ロバート・フランク “The Americans”オークション歴史的名作の人気に衰えの気配なし!

1955年、スイス出身の写真家ロバート・フランクはグッゲンハイム奨学金を得て全米を縦断する写真撮影の旅を敢行した。彼は約2年の旅をとおして数千点にもおよぶ写真を撮影。その中から綿密に編集を行い83点を選びだしフォトブックを制作する。まず1958年にフランスで”Les Americins”が、1959年に米国版”The Americans”が刊行される。
彼は全米を旅することで、もはや道の先にはアメリカン・ドリームが存在しないことを暴き出す。しかし、幻想は持たないものの多様な面をもつ米国の現状をポジティブに肯定し、そこで生きる支えを家族愛に求めている。彼の当時に追求したテーマは現在にも通じるものがあり、今では最も影響力のあるフォトブックの1冊といわれている。

このロバート・フランク”The Americans”に収録されているオリジナル・プリント83点の美術館による完全コレクションは全世界に4セットしか現存しないとのことだ。今回ササビーズ・ニューヨークで12月17日に開催された”Robert Frank:The Americans(The Ruth and Jake Bloom Collection)”は、収録作のうち77点がオークションにかけられるという、フランクのコレクターには極めて重要なイベントだった。

この機会に世界中の美術館やコレクションが、できるだけ多くの未保有作品の落札を試みたであろう。結果は、ササビーズのクリストファー・マホニー(Christopher Mahoney)の以下のコメントに集約されている。彼は”今回の強い落札結果は、ロバート・フランクの代表作に対する市場の長きにわたるコレクション熱を示したものだ。オークションを通して入札希望者同士が激しく競り合っていた”と語っている。
出品77点のうち69点が落札、落札率約89.6%と非常に良好な結果だった。総売り上げは約373万ドル(約4億6742万円)で、ほぼ事前の落札予想価格上限に近いものだった。オークションは、ちょうど米国の景気回復に伴う金利正常化を意図した利上げが行われたばかりのタイミングで行われた。利上げ後の金融市場の冷静な動きもコレクターを安心させて入札に参加できた面もあるだろう。
内容を見てみると、落札予想価格上限を超えたのが35、予想範囲内が30、下限以下が4だった。5万ドル越えの高額価格帯の不落札はわずか2点だった。最高額は写真集”The Americans”の最初の収録イメージの”Hoboken(Parade),1955″と、オリジナル米国版のダストジャケットに使用されている”New Orleans(Trollery),1956″だった。ともに237,500ドル(約2968万円)で落札されている。予想を大きく超える高額落札も散見された。黒人女性が白人の赤ん坊を抱きかかえている”Charleston,S.C,1955″は、何と落札予想価格上限の2倍の162,500ドル(約2031万円)で落札。炭鉱町として知られるモンタナ州ビュートのホテルから撮影された、テーマ的には米国のダークサイドに関わる”Blutte, Montana(View from Hotel
Window),1965″も、落札予想価格上限の10万ドルを大きく超える175,000ドル(約2187万円)で落札。”Public Park-An Arbor, Michigan,1955″も落札予想価格上限の2倍を超える68,750ドル(約859万円)で落札。これらは、”The Americans”のテーマ性が色濃く反映されていたが、イメージ的に不人気だった作品が評価されたという印象だ。
“The Americans”50周年版刊行以来、美術館での展覧会や関連するカタログ・フォトブックの発売で市場でのロバート・フランク作品人気は大いに盛り上がった。オークション結果は、その人気はいまだに続いていることを示しているといえるだろう。しかしすでに高価な代表作”New Orleans(Trollery),1956″が予想落札価格範囲内での落札にとどまったことから、相場にいまの取引レンジを上に抜けるほどの勢いはないと思われる。今回のオークションのレベルが今後のフランク作品の指標となるだろう。