2018年春ロンドン・アート写真オークション

5月17日~20日に行われたロンドンのサマーセット・ハウスで開催されたフォト・フェア”Photo London 2018”にあわせてアート写真オークションがロンドンで集中的に行われた。5月17日~18日にかけて複数委託者のオークションが、大手のクリスティーズ、フィリップス、ササビースで開催。

3社の実績を昨年春と比べてみよう。2017年は、総売り上げ約502万ポンド、408点が出品されて261点が落札、落札率は約63.97%だった。今年は、総売り上げ約643万ポンドに約28%増加、365点が出品されて284点が落札、落札率も約78%と改善した。全体の出品数が減少しているものの、落札予想価格が2.5万ポンド(約375万円)以上の高額価格帯、5000ポンド(約75万円)以上の中間価格帯の落札数が増えていた。
今回はクオリティーの高い希少作の出品が多く、全般的に良好な結果だったといえるだろう。

Phillips London, ULTIMATE Evening and Photographs Day Sales Catalogue

今春は、特にフィリップスの“ULTIMATE Evening and Photographs Day Sales”の好調が目立った。同社は、適切にエディティングされた複数委託者と共に、複数の優れたコレクションからの委託を獲得し、出品数は昨年の93点から172点に大幅に増加させている。売り上げは昨年比約51%も増加して約355万ポンド(約5.32億円)、落札率も平均を上回る約85%だった。これは同社のロンドンでの最高売上とのこと。
今回の目玉となったのは、1点もの“POLAROIDS from the Piero Bisazza Collection”32点と、現代アート系写真の“Michel and Sally Strauss Contemporary Photography Collection”の50点のセール。ポラロイド・コレクションは、イタリアのガラス製モザイクタイル業界をリードするメーカー「ビザッツァ」のCEOのピエロ・ビザッツァ(Piero Bisazza)のもの。彼は、モザイク・タイルとの類似性からポラロイドに魅了されコレクションを行っているとのこと。アンディー・ウォーホール、ロバート・メイプルソープ、ヘルムート・ニュートン、パオロ・ロベルシ、ピーター・ベアード、サラ・ムーン、カルロ・モリーニ、荒木経惟など、様々なアーティストが多様なアプローチでポラロイドを利用していた事実がわかって興味深い。ニュートン作品の一部は、実際に写真集“Pola Woman”制作時のオリジナル作品とのこと。有名写真家の来歴の確かで絵柄もよい1点物。コレクター人気が高いのもうなずける。ウォーホール、ニュートン、ベアードなどの人気作は落札予想価格上限を超えて落札。全体の売り上げアップに大きく貢献していた。

高額落札はファッション系が目立った。
最高額はフィリップスに出品されたヘルムート・ニュートンの“Panoramic Nude with Gun, Villa d’Este, Como, 1989”。

Phillips London, Lot 16, “Panoramic Nude with Gun, Villa d’Este, Como, 1989” ⓒ Helmut Newton

現存しているのは同作1点だけの可能性が高いという151.5 x 49.5 cmサイズの巨大作品。希少性が寄与して、落札予想価格25~35万ポンドのところ、72.9万ポンド(約1.09億円)で落札された。これはニュートンのオークション最高額での落札となる。ちなみに同作はニュートンが亡くなった直後の2004年4月のクリスティーズ・ニューヨークのオークションで、18.11万ドルで落札されている。当時の為替は約1ドル/107.70円、円貨で単純比較すると約15年間で作品の市場価値は約5.6倍になったことになる。
続くのは、同じくフィリップスのロバート・メイプルソープの“Double Tiger Lily,1977”。こちらは花の写真2点組からなる1点もの。90年代前半に日本で開催された展覧会にも何回か展示されている。落札予想価格上限を超える29.7万ポンド(約4455万円)で落札されている。

ササビーズ“Photographs”では、リチャード・アヴェドンの“AVEDON/PARIS, 1978”が、落札価格上限を超える23.7万ポンド(3555万円)で落札。本作は1978年にメトロポリタン美術館ニューヨークで開催されたファッションの回顧展の際に制作された、11点からなるパリで撮影された代表的ファッションのポートフォリオ。本作も、2010年11月にクリスティーズ・パリで16.9万ユーロで落札された作品。当時の為替は約1ユーロ/112.61円なので約1903万円、円貨で単純比較すると約8年間で作品の市場価値は約1.86倍になったことになる。ちなみにニュートン作品の希少性と比べて、こちらはエディション75点。

ファッション系がすべて好調というわけではない。今春のニューヨーク・オークションで、アーヴィング・ペンの、6万ドル以上の高価格帯作品や、キャリア後期作品などは不落札が目立ったことを報告した。
ロンドンでもフィリップスに出品されたペンの代表作“Black and White Vogue Cover (Jean Patchett), New York,1950”が不落札だった。こちらは、2012年4月のクリスティーズ・ニューヨークで43.45万ドル(@81.25/約3500万円)で落札されたプラチナ作品。今回の落札予想価格は20万~30万ポンド(3000万円~4500万円)。エディションが34点であることを考えると、前回の落札価格はやや過大評価だったということだろう。

日本人写真家では、石内都の“絶唱、横須賀ストーリー,1976-1977”の22点セットがフィリップスに出品。落札予想価格上限の9万ポンドを上回る、10.625万ポンド(約1593万円)で落札されている。こちらは11.9X16.3cmの小ぶりサイズの、1979年プリントの1点もの作品。出品作のシリーズは全体で約100点現存するうちの22点。40点はテート・モダンがコレクションしているとのことだ。

ここ数年の欧州における大手業者のアート写真オークションは、春は英国のフォトロンドンと、秋は大陸のパリフォトと同じ時期での開催が一般化してきた。春のニューヨークの大手のオークションは、AIPADフォトグラフィー・ショーと同時期の開催だ。今春の良好な結果は、欧州でもフォトフェアとオークションの同時開催が業者やコレクターの間で定着してきた証拠だろう。

(1ポンド・150円で換算)