ノーマン・パーキンソン 写真展 “Norman Parkinson: Always in Fashion” ブリッツ次回展は10月11日スタート!

ブリッツ・ギャラリーの次回展は、20世紀英国を代表する写真家ノーマン・パーキンソン(1913 – 1990)の日本初個展 「 Always in Fashion 」となる。

ノーマン・パーキンソンは、ファッション/ポートレート分野において、20世紀でもっとも偉大で、影響力を持つ写真家の一人だと言われている。ファッション写真好きの人なら必ず彼の代表作品を見たことがあるはずだと思う。
ファッション写真の歴史を紹介する写真集には、間違いなくパーキンソン作品は収録されている。今回の展示作品に触れて、はじめて見慣れた写真がパーキンソン撮影だったと気付く人も多いだろう。

彼のキャリアを簡単に紹介しよう。1931年、ウェストミンスター・スクールを18歳で卒業。法廷カメラマンの見習いで写真の基礎を学んだのち、1934年にスタジオを開設。1935年に「ハ―パース・バザー」誌に雇われ、1940年まで同誌英国版の仕事を行っている。
彼の写真はキャリア初期から革新的といわれていた。パーキンソンは、スタジオから外に出て、ストリートや、遠隔地のエキゾチックな場所での撮影を最初に行った写真家の一人なのだ。モデルの存在にリアリティーを感じさせる彼の撮影方法は「ドキュメンタリー・ファッション」と呼ばれ注目される。
戦後は、「ヴォーグ」(1945-1960)、「クィーン」(1960-1964)などの世界的なファッション誌で仕事を手掛け、その後は「タウン&カウントリー」などの仕事を行っている。
彼の写真は、ヴィジュアル面から50年代パリのニュー・ルックや60年代のスウィンギング・ロンドン時代の雰囲気作りに関わる。「ファッション写真の父 」とも呼ばれ、その後に登場する若手写真家の撮影スタイルに多大な影響を与えている。英国人写真家では、60年代に登場した、デヴィッド・ベイリー、テレンス・ドノヴァン、ブライアン・ダフィーが有名。パーキンソンの写真には、彼ら3人の特徴だった、勢い、即興性、動きと変化がすでに取り込まれていたのだ。

今回の日本初個展では、1938年から1982年までに撮影されたモノクロ/カラーの代表作約25点を紹介する。
リサ・フォンサグリーヴスやマリー=エレーヌ・アルノーなどがモデルを務める有名ファッション写真から、オードリー・ヘップバーン、ジェリー・ホール、ザ・ビートルズ、デヴィッド・ボウイなどの珠玉のポートレートも含まれる。
すべてが作家の意思を受け継いで運営されているノーマン・パーキンンソン・アーカイブスから提供されるエディション付きエステート・プリント作品。
また2019年夏に刊行された「Norman Parkinson: Always in Fashion」(ACC刊)や、英国から輸入したポストカード類も販売される。

実は本展にはもう一つの見どころがある。ノーマン・パーキンソンのファッション・ポートレート写真と共に活躍した写真家の作品を展示する「華麗なるファッション写真の世界」も同時開催する。リチャード・アヴェドン、ジャンル―・シーフ、メルヴィン・ソコルスキー、ホルスト、ブライアン・ダフィーなどの作品展示を予定している。展示作品数はもう少し増えるかもしれない。
どうか楽しみにしていてほしい。

(開催情報)
「ノーマン・パーキンソン 写真展 」
(オールウェイズ・イン・ファッション)
2019年 10月11日(金)~12月22日(日)
1:00PM~6:00PM/ 休廊 月・火曜日 / 入場無料

Blitz Gallery

「Blitz Collection: Landscapes」
(ブリッツ・コレクション展:風景写真)
見どころの解説

本展では、アンセル・アダムス、マイケル・デウィック、テリ・ワイフェンバック、ウィリアム・ワイリー、岡田紅陽、伊藤雅浩、ファウンド・フォトなどを多数展示している。点数が多いメイン展示は、アンセル・アダムスと岡田紅陽になる。

アンセル・アダムス作品の展示風景

アンセル・アダムスは写真独自のアート表現を追求。光の状態をフィルムと印画紙に可能な限り精緻に再現するゾーン・システムという独自技法を開発し、自分のヴィジョンをモノクロ写真で再現した。プリントサイズ、感度など、色々な制約があったアナログ銀塩写真時代に、写真表現の可能性拡大に挑戦しているのだ。彼の技法は、アナログによるフォトショップのようだ、などともいわれている。来場者の中からは、彼の写真を見るとまるで視力が良くなったかのように感じる、という意見も聞かれた。
作家性が再評価されたことで、20世紀写真の中でも彼の作品価値は極めて安定している。

“ブリッツ・コレクション展:風景写真”の展示風景

岡田紅陽は、富士山をライフワークのテーマとして約60年以上に渡り撮影してきた。最初は富士の秀麗な姿やフォルムを追求。しかし後期になると次第に自分の精神状態や心情を反映させた富士を撮影するようになる。
今回は、当時のヴィンテージ・フレームで全作品を展示してみた。すべてが絵画用と思われる装飾的な額。写真がアートと考えられていなかった戦後昭和時代の展示方法を提示するという意図もある。金色の飾りやマット表面に布が貼られていたりする。まさに白いブックマットとシンプルなフレームを利用するのと対極の展示方。シンプルな展示の方がモノクロの富士の写真を引き立てるという感想もあるだろう。日本では写真はアート作品だとはあまり考えられていない。したがって岡田紅陽作品も作家性の見立てがあまり行われていない。個人的には過小評価だと考えている。

ウィリアム・ワイリー「The Anatomy of Trees」の展示風景

ウィリアム・ワイリーの「The Anatomy of Trees」では、コロラドの高地平原地帯の魅力的な光で、単独で生育している大木をモノクロで撮影。それぞれの木々の枝ぶりなどの表情を人間の人生に重ね合わせて表現している。8X10″の大判カメラで撮影し、インクジェットで制作。タイトルの和訳は「木々の解剖学」となる。

伊藤雅浩「陽はまた昇る / The Sun Also Rises」東日本大震災(2011/3/11)

伊藤雅浩「陽はまた昇る / The Sun Also Rises」は、21世紀の現代アート的視点で制作された風景作品としてセレクションした。本シリーズの特徴はカメラを使用しないで作品が制作されている点だろう。黒色の背景に分布している様々な大きさのカラフルなサークルは実は日本地図と重なる。伊藤は視覚で把握できない地震の作品化に挑戦。巨大地震の発生日を中心とし、前後6か月間に発生した震度1以上の地震を深度ごとに分類し、さらに各記号の直径を震度で表現し,地震規模と地震分布を可視化している。震源データは気象庁ウェブページ・震度データベースより引用。東日本大震災(2011/3/11)、阪神淡路大震災(1995/01/17)、熊本地震(2016/04/14)など、全9作品を展示。
彼の新作は、地球規模の環境を意識して制作された「植生図シリーズ」。これも21世紀の風景写真として秀逸だ。今回は展示できなかったが、シートで見せることは可能。興味ある人は声をかけてほしい。

