秋のニューヨーク・アート写真セールが開催 最新オークション・レビュー

2013年秋のニューヨーク・アート写真オークションは売上高、落札率ともに春よりも低迷。大手3社の総売り上げは前回比約45%も減少した。一番大きな要因は高額落札が大きく減少したこと。今春は100万ドル越えのマン・レイなど、50万ドルを超える作品が5点あった。今秋の最高額はアルフレッド・スティーグリッツの $557,000(約5570万円)にとどまった。今回は春の売り上げが非常に大きく上昇したことの調整の面もあった思われる。市場環境が同じ場合、年間の市場取引額はそんなに変わらない。オークション会社が春の実績を踏まえてあえて今秋は供給を絞った面もあるのだろう。

開催されたオークションも、クリスティーズがピーター・ベアード28点の小規模単独オークションを開催した他は複数委託者オークションが中心となった。実際に出品数は約13%減少している。オークションハウスのコメントは、「貴重作品には強い需要が見られる」と強気だが、決して先行きを楽観していない姿勢が感じられる。
しかし春秋合計の2013年の大手3社の年間総売上は約4782万ドル(約47.8億円)となり、2012年を約40%も上回っている。これはほぼリーマンショック前の2005年の水準と同レベル。中央銀行の量的緩和策の継続で株価のNYダウが2012年後半の13000ドルから15000ドル台まで回復してきたことが素直に市場に反映されてきたのだと思う。私の経験則によるとNYダウの推移とオークションの取引総額はかなり方向性が一致するのだ。

最近、市場で言われているのがモダンプリントの中での差別化だ。貴重なヴィンテージプリントが市場に出てくることが減っており、物色の対象が撮影時に比較的近いモダンプリントにも広がってきたということだ。
今秋もヴィンテージとは言えないが古い時代にプリントされたアンセル・アダムスやヘルムート・ニュートンや、ダイアン・アーバスのエステート・プリントの高額落札が散見された。かつては撮影から1年が経過したヴィンテージと、それ以外のモダンプリントとに単純に分けられていた。しかし、同じ銀塩のモダンプリントでも、ペーパーの質が時代ごとに変化しており、古い方が銀の含有量が多いことがある。市場の歴史が積み重なったことで、これからは撮影時から何年経過したプリントなのかが作品評価時により考慮されるようになると思われる。このようにプリント自体の価値よりも、作家性を重んじるようになってきたのは間違いなく現代アート市場の影響だろう。

今秋の各社の高額落札を紹介しよう。
ササビーズは230点のオークションを実施。落札率は75%と平均的な結果だった。最高額はアルフレッド・スティーグリッツのオキーフのパラディウム・プリントによるヌード作品”GEORGIA O’KEEFFE: A PORTRAIT-TORSO、1918-19″だった。
落札予想価格は30万~50万ドル(約3000~5000万円)のところ $557,000(約5570万円)で落札された。これは現存する3作品のうち1点で残りは美術館に収蔵されている逸品。ロダンなどがブロンズ作品で行ったヌードでの美的探求を写真で行っていると評価されている。本作が今秋の最高額の落札だった。
アンセル・アダムスの”THE TETONS AND SNAKE RIVER, GRAND TETON NATIONAL PARK, WYOMING,1942″は100.3X130.8 cmの大判作品。これは50~60年代にプリントされたモダンプリント。落札予想価格は25万~35万ドル(約2500~3500万円)を上回る $401,000.(約4010万円)で落札されている。
カタログの表紙を飾る、ラースロ・モホリ=ナジの40X30.2cmの大判フォトグラム作品”Fotogramm”は残念ながら不落札。しかし同じく小さい28.3X21cmサイズの”Fotogramm(Hand)”は落札予想価格20万~30万ドル(約2000~3000万円)の範囲内に収まる $245,000.(約2450万円)で落札されている。

クリスティーズが行ったピーター・ベアードの単独オークション”Into Africa: Photographs by Peter Beard”は、28点中24点が落札された。彼の作品はその他のハウスでも数多く出品されていることから、コレクターも慎重に作品を選んでいるようだ。
注目されていた約160X220cmの大作”Orphaned Cheetah Cubs, Mweiga, Kenya, 1968″は、落札予想価格は15万~25万ドル(約1500~2500万円)。これは1998年制作の1点物作品で、 なんとシーズン第2位の$449,000.(約4449万円)で落札された。
しかし高額落札が期待されていたもう1点の巨大作品”Tsavo Tusker, on the Athi-Tiva River, 1965″は不落札だった。

クリスティーズの243点に及ぶ複数委託者のオークション。春よりも総売り上げは約60%ほど低下、落札率も約84%から約65%と大手では一番大きな減少だった。注目作のウィリアム・エグルストンの写真集カヴァーに掲載されている”Memphis (Tricycle), c. 1970″。これは1980年に制作されたエディション20点のダイ・トランスファープリント。落札予想価格は25万~35万ドル(約2500~3500万円)のところ$293,000(約2930万円)で落札された。
それに続く高額落札は、アーヴィング・ペンによるジャズの帝王マイルズ・デイヴィスの手を撮影した”The Hand of Miles Davis (New York), July 1, 1986″。これは1986年にプリントされた作品で、落札予想価格は7万~8万ドル(約700~800万円)のところなんと驚きの$245,000(約2450万円)で落札された。
もう一つのサプライズはフランチェスコ・ウッドマンの”Self Portrait,1979″。なんと落札予想価格上限の3.5万ドル(約350万円)を大きく超える$173,000(約1730万円)で落札。
一方で、高額額落札が期待されたエドワード・ウェストンの抽象的ヌード作品”Nude, 1925″、ラースロ・モホリ=ナジのフォトグラム”Untitled, Dessau, 1926″、100万ドル越えの期待があったエドワード・カーティスの貴重な全作揃いのポートフォリオ”The North American Indian, Portfolios 1-20; and Text Volumes 1-20″はいずれも不落札だった。カタログ表紙のアーウイン・ブルメンフェルドの”New York、c.1948″(上記掲載図版)は落札予想範囲内の$50,000(約500万円)で落札されている。

フィリップス(Phillips de Pury & Company)が行った264点のオークションは春の85%の落札率より低下して平均的な70%だった。最高額の入札は、リチャード・アヴェドンのローリング・ストーン誌に掲載された69点のポートフォリオ”The Family,1976″。落札予想価格20万~30万ドル(約2000~3000万円のところ$341,000(約3410万円)で落札。続く高額落札はウィリアム・エグルストンのダイトランスファー11点からなる”Graceland 1984″ のポートフォリオ。落札予想価格10万~15万ドル(約1000~1500万円のところ$197,000(約1970万円)で落札された。
ヘルムート・ニュートンの大判作品”Parlour games, Munich, 1992″とピーター・ベアードの”Giraffes in Mirage on the Taru Desert, Kenya, June 1960″がともに$173,000(約1730万円)で落札。
サプライズはダイアン・アーバスの”King and Queen of a senior citizens’ dance,N.Y.C., 1970″。これはドーン・アーバスによるサインの財団スタンプ付きのエステート・プリントだが、 落札予想価格上限8万ドル(約800万円)の2倍に近い$161,000(約1610万円)で落札された。ロバート・フランクの”From the bus, 1958″も高値が付いた。落札予想価格上限6万ドル(約600万円)をはるかにに超える$102,500(約1025万円)で落札。

今後のアート写真市場の関心は、10月開催のクリスティーズ・ロンドン、11月開催のササビーズ・パリ、フィリップス・ロンドンに移っていく。

(為替レートは1ドル100円で換算)