ウィリアム・エグルストンの珠玉のダイ・トランスファー作品
単独オークションがフィリップスNYで開催!

2025年3月18日、フィリップス・ニューヨークで マスター・ダイトランスファー・プリンターのギー・ストリチャーズ(Guy Stricherz)とアイリーン・マッリ(Irene Malli)のコレクションからのウィリアム・エグルストンによるダイ・トランスファー作品43ロットの単独オークション「Color Vision: Masterworks by William Eggleston from Guy Stricherz and Irene Malli」が開催された。
同コレクションからは、ヒロ、ブルース・ダビッドソン、ジョエル・スタンフェルドなどのカラー作品のセールが2025年を通して開催予定という。
カラーのダイ・トランスファー・プリントは、1994年にコダック社がこの手法に関連する感材の製造を中止しているので、新たに作品が制作されることはない。従って、本オークションは美術館やシリアスなコレクターにとって、有名写真家による本プロセスで制作された最高の作品を手に入れるまたとない機会となり、多くの市場関係者の注目を集めた。
結果は、予想通りに出品43ロット完売、業界用語のホワイトグローブ・オークションとなった。ほとんどの作品が落札予想価格の上限超えで落札、落札予想価格下限以下の落札はわずか3点、総売り上げは、5,665,950ドル(約8.5億円)を達成した。

Phillips NY,「Color Vision: Masterworks by William Eggleston from Guy Stricherz and Irene Malli」

今回の目玉は、1965年~1974年までに撮影されたエグルストンの代表作「Los Alamos」のポートフォリオ。今回、オリジナルの75点のセットに、2組の各13点からなるダイ・トランスファー作品の「Cousins」と「Lost and Found」が追加されており、プリント総数は101点におよぶ。今回のような、オリジナル・ポートフォリオを含む包括的なシリーズのオークション出品は初めてとのこと。落札予想価格は、200~300万ドルのところ、 1,875,000ドル(約2.81億円)で落札。これはアーティスト単一ロットとしては新記録となる。
ちなみに以前の最高額は、2024年11月にクリスティーズ・ニューヨーク、「Christie’s 21st Century Evening Sale」で落札されたフレームサイズ60 x 44 in(約152 x 112 cm)、2012年制作のエディション1/2のピグメント・プリント「Untitled, c.1971-1974」。落札予想価格70~90万ドルのところ、手数料込み1,441,500ドルで落札されている。

Phillips NY, 「Color Vision: Masterworks by William Eggleston from Guy Stricherz and Irene Malli」William Eggleston「Memphis (tricycle)、1970」

もう一つのハイライトは、2015年に制作された「The Magificent Seven」として知られる大判ダイ・トランスファー・プリント作品の出品。このグループは、エグルストンの最もよく知られた象徴的な作品7点が本人により厳選されたもの。70年以上にわたる彼の芸術的業績といえる作品群。このプロジェクト実現のために、エグルストンは、コダックが製造中止して久しいダイ・トランスファー材料の在庫を調達していたマスター・プリンターのストリチャーズとマッリと緊密に協力している。最終的に、エグルストンは、7点の厳選した作品をダイ・トランスファー・プリントで10点ずつ完成させている。いずれも、このプロセスでこれまでに制作された最大サイズの作品。この「マグニフィセント・セブン」の全作品がオークションに出品されるのは今回が初めてとのことだ。
同シリーズ中の最高額は写真集表紙にも掲載されている代表作「Memphis (tricycle)、1970」。イメージサイズ43.2 x 67.9 cm、エディション10、落札予想価格30~50万ドルのところ508,000ドル(約7620万円)で落札。
もちろん、これはダイ・トランスファー作品のオークション最高落札額となる。

Phillips NY, 「Color Vision: Masterworks by William Eggleston from Guy Stricherz and Irene Malli」William Eggleston「Untitled (Peachs!),1973」

続いたのは、「Untitled (Peaches!)、1973」。イメージサイズ43.8 x 67.9 cm、エディション10、落札予想価格15~25万ドルのところ482,600ドル(約7230万ドル)で落札されている。

第3位の高額落札は「Greenwood, Mississippi (red ceiling)、1973」。イメージサイズ44.5x 67.9 cm、エディション10、落札予想価格25~35万ドルのところ431,800ドル(約6477万円)で落札されている。

Phillips NY, 「Color Vision: Masterworks by William Eggleston from Guy Stricherz and Irene Malli」William Eggleston,「Greenwood, Mississippi (red ceiling)、1973」

いまや2012年制作のエディション2の大型サイズのピグメント・プリントは、写真ではなく現代アート分野の作品と認識され、落札予想価格の上限以上での取引が一般化している。一方で今回の目玉だった「Los Alamos」の101点の包括的で貴重なダイ・トランスファーのポートフォリオは、落札予想価格の下限以下での落札だった。かつての20世紀写真の時代、ダイ・トランスファーなどのプリント制作手法は作品価値の最重要素の一つだった。いまや、それと作品の市場価値とは関連性はあるものの、絶対的な要素でなくなっているようだ。
しかし今回のダイ・トランスファー作品のオークション高額落札は、間違いなく今後出品される大型サイズのピグメント・プリントの更なる高額評価につながると思われる。

(為替レート 1ドル/150円で換算)