2024-5-15

  

Nick Waplington: Living Room

Aperture Direct, 2024

Nick Waplington(ニック・ワプリントン)

ニック・ワプリントン(1965-)は、イギリスとアメリカを拠点に活躍する写真家です。
彼は、1991年にAperture社から発行されたデビュー作品集「Living Room」で高い評価を受けます。 同書のエッセーは、写真家リチャード・アヴェドン(Richard Avedon)と美術批評家ジョン・バーガー(John Berger)が担当。 1980年代後半までのイギリスは、サッチャー政権下で、産業の崩壊、貧困と失業の増加した時代でした。 同書はイギリス・ノッティンガムのブロクストウ団地の労働者階級の友人、家族、隣人たちの日々の生活を5年間に渡って撮影したものです。写真は基本的で全く平凡ですが、人生と喜びに溢れています。そしてドラマが繰り広げられるのは、タイトルにもなっているリビングルーム。そこは、コミュニティが人間関係を演じる舞台であり、セットであり、窮屈で、不潔ですが、一方で美しい世界でもあるのです。
写真、映画、テレビでは、この時代のイギリスの労働者階級を、概して暗い印象で提示しています。 しかしワプリントンはカラー写真を駆使し、笑い、愛、幸福に満ちた別の側面を見せることで、この画一的な なイメージに揺さぶりをかけたのです。また彼の写真は、被写体たちがカメラの存在を全く意識せず、自然体であることが大きな特徴でした。同書は1980年代の労働者階級のイギリスの現実を描いた重要な作品として今も語り継がれています。それ以来、ワプリントンは人物や場所、そしてそれらを規定する社会政治的背景を淡々と描写することで知られるようになります。暴動、抗議行動、暴力、陶酔から、大判の風景写真のシュールな幻想的な静寂まで、ワプリントンの作品は固定観念を超越し、期待を裏切ることで知られています。

本書は1991年発表のオリジナル・モノグラフを、未公開の膨大なアーカイブを活用して現代的な視点からコンセプチュアルにリメイクしたものです。オリジナル版と同じ風景写真とポートレート写真の配列で、59枚の写真それぞれを未発表の作品に置き換えています。一部作品はオリジナルと同じロールのフィルムからセレクションされています。彼の写真を通して、いまから数十年前のサッチャー政権下の英国の生活を鮮烈に再経験できます。ロンドンのハミルトンズ・ギャラリーで、同名の写真展が2024年3月14日~6月1日まで開催。

ハードカバー ‏ : ‎ 72ページ、サイズ 32.7 x 1.27 x 24.9 cm、約61点の図版を収録。
同書はAperture社のために1,000部限定で制作。同社の公式サイトから予約注文可能です。
すべての予約注文は2024年5月21日に発送予定とのことです。



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