今回のコレクション展の見どころは、様々な種類の写真制作方法が一堂に比較して見られることだ。モノクロ写真では、20世紀初頭フランスのファウンドフォト、ゾーンシステムのアンセル・アダムス、岡田紅陽の銀が浮き上がったヴィンテージ写真、正統派のマイケル・デゥイックによる21世紀の銀塩写真、フィルムで撮影してインクジェットで制作されたウィリアム・ワイリーのデジタル・アーカイヴァル・プリントまでが見比べられる。
カラーでは、テリ・ワイフェンバックの、アナログ時代のタイプCプリントから、デジタルカメラによるデジタルCプリントまでを展示。伊藤雅浩は、カメラを使用しないでデータを操作して重いテーマだが美しい抽象作品を作り上げている。

本展からは、プリント制作手法自体に優劣があるのではなく、それぞれの表現が独自の特徴を持っている事実が明確にわかってくる。またデジタル時代が到来してクオリティー自体の追求が困難で、あまり意味を持たない点も浮かび上がってくる。結局、そのうえでアーティスト/写真家が何を写真で表現して伝えたいかが問われるということなのだ。

本コレクション展は、9月29日まで開催。ギャラリーは、今週末の3連休中も23日(秋分の日)を含みオープン。火、水曜が休廊となる。写真での自己表現を考えている人や、アート写真のコレクションを考えている人はぜひ見に来てほしい。

「Blitz Collection : Landscapes」
ブリッツ・ギャラリー

写真展レビュー
“写真の時間(The Time of Photography)”
@東京都写真美術館

東京都写真美術館は、約35000点にもおぶ膨大な数の写真コレクションを誇っており、どのような切口でそれらを的確に展示するかの試行錯誤を常に行っている。
最近では、2018年5月に、写真を「たのしむ、学ぶ」をキーワードに展覧会を企画。同年11月には「建築写真」によるキュレーションに果敢に挑戦。2019年には「イメージを読む」という切口で、5月に第1期として「場所をめぐる4つの物語」を開催、今回の「写真の時間」はその第2期の企画となる。

本展では、写真が持つ時間性と、それによって呼び起こされる物語的要素に焦点を当てて紹介しているとのこと。写真と時間、そしてそこに横たわる物語の関係性を、「制作の時間」、「イメージの時間」、「鑑賞の時間」というキーワードでグルーピングしたと解説されている。キュレーションはやや抽象的で、展示の方向性が明確に提示されているわけではない。しかし今回はコレクション展なのでオーディエンスは特に展示の意図を意識する必要はないだろう。

展示されている20世紀写真の多くはアート写真市場で高額で取引されている希少な作品。美術館はヴィンテージ・プリントや初期プリントにこだわって作品収集する。もし、アート写真コレクションに興味を持つ人なら、それらの現物が見られるのは本当に貴重な体験である。特にインクジェットのプリントに見慣れた若い世代の人は、それらとの違いを意識して鑑賞してほしい。
現代作家の表現の場合、テーマ性やコンセプトが重要なのはいうまでもない。しかし、この価値観が多様化した21世紀では、表現の幅は本当に幅広いといえるだろう。そうなると一人の写真家の展示点数が限定されるコレクション展では、なかなか作家性をキュレーターが的確に提示するのは難しいと思われる。評価が定まっていない写真家の場合は、鑑賞者が持つ事前の情報が少ないのでどうしても中途半端な印象になってしまう。選ぶ側も、作品のテーマ性よりも、方法論が面白いものや展示映えする作品を選びがちになることも想像できる。このあたりが、現代作家のコレクション展での紹介の難しさだと感じる。

さて本展の見どころとなる作品を独断と偏見で紹介してみよう。
「決定的瞬間」で知られる20世紀写真の巨匠アンリ・カルチェ=ブレッソン。彼の代表作の1枚で、キャリア初期に撮影された「サン・ラザール駅裏、パリ,1932」(作品番号012)が展示されている。

Henri Cartier-Bresson,”Behind the Gare, St.Lazare,Paris France, 1932″ /TOP Collection:Reading Images

最近のカルチェ=ブレッソンの相場は、人気のある絵柄とそれ以外でかなり価格の幅が広くなってきている。本作は2017年10月にクリスティーズ・で行われたニューヨーク近代美術館の重複収蔵作品を売却するオンランオークションに出品されている。1964年にプリントされた約50X36cmの今回よりも大きめの作品。1.5~2.5万ドルの落札予想価格のところ8.125万ドル(@113/約918万円)で落札されている。MoMAコレクションのプレミアムが付いたのだろう。2011年11月に、クリスティーズ・パリの「HCB : 100 photographies provenant de la Fondation Henri Cartier-Bresson」には、同作の現存する最古と言われている1946年プリントの、23X35cmサイズ作品が出品されている。こちらは12万から18万ユーロの落札予想価格のところ、43.3万ユーロ(@105円/約4546万円)で落札されている。

第2章の見どころは、アウグスト・ザンダーの「20世紀の肖像」からの11点だろう。1918年にマルクス主義の現代作家たちと知り合い、芸術とは社会の構造を露わにする表現だ、との彼らの考えに影響を受ける。

August Sander, “Bricklayer, 1928” /TOP Collection:Reading Images

あらゆる階層、民族、職業のポートレートを 記録するという膨大なプロジェクトを思いつく。撮影ではモデルの実像をありのままに表現することを心がける。彼は無名な人達をありのまま表現し、職業を特徴付けるようと試みる。そのために撮影は被写体の仕事場などの日常環境で仕事着のままで行われている。平凡なポートレートのカタログに陥りがちなプロジェクトだが、彼のアーティストとしての被写体への繊細な感受性がドキュメントを芸術写真にまで高めたと、教科書では評価されている。ザンダーの写真はベッヒャ-夫妻、クリスチャン・ボルタンスキーをはじめその後の若いドイツ写真家、芸術家 に多大な影響を与えている。「20世紀の肖像」には様々な種類のプリントが存在する。スタジオが1944年に焼けたことから20年から30年代の本人制作のヴィンテージ・プリントは流通量が少なく非常に高額、2014年12月にササビーズで開催されたオークションでは今回展示されている作品リスト027の「レンガ積職人」と同じヴィンテージ作品が74.9万ドル(@119/約8913万円)で落札されている。
サンダー作品は、その他に息子が制作したモダンプリント(1万~数10万ドル)、孫が90年代に制作したエステート・プリント(5000ドル~)、有名作のインクジェット・プリントが存在している。

シンディー・シャーマンの初期代表作「Untitled Film Still」シリーズからも、1978年から1980年の4点が展示されている。

Cindy Sherman, “Untitled still #9, 1978” /TOP Collection:Reading Images

彼女はセルフ・ポートレート写真で知られる有名アーティスト。1977年、大学卒業後の23歳のときに本シリーズに取り組み始める。最初は自らがブロンドの映画女優に扮することから実験的に始め、その後、マリリン・モンローやソフィア・ローレンのなどの映画のワンシーンの架空のスティール写真を自らがヒロインとなるセルフポートレートとして製作していく。彼女はポップアート同様に映画という戦後の大衆文化を作品に取りこもうとしている。そして、ナルシシズムを感じさせる作品は、自作自演に酔うだけではなく、みずからが被写体になることでフィクションの中にリアリティーを見出そうとしている。同シリーズは1995年にニューヨーク近代美術館がAPを一括購入して相場は上昇した。展示されている作品とだいたい同サイズの約20x25cmサイズ、エディション10作品は、絵柄の人気度にもよるがだいたい12万~18万ドル程度からの評価となる。同シリーズの最高額は2015年5月にクリスティーズ・ニューヨークで取引された「Untitled Film Still#48」。エディション3、約76X101cmの巨大作品が、296.5万ドル(@120円/約3.55億円)で落札されている。

