2018年アート写真オークション高額落札
現代アート系が上位を独占

毎回のことになるが、まずこの分析でカバーずるオークションのカテゴリーを確認しておく。
オークションには、現代アート分野の写真表現による作品と、従来からある“Photographs”分野の作品が存在している。現在は、デジタル化進行により、アート表現での写真利用は現代アート分野でも一般化している。
また、一方で例えばマン・レイやダイアン・アーバスのように高額な19~20世紀写真が現代アートのカテゴリーに出品される場合もある。また、ピーター・ベアードや杉本博司のように両分野に出品される人もいる。いま従来の“Photographs”分野のアート写真と現代アート系写真との融合が急速に進んでいるのだ。

しかし、統計数字の継続性を重視して、私どもは従来の“Photographs”分野と、現代アート分野に出品される作品を個別に集計している。
“Photographs”は20世紀アート写真と呼んで、2018年には大手、中小、オンラインを含む43件のオークションを取り上げた。現代アート系は主に大手中心に21件のオークションを取り上げている。今回も個別と総合のランキングを集計した。
今後、写真カテゴリーは、19-20世紀写真と現代写真に分かれていき、現代写真のサイズの大きくエディションが少ない作品が現代アート・カテゴリーに分かれていくのではないかと予想している。

2018年の20世紀アート写真の総売り上げは前年比約14%減少したと以前に報告したが、高額セクターの勢いも同様に衰えているようだ。経済面では秋を迎えたころから貿易戦争の懸念や中国株の下落で世界景気の先行きにも不透明感が広がってきた。そのような状況が市場心理に反映された可能性があるだろう。これはどちらかというと、売り手の心理に影響を与えることが多い。つまり、景気が良くない状況は売り時ではないと考えるコレクターが多いのだ。結果として高額落札が期待される作品の出品が少なくなる。出品の判断と実際のオークションには時間的なずれがあるので、少なくとも今年前半まではその傾向が続きそうな気配がする。
最近は、写真オークション高額落札の総合リストの上位は、現代アート系作品で占められていた。2017年は久しぶりに20世紀写真のマン・レイのヴィンテージ作品“Noire et Blanche, 1926”が、クリスティーズ・パリで2,688,750ユーロ(約3.63億円)の最高額で落札された。
しかし2018年は、それまでのトレンドに逆戻り、現代アート系の現存アーティストの作品が上位を占めた。なんと1位から3位までがリチャード・プリンスの作品だった。

1位は、ササビーズ・ニューヨークで11月に開催された“Contemporary Ar”に出品された“Untitled (Cowboy), 2013”で、約169.5万ドルで落札された。100万ドル越えの作品は、2015年が8点、2016年が5点、2017年は9点と、高額セクター主導で相場が回復傾向を示してきた。しかし2018年は4点にとどまった。前年と比較すると、2018年の1位は2017年では4位にとどまってしまう。

総合順位

Richard Prince “Untitled (Cowboy), 2013” Sotheby’s New York

1.リチャード・プリンス 約1.86億円

2.リチャード・プリンス 約1.63億円

3.リチャード・プリンス 約1.54億円

4.シンディー・シャーマン 約1.41億円

5.ゲルハルト・リヒター 約1.095億円

6.ヘルムート・ニュートン 約1.093億円

7.アンドレアス・グルスキー 約1.005億円

8.ダイアン・アーバス 約8717万円

9.アンドレアス・グルスキー 約8349万円

10.ダイアン・アーバス 約8057万円

私どもは現代アート系と20世紀アート写真とは区別して集計している。しかし、今年は現代アート系が高額落札の上位を占めたので、現代アート系も、5位までだと総合順位と同じとなる。

現代アート系

1.リチャード・プリンス

2.リチャード・プリンス

3.リチャード・プリンス

4.シンディー・シャーマン

5.ゲルハルト・リヒター

上位20位のなかにリチャード・プリンスが3点、アンドレアス・グルスキーが4点、シンディー・シャーマンが4点。2017年に人気の高かったウォルフガング・ティルマンズはわずか1点にとどまっている。

