INSULA LUX 光の島
アントニ タウレ展
@シャネル・ネクサス・ホール

INSULA LUX ©Antoni Taule

アントニ タウレ(Antoni Taule)は1945年スペイン・バルセロナ県サバデル出身。建築家を経て画家/写真家となったアーティストとのこと。
日本初個展となる“INSULA LUX 光の島”では、長年暮らし、創作の源となった地中海のフォリメンテーラ島を描いたシリーズが展示されている。彼が“私のイメージ、絵画と写真は密接に関連しているため、それらを切り離すことは難しい”と語っているように、展示されている絵画作品は写真とのかかわりを強く感じさせられる。写実的で光を巧みに取り入れた作風は、20世紀アメリカ画家のエドワード・ホッパーを思い起こすという人もいるだろう。
厳密には、展示されているのは2種類の作品となる。大判サイズの“Oil on canvas”の絵画のキャンバス作品と、写真の上に油彩で着色された24X36cmサイズの“Oil on C-print”の額装作品だ。前者の絵画は2016~2018年に描かれたもので、後者は過去に撮った写真の上に主に2018年に絵を描いたものだ。キャンバス作品が大判サイズなのに“Oil on C-print”が小ぶりになっている。たぶん写真では十分なクオリティーのヴィジュアルが技術的に引き伸ばしきれなかったのだと想像できる。しかし大判キャンバス作品も、間違いなく最初に写真が存在していて、それをベースに室内空間を描き、扉の外の風景を想像して描いたのだと思う。

現代のアート界では写真はアーティストの表現技法のひとつと認識されるようになった。21世紀になって進歩した写真のデジタル化とアート界の現代アート優先の動きによってそれはさらに加速された。
アントニ タウレはかなり以前から写真を作品表現の手段として取り入れてきた画家なのだろう。“Oil on C-print”では、写真撮影された室内写真と絵画で描かれた太陽光で輝く扉越しの野外の風景が連続している。つまりCプリントの一部に絵の具でイメージを描きこんでいるのだ。それも写真と同様に精密かつ写実的にディテールを描きこんでいるので、一見しただけでは写真と絵画とが一体化しているような印象だ。
ウィリアム・クラインや荒木経惟などのように、プリントされた写真の表面に絵の具で着色したりデザイン画を加える人はいる。しかしアントニ タウレのような両メディアを連続させ一体化させて見せるアプローチはあまり見たことがない。画家の視点で写真を表現方法に取り入れているのだ。
写真はその撮影場所のドキュメンタリー的な要素が強くなる。そこに想像力を生かして絵画を描き融合させることで、現実と空想が一つのヴィジュアルの中で共存可能になる。もう70歳を超えているのに、まるで若きアートスクールの学生が描いたかのような印象さえ受ける意欲的なアプローチだ。

INSULA LUX ©Antoni Taule

多くの作品では、空虚でオープンな暗い室内スペースが手前にあり、その先に明るい外界につながる扉が描かれている。室内には人物像、ソファー、装飾、連なる間口。扉の先には、輝く真っ白な光の開口空間、古代の建造物、海岸線、荒地、道、樹木、幻影などが描かれている。それらは時に見る側の想像力を展開させるヒントとなる。彼はこの手法で空間を表現することで、現実の中に想像上のまだ見ぬ未来への切り口を描いたのではないだろうか。
その未来には喜びも、悲しみも様々あることを暗示しているが、光の洪水の空間が象徴するように最終的には天国(死)が待っているということではないか。その静謐な作品は一種の欧州の伝統的な宗教画との関わりを思い起こさせる。ただし、瞬間を切り取る写真を使用することで、今に生きることを重視する東洋の知恵も作品のエッセンスとして取り込んでいるのかもしれない。作品の背景を色々と想像させてしまう魅惑的な作品の展覧会だ。

INSULA LUX ©Antoni Taule

最近の写真展はカメラ関連企業主催によるアマチュアを意識したものが主流になりつつある。知的好奇心の強いアート系のファンからは、写真系は表層重視で物足りない作品展示が多いという声を聞くことが多い。今回のアントニ タウレ展は、まさにアート系写真を好む人たちが待ち望んでいた展覧会だろう。

会期:2月14日(木)まで開催(入場無料・会期中無休)
時間:12:00~19:30 
会場:シャネル・ネクサス・ホール
(中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F)https://chanelnexushall.jp/program/2019/antonitaule/