写真での現代アート表現で世界的に高い評価を得ている杉本博司(1948-)。2016年秋には東京都写真美術館の総合開館20周年記念展として「ロスト・ヒューマン」展を開催。人類と文明の終焉という壮大なテーマを、アーティストがアートを通して近未来の世界を夢想する、形式で提示している。

Hiroshi Sugimoto, “Regency, San Francisco,1992” /TOP Collection:Reading Images

今回のコレクション展に出品された「劇場(Theaters)」は、「海景(Seascapes)」と並ぶ杉本の代表シリーズ。彼は約40年間に渡り、消えゆく歴史的な劇場のインテリアを映画上映の光だけを利用して大判カメラで撮影している。カメラでの撮影は、映画の上映時間に合わせて行われる。結果的にスクリーンは輝く白い部分として残り、周囲の光が劇場内部を細部の装飾までを精緻に写し出している。彼は主に20~30年代に作られたクラシックな映画館を撮影。凝った作りのインテリアは、当時の急成長していた映画産業の文化的な証拠といえるだろう。
今コレクション展の中で杉本作品は特別扱い。「劇場(Theaters)」9点のための閉じた専用展示スペースが用意されている。423X541mmサイズ、エディション25の作品の相場は絵柄の人気度により1.5万~5万ドル。最近はやや勢いが衰えている印象だ。今回展示されている作品リスト061の“Regency, San Francisco,1992”は、2015年10月にフィリップス・ニューヨークで開催されたオークションで3.75万ドル(@120/約450万円)で落札されている。杉本の8×10″の大判カメラと長時間露光で制作された銀塩プリントは時間を凝縮した静寂の中に豊かな美しさを持っている。ぜひ近くに寄って劇場の細部まで鑑賞したい。

エドワード・ルシェの有名フォトブック「サンセット・ストリップのすべての建物,1966」も注目作品。

Edward Ruscha, “Every Building on the Sunset Strip, 1966” (フォトブックの部分画像) /TOP Collection:Reading Images

これは1963から1978年にかけてルシェにより自費出版された16冊のアーティストブックの第4冊目。ルシェはハリウッドの全長約2.4キロにおよぶサンセット通りの両側のすべての建物を車で走りながら撮影。なんと7メートルを超える長さのパノラマ状のヴィジュアルを折り畳んだ本になる。本展ではそれを横に広げて展示している。ドキュメント写真とコンセプチュアル・アートを融合した作品で、フォトブック制作を念頭に写真撮影が行われるアプローチは多くの写真家に影響を与えた。実は本書刊行の13年前の1954年に「銀座界隈」(木村荘八編、東峰書房、1954年刊)という2分冊の書籍が出版されている。別冊の「アルバム・銀座八丁」には、写真家鈴木芳一が撮影した戦後の銀座中通りの左右の店構えの景観を上下に対比して蛇腹折のページで紹介している。写真の扱いや文字内容の掲載方法は上記のルシェの本にかなり似ている。真偽のほどは定かでないが、ルシェが「アルバム・銀座八丁」に発想を得た可能性があると言われている。「サンセット・ストリップのすべての建物,1966」は、主要なフォトブックガイドには必ず紹介されている人気コレクターズアイテム。本の状態、初版(1966年、1000部)か2刷り(1970年、5000部)か、スリップケース/サインの有無などで、相場は1000ドル台から8000ドル台まで。

会場内には、その他にも国内外の有名写真家による名作が何気なく展示されている。アート写真のコレクションに興味ある人がじっくり鑑賞すると優に半日くらい時間がかかるだろう。コレクション展と聞くと、鑑賞者は地味な展示だという印象を持ちがちだろう。しかしTOPコレクション展は、展示作品のクオリティーが極めて高い東京都写真美術館の目玉企画だといえるだろう。今後どのような作品が紹介されるかとても楽しみだ。

TOPコレクション イメージを読む
写真の時間
http://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-3439.html
東京都写真美術館(恵比寿)

ブリッツ2019年秋の予定
風景写真コレクション展/
ノーマン・パーキンソン展

2019年秋のギャラリーの展示スケジュールをお伝えする。

9月は連休中もオープンして珠玉の風景写真を紹介、10月以降はファッション写真の有名作の展示を行う予定。

(1)「Blitz Collection: Landscapes (ブリッツ・コレクション展:風景写真)」

ⓒ Ansel Adams “Northern California Coast Redwoods, ca.1960″ from Blitz gallery collection

ブリッツ・ギャラリーは、9月12日~29日にかけて、自然風景を撮影した写真作品のグループ展を開催する。
なお本展では、ギャラリーは9月16日(敬老の日)、23日(秋分の日)もオープン。火、水曜が休廊となる。

ランドスケープ写真は、写真が誕生した19世紀から現代まで、数多くの写真家が取り組んできたポピュラーなテーマ。初期段階では美しい自然のシーンを記録し多くの人々に伝える作品が中心だった。アンセル・アダムスは写真独自のアート性を追求。光の状態をフィルムと印画紙に可能な限り精緻に再現するゾーン・システムという独自技法を開発し、自分のヴィジョンをモダンなモノクロ写真で表現した。
岡田紅陽は、富士山をライフワークのテーマとして約60年以上に渡り撮影してきた。最初は富士の秀麗な姿やフォルムを追求します。しかし後期になると次第に自分の精神状態や心情を反映させた富士を撮影するようになる。
21世紀は現代アートが市場を席巻している、写真家たちはパーソナルな視点とアート志向を強く意識し、みずからの世界観やアイデアを表現する一環として風景を撮影している。また21世紀には、地球規模の環境破壊や気候変動などに強い問題意識を持ったアーティストによる風景作品が数多く見られる。もはや風景写真はアマチュア写真家が好むものにとどまらず、現代アートの最先端のジャンルとよべる。

今回のコレクション展では、ブリッツの膨大な収蔵写真作品の中から、クラシック作品から21世紀の現代アート系作品まで、約25点をセレクションして展示。本展をきっかけに、風景写真の世界に新たな魅力を発見してもらえば幸いだ。

(展示予定アーティスト)
アンセル・アダムス、マイケル・デゥイック、テリ・ワイフェンバック、ウィリアム・ワイリー、岡田紅陽、伊藤雅浩、ファウンド・フォトなど多数を展示予定。

(2)「Norman Parkinson : Always in Fashion 」
(ノーマン・パーキンソン展)

From the roof of the Condé Nast building on Lexington Avenue. With a view of the Chrysler and Empire State buildings, New York, American Vogue, 15 October 1949. Iconic Images/The Norman Parkinson Archive

10月11日~12月22日にかけては、20世紀英国を代表する写真家ノーマン・パーキンソン(1913 – 1990)の日本初個展を開催する。
こちらは通常通り、水曜~日曜日の営業、月/火曜日が休廊となる。

