2016年市場を振り返る
アート写真オークション

本年もよろしくお願いします。
まずは、2016年のアート写真市場を振り返ってみよう。
昨年も、ニューヨーク、ロンドン、パリ、ベルリン、ケルン、ウィーンの各都市において、Christie’s、Sotheby’s、Phillips、Dreweatts & Bloomsbury、Bonham、Heritage、Swann  Auction Gallerie、WestLicht、Villa Grisebach、Lempertzにより開催された34のオークションをフォローした。いまや写真は現代アートのカテゴリーの一つになった。現代アート・オークションにも写真作品が多数出品されている。私どものはあくまでも従来のアート写真に特化したオークションに限って集計している。したがってアート写真カテゴリーに出品される現代アート系作品は含まれるが、リチャード・プリンスなどの多くの現代アート系写真作品は含まれない。また欧米では小規模の写真オークションが数多く開催されているが、すべては網羅されていない。
もし上記以外で興味ある内容のオークションがある場合はぜひ情報を提供して欲しい。
さて2016年オークションの内容を見てみよう。
出品数は7310点、落札数は4515点と、前年比約13%と11%増加、落札率は63%から61.7%へ微減。地域別では、北米は出品数が約27%増、落札数約26%増、欧州は出品数が横這い、落札数約4%減だった。総売り上げは、通貨がドル、ポンド、ユーロにまたがり、為替レートが変動するので単純比較は難しい。私どもは円換算して比較しているが、それだと総売り上げは約67.5億円で、前年比8.1%減少している。北米が約4%減、欧州が約14%減。欧州の減少は、ポンドがEU離脱で急落したことが影響していると思われる。
アート写真の市場規模は、リーマンショックで2009年に大きく落ち込んだものの、2014年にかけて回復してきた。しかし2015年後半に再び調整局面を迎え、2016年もほぼ同じ水準にとどまったといえるだろう。
主要市場での高額落札の上位20位の落札総額を比べると、2015年比で約15%増加している。高額セクターは比較的順調だった。これは2016年2月クリスティーズ・ニューヨークで行われた、珠玉のヴィンテージ作品多数そろえた”Modern vision”オークションの影響だと思われる。ちなみに2016年の最高落札は上記オークションに出品されたギュスターヴ・ル・グレイ(Gustave Le Gray)による、港を去っているフランスの皇帝の艦隊帆船のイメージ”Bateaux quittant le port du Havre (navires de la flotte de Napoleon III)、1856-57″で、落札予想価格上限を大きく上回る96.5万ドル(@115/約1.1億円)だった。

 出品数は、特に北米で低・中価格帯作品が増加したようだ。結果的に1点の落札単価は、北米市場で24%も減少。欧州は約10%減。トータルでは約17%減少している。アート写真市場では、低・中価格帯作品を売りたい人が増加しているが単価は低下している。結果的に、人気作品に需要が集中して、不人気作の流動性低下が続いている。

これは、供給増、需要減という典型的な景気低迷期の構図だといえよう。長年写真を集めてきた中間層がコレクションを手放しているような構造的変化とも解釈できる。その傾向は、北米では1年を通してみられる、欧州では特に年後半に顕在化している。
市場では2015年後半から相場が全体的に弱含んできた。2016年も同様の傾向が続いたことから、2017年では市場の2極化がさらに続くだろう。特に不人気作の最低落札価格の低下が進むと思われる。
米国の株価は秋のオークション・シーズン終了後のトランプ相場でニューヨーク・ダウが2万ドル寸前までラリーしている。しかしこれは本格的な景気回復によるものではない。予想外の選挙結果による、売り手の損失覚悟の買戻しから始まった、将来の政策期待による上昇だ。現時点で。4月のオークション・シーズンに、どのような経済状況になっているかを見通すのは非常に困難だ。
日本のコレクターからみると、トランプ後の円高局面の急激かつ大幅な転換はせっかくの購入意欲を完全にそぐものだった。いま思えば秋のオークションは絶好の買い場だったのだ。しかし、相場、為替ともにベストのタイミングでのコレクション構築は非常に困難だ。どちらかが有利な状況の時には打診買いを行ってもよいと考える。2017年は、自分が狙っている作品の市場動向には注視が必要だろう。