アート・フォト・サイトはネットでの売り上げをベースに写真集人気ランキングを毎年発表している。2011年の速報値が出たので概要を紹介します。
一番売れたのは、ロバート・フランクの歴史的名著「アメリカ人」の刊行50周年記念エディション(2008年、スタイドル社刊)。なんと4年連続の1位獲得となった。
私は個人的に、レアブック・コレクションに関するレクチャー”フォトブックの世界”を昨年行った。その中で「アメリカ人」に掲載されている全83点を写真の見せ方やコンセプト面から解説した。自分自身でも何で歴史的に高く評価されるかが改めて理解できた。連続トップにも納得し素直に嬉しく感じる。
2位はこれも定番中の定番、スティーブン・ショアの「Uncommon Places: The Complete Works」。2004年に刊行されてからずっと売れ続けている。3位の「Tim Walker Pictures」も人気が全く衰えないベストセラーだ。
毎週、洋書写真集を新刊中心に幅広くチェックし、お薦めの1冊を紹介している。ここ数年を振り返っての印象は、特に際立った注目本やベストセラーがなかったことだ。昨年のランキングもそのような状況が見事に反映されていた。上位はほとんどが既刊本で、2011年刊行ではマイケル・デウィックの「Habana Libre」が5位、ティム・ウォーカーの「The Lost Explorer」が10位だった。また厳密な新刊ではないが、歴史的なレアブックを本体の複写形式で蘇らせているブック・オン・ブックス・シリーズから、アレキセイ・ブロドビッチの「Ballet」が8位にランクインしていた。
全体的な印象は、売れているのはヘルムート・ニュートン、ジャンルー・シーフ、マイケル・デウィック、ティム・ウォーカー、ギイ・ブルダンなどファッション系と、ロバート・フランク、スティーブン・ショアー、ウィリアム・エグルストンなどの巨匠写真家の定番作品集だ。定番が売れる傾向はここ数年変わらない。背景に長引く不況があることはまちがいない。 限られた予算内でハズレのリスクを避けたいと消費者が考えているからだ。しかし、それだけが原因でないと思う。最近はデジタルカメラの普及で写真人口は増加している。その中には、長期的に作家を目指す人も確実に増えているのだ。写真は売れないが、売りたい人は増えている状況がある。アート写真のワークショップは盛況だ。作家を志向する人にとって過去の先人たちの名作探求は必要不可欠の行為。不況でも定番本が売れているのにはこのような背景もあると思う。
巨匠系はランキング外でも、アンドレ・ケルテス、リー・フリードランダー、ジョエル・マイヤービッツ、アンリ・カルチェ=ブレッソンらの複数タイトルが売れている。
現代アート系は、人気が高いアンドレアス・グルスキー以外は勢いがなくなっている。作家志望者に制作にコストのかかる現代アート系写真はあまり参考にならないのだろう。
全体の売り上げは前年比約22%減だった。冊数ベースでは約18%減。年間を通して4円程度の円高を考慮しても、販売単価は引き続き低下している。非常時において、写真集はアート作品同様に不要不急の最たる商品だ。実際に、3.11東日本大震災からしばらくは売り上げが急減した。年後半にかけて回復したものの、震災が年間売り上げに大きく影響したといえる。写真集市場は、景気回復の遅れと、ヒット商品の不在、そして大震災の心理的影響が相まり規模縮小傾向に歯止めがかかっていない状況といえるだろう。
2011年ランキング速報
1.「The Americans」, Robert Frank
2.「Uncommon Places: The Complete Works」, Stephen Shore
3.「Tim Walker Pictures」, Tim Walker
4.「Stern Fotografie」, Helmut Newton
5.「Habana Libre」, Michael Dweck
6.「William Eggleston’s Guide」, William Eggleston
7.「40 years of photography」, Jeanloup Sieff
8.「Ballet」, Alexey Brodvitch (Book on Books)
9.「Photography After Frank」, Phillip Gefter
10.「The Lost Explorer」 Tim Walker など
詳しい全体順位と解説は、近日中にアート・フォト・サイトで公開します。