アート写真市場の現状 長引きそうな心理的な影響

東日本大震災が起きて2カ月以上が経過した。アート写真の世界もやっと落ち着きを取り戻したようだ。現在は、ほとんどの業者が通常業務を行っている。しかし、来廊者数はまだ大震災前には戻ってない。ギャラリーでは、鑑賞目的の人が大きく減少している。特に有名作家以外は苦戦しているという。アート写真の主要顧客は中間層だ。まだ彼らのセンチメントは本格回復には程遠いのだ。

写真作品は、写真家寄付による販売イベントではよく売れているという。作品相場がある人とない人が、すべて均一価格で販売することには様々な意見があるだろう。今後はより市場性を考慮したオークション形式でのチャリティー販売もあるそうだ。同じチャリティーでも市場価格で販売して一部を寄付する形式だと動きは鈍いという。 要はチャリティーにより新たな需要が創出されるわけではなく、作品次第ということだ。

アート系の写真集の状況も厳しいようだ。洋書専門店での店頭売り上げはかなり苦戦しているという。5月の連休明けには代官山の専門店がクローズ。目利きのコレクターが経営していた地方の専門店も廃業したという。ネットでの売り上げは特に大震災後も大きく変わっていない。昨年から緩やかな売り上げ低下傾向が続いているが、特にショック的な売り上げ急減は発生していない。ただし円高をより享受できるネット購入の傾向が強まっている可能性がある。

ファッションやインテリア感覚で写真集や写真を買っていた人は、いまのところ様子見を決め込んでいるようだ。しかし、まったく売れなくなったわけではない。来廊者の減少ほどには、作品売り上げは落ちていない。写真が好きでコレクションしていた人は適正価格の気に入った作品があれば相変わらず買っている。最近は80円に近い円高なので、海外作家の作品や洋書の動きは悪くない。
全体をまとめると、もともと不況だったのが大震災をきっかけに状況がやや悪化した感じだろうか。

その他、ワークショップ関連は特に大震災の影響は感じられない。アート写真関連講座の参加者やポートフォリオ・レビューの依頼も減っていない。復興時にはアーティストの役割が重要になる。日本ではもともと新しい生き方の提示が求められていた。今後、アーティスト志向の人の動向がより注目されるだろう。
写真家の作品発表意欲も特に大きく落ち込んでいないようだ。運営のお手伝いをしている広尾のIPCのレンタル予約も、節電のある夏場を除いて、 秋以降はかなり入ってきている。写真展開催を考えている人は出遅れないようにしてほしい。

今後のギャラリーの課題は、15%節電がいわれる夏場の営業をどうするかだ。マスコミ等ではエアコン設定温度28度といわれている。これだと多数のスポットライトを使用するギャラリーでは来廊者に快適に作品を見てもらうのは困難だと思う。今年の夏は長期休廊というギャラリーも出てくるだろう。
今はいったん平時に戻った気がするが、夏の節電、長引く原発事故などがあるかぎり心理的な影響は続きそうだ。もしかしたら、このような不透明な状況が定常化するかもしれない。長期夏休みで新しい時代をサバイブする中長期戦略を考えるのも必要かもしれない。