「TOKYO PHOTO 2013」レビュー
鑑賞から購入への過渡期が続く

2013年で第5回を迎えた東京フォト。今年から会場を芝の増上寺に移し、9月27日~30日まで行われた。26日夜の内覧会から非常に多くの来場者があり、実際に作品をじっくり見るのが難しいほどの混雑だった。内覧会は一般公開前にVIPコレクターにいち早く作品を見せるために設けられる。しかし日本では写真コレクターはほとんどいないので、良い作品を競って購入することなどない。実質は内覧会がグランド・オープニングのパーティーになった感じだ。

今年の会場となった増上寺は施設自体がかなり古かった。空調設備が悪く、スポットライトなし、床には絨毯ではなくタイル貼り。会場内の清掃、来場者の振動で壁が揺れるなどの問題点も散見された。しかし、日本の写真市場はいまだ未発達。コストのかかる豪華な設備の場所よりも身の程にあった場所で継続して開催するのが現実的な対応だと思う。

今回は外国からの参加が約半数を占め、海外15、国内17の出展者(ともに出版社を含む)だった。昨年同様に国際的な雰囲気の強いフェアで、外国人来場者数も非常に多かった。
来場者数に興味があったので、今回はブースに来た人をカウントしてみた。複数回訪れる人や、接客中のカウント漏れも多数あるので正確ではないが、大体の目安になると思う。カウント数は、金曜が約1600名、土曜日が約1600名、日曜が約2000名、月曜が約1100名。週末はブース内の有名作品前では人の渋滞が起きるほどの盛況だった。
しかし来場者は多いもののほとんどが観賞目的なのだ。フェアへの参加スタンスは海外ギャラリーと国内ギャラリーは全く違う。海外組は、専業ギャラリーで単純にお金儲けのビジネス目的で参加する。写真市場がほとんど存在しないことを知る国内組は広告宣伝を主目的で参加している。実際ギャラリー以外の本業を持つところが多いので、フェアで売れなくても困らないのだ。
したがって海外ギャラリーは売り上げが悪いと二度と帰ってこない。昨年は海外15、国内23の出展者(ともに出版社を含む)だった。そのうち今年も参加したのが海外5出展者、国内10出展者だった。昨年売り上げが良かった海外ギャラリーが今年も参加している。非常にわかりやすい構図なのだ。
日本は世界でも有数の経済大国。アート写真の市場があるはずだという幻想を海外出展者はいだくのだろう。フェアでの海外ギャラリーの定着率の悪さは韓国、台湾でも同じだと聞いている。それにしても、これだけのギャラリーを世界中から誘致した主催者の営業努力は見事だと思う。しかし、売れない状態が続くと海外参加者がジリ貧になっていくだろう。 そうなると国内組も参加に消極的になる。フェアが継続的に行われうかどうかは国内市場が拡大するかにかかっているのだ。

私どもは中長期的視野に立って参加している。ギャラリーへの来場者はアマチュア写真家やカメラ愛好家が非常に多い。しかし、フェアへの来場者は美術館の展覧会に鑑賞に出かけるようなタイプが多い。普段はギャラリーに来ないような人たちが、少しばかりオシャレしてフォト・フェアというイベントを楽しんでいるのだ。展覧会との大きな違いは、作品に値段がついていることだろう。日本では一般的に写真はアートとして認められていないが、このような場では写真もアート作品として流通していることが実感できるだろう。実際、誰でも知っている有名写真がお金さえ出せば買えることに驚いている人も多数いた。そのような経験の積み重ねの先に写真をアートとして認め、買ってみようという意識が芽生えるのだと思う。また数はまだ少ないものの、なにか作品を買おうというスタンスで会場を回っている人も存在する。ギャラリーとしてそのような新規の顧客との出会いは非常に重要だ。

大体のギャラリーが資産価値の既にあるセカンダリー市場で流通している作品(だいたい高価格)と、ギャラリーの店頭で取り扱うプライマリー作品(低価格)との半々の展示をおこなっている。セカンダリーの作品の展示がないのは歴史の浅いギャラリーとなる。以下に参加ギャラリーの中から気になった作品をピックアップしてみよう。

・TOMIO KOYAMA GALLERY
ライアン・マッキンレイの抽象的なヌードのモノクロ小作品は多数売れていた。写真集からのエディション100作品は20万円以下で知名度の高い作家にしてはリーズナブルだ。

・CAMERA WORK
ハーブ・リッツ、エドワード・ウェストン、リチャード・アヴェドン、マーテン・ショラーなど。

・GALERIE CAMERA OBSCURA
サラ・ムーン、ソウル・ライター、マイケル・ケンナ、ペンティ・サマラッティ、ベルナール・プロッソなど。

・GALLRIE ESTHER WOERDEHOFF
ルネ・ブリ、エドワール・ブーバなど。

・TAKA ISHII GALLERY PHOTOGRAPHY / FILM
アマナ・サルトのディラーである同ギャラリーはプラチナプリントのイモージェン・カニンカム、エリオット・アーウィットを展示。その他、ロバート・メープルソープと荒木経惟の花作品を展示。

・AKIO NAGASAWA/POLKA GALLERY
ウィリアム・クラインのファッション、ニューヨークからの代表作を多数展示。ホールCでは写真集「東京」の作品が27点が展示してあった。同書の新版企画を進めているとのことだ。

・M+B GALLERY
ジャン・バプティスト・モンディーノのポートレート作品を展示。価格はエディション9で、約43~72万円。

・PICTURE PHOTO SPACE
リチャード・アヴェドン、リー・フリードランダー、ベッヒャー夫妻、植田正治、石元泰博、奈良原一行など。

・PHOTO GALLERY INTERNATIONAL
ハリー・キャラハン、アーロン・シスキン、三好耕三、川田喜久治、今道子など。日本を代表する写真ギャラリーらしい堂々とした展示だった。

・HERDON CONTEMPORARY
日本市場を意識してか、杉本博司の建築、荒木経惟のヌードなど。

・PHOTO VIVIENE
ビル・ブランドのヴィンテージのヌード作品、エドワード・スタイケンなど。

今年は知名度の高い作家の高価な写真というよりも、地名度が低い作家のリーズナブルな価格の現代美術系、インテリア・アート系が売れていた印象が強かった。景気は昨年よりも好転しているのに高額作品が売れない理由は何だろう。為替レートが1年前と比べて大きく円安に振れている。円貨での価格上昇が影響している可能性は高いだろう。昨年、かなりの金額を売り上げていた海外ギャラリーも同じような作家の品揃えで今年は苦戦していた。しかし、展示作品の内容は同じ作家でも昨年の方がクオリティーが高かった。日本のコレクターは単に作家のブランドだけでなく、本当に良い作品を選んでいるのだと思う。

東京フォトは混雑していて、本当に作品を見たい人に十分に在庫を見せられなかったと思う。ブリッツの取り扱い作家のエッセンスはフェアの展示で見せられたと思う。もし好きなタイプの作家が見つかって、もっと多くの作品を見たい人はぜひ下目黒のギャラリーに来て欲しい。事前に連絡をもらえば、興味がある作品を用意しておきます!