その作品にアートとしての資産価値があるという意味に直接つながらない。実は写真売買には二つの流通経路があり、それぞれで売れる意味合いが違ってくる。
まず作家の新作を販売する商業ギャラリーの店頭市場。そして、かつて販売された作品を取り扱うオークションなどの再売買の市場がある。
ディーラーやコレクターなどの専門家が集うオークション市場で売買されることは、その作品に客観的な資産価値があるということ。ただし最近は、新人を実験的に取り扱うオークションもある。それらは意味合いが違ってくるので混同しないでほしい。
一方、ギャラリー店頭ではオークションでの取引実績がないか、少ない作家の作品が取り扱われる。ここでは作品のアート性や資産価値よりも、インテリア展示用、イメージの好き嫌い、作家との人間関係など、別の様々な要因で写真が販売される。つまり、商業ギャラリーが現在進行形で取り扱っている作品は、いまはアート作品としての資産価値は認知されていないが、将来的にそれらが認められる可能性を持つという風に解釈すればよいだろう。

・販売価格の構成要素
オークションでの取り扱い作品の価格には、資産価値と時間価値が共に含まれる。厳密にいうとそれに業者の手数料が加わる。資産価値は時間経過の中ですでに価値が確立した部分、時間価値はさらに価値が上昇する可能性を持つ部分。オークションでの取り扱い作品は、だから高額になっている。
ギャラリー店頭で売られている新人作家の作品の価格は、資産価値はないが時間価値が含まれるということだ。
時間的価値は作家のキャリアと比例して増えていく。新人は低くからスタートする。作家活動を継続するにしたがって販売価格は上昇、つまり時間的価値が増加する。一方で作家活動をやめれば市場性がなくなり、この部分の価値はゼロになる。
作品の資産価値も作家キャリアの継続と販売実績の積み上げの中で生まれてくる。具体的には、一つの作品が売れ続けてエディションの残りが減少していくにしたがって作品に資産価値が生まれてくる。

・新人を買う時の見極め方法
新人の作品を買うのは、未公開株を買うのと同じだ。将来的に大きく価値が上がるか、無価値になるかである。将来性があるということは、ファイン・アートの世界で生き残る可能性があるということだ。個人として自立していて、自らが考えて社会の問題点を見つけ出し、作品として提示できる人かの見極めが重要になる。センスが良い、感性が優れているなどの表層の感覚的な部分だけで判断を下してはいけない。また作品自体の評価だけではなく、将来にわたって作家活動を継続できるかの読みが必要になる。複数の作品テーマを持っているか、などが判断基準になる。
しかしデビューして日が浅い作家を見極めるのは非常に困難といえるだろう。特に写真の場合、商業写真の仕事があるので作品制作を継続する人は非常に少ないのだ。 商業ギャラリーでさえその判断を間違うことはよくある。リスクヘッジとしては、一人の人に入れ込むのではなく複数の人の作品にコレクションを分散させることだ。情報収集の方法だが、本人と直接話しても本音はなかなか聞けない。既に作家に投資をしている取り扱いギャラリーの専門家に話を聞くのが一番良いだろう。作家の将来性について一番思い悩んでいるのはギャラリーだからだ。
ただし、日本で多いレンタルギャラリーやイベントで販売されたものや、インテリア向けに商品開発されたものは、アート風の一般商品の傾向が強い。特にインクジェットで制作されたそれらの写真はかつてのポスターに近い存在だ。将来的にアート作品として価値が出る可能性は非常に低いので買うときは注意が必要だろう。

・コレクション構築には専門家を活用しよう
インテリアに写真を飾りたいのであれば、自分の好みで作品を選べばよいだろう。しかしシリアスなアート・コレクションは、単に買う人のフィーリングだけで行うものではない。作品評価には非常にシステマチックな面もあり、的確に判断を下すには情報収集と分析力、また経験も必要になる。
欧米の主要なプライベート・コレクションにはコンサルタントが付いて多角的なアドバイスを行っている。また作品の売買では専門家にアドバイスを求めるコレクターも多い。投資の際にプライベートバンカーにアドバイスを求める感覚なのだ。

日本では専門家の意見を聞くという習慣があまりない。しかし真剣にライフワークとしてアート写真をコレクションしたい人は、専門家の活用を検討してほしい。ギャラリー、ディーラーを選ぶときは、彼らの情報提供力を判断基準にすればよいだろう。

アンセル・アダムスの名作で検証 アート写真は老後破産回避の資産となるか?

