2014年12月11~12日にササビーズ・ニューヨークで市場が注目していた”175 MASTER WORKS TO CELEBRATE 175 YEARS OF PHOTOGRAPHY”開催された。
落札予想価格は、175点のうちなんと100点が5万ドル(約600万円)超という、アート写真オークションとしては異例の高額作品が中心。上限が50万ドル(約6000万円)を超える作品も多数ある。なぜこの時期に特別のアート写真オークションが開催されたのだろうか?
たぶん、春・秋の定例オークションやフォト・フェアのように中堅ディーラーやバーゲン狙いの個人コレクターを買い手とまったく想定していないのだ。美術館、潤沢な資金を持つ個人や企業コレクション、富裕層が多い現代アートコレクターを念頭に置いているのだろう。
注目度が高かったことから、オークションは近年まれに見るような活況を呈し、なんと総額の売り上げは2132万ドル(約25億5900万円)。落札予想価格の上限総額約2000万ドル(約24億円)を上回る驚異的な数字だった。ササビーズによると、写真単独コレクションのオークション世界最高売上とのことだ。
これは、2014年秋のNYオークション・シーズンでの主要ハウス3社とスワン・オークションの売上総合計を上回る。また2000年代前半の写真オークション年間総売り上げ額に匹敵する。落札率も90.3%と極めて高かった。
最高価格は、アルヴィン・ラングドン・コヴァーン(Alvin Langdon Coburn)のガム・プラチナ・プリントによる代表的なピクトリアリズムの抽象作”Shadows and Reflections,Venice,1905″。落札予想価格をはるかに超える96.5万ドル(約1億1580万円)で落札。もちろん作家のオークション最高落札記録となる。これは2004年のクリスティーズで約36.5万ドルで落札された作品。10年で約2.6倍の価値になっている。
2位はアルフレッド・スティーグリッツ(Alfred Stieglitz)の”Evening, New York from the Shelton、1931″。落札予想価格上限の3倍近い92.9万ドル(約1億1148万円)で落札。カタログ・カヴァー掲載作品だ。(上記カタログ画像の写真作品)
3位はラースロー・モホイ=ナジ(Laszlo Moholy-Nagy)の”Photogram with pinwheel and other shape,1929″と、ギュスターブ・ル・グレイ(Gustave Le Gray)の”The pont du carrousel seen from the pont royal, circa 1859″。ともに77.3万ドル(約9276万円)だった。
5位はアウグスト・ザンダー(August Sander) “Handlanger, Porteur de Briques(The Bricklayer),1927″で、74.9万ドル(約8998万円)。カタログの裏カヴァーにもなっているザンダーの代表作品で、作家のオークション最高落札記録となった。
なんと本オークションでは、8作品が節目となる50万ドル(6000万円)以上で落札されている。ちなみに2014年秋のNYオークション・シーズンの高額落札は、クリスティーズのエドワード・ウェストン”Nautilus Shell, 1927″が46.1,万ドル、ササビーズのマン・レイ”Lee Miller, c1930″が45.5,万ドルだった。今回のオークションにどれだけ驚くべき貴重な高額作品が複数点も出品されていたかがわかる。
現代アート系では、シンディー・シャーマン、ベッヒャー夫妻、、ジョン・バルデッサリ、トーマス・ルフ、トーマス・シュトュルート、フィリップ・ロルカ=ディコルシア、アダム・フス、ヴィック・ムニーズが出品され、全て落札されている。最高額はシンディー・シャーマンの”Untitled Film Still #2,1977″で、31.7万ドル(3804万円)だった。
不落札作品はわずか17点だった。その内訳を見てみよう。
知名度の低い写真家、またスティーグリッツ、ウェストン、フランクでも人気度の高くないイメージはヴィンテージ作品でも不落札となっている。一方で20世紀後半の現代写真や現代アート系はすべて落札されている。古いという骨董的な価値だけでは現代のコレクターは高額を支払わない傾向が読み取れる。落札予想価格が高額になってくると、作品のアイコン的な価値も必要になってくるのだろう。従来、貴重なヴィンテージ作品は中間層であるアート写真のコレクターが買っていた。 しかし最近の中間層の没落と相場上昇によって彼らは手が出せなくなってしまったのだ。
ちなみに12月11日には、スワン・オークションNYで”Vernacula Imagery, Photobooks, Fine Photographs”のオークションが開催された。これは、古写真、フォトブック、アート写真などの低価格帯の写真作品を取り扱う、ササビーズとは対極のオークションだ。結果は、トータルの落札率が約62%、アート写真243点の落札率が約55.9%と低迷していた。
12月の同時期に開催された二つのオークションは、ここ数年続いている高価格帯セクターの好調、低価格帯セクターの低迷のトレンドを改めて印象付けられる結果だったといえよう。
(為替レートは1ドル120円で換算)