2014年後半のアート写真市場見通し 市場2極化進行の中でフォトブックに注目

米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は、今秋からは緊急的金融緩和からの出口戦略を始めるといわれている。しかしまだ景気は本格回復したわけではなく緩和的政策は続くといわれている。そのような背景からいま米国株式市場ではNYダウが史上最高値近辺で取引されている状況だ。 世界的な超金融緩和策による弊害も散見されるようになり、米国債、社債、クレジットカードの与信などのバブルが発生しているという指摘もある。
アート市場も特に高額セクターの売り上げが順調だ。大手オークションハウスは、2014年前期に軒並み歴史的な売上を記録している。
ササビーズの上半期のオークション売り上げは昨年同期比約24%増の27億ドル(@100、約2700億円)。なんと百万ドル(@100、約1億円)以上の値を付けた落札が487点もあった。同時期のクリスティーズの売り上げも、昨年同期比約13%増の36億ドル(@100、約3600億円)だった。

オークション全般では特に現代アート系、印象派などが好調。アジア部門もやや売り上げを落としているが存在感は相変わらずだ。高額セクターのアート市場はややバブルが発生しているのではないかと感じられる。今秋にかけてオークションハウスは、落札保障金額を増加させる傾向にあるという。これは、貴重で高額落札が見込める作品に関しては、彼らが委託時に金融的落札保証をつけること。委託者はその条件が良い、会社を選ぶということだ。これはオークション市場の活況や過熱を示す指標と考えられている。ITバブル崩壊やリーマンショック時にはオークションハウスはこの保証で多額の損失を被っている。大手はこれから益々ハイエンド作品での勝負の時代になると考えているのだろう。貴重作品を持つ委託者の熾烈な奪い合いの構図が見て取れる。

アート写真の市場はどうだろうか? 前期の売り上げは昨年下期は上回っているが、昨年前期よりは下回っている。一時よりは活況だが、決してバブルと呼べる状態ではないだろう。売れている中身をみると、高額落札されているのは、7月にクリスティーズ・パリで開催された「イコン&スタイル」で象徴される、誰でも知っている有名アーティストの有名イメージが中心だ。リチャード・アヴェドン、アーヴィング・ペン、ヘルムート・ニュートンなどファッション系もその中に含まれる。ヴィジュアルの親しみやすさが好人気の背景にあると思われる。
これはアート界で良く言われる「目ではなく耳で作品を買う」コレクターが増加しているのと考えられる。いわゆるブランド志向の人たちだ。彼らは業界ではあまり良い意味ではとらえられていない。この種のコレクターは継続して作品を買わないし、ある程度の期間が経過すると興味が他分野に移ってしまうことがあるからだ。つまり現状は、表面の売上的には順調に推移しているものの、中身は新しいシリアスなコレクターが増えているわけではないということだ。何らかの政治経済上の外的ショックなどが発生すれば相場環境が急変する危うさを抱えている。

以前に欧州の中小オークションハウスの売上状況を紹介したように、100万円以下の価格帯の市場はいまだに低迷しているのだ。これはリーマンショック後の景気回復では、中間層がその恩恵を受けていないことが大きな原因だと思われる。どうもこのような状況は一時的なことではないようだ。いま欧米ではフランス人経済学者トマ・ピケティの著書「21世紀の資本論」が話題になっている。最近の格差拡大は資本主義システムに内在する要因により引き起こされており、グルーバル資本主義の先に中間層のさらなる減少の可能性を示唆している。最近の状況を分析するに、もしかしたらその兆候や影響があらわれているのかもしれないと感じる。
現在のメイン・プレーヤーの富裕層は、前述のようにアーティストの評判やブランド性で作品をコレクションすることが多い。その結果、彼らが興味を示さない若手や新人の市場で競争激化が起きている。また知名度の高いアーティストでも、不人気作品は売れない状況になっている。特にアート写真では、自分の眼を信じて無名や新人アーティストを買っていたのは主にアッパー・ミドルクラスといわれる上位中間層の人々だった。この市場の主な担い手だった層の減少は、コレクターの世代交代とともに中期的に市場に影響を与えるだろう。それはプライマリー市場でのコレクター数の減少、セカンダリー市場では彼らの既存コレクションの換金売り増加による低中価格帯作品の供給過剰として現れるだろう。そのような状況では、アーティストの階層化と人気作品への需要集中が一段と進むと思われる。今後はブランドが確立できないアーティストの作品は、インテリア向けの低価格帯以外はかなり苦戦するのではないか。当然それらを取り扱うギャラリーも同様だ。サイズが大きく、製作費がかかる現代アート系が一番苦戦するだろう。公務員夫婦が優れた現代アートコレクションを構築する映画「ハーブ&ドロシー」的なストーリーは本当におとぎ話になってしまうのだ。

