ブリッツ・ギャラリーの2024年予定
「SUKITA X SCHAPIRO展
Part-2」見どころ解説

本年のブリッツ・ギャラリーの企画展予定をお知らせしよう。

David Bowie, 1973-1989, New York ⓒ Sukita

・「SUKITA X SCHAPIRO : PHOTOGRAPHS Part-2」
鋤田正義と米国人写真家スティーブ・シャピロによる二人展パート2は、3月24日まで開催。パート1では、日米二人の巨匠による主にボウイのカラー作品を展示した。パート2では二人の原点となるドキュメンタリー系、有名人ポートレートなどのモノクロ作品を、もちろんボウイ作品も含めて展示している。パート1とは雰囲気が全く違い、ギャラリー内がとても新鮮に感じる。

Jazz, 1969
ⓒ Sukita ⓒ Delta Monde

見どころは数多くあるが、まず鋤田のキャリ初期1969年のJAZZのファッション写真には注目したい。これは、彼がシュールレアリスム画家ルネ・マグリットの作品に触発されて制作した作品。当時の日本は女性ファッションが花盛り、メンズはマイナー分野だった。逆にそれが鋤田に幸いして、表現に制限がありがちなファッション写真で写真家に多くの自由裁量が与えられたのだ。つまり本作は、仕事の写真なのだが自己表現の作品でもあるのだ。
本展には、ちょうどスティーブ・シャピロが撮影したルネ・マグリットのポートレートも展示中。二人のつながりは、デヴィッド・ボウイ、ユージン・スミスだけではないのだ。
その後のストーリーは、ボウイ・ファンの人の間ではよく知られている。鋤田はJazzのファッション写真のポートフォリオを持って当時の若者文化の中心地ロンドンに行く。その作品がきっかけでT-Rexの撮影につながり、シュールレアリスムを愛するボウイに注目されるのだ。Jazzのファッション写真がなければ、鋤田とボウイの約40年にもわたる関係は生まれなかったのだ。

Three Men, New York, 1961
ⓒ Steve Schapiro

パート2のもう一つの見どころは、シャピロの初期60年代のドキュメンタリー作品だろう。パーソナルな視点で撮影された、銀塩のモノクロの抽象美が表現された写真は必見だ。実は欧米では、彼の60年代のモノクロ写真の方がボウイ作品より高く評価されており、市場価格も高くなっている。いまの写真界は現代アート的な表現が中心だが、彼の作品にはモノクロ写真の美しさの原点が再発見できる。ロバート・フランクなど戦後の現代米国写真のファンの人にも見てほしい作品展示だ。

Andy Warhol and the Velvet Underground
at the Window, Los Angeles, 1966
ⓒ Steve Schapiro

またシャピロ作品では、ルー・リード、ニコ、アンディー・ウォーホールなどによるザ・ヴェルベェット・アンダーグラウンドの作品も含まれる。バンドは商業的には成功しなかったものの、前衛的で高い音楽性は、ボウイなどに影響を与えたことでも知られている。その他、マーロン・ブランド、モハメド・アリ、バーバラ・ストライザンド、ニコなどの珠玉のポートレートも見ることができる。

ボウイ作品では、シャピロが「The Man Who Fell To Earth, 1976」、人気の高い「Low」作品を引き続き展示。 鋤田は本展のためにHeroesセッション、「A Day In Kyoto」シリーズからセレクションした作品を展示している。
また鋤田は、時間の経過の可視化を写真で行うことを目指した、2枚組の最新プロジェクト作品も出品。(ブログの一番最初に掲載している組写真) 鋤田の、写真表現の限界を広げる挑戦は継続中なのだ。

パート2は、ボウイやミュージックファンはもちろん、写真ファン、アートファンも十分に楽しめる内容だ。また今回は、来廊者用の記念撮影スポットをドキュメント系写真の展示エリアに2か所設置。展覧会カタログもパート2用ギャラリー・カード付きで限定販売している。

・「ブリッツ・フォトブック・コレクション2024」

春にはフォトブックと写真作品を展示するイベントを不定期ながら長年にわたり開催している。原点は当時の渋谷パルコパート1の地下1階にあったロゴスギャラリーで、2000年代に5月の連休明けに毎年開催していた「レアブックコレクション」だ。写真がアート表現のひとつのカテゴリーとして一般化し、多数のヴィジュアルをシークエンスで紹介する写真集フォーマットがアーティストの世界観やコンセプトを伝えるのに適していると認識されるようになった。いまでは、アーティストが自らのメッセージを伝えるために制作した写真集は、単なるコレクターの資料ではなく、それ自体が資産価値を持ったファインアート作品だと認識されており、それらは一般的な写真集と区別されてフォトブックと呼ばれるようになった。ブリッツは長年にわたりフォトブックの啓蒙活動と新刊/レアブックの紹介を行ってきた。フォトブックガイド本も2014年に「アート写真集ベストセレクション101」として玄光社から刊行している。
今年の企画では、特に特定のテーマを設けずに、ファッション、ポートレート、ドキュメンタリー、ヌード、風景、ネイチャーなど幅広い分野のモチーフのフォトブックと写真作品をともに紹介する予定。写真作品は、ブリッツが取り扱う写真家/アーティストの名作、また多くが初公開となるギャラリー・コレクションを展示する。海外の写真オークションのプレビュー会場を意識して会場を構成する予定だ。

・「Duffy:Fashion Photographs」

PONTE VECCHIO, FLORENCE
VOGUE UK – 1961 s
ⓒ Brian Duffy

年後半には英国人写真家ブライアン・ダフィー(1933-2010)のファッション写真の展示を予定している。ダフィーは、デビット・ベイリー、テレス・ドノヴァンとともに60年代スウィンギング・ロンドンの偉大なイメージ・メーカーであるとともに、モデルと同様に有名なスター・フォトグラファーだった。彼らはそれまで主流だったスタジオでのポートレート撮影を拒否し、ドキュメンタリー的なファッション写真で業界の基準を大きく変えた革新者で、いまでは当たり前のストリート・ファッション・フォトの先駆者たちだったのだ。
彼はまた70年代にデヴィッド・ボウイ(1947.1.8 – 2016.1.10)と、ジギー・スターダスト(Ziggy Stardust、1972年)、アラジン・セイン(Aladdin Sane、1973年)、シン・ホワイト・デューク(Thin White Duke、1975年)、ロジャー(間借人)(Lodger、1979年)、スケアリー・モンスターズ(Scary Monsters、1980年)の5回の撮影セッションを行っている。特にアラジン・セインは有名で、「ポップ・カルチャーにおけるモナ・リザ」とも呼ばれている。
本展では、60年代から70年代に撮影された、ヴォーグ英国版、エル・フランス版、ピレリー・カレンダーなどに発表された作品を展示する予定だ。

以上が今までに決定している展示になる。その他、いろいろな企画の可能性を現在検討している。2024年もブリッツの活動を楽しみにしていてほしい。