2023-1-23

  

ポール・ストランド

STRAND, Paul (1890-1976)

現代アメリカ写真界の巨匠ポール・ストランドは1890年ニューヨーク生まれです。14歳でエシカル・カルチャー・スクールに入学し、(1904~1909年)当時ちょうど移民の写真を撮影し始めた写真家ルイス・ハインに指導を受けます。ハインを通してギャラリー291のアルフレッド・スティーグリッツと出合います。彼の励ましとギャラリー291でピカソ、セザンヌやデュシャン などモダンアートに触れたことに影響され、彼は次第にプロの写真家を志すようになります。父親の理解とサポートもあり1912年に商業写真家として独立しています。

最初は当時流行だったソフトフォーカスの絵画的写真を制作していますが、1915年から抽象的な写真に取り組むようになります。陶器製ボウルのクローズアップ、椅子の背もたれ、影のパターンなどを利用して実験的なキュービズム的写真を制作しています。オブジェのデザインを探求し、パターンと形状を最重要視して鮮明に描写されたイメージは強いリアリティーを持っていました。 スティーグリッツは彼の一連の作品を“残酷までに率直な表現で、新しいリアリズムである”と高く評価し、1916年にギャラリー291で個展開催を行なうとともに雑誌カメラワークの最後の2号に掲載しました。特に1917年6月の最終号はストランド特集号でした。絵画的写真の終焉と特殊な技法やトリックを使わない新しいストレート写真の誕生です。彼はその後の写真界に多大な影響を与えています。

1918年から1919年にかけてレントゲン技師として兵役につきます。退役後、1919年頃から、自然の写真表現での探求を開始。 ノバ・スコシアを旅行して初めて風景写真を撮影しています。木、葉、草など自然のクローズアップ、岩や石の構成などは彼の作品の中でも 最も美しく、多くの写真家に影響を与えたテーマとなります。
1921年、友人のチャールズ・シーラーとニューヨークの記録映画『マンハッタン』 を制作しています。1933年にはメキシコ政府の依頼で現地の漁民をテーマ にした『波』を、1936年に米国政府依頼によるドキュメント 『大草原を切り開いた鍬』制作しています。その後1940年代にかけて数々の映画に取り組んでいます。

1945年にニューヨーク近代美術館で回顧展開催。1946年~47年にかけては近代美術館のナンシー・ニューホール氏と組み、彼女のテキストと写真による写真集『ニューイングランドの時間』を制作しています。当時の米国内の政治的状況と旅への強い欲求から1950年にフランスへ移住しています。 1950年~60年代にかけてはフランス、イタリア、エジプト、ガーナなどを旅してその場所ごとに写真集を発表しています。後期の写真は次第にナチュラルで落ち着いた感じが強まっていきます。

初期ヴィンテージプリントはオークションにおいて非常に高値で取引されています。この時期のプリントの完成度とディテール美しさは印刷では再現できません。1枚のプリントに3日もかけたことがあるとの伝説もあります。2000年春のササビーズのオークションではストランドの妻のポートレート“Rebecca,1921”が$335,750.(@110、36,932,500円)で落札されました。
作家のオークション最高落札価格は、2013年4月クリスティーズNYで開催された「THE DELIGHTED EYE: MODERNIST MASTERWORKS FROM A PRIVATE COLLECTION」セールに出品された”Akeley Motion Picture Camera, New York, 1922”。落札予想価格$25~35万のところ、$783,750.落札されています。