ギャラリー・アーティストの近況
Terri Weifenbach
Duffy
Steve Schapiro

テリ・ワイフェンバック(Terri Weifenbach)
 パリで美術館展開催

テリ・ワイフェンバッハの展覧会「Jardins parisiens(パリの庭園)」がパリのユージェーヌ・ドラクロワ国立美術館で開催中です。同館は、19世紀フランスのロマン主義を代表する画家ユージェン・ドラクロワが1857年から1863年までアトリエ兼自宅にしていた邸宅が美術館として公開されています。今回の企画は、『シティ・ブック パリ』のためにルイ・ヴィトンが制作しています。
同展では、ワイフェンバックの眩いカラー写真シリーズを展示。彼女の写真は、フランスの首都を象徴する緑の空間の美しさと静けさを、詩的で親密な視点で捉えており、観る者を都市中心部への視覚的な散歩へと誘っています。また同館には来館者が写真の鑑賞体験後に散策できる庭園があり、まさに最適の展示会場だといえるでしょう。
この展覧会は、画家ドラクロワの作品と対話する現代作家に焦点を当てる、同館の「Regards Croisés(交差する視線)」プロジェクトの一環として開催されています。

「画家と庭園の間には、人間の痕跡、野生の花や雑種の花、都市の庭園に適応した鳥など、さまざまな側面を持つ風景があります。定義と構成としての色。ラインとボケを提案します。セシリー・ブラウン、ドラクロワのエネルギー、ある特定のヴュイヤールの色、テオドール・ルソーの自然なパレット、ジョアン・ミッチェルの抽象画を思い浮かべています。私はこの宇宙にいて、庭で写真を撮りながら、3次元を2次元に変換する方法を考えています。私は自分のニーズに基づいて、自分が感じたことを記録します。絶え間なく続くものとともに存在する、儚さについて思いを馳せています。」
テリ・ワイフェンバック

「Terri Weifenbach : Jardins parisiens」
 ウジェーヌ・ドラクロワ国立美術館(Musée National Eugène Delacroix)
 会期:2025年11月6日~2026年1月4日

ダフィ ー(Duffy)
 デヴィッド・ボウイ「アラジン・セイン」ジャケット写真が高額落札!

Brian Duffy, original dye transfer print for Aladdin Sane album cover, 1973.
Courtesy of Bonhams.
Photo Duffy © Duffy Archive & The David Bowie Archive ™

1973年リリースのデヴィッド・ボウイの「アラジン・セイン」のアルバム・ジャケット写真は「ポップのモナリザ」として知られる、英国人写真家ブライアン・ダフィー(1933–2010)撮影の超有名作品です。11月5日にロンドンのボナムズ(Bonhams)で開催された「Mona Lisa of Pop Property From The Duffy Archive」オンライン・オークションで、本作のヴィンテージ・ダイ・トランスファーによるオリジナル作品が381,400ポンド(497,088ドル)で落札されました。1ポンド201円で換算すると約7666万円です。

本作のボウイのメイクはピエール・ラ・ロシェ(Pierre La Roche)が担当、ダフィーがHasselblad 500C 6X6  カメラで撮影したオリジナルのカラースライド(color transparency)に、フィリップ・キャッスル(Philip Castle)がエアブラシで加工したもの。キャッスルはボウイの肩に「Water mark」を描き、さらにダフィーの指示のもと、ボウイの胴体の上の白い部分を強調し、まつげを長くしています。作品サイズは32X40cm、ダフィーのサインと日付が書かれています。

この落札価格は、アルバムカバーとして、また写真家ブライアン・ダフィーにとっても、オークション新記録となりました。これまでのアルバムカバーの最高額は、レッド・ツェッペリンの同名デビューアルバム(1969年)のジャケットを飾った英国人デザイナーのジョージ・ハーディー(George Hardie)による1937年のヒンデンブルク号事故を題材としたアートワーク。2020年にクリスティーズで32.5万ドル(約3億5000万円)で落札されています。

Courtesy of Bonhams. Photo Duffy © Duffy Archive & The David Bowie Archive ™

また同オークションには、アラジン・セインのオリジナルコンタクトシート 2 枚も19,200 ポンド(25,040 ドル/約385万円)で、撮影時にボウイが座ったスツール(丸椅子 )が2,816ポンド(3,680ドル/約56.6万円)で落札されています。