Cindy Sherman ”Untitled Film Still #21A, 1978″ Sotheby’s London

20世紀アート写真

1.ヘルムート・ニュートン

2.ダイアン・アーバス

3.ダイアン・アーバス

4.ピーター・ベアード

5.ラースロー・モホリ=ナジ

20世紀アート写真では、2018年は100万ドル越え作品はなかった。1位はフィリップス・ロンドンで5月に落札されたヘルムート・ニュートンの“Panoramic Nude with Gun, Villa d’Este, Como, 1989”。現存している1点ものである可能性が高いという151.5 x 49.5 cmサイズの巨大作品。落札予想価格25~35万ポンドのところ、72.9万ポンド(約1.09億円)で落札。これはニュートンのオークション最高額での落札だった。

日本人では杉本博司が圧倒的な存在感を示した。

彼は、現代アートと20世紀写真の両分野に出品される、カテゴライズが難しいアーティストだ。特に彼の代表シリーズ“Seascapes(海景)”の人気が極めて高く相場は上昇傾向だ。現代アート系では、11月のササビーズの“Contemporary Art”オークションで“Ligurian Sea, Savoire, 1993”が43.5万ドルで落札。これは総合ランキングでは23位にあたる。
20世紀写真部門では、1月にクリスティーズ・パリでは28点の単独オークション“Hiroshi Sugimoto Photographs: The Fossilization of Time”が開催。“Sea of Japan, Rebun Island, 1996”、119.2 x 148.5 cm、エディション5の作品が30.75万ユーロ(約3997万円)で落札。同じシリーズの“Bass Strait, Table Cape,1997”も、27.15万ユーロ(約3529万円)で落札されている。
いまや杉本の“Seascapes(海景)”シリーズは、リチャード・プリンスのカウボーイ・シリーズ、シンディー・シャーマンの“Untitled Film still”シリーズと同様に、コレクター人気が集中する現代アートのアイコン的作品になっているといえるだろう。

(1ドル/110円、1ポンド/150円、1ユーロ/128円で換算)

INSULA LUX 光の島
アントニ タウレ展
@シャネル・ネクサス・ホール

INSULA LUX ©Antoni Taule

アントニ タウレ(Antoni Taule)は1945年スペイン・バルセロナ県サバデル出身。建築家を経て画家/写真家となったアーティストとのこと。
日本初個展となる“INSULA LUX 光の島”では、長年暮らし、創作の源となった地中海のフォリメンテーラ島を描いたシリーズが展示されている。彼が“私のイメージ、絵画と写真は密接に関連しているため、それらを切り離すことは難しい”と語っているように、展示されている絵画作品は写真とのかかわりを強く感じさせられる。写実的で光を巧みに取り入れた作風は、20世紀アメリカ画家のエドワード・ホッパーを思い起こすという人もいるだろう。
厳密には、展示されているのは2種類の作品となる。大判サイズの“Oil on canvas”の絵画のキャンバス作品と、写真の上に油彩で着色された24X36cmサイズの“Oil on C-print”の額装作品だ。前者の絵画は2016~2018年に描かれたもので、後者は過去に撮った写真の上に主に2018年に絵を描いたものだ。キャンバス作品が大判サイズなのに“Oil on C-print”が小ぶりになっている。たぶん写真では十分なクオリティーのヴィジュアルが技術的に引き伸ばしきれなかったのだと想像できる。しかし大判キャンバス作品も、間違いなく最初に写真が存在していて、それをベースに室内空間を描き、扉の外の風景を想像して描いたのだと思う。

現代のアート界では写真はアーティストの表現技法のひとつと認識されるようになった。21世紀になって進歩した写真のデジタル化とアート界の現代アート優先の動きによってそれはさらに加速された。
アントニ タウレはかなり以前から写真を作品表現の手段として取り入れてきた画家なのだろう。“Oil on C-print”では、写真撮影された室内写真と絵画で描かれた太陽光で輝く扉越しの野外の風景が連続している。つまりCプリントの一部に絵の具でイメージを描きこんでいるのだ。それも写真と同様に精密かつ写実的にディテールを描きこんでいるので、一見しただけでは写真と絵画とが一体化しているような印象だ。
ウィリアム・クラインや荒木経惟などのように、プリントされた写真の表面に絵の具で着色したりデザイン画を加える人はいる。しかしアントニ タウレのような両メディアを連続させ一体化させて見せるアプローチはあまり見たことがない。画家の視点で写真を表現方法に取り入れているのだ。
写真はその撮影場所のドキュメンタリー的な要素が強くなる。そこに想像力を生かして絵画を描き融合させることで、現実と空想が一つのヴィジュアルの中で共存可能になる。もう70歳を超えているのに、まるで若きアートスクールの学生が描いたかのような印象さえ受ける意欲的なアプローチだ。

