
2025年春の大手3業者によるニューヨーク定例アート写真オークション、今回は4月上旬から中旬にかけて、複数委託者によるライブとオンラインの合計3件が開催された。
フィリップスは、4月2日に複数委託者による”Photographs”(223点)、サザビーズは、4月3日に複数委託者による”Photographs(Online)”(128点)、クリスティーズは、4月17日に”Photographs(Online)”(222点)を開催した。
さてオークション結果だが、3社合計で573点が出品され、451点が落札。全体の落札率は約78.7%と秋の約75.6%よりも若干改善した。ちなみに2024年秋は出品737点で落札率75.6%、2024年春は出品766点で落札率73.5%だった。総売り上げは約1009万ドル(約14.9億円)、昨秋の1466万ドル、昨春の約1159万ドルより減少している。落札作品1点の平均落札金額は21,691ドルで、昨秋の約26,328ドルより減少、ほぼ昨春の約20,600ドルと同じレベルだった。
過去10回のオークションの落札額平均と比較したグラフを見ても、総売上高は再び減少に転じている。今年も、ダイアン・アーバス、エル・リシツキーなどの高額評価のヴィンテージ作品が現代アート系オークションに出品されている。”Photographs”分野は中低価格帯の作品が中心になるので、売り上げの減少傾向は続きそうだ。

業者別では、売り上げ1位は久しぶりに約374万ドルを達成したクリスティーズ(落札率76%)、2位は約353万ドルのフィリップス(落札率80%)、3位は約281万ドルでサザビーズ(落札率80%)という結果だった。
しかしフィリップスは、2025年3月18日にウィリアム・エグルストンによるダイ・トランスファー作品43ロットの単独オークション「Color Vision: Masterworks by William Eggleston from Guy Stricherz and Irene Malli」を行い、約566万ドルを売り上げている。実際はフィリップスが売り上げ1位だったといえるだろう。

今シーズンの最高額落札は、サザビーズ”Photographs(Online)”に出品されたアンセル・アダムスの”Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941/c1942″だった。イメージサイズは37.5×47cm、落札予想価格50~70万ドルのところ63.5万ドル(約9398万円)で落札された。本作は、40年代初頭にプリントされた、現存数が少ない1948年12月のネガ再処理以前の貴重な初期プリントの1枚。

第2位は、フィリップスに出品されたリチャード・アヴェドンのファッションの有名作”Avedon/Paris, 1947-1957, 1978”だった。本作は、1947年から1957年にかけてハーパーズ・バザーのスタッフ・フォトグラファーとして撮影された初期の写真で構成されたポートフォリオ11点。1978年にメトロポリタン美術館で開催されたアヴェドンのキャリア初期の回顧展のために編集。1950年代の「ニュールック」ファッションを定義したファッション写真だと言われている。落札予想価格15~20万のとろ、21.59万ドル(約3195万円)で落札されている。

高額落札第3位は、いずれもクリスティーズに出品された、アルフレッド・スティーグリッツによる、24 x 31.7 cmサイズのphotogravure作品”The Hand of Man, 1902/c1910”と、アンセル・アダムスのポートフォリオ15点の”Portfolio Two: The National Parks and Monuments”で、ともに17.64万ドル(約2610万円)だった。
米国経済は、トランプ政権による通貨や通商の秩序を変えようとする動きで不確定要素が多くなってきている。関税、財政、インフレなどの先行きが非常に読みにくい状況だといえるだろう。米国の中央銀行に当たるFRBは「様子見姿勢」を明確にするなど、早期の利下げも遠のいたようだ。このような社会・経済の環境の中、アートの高額価格帯市場では、知名度の高いアーティストの資産価値が確かな代表作に人気が集中し、20世紀写真や若手新人のコレクションは様子見のような状況が続いている。また一時よりも円高になったものの、今の為替レベルは肌感覚ではまだまだ円安水準といえるだろう。日本のコレクターは、積極的購入には動き難くい状況だと思われる。輸送費の高騰も心理的に影響しているだろう。最近は日本のSBIアートオークションなどに良質の海外アーティストの写真作品が出品されるケーズが散見される。これらは、今の為替レートよりも円高のレベルで作品が評価されていると思われる。また国内だと作品輸送費が低く抑えられるメリットもある。まだ写真作品は少ないが、今後の出品状況を注視したい。
(1ドル/148 円で換算)