最近のマスコミ報道は、老後の不安を煽るものが多いような気がする。

2014年9月のNHKスペシャル「老人漂流社会”老後破産”の現実」は見た人も多いと思う。かなり衝撃的な内容の特集番組だった。「人生の最期を悲惨な状態で迎える人がいま急増している。なぜ、どのようにして人は破産してしまうのか。厳しい老後破産の現実はあなたも無関係ではない」これは週刊現代に紹介されている記事のキャッチコピーだ。
老後にいくらの資金が必要かは、ネット検索すると様々なシュミレーションが提示されている。自営業の人の場合、ゆとりのある老後のためには8000万円以上の貯蓄が必要というような例もあった。自分に照らし合わせてみて、この数字には本当に驚愕した。
このような情報が氾濫している状況では、終身雇用を勝ち逃げた団塊世代の人たちでさえ無駄な消費は控えようと考えるだろう。また昨今の終身雇用や年功序列の見直しは、正規雇用者でも無駄使いはしないという気持ちにさせる。この種のニュースは人間の本能の飢えの恐怖に関わってくる。私たちはどうしても自然に反応してしまうのだ。

さてこんな時代に富裕層でない人がアート写真など買ってよいのだろうか?質素倹約に努めた方が賢明でははないか、と考えてしまうだろう。しかし、もし好きで買った作品の資産価値が上昇するのなら投資的な意味が出てくる。アート写真の購入を正当化できるのだ。
ここでは、80年代後半から90年代前半に購入したアート写真コレクションがはたして投資価値があったか検証してみたい。ちょうどこの時期はバブル時代で写真もアートと認識され始めていた。またコレクションの一般的な所有期間の約15~25年間を経過しているので調べてみるには適当な時期だろう。

まず写真ファンならだれでも知っているアンセル・アダムス(1902-1984)の写真史における代表作「Moonrise, Hernandez,New Mexico, 1941」を取り上げてみよう。1988年4月にPPS通信がプランタン銀座で開催した「オリジナルプリント作品即売会」で作家のキャリア後期の1977年にプリントされた16X20″サイズ作品が285万円で販売されていた。1988年のドル円の為替レートは約130円程度だったのでドルでは約2万2千ドルくらいだったことになる。
さて約25年が経過してこの作品の価値はどのようになっているのか?2013年のオークション・データで同じ条件の作品を探してみた。1973年~1977年にプリントされたものが、Bonham NYのオークションで2万5千ドル、1978年にプリントされたものがSwann NYで2万2千ドルで落札されていた。2013年のレート1ドル100円で円貨に直すと、約250万円と約225万円となる。これからオークション手数料や諸経費を支払うことになる。結果的には、1988年にアンセル・アダムスの名作を日本で買ったとすると約25年間所有しても、なんと売却損が発生するのだ。中身を詳細に分析すると損失は為替によるものだ。ドル価の作品価値は低い落札価格の方でも、当初と変わっていない。しかし1988年の130円から2013年の100円までの円高により、為替で30円の損失が発生しているのだ。ここでわかるのはアート写真をコレクションすることはドル資産を持つと同じということ。
それではドル建ての作品価値があまり変わっていない状況をどのように理解すれば良いのだろうか。まず考慮すべきは、1988年にはアンセル・アダムスは亡くなっており、すでに本作はその当時の最も相場の高い写真作品だったこと。「Photographs:A Collector’s Guide」(Richard Blodgett、1979年刊)によると。1975年末まで本作の値段は800ドル(@305円、約24万円)だったという。その後新たな作品オーダー受付が中止されると、需給関係から市場価値が1500ドルになり、さらに6000ドルまで上昇したという。アンセル・アダムスは1984年になくなっているので、1988年の「オリジナルプリント作品即売会」での販売価格はすでに800ドルから約2万2千ドルに大きく上昇した後のものだったのだ。そして売却年に仮定した2013年はリーマンショックによる大きな相場下落から回復過程の時期だったこともある。実は最近の相場ピークの2007年には上記条件と同じ作品が3万4千ドルをつけている。当時の為替は1ドル115円くらいなので換算すると約391万円となる。その時に売っていれば十分に売却益を上げることができたことになる。ただ長期にコレクションを保有するだけでなく、売買のタイミングも重要なことを示唆してくれる。本シュミレーションで売却損が発生した理由は、既に十分に高く評価されていた物故作家の高い相場作品をドル高の時点で購入したこと、売却のタイミングが適切でなかったことによるのだ。
このアンセル・アダムスの購入・売却シュミレーションはアート写真をコレクションする上での参考例とすべきだろう。有名写真家の代表作を買うことは正解だった。しかし、本人が亡くなって既に評価が上昇したあとの作品だったのが問題だったのだ。これはロバート・メイプルソープの例にも当てはまる。彼がエイズとわかった段階で相場は大きく上昇してしまい、亡くなった後は相場はあまり変わらなかったのだ。これらの例を参考にすると現存写真家の人気作品を狙うことが重要になる。ただしあまりにも高齢になると相場は亡くなることを織り込んでいる可能性が高いの注意が必要だ。現在のロバート・フランクの相場などだ。