アートでは心は豊かになるがお腹は膨らまない。不況時のアートが売れない理由にされる例えだ。しかし、食事をした次に何にお金を使うかは人によって様々だろう。知的好奇心が強い人は、心を豊かにしてくるアートに目を向けると思う。もし中間層が今後減少していくのなら、彼らの収入減に合致した優れた低価格のアートが求められることになると思う。彼らは目が肥えた人たちなので、値段に関係なく価値が見いだせない作品は絶対に買うことがない。そこで注目されているのがフォトブックなのだと思う。これは本ではなくアート写真の一つの表現形態のこと。欧米ではフォトブックをアート写真のコレクションの対象にしている人が増加しているのだ。

Twelvebooksの濱中氏によると、最近のロンドンではMACKをはじめ優れたスモール・パブリッシャーが乱立しているという。これは間違いなく新しい需要が世界的に生まれているからだろう。私はこの状況はパブリッシャーのアート工房化、アーティスト化だと理解している。MACKの本は市場で高い評価を受けているが、これをフォトブック単体で評価するだけではなく、制作しているマイケル・マックのアート作品だと理解することが必要なのだと思う。フォトブックは写真集としては高価だが、アート写真としては低価格だ。今後の社会経済状況を予想するに、フォトブックはアート写真分野の中の成長分野になると思う。

2014年現代アート・オークション 現代写真はどのようになっているのか?

米国の中央銀行にあたるFRBは、いまや金融緩和策の出口を模索している。しかし、金融緩和による株高や貴重な現代アート作品の高騰はまだ続いているといってよいだろう。株が高値圏にいる限りアート市場も安泰のようで、ここ数年続いている市場の2極化傾向にも変化はないようだ。

2014年5月にニューヨークで行われた一連の現代アート・オークションは凄いことになっている。クリスティーズが一晩で驚異的な
約745百万ドル(約745億円)を売り上げるなど、今シーズンに行われた4つのイーブニング・セールでなんと、前例のない約1,373百万ドル(約1373億円)の総売り上げを記録している。アンディー・ウォーホール、マーク・ロスコ、ジェフ・クーンズ、ジャン・ミチェル・バスキアなどが相変わらず高額で落札される一方で、バーネット・ニューマン、フランク・ステラ、アレクサンダー・カルダーなどがオークション落札新記録を達成している。

その中には写真が表現に使用された作品も含まれる。それらの動向を簡単に見てみよう。

写真でも市場の2極化傾向に変化がない様子だ。目立ったのはリチャード・プリンスとシンディー・シャーマンの人気の高さだろう。

クリスティーズで5月12日に開催された”If I Live I’ll See You”オークションでは、 リチャード・プリンスの初期作品”Spiritual America,
1983″が落札予想価格範囲内の3,973,000ドル(約3億9730万円)で、149 x 99 cmサイズの”Untitled (Cowboy), 1998″も3,749,000ドル(約3億7490万円)で落札。ちなみに、彼の絵画作品”Nurse of Greenmeadow”は8,565,000ドル(約8億5650万円)という高額で落札されている。ササビーズの5月14日と15日のコンテンポラリー・アート・オークションでは、シンディー・シャーマンが好調だった。”Untitled #93, 1981″が落札予想価格上限を超える3,861,000ドル(約3億8610万円)で落札されている。これは1998年に Sender collectionが、わずか96,000ドル(約960万円)で落札したものとのことだ。リチャード・プリンスも相変わらず人気が高く、”Untitled (Cowboy), 2000″が、落札予想価格上限約2倍の3,077,000ドル(約3億770万円)で落札された。

フリップスの5月15日と16日のコンテンポラリー・アート・オークションでは、全般的に写真系の目玉作品はなく低調だった。トップはシンディー・シャーマンなどに影響与えたことで知られるジョン・バルデッサリの2つのパーツからなる”Green  Gown (Death), 1989″。落札予想価格下限近くの389,000ドル(約3890万円)で落札されている。

最近、ある大手オークションハウスの写真担当者と意見交換する機会があった。私が色々なところで主張しているように、彼も現代アート、現代写真、クラシック写真などの境界線があいまいになってきていると感じているようだった。いまのオークションは、コンテンポラリー・アート、フォトグラフス、フォトブックなどのカテゴリーで分かれているが、この区分は将来的に崩れてくるという見方をしていた。実際、いまや出品される作品数の減少から19世紀写真というカテゴリーは消滅しつつある。それは20世紀のヴィンテージ・プリントにも当てはまる。将来的に、春と秋に定期的に行われているフォトグラフスは年1回になる可能性もあるようだ。その代わりに、種類別に、時代のイコン的な作品、ファッション写真などを集めた独自企画のオークションが増えてくる可能性が高いとのことだ。実際、オークションハウスの作品出品にその傾向があるのをここ数年強く感じている。
また、コンテンポラリー・アート分野では、写真表現を使うアーティストが非常に多いので、たとえばデイ・セールは写真関連だけになる可能性もあるようだ。
デジタル革命第2ステージを迎えて、ギャラリー店頭市場では写真とその他のアート作品との境界線があいまいになってきた。今後は、セカンダリー市場であるオークションでも、カテゴリーの大幅な見直しが進行していくのだろう。