パーキンソンは、ファッション/ポートレート分野において、20世紀でもっとも偉大で、影響力を持つ写真家の一人だと言われている。彼の写真は、「ハ―パース・バザー」で活躍していた戦前のキャリア初期から革新的だといわれていた。当時のファッション写真は、光やモデルのポーズを完全にコントロール可能な写真スタジオで行われていた。パーキンソンは、モデルの存在にリアリティーを感じるストリートや、遠隔地のエキゾチックな場所での撮影を最初に行った写真家の一人。彼の写真では、モデルたちは自然かつダイナミックな動きがあり、時にユーモアのセンスを持って表現されていた。彼の方法論は「ドキュメンタリー・ファッション」と呼ばれ注目される。戦後は、「ヴォーグ」(1945-1960)、「クィーン」(1960-1964)などのファッション誌で仕事を手掛け、1964年以降はフリーランスで「タウン&カウントリー」などの仕事を行っています。
今回の日本での初個展では、1938年から1982年までに撮影されたモノクロ/カラーの代表作約25点を紹介。リサ・フォンサグリーヴスやマリー=エレーヌ・アルノーなどがモデルを務める有名ファッション写真から、オードリー・ヘップバーン、ジェリー・ホール、ザ・ビートルズ、デヴィッド・ボウイなどの珠玉のポートレートも含まれる。
すべてが作家の意思を受け継いで運営されているノーマン・パーキンンソン・アーカイブスから提供されるエディション付きエステート・プリント作品。
また2019年夏に刊行された“Norman Parkinson: Always in Fashion”(ACC刊)や、ポストカードも販売する。

(同時開催)「華麗なるファッション写真の世界」

ノーマン・パーキンソンのファッション・ポートレート写真と共に、彼と同時期に活躍した写真家、リチャード・アヴェドン、ジャンル―・シーフ、メルヴィン・ソコルスキー、ホルスト、ブライアン・ダフィーなどの作品の展示を予定している。

ご来廊をお待ちしています!

嶋田 忠    野生の瞬間
華麗なる鳥の世界
@東京都写真美術館

嶋田 忠(1942-)は、カワセミ類を中心に、鳥獣専門として国際的にも高く評価されている自然写真家。埼玉県生まれだが、1980年以降は北海道を拠点に、いまでも第一線で国内外の自然写真を撮影している。

嶋田 忠”オウゴンフウチョウモドキ、2008年”

本展では約179点を展示し、彼の約40年にも及ぶキャリアを回顧するとともに、「世界最古の熱帯雨林」と言われているニューギニア島で撮影された貴重な野生動物の作品を初紹介している。
展示構成は、以下の通りとなる。
I. ふるさと・武蔵野 思い出の鳥たち 1971-79、
II. 鳥のいる風景・北海道 1980-2017、
III. 赤と黒の世界 1981-87、
IV. 白の世界 2009-14, 2010-17、
V. 緑の世界2000-18

“シマエナガ”

嶋田の写真撮影の流儀は、人と同じことはしない、人と同じ場所では撮影しないこと。誰も見たことのない鳥を撮るには、人がいない自然環境の中での撮影が必要となる。ときに厳しい天候や野生動物の脅威に身をさらすことになる。北海道や、熱帯雨林での撮影では、常に緊張感をもって覚悟を決めて撮影に臨むという。
嶋田によると作品制作では現場の事前観察が70%を占めるという。カメラでの撮影は一連の過程の最後の仕上げとのこと。「日本一シャツターを切らない写真家ではないか」と自身を評している。撮影の失敗はほとんどないという、徹底的に観察し、データを収集して、様々な状況を想定して、複数の撮影プランを構築する。こだわりを持たずに、上手くいかないとすぐに諦めて、次のプランの実行に移るとのこと。鳥からは約10メートルの距離で撮影する。すべて自らが隠れる場所を事前に作り込み、1週間くらい自然の中に放置しておくという。そうすると鳥も写真家の隠れ場所を意識しなくなるのだ。

“オジロオナガフウチョウ オス”

まるで、ドキュメンタリー写真家のユージン・スミスのようだと直感した。彼は最初からカメラを被写体に向けることなく、まず行動を共にする。相手が写真家とカメラを意識しなくなり、自然な態度や表情になった時に撮影するのだ。またユージン・スミスを敬愛するテリー・オニールがフランク・シナトラを撮影した時のエピソードも思い出した。彼もシナトラと行動をずっと共にするとともに、時にカーテンなどに隠れて自然な表情を切り取ったという。嶋田はまさに自然環境の中で鳥という被写体相手に完璧なドキュメントを目指しているのだ。ただ鳥を運任せに超望遠レンズを駆使して連写するのではない。自然環境にいるそのままの鳥の姿を、その羽毛の質感までもを忠実に表現しようとしている。彼の鳥の写真は非常に高いレベルの職人技にまで高められているといえよう。また写真撮影の一連の過程が一種のパフォーマンスのような自己表現にさえなっていると感じる。

Terri Weifenbach “Des oiseaux”(Editions Xavier Barral Paris、2019年刊)

ファインアート系分野の写真家は、鳥自体を撮影することはない。何らかの感動があって、それを表現する中に鳥が写されている。自然が作品テーマに関わるときには鳥が写っている場合が多い。たとえば、パリ在住の米国人写真家テリ・ワイフェンバックは、自然風景や植物を撮影対象として作品制作をしている。そこに鳥が含まれていることがある。身の回りの何気ない自然風景でも決して静止しているのではなく、風や昆虫、鳥たちの動き、光の変化で、まるで万華鏡のように常に変化している様子を、ピンボケ画面にシャープにピントがあった部分が存在する、瞑想感漂うイメージ表現している。最新刊の写真集“Des oiseaux” (Editions Xavier Barral Paris、2019年刊)では、彼女のかつてワシントンD.C.の自宅周辺で、移り変わる四季の自然風景の一部として鳥が撮影されている。

深瀬昌久の「烏」(蒼穹社、1986年刊)は、国内外で高く評価されているフォトブック。烏を不吉な存在の象徴として、戦後の工業化によりもたらされた、非人間的、環境が汚染された環境における、パーソナルな絶望を本の中で表現したと評価されている。金子隆一は、“日本写真集史 1956-1986(赤々舎、2009年刊)”で、「烏は、深瀬自身の孤独の化身である。そして写真集の最後に登場するホームレスの写真が、このシリーズのテーマを物語っている。それは社会に存在しながらも片隅でしか生きられない、人の眼に触れない存在の象徴として表されているのだ」と同書を評している。

写真には価値基準が異なる様々な分野が存在している。どの分野の写真でも、その最先端の仕事を行っている人は、アプローチは違えども、非常に高い強度を持って、また覚悟を持って被写体に接している。その姿勢には、アートの基本である何らかの感動を見る側に伝えるという作家性が意識的/無意識的に滲み出ている。ファインアート系には、それを評価する基本的な方法論が存在する。従来、その範疇だと考えられていなかった分野で活躍する写真家の作品でも、誰かがその作家性を見立てて、アート系の方法論の中での存在意義が語られれば、アート作品だと認知されるようになる。

かつてはアート性が低くみられたドキュメント、ファッション、ポートレート。いまやその中にも優れたファインアート系作品が含まれることは広く認知されている。それは本展のような自然写真の最前線で40年以上に渡り活躍している写真家の作品にも当てはまるだろう。
東京都写真美術館は今回の展覧会開催で、嶋田忠の作家性の「見立て」の第1歩を踏み出したと解釈したい。本展カタログに掲載されている学芸員関次和子氏のエッセーでは、「嶋田が作品集を制作するプロセスは、テーマやタイトルが決まると。ストーリーを考え、大量の絵コンテを描き、撮影の構図が確定すると、最後に写真撮影に取り掛かるというもので、それは現在でも変わっていない。この手法は人から学んだのではなく、自らで編み出したもので、映画製作の意プロセスに似ている」と記している。重要なのは、上記の嶋田のテーマが、いまという時代の中でどのように存在意義が語られるかだろう。
本展カタログの樋口広芳東京大学名誉教授のエッセーでは、「身近な鳥の世界を気軽に撮影することの楽しみが、多くの人に広がっていくことも、とても素晴らしいことだ。野生の鳥の世界の観察や撮影を通じて自然を愛し、理解する人の数が増えれば、今日急速に失われつつある自然環境の保全ももっと進みやすくなるに違いない」と書いている。たぶん、いま世界的に叫ばれている地球環境保護との関連や、自然の撮影と個人的生き方との関連などの見立てが可能だと思う。
本展がきっかけとなり、嶋田の作品性の評価が多方面から行われることに期待したい。

