今秋の大手3社による定例オークションは、複数委託者セールとともに、珠玉の名品を含む単独コレクションのセールが多く開催された。
フィリップスでの今春に続く“The Odyssey of Collecting”229点のセール、クリスティーズでは“Visionaries: Photographs from the Emily and Jerry Spiegel Collection”の40点と、“Important Photographs from the Collection of Donald and Alice Lappe”67点が開催された。また同社の“Photographs”では、ニューヨーク近代美術館(MoMA)コレクションからのセールが含まれる。同時にMoMAコレクションのオンライン・オークション“MoMA HC Bresson”35点、“MoMA Pictorialism to Modernism”58点も行われた。
2017年春は合計5つのオークションが開催された。出品数は741点、落札率は約73.8%、総売り上げは約1801万ドル(約19.8億円)だった。
今秋はオンラインを含めると合計8つのオークションが行われ、出品数は今春から約18%増加して874点、落札率は約69.8%、総売り上げは約6.1%増加して約1912万ドル(約21.4億円)だった。これは好調な企業決算やトランプ政権の税制改正や規制緩和期待から、ダウ工業株平均株価が史上最高値付近の2.2万ドル台で取引されているという好調な経済環境が影響しているといえるだろう。また最高の来歴のMoMAコレクションの売却や、多数の質の高いヴィンテージ作品を含む上記のような単独コレクションのオークション開催も大きく貢献している。
ちなみに3つの単独コレクションのセールは、平均落札率が約80.9%、売り上げは全体の52%を占めている。
オークションの総売り上げは、リーマン・ショック後の2009年に大きく落ち込み、2013年春から2014年春にかけてやっとプラス傾向に転じた。しかし2014年秋以降は再び弱含んでの推移が続き、ついに2015年秋にはリーマンショック後の2009年春以来の低いレベルまで落ち込んだ。2016年はすべての価格帯で低迷状態が続いていた。2017年は春から市場が回復傾向を示し、年間実績はちょうど総売上高が急減する前の2015年春のレベルを上回ってきた。過去5年の売上平均値を春・秋ともに上回った。売り上げサイクルは、2016年秋を直近の底に回復傾向にあると判断できるだろう。
ただし、クリスティーズで開催された2つのMoMA作品のオンライン・オークションの結果にはやや気になる点があった。5万ドルを超える高額予想のアンリ・カルチェ=ブレッソン、エドワード・スタイケン、クレランス・ホワイトなどの作品が軒並み不落札だったのだ。これはオンライン・オークションが高額作品には向いていないのか、それとも、20世紀を代表する写真家の最高の来歴の作品が過大評価されていたかのどちらかだと思われる。現時点で判断を下すのは難しいところだろう。
MoMA作品オンライン・オークションでは来年にかけて合計約400点が7つのオークションで売りだされる。今後の動向を注視していきたい。
今シーズンの高額落札を見ておこう。
1位はクリスティーズの“Important Photographs from the Collection of Donald and Alice Lappe”のエドワード・ウェストンによる“Betty in her Attic, 1920”。落札予想価格60万~90万ドルの範囲内の約73.2万ドル(約8198万円)で落札。
2位はクリスティーズの複数委託者オークションのピーター・ベアードの“Orphaned Cheetah Cubs, Mweiga, near Nyeri, Kenya, March 1968”。落札予想価格30万~50万ドルの上限を超える約67.25万ドル(約7532万円)で落札されている。
3位はクリスティーズの“Visionaries: Photographs from the Emily and Jerry Spiegel Collection”のポール・ストランドの“Rebecca, New York, 1923”。落札予想価格50万~70万ドルのほぼ下限の約49.25万ドル(約5516万円)で落札。
4位もクリスティーズ“Important Photographs from the Collection of Donald and Alice Lappe”のエドワード・ウェストンによる“Dunes, Oceano, 1936”。落札予想価格25万~35万ドルの上限越えの約43.25万ドル(約4844万円)で落札された。
ランク外だが、杉本博司の海景作品“North Atlantic Ocean, Cape Breton Island, 1996”は、予想外の高額で落札された。これはエディション25の銀塩作品、落札予想価格上限3.5万ドルの4倍近い15万ドル(約1680万円)だった。
大手3者の実績を比較してみよう。
落札上位の結果からわかるように、今秋はクリスティーズがMoMAなどの単独コレクションセールで市場をリードした。売上トップは2014年秋以来ずっとフィリップスだった。今シーズンはクリスティーズが2013年春以来に久しぶりに奪い返した。一方でササビーズは、売り上げ、落札率ともに元気がなかった。
11月には、アート写真オークションの舞台は欧州に移る。
クリスティーズはパリで“Stripped Bare: Photographs from the Collection of Thomas Koerfer”と“Photographies”。ササビーズもパリで“Importante Collection Europeenne de Photographies”と“Photographies”。フィリップスはロンドンで“Photographs”を開催する。
なおヘリテージ、10月19日のスワンなど、フォトブックを含む中低価格帯のオークション結果は後日にお伝えする予定だ。
(1ドル/112円で換算)