今秋の定例オークションは、前半の10月第1週の2日から5日にかけてボンハムス(Bonhams)、フリップス(Phillips)、ササビーズ(Sotheby’s)が、後半の10月第2週からは、10日にクリスティーズ(Christie’s)、11日にヘリテージ(Heritage Auctions)、19日にスワンで(Swann Auction Galleries)で開催される。今回は前半のレビューをお届けしよう。
前半の注目はフリップスで開催される“The Odyssey of Collecting”セール。これは春にも開催された、米国の金融家・慈善家のハワード・スタイン (1926-2011)の膨大な写真コレクションがベースの非営利団体Joy of Giving Something Foundationからのセール。いままで2回行われて今回が最終回となる。
19~20世紀の貴重なヴィンテージ・プリントから、20世紀写真、コンテンポラリー作品まで、幅広いジャンルの作品229点(春は228点)が出品された。今回は春と比べて中低価格帯の出品が中心。春の落札予想額合計の上限は約795万ドルだが、今回は470万ドルになっている。落札率は約83.4%で春とほぼ同じ、総売り上げは前回の638万ドルから363万ドル(約4.06億円)に減少しているが、事前予想の範囲内だった。やはり来歴がよいことはブランド価値を高めることになるようだ。
最高額を付けたのは、アルフレッド・スティーグリッツが編集した“Camera Work: A Photographic Quarterly”の雑誌セット。1903年~1917年に刊行された1号のみが欠落した2号から50号までのほぼ完璧なセット。落札予想価格10万~15万ドルの範囲内の約13.1万ドル(約1470万円)で落札されている。
ラースロー・モホリ=ナジの“Self-Portrait, 1925”は、落札予想価格上限の約2倍の11.25万円(約1260万円)で落札されている。
興味深い出品には、いまDIC川村記念美術館で展覧会が開催されているフェリーチェ・ベアトの写真アルバム“Japan, 1863-1866”があった。43点の鶏卵紙プリントが収録されている。こちらは、落札価格上限の3万ドル(約336万円)で落札されている。
複数委託者のオークションには、134点が出品された。こちらの落札率は67%にとどまった。
最高額はマン・レイの1点もの銀塩写真の“Rayograph, 1922”で、予想落札価格内の30万ドル(約3360万円)だった。
続くのはウィリアム・エグルストンの“Untitled, 1971-1974”。これは96.5 x 147 cmサイズ、エディション2の、ガゴシアン・ギャラリーで売られたピグメント・プリントになる。彼の作品は、いまや写真ではなく現代アートのカテゴリーと考えられている。落札予想価格7万~9万ドルを超える13.75万ドル(約1540万円)で落札されている。
現代アート系のクリスチャン・マークレー(Christian Marclay)によりサイアノタイプ技法で制作された“Untitled (Luciano Pavarotti, Halo and Four Mix Tapes II), 2008”は、カタログのカヴァー作品。なんと作家のオークション落札最高額の10.25万ドル(約1148万円)で落札された。
おなじく、セバスチャン・サルガドの179.1 x 245.1 cmの巨大作品“Southern Right Whale, Navigating in the GolfoNuevo, Valdes Peninsula, Argentina, 2005”も作家のオークション落札最高額の10万ドル(約1120万円)で落札されている。
フィリップスの総売り上げは約640.4百万ドル(約7.12億円)で、落札率は約77%だった。売り上げは、昨秋よりはよいものの、春の899万ドルよりは約29%減少している。落札率はほぼ春並みだった。
ササビーズは、10月5日に200点の“Photographs”オークションを開催。落札率は54%、総売上高は約290.1万ドル(約3.24億円)だった。売り上げはほぼ昨秋と同じだが春より約15%減少、落札率も昨秋66%、今春68%から低下した。
最初の53点が19世紀の貴重なダゲレオタイプ写真の単独コレクションのセールとなる“IMPORTANT DAGUERREOTYPES FROM THE STANLEY B. BURNS, MD, COLLECTION”。こちらの落札率は37.7%。多くの作者不詳作品が不落札だった。歴史的、骨董品価値の市場評価の難しさを感じさせられた。
複数委託者の147点の落札率は60.5%だった。最高額は19世紀中期のフィリップ・ハース作品“JOHN QUINCY ADAMS、1843”。被写体のジョン・クィンジー・アダムズ(John Quincy Adams)はアメリカ合衆国第6代の大統領だ。こちらは、 落札予想価格20万~25万ドルの上限を超える約36万ドル(約4032万円)で落札されている。
現代写真の最高値はロバート・フランクの“CHARLESTON, S. C.’,1955”歴史的フォトブック“The Americans”に掲載されている、黒人女性が白人の赤ん坊を抱いているイメージ。1969年にフィラデルフィア美術館で展示されたという来歴を持つ作品。こちらはほぼ落札予想価格下限の34.85万ドル(約3903万円)で落札されている。
しかし、フランク作品でも、代表作“New Orleans、1955 (Trolley)”は、落札予想価格20万~30万ドルだったが不落札だった。
高額落札3位は、エドワード・ウェストンの“NUDE ON SAND,1936”。落札予想価格20万~30万ドルの上限を超える約32.45万ドル(約3634万円)で落札された。
ロバート・メイプルソープの貴重な初期のコラージュ、ジュエリー、紙作品も7点が出品されるが、わずか1点のみが落札。これら有名アーティストの関連作品の市場性評価が極めて難しいことが印象付けられた。
ボンハムス(Bonhams)は2日に中低価格帯作品が中心108点の“Fine Photographs”を開催。こちらはすべての価格帯が低迷して落札率は約30.5%、落札額約72.9万ドル(約8164万円)だった。
最高額は、アーヴィング・ペンのフォトブック“Passage”のカヴァー作品の“Ginko Leaves (New York), 1990”で、落札予想価格内の19.95万ドル(約2234万円)で落札された。
全体的に中低価格帯で、人気、不人気作品の2極化が進んでいる印象だ。貴重な19世紀写真でも骨董品的価値しかないものへの市場の関心は低調だ。20世紀写真の有名写真家でも、絵柄によってはコレクターが関心を示さないという厳しい状況も見られた。ここ数年続いている傾向がより明確になってきた印象だ。一方で人気写真家の有名作品でも、強気の最低落札価格を設定している出品作は苦戦していた。2極化が進む中でも、人気作の高値はそろそろピークを迎えつつあるようだ。
さて10月第2週に開催されるクリスティーズは大忙しのスケジュールになっている。複数委託者によるオークションとともに、2つの単独コレクションからのオークションを開催する。また、同時にMoMAコレクションのオンライン・オークションも開催される。中低価格帯中心のヘリテージ、スワンのオークション結果とともにパート2でお伝えしよう。
(1ドル/112円で換算)