嶋田 忠 野生の瞬間 華麗なる鳥の世界
東京都写真美術館
7月23日(火)~9月23日(月・祝)10:00~18:00、
木/金は20:00まで(7/25-8/30の木金は21:00まで)
入館は閉館の30分前まで
休館日 毎週月曜日

新機軸のアート写真オークションの試み
女性やファッション系に特化した企画(3)

さて本年の6月19日、クリスティーズは、舞台をニューヨークからパリに移して、Leon Constantiner氏のコレクションからの最後になる“Icons of Glamour & Style: The Constantiner Collection”を開催した。

今回は92点が出品され落札率は81.5%、総売り上げは約264.3万ユーロ(約3.3億円)だった。カタログ・カヴァーを飾ったのはヘルムート・ニュートンのポラロイド作品“Poster Project Wolford, 1995”。落札予想価格8000~1.2万ユーロのところ2.5万ユーロ(約312万円)で落札されている。実は本作は2008年に開催された最初の“The Constantiner Collection”で不落札になった作品。この10年間にファッション系作品の人気が高まった事実を象徴した落札結果だったと言えるだろう。
ニュートンは15点が出品され、12点が落札。やはり知名度が低い絵柄の作品は不落札だった。

Helmut Newton “Sie Kommen, Dressed & Sie Kommen, Nude, Paris,1981” Christie’s Paris

ニュートン作品の最高額は“Sie Kommen, Dressed & Sie Kommen, Nude, Paris,1981”, 20 X 24″サイズの2枚組作品。15~25万ユーロの落札予想価格だったが、ほぼ下限の17.5万ユーロ(2187万円)で落札された。本作品は1992年4月のササビーズ・ニューヨークにおけるオークションにおいて2.09万ドルで落札された作品。今回の17.5万ユーロは、1ドル・1.12ユーロで計算すると約19.6万ドル。1992年からの約28年間で約9.37倍になった計算になる。単純な複利計算では約8.32%で運用できたことになる。参考までに、1992年4月の米国30年債の利回りは約8%だった。

Richard Avedon “Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955″ Christie’s Paris

最高額はリチャード・アヴェドンのアイコン的作品“Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955” の、大判サイズの130.5 x 104 cm作品。25~35万ユーロの落札予想価格だったが、こちらもほぼ下限の26.2万ユーロ(約3275万円)で落札された。本作品は2005年10月に開催された上記の“20th Century Photographs -The Elfering Collection”に出品され18万ドルで購入された作品。今回の26.2万ユーロは、1ドル・1.12ユーロで計算すると約29.34万ドル。2005年からの約14年間で約1.63倍になっている。単純な複利計算、約3.55%で運用できた計算になる。ちなみに、2005年5月の米国10年債の利回りは約4%だった。

Andy Warhol “Statue of Liberty, 1976-1986” Christie’s Paris

続いたのはアンディー・ウォーホールの6点のグリッドの組写真。4~6万ユーロの落札予想価格だったが、上限の3倍以上の21.25万ユーロ(約2656万円)で落札。本作品は2000年4月にクリスティーズ・ニューヨークで開催された“Photographs”に出品され4.7万ドルで購入された作品。今回の21.25万ユーロは、1ドル・1.12ユーロで計算すると約23.8万ドル。2000年からの約20年間で約5倍になった。単純な複利計算では約8.45%で運用できたことになる。2000年4月の米国10年債の利回りは約6.2%だった。

高額落札の作品で、過去のオークション落札記録のある作品はいずれも利益を出している計算になる。しかし、購入時期によってマイナス利回りになる場合もある。購入時期が2008年4月というリーマンショック前の相場のピーク時に購入されたのが、リチャード・アヴェドンによるアメリカの有名モデル・女優ローレン・ハットンの大胆な構図のセミ・ヌード作品“Lauren Hutton, Great Exuma, The Bahamas, October 1968”。

Richard Avedon “Lauren Hutton, Great Exuma, The Bahamas, October 1968” Christie’s Paris

当時の購入価格は12.7万ドルだったが、今回の落札価格は9.375万ユーロ(約1171万円)。1ドル・1.12ユーロで計算すると約10.5万ドルになるので、約11年の所有で単純な複利計算ではマイナス約0.675%の運用だった計算になる。個人的には相場のピークという最も厳しいタイミングでの作品購入でも、当初の価値をキープしているのは驚異的なパフォーマンスだと見ている。
念のために確認しておくが、上記の運用利回りは経費を考慮していない単純な計算になる。実際には、オークション会社への手数料や所有期間の保険料、保管料、作品輸送費用などの諸経費がかかることになる。

リーマンショック後は世界的に金融緩和が進み、低金利が一般化してしまった。現在の米国10年債の利回りでさえわずか2%程度だ。この経済状況は市場性の高い作品の将来価値にどのように影響を与えるか、また与えないのか、個人的に今後の動向に興味を持っている。

オークショナーを務めたフィリップ・ガーナ―氏は、本セールを振り返り“今回で最後になるConstantiner Collectionが市場に強い情熱を持って受け入れられたことをうれしく思う。今回の成功は、私たちの文化と写真史における、偉大なファッションと関連するエディトリアル写真の偉業の重要性を強調しているといえるでしょう。”と語っている。まさにその通りのオークション結果だったといえるだろう。

私は20世紀のファッション/ポートレート写真分野は、まだまだ再評価される可能性のある写真家が数多く残っていると考えている。

(1ユーロ/125円で換算)

新機軸のアート写真オークションの試み(2)
ファッション系はどのように市場で認知されたのか

クリスティーズ・パリで6月19日に開催に開催された、“Icons of Glamour & Style:The Constantiner Collection”の結果を紹介する前にファッション/ポートレート系の写真がどのようにアート写真市場で認知されるようになったかを紹介しておこう。ファッション、ハイスタイル、ビューティー系の写真は、ドキュメント性が重視される写真界では、虚構のイメージということで過小評価され続けてきた。ファインアート写真のオークションやギャラリー店頭でも、長らく同様の扱いを受けてきた。別の連載の「アート系ファッション写真のフォトブック・ガイド」で紹介しているように、1970~90年代にかけては美術館でファッション写真の展覧会が数多く開催されるようになった。
私がよく引用する代表的な展覧会は、戦後ファッション写真の歴史を提示した19991年に英国のヴィクトリア&アルバート博物館で開催された“Appearances : Fashion Photography Since 1945”だ。

ヴィクトリア&アルバート博物館“Appearances : Fashion Photography Since 1945”。掲載画像は展覧会の入り口のコラージュ作品。

