2018年の人気フォトブック
お値打ちの写真集を探せ!

アート・フォト・サイトは、ほぼ毎週ごとにおすすめのフォトブックを紹介している。毎年、それを通してのネット売り上げなどをベースに、国内外のネットショップの売れ筋ランキング、ギャラリー店頭での動向などを参考にして、独自のフォトブック人気ランキングを発表している。
最近は大手通販サイト経由ではなく、独自のネットワークやフォトブック専門店のみで販売する出版社、ギャラリー、美術館、写真家も多くなっている。また発行部数が少ない人気写真家の限定フォトブックなどは、事前に予約を募り、市場に出回る前に完売する場合もある。

いまや極めて複雑化したフォトブック流通を完ぺきに網羅するランキングの集計は非常に困難といえるだろう。それぞれの専門店、オンライン・ブックショップごとの特色が反映された人気ランキングが存在するのだと考えている。

アート・フォト・サイトの”洋書ベスト10″は、大手通販サイトで購入可能な本の人気度が強めに反映されている。ランキングはできる限りの客観性を心掛けているが、あくまでもコレクションのための参考資料程度に考えてほしい。

2018年の人気1位はマイケル・ケンナの“Michael Kenna: Holga”。

ケンナは、静謐なモノクロームの風景写真で知られる英国人写真家。2018年~2019年にかけて東京都写真美術館の地下展示室で回顧展「A 45 Year Odyssey 1973-2018」を開催するなど、日本のアマチュア写真家に絶大な人気のある写真家だ。ちなみに同展のメイン・ヴィジュアルの“White Bird Flying,Paris, France,2007”は、この本のカヴァーにも採用されている。彼の代表作は、主にハッセルブラッド・カメラと三脚を利用して、長時間露光で計画的に制作される。しかし本書収録作は、すべてプラスチック製ボディのホルガ・カメラで撮影されている。安価なホルガ・カメラで手持ち撮影されたケンナの写真に、多くの人が興味を持ったことがランキングに反映されたのだろう。

2位は、ロバート・フランクの“The Lines of My Hand”だった。

本書は、1972年に発表された“The Americans”に次ぐフランク2冊目のフォトブック。いままでに3種類が刊行されている。最も有名なのが、編集者の元村和彦(1933-2014)が手掛け、杉浦康平デザインによるスリップケース入り豪華本。“私の手の詩―ロバート・フランク写真集” (1972年 邑元舎刊)として限定1000部、当時の価格7500円で刊行された。同時に写真家ラルフ・ギブソンが自身の出版社ラストラム・プレスから米国版“The Lines of My Hand”(Lustrum Press1972年刊)を出版。こちらはペーパー版でデザインや装丁が全く違っていた。1989年には、半透明のダストジャケット付ハードカヴァー仕様で、スイスのPARKETT/DER ALLTAGから“Robert Frank: The Lines of My Hand” として拡大判が再版されている。
本書は美しい本づくりに定評のあるドイツのシュタイデル社による待望の再版。フランクの協力のもと、1972年刊のLustrum Press社による米国版の最新版を目指して刊行された。残念ながら同じくシュタイデル社から再版された“The Americans”ほど人気は盛り上がらなかった。
本書は、フランクの自叙伝的、告白的なフォト本制作のアプローチを確立させたフォトブック。この点についての読者の好みが別れたのだと思われる。

3位はラルフ・ギブソンの“The Black Trilogy”。

ラルフ・ギブソン(1939-)は、シュールリアリズム的なヴィジョンを持つファインアート系写真家。1970年代に、自らの出版社から“Somnambulist(夢遊病者)”(1970年刊)、“Deja-Vu”(1973年刊)、“Days at Sea”(1974年刊)を出版。これら3部作は“Black Trilogy”と呼ばれ、パーソナル・ドキュメンタリーを優れた抽象作品にした、と高く評価されている。
本書は3冊が1冊にまとめられ、写真家・キュレーターのジル・モラによる新エッセーが収録された、幻のフォトブックの待望の再版。写真史的、資料的にも重要性が高い作品なので、比較的高価だったが正当に価値が評価されたのだろう。

2018年の、ドル円為替の年間平均TTSは1ドル/111.43円。ちなみに2017年は113.19で昨年は若干円高だった。しかし洋書販売価格への影響はほとんどなかったといえるだろう。ここ数年の傾向を振り返ると、洋書は円安傾向が続いたことによる販売価格上昇とヒット作の不在から、売上高・販売冊数の減少傾向が続いていた。人気が集中するのは、比較的低価格のいわゆるお値打ちがあるヴァリュー・フォー・マネーの定番か有名写真家の写真集という傾向が続いていた。
またフォトブックは、アート写真コレクションでは低価格帯作品に分類される。その主要な購入者である中間層の実質所得の伸び悩みも市場に影響を与えていると考えている。
つまり最近は、流行的要素やフィーリングで興味を持つ人が減少し、趣味としてアート系写真集を長年にわたりコレクションしたり、良い写真を撮りたいアマチュア写真家などの、マニアックな従来からのコアの人が購入者の中心になっていると思われる。もしかしたら今の状況がニューノーマルなのではないかと危惧している。

2018年は目立ったヒット作がなかったことから、売上高・販売冊数ともに3年連続して減少した。

 2018年フォトブック人気ランキング

1.Michael Kenna: Holga マイケル・ケンナ、Prestel 2018年
2.The Lines of My Hand ロバート・フランク、 Steidl 2018年
3.The Black Trilogy ラルフ・ギブソン、Univ of Texas Press 2018
4.Stephen Shore スティーブン・ショア―、 MOMA 2017年
5.Street Photographer ヴィヴィアン・マイヤー、powerHouse Books 2011年
6.It’s Beautiful Here, Isn’t It… ルイジ・ギッリ、Aperture 2018年
7.Women ソール・ライター(和書)、スペースシャワーネットワーク 2018年
8.The Street Philosophy of Garry Winogrand ゲイリー・ウィノグランド、Univ of Texas Press 2018年
9.Centers of Gravity テリ・ワイフェンバック、onestar press 2017年
10. Nothing Personal リチャード・アヴェドン、Taschen America Llc 2017年

2017年に売れた写真集
“All about Saul Leiter “が1位 !

