コンデジでアート作品が出来るのか?衝撃のトミオ・セイケ写真展が始まる

 

あるお客様がギャラリーでの展示作品を一通り見終わると、どの作品がデジタル・カメラの撮影ですかと聞いてきた。全ての作品です、と伝えると眼を丸くして驚いていた。
ライカ・マスター、銀塩写真の魔術師と呼ばれるトミオ・セイケ。彼の新作は、なんとデジタル・カメラ、インクジェット・プリンターによるものだ。アナログでしか作品制作していなかった作家がにわかにDP-2に興味を持ったり、その衝撃はいまでも続いている。

一般の人が普通によい写真を撮影するのに、もはやライカなどの機材にこだわる必要はなくなったのではないか。これが本展のセイケのメッセージの一つだろう。
ライカやノクチルクス・レンズは簡単には買えないが、シグマのDP2Sを買える人は多いだろう。それゆえ、本展ではカメラ、レンズの先入観なしに純粋にセイケの作家性を愛でている人が多いという感じだ。そして見れば見るほど、同じカメラでも自分はセイケの”Untitled”シリーズのような作品を作り出せないことを思い知るのだ。これこそが作家のオリジナリティーを知ることだ。それに気付いた人たちはセイケの写真の価値が真にわかり、作品が欲しくなるのだと思う。

9月18日にトミオ・セイケと、本作で使用したDP-2,SD-14を制作したシグマ社広報の桑山輝明氏とのトークイベントが開催された。純粋のセイケ・ファンはもちろん、DP2に興味ある参加者も多かった印象だった。狭いギャラリーでのトーク・イベント。キャパシティーの問題で先着順の受付となった。希望者全員参加とはならずにたいへん申し訳ありませんでした。お二人のトークをここに簡単に再現します。参考になさってください。
(敬称略)

パート1:SIGMA広報の桑山氏とセイケ氏とのトーク

桑山
(まずは、カメラDP2について)
写りとしては、良い。コンパクトカメラで中のセンサーは一眼レフと同じものが入っている。センサーが大きいと、小さいところまで写るが、デジタルカメラとしての細かい機能は備えていない。ゆっくり動くので使いにくい。じっくりと作品を撮りたい方向け。

セイケさんは何故このカメラを選んだのか。

セイケ
DP1も使ったが、あまりに使いにくく返品の代わりにオリンパスのデジカメに交換してもらったくらいだった。その後、アート・ディレクターの福井さんが手掛けられたキャンペーンに強い印象を受けて、日本からDP2を買ってきてもらった。イギリスでの使用中は夢中になることはなかったが、東京に戻ってA3でモノクロのプリントアウトをしたときに、その出来をライカのスキャンのプリントアウト、R—D1などと比べてみたが、DP2のプリントが一番良かった。それであれば一度作品を展示してみようと思った。

桑山
DPのカメラは撮影に7秒かかり最初はとまどう。使用後1週間の壁があり、これを超えないとヤフーオークションに出してしまう。1週間我慢して使って、1ヶ月くらいたつとカメラのことがわかってくる。そのうち使う人の方がカメラに慣れて合わせるようになる。
このカメラは、現場ではドキドキするが、その後パソコン(モニター)で開いたときに別物に変わることでワクワクする。プリントするとまた違う。是非そこまで使って欲しい。
ところで、何故今回はカラーでも制作されたのか。

セイケ
デジタルカメラはカラーが本筋だと思っている。フィルムだけを使っているときは、カラーには全く興味がなかった。カラーで自分が欲しいと思う作品に出会ったことがなく、モノとしての魅力がないと思っていた。カラーは印刷でよいと思っていた。
だが、デジタルならカラーのプリントが可能となる時代になったのではないかと思った。そのきっかけを与えてくれたのがDP-2だった。いずれデジタルで欲しいと思うカラーの作品が出てくるのではないかと思いSD14を買ってみた。それがすぐに欲しいと思うカラー作品に直結するかどうかはわからないが。

桑山     楽しみにしています。

パート2 : 参加者との質疑応答

Q1         デジタル写真のアートとしての価値、フィルムとの違いは何か

セイケ
それは誰にもわからない。確かに一部ギャラリー等には拒否反応があるし、同等ではない。撮る方とギャラリーではギャップがある。様々な解釈基準があるのだ。だが、いまの革命的なデジタル時代において、2-3年後はだれも予測できない。デジタルとフィルムは全くの別物と考えたほうが良い。

Q2         カラーでとってモノクロに変換するときの注意は?

セイケ
感覚的に言えば、シグマさんのセンサーのカメラは、撮った後に撮りっぱなしでモノクロに変換すればよい。どこのメーカーでもすべての調子を出さなければならないということにこだわりすぎ。全てが表現されるのは写真的でないこともある。デジタルからそのまま出したプリントでも階調は出る。

Q3         フィルムでも、デジタルでも、写真を撮ってからプリントが出来上がるまでの調子はどの時点でどのように決めるのか。

セイケ
例えば、写真を撮るときは、当然色のついた被写体を見ているわけだが、既に私の頭の中ではモノクロの仕上がりを考えている。その頭の中の感覚を実際にプリントするときに実現化する。

桑山       逆に、撮影時とモニターに向かうときと変わることはあるのか

セイケ    それはない。

桑山       データには手を入れるのか。

セイケ
手順を言えば、撮る→現像する=SPP(Sigma Photo Prp)で操作する(=画面を見ながらレバーをスライドして操作する)→パソコンにおとしてフォトショップで若干さわるだけ。モノクロのときはさわならい。今回20X24インチのフレームで展示している3点は何もしないでそのまま出力している。(ギャラリー右奥に展示)その表現力は驚きだ。

Q4         ブライトンの魅力について、何故ブライトンで撮るのか

セイケ
80年代の終わりから住んでいるが、当時はブライトンではあまり撮らなかった。最近は、若いころと比べて行動範囲が狭くなり、身近なものを撮るようになってきたので、ブライトンで撮るようになっている。もともとブライトンはBright が語源らしい。光が美しく画家も多く住んでいる。だが、イギリスの中でとりたてて魅力がある街ではない。自分としては木が少ないのが残念でさみしく思っている。

Q5         フィルムの暗室作業と、インクジェットのプリンターを扱うのと違いがあるか

セイケ
全く別の感じだ。銀塩は自分の心と直接つながっている。プリントする前日からは、余計な電話に出ないなどして、集中して気持ちを高めている。インクジェットは電源を入れればできる。制作するときの気持ちは全く違う。

Q7         撮るときの気持ちはどうか。

セイケ
これは、同じだ。カメラによって気持ちが分かれるというのは良くない。写真を撮るときは、撮りたいものに、全身でぶつかってシャッターを押している。
そういう意味では、DP2は時間がかかるので「よーく見る」ことになる。これは大事だ。作品制作の時は、必ずしも機能的なカメラが良いわけではない。

Q8         使用しているプリンタと紙は

セイケ
プリンタはエプソンPX5002
本展では紙は三種類使っている。紙については、これが決定的というものはない。かつての印画紙のように安定的に供給される紙がでてくるのかどうかも不安に思っている。

以上。