アート写真の市場が存在するという意味 国内市場のいま

アートとして販売されている写真の市場は突然うまれるのではない。欧米市場は長い歴史の積み重ねにより現在の姿に成長してきた。最初の写真ギャラリーが生まれた20世紀の初めまでさかのぼる。
まず写真家が継続して作品を制作することからはじまる。それらの中の優れた写真をコレクターや美術館がコレクションするようになる。その後、売買規模の拡大からアート写真のマーケットが成立し、商売として写真を扱う商業ギャラリーが増加する。ギャラリーで売られた作品の中から資産価値が高まったものが生まれ、それらを定常的に扱うオークションハウスが参加し、 さらにギャラリーやディーラーが販売機会を拡大する目的でフォト・フェアを行うようになった。

資産価値を本源的に持つ作品群が生まれると若手や新人市場が活性化する。それらの中から同じような成功例が生まれると市場参加者が考えるようになるからだ。 株式市場で将来上場するかもしれない未公開株を物色するのに近い感覚といえるだろう。
個性が強い市場参加者だが、自らの利益拡大という目的のために妥協を重ねて共通の基準をつくりだす。現在はその結果として、美術館、オークションハウス、ギャラリー・ディーラー、コレクター、メディア、出版者などによる業界が成立しているのだ。アート写真の世界は参加者の利益拡大という資本主義の原理で成り立っているのだ。

残念ながら日本では上記のような歴史的な市場の発展が起きていない。外国人写真家の場合は、海外の延長上の市場が存在するが、日本人写真家の市場がほとんど存在しないのだ。
いままで、写真を販売する数々の試みが行われてきた。しかし、それらが中途半端に終わった理由は、写真をいかにもインテリア用の商品のように取り扱ったからだと思う。商品開発と同様のアプローチで作品が作られ、 マーケティング的な販売の仕掛けが用いられてきた。一般商品のように、単純に投資をすればすぐに結果に現れるような単純な仕組みではないのだ。
写真をアートとして販売することは、作品に資産価値を持たせるという意味。長期にわたる作家のブランディングを行っていく必要があるのだ。しかし現状は、作品を制作する人は数多くいるが、短期的に、金銭的、社会的な結果がでないのでほとんどが継続できない。
作家の継続的な作品制作なくして作品の価値は維持されないし、まして上昇することなどはない。

現状をみるに、突然アート写真ブームが到来するなどとは思わない方が良いだろう。関係者が日本で市場を作り上げていく地道な努力を行うとともに、優れた若手新人が海外市場に挑戦できる仕組みを整えていくのが重要だと考えている。 彼らの海外での評価は国内市場の活性化につながるだろう。
デジタル化した日本のアート写真市場の詳しい解説については、近いうちに紹介する機会があるだろう。