・スティーブ・シャピロ (Steve Schapiro)
 ドキュメンタリー映画「Being Everywhere」が公開

スティーブ・シャピロ(Steve Schapiro, 1934 – 2022)の新作ドキュメンタリー映画「Being Everywhere」が今秋に米国で公開されます。シャピロは、1934年ニューヨーク市ブルックリン生まれ。アンリ・カルティエ=ブレッソンに憧れて写真家を志し、ウィリアム・ユージン・スミスから写真技術や取り組み姿勢を学びます。1961年にフリーランスの写真家として活動を開始。1960年代の激動するアメリカの政治、文化、社会のドキュメントに取り組みます。また、ロバート・F・ケネディの大統領選挙キャンペーンに同行し、公民権運動の重要な瞬間を撮影。彼の写真は、「LIFE」、「Vanity Fair」、「Sports Illustrated」、「Newsweek」、「TIME」、「Paris Match」などの雑誌に掲載されています。

1974年、シャピロはロサンゼルスでデヴィッド・ボウイと濃厚なフォトセッションを敢行。二人のコラボレーションの成果は、アルバム「Station to Station(1976年)」、「Low(1977年)」、「Nothing has changed(2014年)」のジャケットや、雑誌「People」、「Rolling Stone」のカバーに生かされています。有名人ポートレートや映画関連の写真でも知られおり、特にフランシス・フォード・コッポラ監督の「The Godfather(1972年)」や、マーティン・スコセッシ監督の「Taxi Driver(1976年)」のスチール写真が有名です。シャピロの写真は、パーソナルな視点でアメリカ現代史の重要な瞬間をドキュメントしていると高く評価されています。

この映画は脚本家兼映画監督モーラ・スミス(Maura Smith)が手がけており、シャピロの数えきれないほどの写真作品を通してその生涯を解き明かしています。故シャピロは映画の中で自身の作品アーカイブに囲まれながら、「どんな被写体でも挙げてくれれば、おそらく私はその人を撮影しただろう」と語っています。

映画のニューヨーク市プレミアは11月14日、その後はシカゴ、ロスアンゼルスで上映される予定です。なおニューヨーク・タイムズ紙がこの冬見るべき65本の映画の一つとして本作品をセレクト。ドキュメンタリー作品の数少ない選出作品です。日本での公開は未定です。

ブリッツ・ギャラリーでは、2023年10月に『SUKITA X SCHAPIRO PHOTOGRAPHS』(鋤田 正義 / スティーブ・シャピロ 写真展)を開催しています。

2025年秋ニューヨーク
写真オークション・レヴュー
ダイアン・アーバスの名作が高額落札

2025年秋の大手3業者によるニューヨーク定例アート写真オークション。今回は10月上旬から下旬にかけて、複数委託者によるライブとオンラインの合計3件が開催された。

フィリップスは、10月8日にアーヴィング・ペン財団所蔵作品によるアーヴィング・ペン単独オークション“Visual Language: The Art of Irving Penn”(70点)と、9日に複数委託者による“Photographs”(212点)、クリスティーズは、10日に複数委託の“Photographs(Online)”(209点)、サザビーズは、21日にニューヨーク近代美術館から出品された20世紀写真のコレクション“Selections from The Museum of Modern Art: c. 1900–1990(Online)”、そして新しい試みとして高額評価のプリントと写真の混成オークションの“Prints & Photographs Part I””(17点)、と中低価格帯の写真を取り扱う“Photographs Part II”(101点)を開催した。

さてオークション結果だが、3社合計で654点が出品され、516点が落札。全体の落札率は約78.9%と春の約78.7%とほぼ同じレベルだった。
ちなみに2024年秋は出品737点で落札率75.6%、2024年春は出品766点で落札率73.5%だった。出品数の減少傾向は、大手3社が高額評価作品の取り扱いを重視し、中小業者に低価格帯作品の取り扱いがシフトしているからだと思われる。
総売り上げは約1581万ドル(約23.39億円)、同時期の昨秋の1466万ドル、今春の約1009万ドルより増加。落札作品1点の平均落札金額は23,261ドルで、今春の約21,691ドルより増加している。
過去10回のオークションの落札額平均と比較したグラフでは、総売上高は増加に転じている。

業者別では、売り上げ1位は久しぶりに約844万ドルを達成したフィリップス(落札率76%)だった。アーヴィング・ペンの単独セールの影響が大きかった。2位は約377万ドルのサザビース(落札率78%)、3位は約359万ドルでクリスティーズ(落札率83%)という結果だった。

