
2026年春の大手3業者によるニューヨーク定例ファインアート写真オークション。今回は4月22日~26日にかけてPark Avenue Armoryで開催される世界最大フォト・フェアーのAIPAD Photography Showの前の時期にあわせて、複数委託者によるライブとオンラインの合計5件が開催された。
フィリップスは、4月10日に“”Sebastião Salgado: A Life’s Voyage(online)”、11日に複数委託者による “Photographs”を、サザビーズは、4月14日に“Print & Photographs Part 1″と、16日に”Photographs Part II(online)”を、クリスティーズは、4月17日に“Photographs(Online)”を開催した。

さてオークション結果だが、3社合計で720点が出品され、544点が落札。全体の落札率は約75.6%と秋の約78.9%よりも若干悪化した。総売り上げは約1274万ドル(約19.7億円)、昨秋の1581万ドルより減少、昨春の約1009万ドルより増加している。落札作品1点の平均落札金額は23,125ドルで、昨秋の約23,161ドルとほぼ同じ、昨春の約21,691ドルより増加している。過去10回のオークションの落札額平均と比較したグラフを見ても、総売上高は若干増加。総合的にほぼトレンドに沿った落札結果だったと判断できるだろう。サザビーズは比較的高額評価の20世紀のヴィンテージ作品、ファッション、現代アート系の写真作品28点を”Print & Photographs Part 1″で版画と同カテゴリーで、評価の低い作品は”Photographs Part II(online)”で取り扱っていた。いまやオークションでの写真作品は、評価額によって、高価格帯の現代アート/20世紀アート系、中価格帯の版画/プリント系、そして低価格帯のデザイン/フォトグラフス系にまたがって出品されるのが当たり前になりつつある。今後も各業者の実験的なカテゴリー分けの挑戦は続くと思われる。

今シーズンの最高額落札は、フィリップス“Photographs”に出品された女性写真家ティナ・モドッティ(Tina Modotti/1896-1942)が20年代のメキシコで撮影/制作したヴィンテージ作品の“Bandolier, Corn, Sickle, 1927”だった。イメージサイズは22.2×19.1cm、当時のメキシコ革命期の社会状況が色濃く反映された弾帯、トウモロコシ、鎌の静物写真。落札予想価格10~15万ドルのところなんと4倍以上の64.5万ドル(約9997万円)で落札された。

2位もサザビーズ“Prints & Photographs Part I”に出品された由緒あるThe Jill and Marshall Rose Collection 収蔵のティナ・モドッティ“Roses, Mexico, 1924”だった。イメージサイズは21.6×18.7cmのpalladium print、落札予想価格25~35万のところ、40.96万ドル(約6348万円)で落札されている。資料によると、同作は1929年12月にメキシコシティの国立図書館で開催された彼女の存命中の数少ない展覧会に出品されていたと考えられているとのこと。また存命中に制作されたpalladium printは極めて貴重で、1点はエドワード・ウェストンがMoMA(ニューヨーク近代美術館)に寄贈したものが確認されているという。

高額落札第3位も、サザビーズ“Prints & Photographs Part I”に出品された、同じくThe Jill and Marshall Rose Collection 収蔵のエドワード・ウェストン“Nautilus, 1927”だった。イメージサイズは24.1×18.7cmの1930年代にプリンとされた銀塩写真、落札予想価格30~50万のところ、38.4万ドル(約5952万円)で落札されている。本作は、20世紀初頭の数十年間に、多くのアメリカ人写真家がストレート・フォトグラフィーへと移行したことを示す代表例。特に20~30年代のプリントは極めて希少でオークションへの出品はほとんどない。

続いたのはクリスティーズ“Photographs(Online)”に出品されたアーヴィング・ペンの“Ginkgo Leaves, New York, 1990”。サイズ57.8 x 49.5 cm、エディション22のダイ・トランスファー作品。写真集“Passage: A Work Record”(Alfred A. Knopf/Callaway, 1991年刊)の有名なカヴァー作品だ。落札予想価格25~35万のところ35.56万ドル(約5511万円)で落札されている。
私が注目していたのはサザビーズ“Print & Photographs Part 1”に出品されていたアーヴィング・ペンが1950年から1951年に手掛けた“Small Trade”シリーズ7点の動向だった。これはパリ、ロンドン、ニューヨークの様々な職業の無名の職人たちを、仕事着と職に欠かせない道具と共に自然光スタジオで撮影したもの。華麗なファッションと比べると職人たちのポートレートはやや地味な印象を受ける。すべてplatinum-palladium printで多くが60年代にプリントされた作品になる。落札予想価格は4~7万ドルのレンジだったが、4点が落札予想価格の上限を超え、残りも予想落札価格の範囲内で全作が落札された。最高額は“Gas Company Mechanic, N. Y.’、1951”。1967年にプリント、エディション4/4、サイズ42.4X30.6cm で、7.68万ドル(約1190万円)で落札された。“Small Trade”は、いまやペンのファッション、静物に次ぐ人気シリーズになったのだ。

今シーズンで高額落札が期待されたのがヘルムート・ニュートンの巨大な2枚組“Sie Kommen, Paris (Dressed and Naked)、1981”だった。壁画サイズの銀塩写真4点からなる2枚組作品。落札予想価格120~180万だったが残念ながら不落札。ちなみに同作は2002年4月17日にサザビーズ・ニューヨークのオークションで落札予想価格20~25万のところ18.55万ドルで落札されている。約24年で評価が6~7倍になっているので、ファッション系はブームではあるものの、やや過大評価だったかもしれない。
今回のティナ・モドッティ作品の高額落札は、極めて流通量が少ない本人がプリントしたヴィンテージ作品であったことと、いま世界的なトレンドになっている女性写真家の再評価に流れが影響していると思われる。また“Bandolier, Corn, Sickle”は、1920年代のメキシコ革命後の社会主義的象徴(弾帯・鎌・トウモロコシ)を扱った作品であり、重要な歴史的写真の価値を見直す動きとも呼応しているだろう。また2位のサザビーズの“Roses, Mexico, 1924”、3位のウェストンの“Nautilus, 1927”は、由緒ある“The Jill and Marshall Rose Collection” からの出品であったことも高額落札の一因だと思われる。
ニューヨーク・ファインアート写真オークションの2026年春シーズンは、貴重なヴィンテージ作品、ファッション系、20世紀写真の有名作への需要の強さ、という最近のトレンドに沿った驚きの少ない落札結果だったといえるだろう。
(1ドル/155 円で換算)