アート・フォト・サイトは、ほぼ毎週ごとにおすすめのフォトブックを紹介している。毎年、それを通してのネット売り上げをベースに、ギャラリー店頭での動向を参考にして、独自のフォトブック人気ランキングを発表している。
最近は大手通販サイト経由ではなく、独自のネットワークやフォトブック専門店のみで販売する出版社、ギャラリー、美術館、写真家も多くなっている。また発行部数が少ない人気写真家の限定フォトブックなどは、市場に出回る前に完売する場合もある。
いまや複雑化したフォトブック流通を完ぺきに網羅する人気ランキングの集計は非常に困難といえるだろう。それぞれの専門店、オンライン・ブックショップごとのランキングが存在する状況だと考えている。

こちらの洋書ベスト10″も、できる限りの客観性を心掛けているが、あくまでもコレクションのための参考資料だと捉えてほしい。さて、2017年の速報データが揃ったので概要を紹介しよう。

All about Saul Leiter 青幻舎 2017年

1位は、“All about Saul Leiter ソール・ライターのすべてだった。これは20174月に東京のBunkamura ザ・ミュージアムで開催され、約8万人という記録的な来場者を動員したというニューヨークが生んだ伝説 写真家ソール・ライター展に際して刊行された展覧会カタログ。ソール・ライター財団全面協力により制作された、完全日本オリジナル作品集。
初期のストリートフォト、広告写真、プライベートヌード、ぺインティングなど約200点とともに、アトリエ写真、愛用品などの資料も収録。彼の、人生観、情緒的表現、浮世絵の影響を感じされる構図、色彩などを探求している。サイズはコンパクトだが、豊富な図版や情報が詰まっているわりに2,500円(税別)と非常に魅力的な価格設定だった。

2016年の1位は、荒木経惟の復活した名作フォトブック「センチメンタルな旅」だった。これで2年続けて洋書と比べて価格が為替で変化しない和書のフォトブックが1位を獲得した。

また5位には、これも20174月に三島のIZU PHOTO MUSEUMで開催されたテリ・ワイフェンバックの“The May Sun”展のカタログが入った。同書は、ハードカヴァーの高品位印刷による限定の大判豪華本。それにも関わらず3,500円(税別)という非常に良心的な値段設定だったことが印象的だった。すぐに完売したので、発行部数が多かったら売り上げも伸びたと思われる。

洋書は、ここ数年の急激な円安で販売価格が上昇し、売上高・販売冊数の減少傾向が続いていた。2016年は英国のEU離脱や米国大統領選挙の不透明さから為替が円高方向に戻って、ドル・円の為替で108.7929円となった。しかし、2017年の平均は112.1661円と再びドル高に戻り、洋書価格が上昇傾向になった。従って、売上高・販売冊数ともに2016年よりも減少している。

1年前の1月と比べると、売れ筋のスティーブン・ショアーの“Stephen Shore: Uncommon Places: The Complete Works”5,042円から6,631円へ、“Morandi’s Objects, Joel Meyerowitz”4,227円から5,805円、“Sarah Moon: Now And Then”4,136円から5,957円へと、かなり値上がりしている。(価格は日々変動している)人気の高いヴィヴィアン・マイヤーの定番フォトブック“Street Photographer”2011年の刊行当時は3,500円だったがいまは4,685円だ。
為替の影響以外にも、洋書の販売価格はドル高時、そして版元の在庫冊数が減少すると割引率が悪くなる傾向があるの点を付け加えておこう。販売業者が、為替差損を回避したいという心理が働くからだ。
また2017年に刊行された注目フォトブックは、当初の販売価格がかなり強気の設定だったと感じた。“Stephen Shore: Selected Works 1973-1981”9,500円、Stephen Shoreのニューヨーク近代美術館での回顧展カタログが8,900円、アーヴィング。ペンのメトロポリタン美術館のカタログが8,200円、リチャード・アヴェドンの“Nothing Personal”8,400円、ウィリアム・エグルストンの“Election Eve”10,100円、リー・フリードランダーの“The American Monument” 18,000円と、かなり高価なのだ。アート写真の表現の一部と考えると安いのだが、コレクターではないと気軽に何冊も購入とはいかないだろう。
しかし、その中でマイケル・デウイックの“The End: Montauk”と、リー・フリードランダーの“The American Monument” (ランク外)は高価な割に売れていた。この2冊はともに伝説のフォトブックの再版。初版は、古書市場で高価なことを知っているコレクターが入手したのであろう。

2017年を振り返るに、高価でもアート写真コレクションとして価値があるものと、ソール・ライターやテリ・ワイフェンバックのように低価格で高品質の、お値打ち感の高い展覧会カタログが売れる傾向が顕著だったといえるだろう。中途半端な、写真家のブランド、価格、内容、装丁のフォトブックはかなり売れにくい状況になっている。
フォトブックは、アート写真分野で低価格帯に分類される。その主要な購入者は中間層だと言われている。もしかしたら、最近よく言われる、中間層の収入の伸び悩みと、貧富の差の拡大がフォトブック市場にも影響を与えているのかもしれない。

 2017年フォトブック人気ランキング

  1. All about Saul Leiter ソール・ライター(和書)、青幻舎 2017
  2. Stephen Shore – Uncommon Places: The Complete Works スティーブン・ショア、Aperture 2014
  3. Wolfgang Tillmans: Concorde ウォルフガング・ティルマンズ、Walther Konig 2017
  4. Vivian Maier: Street Photographer, 2011 ヴィヴィアン・マイヤ、powerHouse Books 2011
  5. Terri Weifenbach The May Sun テリ・ワイフェンバック(和書)、IZU PHOTO MUSEUM 2017
  6. Ryan McGinley: The Kids Were Alright ライアン・マッギンレイ、Skira Rizzoli 2017
  7. Avedon’s France: Old World, New Look リチャード・アヴェドン、Harry N. Abrams 2017
  8. The End: Montauk, N.Y., Michael Dweck マイケル・デウィック、Ditch Plains Press 2016
  9. Holiday Purienne Holiday ヘンリック・プリエンヌ、Prestel 2017
  10. Hiroshi Sugimoto: Gates of Paradise 杉本博司、Skira Rizzoli 2017

 

コンテンポラリー・アートを恐れるな!
難解な現代アートのシンプルな解説書
“Who’s Afraid of Contemporary Art?”

いまやブームは去ったが、かつては男性誌、ライフスタイル系雑誌では現代アート特集が盛んに行われていた。その少し前は、東京でも国際的フォトフェアが開催されていたこともあり、写真がアートになるような特集も見られた。仕事柄、それらの特集にはだいたい目を通す。しかし、現代アートがどのような表現なのか、的確に語られていた特集はほとんどなかったと記憶している。それらは、一時期に話題になったキュレーションサイトの雑誌版のような印象が強かった。雑誌作りの経験豊富なエディターや専門家が、アート関連情報を幅広く収集して、巧みに編集して作られたものだった。つまり、コンテンツ全体への目配りがされていないのだ。たとえば海外の専門家の解説やコメントが掲載されている。それらは様々なアートの前提を理解している人向けに語られている場合が多い。それが和訳され掲載されても、知識を持たない人には内容が理解できないのだ。現代アートはテーマやアイデア・コンセプトが重視され、その理解には経験や知識が必要となる。一般大衆向けの単純なわかりやすさが求められる雑誌とは相性が良くないのだ。アート特集として成立するのは、見てきれいな印象派絵画や、とっつきやすいポップアートくらいまでではないだろうか。

