2021年前期の市場を振り返る アート写真のオークション高額落札

2021年前半のアート写真主要オークション・スケジュールは、クリスティーズ・パリで6月29日開催された「Photographies」で終了した。7月のアート界は通常は夏休みシーズンにはいるのだが、今年はササビーズ・パリがファッション写真家パオロ・ロベルシの作品やコレクションを特集した「In the Studio of Paolo Roversi」を7月9日にオンライン開催している。昨年ほどではないにしても、パンデミックによる開催スケジュールへの影響はまだ残っているようだ。
昨年前期と比べると、オークション数は18から21に増加。昨年12もあったオンライン・オークションは6に減少。オークション業界は1年の経験から今回のパンデミック時代に合った業務形態を模索し適応してきたといえるだろう。

昨年の前半はパンデミックの環境下で、開催延期が頻発して、オンライン中心の極めて異例なオークション開催が続いた。今年との比較はあまり意味がないと思うが、出品数はほぼ同数の2611点、落札率は68%から73.6%に改善した。総売り上げは約32億円で、昨年同期比で約59%アップしている。1点の落札単価が約168万円と約49%アップしたことが影響している。これは、4月21日にササビーズ・ニューヨークで開催された、「50 Masterworks to Celebrate 50 Years of Sotheby’s Photographs」で、高額落札されたタルボットとリー・ミラー作品による影響が大きいと思われる。まだ相場はやっと通常モードに戻ってきたような印象だ。
今後の見通しだが、ワクチン接種は進んでいるが、変異株などのよる不透明要素が残る状況が続いている。秋シーズンのオークションに、相場回復期待から高額作品の出品がどれだけ戻ってくるかにかかっているだろう。

私どもは現代アート系と19/20/21世紀写真中心のアート写真とを区別して継続分析を行っている。厳密には、アンドレアス・グルスキー、マン・レイなどは作品評価額によって両方のカテゴリーに出品される。しかし、統計の継続性などを鑑み、ここでは出品されたカテゴリー別の高額落札作品のランキングを制作している。それではアート写真オークションでの高額落札をみてみよう。

◎19/20/21世紀写真部門

1.ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボット
“Henry Fox Talbot’s Gifts to his Sister: Horatia Gaisford’s Collection of Photographs and Ephemera, 1820-1824, 1844, 1845-1846”
(salt Print の写真作品とアルバムのセット)

ササビーズ・ニューヨーク、
50 Masterworks to Celebrate 50 Years of Sotheby’s Photographs 、4月21日、
195万ドル(約2.15億円)

2.リー・ミラー
“Nude, 1930”

ササビーズ・ニューヨーク、
50 Masterworks to Celebrate 50 Years of Sotheby’s Photographs 、4月21日、
50.4万ドル(約5544万円)

3.マン・レイ
“Le Violon d’Ingres, 1924/1950s”

クリスティーズ・ニューヨーク、
Photographs、4月6日、
47.5万ドル(約5225万円)

4.ロバート・フランク
“Trolley-New orleans, 1955”

フィリップス・ニューヨーク、
Photographs、4月8日、
40.3万ドル(約4435万円)

5.マン・レイ
“Erotique voilee, 1933”(9作品)

クリスティーズ・パリ、
Man Ray et les surrealistes. Collection Lucien et Edmonde Treillard、3月2日、
31.25万ユーロ(約4062万円)

◎現代アート系

現代アート系ではリチャード・プリンス作品が200万ドル越えで落札されている。久々に高額評価の作品が市場に戻ってきたのだ。彼の作品は写真でも現代アートと同じカテゴリーでの取り扱いとなる。同じオークションではジャン・ミシェル・バスキアのアクリル製絵画“In This Case, 1983”が9310.5万ドル(約102.4億円)で落札されている。

1.リチャード・プリンス
“Untitled (Cowboy), 2000”

クリスティーズ・ニューヨーク、
21st Century Evening Sale、
5月11日
219万ドル(約2.4億円)

2.ジョン・バルデッサリ
“Dining Scene (Two Greys) with Disruption at Source (Red, Yellow, Blue), 1990”
クリスティー・ロンドン、
Post-War and Contemporary Art Day sale、
3月25日、
31.25万ポンド(約4750万円)

(1ドル/110円、1ポンド・152円、1ユーロ・130円)