INSULA LUX ©Antoni Taule

多くの作品では、空虚でオープンな暗い室内スペースが手前にあり、その先に明るい外界につながる扉が描かれている。室内には人物像、ソファー、装飾、連なる間口。扉の先には、輝く真っ白な光の開口空間、古代の建造物、海岸線、荒地、道、樹木、幻影などが描かれている。それらは時に見る側の想像力を展開させるヒントとなる。彼はこの手法で空間を表現することで、現実の中に想像上のまだ見ぬ未来への切り口を描いたのではないだろうか。
その未来には喜びも、悲しみも様々あることを暗示しているが、光の洪水の空間が象徴するように最終的には天国(死)が待っているということではないか。その静謐な作品は一種の欧州の伝統的な宗教画との関わりを思い起こさせる。ただし、瞬間を切り取る写真を使用することで、今に生きることを重視する東洋の知恵も作品のエッセンスとして取り込んでいるのかもしれない。作品の背景を色々と想像させてしまう魅惑的な作品の展覧会だ。

INSULA LUX ©Antoni Taule

最近の写真展はカメラ関連企業主催によるアマチュアを意識したものが主流になりつつある。知的好奇心の強いアート系のファンからは、写真系は表層重視で物足りない作品展示が多いという声を聞くことが多い。今回のアントニ タウレ展は、まさにアート系写真を好む人たちが待ち望んでいた展覧会だろう。

会期:2月14日(木)まで開催(入場無料・会期中無休)
時間:12:00~19:30 
会場:シャネル・ネクサス・ホール
(中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F)https://chanelnexushall.jp/program/2019/antonitaule/

テリー・オニール写真展の見どころ
チャリティー・コンサートの集合写真

伝説的ロックバンド・クイーンのボーカルのフレディ・マーキュリーの半生を描き、世界的に話題になっている映画“ボヘミアン・ラプソディー”。私はまだ予告編しか見ていないのだが、映画のクライマックスは1985年にロンドンのフォットボール用のウェンブレー・スタジアムでアフリカ支援目的で開催されたチャリティー音楽イベント「ライヴ・エイド」でのライブ・パフォーマンスだという。
このイベントの発起人は、ブーム・タウン・ラッツのリーダーだったボブ・ゲルドフ。アフリカの1億人の飢餓を救う目的で、ロンドンとフィラデルフィアで複数の当時のトップ・ミュージシャンによるライブ演奏が行われ、その模様は世界中に衛星同時生中継された。

実はこのイベントの参加ミュージシャンの集合写真をテリー・オニールが撮影している。手元の写真集によると、彼のライブ・エイドの写真は2種類ある。
まず、“Terry O’Neill’s Rock ‘n’ Roll Album” (2014年、ACC Editions刊)には、17名のカラー写真が収録。

©Terry O’Neill / Iconic Images

椅子に座ったティナ・タナ―を中心に、ポール・マッカトニー、エルトン・ジョン、ロッド・スチュアート、エリック・クラプトン、フィル・コリンズなどが写っている。

2枚目は、“Terry O’Neill: The A-z of Fame”(2013年、ACC Editions刊)、に“Princes Diana and Live Aids”というタイトルでモノクロの集合写真が収録されている。

ⓒ Terry O’Neill / Iconic Images

こちらは、当時のチャールス王子、ダイアナ妃を中心に約40名以上の集合写真。二人の王族の横には、エリック・クラプトン、フィル・コリンズがいる。ブライアン・メイ、レオナード・コーエンなどの顔もある。
このイベントは、ロンドンとフィラデルフィアで開催されている。写真には二つのイベントに参加したミュージシャンたちがいるところから想像するに、これらはライブの前後のどこかの時期にプロモーション目的で一部参加者が集合した機会に撮影されたのだと想像していた。
実は最近になって、専門家のお客様から、これらの写真はライブ・エイドではなく、カラーが1986年、モノクロが1988年のプリンス・トラスト・コンサートの集合写真ではないかと指摘を受けた。調べてみると、上記のコンサートは、CD及び映像化されていた。ジャケットの写真はまさに今回紹介したテリー・オニールの写真だった。どうも本人が勘違いしていて、それが写真集表記につながったようだ。彼のエージェントに情報を提供するつもりだ。ご指摘に心から感謝したい。