本書“Who’s Afraid of Contemporary Art?”は、このようなわかり難い現代アートの入門書。著者はグッゲンハイム美術館ニューヨークのアシスタント・キュレーターのキョン・アン(Kyung An)と、Carroll/Fletcherギャラリー・ロンドンの展覧会マネージャーのジェシカ・セラシ(Jessica Cerasi)。現代アートとは何か、どのような表現が現代アートになるのか、誰のためにあるのか、何で高額なのかなどのアートの部外者が持つ素朴な疑問に対して非常にわかりやすくかつ丁寧に解説している。
私は夏休み用の本として買い求めた。この手のアート本は難解な場合が多いのだが、非常にわかりやすく書かれていたので約3週間で読破できた。また英語の文体もとてもシンプルで、難しい単語も少ない、ほとんど辞書を引かなくても理解できた。
私が興味を持った箇所をいくつか紹介してみよう。
本書では、何がアートなのかという基本的な疑問に対しても丁寧に解説している。アート作品はアーティストによる提案だとし。作品の各部分の総体での提示というよりも、アートとして何かを見る一種の誘いである。何かを新しい見方と違うパラメータ―で把握するもの。アーティストは作品がアート表現だと信じ、その意図が見る側に作品(それが何であっても)から何らかの意味を引きだすことを強いる、としている。アートの認識は時代の価値とリアリティーとともに変化する。世代によっても無価値だと思われていたものに突然価値が見出される例もあると指摘。重要なのは”それはアートなのか?”という問いかけではなく、”それが優れた作品なのか”だと説明している。
アーティストのブランド化、つまり市場価値構築にアート界の誰が影響力を行使しているのか、どのように注目されるようになるのかを説明した章も興味深い。ここでは、サーペンタイン・ギャラリー・ロンドンのハンス・ウルリッヒ・オブリスト(Hans Ulrich Obrist)などのスーパー・キュレーター、メジャー・コレクター、アート批評に関わる評論家・歴史史家・ブロガーなど、主要な美術賞とそれを決める人たちなどが挙げられている。
一般にはあまり知られていない、アート・ギャラリーや美術館の多様な仕事や社会的役割についても書かれている。
現代アート表現の広がりを示すために、パフォーマンス・アート、インスタレーションアート、パブリック・アート、ストリート・アートなどにも触れている。
個別のアーティストが評価されている理由などにも踏み込んでおり、コンセプチュアル・アートのピエロ・コンゾーニ、パフォーマンス・アーティストのマリーナ・アブラモヴィッチ、タニア・ブルゲラ、ミニマムアートのカール・アンドレ、パブリック・アートのクリスト、バンスキー、シカゴ「ドーチェスター・プロジェクト」のシアスター・ゲイツなどが紹介されている。世の中には本当に自由な発想をもつ数多くのアーティストがいるのだ。写真の世界の人は、とてつもなく刺激的で新鮮に感じると思う。
多くの人が直面するのは、一見では何が表現されているか理解できない現代アート作品をどのように個人的に扱うかだろう。ここの解説が個人的には最も興味深かった。
まず、世の中には膨大な種類と数の作品が存在していて、いま見ているのはその僅かな一部にしか過ぎない事実に思いを馳せろと提案。現代アートは、挑発、挑戦、意外性に関するものなので第一印象は良くないことが多い。また、すべてが新しい表現なので、時間的にまだ何が良くて悪いかの基準ができていない場合がある。新しい表現に関しては絶対的なルールがあるわけではなく、何が良いかを私たちが考えなければならないとしている。現代アートの価値基準は表現と同様に現在進行形で構築されているわけだ。
ただし、一般的なコンセンサスはある。それは良いアートは、アートの歴史に新しい展開をもたらす、いままでと全く違う感情を呼び起こす、最初の出会いの後にも強く印象に残るなどだ。そして、現代アートがわからなくてもあなたが愚かだということではなく、逆に理解できないアートが馬鹿げたものだという意味でもないと主張している。
続いて語られる、現代アートの理解力を高めるアドバイスは意外なほど目新しさはない。好きな作品やアーティストからその背景を掘り下げ、情報収集に励むこと。アートに対して関係者に質問したり、友人たちと語り合うことを提案している。
本書は、英国の大手Thames & Hudsonにより出版されている。最前線のキュレータによる現代アートのわかりやすい解説書なので、たぶん日本語版が出るのではないだろうか。もしかしたら翻訳が進行中かもしれない。ただし現代アートは英語で語られるのが主流なのでアーティスト、キュレーター、ギャラリストを目指す人は原文で読むことを薦めたい。
“Who’s Afraid of Contemporary Art?”
Kyung An/Jessica Cerasi
ハードカバー: 136ページ
出版社: Thames & Hudson (2017/3/21)
言語: 英語 発売日: 2017/3/21
商品パッケージの寸法:  15.2 x 2 x 20.6 cm

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2016年に売れた写真集
荒木経惟の復刊フォトブック「センチメンタルな旅」が1位 !

アート・フォト・サイトはネットでの写真集売り上げをベースにフォトブック人気ランキングを毎年発表している。2016年の速報データが揃ったので概要を紹介しよう。
洋書に関しては、ここ数年のアベノミクスによる短期的かつ急激な円安で販売価格が上昇し、売上高・販売冊数の減少傾向が続いていた。2016年は英国のEU離脱や米国大統領選挙の不透明さから一時為替が円高に振れたが、トランプ大統領選出後は、新政権への政策期待から大方の予想に反して再度円安に逆戻りしてしまった。しかし、年間平均の為替レートは2015年の1ドル121.044円から108.7929円へと円高になっている。結果的に、洋書の売上冊数、売上高ともに改善傾向を示している。購入者が今の為替レートのレベルに慣れてきた点もあるだろう。現在のドル高傾向の継続がやや気がかりだが、とりあえず直近の洋書の売り上げの底は2014年で、市場縮小にやっと歯止めがかかったと判断したい。
リーマンショック後に長らく続いていたのは、当たり外れのない歴史的名作・人気本の再版・改訂版への根強い人気だ。出版社も、売り上げ予想が不明なものよりも、確実性が高いこの種の本の発掘と出版に力を入れている。ちなみに2015年の1位は、カルチェ=ブレッソンの歴史的名作”The Decisive Moment”の復刊本だった。
2016年もこの流れに変化はなかった。今回の1位は荒木経惟の復活した名作フォトブック「センチメンタルな旅」が獲得。
 和書がトップになったのはフォトブック人気ランキング史上初めてだ。同書のオリジナルは、1971年に私家版で約1000部が刊行されている。フォトブックの代表的ガイドブック”The Book Of 101 Books”(Andrew Roth、2001年刊)、”The Photobook:A History volume 1″(Martin Parr/Gerry Badger、2004年刊)にも収録されているコレクターズアイテムだ。荒木と陽子との新婚旅行の全貌が収録されたこの幻のフォトブックは、これまでは長きにわたって新潮社版「センチメンタルな旅・冬の旅」に収められた21点のダイジェストでしか見ることができなかった。本書はオリジナル版の108点がすべて収録されて限定復刻されたもの。納得の1位獲得といえるだろう。

その他の新刊では、ジョエル・マイロウィッツがイタリア人画家ジョルジョ・モランディのオブジェ類をイタリア・ボローニャのアトリエで撮影した”Morandi’s Objects”、

ジャック=アンリ・ラルティーグのカラー作品を初めて本格的に紹介した”Lartigue: Life in Color”、

サラ・ムーンのドイツ・ハンブルグのダイヒトーアホール美術館写真館(House of photography of the Deichtorhallen)で開催された展覧会に際して刊行された”SARAH MOON NOW AND THEN”、ピーター・リンドバークの”A Different Vision on Fashion Photography”、マイケル・デウィックの幻の写真集が未収録作を追加して復刊した”The End: Montauk, N.Y. ” (10th Anniversary Expanded Edition)が入っている。