理想としてはその時点ではあまり評価されていない分野の代表写真家の作品を選ぶこと。ファッション系写真はその好例だ。上記1988年の段階ではまだファッション写真のアート性は全く認められていなかった。 当時有名だったアンセル・アダムス、エドワード・ウェストン、ハリー・キャラハン、ポール・ストランドなどと比べてアーヴィング・ペン、リチャード・アヴェドン、ヘルムート・ニュートン、ジャンルー・シーフなどの相場は非常に低かった。1991年4月付けの手元資料によると、ニュートンが2500ドル~(約33.7万円)、アヴェドンが6000ドル~(約81万円)、ペンが5000ドル~(約67万円)、ホルストが1000ドル~(約13.5万円)、シーフが850ドル(約11.47万円)だった。円貨は1ドル135円で換算。その後、90年代以降にファッション写真の再評価が美術館や評論家により行われ、いまではアート写真のカテゴリーとして広く認識されている。また昨今の資産価値を重視する「イコン&スタイル」系作品のブームと相まって一部作品の相場は更に上昇しているのだ。
そして23年が経過して、いまや上記写真家はすべて亡くなっている。ドル価の作品相場は作品イメージや状態によって異なるが、だいたい代表作は約8倍以上、写真集掲載の人気作は約4倍以上、特にエディション付き作品は非常に高くなっている。
もし1988年にアンセル・アダムスではなくファッション系をコレクションしていれば初期投資額も小さくて済んだし、多少の為替差損はあるものの十分に売買益を享受できていたはずなのだ。
しかし、80年代には作り物の広告写真として低く評価されていたファッション写真をコレクションするのは勇気がいることだった。マーケットが注目していない分野に将来の宝物が眠っているのだが、市場の人気トレンドに流されることなく自分の眼で作品を評価することが求められるのだ。だが自分独自の価値基準構築には長い時間の経験蓄積が必要となる。自分の好みだけで買うのならよいのだが、投資的な視点をコレクションに取り入れる場合はぜひ専門家のアドバイスを積極的に取り入れてほしい。欧米の主要なプライベート・コレクション構築には必ず専門家が関わっているのだ。

さて、上記のアンセル・アダムス「Moonrise, Hernandez,New Mexico, 1941」だが、しばらくは弱めの相場が続くと思われる。この作品はなんと1000枚近いプリントが制作されたという。そしてちょうど70年代にコレクションした人が高齢になり、また中間層の経済状況が悪化していることから、これから市場での売却が増加すると予想されるからだ。
しかし、逆にいうとこれだけ流通量があるモダンプリント作品がいまだに高額なのは驚くべきことだともいえるだろう。また最近の傾向として現代アートの視点からもアンセル・アダムスは再評価されている。これが重要で、アート性が再認識されない作家の作品は単に骨董品的な価値しか認められないことになってしまう。個人的にはもし相場がもう少し下がってきたら購入を検討してみても良いと考えている。