写真オークション結果(2014年ロンドン)全年同様の驚き少ない平均的な落札結果

例年5月に開催されるロンドンのアート写真オークション。今年はササビーズとフリップスのみの開催となった。クリスティーズはパリコレに合わせて7月にパリで開催する予定とのこと。

アートの中では低価格帯と考えられているアート写真。さらにロンドンでは目玉となる高額の貴重作品の出品はあまりない。今回も大きなサプライズはなく、絵にかいたような普通の結果だった。

5月7日、ササビーズ・ロンドンでは複数委託者による148点のオークションが開催された。

落札率はほぼ60%とあまり良くなかった。売り上げはほぼ落札予想価格の真ん中となる1,851,575ポンド(約3.14憶円)だった。
最高額落札は、19世紀のJohn Beasley Greeneの写真アルバム”Album of Egypt and Algeria, 1852-1856″。落札予想価格上限150,000ポンドを大きく上回る482,500ポンド(約8200万円)で落札された。
リチャード・アヴェドンの11枚からなるファッション・ポートフォリオの”Avedon, Paris, 1978″は、落札予想価格下限近くの134,500ポンド(約2286万円)で落札。これは、1979~1980年ころにコレクションされた貴重な初期作品だ。
アーヴィング・ペンの”Anemone/Anemone Coronaria: Irna Blue, New York, 2006″ は、落札予想価格上限18,000ポンドを大きく上回る69,700ポンド(約1184万円)で落札された。これはエディション9のピグメント・プリント。ペンのダイ・トランファーでない花のカラー作品としては驚きの高額落札だ。

ちなみにカタログ表紙の掲載写真は、アダム・フスの”Untitled, 2007″。1点もののフォトグラム作品。落札予想価格上限近くの37,500ポンド(約637万円)で落札されている。

5月8日にフリップス・ロンドンで開催された複数委託者によるアート写真オークションもほぼ予想通りの結果だった。出品数は142点、落札率は約68%、総売上高は落札予想価格のほぼ下限値の合計1,189,625ポンド(約2.02億円)。ただし、中価格帯から高額価格帯作品の落札がやや弱かった。全般的に、クラシックのファッション写真、カラーによる現代アート系作品の動きが鈍く感じられた。

最高額落札は、アーウィン・ブルメンフェルドのソラリゼーションによるポートレートの”Manina, Paris, 1937″。落札予想価格上限30,000ポンドを大きく上回る80,500ポンド(約1368万円)で落札された。
ウィリアム・エグルストンのダイトランスファー作品の”Untitled (Near Minter City and Glendora, Mississippi), 1970″は、落札予想価格範囲内の62,500ポンド(約1062万円)で落札されている。

(1ポンドは170円で換算)

2014年春のアート写真・オークション結果 貴重な20世紀ヴィンテージ・プリント 大判作品の高額落札が続く

2014年春のニューヨーク・アート写真・オークションは売上高が昨秋よりも好転した。大手3社の総売り上げは前期比約30%増加して約2200万ドル(約22億円)だった。しかし好調だった1年前の春と比べるとまだ約28%減となる。売上アップの大きな要因は高額落札が増加したこと。昨秋は50万ドル越えが僅か1点のみだったのが、今春は6点となった。残念ながら100万ドル越えはなかった。売上自体は、貴重作品がどれだけ出品されるかにより左右される。今回はオークションハウスの営業力でそれらが多く出品されたということだ。複数委託者オークションの落札率は70~79%とほぼ普通レベルだった。ここ数年続いている、強い高価格帯、普通の中価格帯、弱めの低価格帯という相場環境に大きな変化はないと思われる。

今春の売り上げトップはササビーズだった。
“The Inventive Eye: Photographs from a Private Collection”で、20世紀初頭のヴィンテージ作品を含む貴重な31点が出品されたことが影響した。最高金額をつけたのはエドワード・ウェストンの”Shells, 1927″。落札予想価格は30万~50万ドル(約3000~5000万円)のところ、なんと90.5万ドル(約9050万円)で落札。
注目のエドワード・スタイケンの”Gloria Swanson,1924″は、落札予想価格が30万~50万ドル(約3000~5000万円)のところ、62.9万ドル(約6290万円)で落札された。
最も高額の落札予想だったマン・レイの1点物”Rayograph (With Coil, Handkerchief and Chain)”は、落札予想価格40万~60万ドル(約4000~6000万円)のところ48.5万ドル(約4850万円)にとどまった。
複数委託者オークションでは、アルフレッド・スティーグリッツの”Georgia O’Keeffe (Nude Study),1918-19″、が落札予想価格30万~50万ドル(約3000~5000万円)のところ、36.5万ドル(約3650万円)で落札されるも、同じくスティーグリッツの”Georgia O’Keeffe (By Car),1933″は不落札。