現在開催中のテリー・オニール写真展では、モノクロ写真の方が展示されている。写真集掲載写真は長方形にトリミングされているが展示作はオリジナルのスクエアー・フォーマットでプリントされている。上部に撮影の照明機材や会場のシャンデリアも写っている。本来は仕事の写真なのだが、人物と共に現場の様子を伝えることでパーソナルなドキュメント的要素を持つ作品として展示されているのだ。写真集と比べて画像がはるかに鮮明なので、自分の好きなミュージシャンの顔探しが可能だろう。写真の中心にいるダイアナ妃は、チャリティー活動に積極的だったことで知られている。はにかんだ笑顔のダイアナ妃はもうこの世にいない。テリー・オニールはポートレート写真で戦後の民主社会の気分と雰囲気を規定した写真家として知られる。彼のキャリア上、チャリティー・コンサートの集合写真も非常に重要な時代をドキュメントした作品なのだ。

実は私はロンドンで実際の「ライヴ・エイド」を体験している。資料を調べたら当時のチケットの半券、プログラム、ポスター、当時持っていたニコンFGで撮影した写真も同時に出てきた。

チケットを確認すると、入場料は5ポンド、寄付が20ポンドの、合計25ポンド(@330円/約8250円)だったことがわかる。
ちなみに同じころに隣にあるウェンブレー・アリーナで開催されたスティングのライブが14.5ポンドだったので、「ライヴ・エイド」は当時としてはかなり高価だったと思われる。

写真を確認すると英国でプリントしたコダック・ペ―パーはかなり変色していた。何枚かの写真を見ていると、関係者が観客席に水を撒いていることがわかる。非常に暑い夏の日のライブだった記憶がある。撮影した写真とプログラムに掲載されているミュージシャンの出演リストを見比べるにどうも写真を撮っていたのは前半の部分だけのようだ。開始は昼の12時でそれが夜の9時過ぎまで約20以上のライブ演奏が続いたのだ。当然、人気者はライブの後半に出演する。リストによるとクイーンは6時40分、デヴィッド・ボウイは7時20分の出演予定となっている。残念ながら彼らを撮影したものは発見できなかった。当時は、U2などの方が勢いがあり人気が高かった記憶がある。

個人的な一般論的な分析となるが、「ライヴ・エイド」が実現できたのは、80年代は先進国の人たちの間に共通の夢や未来像のようなものがあったからだと思う。皆が明るい豊かな未来のイメージを持っていたからこそ、協力してアフリカの飢饉を救うという発想が生まれたのではないか。しかしこれは先進国側の人たちの上から目線の発想と言えないことはないだろう。21世紀の現在は先進国でも貧富の差が拡大して、自分自身の生き残りで精いっぱいの人が多くなっている。現在このような音楽を通しての世界的なチャリティー・イベントの開催は難しいだろう。音楽界にしても、当時は世界中の人が知っているスーパースターのバンドやミュージシャンが複数いた。どのような音楽を聞くかは個々人のアイデンティティーとも深く関係していた。現在の音楽やファンは本当に多種多様で、ヒットやブームはみなパーソナルで局地的になってしまった。日本では洋楽自体が廃れてしまっている。映画”ボヘミアン・ラプソディー”のヒットは、かつての古き良き時代を懐かしむ風潮の表れなのだろうか。
ちなみに今回のテリー・オニール展も、ヴィジュアルで同じような体験ができる写真展だといえるだろう。

テリー・オニール 写真展
“Terry O’Neill: Rare and Unseen” 
(テリー・オニール : レア・アンド・アンシーン)
2019年1月12日(土)~3月24日(日)
1:00PM~6:00PM  月曜および火曜休廊  入場無料
Blitz Gallery

2018年アート写真市場を振り返る

遅くなりましたが、本年もよろしくお願いします。

2018年の社会状況を振り返ると、政治経済のグローバル化の揺り戻しと国民国家や地方重視という最近の大きな流れが続いた1年だった。経済面では、米国は景気拡大サイクルの後半に関わらずトランプ政権による景気刺激策によって堅調を維持してきた。しかし長期金利上昇と財政赤字拡大により、緩やかな景気拡大の終焉が意識され始めた。また秋を迎えたころから貿易戦争の懸念や中国株の下落で世界景気の先行きにも不透明感が広がってきた。