美術館でファッション写真が取り上げられたからといって、すぐにそれらの作品がマーケットで高額で取引されるわけではない。まずその動きに反応したのは、アート写真で商売をしているギャラリーやディーラーだ。アート・ビジネスの儲けの基本は、過小評価されている分野の作品を価格が安いうちに、他の市場参加者が気付かないうちに発見することに尽きる。そして企画展を通して新たな価値基準をコレクターに提示していく。美術館展開催がきっかけで、プライマリー・マーケットの参加者が過小評価されているファッション/ポートレート系写真家の発掘を始めたのだ。
90年代以降、ニューヨークのロバート・ミラー、スティリー・ワイズ、ハワード・グリンバーグ、ジェームス・ダジンガー、LAのフェヒー・クレイン、ロンドンのハミルトンズなどのギャラリーは、明らかにこの分野の将来性を意識した写真家の取り扱いを行うようになる。写真展開催に際して関連写真家のフォトブックも相次いで刊行される。カンが良いコレクターも、90年くらいからファッション写真のコレクションを積極的に開始する。知名度のある写真家の名作でも、まだ他の20世紀写真のマスターの作品と比べて安かったのだ。

“20th Century Photographs -The Elfering Collection”

この分野の作品の評価がセカンダリー市場で本格的に認知されたのは、2000年代に行われたいくつかの単独コレクション・セールの成功による。大手業者のクリスティーズは積極的に仕掛けを行ってきた。特に2004年にクリスティーズに移籍して写真部門を統括したフィリップ・ガーナ―(Philippe Garner)氏の手腕が大きいと思われる。まずニューヨークで2005年10月10日に“20th Century Photographs -The Elfering Collection”を開催。これはドイツの写真家、コレクター、ギャラリストのGert Elfering氏による、リチャード・アヴェドン、アーヴィング・ペン、ヘルムート・ニュートン、ピーター・ベアード、ロバート・メイプルソープ、ハーブリッツなんどの162点のセール。売上はなんと約715万ドル、落札率は88%だった。アヴェドン、ペンなどを含む12人の写真家の当時のオークション落札最高額を更新した。
2007年4月には、クリスティーズは“The Elfering Collection”からのホルストに特化したオークションを開催。そして、ちょうど相場のピークだった2008年4月にはファッション、ポートレート系中心の135点からなる“Photographs -From the collection of Gert Elfering”を開催。売上約427万ドル、落札率は84%を達成している。

“Icons of Glamour & Style: The Constantiner Collection”

クリスティーズは続けて、メキシコ出身のコレクター Leon Constantiner氏が1990年から収集した、グラマー、エレガンス、理想化された女性の美が主テーマに収集されたファッション系写真のセール“Icons of Glamour & Style: The Constantiner Collection”を2008年12月と2009年2月(パート2)の2回に分けて実施。2008年12月のオークションでは、厳しい景気状況の中で320点が出品され281点が落札、落札率は驚異の約87.8%、総売り上げが約747.2万ドルだった。最高額は、ヘルムート・ニュートンの組写真“Sie Kommen (Naked and Dressed) Paris, 1981”。当時の作家落札最高額の66.25万ドルで落札されている。
これらの一連のオークションの成功がきっかけで、アート系のファッションとポートレート作品の、潜在需要の高さが市場に認識される。また景気動向にあまり影響を受けない点も強く印象付けられた。

“Icons of Glamour & Style: The Constantiner Collection Part 2”

その後は、同様の企画が行われるようになり、前記“The Elfering Collection”からは、2010年6月にクリスティーズ・パリでシャンルー・シーフに特化した“Jeanloup Sieff Photographies – Collection Gert Elfering”、2013年9月にはクリスティーズ・ロンドンで“Kate Moss From The Collection of Gert Elfering”、2014年7月にはクリスティーズ・パリでは複数委託者による“PHOTOGRAPHS ICONS & STYLE”が行われている。

振り返ると、1970~90年代にかけて、美術館による新しい価値の発見と提示、プライマリー・マーケットでのギャラリーの取り扱い開始、フォトブックの出版、コレクターによる作品コレクションの構築、セカンダリー・マーケットのオークションでの売買の増加という流れがあった。だいたい約20~25年程度で、ファッション/ポートレート系作品は20世紀写真における市場性の高い人気分野として定着してきた。いまでは現代アートはコレクターの知的面に、アーティストが新たな視点を提供する。ファッション/ポートレート系はコレクターの心に、写真家が時代の気分や雰囲気を抽出して訴えていると考えられている。

新機軸のアート写真オークションの試み
女性やファッション系に特化した企画(3)に続く。

新機軸のアート写真オークションの試み
女性やファッション系に特化した企画(1)

アート写真の定例オークションは、4月のニューヨーク、5月のロンドン、6月にかけては欧州で開催される。今年はそれ以外に、開催企画の趣旨が似通った興味深いオークションが大手業者のフリップス・ニューヨークとクリスティーズ・パリで開催された。

Phillips New York “Artist | Icon | Inspiration Women in Photography Presented with Peter Fetterman”

フリップス・ニューヨークは、“Artist | Icon | Inspiration Women in Photography Presented with Peter Fetterman”を6月7日に開催。これは、フィリップスとギャラリストでコレクターのPeter Fettermanのコラボで実現した企画オークション。写真の歴史における女性の重要な役割に注目して、ドロシア・ラング、ダイアン・アーバス、グラシェラ・イトゥルビデ、キャリー・メイ・ウィームス、サリー・マンなどの女性写真家の作品と、ファッション・ポートレートなどの女優や女性モデルが被写体になったアイコニックな写真作品107点のオークションを実施している。
これは市場で人気が高く売りやすい女性が被写体のアート系のファッション/ポートレート写真と、写真史で活躍した女性写真家の作品を一緒にし、「女性」という非常に幅広いテーマでまとめた企画オークション。「男性」という切口でのオークションだと、女性差別だと言われかねないし、たぶん範囲があまりにも広くて企画として成立しえないだろう。やや皮肉的な見方をすれば、それぞれの分野では十分な作品数集まらなかったことによる苦肉の策という面もあるかもしれない。
アート写真業界的には、写真史での知名度と比べて市場では過小評価されている女性写真家や、男性写真家による知名度の低い女性のポートレートに光を当てようという、市場活性化の意味もあるだろう。

lot 105 Sabine Weiss “La 2CV sous la pluie, Paris 1957″sold for $4,750

個人的には、女性写真家のサビーヌ・ ヴァイス(Sabine Weiss 1924-)、ヘレン・レヴィット(Helen Levitt 1913-2009)、男性写真家の、エメット・ゴーウィン(Emmet Gowin 1941-)や、ルネ・グローブリ(Rene Groebli 1927-)の女性ポートレートは、市場の見立てによってはもっと注目される可能性があると考えている。出品作品の内容は極めて充実している。今回の作品をベースにしてさらに肉付けをすれば、十分に多くの集客が期待できる展覧会が開催可能だろう。

結果は、落札率71.03%、ちなみに今年の私どもで把握している全オークションの落札率平均は67%。総売り上げは約98.5万ドル(約1.08億円)だった。ほとんどの作品が予想範囲内での落札だった。

Carrie Mae Weems “Untitled (man smoking) from Kitchen Table Series, 1990”

最高落札作品は、写真史におけるアイコン的作品のドロシア・ラング(Dorothea Lange、1895-1965)の“Migrant Mother, Nipomo, California,1936”。同作にはラングによる、1953年と1955年の手紙とハガキが付けられている。落札予想価格の範囲内の8.75万ドル(約962万円)で落札された。

それに続いたのは、米国における黒人女性のアイデンティティー提示をテーマにしているキャリー・メイ・ウィームス(Carrie Mae Weems 1953-)の代表作“Untitled (man smoking) from Kitchen Table Series, 1990”。本作は、68.3 x 68.3 cmサイズ、エディション5点、アーティストプルーフ1点の作品。落札予想価格上限のほぼ2倍の7万ドル(約770万円)で落札された。これはアーティストによるオークション落札最高額。