アートは好きで買うのが基本だ。そこに長期投資の視点を取り入れてみると、評価基準が多様になりコレクションがより興味深くなる。次第に自分の好きが変化していくという面白味もある。自らが経験を積み、豊富な情報を集め、専門家のアドバイスを参考にしたうえで好きな作品のコレクションを構築することができれば、それが優良資産になる可能性がある。老後の蓄えの一部にもなり得るのだ。
このトピックに関してはこれからも取り上げていきたい。

写真コレクションを始めたい人へ アート写真コレクション指南書ガイド

写真を売買する仕事柄、写真コレクションの解説書を見つけたら絶対に買うことにしている。残念ながら、いまのところ系統だって書かれたものは全て洋書。どうしてもある程度の英語読解力が必要となる。私はこれが日本で写真コレクションが低調は理由の一つではないだろうかと考えている。日本語のコレクション・ガイドはいつかぜひ作ってみたいと個人的に考えている。
さてこの種類の本は、写真分野のコレクションを始めたい人に対し基本的な情報提供を目的に編集されている。どの本にも定番になっているのは、写真史の解説、専門用語の意味説明、写真技法や種類の紹介、市場で取引されている作家のリストや相場、写真の展示・保存方法、購入可能なギャラリーのリストなどだ。近年に刊行された本には専門家へのインタビューなども収録されている。
アート写真を勉強する時、写真史から入るとつまらないので長続きしない。これは私の経験だが、市場との関わりとともに歴史が書かれ、写真家が紹介されていると興味が長続きする。
ただし、これら指南書の情報や意見を妄信してはいけない。アート写真市場の評価基準、トレンド、価格は流動的だ。特に最近は、現代アート市場とのかかわりが強くなったことで動きは複雑で早くなっている。また写真分野のカテゴリは非常に幅広い。著者はあくまでも得意分野の専門家であり、全ての動向を把握しているわけではない。また国によっても市場特性が違う。著者の出身国や仕事をしている国によっても見方がかなり違うのだ。
思い込みが危険なのは何でも同じ。本だけでなく、専門家たちの意見を聴くなど、できるだけ広い情報収集を心がけて欲しい。

以下に簡単なアート写真コレクション指南書ガイドのリストを掲載している。
記載されている情報は新しい方が良い。コレクションに興味ある人はまず21世紀に書かれた本を買うのがよいだろう。ただし、情報は非常に古いが1979年刊の”The Photograph Collector’s Guide”は基礎的情報が最も充実している。著者のLee D.Witkinは1969年に写真専門ギャラリーをニューヨークに開いた業界の伝説的人物。彼は作品購入時に、”自分の心が動かされるかどうか、プリント自体が高いクオリティーを持つか”の二つを心がけており、決して作家のブランド買わなかったという。これらの彼のアドバイスは多くの人に影響を与えている。また本書の特徴は写真家のサインの写しが多数掲載されていること。資料的価値も高いのだ。改定版が再版されるとの情報がずっと流れているがまだ現物はみていない。編集作業が続いているのだろうか?

1.”Photographs: A Collector’s Guide”
By Richard Blodgett (April 1979, Ballantine Books)
2.”The Photograph Collector’s Guide”
By Lee D.Witkin & Barbara London(1979, NYGS)
3.”How To Buy Photographs”
By Stuart Bennett(1987, Phaidon/Christie’s)
4.”Collecting photography”
By Gerry Badger (2003,Mitchell Beazley)
5.”The Art of Collecting Photography”
By Laura Noble (2006, An AVA Books)
6.”The Collector’s Guide To Emerging Art Photography”
By Alana Celii, Jon Feinstein and Grant Willing (2008, humble arts foundation)

これらの本の特徴は既に市場で資産価値が認められている写真家を中心に取り扱っている点だ。15~20年くらい前までには作品価格は非常に安かったので、実際に解説書に紹介されているような作家の作品をギャラリーやオークションで入手できた。1985年当時の写真作品の中間価格帯は200ドル~1500ドルだった。ロバート・メープルソープのエディション3のプラチナ・プリントが5000ドルという、 当時としては高価で販売されたことが”How To Buy Photographs”には紹介されている。

