「DUFFY… FASHION / PORTRAITS Part-1」
ダフィーの傑作ファッション写真を見逃すな!

ブリッツ・ギャラリーは、主に60 ~ 70年代にかけて、ファッション雑誌、広告、ボートレイトの分野で活躍した英国人写真家ダフィー(Brian Duffy 1933-2010)の写真展「DUFFY… FASHION / PORTRAITS」(ダフィー…ファション/ポートレイツ展)を開催中。ファッション写真中心に展示するPart-1はいよいよ12月22日まで。お見逃しのないように!

彼のファッション写真の特徴は洋服をメインに撮っていないこと。60 ~ 70年代にかけての撮影では、写真家に多くの自由裁量が与えられていた。いまのように、エディター、アート・ディレクター、ファッション・ブランドが撮影に口をはさむことがあまりなかったのだ。ファッション写真は作り物のイメージだからアート性がないという指摘があるが、当時の状況は全く違っていた。広い意味で仕事の写真撮影だが、写真家の自己表現がある程度発揮できたのだ。ダフィーは、ドキュメントの手法をファッション分野に取り入れることで、時代性を作品に落とし込んでいるといえるだろう。いま市場で愛でられているファインアート系のファッション写真は、実はこのように撮影ができた時代の作品が中心になっているのだ。かつてアメリカ人作家スーザン・ソンダクは“偉大なファッション写真は、ファッションを撮影した写真以上のものだ”という発言している。つまり洋服の情報を正確に伝えるファッション写真が存在している一方で、最先端の写真家による洋服販売目的にあまりとらわれないファッション写真が存在するという意味だ。まさにダフィーのこの時代の写真そのものだろう。

その後、大衆消費社会の到来とともにファッションはビックビジネスへと発展していき、写真家の創造力を発揮する余地が次第に少なくなっていく。同時に各種圧力団体による社会的抗議活動が活発化して、雑誌や広告ではタバコや過度の性的表現が自己規制の対象になる。80年代以降、特に規制が厳しいアメリカの雑誌や広告のファッション写真が単なる洋服の情報を伝える面白みがない表現になってしまうのだ。

今回展示しているダフィーの作品では、当時の活気あるロンドンなどの都市のストリートに漂っていた気分や雰囲気が見る側に伝わってくる。ダフィーにとってそれを感じ取り、伝えるツールがモデルでありファッションだった。彼は時代をドキュメントする手段としてファッション写真を撮影していた。

そして彼が積極的に取り入れていたのが、当時の大衆の憧れだったラグジュアリー・カーのジャガーEタイプ、アストン・マーチン、メルセデス・ベンツなど。そして一般大衆にもなじみのある、ミニ、アルファスッド、スクーターのヴェスパなどもファッション写真の小物として取り入れている。元祖スーパーモデルのジーン・シュリンプトンがミニの運転席に座っている写真などは、60年代を生きる若い働く英国女性が、好みのファッションを身にまとい、自分の愛車で自由に動き回るライフスタイルを見事に表現している。また写真集「DUFFY…PHOTOGRAPHER」の表紙のクルマはジャガーEタイプ。お洒落なファッションのショーファー(運転手)とモデルとの気見合わせで、当時の憧れを表現している。

ダフィーが撮影しているモデルのジーン・シュリンプトン(Jean Shrimpton、1942年11月7日生まれ)にも注目したい。彼女は今までの貴族的でグラマラスな雰囲気のモデルとは異なり、長い脚とスリムな体型が特徴。60年代のスウィンギング・ロンドンのアイコンで元祖スーパーモデルなのだ。英国発祥のミニスカートの伝道師としても知られている。シュリンプトンは、写真家デビッド・ベイリー(David Bailey)が見出したと思われているが、実はそれ以前にまだ無名の彼女を起用していたのはダフィーだった。その後に、ベイリーのミューズとして知られるようになる。彼女のニッネームは「The Shrimp」、和訳するとエビちゃん。ある写真家が日本のモデル蛯原友里が彼女にスタイルやヘア・メイクが似ていると指摘していた。本展では、シュリンプトンがモデルのファッション写真コーナーも設置されている。興味深いのは、写真を見比べるに、展示作品がすべて同じモデルだと全く気付かないこと。つまり制作側の意図により、ヘア・メイクやファッションで自由自在に雰囲気やイメージを作り上げることができるモデルだったのだ。同じ英国人モデルのケイト・モスの元祖ともいえるだろう。