フィリップスでは、杉本博司の作品が予想外の高額で落札された。17世紀のオランダの画家ヨハネス・フェルメールの絵画がベースの134.9 x 106 cmの大作”The Music Lesson, 1999″。落札予想価格20万~25万ドル(約2000~2500万円)のところ、その上限を遥かに超える62.9万ドル(約6290万円)で落札されている。
注目されていた、ウィリアム・エグルストンの、赤くペイントされた天井を撮影した名作”Greenwood, Mississippi, 1973″の1970年代制作の貴重作品は不落札だった。

クリスティーズで行われた、アンセル・アダムスの単独オークション”The Range of Light:Photographs by Ansel Adams”では、彼の大判作品2点が高額で落札された。カタログ表紙を飾る、大判約92X139cmサイズの”Winter Sunrise, Sierra Nevada from Lone Pine, California,1941″は落札予想価格は30万~50万ドル(約3000~5000万円)のところ、54.5万ドル(約5450万円)で落札。予想外だったのがその後に入札が行われた”CLEARING WINTER STORM, YOSEMITE VALLEY, C. 1939″。こちらはマウントサイズが約66X81.3cmとやや小ぶりで、落札予想価格は20万~30万ドル(約2000~3000万円)だったが、その上限を超える53.3万ドル(約5330万円)で落札された。
最近ずっと続いているのがアンセル・アダムスのパネルなどに貼られていた巨大作品の高額落札。かつてはそれらはコンディションの問題もありポスター的な作品と考えられており、評価も決して高くなかった。最近の傾向は、アダムスがアナログ銀塩写真のサイズの限界に挑戦していたアーティストだったことが再評価されている証拠だと考えている。つまりいま主流の巨大な現代写真の元祖的な存在だということだ。
50万ドルを超える写真作品は高額だが、現代アートのカテゴリーで取引されているアーティストの相場と比べると安いと思う。もし状態の良い、優れた来歴の作品が市場に出てくれば今後も高値による落札が続くのではないだろうか。

(為替レートは1ドル100円で換算)

2014年春のアート写真シーズン到来 オークション・プレビュー

長い冬が終わり、いよいよ春のアート・シーズンの到来だ。
今週から始まるニューヨーク・アート写真・オークションのプレビューをお届けする。
私が注目しているのは、現代アート系コレクターの動向だ。ウィリアム・エグルストン、リチャード・ミズラック、ピーター・ベアードなどはもともとは写真分野だったが、現代アート系コレクターが評価したことで相場が上昇している。
20世紀写真のうち、ヴィンテージ・プリントの相場展開も興味深い。同じように、貴重な20世紀写真も上記コレクターの物色対象になりつつあるからだ。つまり、どんな貴重な写真でも現代アート写真と比べると割安だということ。
またアンセル・アダムスはクラシック写真の巨匠だが、彼の大判サイズ作品は現代アート写真の元祖的な解釈が行われるようになってきている。クリスティーズに出品される彼の巨大作品の入札にも注目したい。

・フィリップス(Phillips de Pury & Company)、ニューヨーク
4月1日

フィリップスは、大手3社では一番多い約271点が出品される。
注目されているのは13点が出品されるウィリアム・エグルストン。目玉となるのは赤くペイントされた天井を撮影した名作”Greenwood, Mississippi,1973″。これはエディションが付けられて販売される前に制作された1970年代の貴重作品。落札予想価格は22万~28万ドル(約2200~2800万円)。杉本博司のポートレートシリーズからの134.9 x 106 cmの大作”The Music Lesson, 1999″が出品される。これは17世紀のオランダの画家ヨハネス・フェルメールの絵画がベースの作品で、落札予想価格20万~25万ドル(約2000~2500万円)。人気が高いピーター・ベアード作品も複数出品される。
注目は”Tsavo north on the Athi Tiva, circa 150 lbs.- 160 lbs. Side bull elephant, February, 1965″。これは約122.9 x 202.6 cmの超大作で、落札予想価格は8万~12万ドル(約800~1200万円)。現代アート系では、トーマス・ディマンドの182.9 x 243.8 cmサイズの”Abgang/ Exit, 2000″が注目されている。落札予想価格は10万~15万ドル(約1000~1500万円)。アンドレアス・グルスキーの約101.6 x 194 cmサイズの”Paris, Centre Pompidou, 1995″の落札予想価格12万~18万ドル(約1200~1800万円)。
20世紀写真も非常に充実しており、アンドレ・ケルテス、ロバート・フランク、ダイアン・アーバス、ドロシア・ラング、アーヴィング・ペン、ヘルムート・ニュートンなどの逸品が出品される。
その中で注目されるのは彫刻家として知られるコンスタンティン・ブランクーシの珍しい写真作品”Endless Column in Steichen’s Garden at Voulangis, circa 1923″。落札予想価格は、8万~12万ドル(約800~1200万円)。ラースロ・モホリ=ナジの”Mein Name ist Hase ?ich weiss von nichts (My Name is Hare ? I Know Nothing), 1927″は落札予想価格6万~8万ドル(約600~800万円)。

