「フォト上海(Photo Shanghai)」レビュー(2)アート写真ブランド化の試み

今回、上海をはじめて訪れた。中国の高度経済成長はもちろんマスコミ報道で知っていたが、現実は予想をはるかに超えていた。中心市街地は世界的なトップ・ブランドが店を構える巨大商業施設が複数乱立しており、シンガポールがより巨大化したような感じだった。日本の銀座さえもスケールでは凌駕するのではないだろうか。
そしてどの店もお客でにぎわっているのだ。収入が多くなくても将来に経済的に豊かになるという見通しがあれば人々は消費をするのだ。バブル期の日本を思い出した。

地元の人によると不動産価格はここ20年で約15倍になったそうだ。上昇率はあくまでも個人の感覚的による比較だと思うのだが、不動産上昇による資産効果が消費を刺激している面は間違いなくあるだろう。直近は成長率が低下したというが、それでもGDPは7%以上、日本の1%台と比べるとまだまだ高度成長だ。高齢化が進む日本と違い、中国には将来的に豊かになりたいと考える若い人の人口がまだまだ多い。このような国に活気があるのは当たり前だと実感した。

道路には普通に欧米の高級車が走っているし、街中の高級店の乱立とそれなりの活況を見るに中国人がブランド志向なのが直感的にわかった。そして次に来るのが究極のブランドであるアートなのだろう。

「フォト上海」にも写真を新しいブランドとして富裕層に紹介しようという意図が強く感じられた。会場が上海展覧センターである点も重要のようだ。上海中心部の高級ブランド店や欧米系ホテルが立ち並ぶ南京西路に位置するイコン的なランドマーク建築物なのだ。
フェアのメイン・ヴィジュアルに使用されていたのはハーブ・リッツの”Versace Dress, Back View,1990″とパトリック・デマシェリエのカラーのファッション写真だった。

そしてフェアのメイン展示は20世紀写真の巨匠ヘンリ・カルチェ=ブレッソンの展覧会という具合だ。外国からの参加者は明らかに「イコン&スタイル」を意識した資産価値のあるセカンダリー作品の展示が中心だった。一方で地元ギャラリーはコンテンポラリー系のプライマリー作家中心の展示が多い印象だった。

私はもっと地元写真家中心の展示なのかと思っていたが、国際的に認知された有名写真家のイコン的作品とファッション系が数多くみられたのは嬉しい誤算だった。ギャラリーのレベルや品格はその在庫のクオリティーによるといわれる。特に海外ギャラリーは自らの珠玉の在庫を上海に持ち込んだ印象が強かった。結果的に会場全体では写真史やファッション写真史を網羅する、鑑賞目的の人が楽しめる展示構成だったといえる。
東京、ソウル、タイペイのフォトフェアは地元のプライマリー・アーティストの展示が中心だ。どちらかというと、販売というよりも取り扱いアーティストを紹介する面が強く出ている。市場が小さいので販売よりもギャラリー自身や取り扱いアーティストの紹介が目的となっている。主催者も販売目的というよりも、アマチュア写真家や鑑賞目的の人を意識した運営を行っている。しかし、上海は明らかに欧米的な販売を意識したフォトフェアになっていた。

この分野の作品をメインに取り扱っているのは、ベルリンのCamer
WorkとロサンゼルスのFahey/Klein。両ギャラリーは、まるで競い合うがごとく非常にハイレベルのファッション系作品を展示していた。前者はピーター・リンドバーク、リチャード・アヴェドン、ジャンルー・シーフ、ブランアン・ダフィー、ミッシェル・コント、ロバート・ポリドリなど、後者はウィリアム・クライン、メルヴィン・ソコルスキー、エレン・ヴォン・アンワース、パトリック・デマシェリエなどだ。
また、サンタモニカのPeter Fettermanは、リリアン・バスマン、アンドレ・ケルテス、 セバスチャン・サルガドなど、パリのA.Galerieはアルバート・ワトソン、ピーター・リンドバークなど。また北京のSIPA CHINAはバート・スターンのマリリン・モンローを展示していた。

あまりにも市場で評価されている有名作品の展示が多かったので、まだ評価が未確定の地元ギャラリーの作品はどうしても印象が薄く感じられた。私が興味を感じたのは北京のTime Space galleryの展示。

ここではモノクロのアウグスト・ザンダーとカラーのJiang Jianの作品を対比して「August Sander & Jiang Jian」として見せていた。まるでインスタレーションのように壁面全体に同時展示していた。果たしでザンダーの写真がオリジナルプリントかどうかは不明だったが、興味深いアプローチの作品だった。
アート・フェアでは、会期終了後に取引が行われることが多い。果たして今回のフェアでは高価な海外の「イコン&スタイル」系か、比較的買いやすい地元のコンテンポラリー系か、どちらの系統が地元の富裕層により強くアピールしたのであろうか? 「フォト上海」は来年も2回目が開催されるとのこと。たぶん来年の参加者の変化と展示内容を見ると今年の結果が想像できると思う。結果次第では、ニューヨーク、パリに次ぐアート写真の中心市場に短期間で育っていく可能性があると感じた。しばらくは目が離せないフォトフェアになりそうだ。