その他、ヴィヴィアン・マイヤー、ティム・ウォーカー、スティーブン・ショアなどの有名フォトブックはランキングの常連になっている。
2015年暮れに発売されたウィリアム・エグルストンの”William Eggleston: The Democratic Forest”は10分冊の豪華版写真集。さすがに高額本なのでベストテンには入らなかったが、予想以上の売り上げだった。2016年の年末にかけて同書から新たにセレクション・編集された廉価版が刊行されている。2017年には間違いなく売上の上位に登場するだろう。
2016年ランキング速報
  1.  センチメンタルな旅, 荒木経惟
  2. Morandi’s Objects, Joel Meyerowitz, 2016
  3. Vivian Maier: Street Photographer, 2011
  4. Tim Walker Pictures, 2015
  5. Uncommon Places: The Complete Works, 2004
  6. Lartigue: Life in Color, 2016
  7. The End: Montauk, N.Y., Michael Dweck, 2016
  8. Sarah Moon: Now And Then, 2016
  9. Peter Lindbergh:A Different Vision on Fashion Photography, 2016
  10. What We Have Seen, Robert Frank, 2016
ランキングの詳細は、近日中にアート・フォト・サイトで公開します。

マイケル・デウイック写真集は買いか?
「The End: Montauk,N.Y.」
増補 普及版がついに刊行!

今春に「The End: Montauk,N.Y.」コレクター向けのアートエディションが先行販売された。しかしこれは、アート写真コレクター向けのオリジナル・プリント付の高額なボックス・セットだった。一般のフォトブック・コレクターは手が出なかっただろう。
たいへんお待たせしました、このたびいよいよ待望の普及版が発売になり、先週から配本が開始された。昨年の秋にマイケル・デウィック本人に確認したが、普及版は発売予定がないと発言していた。しかし、その後世界中のファンから熱い発売要請があったらしい。またオリジナル版が古書市場で今でも非常に高額で取引されている状況を鑑み、多くのファンに作品を見てもらうために普及版発売を決断したようだ。
2004年刊の、帯付のオリジナル版は、いまでもレアブック市場で1000~6000ドル(約10.5万~63万円)の販売価格がついている。たぶん実売価格は500ドル(約5.25万円)~だろう。しかし、新版が出たからといってオリジナル版の価値が減じることはない。コレクションしている人はどうか安心して欲しい。ただ新刊が流通している期間は、取引数は減ると思われる。
新版の刊行数は2700部(プリント付300部で合計3000部)。オリジナル版は発売後わずか数週間で 5000 部を完売したというが、今回の販売価格は2倍に上昇している。高額本なので、完売するには多少時間がかかるだろう。しかし完売後は、新版もレアブック扱いになり長期的には相場が上昇する可能性が高いと予想している。以下にその根拠を説明しよう。
コレクターにとって一番腹立たしいのは当初販売価格で購入してた写真集が、しばらくして洋書バーゲンセールで販売されることだろう。洋書輸入業者が資金繰りの関係で放出することにより、特に大手出版社の発行部数が多い本ではこのような状況が時に発生するのだ。しかし、今回の出版元Ditch Plains Pressは写真家自身が設立に関わった会社なのだ。
出版のビジネス・モデルは薄利多売ではなく、良い本を高額でも少ロット制作して完売するというもの。そして、世界各国の販売元は作家のオリジナル・プリントを取り扱うギャラリーが担当している。日本ではブリッツが輸入販売元となる。アマゾンでの取り扱いはない。これは作家がフォトブックを作品として制作し、アート・ギャラリーが販売するということ。出版元から販売元までが、単なる写真集ではなく、アート写真作品の一形態のフォトブックだと理解して取り扱っているのだ。
写真集とみれば高額だが、アート写真の作品だと理解すれば認識も変わるのではないか。ちなみにギャラリーによる、アート作品の売れ残りによる換金売りはないのだ。たぶん、マイケル・デウィックのオリジナル・プリントの相場と、完売後の「The End: Montauk,N.Y.」新版のレアブック市場での評価はリンクしてくると思われる。ちなみに彼のオリジナルプリントはアート・オークションでの取引実績も豊富だ。初期作品のダウンサイド・リスクはあまりないと見ている。
本書は2004年のオリジナルが忠実に再現されて制作されている。出版社はHarry N. AbramsからDitch Plains Pressに変更。文字のフォント、サイズ、紙質もほとんど同じで、版元変更による出版社の表記のみが違いとなる。
 
上記のように同社は作家が設立に参加している。彼の「Mermaids」も同社から刊行されている。サーフボードを抱えた二人の女性サーファーのシルエットが同社のロゴマーク。とても素敵だ。
印刷はシンガポールからイタリアに変更。全体の写真のトーンだが、見比べるとモノクロ図版はやや濃い目になっている印象だ。作家のエッセーは「Summer、1975」に、新たに「Summer、2003」が追加されている。内容は約50ページ増えるとともに、未発表約85点が追加収録。また作家の友人のピーター・ビアードのエッセーも収録。したがってサイズは全く同じなので本の厚みは約2.8cmから3.2cmに厚くなっている。
なお本書は7月21日から開催される「ブリッツ・フォトブック・コレクション 2016」で販売される。初期ロットは近日入荷予定なので、予約も受付中。予約ご希望の方は、以下にメールにてご連絡をお願いいたします。

2015年に売れた写真集
カルチェ=ブレッソンの名作”The Decisive Moment”が1位 !

