2024年アート写真オークション高額落札
リチャード・プリンスのカウボーイ作品が上位を独占

まずはアート市場の中心地である米国の2024年経済を振り返ってみよう。実質GDP成長率は減速傾向だったものの景気基調は底堅く、インフレも緩やかに減速してきた。米国の中央銀行にあたるFRBは9月に利下げを開始、その後は景気への影響を確認しながら小幅利下げを続けるスタンスになった。経済のソフトランディングが視野に入ってきたといえよう。株式相場は、8月に景気減速懸念から一時大きく調整したがその後は持ち直し、年間を通して見れば堅調な相場展開となった。1月2日の始値から12月20日の終値までをみると、ナスダック総合株価指数は約31.5%、S&P500種株価指数は約24.9%、ダウ工業株30種平均は約14%上昇している。

一方で日本経済は、日銀が17年ぶりに利上げを決め、久しぶりに「金利のある世界」が戻ってきた。日経平均株価は一時史上最高値を更新し、ドル円為替相場は、一時1ドル=160円台を付けるなど歴史的な円安・ドル高水準となった、その後は円高に反転する場面もあり、振れ幅の大きな一年だった。日本経済は、内需を中心に緩やかに回復している感じだろう。2024年の年間平均TTS 為替レートは、対ドル152.58円、対ユーロ165.45円、対英ポンド197.70円(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)で、日本人コレクターにとっては2023年よりもさらに厳しい円安水準となった。

2024年の写真関連オークションは、最初の約9か月は低調な落札が続き、100万ドル越えはわずかに2件だった。しかし、10月、11月の秋のオークションでは、100万ドル越えの落札が相次いだ。最高落札額は、リチャード・プリンスによる1997年のカウボーイ作品だった。クリスティーズ・ロンドンで209.7万 ポンドで(ドル換算260万ドル強)で落札、プリンスのカウボーイ作品は2年連続の1位獲得となった。2024年の2位と3位もプリンスのカウボーイ作品だった。

4位はウィリアム・エグルストンの「Untitled, c.1971-1974」。飛行機の中でカクテルを飲んでいるところを撮影した代表作ロス・アラモス・シリーズ収録作。この写真は長らく見過ごされていて、約40年後に再発見され、初めて出版、展示されたのは2003年だったことが知られている。フレームサイズ60 x 44 in(約152 x 112 cm)、2012年制作のエディション1/2のピグメント・プリント、落札予想価格70~90万ドルのところ、手数料込み1,441,500ドル(約2.19億円)で落札。これは彼のオークション最高額落札記録。本作は、2012年3月12日にクリスティーズ・ニューヨークで開催された、デジタル写真の価値基準を大きく変えた「Photographic Masterworks by William Eggleston Sold to Benefit the Eggleston Artistic Trust」で購入された作品。当時の落札価格は386,500ドル、所有期間12年で大きな値上がりとなった。本作の出品は、写真のカテゴリーではなく、クリスティーズ・ニューヨーク行われた「21st Century Evening Sale」だった。エグルストンの大判サイズ写真が、現代アート表現の一部だと認識されている証拠だといえるだろう。
また2024年のオークションハウスの実績面では、上位10位のうちトップ8位までがクリスティーズが独占した。

2022年はマン・レイの「Le Violin d’Ingres, 1924」が、約1,240万ドル、エドワード・スタイケンの「The Flatiron, 1905」が約1,180万ドルという、写真としては異例の1000万ドル越えの超高額落札が2件あった。しかし、2023年に続いて2024年も、2022年の高額落札で歴史的な貴重作品の出品が続くという見通しが見事に裏切られた。2024年の最高落札額はほぼ2021年を下回るレベルだった。貴重な高額評価の作品を持つコレクターは経済や相場見通しに慎重で出品を控えたのだと思われる。

2024年オークション高額落札ランキング

1.リチャード・プリンス「Untitled (Cowboy), 1999」

Richard Prince, Christie’s London

クリスティーズ・ロンドン、
“20th/21st Century: London Evening Sale”
2024年10月9日
£2,097,000 (約4.14億円)

2.リチャード・プリンス「Untitled (Cowboy), 1999」

Richard Prince, Christie’s New York

クリスティーズ・ニューヨーク、
“Christie’s 21st Century Evening Sale”
2024年11月21日
$1,865,000.(約2.84 億円)

3.リチャード・プリンス「Untitled (Cowboy), 1999」

Richard Prince, Christie’s New York

クリスティーズ・ニューヨーク、
“Post-War and Contemporary Art Day Sale”
2024年11月22日
$1,744,000.(約2.66億円)

4.ウィリアム・エグルストン「Untitled, c1971\1974」

William Eggleston, Christie’s New York

クリスティーズ・ニューヨーク、
“Christie’s 21st Century Evening Sale”
2024年11月21日
$1,441,500.(約 2.19 億円)

5.ダイアン・アーバス
「Identical twins, (Cathleen and Colleen), Roselle, New Jersey, 1966」

Diane Arbus, Christie’s New York

クリスティーズ・ニューヨーク
“21st Century Evening Sale”
2024年5月14日
$1,197,000.(約1.82億円)

6.エドワード・ウェストン「Shell (Nautilus), 1927」

Edward Weston, Christie’s New York

クリスティーズ・ニューヨーク
“20th Century Evening Sale”
2024年5月16日
$1,071,000.(約1.64億円)

7.リチャード・アヴェドン
「Marilyn Monroe, Actress, New York City, 1957」

Richard Avedon, Christie’s New York

クリスティーズ・ニューヨーク
“21st Century Evening Sale”
2024年5月14日
$882,500.(約1.34億円)

