2021年秋ニューヨーク写真オークションレヴュー
写真NFT作品の高額落札で市場が騒然

2021年秋の大手業者によるニューヨーク定例アート写真オークション、
今回は9月下旬から10月上旬にかけて、複数委託者、単独コレクションからによる合計7件が開催された。
サザビーズは、9月29日に現代アート系作品中心のプライベート・オークションから“A Life Among Artists: Contemporary Photographs from an esteemed private collection”、10月5日に“Classic Photographs”と、“Contemporary Photographs”を開催。
クリスティーズは、10月6日に複数委託者による“Photographs”、メトロポリタン美術館コレクションからの単独セール“Photography of the Civil War: Property from The Metropolitan Museum of Art”を開催。
フィリップスは、10月7日にプライベート・コレクションからの“Reframing Beauty: A private Seattle collection”、複数委託者による“Photographs”を開催している。
昨年の春以来、オークションハウスはコロナウイルスの影響により、開催時期の変更、オンライン開催などの対応を行ってきた。今秋からほぼ通常通りの開催モードに戻った印象だ。

結果は、3社合計で922点が出品され、654点が落札。不落札率は約29.1%だった。総売り上げは、約1484万ドル(約16.32億円)で、コロナ禍で相場環境が状況が厳しかった2020年秋の約765万ドル(約約8.41億円)、2021年春約969万ドル(約10.65億円)から大きく改善。ほぼ約2020年春の約1368万ドル(約15億円)、2019年秋の約1381万ドル(約15.2億円)の売り上げレベルを回復している。
落札作品1点の平均金額は約22,692ドルと、2021年春の23,774ドルと同じレベルにとどまった。2021年秋の約16,000ドル。2020年春の約17,000ドルよりは改善しているものの、 2019年秋の26,800ドル、2019年春の約38,000ドルと比べるといまだに低い水準だ。高額セクターの動きにまだ活気がないとともに、中価格帯セクターも全般的に上値を積極的に追っていくような力強さは感じられなかった。
これで2021年のニューヨークの大手業者の総売り上げは、約2454万ドル(約26.9億円)となった。2020年の約2139万ドル(約23.47億円)より微増している。しかし、コロナ禍前だった2019年の約3528万ドルには及ばない。

NY 大手オークション会社 春/秋 シーズンの売上 推移

今シーズンの写真作品の最高額は、クリスティーズに出品されたジャスティン・アベルサノ(Justin Aversano/1992-)の、“Twin Flames”シリーズのポートフォリオ・セット。本作は主要オークションハウスが写真オークションでNFT(Non-Fungible Token)写真作品を出品した最初の事例となった。出品されたのは、アベルサノの作品集のカヴァー作品“Twin Flames #83. Bahareh & Farzaneh”に対するNFTと、100枚の同シリーズの物理的なプリント作品が含まれる。落札予想価格10万~15万ドルが、予想をはるかに上回る111万ドル(約1.22億円)で落札された。写真オークションで初めて落札されたNFTであり、写真NFTの世界記録となる。またクリスティーズの2021年の最高額の写真作品となった。

Christie’s NY, Justin Aversano, “Twin Flames #83. Bahareh & Farzaneh”

2位は、同じくクリスティーズに出品されたアンセル・アダムスの名作“Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941”。60年代後半にプリントされた103.8 x 150.4 cmサイズの超大判作品。このサイズは15~20作品位しか存在しないと言われている。落札予想価格50万~70万ドルが、予想上限を超える93万ドル(約1.02億円)で落札された。本作は1996年4月のササビーズ・ニューヨークで取引された作品。当時の落札予想価格は3万~5万ドルだった。

Christie’s NY, Ansel Adams, “Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941”

3位もクリスティーズのダイアン・アーバスの代表作“Child with a toy hand grenade in Central Park, N.Y.C., 1962”。本作は極めて貴重なダイアン・アーバス本人によるプリントされた作品。落札予想価格50万~70万ドルが、予想予想価格の範囲内の62.5万ドル(約6875万円)で落札。

Christie’s NY, Diane Arbus “Child with a toy hand grenade in Central Park, N.Y.C., 1962”

4位はササビーズに出品されたマン・レイのソラリゼーション作品“Calla Lilies, 1931”。落札予想価格30万~50万ドルが35.2万ドル(約3872万円)で落札されている。同作は、2002年10月のクリスティーズ・ニューヨークで18.55万ドルで落札された作品。約19年の利回りは各種手数料などのコストを考慮しなくて1年複利で単純計算すると約3.41%となる。

Christie’s NY, Justin Aversano, “Twin Flames”

今秋、一番話題なったのは、やはりクリスティーズに出品されたジャスティン・アベルサノによる、“Twin Flames”シリーズの写真NFT作品。落札価格が、ダイアン・アーバス、アンセル・アダムス、マン・レイなどの希少なヴィンテージ作品を遥かに上回ったことは大きな驚きだった。歴史をみても、オークションでの高額での取引実績は市場ルールを変えるきっかけになっている。
果たして今回の落札がNFTブームが反映された特殊例なのか、それとも写真の伝統的市場がさらに流動化する兆候なのか?この判断は極めて難しいだろう。実際、今後の展開を注意深くを見守りたいという、写真関係者の意見が多いようだった。

(1ドル/110円で換算)