アート・フォト・サイトは、ネットでの売り上げをベースに洋書中心の写真集人気ランキングを毎年発表している。2015年の速報データが揃ったので概要を紹介する。
昨年度も、ここ数年続いている当たり外れのない歴史的名作・人気本の再版・改訂版の人気が相変わらず高かった印象が強い。ここ数年は、アベノミクスによる短期的かつ急激な円安で洋書の販売価格が上昇し、全体の売上高・販売冊数が激減していた。昨年は円安がさらに進んだものの、やや回復傾向を示した。決して楽観はできないが市場縮小にやっと歯止めがかかったのではないか。
2015年に一番売れたのは、20世紀写真の巨匠アンリ・カルチェ=ブレッソン(1908-2004)の”The Decisive Moment”だった。
 同書のオリジナル版は、1952年にEditions Verve(パリ)とSimon and Schuster(ニューヨーク)により共同で出版された”Images a la Sauvette(The Decisive Moment)”。日本では”決定的瞬間”と訳されている。収録されているのは、カルチェ=ブレッソンのキャリア初期のベスト作品。彼の写真スタイルの”決定的瞬間”をコンセプトに制作されたフォトブックだと認識されている。カバーは画家のヘンリ・マチスによる美しいコラージュで装飾、本自体の装丁も非常に高い評価を受けている。また、ロバート・フランクをはじめ、その後の多くの世代の写真家に多大な影響を与えたことでも知られている。
当時は、フランス版、英語版の合計1万冊がプリントされた。高い評価の割に当初の売り上げは良くなかったらしい。しかし、今ではコンディションのよいオリジナル版はレアブック市場で1000ドル(@115/11.5万円)以上で取引されている。本書は、このフォトブック史上の名作を、美しい本作りで知られるドイツのシュタイデル(Steidl)がオリジナルに忠実に再現した待望の再版。(英語版2015年、フランス版2014年刊) 1万円を超える高価本だが、大判、スリップケース入り、ブックレット付で、コレクターの所有欲を十分に満たしてくれる。たぶんアート写真に興味ある人はほとんどが買ったと思うので、皆が納得の1位獲得といえるだろう。将来的な値上がりを期待して購入した人も多かったのではないか。本書の人気は今年になっても衰えず、いまでも売れ続けている。
2014年まで3年連続で1位だったヴィヴィアン・マイヤー(1926-2009)の「Vivian Maier: Street Photographer」(powerHouse Books 2011年刊)。首位の座は明け渡したものの昨年も2位を獲得した。
その他は、ウィリアム・エグルストンやスティーブン・ショアーの定番本がランクイン。”Stephen Shore: Uncommon Places: The Complete Works”は、2004年版に未発表作が追加されたの2015年刊の再版。
マイク・ブロディーは2013年に、”A Period of Juvenile Prosperity”がTwin Palmsより刊行され注目された。初版は完売して、現在は2版が販売されている。”Tones of Dirt and Bone”は、待望のブロディー2作目の写真集。デビュー作より前の、2004~2006年までにポラロイド・カメラとTime-Zeroフィルムで撮影された作品が収録されている。
今回はテリー・オニールの本が2冊ランクインした。写真展開催と作家来日という特殊事情で売り上げが伸びたと思われる。彼は音楽、映画、政治、皇室、スポーツなど全分野をカバーする世界的に有名な英国人写真家だが、今まで日本では知名度が低かった。”The A-Z of Fame”は彼のキャリアを本格的に回顧する写真集。”Terry O’Neill’s Rock ‘n’ Roll Album”では、彼の得意分野のロック系名作をコレクションしている。
“Tim Walker Pictures”は、2008年刊行で、絶版だったティム・ウォーカーの人気本の改訂版。
“Wim Wenders: Written in the West,Revisited”もヴィム・ヴェンダースによる長らく絶版だった人気本の改訂版。テキサスのパリで撮影された15点を新たに収録している。
2015年ランキング速報
1.Henri Cartier-Bresson:The Decisive Moment, 2015
2.Vivian Maier: Street Photographer, 2011
3.William Eggleston’s Guide, 2002
4.Stephen Shore: American Surfaces, 2005
5.Tim Walker Pictures, 2015
6.Terry O’Neill:The A-Z of Fame, 2013
7.Mike Brodie: Tones of Dirt and Bone, 2015
8.Stephen Shore: Uncommon Places: The Complete Works, 2015
9.Wim Wenders: Written in the West, Revisited, 2015
10.Terry O’Neill’s Rock ‘n’ Roll Album, 2015
より詳しい解説は、近日中にアート・フォト・サイトで公開します。

フォトブックの多様なアート性
テリー・オニール写真集
「Terry O’Neill:A-Z of the Fame」

フォトブックのアート性とは何だろうかと考えさせられたのがテリー・オニールの写真集「A-Z of the Fame」だ。

これは彼のポートレート、ファッション写真家としての約50年のキャリアを振り返る回顧写真集だ。フォトブック・コレクターはこの種の本に対して、ブロマイド的な写真が収録されたアート性が低いものという先入観を持っている。本書も一見そのようなカテゴリーと勘違いしやすい。だが時間をかけて内容を吟味していくと、収録されている写真作品は、被写体とのコラボから生み出された写真家の自己表現であり、各時代を代表する各界の顔が撮影された、当時の気分や雰囲気が反映された広義のアートとしてファッション写真であることがわかる。何気なくページをめくると、観る側は直ぐに本の世界に引き込まれてしまう。本書はアート作品になり得る写真集であるフォトブックと評価してよいだろう。
実際にこの本の人気は非常に高い。分厚く重くて、決して低価格ではないのに関わらず予想以上の売り上げを記録している。ちなみに私どももリンクしている日本のアマゾンでの販売価格は約11,000円だ。
一般大衆向けインテリア用写真集ではないか、というツッコミが入るかもしれない。確かに欧米ではその種の一般客が間違いなく買う本だと思う。しかし日本の一般客は、廉価版の展覧会カタログは買うが、決して豪華写真集の類は購入しない。今回は極めてまれな状況といえるだろう。間違いなく多くの人が収録写真作品に何らかのリアリティーを感じ、欲しいと思ったのだ。

余談になるが、興味深いことにこれほど一般客に人気のあるテリー・オニールの本が、いままで蔦屋、リブロなどの大手洋書店で取り扱ってなかった。同書は巨大で重いので送料が非常にかかってしまう。値段面と宅配してくれる利便性から洋書店はアマゾンに太刀打ちできないのだ。結果的に、いまの洋書店はアマゾンなどの通販サイトが取り扱わない、マニアックなフォトブックの占有率が非常に高くなっている。洋書店で面白い本が少なくなったという意見をよく聞くが、このような事情が影響しているのだろう。

最近はあらゆるところで、限界芸術や民藝としてのアート写真の可能性を語っているのだが、もしかしたらこの分野の写真にも適応できるのではないかと感じている。どういうことかというと、いままでアートとしてのファッション写真はファイン・アート写真の一分野だと考えていた。しかし、実際は写真家から作品テーマやコンセプトは提示されない。彼らが感覚的に捉えたファッションを取り巻く時代性を評論家、キュレーター、ギャラリストなどの第3者がその他と区別して評価することが多いのだ。ファイン・アートの一部ではなく、大衆向けインテリア・アートの中間のカテゴリーに分類する方がすっきりするのではないだろうか。これについては機会を改めて分析を行いたい。

さて、なんでテリー・オニールの写真集が売れるのかの分析を進めよう。まず彼が異例ともいえる長期間にわたり業界最前線で活躍したこと。また、撮影している分野が多岐にわたることも大きな特徴だろう。音楽界、映画界はもちろん、なんとサッチャーなどの英国政界の人々や、エリザベス女王など英国王室の人たちも撮影している。またその範囲は、スーパーモデル、スポーツ文化界、自動車レース界まで及ぶのだ。
多くの写真家はだいたい専門分野がある。活躍するのもピークはだいたい10年くらいではないだろうか。特にファッション写真の場合、その傾向が強い。しかし、テリー・オニールは、1963年のビートルズの撮影以来、常に社会の最前線で活躍。エイミー・ワインハウスやネルソン・マンデラまで撮影している。彼は、幸運にもビートルズ、ザ・ローリング・ストーンズ、デビット・ボウイのヴィジュアル作りに初期段階から関わってきた。彼らが世界的なロック・スターへと成長していくにしたがって、オニールの写真家の名声も上がっていくのだ。
しかし、そのような写真家は数多くいる。彼が特別なのは、自身がジャズドラマーでもあり、ミュージシャンとしても被写体から尊敬されていたことだろう。単に仲のいい写真家以上の深い関係性が構築できたのだ。

私はフォトブックとして認識された本が売れるのは、ブック形式のアート作品が売れるのと同じ意味だと考えている。実際に、彼のポートレート写真のオリジナル・プリントは世界的に売れている。バルドー、シナトラなどを撮影した代表作は、大手のアート・オークションでも頻繁に取引されている。単にセレブリティ―を撮影しているだけの写真は、インテリア用写真に分類されアート写真界では取り扱われないのだ。ポートレートのアート性が認知されているのは、他にはアニー・リーボビッツくらいではないだろうか。作品相場はリーボビッツの方が高い。これは彼女がアート写真市場の中心地であるニューヨークで活躍していること、エディション数が少ないのことによると考えられる。

