変貌する目黒インテリア・ストリート
ライフスタイル系消費とアート写真

ブリッツはインテリア・ストリートなどと呼ばれる家具関連ショップが多い目黒通りの近くにある。同じく小売に関わる業者として街の日々の変化を常に観察している。
約15年くらいこの地にいるが、最近はショップの入れ替わりが激しくなってきた印象が強い。特に今年になって、雑誌などでよく紹介されていた複数の有名店がいつの間にか移転していた。
このところの状況を素人視線から分析してみるに、新品家具を取り扱うショップが少なくなり、中古のブランド家具専門店、一般の中古家具を扱うショップ、既製品でない手作り家具を取り扱うショップなどが増えている印象だ。取り扱われているスタイルは、アンティーク、モダン・アンティーク、ミッドセンチュリー、北欧デザイン、などとより多様化している。
視点を変えると、有名ブランドや大量生産の新品家具はアウトで、オーダー家具、手作り家具、中古家具は生き残っている印象だ。ほとんどが家具だけではなく、国内、欧州、米国のアンティーク、ヴィンテージ、骨董、古道具などの雑貨・小物、洋服類を総合的に扱うショップに変貌している。カフェも専門店は減少しているが、併設ショップは増加中だ。
私はマーケティングのコンサルタントでもないので、専門的な答えが出せるとは思えないが、このような変化の要因について自分なりに考えてみた。
まず上質な、自分好みの、選び抜かれたモノの中で暮らすという考えが浸透してきたようだ。これはライフスタイル系消費ということで、実際的には消費に疲れた富裕層が質の高い生活を求める場合と、収入が増えない中で充実した暮らしを求めるケースがある。多くの人はその中間に位置するだろう。
ライフスタイル系消費の人は特に新品にこだわらない。大量生産の既成品よりも、古くても個性的な家具や商品を求める傾向もある。これらは価格も比較的的安い。不況による若年層の厳しい懐事情も反映されているだろう。また販売業者にとっても中古品の方が利幅が大きいので取り扱いやすいだろう。
ライフスタイル系では、消費者の個別の商品の見立てと空間での取り合わせの能力が求められる。今までの日本、たぶん団塊から新人類世代くらいまでは、モノを全体でコーディネートする視点がなかった。ただ新品か、有名ブランドかで買い揃えてきたので、生活空間には複数のスタイルが混在していた。昭和のカオス的なインテリアを思い浮かべてほしい。その状況がどうも変化しているようだ。
今の若い世代は子供の頃から、自分で商品を選んで買ってきた。昔は、選択肢もなかったし親が買い与えている場合が多かった。いまは自分の好みのスタイルを意識する人が増え、それに合わせて家具や雑貨類を綿密にこだわって選んでいるのだ。
最近の目黒通り界隈のショップの変化は、このようなライフスタイル系消費の浸透が反映された結果なのではないか。彼らには、自分好みの商品を時間をかけて楽しみながら見て回れる回遊エリアになっているのだろう。
ブリッツがこの地に出店したのは、家具購入者はその延長上にアート写真を買うのではないかという発想からだった。実際、2000年代からリーマンショック前までは、同じ発想でアート作品を壁面に展示販売していたショップも存在していた。
私どもの店頭でも、都市伝説のような、自分へのご褒美でアート写真や写真集を買う若いビジネスマンや女性客が少なからず存在していた。いま思うに壁面に飾られた本物のアート作品の提案は典型的な「モノ」消費であり、ステータス消費だった。
現在は、家具ショップでの写真展示は額装した印刷物や、ポスターがほとんどだ。かつてはそれらを本物ではないと蔑視していたが、最近はどうも違うのではないかと考えるようになった。壁面に飾る写真が本物でなくても、優れた見立てと、取り合わせができると、心地よい空間創出は可能ということ。それができる人が実際に増えているようなのだ。ライフスタイル系消費が進行してくると本物というだけではアート写真は売れなくなる予感がする。もしかしたら、そんな状況は始まっているのかもしれない。実際にいまの日本では、写真はオリジナルを買うものではなく、撮影して自らが楽しみ、また家族や友人とコミュニケーションを図るものになっている。
ギャラリーの商売も、資産価値のある作品へのコレクターからの需要が中心。若手・新人は安いのでそこそこ売れるが、それ以外の中途半端な価格帯の作品の動きは非常に鈍い。
欧米では、写真は買いやすい価格帯の民主的アートだと認識されている。日本でも同じように一般の人が写真を普通に買うようになるとギャラリー関係者は考えていた。どうもその目論見は想定していた通りには進行してないようだ。

グローバル経済進展やIT革命による中間層の減少で、もはや先進国では消費ブームは期待できないという経済専門家の指摘もよく聞かれる。その大きなうねりがついに日本にも訪れつつある。ライフスタイル系消費とも本質が重なるのだが、いま人々がものをあまり買わない生活に向かっているといわれる。かつてはシンプルライフがあったが、最近は更に過激化して最小限のもので生活する断捨離やミニマリストも増加しているという。

最近のこのような消費状況は、単なるトレンドではなく、もっと大きな社会経済的な変動がその背景にあるかもしれないとも感じている。
日々複雑化するこの状況の中でアート・ギャラリーはどのように対応していくべきか、目黒通りのショップの移り変わりを横目に色々と考えている。