・ササビーズ、ニューヨーク
4月1日~2日

ササビーズは”The Inventive Eye: Photographs from a Private Collection”で31点、複数委託者の”Photographs”で187点がオークションに出品される。19世紀から現在に至るまでの写真史を網羅する興味深い名作が並んでいる。
特に20世紀初頭のヴィンテージ作品が数多く出品されているのでその動向は要注目だろう。カタログ表紙のエドワード・スタイケンの”Gloria Swanson,1924″、アルフレッド・スティーグリッツの”Georgia O’Keeffe (Nude Study),1918-19″、同じくスティーグリッツの”Georgia O’Keeffe (By Car),1933″はすべて落札予想価格が30万~50万ドル(約3000~5000万円)。
エドワード・ウェストンの”Head Of An Italian Girl (Tina Modotti)”の落札予想価格は25万~35万ドル(約2500~3500万円)。マン・レイの1点物”Rayograph (With Coil, Handkerchief and Chain)”も注目作。落札予想価格は40万~60万ドル(約4000~6000万円)。ラースロ・モホリ=ナジ作品は4点出品されるが、”Fotogramm (Photogram with Spiral Shape)”の落札予想価格15万~25万ドル(約1500~2500万円)。もう1枚のカタログ表紙作品はアウグスト・ザンダーの”The Painter Heinrich Hoerle”。こちらの落札予想価格も15万~25万ドル(約1500~2500万円)。

・クリスティーズ、ニューヨーク
4月3日

クリスティーズは”The Range of Light:Photographs by Ansel Adams”という、アンセル・アダムスの単独オークションと複数委託者オークション”のPhotographs”を開催する。
それぞれ25点と212点が出品される。アダムス・オークションのハイライトは、大判約92X139cmサイズの”Winter Sunrise, Sierra Nevada from Lone Pine, California,1941″。落札予想価格は30万~50万ドル(約3000~5000万円)。ちなみに同作品の35X45cmサイズも出品されており、こちらの落札予想価格は希少性が違うことから3万~5万ドル(約300~500万円)。
複数委託者オークションはほとんどがモダンプリントの出品、そのなかで注目作は、カタログ表紙のフィリップ・ハルスマンのライフ誌のカヴァー写真”Marilyn Monroe,1952″。これは作家のエステートから出品された貴重作で、落札予想価格は7万~9万ドル(約700~900万円)。
ピーター・ベアード作品はここでも複数出品されるが、注目作は”Orphaned cheetah cubs at feeding time, Mweiga, near Nyeri, Kenya, March 1968″。これは約84 x 113 cmの大作。落札予想価格は15万~25万ドル(約1500~2500万円)。
今回アーヴィング・ペンは25点が出品。そのなかでも初期プラチナ・プリントの”Woman with Roses on Her Arm (Lisa Fonssagrives-Penn), 1950″と”Cuzco Children,1948″が注目されている。落札予想価格はともに15万~25万ドル(約1500~2500万円)。
(為替レートは1ドル100円で換算)

2013年アート写真市場を振り返る

今年はいままで続いていた市場2極化がさらに大きなスケールで進行した印象だ。ふとフラクタルという言葉を思い起こした。これは細部の構造が全体に似ているということ。この1年を振り返ると、大きなアート界全体とその一部のアート写真のそれぞれの市場のなかで2極化が拡大している印象を強く感じる。

アート界のハイエンド分野では、アート作品のオークション史上最高額が更新された。
11月のニューヨーク・クリスティーズで開催された現代アートセールでフランシス・ベーコン(1909- 1992年)の“Three Studies of Lucian Freud” (1969年)が142,405,000ドル(約142億4050万円)で落札。2012年の春にササビーズ・ニューヨークでつけたエドヴァルド・ムンク“叫び”の119,922,496ドルを上回った。

アート写真の世界も、特に前半は好調だったといえよう。春のニューヨーク・オークションで総売り上げは昨秋と比べ何と約81%も伸び、約3086万ドル(約30.8憶円)となった。これはほぼリーマンショック前の2007年のレベルとなる。
久しぶりに100万ドル超の高額落札も実現、クリスティーズの"the deLIGHTed Eye, Modernist Masterworks from a Private Collection"に出品されたマン・レイの"Untitled Rayograph, 1922"は、落札予想価格の3倍を超える、$1,203,750.(約1億2千万円)で落札された。(グルスキー、シュトゥルートなどは現代アート分野の写真なのでここでは含めないことにする。)
ところが秋のニューヨーク・オークションはその反動か売上高、落札率ともに低迷。しかし春秋合計の2013年の大手3社の年間総売上は約4782万ドル(約47.8億円)となり、2012年を約40%も上回った。
これはほぼリーマンショック前の2005年の水準と同レベル。中央銀行の量的緩和策継続でNYダウがオークション開催時に15000ドル台まで回復してきたことがコレクターのセンチメントを向上させたのだと思う。
しかし、その後、パリ・フォトに合わせて行われたクリスティーズ、ササビーズのオークション、低価格作品やフォトブック中心のレンペルツ(ドイツ)やスワン・ギャラリー(米国)のオークションは全般的に高めの不落札率で推移した。欧州経済の低迷も一因だと考えられるが、ここ数年ずっと続いている、貴重な高額作品の活況と低価格帯の低迷という2極化傾向がさらに進んでいる印象だ。

