Pier 24 Photography単独オークション開催
珠玉の20世紀写真が高額落札!

写真に特化した大規模な単独コレクション・セールの“Pier 24 Photography from the Pilara Family Foundation Sold to Benefit Charitable Organizations Sale”が、5月1日~2日にサザビーズ・ニューヨークにおいて2部構成で開催された。

ピア24フォトグラフィー(Pier 24 Photography)は、コレクターのアンディとメアリー・ピララの発案により、2010年にサンフランシスコのエンバカデロ沿いの空き倉庫にオープンした写真専門の大規模展示スペース。今までに11の大規模展を企画し、約20冊の写真関連書籍を出版、500名の写真家によるや約4000点のコレクションを誇っていた。
メディア報道によると、アメリカを襲う高インフレの波は極めて酷く、なんと次回の契約更新で施設の家賃が3倍に上昇する事態に直面。同館はやむなくリース期間が切れる2025年7月に正式に施設のクローズを決め、美術館コレクションの売却を今回のセールを皮切りに行うことになったのだ。運営していたピララ基金は、ピア24フォトグラフィーを閉鎖し、医療研究、教育、芸術を専門とする団体を支援する助成財団に移行する予定と報道されている。

オークションは5月1日に55点のイーブニングセール、2日に128点のデイセールが行われた。
販売総額は1062万ドル(約14.65億円)を達成。合計183点が出品され177点が落札、不落札率は驚異的な約3%だった。ちなみに春の大手複数業者のニューヨーク定例オークションの結果は、総売り上げ約962万ドル、不落札率22.2%だった。

Sotheby’s NY “Pier 24 Photography”, Robert Frank

最高額の落札作品は、ロバート・フランクの「’Charleston S. C.’, 1955」だった。写真集「The Americans」にも収録されている、アメリカ南部の人種差別をドキュメントした代表作。本作は32件の入札数を記録し、落札予想価格25万~35万ドルのところ、なんと952,500ドル(1.31億円)で落札。フランクのこれまでのオークション落札最高額を更新した。
同作カタログの作品解説では、珍しいロバート・フランクの以下のコメントが引用されている。
「初めて南部に行き、初めて本当に人種差別を目にしたのです。白人が自分の子どもを黒人の女性に預け、その女性がドラッグストアで自分のそばに座ることを許さないというのは、異常だと思った。私はこのような政治的な主張をするような写真はほとんど撮らなかった」。

Sotheby’s NY “Pier 24 Photography”, Lee Friedlander

続いたのはリー・フリードランダーの52点のポートフォリオ「The Little Screens」。1961-70年に撮影され、42点が60年代のプリントになる。今セールでは本作の評価が一番高く、落札予想価格は50万~70万ドルだった。結果は609,600ドル(約8412万円)で落札。

Sotheby’s NY “Pier 24 Photography”,Dorothea Lange

同じくドロシア・ラングの代表作「Migrant Mother, Nipomo, California、1936」も、落札予想価格20万~30万ドルのところ、609,600ドル(約8412万円)と、フリードランダーと同額で落札。もちろん同イメージの最高落札価格となる。本作は58.4X45.7cmの大判サイズで、1940年代にプリントされたヴィンテージ作品となる。

Sotheby’s NY “Pier 24 Photography”, Hiroshi Sugimoto

杉本博司の「The Music Lesson、1999」も高額で落札された。同作は1999年にベルリンのグッゲンハイム美術館から依頼された「ポートレート」シリーズのひとつ。マダム・タッソー館アムステルダムは、ヨハネス・フェルメールの名作「Lady at the Virginal with a Gentleman」をモチーフにした蝋人形を制作していた。杉本は、フェルメールがイーゼルを置いたであろう場所に三脚を立て、同作を撮影。こちらは2004年制作のエディション5、135.5X106 cmサイズの作品。落札予想価格30万~50万ドルのところ、508,000ドル(約7010万円)で落札された。

Sotheby’s NY “Pier 24 Photography”, Richard Avedon, 「Juan Patricio Lobato, Carney, Rocky Ford, Colorado, August 23, 1980」

生誕100周年を迎えたリチャード・アヴェドンの人気は全く衰えない。特に大判サイズ作品への需要の強さを感じる。2枚組作「Clarence Lippard, Drifter, Interstate 80, Sparks, Nevada, 29 August 1983」と、1985年プリントの142.9X114.3 cmサイズの「Juan Patricio Lobato, Carney, Rocky Ford, Colorado, August 23, 1980」が、ともに落札予想価格20万~30万ドルのところ、444,500ドル(約6134万円)の同額で落札されている。その他のいままではあまり人気がなかったアヴェドンのポートレートも再評価されており、軒並み落札予想価格以上で落札されている。

春のニューヨークの定例オークションが低調だったので、特に高額/中間価格帯中心の今回のオークションの動向には大きな注目が集まっていた。しかし心配をよそに3分の2の出品作が事前の予想価格以上で落札され、販売総額は事前予想価格の約120%にあたる1062万ドルの達成という、極めて好調な入札/落札結果だった。これは不確実な経済動向の見通しに関わらずハイエンドの貴重な作品への需要の強さを証明したといえるだろう。
サザビーズは、「世界23カ国からの入札、そしてきわめて好調だった今回の落札結果により、このコレクションが現代アートと写真の歴史的な交わりを描き、現代文化におけるイメージの力を反映させたかつてないほど充実したものであることが証明されました」と発表している。

(1ドル/138円で換算)