ロンドンをベースにしていること、比較的多いエディション数ゆえにテリー・オニールの作品相場には割安感があると思う。ディーラーとして、この厳しい円安局面の中でコレクションとして価値が見いだせる数少ない写真家だ。

この分厚くて重い1冊の写真集「A-Z of the Fame」のなかに、約50年にわたるロックの歴史、映画の歴史、そして社会の歴史までもが詰め込まれているのだ。いまや多くの人が多様な興味を持っている。これだけ広範囲をカヴァーしていると誰しも、自分が若かりしときに憧れていた俳優やスポーツ選手、 愛聴していたミュージシャンのポートレートと出合えるのだと思う。現代アート的な時代の価値観とは違う、各時代が持っていた独特の気分と雰囲気が世相を代表する有名人のポートレートを通して表現されているのだ。

最後に、ユニークな作品レイアウトにも触れておこう。本書は、オーソドックスに撮影年代別に並べるのではなく、アルファベット順に写真を並べている。どのように写真を見せるかは編集者とデザイナーの力量によるのだが、この手法によりページ展開に心地よいリズムを生みだそうという仕掛けなのだろう。 「Q」の箇所の見開きページには、ロックバンドのクィーンとエリザベス女王が掲載されている。逆にいうと。A~Zのシークエンスで写真が並べることが可能なほど、テリー・オニールは質も量も豊富なアーカイブスを持っているということなのだ。
フォトブック・コレクションに興味のある人は、何も自分が十分に理解できない小難しい内容のものから始める必要はない。まずは自分が気に入ったポートレート写真が掲載されているフォトブックを買ってみてはどうだろうか。

アーティストの思考を写真で提示する「MACK」マイケル・マックの挑戦

英国の出版社「MACK」のディレクター・マイケル・マックが、アートフェア東京2015での川田喜久治「The Last Cosmology」新装版の発表のために来日した。フェアに先立ち、彼の出版ポリシーに関してのトークイベントが河内タカ氏とともにIMAコンセプト・ストアーで行われた。そこでは彼がどのようなポリシーでフォトブックを制作しているかが語られた。「MACK」のフォトブックは、幅広い写真家による、多様なテーマを取り扱うことで知られている。一見、一貫したポリシーが何か理解しにくい。ここでは彼の発言から、出版の本音がどこにあるのかを独自に分析してみたい。

マイケル・マックが繰り返し主張していたのは、重要なのはアーティストが制作する作品の中身だということ。できる限り多くの本を作らないようにを心がけているとも話していた。ちなみに彼が以前働いていたドイツのシュタイドル社は年間120冊以上発売しているが、「MACK」は年間24冊を目指しているとのことだ。この姿勢は、多少高くても良い本を少数制作して完売させるという高利少売を目指すスモールパブリッシャーの典型的な経営方針だろう。
彼は、写真表現はギャラリー展示には向いていないという考えでフォトブックに取り組んでいる。空間での展示と比べると、フォトブックの形式は写真のシークエンスや配置を利用してアーティストのメッセージを見せ伝える可能性が多様だ。またブック・デザインやタイプクラフィーとの組み合わせもできるだろう。彼は、本フォーマットの特性を生かしたアーティスト・ブック作りの可能性追求を心がけているのだ。

私は以前から、マイケル・マックはアーティストだと理解すべきと感じていた。今回のトークを聞いてそれを確信した。ではパブリッシャーがアーティストとはどういう意味か説明しよう。
2000年代になってから、アート写真界でいくつかの価値観の変化が起こった。まずデジタル革命が起こり、写真の技術的な敷居が無くなったことで、非常に多くのアーティストが写真表現をとり入れるようになった。同時にテーマ性重視の現代アート市場が急拡大し、従来の写真市場を飲み込んでしまった。その結果、写真でもアイデアやコンセプトが重要視されるようになり表現が一気に多様化する。世の中に流通している広告や報道などの様々な写真、ネット上の写真、作者不詳のファウンド・フォトなどをどのような視点で集めて、どのような考えで提示するかでさえもがアート表現だと理解されるようになった。
写真を撮影しないで、他者の写真で自己表現する新種アーティストが次々と生まれてくる。その提示方法にしても、従来のフレームに入れる平面作品、彫刻作品、そしてフォトブック型式も登場してくるのだ。従来はアーティストの資料的な意味合いで考えられていた写真集が写真表現の一形態だと認識されるようになる。
さらに写真でアート表現する担い手までもが拡大解釈される。従来はアートの周辺業務に携わっていると考えられていた、パブリッシャー、編集者、キュレーター、ギャラリスト、評論家など。彼らの中にはアーティストと同様の仕事を行っている人もいると考えられるようになる。従来の人たちは、写真家の知名度、ヴィジュアル、ドキュメント性、話題性、市場性などを重視していた。再評価されたのは、写真家のメッセージが今の時代の中でどのような価値があるかを解釈して提示する人たちの仕事だ。写真の内容が重要なので彼らは写真家の知名度をあまり重要視しないのも特徴だ。
出版界の、ゲルハルド・シュタイドル、クリス・ピヒラー、そしてマイケル・マック。またジョー・シャーカフスキー、ピーター・ガラッシをはじめとする有名美術館のキュレーター、ハワード・グリンバーグ、ジェフリー・フレンケル、ピーター・マクギル、フェーヒー・クレインなどのギャラリストもアーティストに近い存在だと理解されるようになってきた。

「MACK」は独自の流通を作り上げている点もユニークだ。同社新刊はアマゾンでは購入できない。大手オンライン・ブックショップに対抗する姿勢を明確に持っている。新刊が刊行されるやいなや、大幅に値引きして売られるシステムが出版業界を破壊しているという理解なのだ。「MACK」は定価の40%オフで、専門書店と直接取引を行っており、返品は認めないという形態をとっている。近年は大手は値引き販売を前提としており、アジアで印刷してコストを下げたりしている。最近定価が高い本が多いのは、実売価格を別に想定している点もあるのだろう。

またコスト回収の手段として、値引きしなくても売れるサイン本、プリント付本などの限定版を制作することが多くなっている。しかし、「MACK」は定価販売の高利少売の独自のビジネスモデルを作り上げようとしているだ。本だと考えると違和感を感じるが、「MACK」のフォトブックはマイケル・マック作のアート写真のマルチプル作品と考えると理解できる方法だろう。ギャラリーでは、アーティストの新作の値引き販売はあり得ないのだ。最近は、米国の大手書店チェーンの「バーンズ&ノーブル」での取り扱いが決まったそうだ。質の高い本作りが認められてきた証しといえるだろう。