2013年は日本人写真コレクターにとって買い場が見つかりにくい1年だったようだ。特に昨年来の為替の円高修正傾向が購入心理に微妙に影響を与えていた。ドル円相場は、数年前に一時80円以上の円高だったのが2013年は100円台に突入した。海外の作品価格が20から30%も円貨で上昇したことになる。アート写真はドル資産を持つと同じ意味になる。すでにコレクションを持っている人はドルの外貨預金同様に資産価値が大きく上昇したわけだ。しかし円高時にタイミングを逃してあまり買えなかった人は、為替変動が急だったので新しい価格レベルでのコレクション購入には躊躇していた。5年間にわたる円高に慣れ切っていたので、もう一度円高に振れた時を狙っており大きくは動きにくかったのだ。

しかし、金融緩和策の段階的終息で米国金利が上昇する見込みで、今後はどうも100円台のドル高が定着する見通しだ。2014年、もし金利上昇で株価が下落しアート写真市場が弱くなる局面があればぜひ買い場ととらえて欲しい。100万円以下の価格帯の相場は強くない。ドル高局面の今の為替レベルでも以前とあまり変わらない円貨で買えるチャンスもないとはいえないのだ。本格的に米国景気が上向いてくればドル高になるとともに、いままで低迷していた価格帯の相場も上昇すると思われる。
注目したいのは日本のオークションに出品される外国人作家作品。まだ落札予想価格にドル上昇が完全に反映さていない場合が多い。もしかしたらお買い得作品が見つかるかもしれない。
コレクション購入には思い切りと買う覚悟が必要だ。いつまでも円高の時に最安値で買いたいと思っていると、永遠にチャンスは巡ってこないかもしれない。もし中期的に米国経済が本格回復してくるとすれば、2014年前半は最後の買いのチャンスかもしれない。

2013年秋のロンドン現代アートオークション グルスキー、シュトゥルート人気は続くのか?

最近の米国では、経済状況は決して楽観できるものではないのに株高傾向が続いている。 実態は企業の労働生産性が伸びない中で低賃金労働に従事する人が増加しているようだ。 これだと企業収益や消費の見通しも明るくないだろう。そのような状況で中央銀行の金融緩和策が継続されている。結果的に資産インフレが起こり株高や貴重なアート作品の高騰を招いているのだ。資産を持つ人と持たない人との格差が拡大しているわけだ。

この流れの影響をアート写真セクター、特に現代アート分野の作品も受けている。有名作家の貴重な作品の相場は上昇傾向にある。
10月中旬にロンドンで大手オークションハウスの現代アートオークションが開催された。この時期のロンドンは、11月のニューヨークの現代アートアートクションの前で、またフリーズなどのアートフェア開催期間中に行われるので大きな目玉がないことが多い。しかし、写真作品では案外ドイツ系の注目作が登場することがある。今シーズンも、アンドレアス・グルスキー、トーマス・シュトルートをはじめ、シンディー・シャーマン、ジェフ・ウォールなどが出品された。

落札予想価格の上限を超えるサプライズの落札はクリスティーズのトーマス・シュトゥルート”SAN ZACCARIA, VENICE,1995″だった。これはヴェニスのサン・ザッカリア教会内を撮影した185X234cmの巨大作品。中央にはイタリア・ルネッサンス期の画家ジョヴァンニ・ベッリーニの祭壇画があり、それを鑑賞している観客も含めて撮影されているミュージアム・シリーズの1枚。シュトゥルートの写真の中で、ベッリーニの絵と前景が違和感なく完璧に一体化している。絵の中の光と同じヴェネチアの光線を取り入れて空間を撮影しているのでそのように見えるのだろう。
作品の中に、時間の永遠性と移ろい、また理想と現実を同時に表現している点が高く評価されている。

落札予想価格150,000 – 200,000ポンド(約2400~3200万円)のところ、上限を3倍も超える698,500ポンド(約1億1176万円)で落札された。エディション10だがその他の作品はニューヨークのメトロポリタンなど多くの美術館のコレクションになっている。要は美術館は売りだすことはあまりないので市場で入手することが難しい名作ということだろう。

