INFINITY VS ~僕らと、たった一人のモナ~
パルコミュージアム渋谷

松岡モナは僅か15歳でミラノコレクションにデビューした若手ファッションモデル。本展は、広告とファッション分野で活躍中の日本人写真家9名が様々なセッティングで彼女を撮影した作品を展示しているグループ展。

展示を見て「Kate」(1995年、Pavilion刊)というケイト・モスをフィーチャーした写真集を思い出した。彼女は長年にわたり第一線で活躍しているスーパーモデル。この本は、複数のファッション写真家が撮影したケイト・モスの写真をコレクションしたもの。その後しばらくしてから彼女がスーパーモデルとして世界中で大活躍するようになり、本書は古書市場で高額で売買されるようになる。
松岡モナはケイト・モス的な要素をもったモデルだと感じた。ケイト・モスが評価されたのは、彼女がデザイナーやフォトグラファーのディレクションによりまるで別人かのように様々な表情やスタイルをみせることだろう。 20世紀後半以降は人々の価値観が多様化したことで、強い個性がないことが個性になったのだ。90年代前半の各自があらゆる面で超個性的だったスーパーモデル・ブームとは状況が大きく変化した。いまや見る人が自分の理想像を反映させる対象になりえるモデルの人気が高いのだ。個性的だと見る側の好き嫌いが明確に出てしまう。
今回の展示の中には、本当に様々な顔を持つ松岡モナがいた。とても一人のモデルだとは思えなかった。オーディエンスは間違いなく、自分好みの彼女を展示作品の中から見つけられたのではないか。ほとんどの写真が、彼女の写真というよりも見事に写真家自身の作品になっていた。
ちなみにケイト・モスのデビューも同じく15歳だった。松岡モナも将来的にぜひケイト・モスのようになって欲しい。

個別の写真家の作品に触れておこう。
小林幹幸は彼の得意とするエロがない透明感のあるスクールガールの世界を表現していた。
鶴田直樹はいつものエンリケ・バドレスクを思い起こさせるカラーながら、サラ・ムーンの色見とスタイリングを感じさせる斬新なアイデアを展開、個別作品を見せるスタンスが強く感じられた。
北島明は、4点のグリッド状作品、2点の組作品で相変わらずややシュールでアバンギャルドな世界を表現していた。
半沢健は、様々なサイズのシート作品を壁面にインスタレーション。松岡モナを自分の日常世界に引き込もうとしていた。ウォルフギャング・ティルマンズを思い起こさせる展示アプローチだ。
設楽茂男は画家のように彼女自身の顔をキャンバスに、カラフルなペインティングを施したポートレート作品。
Rrosemaryは濃厚なモノクロームで松岡モナのフォルムを抽象的に表現。モダンとクラシックが共存していた。
舞山秀一は東京のストリートを背景にした、ドキュメント的作品だった。カラー、モノクロを混在させて小作品をグリッド状に並べた作品は映画のようにイメージが連続する効果が感じられた。見る側によって流れが変わっていく印象だ。
中村和孝は1点物のポラロイド作品の展示。 ニック・ナイトやパオロ・ロベルシの雰囲気を感じられる。

インフィニティーの人たちはアート性を目指していると公言しない点が清々しい。 変にエゴを押しつけるアート風の作品よりもはるかに親しみが感じやすい。世界的なモデルを日本の最先端の写真家が撮影した写真はカッコいいに決まっている。都会で暮らす現代人にはアート写真といわれる小難しい写真よりもはるかにリアリティーを感じるはずだ。
しかしこのような写真は広告写真の場合が多くなかなか販売はされていない。案外、カッコイイ写真がみれて買える機会はないのだ。
ちなみにサロンスぺースで展示販売されている8X10″の作品はフレーム込で21,000円。その他の作品も3万円くらいから売られている。
これらの写真ははたして将来的に値段が上がるのかという突っ込みが入るかもしれない。それは見る人、買う人の目利き次第だといっておきたい。もし将来的に、今回のどれかの展示作品が21世紀東京の時代の気分や雰囲気が反映されていると評価されれば、それはアートとしてのファッション写真になるということだ。また、松岡モナがケイト・モスのような有名モデルになれば、15歳の彼女をとらえた作品の価値は間違いなく上がるだろう。
まずは自分の目利きを試す意味合いで、単純に今の自分の気分に合った写真を選んでみてはどうだろうか。

『フジフイルム・フォトコレクション』展 日本の写真史を飾った写真家の「私の1枚」

富士フイルム株式会社のフィルム事業の規模は2000年がピークで、当時は写真関連事業が営業利益の約60%を占めていたそうだ。それが僅か10年後の2011年には、なんと売り上げに占める比率が僅か1%にも満たなくなったそうだ。ちなみに競合していたコダックは2012年に経営破たんしている。写真の急激なデジタル化を象徴した驚くべき数字の推移だろう。
もはや中身は写真関連企業とはいえない富士フイルム。このたび同社は創立80周年を記念して、日本の写真史を飾る写真家約100名を選び出し各1点を『フジフイルム・フォトコレクション』として収集した。そのコレクションを披露する展示が東京ミッドタウンのフジフイルム スクエアで5日(水)まで開催中だ。2014年2月21日~2014年3月5日には大阪の富士フイルムフォトサロンに巡回する。
プレスリリースによると、「約150年前の幕末に写真術が日本に渡来してから銀塩写真が最盛期を迎えた20世紀の間に活躍し、高い技術と感性で国内外で高く評価を受けた写真家約100名の「この1 枚!」という代表的作品を、優れた技術で新たに制作された高画質の銀塩プリントで後世に残すものです。」とのこと。19世紀から1950年代生まれまでの写真家が選ばれている。
それらは、フェリーチェ・ベアド、下岡蓮杖、上野彦馬、内田九一、福原信三、田淵行男、木村伊兵衛、濱谷浩、土門拳、林忠彦、秋山庄太郎、植田正治、石元泰博、長野重一、芳賀日出男、奈良原一高、東松照明、細江英公、前田真三、操上和美、立木義浩、篠山紀信など。各作家1点だが、歴史を網羅するこれだけの写真家の作品がまとめて鑑賞できる機会はあまりないだろう。

コレクションの監修は写真ディーラーを長年務めている山崎信氏が担当している。写真家の知名度というよりも写真家の作家性が重視されていることが興味深い。商業写真、ファッション写真の分野で活躍した人などを含む、日本の写真史では必ずしも評価されていない人たちも選出されている。
アートとして日本写真の歴史では、いまだに書かれていない分野が数多くある。本コレクション展がきっかけでそれらが再評価されることを願いたい。

同時刊行された約220ページにも及ぶカタログは分厚く非常に豪華。印刷も高品位だし、作品解説、作家情報など、資料も満載されている。将来的に、この本が日本人写真家の作品コレクションにおけるレファレンスになるのではないか。販売価格は2500円と非常にリーズナブル。資料として買っておきたい1冊だ。