2012年秋NYアート写真オークション結果 平均的売上げだが高額セクターの相場調整の気配

最近のアート市場では一点もの価値がより高まっている。写真を含む複数枚制作されるアート作品市場が横ばいの一方で歴史に残る美術館収蔵クラスの有名作家による絵画や彫刻は記録的な値段で落札されている。

11月ニューヨークで開催された戦後コンテンポラリー作品のオークションは記録的な売上高だった。目玉作品が出品されるイーブニングセールでは、クリスティーズで412,253,100ドル(約329億円)、ササビーズでは375,205,000ドル(約300億円)もの総売上を達成している。
高額落札も続出。ササビーズではマーク・ロスコの“No.1 (Royal Red and Blue),1954”が$75,122,500(約60億円) 。クリスティーズではアンディー・ウォーホールの“Statue of Liberty,1962”が$43,762,500(約35億円) で落札されている。

マーク・ロスコ、ジャクソン・ポロック・ウィレム・デ・クーニング、アンディー・ウォーホール、ゲハルト・リヒター、フランシス・ベーコンなど、高いクオリティーで市場に新鮮な作品が高額落札の上位を独占している。
この分野のデイ・セールにも写真作品が出品されているが、アーティストが写真で表現していると考えられておりエディション数も少なく他のアート作品と同列に取り扱われている。杉本博司などは順調に落札されている。ただ一つ気になったのが、15万ドルを超える高額落札予想価格がついたシンディー・シャーマンの不落札が散見されたこと。いままでにやや相場が上がり過ぎた感じがする。アンドレアス・グルスキーの相場も同様な調整の気配を感じた。

さて、2012年秋のニューヨーク・アート写真オークション。以前、11月6日のブログでは趣向を変えて高額落札予想で不落札作品を紹介して市場動向を分析してみた。(前回の解説はこちらをどうぞ)今回はいつものように高額落札作品を紹介しておこう。

主要ハウスの売り上げは、ササビーズ約448万ドル(約3.59億円)落札率約65%、クリスティーズ約779万ドル(約6.23億円)落札率約63%、フィリップス(Phillips de Pury & Company)約470万ドル(約3.76億円)落札率約76%、 だった。ちなみに写真とレアブックを取り扱うスワンは、エドワード・カーティス”The North American Indian”のコンプリート・セットが144万ドルの高額で落札されたことから、総売り上げ約271万ドル(約2.16億円)と最高売上記録を達成、落札率は約63%だった。
売り上げはササビーズ、クリスティーズが微増、フィリップスが20%強の減少、スワンは約倍増。トータルではスワンが貢献したことで200万ドル弱の上昇だった。しかし、落札率は各社とも春より減少している。

シーズンは10月2日のフィリップス(Phillips de Pury & Company)からスタートした。 ここが得意の現代アート系が好調。最高額の落札はトーマス・デマンドの”Wand/ Mural,1999″で、約24万ドル(約1940万円)だった。ピーター・ベアードの、”Happy Easter/ Alia Bay Croc Hatchery, Lake Rudolf for Eyelids of Morning,1965″は落札予想価格は12万~18万ドル(約960万~1440万円)のところ19.55万ドル(約1564万円)で第2位。同じくベアードの2枚組作品、”Cheetah cubs orphaned at Meiga nr.Nyeri for The End of the Game, 1968 and Hunting Cheetah on the Taru Desert, Kenya, June, 1960″も約11万ドル(約884万円)で第5位だった。
カタログ表紙のスティーブン・マイゼルによる187 x 147.5 cmの超巨大の1点もの作品、”Walking in Paris, Linda Evangelista & Kristen McMenamy, Vogue, October, 1992″は、8.65万ドル(約692万円)だった。
写真雑誌カメラワークの完全セットは約12万ドル(約980万円)と予想の下限だったが第3位となった。

ササビーズは10月3日に開催。
第1位はカタログ表紙作品のハンス・ベルメール”Self Portrait with die Puppe,1934″。これは作家本人が写ったドール・シリーズの1枚。美術館での展示など輝かしい来歴を持つ1枚。
落札予想価格は10万~15万ドル(約800万~1200万円)をはるかに超えて、約37.4万ドル(約2996万円)で落札。同じく、チャールス・レンダー・ウィード(Charles leander Weed)の19世紀制作の30点セット”Yosemite Valley and Big Tree Views, 1864″も同額で落札されている。
3位はシンディー・シャーマンの2作品。”Untitled Film Still #83, 1980″と、”Untitled #19, 1978″がともに約18.2万ドル(約1460万円)で落札されている。ピーター・ベアードの1点もの作品”Rothchild’s Giraffes from The Uganda Line”も同額だった。
6位には、イモージン・カニンガムのクラシックなヌード作品”Nudes (Two Sisters),1928″が約11万ドル(約884万円)がはいった。

クリスティーズは10月4日から5日にかけて、プライベート・コレクター所有のリチャード・アヴェドン作品28点の単独セールと、複数委託者の約347点のオークションを開催。今春の売上トップだったクリスティーズは出品数で今秋も他社をリードしている。
断トツの1位はカタログ表紙のピーター・ベアード作品”Orphan Cheetah Triptych, 1968″。127 X 248.9cmサイズの中に3枚のチータの写真が貼られ、ヘビの皮などで様々なコラージュがなされている。激しい競り合いの末、落札予想価格15万ドルを遥かに超える66.2万ドル(約5300万円)で落札された。これは、もちろんベアードのオークション新記録、今シーズンの最高額でもあった。
リチャード・アヴェドン・セールの2点が同額で第2位。彼の代表作”Evening dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, August 1955″。今秋出品されたのは記録上最も初期にプリントされた極めて貴重な作品。20X24″の大判サイズの”Brigitte Bardot, 1959″とともに、26.6万ドル(約2132万円)で落札。
第4位はヘルムート・ニュートンのパノラマ作品、”Panoramic Nude with Revolver,Como, Italy,1989″。24.2万ドル(約1940万円)だった。
5位と6位はこれもともにアヴェドン・セールから。”Stephanie Seymour, model,New York City, May 9, 1992″が、23万ドル(約1844万円)。69点のポートフォリオ”The Family,1976″
が、20.6万ドル(約1652万ドル)だった。
7位はアーヴィング・ペンの”Black and White Vogue Cover, 1950″。これは1976年にプリントされた貴重なプラチナ・プリント。予想落札価格以下だったが、19.4万ドル(約1556万円)で落札された。

2010年春以降は主要3社の総売り上げは1600万ドルから1900万ドル台の範囲内に落ち着いている。今回のオークションもそのレンジ内に収まる結果だった。しかし、以前指摘したように高額落札が見込まれていた多くの作品が売れなかった。いままでは、好調なトップエンドのアート作品の高額落札に引きずられ、写真分野でも貴重作品に対するオークションハウスの落札予想価格設定は強気だった。 今秋の傾向は絵画などの本当に貴重作品が並ぶ超トッ
プエンドの相場は金余りの影響で強いものの、それ以下については相場の調整が始まってきた気配を感じた。希少性が劣る写真作品はその影響を受けている印象だ。今後は、超トップエンドの活況がいつまで続くかが注目だろう。バブルでないことを祈るばかりだ。