掘り出し物のお宝が続出!幻のアンセル・アダムス(?)ネガの価値は?

 

中国人のアート熱の高まりはマスコミで多く報道されている通りで凄まじい。
特に清朝の陶器は昨年11月に56億もの高額で取引され話題になった。これは中国の美術品のオークション最高額とのこと。大きく報道された理由は、そのサイドストーリーによるところが大きい。実はこの陶器、価値を知らないある英国人の家で偶然発見された。ロンドン郊外の小さなオークションに出品され、高額落札されたのだ。もしこれが、大手のササビーズ、クリスティーズなどで取引されたものなら業界内での話題に終始しただろう。価値がないと思われていた陶器が思いがけない掘り出し物だったからマスコミで話題になった。「なんでも鑑定団」が長い人気を保っているのと同じような背景だ。アヘン戦争後中国の美術品は大量に英国に持ち出されたそうで上記の陶器はそれらの一部なのだろう。たぶんいま多くの英国の家庭が倉庫、納屋、屋根裏を調べていると思う。もしかしたら新たな掘り出し物が見つかるかもしれない。

 

今月になってこんどはササビーズのニューヨークで再び衝撃的な掘り出し物が見つかった。20世紀制作として、落札予想価格約10万円で出品されていた花瓶に約15億(!)というとんでもない値段がついた。複数の目利きが、陶器は実は清朝時代のものと判断したこと。7人による熾烈な競り合いになったようだ。

最近は、このような信じられないような掘り出し物のニュースが多い。まだ真偽のほどは確定していないが、英国ではノーザンプトンのガラクタ屋で僅か1万円ほどで購入された古い額についていた絵画がポール・セザンヌの初期作品ではないかといわれている。もし本物なら、6500万ドル(約55億円)の価値があるそうだ。

さて写真でこのような掘り出し物はあるだろうか?
実は昨年同じような出来事があったのだ。2010年7月に、カリフォルニアのガレージセールで約10年前に45ドルで買われたガラスプレート・ネガティブが1937年の火災で消失したと思われていたアンセル・アダムス作と認められたとの発表があった。専門家がその価値が2000万ドル(約170億円)と評価したのことだった。発見者リック・ノーシジアン(Rick Norsigian)はそれらを売却してビーチに家を買いたいと発言していた。彼は発見されたネガから制作されたプリントをアンセル・アダムスとしてウェブサイトで販売を開始する。これにアンセル・アダムス出版権財団が異議を申し立て裁判となる。
この一連の出来事にはドラマチックな紆余曲折がある。その後、鑑定した専門家の一人が、ネガはアンセル・アダムスではなくアマチュア写真家アール・ブルックス撮影であったと、間違いを認めるのだ。2011年の3月に裁判は結審。発見者は作品販売に関してアンセル・アダムスの名前を使わないことが合意された。
しかし、お互いに本物、偽物の主張を続けた上での和解ということのようだ。

この一連のマスコミの騒ぎにアート写真界はいたって冷静だった。なぜか?それは本当にアート作品として価値があるのは、作家が制作してサインをしたオリジナル・プリントだからだ。2000万ドル(約170億円)という評価の根拠はその発見物の価値ではない。もし本当にアンセル・アダムスのネガだった場合の、将来的な出版、ポスターやプリントの売り上げ予想から現在価値を導いたものなのだ。それゆえ、アンセル・アダムス作という表記が出来ないことはネガの現在価値に著しく影響を与えるだろう。
すなわち、仮にネガが本物であっても既に作家本人は亡くなっているから、それらから制作されたプリントはアート的価値はないのだ。ネガティブだけでは、インテリアのディスプレイ用の写真を制作するものとして役に立つだけ。実際アンセル・アダムス・ギャラリーはオリジナルのネガからプリントしたヨセミテ・エディションと呼ばれるエステートプリントをわずか約2万円で販売している。

アート写真の世界では、有名写真家のネガは資料的な価値しかない。価値があるのは本人が制作して、サインが入ったプリントなのだ。骨董店などで売っている古写真はどうかというと、写真家のブランドが確立していない人の撮影したプリントには古物としての価値しかない。海外でも無名写真家の19世紀や20世紀初頭の作品はわずか数百ドルだ。
また20世紀の中盤ころまでは写真は雑誌などの為に撮影されていた。たまに写真原稿が小規模オークションなどにでてくることがある。厳密にいえば、ヴィンテージ・プリントといえないことはない。しかし、それらの写真は注文仕事で撮影されたもの。つまり、アートで重要視される自己表現ではない場合が多い。だいたいサインも入っていない。それらは、写真集に収録されているなどの例外を除いて、有名写真家のプリントでも高額で取引されることは少ない。大手のオークションハウスは取り扱わない。

どうも写真では掘り出し物はあまり期待できないようだ。そういえば前記の「なんでも鑑定団」では、歴史的人物のポートレート以外の写真が鑑定に出されたことはないように記憶している。