2010年に売れた写真集 ロバート・フランクが3年連続1位獲得

 

アート・フォト・サイトはネットでの写真集売り上げをベースに写真集人気ランキングを毎年発表している。2010年の速報値が出たので概要を紹介しておきます。

一番売れたのは、ロバート・フランクの歴史的名著「アメリカ人」の刊行50周年記念エディション。なんと3年連続の1位獲得となった。フランク人気は根強い。その他の新刊本2冊もベスト20に入っていた。
アート・フォト・サイトでは、毎週、洋書写真集の新刊を幅広くチェックするとともに、お薦めの1冊を紹介している。昨年を振り返っての印象は、特に際立った注目本やベストセラーがなかったことだ。ランキングもそのような状況が見事に反映されていた。
上位は全て既刊本で、2010年刊行ではアーヴィング・ペンの「ポートレーツ」がやっと9位だった。全体の売り上げは前年比約20%減だった。しかし、為替レートが約15%円高になっているので減少幅は見かけほど大きくはなかったと言えるだろう。冊数ベースでは約12%減。全体的には、景気回復の遅れと、ベストセラー不在が相まり、リーマンショック後の市場規模縮小傾向に歯止めがかかっていないという感じか。

気になるのはランキング入りしている写真家の顔ぶれがとても保守的なこと。ロバート・フランク、スティーブン・ショアー、ウィリアム・エグルストンなど、ブランド作家の本や定番本が中心に売れているのだ。この背景にはやはり不況があると感じる。写真集はリスクの大きいビジネスだ。評価の定まっていない新人・中堅作家の出版には版元も慎重になるだろう。買う側もデフレ化の限られた予算の中での選択となる。ハズレのリスクを避けたいと考えるのが自然だ。
しかし、わたしはこの状況を決して悲観的には見ていない。アート系の写真集は心は豊かにしてくれるが、お腹は満たしてくれない。不要不急の代表的な商品である。それなのに、不況が続く中でもそこそこの売り上げがあるのは、衣食住の次の生活上の優先順位に知的好奇心や優れたヴィジュアルを追求する人が増えてきた証拠だと思う。売り上げ減の大きな要因は、不況は無視できないものの、買いたい写真集があまりなかったからだと、あえてポジティブに解釈したい。

ランキングの中には希望の光を感じる点もある。アート写真の解説本がランキングのベスト10入りしているのだ。なんと、「The Contact Sheet」が2位、「Photography After Frank」が6位なのだ。これは写真の表層だけを見るのではなく、作家の世界観、視点、歴史的背景を知りたいという人が増えている証拠。写真がやっとアートとして認められてきたのだと思う。名作や定番本が売れ、写真の見方の解説本が売れている。なにか、多くの人がアートとしての写真を学んでいる大きな流れのようなものを感じる。アート写真黎明期の日本では健全な傾向だと思う。
実はギャラリーの店頭でも、自分の知識、経験で写真を判断している人が増加している印象を持っている。いままでは、写真集は売れるものの、写真が売れないという状況が続いてきた。ここにきてやっと状況に変化の兆しが出てきたのだ。写真集コレクションをきっかけに、オリジナル・プリントへ興味を持つ人が確実に育っているのだと思う。

2010年ランキング速報
1.「The Americans」, Robert Frank
2.「The Contact Sheet」
3.「Uncommon Places: The Complete Works」, Stephen Shore
4.「Tim Walker Pictures」, Tim Walker
5.「William Eggleston’s Guide」, William Eggleston
6.「Photography After Frank」, Phillip Gefter
7.「400 Photographs」, Ansel Adams
8.「Topologies」, Edgar Matins
9.「Portraits」, Irving Penn
10.「New Topographics」

詳しい全体順位と解説は、近日中にアート・フォト・サイトで公開します。