まだ写真史で評価軸が明確でない分野を見つけ出して、ひと足早くコレクションを始めることもできた。この20年間で市場価値が大きく上昇したファッションやドキュメント系だ。ちなみに70年代後半のロバート・フランクの”The Americans”からの作品価格は、500ドル~1200ドル、アーヴィング・ペンも700ドル~2500ドルだった!
1979年時点では、ダイアン・アーバスのサイン入りプリントは500ドル~2500ドルだった。現在アーバスの価値は10万~35万ドルと100倍以上だ。
上記のメープルソープのプラチナ・プリントの相場は3万~5万ドルと約25年で6倍以上。ロバート・フランクの”The Americans”の相場は1万ドル~、表紙イメージ”Trolley, New Orleans, 1956″は10万~15万ドルだ。ペンの相場は1万ドル~になっている。
アーバス、フランクは極端な例だが、過去に起きたことは未来にもかならず起きる。10年~20年後のスーパースターは現在、市場のどこかに必ず存在しているはずだ。これから写真コレクションを始める人は、既に有名になった人よりも未来のスーパースターに注目して欲しい。

将来性の高い作家を集めたのが、”The Collector’s Guide To Emerging Art Photography”(2008年刊)だ。これはhumble arts foundationというニューヨークのアート写真の普及を目指す団体が出版したもの。世界中から163名の写真家がセレクションされている。同団体からは、私はまだ購入していないが続編の”The Collector’s Guide to New Art Photography Vol. 2″ (2010年刊)もでている。
しかし、上記の本には多くの写真家の写真が1枚掲載されているだけ。彼らが何を意図して作品を提示しているかは不明だ。連絡先、メールアドレス、ウェブサイトが掲載されているので、興味のある作家は読者自ら調べて欲しいという意図だろう。現地では写真展やイベントなども本と連動させて開催されているようだ。その場では写真家の作品解説も生できけるのだろう。
海外作家の場合、本からだけだとはなかなか詳しい写真家のメッセージや情報は入手し難いと感じている。日本から海外の将来性のある作家を見つけ出す場合は、ギャラリーのプライマリー市場で活躍している人に注目するのが賢明だろう。彼らは数多いる写真家の中からギャラリーが有力と考えている注目株だ。そのなかでも有力作家は写真集が連動して発売される場合が多い。気になる人の本は要チェックだろう。

実は日本において将来性のある写真家たちをコレクターに紹介するこころみはJPADSが行っている。今年開催した”ザ・エマージング・フォトグラフィー・アーティスト2012″はまさに新人発掘を意図している。実際に行うことで数々の反省点が明確になってきた。まだまだ小さな活動だが、来年はより充実したイベントにレベルアップさせるつもりだ。現在は、小冊子の制作にとどまっていいるが、将来的には写真集化を考えている。

今回、久しぶりに過去約30年に書かれたコレクションガイドを見返してみた。写真史が書き継がれるのと同様に、アート写真コレクションの探求も専門家やコレクターの間にずっと受け継がれ、歴史が積み重なっていることがよくわかる。 “The Photograph Collector’s Guide”の著者Lee D.Witkinは1984年に亡くなっているが、彼の精神は受け継がれているのだ。”The Art of Collecting Photography”の著者のLaura Nobleは1974年生まれのまだ30歳代。彼女は過去の先人に実績を踏襲して新たな視点で書いている。
読む側がその流れをフォローしていることが前提に書かれている部分もある。コレクター予備軍の人のなかにはコレクションガイドの内容がわかり難いと指摘する人がいる。その原因は、前提となっている知識をまだ十分に獲得していない場合が多いのだ。

さて日本ではコレクターが育たないという嘆きはよく聞く。コレクションを行う基本となる、考え方、方法論などの探求と、その積み重ねがほとんどないのだから当たり前かもしれない。しかし、アートとして写真を認識するコレクター予備軍は確実に増えている。優れたコンテンツが増えれば市場は拡大するのではないか。いま優れた作品を市場に送りだす継続的な努力が関係者に求められているのだと思う。