3位になったのはアン・コーリアー(Anne Collier、1970-)の、“Relevance, Supposition, Connection, Viewpoint, Evidence from Questions, 2011”。ほぼ落札予想価格上限の6.25万ドル(約687万円)で落札された。これもアーティストによるオークション落札最高額。

オークション・カタログの表紙作品はアルマ・レビンソン(Alma LAVENSON 1897-1989)の“Self Portrait,1932”、落札予想価格上限を超える1.625万ドル(約178万円)で落札された。

Graciela Iturbide “Mujer angel, Desierto de Sonora, Mexico (Angel Woman), 1979”

その他では、メキシコ人女性写真家グラシェラ・イトゥルビデ(Graciela Iturbide1942-)の“Mujer angel, Desierto de Sonora, Mexico (Angel Woman, Sonora Desert, Mexico), 1979”が、落札予想価格上限の3倍以上の2万ドル(220万円)で落札された。これもアーティストによるオークション落札最高額となる。

複数の女性写真家がオークション落札最高額記録を更新したことは、本企画がきっかけに彼女たちの作品が注目され、市場でより適正に評価されたということだろう。このように欧米では写真史と市場が互いに影響を与え合っており、過小評価されている分野に光を当てるような試みが繰り返し行われているのだ。

次の「女性やファッション系に特化した企画(2)」では、クリスティーズ・パリで6月19日に開催に開催された、“Icons of Glamour & Style :The Constantiner Collection”の結果を紹介する。

(1ドル/110円で換算)

2019年春/ロンドン・欧州各都市
アート写真オークションレビュー

5月16日~19日に行われたロンドンのサマーセット・ハウスで開催されたフォト・フェア“Photo London 2018”にあわせてアート写真オークションがロンドンで行われた。5月16日に、複数委託者によるオークションが大手のフィリップス、ササビーズで開催。今回クリスティーズは、6月19日に単独コレクションからの“Icons of Glamour & Style: The Constantiner Collection”をパリで開催。こちらの分析は機会を改めて行いたい。

さてロンドンでの2社の実績は、総売り上げ約281万ポンド(約4.07億円)、281点が出品されて196点が落札、落札率は約69.75%だった。
昨年同期の2社の実績と比べると、売上が約42%減、落札率も81.55%から大きく低下している。フォト・ロンドンの売り上げも、業者によりかなりばらつきがあり、傾向を把握しにくかったと報道されている。やはり混迷している英国のEU離脱(ブレクジット)の動向がコレクター、特に優れた作品を持つ出品予定者の心理に影響を与えたのだろう。

Sothebys London Photographs Auction, Peter Lindbergh “Estelle Lefebure, Karen Alexander, Rachel Williams, Linda Evangelista, Tatjana Patitz, Christy Turlington, 1988”

高額落札を見てみよう。ササビーズでは、落札予想価格が最高額の7~9万ポンド(1015~1305万円)だったマリオ・テスティーノの“Kate at Mine, London, 2006”が不落札。これは180 X 270cmの巨大サイズ、エディション2の作品。テスティーノの作家性を考えるに、作品サイズの評価が過大だったと思われる。
落札最高額は、ピーター・ベアード“Loliondo Lion Charge, for The End of the Game/Last Word from Paradise, 1964”、ピーター・リンドバーク“Estelle Lefebure, Karen Alexander, Rachel Williams, Linda Evangelista, Tatjana Patitz, Christy Turlington, 1988”。ともに7.5万ポンド(約1087.5万円)で落札された。
フリップスの最高額は、マン・レイの“La Priere, 1930”の10万ポンド(約1450万円)。続いたのはトーマス・ルフの 201 x 134 cmサイズン巨大作品“16h28m/-60°,1992”で5.625万ポンド(約815万円)だった。

Phillips London, Auction catalogue

フィリップスのカタログ表紙作品は、アン・コーリアー(Anne Collier、1970-)の“Folded Madonna Poster (Steven Meisel)、2007”。シンディー・シャーマンやローリー・シモンズに影響を受けた、写真や文化の本質を探究した作品を発表している注目女性作家。本作は、彼女が、スティーブン・マイゼルがマドンナの“Bad Girl”シングル用に撮影した写真を再撮影したもの。彼女は一度折り畳まれたポスターというモノを作品の主体に変えている。2枚の写真を作品で提示することで、当初この写真がどのように提示され流通して消費されたかを気づかせようとしているのだ。見る側に彼女と同様の知覚と作品提示のプロセスの探求を求めた作品。フィリップスはカタログ表紙で本作を改めて紹介して、作品に新たな文脈を加えている。
落札予想価格2~3万ポンド(290~435万円)のところ、4.125万ポンド(約598万円)で落札されている。

今回、私が注目したのはヘルムート・ニュートンの動向。ササビーズでは12点出品され6点が落札。しかし大判サイズの高額落札予想作品は軒並み不落札。こちらも、絵柄の人気度と比べてサイズの評価が過大だったのではないか。落札作品も予想価格範囲内にとどまっている。フィリップスでは、10点出品され5点が落札。ポラロイド作品は8点中3点しか落札されなかった。春のフィリップス・ニューヨーク“Photographs”オークションでは“Sie Kommen, Paris (Dressed and Naked), 1981”の2枚セットがニュートン最高額の182万ドル(約2億円)で落札された。しかし、同作は極めて稀な代表作だった。最近のニュートンの相場にはピークアウト感があった。ここにきて作品選別がよりシビアになってきた。もしかしたら価格も調整局面を迎えているのかもしれない。

アート写真の定例オークションは、5月のロンドンから6月にかけては欧州で開催。欧州ユーロ圏の経済に目を向けると、2019年1~3月期の成長率は上昇した。しかしこれは3月に予定されていた当初の英国のEU離脱に備えての企業の在庫積み増しなどが影響したと言われている。4月以降の経済指標は悪化している。景気は足踏み状態で、低インフレ状況が継続。米国に追随して利下げの可能性も取りざたされている。
このように、アート写真市場を取り巻く外部環境は相変わらず芳しくない中、5月24日にWestLicht(ヴェストリヒト・ウィーン)、5月30日にベルリンのヴィラ・グリーゼバッハ(Villa Grisebach)、5月31日にケルンのレンペルツ(Lempertz)でオークションが開催された。3社合計で602点が出品され、落札率は約56.48%、総売り上げは144.6万ユーロ(約1.87億円)。低価格帯(約7500ユーロ以下)の出品が約91%だった。昨年秋に行われた3社のオークションは、3社合計で585点が出品され、落札率は約68.3%、総売り上げは196.6万ユーロ(約2.55億円)。今回のオークション結果は、落札率、総売上高ともには悪化している。

Grisebach, Modern and Contemporary Photographs, May 29, 2019, Gertrud Arndt“Self Portrait Nr. 39A, Dessau, 1929”

最高額はグリーゼバッハに出品された、セルフポートレート知られるバウハウスの女性写真家ゲルトルート・アルント(Gertrud Arndt)の“Self Portrait Nr. 39A, Dessau, 1929”だった。落札予想価格上限を大きく上回る5.625万ユーロ(約731万円)で落札された。

英国、欧州のオークションは、経済の先行き不安が反映されたやや弱含みの結果だった。

(1ポンド・145円、1ユーロ・130円で換算)