さてマイケル・マックはドイツ人写真家マイケル・シュミット(Michael Schmidt, 1945-2014)に影響を受けたという。ちなみに「MACK」からはドイツの風景をモノクロで撮影した”Michael
Schmidt NATUR”が2014年に刊行されている。シュミットの写真はまさに正統派といえるが、写真展示はかなり工夫が見られる。画像資料を見ると、グリッド状や、シーク―エンスにしたり、組み写真での作品提示を行っているのがわかる。たぶんマイケル・マックは彼の写真の見せ方に影響を受けているのだろう。これは、彼がどのような問題意識で写真に接しているかのヒントを与えてくる。人間の頭の中で展開される、連なる体験と記憶、社会や時代の価値観との接点、その延長上にあるテーマへの気付きと思考のようなものを写真のシークエンスや並べ方などを通して伝えたいのだろう。それゆえ1点の写真は特にインパクトが強いものである必要はない。
つまりアーティストが実体験を通して記憶化したもの、頭の中で意識に上った気づき、考えをフォトブックの2次元時間軸のなかで写真を通して再構築する。そのような視点で写真表現を行っているアーティストを好んで取り上げているのではないか。映像作家をよく取り上げるのは、彼らの動画的な写真へのアプローチがマイケル・マックの好みに近いのだろう。一見フィーリングの連なりのように感じられる写真の提示なのだが、実は最初に写真家の思考がありきで、その後にヴィジュアルのリズム・流れやフォーマットが決められているのだ。この点が理解できるかによって、「MACK」のフォトブックの評価が大きくわかれると思う。日本では、コンテンツのエッセンスを伝えようとするアプローチが結果的にミニマル的なデザインとなりその点がデザイン・コンシャスな人に受け入れられている気がする。また日本の写真家に多い、感情の連なりのように感じられる写真の提示方法が好まれている面もあるだろう。しかし彼はあくまでも最初にコンテンツでありきの姿勢で、グラフィック・デザインに関してはそれを邪魔しないものであればよいとしている。

日本のオーディエンスも、デザインやヴィジュアル以外に、ぜひ内容にもう一歩踏み込んでみてほしい。そうすることによって、「MACK」のフォトブックは現代アート作品を理解する格好の教材にもなるのではないか。アーティストが写真で提示している思考内容は、見る側が世界をどのように認識しているかによって理解度が違ってくる。社会のグローバル化の中で、欧米人とアジア人が共通に反応する内容も多い一方で、地理的、歴史的、文化的な背景の違いによって理解できないこともあるだろう。英国人のマイケル・マックは自分の信じる価値基準でアーティストを評価しフォトブックを制作しているのだが、それと私たち日本人との認識が違っても当然なのだ。絶対的な基準などはなく解釈は人によってすべて違う。
アートの面白い点は、その違いに気付くことで自分自身が何を考えているかに気付かされることなのだ。ブックデザインや収録写真を愛でるだけでなく、作品の中身を読みとこうとすることで、知的好奇心を満たしてくれるという全く別の楽しみ方が見つかるだろう。ぜひ「MACK」の数多いフォトブックを通して、自分が何に反応して、コミュニケーションできるかを発見してほしい。その経験の蓄積を通して自分なりのアートの評価基準が出来上がっていくのだ。

「MACK」の日本での取り扱い代理店
Twelvebooks
http://twelve-books.com/

2014年に売れた洋書写真集
何かと話題の多いヴィヴィアン・マイヤーがなんと3連覇!

アート・フォト・サイトはネットでの写真集売り上げをベースに写真集人気ランキングを毎年発表している。2014年の速報データが揃ったので概要を紹介する。

一番売れたのは、3年連続でヴィヴィアン・マイヤー(1926-2009)の「Vivian Maier: Street Photographer」(powerHouse Books
2011年刊)だった。どうも彼女の初写真集が代表作として定番化してきたようだ。昨年は”Vivian Maier: A Photographer Found“や”Eye to Eye” などの新刊が発売されている。いずれも研究が進んだことで内容が豊富になり、分厚い高額の豪華本になってしまった。結果的にそれらの売り上げは伸びていない。
「Street Photographer」は、今までに刊行された彼女関連の5冊のフォトブックの中でも値段が最も安く、コンパクトかつ的確に作品エッセンスを伝えている。一般の写真ファンは、写真界で話題性のある彼女のキャリアや写真には興味があるものの、特に深く研究する関心まではないのだろう。そのあたりがこの1冊に人気が集中した背景だと推測できる。

また最近のフォトブックは、アート表現の一環だと認識されている。写真家のアイデアとコンセプトが注目される傾向が強まっていることも影響していると感じる。やはり本人が亡くなっていることから、ここの部分の探求は難しいだろう。どうしても膨大な写真アーカイブスからの新たなヴィジュアル探しに関心が集中してしまいがちだ。研究者と一般写真ファンとに、関心の強さの違いが出始めているのではないだろうか。

私は彼女の作品はメッセージ性の弱さを十分に補える可能性を持つと考えている。そのためには、彼女の写真が時代の気分と雰囲気をとらえている点への注目が必要なのだ。つまりドキュメント系の流れで見るのではなく、広義のファッション写真なのだと見方を変えればよいということ。米国ヴォーグ誌のアート・ディレクターだったアレキサンダー・リーバーマンは、ウォーカー・エバンスがハバナの街角で撮影した白いスーツの男性のドキュメント写真のことを、”これはファッション写真ではないが、本質的にスタイルを提示していると思う”と述べている。これはアートとしてのファッション写真を解説する際によく引用される発言だ。多くのマイヤー作品にも当てはまるのではないだろうか?その視点でセレクションすれば、彼女の新たな写真世界が提示できると考える。彼女の作品を扱うハワード・グリンバーグはファッション系写真を取り扱っているギャラリーだ。もしかしたら、その視点で作品を評価して取り扱いを決めたのかもしれないと想像している。

2014年は、ヴィヴィアン・マイヤーの著作権に関して裁判が起こされたことも話題になった。いままで著作者ではない関係者が数々のビジネスを行っていることへの違和感を多くの人が感じていた。ニューヨーク・タイムズの記事によると、ネガ発見者のジョン・マードフ氏は、最も近いフランスの親戚から彼女の作品の著作権を購入したことになっていた。ところが写真家・弁護士のデビッド・C・ディール(David C. Deal)氏が、彼女の血筋の再調査をフランスで敢行して、なんと新たな親戚が見つかったのだ。そしていま正式な相続人を明らかにする裁判が進行中とのこと。海外在住者が関わるこの種の裁判の場合、判決に数年の時間がかかるという。
マイヤー作品の約15%を占める”Jeffrey Goldstein Collection”のネガは、将来的な法的混乱回避のため、昨年末にカナダのStephen Bulgerギャラリーに一括売却されている。同ギャラリーも判決が出るまでコレクションを保存しておくしかない。
やはり、世界中での複数の展覧会開催、5冊の写真集刊行、商業ギャラリーでのプリント販売と、ビジネスが大きくなりすぎたことから色々な問題点が顕在化してきたのだろう。

コラムニストが書きそうなまとめ方をすれば、”天国のヴィヴィアン・マイヤーは、地上のこの騒動をどのように見ているだろうか?”という感じだろう。この件は、今後どのような展開を見せるか興味深い。

2014年ランキング速報
1. Vivian Maier: Street Photographer, 2011
2. Stephen Shore: Uncommon Places – The Complete Works, 2004
3. William Eggleston’s Guide, 2002
4. Lillian Bassman: Lingerie, 2012
5. Patrick Demarchelier, 2014
6. Stephen Shore: From Galilee to the Negev, 2014
7. Danny Lyon: The Bikeriders, 2014
8.Lillian Bassman: Women, 2009
9. The Americans, 2008
10.Vivian Maier: Out of the Shadows, 2012