8.シンディー・シャーマン「Untitled #94, 1981」

Cindy Sherman, Christie’s New York

クリスティーズ・ニューヨーク
“Post-War and Contemporary Art Day Sale”
2024年11月22日
$806,400.(約1.23億円)

9.アンドレアス・グルスキー「New York, Mercantile Exchange, 2000」

Andreas Grusky, Phillips London

フィリップス・ロンドン
“Modern and Contemporary Art Evening Sale”
2024年10月10日
£609,600 (約1.2億円)

10.アンセル・アダムス「Aspens, Northern New Mexico (Vertical), 1958」

Ansel Adams, Sotheby’s New York

サザビーズ・ニューヨーク
“Ansel Adams: A Legacy | Photographs from the Meredith Collection”
2024年10月16日
$720,000.(約1.09億円)

(為替レート/ドル円152.58円、ユーロ円165.45円、ポンド円197.70)
三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる2024年の平均TTS為替レート

「DUFFY… PORTRAITS」展開催!
ダフィの60~70年代セレブたちのカッコいいポートレイト

新年のごあいさつが遅くなりましたが、今年もよろしくお願いします。

ブリッツ・ギャラリーはダフィー(Brian Duffy 1933-2010)の写真展「DUFFY… FASHION / PORTRAITS」(ダフィー…ファッション/ポートレイト展)のパート2「PORTRAITS(ポートレイツ)」を2025年1月15日から開催します。ダフィーは60~70年代に活躍した英国人写真家。彼は、デビット・ベイリー、テレス・ドノヴァンとともに60年代スウィンギング・ロンドンの偉大なイメージ・メーカーであるとともに、有名なスター・フォトグラファーでした。

ダフィーはパート1で展示したファッションとともに、各界で活躍していた時代を代表するセレブリティーのポートレイトを撮影しています。特に知られているのはデヴィッド・ボウイ(1947.1.8 – 2016.1.10)とのセッションです。70年代に、“ジギー・スターダスト Ziggy Stardust”(1972年)、“アラジン・セイン Aladdin Sane”(1973年)、“シン・ホワイト・デューク The Thin White Duke”(1975年)、“ロジャー Lodger”(1979年)、“スケアリー・モンスターズ Scary Monsters”(1980年)の5回の撮影を行っています。特にアラジン・セインのアルバムジャケットに使用された写真は極めて有名で、「ポップ・カルチャーにおけるモナリザ」とも呼ばれています。2013年夏、ロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館で開催された“DAVID BOWIE is”展では、ダフィーによるアラジン・セイン・セッションでのボウイが目を開いた未使用カット作品が展覧会のメイン・ヴィジュアルに採用され話題になります。同展は2017年東京で巡回開催されています。

ダフィー写真展パート2では、珠玉のポートレイツ合計約30点が展示されます。シドニー・ポワティエ、マイケル・ケイン、アーノルド・シュワルツェネッガー、テレンス・スタンプ、ブリジッド・バルドー、サミー・デイヴィス・ジュニア、ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ニーナ・シモン、ウィリアム・バロウズ、デビー・ハリー、アマンダ・リア、ジョアンナ・ラムリー、ブラック・サバス、ポール・ジョーンズ(マンフレッド・マン)などが含まれます。また、本展ではデヴィッド・ボウイの作品の特集コーナーを設置、5回のセッションで撮影された珠玉の14点を紹介します。

ダフィーのポートレイトの特徴はどんな有名な被写体でも彼の前ではとてもリラックスしていることです。つまり彼は人たらしで、相手の気分を乗せることに長けていたのでしょう。カメラの前の被写体は時に調子に乗って自然でユニークな動きを見せています。ファインアートになるポートレイツは、写真家と被写体が同等な関係性であり、お互いが見たことがないようなビジュアルを作り上げるのだという共通意識を持つことが重要になります。つまり二人は共犯関係で、写真は一種のコラボ作品なのです。だから彼のポートレイトはカッコよく、見る人を魅了するのです。
そのような関係性がないほとんどのポートレイトは単なるセレブの広報や記録を目的とするブロマイド的なつまらない写真になってしまいます。しかし、現代では写真家と被写体がこのような関係性を構築するのは非常に困難でしょう。80年代以降は、大衆消費社会の到来とともにファッションと同様に音楽や映画はビックビジネスへと発展していき、セレブは多くの取り巻きに囲まれるようになります。写真家にとっては自由にコミュニケーションをとって関係性を構築する余地が次第に少なくなっていくのです。

本展で展示されるのは、作家の意思を受け継いだ息子クリス氏が運営するダフィー・アーカイブが監修/制作したエステート・プリント作品です。また日本のコレクター向けに、今回のブリッツでの写真展限定オープン・エディション・プリント(サイン入り作品証明書付き)もリーズナブル価格で特別販売されます。パート1で展示したファッション写真も写真展開催期間中はご注文可能です。またボウイの作品は、ファッション写真よりも小さいスタンダード・サイズ(約19X19cm 、19X12.7cm)のプリントの額装作品も用意しています。(フレーム約28X 36cmサイズ)

ダフィーによる、60~70年代の時代を代表する各界セレブリティーたちの珠玉のポートレイツ作品をぜひご高覧ください!

DUFFY…PORTRAITS ダフィー…ポートレイト展
2025年1月15日 (水)~3月22日 (土)
1:00PM~6:00PM/休廊 月・火・/入場無料
ブリッツ・ギャラリー
〒153-0064  東京都目黒区下目黒6-20-29

公式サイト