今春は定例の複数委託者オークションとともに、前回紹介したフィリップス”The Odyssey of Collecting”の228点と、クリスティーズ”Portrait of a Collector: The John M. Bransten Collection of Photographs”で28点の単独コレクションからのセールが開催された。
合計5つのオークションの出品数は741点、落札率は約73.8%、総売り上げは約1801万ドル(約19.8億円)だった。出品数は昨秋から約19.5%増加、落札率も約65.1%から大きく改善した。売上高は昨秋よりも約58.5%と大きく増加。これは新大統領の政策による景気回復期待からダウ工業株平均株価が2万ドル台で取引されているという好調な外部環境と、多数の質の高いヴィンテージ作品の出品された二つの単独オークションの開催の影響によるといえるだろう。
オークションの総売り上げは、リーマンショック後の2009年に大きく落ち込み、2013年春から2014年春にかけてやっとプラス傾向に転じた。しかし2014年秋以降は再び弱含んでの推移が続き、ついに2015年秋にはリーマンショック後の2009年春以来の低いレベルまで落ち込んだ。2016年はすべての価格帯で低迷状態が傾向が続いていた。今回はちょうど総売上高が急減する前の2015年春のレベルに回復。2014年の秋以来ずっと売り上げ5年平均値を下回ってきたのが、ついに若干上回ってきた。売り上げのサイクルは2016年秋を直近の底に回復傾向を見せ始めてと判断できるだろう。しかし経済面を見ると、いまの株価はすべての良いニュースをすでに織り込んだレベルだと専門家が指摘している。期待先行で金融市場が先走っているだけに、決して今後のアート写真市場に対しても過度の楽観はできないだろう。
落札の中身を見るとやや気になる点がある。全体の落札率は約73.8%と良好だった。しかし5万ドル(約550万円)以上の高額価格帯をみると約60.19%とほぼ昨年の全オークションの平均落札率に近い結果になっている。特に、ササビーズとクリスティーズの複数委託者オークションでの高額価格帯の結果が良くない。クリスティーズでは、目玉だったアンセル・アダムスの名作”Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941″の100.3 x 143.8 cmサイズ作品が、落札予想価格は40万~60万ドルだったが不落札だった。今シーズンの好調な結果は、中低価格帯の落札率が大きく改善したことによる。
2014年秋以降の市場低迷で、中低価格帯はアイコン的な代表作とそれ以外の作品への需要が2極化した。アイコン的作品の需要に変化はないものの、いままでに低価格帯のイメージ人気がやや劣る作品の価格調整が順調に進み、需要とマッチングしたと分析している。一方で高額価格帯は、出品機会も減少気味のレア作品が多いことから委託者が強気の姿勢を崩していないと思われる。今後は、レア作品も適当な価格レベルの模索が行われるだろう。
大手3社の結果を比較してみると、”The Odyssey of Collecting”セールが成功したフィリップスが売り上げ、落札率ともにトップとなった。同社はこれで6シーズン連続の売り上げトップとなった。高額落札はクリスティーズの”Portrait of a Collector: The John M. Bransten Collection of Photographs”に出品されたエドワード・ウェストンの”Nude, 1925″で、87.15万ドル(約9586万円)だった。2番目はクリスティーズの複数委託者セールのアンセル・アダムス”Clearing Winter Storm, Yosemite National Park, California, 1938″で、55.95万ドル(約6154万円)だった。続いても、クリスティーズの”Portrait of a Collector”に出品されたダイアン・アーバスの名作”セントラルパークの手榴弾を持った子供”、”Child with a toy hand grenade in Central Park, N.Y.C.,
1962/1963″で、51.15万ドル(約5625万円)だった。
1962/1963″で、51.15万ドル(約5625万円)だった。
4月中旬から5月中旬にかけて、中堅のスワン(Swann Auction Galleries)、ボンハムス(Bonhams)、ドイル(Doyle Auctions)ヘリテージ(Heritage Auctions)のオークションがニューヨークで開催される。こちらの中心は中低価格帯の作品となる。大手での好調が継続するかを注目したい。
(1ドル/110円で換算)