アート写真市場でも、特に秋のニューヨーク定例オークションは、顕在化し始めた将来への不透明さが反映された結果だった。
気になったのは、中高価格帯の落札率にはあまり変化がない中で、1万ドル以下の低価格帯の落札率だけが、春の79%から59%に大きく減少している点だ。出品数が春より増加した中で、低価格帯が苦戦したのだ。これは、比較的高額な現代アート系と比べて、中低価格帯の多い20世紀写真が不調だったともいえる。
しかし20世紀写真でも、アート系ファッションやポートレートは善戦していた。

過去10シーズン(過去5年)のオークション売り上げ平均額を比較してみよう。アート市場全体は、リーマンショック後の急落から2011年~2014年にかけてミニ・アートブームが到来して活況に転じる。それに引きずられ、アート写真も2013年春~2014年春にかけて一時回復するものの、その後は再び2016年まで低迷が続いた。2017年春、秋はやっと回復傾向を見せてきたが、2018年春に再び下回り、秋の実績は過去10シーズンの売り上げ平均ともほとんど同じレベルとなった。極めてニュートラルで横ばい状態の売り上げ規模に戻ってきたといえるだろう。

いまセカンダリー市場には相場の先高観がなくなってきている。最近のオークションでは、いくら貴重作でもプリント流通量が多い作品の場合、買い手は慎重で、落札予想価格が高いと不落札になる場合が多い。写真史で有名な写真家で来歴が良い作品でも、有名でない絵柄の人気も低迷している。いわゆる人気、不人気作品の2極化が進んでいるのだ。
景気サイクル後半に差し掛かる経済状況とともに、昨年に私が何度も指摘しているように、市場の構造的な問題が顕在化してきた点も影響していると考えている。
まず20世紀写真のコレクターが高齢になり減少し、供給面では処分売りが増えている。さらにミレニアム世代に代表される新しいコレクターのテイストが大きく変化し、より資産価値を意識した、インテリアでの見栄えを重視して作品を選んでいるとも解釈できるだろう。
最近のオークション結果はこのようなコレクターの傾向が裏付けられる場合が多くなってきた。特に秋のクリスティーズの“An American Journey”ではその印象を強く感じた。

さて2018年のアート写真オークション実績を見てみよう。毎回のことになるが、念のためにカバーずるカテゴリーを確認しておく。
現在は、写真表現は現代アート分野まで広がっている。また、貴重で高額な19~20世紀写真が現代アートのカテゴリーに出品される場合もある。日本ではアート写真は銀塩20世紀写真をさす場合が多いが、海外ではアート写真と現代アート系写真との融合が急速に進んでいるのだ。しかし、統計数字の継続性を重視して、ここでは従来の“Photographs”分野のオークション数字を集計している。

2018年は大手、中小、オンラインを含む43のオークションを取り上げた。出品総数は6574点、前年比約9.3%減。一方で落札数は4440点、落札率は67.3%で、前年の67.5%とほぼ同じだった。
地域別では、北米は出品数が約6.5%減、落札率は71.5%から69.08%に微減。欧州は出品数が約34.87%減、落札率は61.1%から約63.3%に改善。英国は出品数が約26.8%減少したが、落札率は60.2%から73.67%に大きく改善した。
総売り上げの比較は、通貨がドル、ポンド、ユーロにまたがり、為替レートが変動するので単純比較は難しい。私どもはオークション開催時の相場で円換算して比較している。それによると総売り上げは約67.7億円で、前年比約14%減少している。内訳は米国が約14%減少、欧州が約43%減少、英国が約16%増加だった。なお低価格帯中心のオンライン・セールスの結果だが、シェアーは落札数で約7.7%、売り上げで約3%だった。まだ比較可能なデータが豊富に揃ってないので参考値としてみてほしい。

Helmut Newton “Panoramic Nude with Gun, Villa d’Este, Como, 1989″

2018年アート写真部門の最高額落札はフィリップス・ロンドンで5月18日に開催された“ULTIMATE Evening and Photographs Day Sales”に出品されたヘルムート・ニュートンの極めて貴重な変形大判サイズの1点ものと思われる作品“Panoramic Nude with Gun, Villa d’Este, Como, 1989″の、72.9万ポンド(@150/約1.09億円)だった。2018年は、残念ながらアート写真分野の100万ドル越え作品はなかった。現代アート・カテゴリーを含むと、最高額はリチャード・プリンスの“Untitled(Cowboy), 2013”の169.5万ドル(@110/約1.86億円)となる。

20世紀写真、現代アートを含めたオークション高額落札の分析は機会を改めて行いたい。