2023-1-20

  

ミッシェル・コント

COMTE, Michel (1954-)

ミッシェル・コントは1954年スイス、チューリヒの裕福な家庭に生まれます。モダンアート作品の 修復専門家を経て、25歳の時に独学で写真家を目指すようになります。影響を受けた写真家は、アウターブリッジ、マン・レイ、ロドチェンコ、メイプルソープそしてウィージーだそうです。ちなみに彼は黒澤明監督のファンで写真集"Twenty Years"にも黒澤監督のポートレートが収録されています。
パリに出て彼は急速に頭角を表します。1978年にウンガロ、ラガーフェルドにいきなり才能が認められ広告の仕事を得ます。その実力はアメリカでも認められ、80年代前半にはヴォーグアメリカ版の仕事を行うようになります。僅か数年間で世界中で求められる売れっ子フォトグラファーになったのです。まさに夢のような成功物語です。その後、ロスとニューヨークにスタジオを持ち、ヴァニティーフェアー誌、インタビュー誌、ヴォーグ・イタリア版などで有名人のポートレートとファッション写真を発表し続けています。 広告のクライエントもフェレ、ドルチェ&カバーナ、アルマーニ、ナイキ、レブロン、スウォッチ、 BMW、メルセデス・ベンツと超一流企業名が並びます。

彼の有名人のポートレート写真はモデルの既存のイメージを打ち破る新鮮さがあります。 彼はどんなビッグスターでも自分の思う通りの撮影を行います。世の中にはモデルをきれいに撮る写真家は星の数ほどいます。しかし、コントが撮るような大物の被写体は写真家に新しい自分のイメージを引き出してもらいたいという欲求があるのです。それができる写真家は限られます。

コントには幾つかの伝説的なポートレートがあります。
マイク・タイソンの白いハトを持った写真は彼の代表作の1枚です(写真集"Twenty Years"に収録)。日本でも94年に開催された写真展“ピクチャー・オブ・ピース”のパブリシティー用に使われたので憶えている方も多いと思います。白いハトを使用するのはコントのアイデアでした。実はタイソンは子供の時に白いハトを飼っていた経験が あったそうです。撮影現場で白いハトを見たタイソンは昔を思い出し涙したそうです。 そのような状況があって、荒くれもののタイソンのイメージからかけ離れた静謐な写真が完成したのです。

コントは近年フォトリポータージュにも力をいれています。赤十字の仕事でアフガニスタン、ボスニア、ハイチなどの世界の紛争地帯を旅して撮影を行っています。彼はインタビューの中で、危険地帯に身を置いて撮影するのは現実のリアリティー感覚を失わないため、と語っています。彼の創作を支える直感が衰えない秘密はここにあるのかもしれません。

彼の写真集を見ていると一瞬、彼のスタイルがばらばらとの印象を受けます。どの写真家も自分のスタイルを作ろうと必死になって、それにこだわるのが個性と考えています。しかしコントはあえて自分のスタイルを頻繁に変化させるのです。これは直感に支えられた類まれな才能が彼にあるからできるのだと思います。
成功した写真家はそのキャリアのある段階で苦労して作った自分のスタイルを壊して新たなスタイルを再構築しています。その繰り返しができる写真家のみが創作の世界で生き延びるのです。なんとコントはそれを非常に短い間隔でやってのけるのです。逆説ですが一貫したスタイルが無いのがコントのスタイルなのです。

彼の写真はアーティストのオリジナリティーとは何か考えさせてくれます。ファッションやポートレートを撮っているプロの写真家の方はぜひ参考にしてください。

オリジナル・プリント作家としては1999年ロンドンの有名ギャラリー のハミルトンで個展開催。 2009年8月30日~2010年かけて、スイス・チューリヒのMuseum of Design (Museum Fur Gestaltung) でキャリア30周年を記念して初の本格的回顧展が行われています。