年間ベースでドルの売上を見比べると、2025年ニューヨーク・セールの年間売り上げは約2591万ドル(落札率約78.8%)で前年比微減だった。ちなみに2024年は約2626万ドル(落札率約74.5%)、2023年は約1865万ドル(落札率約73.7%)、2022年は約2029万ドル(落札率67.4%)だった。
2025年の売り上げ結果は高額落札が相次いだ今秋フィリップスで開催されたアーヴィング・ペンの単独セールがかなり貢献している。同セール単体で66点が落札され、486万ドルを売り上げている。これがなければ、総売り上げ、落札率、平均落札金額ともに、ほぼ最近のトレンドに沿った結果となる。

Sotheby’s NY, Diane Arbus, “Identical Twins, Roselle, N. J., 1966”

今シーズンの最高額落札は、サザビーズの新機軸のオークション“Prints & Photographs Part I””に出品されたダイアン・アーバスの名作“Identical Twins, Roselle, N. J., 1966”だった。シート68.6X68.6cm、イメージ37.5×37.5cmという大きなサイズの作品、サインは娘のドーン・アーバスによる。一流ギャラリーの取り扱い、美術館の展示などの記録がある来歴が良い作品。落札予想価格50~70万ドルのところ69.85万ドル(約1.03億円)で落札された。

Phillips NY, Irving Penn, “Ginkgo Leaves, New York, 1990/1992”

第2位は、フィリップスによるアーヴィング・ペンの単独オークション“Visual Language: The Art of Irving Penn”に出品された“Ginkgo Leaves, New York, 1990/1992”。1991年刊の写真集“Passage: A Work Record”のカバー・イメージ。イメージサイズ57.5X47cmのダイ・トランスファー・プリント。落札予想価格20~30万のところ、56.76万ドル(約8400万円)で落札、ペン作品のオークション最高落札額記録となる。

Christies NY, Ansel Adams, “Aspens, Northern New Mexico, 1958/c1968”

高額落札第3位は、クリスティーズ“Photographs(Online)”に出品されたアンセル・アダムスの“Aspens, Northern New Mexico, 1958/c1968”。イメージサイズ77.5 x 97 cmの大判銀塩作品。落札予想価格30~50万ドルのところ33.02万ドル(約4886万円)で落札されている。

さて今回サザビーズが新しい試みとして高額評価のプリント(版画)と写真の混成オークションの“Prints & Photographs Part I”を開催した。その内容と結果を詳しく見てみよう。アンディー・ウォーホール、ロイ・リヒテンシュタインなどのプリント作品とともに、ダイアン・アーバス、エドワード・ウェストンなどの写真作品が出品。全体55点のうち17点が写真関連だった。

出品作家は、ダイアン・アーバス、マン・レイ、ロバート・メイプルソープ、アルバート・ワトソン、ヘルムート・ニュートン、ラースロー・モホリ=ナジ、マヌエル・アルバレス・ブラボ、エティエンヌ=ジュール・マレー、エドワード・ウェストン、ゴードン・パークス、ザネレ・ムホリ、杉本博司と、幅広い分野と年代におよぶ。落札予想価格も下限額が10万ドル越えが7点、10万ドル以下が10点で、特に高額価格帯だけの出品ではなかった。それにプリント作品が加わるので、全体的に方向性や、まとまりは感じられなかった。現在の写真がアート界で置かれている中途半端な状況が反映されているともいえるかもしれない。このようなアプローチで写真をカテゴリー分類するのではなく、むしろ一つの表現方法ととらえて、評価額を考慮したカテゴリー分類の方がしっくりくると感じた。

Sotheby’s NY, Edward Weston, “Nude on Sand, Oceano,1936”

落札結果は17点のうち11点が落札された(落札率64%)。高額評価のロバート・メイプルソープ、ヘルムート・ニュートン、杉本博司(Sea of Buddha 004, 005, 006)は不落札だった。最高額落札は前記のダイアン・アーバスの名作“Identical Twins, Roselle, N. J., 1966”の69.85万ドル、続いたのはエドワード・ウェストンの貴重な初期プリント“Nude on Sand, Oceano,1936”で、落札予想価格25~35万ドルのところ30.48万ドル(約4510万円)で落札されている。

Sotheby’s NY, Roy Lichtenstein “Water Lilies with Japanese Bridge, from the Water Lilies series (Corlett 265; RLCR 4167)”

ちなみにプリント作品の最高額はロイ・リキテンスタイン(1923-1997)の、“Water Lilies with Japanese Bridge, from the Water Lilies series (Corlett 265; RLCR 4167)”。約211X147cmサイズのエディション23の作品。落札予想価格40~60万ドルのところ76.2万ドル(約1.12億円)で落札されている。

(1ドル/148 円で換算)