ダフィーはその他にも当時を代表するモデルたちを撮影している。昨年に亡くなった、英国生まれの歌手、モデル、俳優のジェーン・バーキン(Jane Birkin, 1946-2023)。フランスの老舗メゾンエルメスの定番バッグ「バーキン」の由来にもなったのはあまりにも有名だろう。ダフィーは、若かりしまだ20歳前後の彼女を1965年に撮影している。そのほかにも、ドイツ出身の元祖スーパーモデルのヴェルーシュカ( Veruschka, 1939-)や、イナ・バルケ(Ina Balke, 1937 )なども起用している。

ダフィーが撮影したカラー写真にも注目してほしい。彼の輝かしい業績にピレリー・カレンダーの撮影を1965年と1973年に行ったことがある。同カレンダーは、イタリアタイヤメーカーのピレリーが1964年から制作されている。一般販売は行われてなく、取引先や重要顧客に配られている。かつてリチャード・アヴェドン、ハーブ・リッツ、ブルース・ウエーバー、ピーター・リンドーバークなど超有名写真家が手掛けている。ちなみに2025年は、イーサム・ジェームス・グリーンが担当。時代が反映された有名写真家によるイメージは、過去に何度も写真集化されている。最近では、2015年に過去50年の作品を収録した「Pirelli. The Calendar. 50 Years And More」(Taschen刊)が刊行。本展ではダフィーが1973年度に撮影した2点を展示している。その他、フレンチ・エルやテレグラフ・マガジンでのカラーによる仕事も紹介。1978年の黄色いアルファスッドを背景に取り込んだ作品などは、何気ないストリートの雰囲気の中で撮影されたように感じるが、実はすべてが完全に計算されつくされているのです。ヴォーグ誌のアート・ディレクターだったアレクサンダー・リーバーマンが、理想の写真だと語ったといわれる”最高のセンスをもったアマチュアで、カメラマンの存在を全く感じさせない(写真)”を思い越す、見ていて飽きない素晴らしいファッション写真の傑作だ。

作品のコレクション情報も伝えておこう。展示作品には、3種類の購入オプションがある。

・Signed Limited Edition Print
有名な代表作品の限定/銀塩写真で、ブライアン・ダフィーのサイン、
アーカイブのスタンプ、クリス・ダフィー直筆サイン入り証明書付き
シートサイズ35X24cm、35X28cm(長方形)、30X30cm(スクエア)
Edition 12~18

・Unsigned Limited Edition Print
主に代表作以外の作品となり、シートにサインはなし、
アーカイブのスタンプ、クリス・ダフィー直筆サイン入り証明書付き
シートサイズ35X24cm、35X28cm(長方形)、30X30cm(スクエア)
Edition 15
デジタル・アーカイバル・プリント

・Open Edition Print /オープン・エディション作品
(ブリッツ・ギャラリーの写真展用限定販売プリント)
アーカイブのスタンプ、財団のクリス・ダフィー直筆サイン入り証明書付き
シートサイズ31X21cm(長方形)、27X27cm(スクエア)
デジタル・アーカイヴァル・プリント、16X20“で額装済

販売価格は、美術館やシリアスなコレクター向けの銀塩プリントによるダフィーのサイン入りのリミテッド・エディションは約50万円からと高額になる。しかしその他の仕様の作品はかなりお買い求めやすい価格設定になっている。特にコレクション初心者向けのブリッツでの写真展限定のカスタム・プリントは、ダフィー・アーカイブの協力により実現したリーズナブル価格の作品。こちらはオープン・ンエディション作品なのだが、アーカイブの作品証明書が付く。展覧会の会期中のみ受注生産作品となる。おかげさまで初心者はもちろんシリアスなコレクターにも大好評だ。

本展パート1ではダフィーの珠玉の28作品を展示、店頭では素敵な写真展カタログも限定数製作して販売中。パート1の会期は12月22日まで、ダフィーのファッション写真の傑作を日本で見る機会はたぶんこれが最後になるだろう。目黒方面にお出かけの際は、ぜひご来廊ください。お見逃しのないように!

パート2では、デヴィッド・ボウイをはじめとしたダフィーの珠玉のポートレイト作品を1月15日より展示する。