写真作品のロンドンでの最高額落札はササビーズに出品されたアンドレアス・グルスキーの”PARIS, MONTPARNASSE,1993″だった。新国立美術館の個展でも展示されていた彼の代表作品の1枚だ。1993年制作の本作はデジタル技術を最初に作品に取り込んだ彼の転換点にもなったものといわれている149X395cmにもなる横長巨大作品。パリのジャン・デュビュイッソンによる戦後の代表的なモダン住宅を撮影したもの。グルスキーは2枚の写真を完璧に合成。建物の余計な部分をトリミングして抽象的なグリット状の構図の人工的な構造物を作り上げている。それは画面の左右に果てしなく連続しているかのような印象だ。同時に精緻な画像の中には750のアパートの画一化したユニットに閉じ込められた住民の生活までもが描かれている。システムの中に閉じ込められて価値を与えられている都市住民の姿を象徴的に表現しているのだ。

本作は企業コレクションから売却だった。落札予想価格1,000,000 – 1,500,000ポンド(約1億6000万~2億4000万円)のところ、 1,482,500ポンド(約2億3720万円)で落札された。

その他の高額落札は以下の通り。
クリスティーズのジェフ・ウォール”THE CROOKED PATH,1991″が落札予想価格250,000 – 350,000ポンド(約4000~5600万円)のところ、上限を超える482,500ポンド(約7720万円)で落札。
シンディー・シャーマンの”UNTITLED (#201),1989″落札予想価格120,000 – 180,000ポンド(約1920~2880万円)のところ、132,100ポンド(約2113万円)で落札されている。

ここ数年続いている有名作家の代表作が物色される傾向はまだ続いている印象だ。上記のシュトルートの例のように、作家の代表作の場合は、既に美術館や有名コレクション所有が多くエディション作品でも希少性が高いのだ。
しかし今回のグルスキーは、高額価格帯作品が全体で6点出品されたが、”CHICAGO MERCANTILE EXCHANGE,1997″と”STATEVILLE, ILLINOIS,2002″は不落札だった。
当たり前なのだが、グルスキーならどんな作品でも高額で落札されるわけではない。代表作が高額で取引されるとどうしても周辺の作品の落札予想価格も高めになる傾向があるのだ。しかし、いくら人気作家でも人気作と不人気作ががより明確に意識されており、その価格差が拡大している。どうせ買うのなら、高くても人気作、貴重作が良いという心理が働き、同じ作家の作品の中でも2極化が進行している印象を持った。

今後の市場の関心は、11月開催のササビーズ・パリ、フィリップス・ロンドンのアート写真オークション、ニューヨークの現代アートオークションへと移っていく。

(為替レートは1ポンド160円で換算)

秋のニューヨーク・アート写真セールが開催 最新オークション・レビュー

2013年秋のニューヨーク・アート写真オークションは売上高、落札率ともに春よりも低迷。大手3社の総売り上げは前回比約45%も減少した。一番大きな要因は高額落札が大きく減少したこと。今春は100万ドル越えのマン・レイなど、50万ドルを超える作品が5点あった。今秋の最高額はアルフレッド・スティーグリッツの $557,000(約5570万円)にとどまった。今回は春の売り上げが非常に大きく上昇したことの調整の面もあった思われる。市場環境が同じ場合、年間の市場取引額はそんなに変わらない。オークション会社が春の実績を踏まえてあえて今秋は供給を絞った面もあるのだろう。

開催されたオークションも、クリスティーズがピーター・ベアード28点の小規模単独オークションを開催した他は複数委託者オークションが中心となった。実際に出品数は約13%減少している。オークションハウスのコメントは、「貴重作品には強い需要が見られる」と強気だが、決して先行きを楽観していない姿勢が感じられる。
しかし春秋合計の2013年の大手3社の年間総売上は約4782万ドル(約47.8億円)となり、2012年を約40%も上回っている。これはほぼリーマンショック前の2005年の水準と同レベル。中央銀行の量的緩和策の継続で株価のNYダウが2012年後半の13000ドルから15000ドル台まで回復してきたことが素直に市場に反映されてきたのだと思う。私の経験則によるとNYダウの推移とオークションの取引総額はかなり方向性が一致するのだ。

最近、市場で言われているのがモダンプリントの中での差別化だ。貴重なヴィンテージプリントが市場に出てくることが減っており、物色の対象が撮影時に比較的近いモダンプリントにも広がってきたということだ。
今秋もヴィンテージとは言えないが古い時代にプリントされたアンセル・アダムスやヘルムート・ニュートンや、ダイアン・アーバスのエステート・プリントの高額落札が散見された。かつては撮影から1年が経過したヴィンテージと、それ以外のモダンプリントとに単純に分けられていた。しかし、同じ銀塩のモダンプリントでも、ペーパーの質が時代ごとに変化しており、古い方が銀の含有量が多いことがある。市場の歴史が積み重なったことで、これからは撮影時から何年経過したプリントなのかが作品評価時により考慮されるようになると思われる。このようにプリント自体の価値よりも、作家性を重んじるようになってきたのは間違いなく現代アート市場の影響だろう。