平成時代のアート写真市場(7)
写真が売れる時代はいまだ到来せず

いままで、平成約30年のアート写真市場を、ギャラリー、写真集、フォトフェア、オークションなどの活動を通して振り返ってきた。

“The Photography As Contemporary Art” Thames & Hudson, 2004

当初はアート界の最後の成長分野として注目されていた写真。平成時代を通して、多くの人が様々なアプローチで、日本における欧米並みの市場構築のために尽力した。残念ながら、平成の終わりまでには欧米並みの市場は確立されなかった。
日本の平成時代、海外では「写真」の概念は大きく変化した。写真はデジタル化進行により真に表現技法として民主化された。かつては独立したアート分野として存在していたが、制作者のアート性を重視する現代アートにおける一つの表現方法を意味するようになっていった。かつてのモノクロの抽象美を追求する表現は20世紀写真と呼ばれるようになり、さらに現代アート的視点から再評価が行われた。
いまや国内外での大きな情報格差は存在しない。日本でも、現代アートでよく語られるアイデアやコンセプトという言葉自体は多くの人に知られている。現代アートとして提示される作品も数多く存在している。しかし、実際は最初に感覚やデザイン重視で制作されたヴィジュアルがあり、制作者は内観して作品の文脈を後付けで作り出している場合が多い。体裁や外見上は現代アートっぽいが、中身がない写真作品がほとんどなのだ。
日本に海外の写真表現が紹介される場合、その表層だけが取り入れられ、本質が伝わらないことが多い。例えばドイツのオットー・シュタイナートが20世紀中盤に提唱した写真表現の「サブジェクティブ・フォトグラフィー」。

“Subjektive Fotografie: Images of the 50’s” Museum Folkwang,1984年刊

自立した個人が世界の事象に対する自分の解釈や視点を、写真テクニックを駆使して表現する現代アート表現に通じるスタイルのこと。日本では、「主観主義」と訳され、当時流行のリアリズム写真に対抗する活動となった。しかし抽象写真のような撮影方法やテクニックの一種だと理解され、一時期に流行したものの次第に忘れ去られていった。現代アート風の写真も抽象作品が多い。それらが同じような経緯をたどらないことを願いたい。
一方、いまでも20世紀写真の価値観を踏襲するような「アート写真・芸術写真」は存在している。それは伝統工芸の職人技の写真版のような意味あいが強い。いわゆる現代陶芸と同じような位置づけなのだ。

日本では、写真を取り扱うギャラリーやディーラーの役割も独特だ。いまだに貸画廊の伝統が残っていて、多くの場合ギャラリーは不動産賃貸業者、ディーラーは写真家の作品を単純に売買するブローカーだと考えられている。日本では、写真家がギャラリーをオープン、運営することが多い。業者に手数料を払わないために制作者が顧客に直売するという単純な発想だ。陶芸家も工房に販売所を併設する場合が多い。それと全く同じなのだ。
一方で、欧米では繰り返しになるが写真はファインアートの中の現代アートの一部として存在する。ディーラーやギャラリーの存在は写真家にとって非常に重要となる。彼らには、見る側が気付いていない写真に秘められたメッセージを見出して、社会の価値観と比較して評価してメディアや市場に伝える、情報発信やプロデューサー的な役割があるからだ。
また写真はアート作品なので、売買される市場が存在している。暗黙の了解として、ギャラリー・ディーラーには主要な取扱いアーティストの相場を支える役目もある。彼らは、オークション(オンラインを含む)などの市場での取扱い作家の作品の売買動向を常に監視している。必要に応じて作品を購入したり、下値で仕入れのために入札したりする。一種の作家相場の買い支えを行っている。最近は、新人のプロモーションのためにオークションが活用される場合がある。これに関しては様々な意見があるのでここでは触れない。

日本では写真家と業者とに上記のような相互依存の関係性は存在しない。しかし日本人写真家でも、写真の販売価格だけは海外のアート写真の相場を基準に決められる場合が多い。商品として売られているのに値段が高すぎるのだ。
いまミニブームになっている現代陶芸。個展開催時に行列ができるような人気の高い「うつわ作家」の作品でも、サイズにより1万円前後から購入できる。器はすべて作家の手作りとなる。一方で写真ではデジタルのインクジェット作品が、ギャラリー以外の様々なショップで、若手でも数万円以上で売られている。
わたしは、いま潜在的に写真を買う人は、現代陶芸にも興味を持つ人と重なると考えている。もはや、単に気に入ったから、作家を支援するため、などの理由だけでは買ってもらえない。生活のクオリティーを高めてくれるかなど、値段もふくめて総合的に判断して購入を検討するのだ。誰でも撮れるデジタル写真が、手作りで用の美を持つ、生活でも役立つ現代陶芸よりも高価で売られている。これでは日本人写真家の作品をコレクションする人たちが増えないのは当然だろう。

話はそれるが、現代アート風作品や伝統工芸的写真でも、値段を適正化されればインテリア向けの写真として十分に市場性があると考えている。ファインアート系とインテリア・アート系では、写真の価値基準が異なるだけで、売れるということはそれぞれの規準で評価されるという意味に変わりはない。ギャラリーと称して、インテリア系写真を中心に取り扱う販売店も多数存在している。彼らは、売りやすい作品を制作する写真家をリクルートしてインテリア系ショップに作品を供給したりしている。
インテリア・アート系に市場性があると考えるのには根拠がある。ブリッツは平成時代を通して、ギャラリー以外の様々な場所で写真販売の実験を行ってきた。カフェ、バー、インテリア・ショップ、ブック・ショップ、写真のDPE店、デパートのインテリア・アート売り場、アパレル・ショップ、リゾート地のイベントスペース、住宅展示場、額縁販売店などだ。

リゾート地で企画開催した写真展

それらは写真をアート作品として販売する試みだったので大きな成果を上げることができなかった。
しかし、唯一売れたのは、デパートやショップでのインテリア向け商品として用意した作品だったのだ。特徴は、抽象系の絵柄の比較的小さめの写真作品。モノクロよりもカラーの方が比較的人気が高い。ただしカラーの自然風景は不人気。そして重要なのは額装作品で値段が安いこと。また版画同様に制作者のサインが表面に記載されている方が好まれる。
デパートのインテリア小物売り場には、額装された飾りやすいプリント小作品が1~5万円程度で売られている。そのカテゴリーと重なる絵画表現に近い写真作品には、写真家の知名度と関係なくある程度の市場性が存在するのだ。ただし、多くの業者が関わる典型的な薄利多売ビジネスとなる。事業として将来性の判断は極めて難しいだろう。

いまブリッツは、平成初期の90年代と同様のビジネスモデルである、海外で評価されている作品を日本に紹介するアート写真輸入販売業者に戻ってしまった。平成は、ビジネスを展開していく中で、そこで直面する数々の疑問点を解き明かす時代だった。いままでのさまざまな経験から、日本では写真家本人に作品の説明責任を求める手法は機能しないと気付いた。日本のファインアート系写真は、訪米とは違った流れで評価され、最終的に市場が確立されるという流れがあるのだ。私どもが何度も主張しているような、創作を継続している人の中から、第三者が「見立て」により写真家のアート性を評価するという考えだ。令和においても、引き続きこの「見立て」を生かした、日本独自のアート写真の価値基準を継続的に提案していきたい。これについては、ブログの別の連載で考えをしつこく紹介している。興味ある人はご一読いただきたい。
令和の時代には、見立てられた写真家の中から、国内外で評価される人が登場するのを期待したい。

今後、新たなプログラムを展開していく予定だ。

おわり