若きロバート・フランクのインテリジェンス 「Robert Frank: In America」(パート2)

前回に引き続き、ピーター・ガラッシ著作による「 Robert Frank: In America」の解説を行いたい。

・「The  Americans」の内容分析
この写真史上の名著の内容については多くの専門家が多方面から分析している。「Robert Frank: In America」でガラッシが行っている同書の分析にも触れておこう。

内容に関しては、一般人が反応するようなアメリカ的なありきたりのフォトジャーナリズム的な題材が多く取り込まれており、それらが全体の1/4を占めているとしている。
いくつかのテーマに対応する明確なイメージがあり、そこからアメリカ国旗、自動車、ジュークボックスなどのシンボルを導き出される。またページ展開の中でそのバリエーションが続き、そこからテーマを掘り下げていく。 この流れの繰り返しは、ジャズの即興演奏のようだ、と指摘されることもあるアプローチだ。
旅の行程の検証からも、フランクがどのようにテーマを膨らませていったのがよくわかる。まず彼が題材にしたのは自動車のアメリカ社会や文化への影響だ。フランク最初の旅はデトロイトのフォード工場の撮影だった。関連する、生産工場、ガソリンスタンド、石油精製所、ボディー素材となる鉱山などを幅広く計画的に撮影している。
そしてウォーカー・エバンスが奨めた南部の旅では、社会における黒人の存在とそのコミュニティーを追っている。その他、普通の市民生活における「富と階層」、「政治」、「映画とテレビ(メディア)」 などを意識している。

また「The Americans」では、取り上げていない項目にも注目して紹介。それらはドラッグ・ストアー、ファイブ&ダイム ストアー、ナショナル・チェンストアーなどを通して表現されている「消費文化の状況」。「郊外化の波」、「高速道路」、「モーテル」、「多民族の移民」、「少数民族」などにおよぶ。
フランクは、奨学金リニューアル時の応募テキストに「いまのアメリカ人の日常生活のポートレート、平日と休日、現実と夢、町やハイウェイのながめ」を撮影するのがプロジェクトの目的と記載している。彼は、当時のアメリカ社会における幅広い様々なテーマを意識しながら各地でかなり計画的かつ慎重に撮影していたのだ。「The Americans」には、テーマを慎重に絞り込んで83点をセレクションしたことがわかる。
・フォトブックとして評価

フォトブックにおける写真の見せ方についても分析されている。写真を見開きページに2枚配置するのと、同書のように右側に1枚の写真を置き左側には短いキャプションをつける流れを意識した方法との違いについては、いままで多くが語られてきた。
「The Americans」はウォーカー・エバンスの「American
photographs」を意識していたことは良く知られている。ガラッシによると、見開きはページでは、イメージの類似性やコントラストを強調する。また2枚の写真の関係性はシークエンスよりも強い。しかし1枚の写真でも、それらが慎重に系統だってイメージが並べられるととても強く、複雑になる、と分析している。
そして本書「Robert Frank: In America」では、あえて見開きページに2枚の写真を見せることで、イメージの類似性や関係性を強調している。これにより、いままであまり意識されなかったフランクの写真スタイルが明らかになる。
ライカという小型カメラが人に気付かれることなく様々な状況での撮影を可能にしていた。
もちろんこれは作品テーマとの関係性がある。彼が多く撮影している被写体には、社会の周辺の「孤立している個人」、社会的な存在としての「カップル」、様々な種類の人をとり入れている「多人数」に分類できることが例示されている。特に正面から被写体が平行に並んでいる写真は、シンプルなフォルムのまとまりを作り、黒人と白人の違い、貧富の格差、差別意識などの対比を表すことに成功している。
典型的なのが「The Americans」表紙のトロリーの窓を撮影した”Trolley-New Orleans, 1955″、「Robert Frank: In America」表紙の信号待ち人々をとらえた”Main Street – Savannah, Georgia,

1955″だろう。

・フランクの際立ったインテリジェンス
若いアーティストは自信過剰だが人生経験が不足しており、なかなか優れたアート作品を作り上げることができない。当時30歳前後だった若きフランクは、なんでこれほどの名作を制作できたのか?
本書を通して見えてくるのは、フランクが多くの専門家のアドバイスに真摯に耳を傾け、 また多くの写真家の過去の作品を研究し参考にしていた事実だろう。真の個性や創造性は、周りの影響を受けたからかわるものではない。”絶対的な価値があるものは、人がどんな状況であっても決して失わないものだけだ”とドイツの哲学者アルトゥル・ショーペンハウアーは語っている。才能は多くの経験や学習の上で花開くもの、若くても経験知を上げることは可能なのだ。

全米の旅に出る時点で、彼の頭の中には既に膨大なヴィジュアルとコンセプトのデータベースが出来上がっていたのだろう。その状況で、今のありのままのアメリカを表現しようというアイデアが浮かび、結果として「The Americans」誕生につながったのだ。フランクは、考え抜いて撮影された複数テーマと、多種多様なスタイルを持った写真イメージを自分の中で総合化して、新たな作品として提示する高いインテリジェンスを持っていた。ここの部分は才能と呼んでもよいだろう。USカメラ1954年9月号に掲載された、バイロン・ドベル(Byron Dobell)のフランクに関するテキストはその点に触れ”小さいカメラで人は直ぐに良い結果を得ることができるでしょう。しかし、多くの人はテクニカルなレベルで止まってしまう。良い仕事をするためには、更に知性が必要になる”と指摘している。彼は知的作業とヴィジュアルを駆使して行うアート表現に本当に喜びを感じていたのだろう。好きだったからこそ、継続して制作作業を行い作品にまとめることができたのだ。しかし、ここでフランクのことを、現在の現代アーティストのように頭でっかちだったと誤解してはいけない。彼は、フランス人作家アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの、”心でしかよく見えないんだよ。大切なものは目には見えないんだ”という言葉を好んで引用するといわれている。これは写真の表層を見たり、作品テーマを考えるだけではその本質は理解できない。写真家の感動に共感できることが一番重要なのだ、という意味ではないだろうか。かれはアートとして写真の本質をちゃんと理解していたのだ。

 最後に本書31ページに掲載されているジョナサン・グリーン(Jonathan Green)の文章を紹介しておこう。”「The Americans」は写真のフォルムとスタイルの小さな百科事典だ。写真史において、写真家が、これほど作風、異なるスタイルを混ぜ合わせて、途方もない効果をもたらす新しい企画の作品へと発展させた例はない”。そして、ガラッシは「The Americans」は革新的なスタイルというよりも、異種のパーツから強く引き出されて統合することができた勝利だ、としている。

本書の、ガラッシによる制作背景、時代考証、撮影スタイルの解説・分析により、「The Americans」はより魅力的なフォトブックに感じてくる。2冊を見比べて、フランクの1枚1枚の写真が何を伝えたいか、どのテーマとつながるかを読み解く行為はアート写真ファンの知的好奇心を刺激してくれる。アート写真での表現者を目指す人にとっては、多くを学ぶことができる教科書になるだろう。