森山大道、荒木経惟、杉本博司 過去5年間のオークション結果を分析する

最近、アート写真のオークション結果の分析を行う機会があった。
せっかくのなので日本人写真家で世界的に知名度が高い、森山大道(1938-)、荒木経惟(1940-)、杉本博司(1948-)の2008年~2012年までの過去5年の動きを調べてみた。データは、”GORDON’S Blouin Art Sales Indes”を参照している。

アート写真市場での売上高、落札価格の直近のピークは2008年。その後リーマンショックで2009年に市場規模と相場は大きく落ち込み、ここ数年はやっと2000年代前半のレベルまで戻ってきた。
また2008年は「Paris Photo」で日本が招待国となった年だ。ここで、日本ではエディションや販売価格の管理方法、ヴィンテージ・プリントの理解が欧米とは違うことが明らかになっている。その後の日本人写真家の、特に古い時代に制作された写真の相場に多少影響を与えていると思う。

3人の日本人写真家の共通点は、経済は回復しているものの出品数の減少傾向が続いていることだ。2008年までの市場拡大時には欧米コレクターが多文化主義の視点から非西洋作家の物色を積極的に行っていた。日本人写真家もそのブームの恩恵を与った。金額的にも、森山と杉本の2008年の最高値はそのブームで発生したバブルの影響だった可能性が高い。
出品数減少は、その後の景気悪化により起きた原点回帰の流れがまだ続いているからだろう。またオークションハウスが不落札作の次回オークションへの出品に消極的なことも影響していると思う。

個別作家をみてみると、荒木は出品数は減少しているものの、最高落札価格は上昇、不落札率も決して低いとは言えないが安定している。2013年5月8日にロンドンのフィリップスで開催された”PHOTOGRAPHS”オークションでは、彼の77点の作品が一括で110,500ポンド(@150、約1675万円)で落札されている。複数作品とはいえ、荒木作品のオークション・レコードとなった。彼の市場でのポジションは確立されていることは明らかだろう。しかし2012年の落札作品のうち約95%が1万ドル以下。また多作な作家であることからイメージの絵柄によっては市場性がないものもあるようだ。

杉本はリーマンショック後の相場下落による落札予想価格の調整がうまくいった模様。2012年は出品数は低下しているが、これはブームの陰りではなく中心市場が”Photographs”から出品数が絞り込まれる”Contemporary Art”分野へよりシフトしてきたからではないだろうか。実際に不落札率、最高落札額ともにずっと安定している。
2012年には高額セクターとなる5万ドルを超える落札が14件もある。代表作の”Seascapes”、”Theater”は美術館クラスの作品として資産価値が市場で十分に認識されていると判断してよいだろう。

森山は、出品数、最高落札価格ともにあまり勢いがない。2012年の68%という高い不落札はやや気になるところだ。ロンドンのテート・モダンで2013年まで開催された“William Klein + Daido Moriyama”展の市場への影響を見極めたいと思う。

オークションで販売されることの意味を確認しておこう。
出品作はかつてギャラリーの店頭で販売されたものだ。同時期に同じように複数作家の膨大な数の作品が売られていたはず。その後、継続して作品を作り続け、熾烈な生き残り戦争に勝ち残った作家の作品がオークションに出品されるのだ。それは作家にとって一種のステイタスでもある。作品の資産価値が認められたことなので、最初にギャラリー店頭で売られた時よりも価格は高額になる。 しかし、どんな高額で落札されてもいったん過去に売買されているので、作家への分け前はない。しかしオークションでの高額落札がギャラリー店頭価格の上昇を招くので、間接的なメリットはある。

作家の評価には様々な基準がある。市場で付いた値段だけで決まるわけではない。しかし、世界的に評価されるためには作品の資産価値が客観的に認められることも必要なのだ。