今秋の各社の高額落札を紹介しよう。
ササビーズは230点のオークションを実施。落札率は75%と平均的な結果だった。最高額はアルフレッド・スティーグリッツのオキーフのパラディウム・プリントによるヌード作品”GEORGIA O’KEEFFE: A PORTRAIT-TORSO、1918-19″だった。
落札予想価格は30万~50万ドル(約3000~5000万円)のところ $557,000(約5570万円)で落札された。これは現存する3作品のうち1点で残りは美術館に収蔵されている逸品。ロダンなどがブロンズ作品で行ったヌードでの美的探求を写真で行っていると評価されている。本作が今秋の最高額の落札だった。
アンセル・アダムスの”THE TETONS AND SNAKE RIVER, GRAND TETON NATIONAL PARK, WYOMING,1942″は100.3X130.8 cmの大判作品。これは50~60年代にプリントされたモダンプリント。落札予想価格は25万~35万ドル(約2500~3500万円)を上回る $401,000.(約4010万円)で落札されている。
カタログの表紙を飾る、ラースロ・モホリ=ナジの40X30.2cmの大判フォトグラム作品”Fotogramm”は残念ながら不落札。しかし同じく小さい28.3X21cmサイズの”Fotogramm(Hand)”は落札予想価格20万~30万ドル(約2000~3000万円)の範囲内に収まる $245,000.(約2450万円)で落札されている。

クリスティーズが行ったピーター・ベアードの単独オークション”Into Africa: Photographs by Peter Beard”は、28点中24点が落札された。彼の作品はその他のハウスでも数多く出品されていることから、コレクターも慎重に作品を選んでいるようだ。
注目されていた約160X220cmの大作”Orphaned Cheetah Cubs, Mweiga, Kenya, 1968″は、落札予想価格は15万~25万ドル(約1500~2500万円)。これは1998年制作の1点物作品で、 なんとシーズン第2位の$449,000.(約4449万円)で落札された。
しかし高額落札が期待されていたもう1点の巨大作品”Tsavo Tusker, on the Athi-Tiva River, 1965″は不落札だった。

クリスティーズの243点に及ぶ複数委託者のオークション。春よりも総売り上げは約60%ほど低下、落札率も約84%から約65%と大手では一番大きな減少だった。注目作のウィリアム・エグルストンの写真集カヴァーに掲載されている”Memphis (Tricycle), c. 1970″。これは1980年に制作されたエディション20点のダイ・トランスファープリント。落札予想価格は25万~35万ドル(約2500~3500万円)のところ$293,000(約2930万円)で落札された。
それに続く高額落札は、アーヴィング・ペンによるジャズの帝王マイルズ・デイヴィスの手を撮影した”The Hand of Miles Davis (New York), July 1, 1986″。これは1986年にプリントされた作品で、落札予想価格は7万~8万ドル(約700~800万円)のところなんと驚きの$245,000(約2450万円)で落札された。
もう一つのサプライズはフランチェスコ・ウッドマンの”Self Portrait,1979″。なんと落札予想価格上限の3.5万ドル(約350万円)を大きく超える$173,000(約1730万円)で落札。
一方で、高額額落札が期待されたエドワード・ウェストンの抽象的ヌード作品”Nude, 1925″、ラースロ・モホリ=ナジのフォトグラム”Untitled, Dessau, 1926″、100万ドル越えの期待があったエドワード・カーティスの貴重な全作揃いのポートフォリオ”The North American Indian, Portfolios 1-20; and Text Volumes 1-20″はいずれも不落札だった。カタログ表紙のアーウイン・ブルメンフェルドの”New York、c.1948″(上記掲載図版)は落札予想範囲内の$50,000(約500万円)で落札されている。

フィリップス(Phillips de Pury & Company)が行った264点のオークションは春の85%の落札率より低下して平均的な70%だった。最高額の入札は、リチャード・アヴェドンのローリング・ストーン誌に掲載された69点のポートフォリオ”The Family,1976″。落札予想価格20万~30万ドル(約2000~3000万円のところ$341,000(約3410万円)で落札。続く高額落札はウィリアム・エグルストンのダイトランスファー11点からなる”Graceland 1984″ のポートフォリオ。落札予想価格10万~15万ドル(約1000~1500万円のところ$197,000(約1970万円)で落札された。
ヘルムート・ニュートンの大判作品”Parlour games, Munich, 1992″とピーター・ベアードの”Giraffes in Mirage on the Taru Desert, Kenya, June 1960″がともに$173,000(約1730万円)で落札。
サプライズはダイアン・アーバスの”King and Queen of a senior citizens’ dance,N.Y.C., 1970″。これはドーン・アーバスによるサインの財団スタンプ付きのエステート・プリントだが、 落札予想価格上限8万ドル(約800万円)の2倍に近い$161,000(約1610万円)で落札された。ロバート・フランクの”From the bus, 1958″も高値が付いた。落札予想価格上限6万ドル(約600万円)をはるかにに超える$102,500(約1025万円)で落札。

今後のアート写真市場の関心は、10月開催のクリスティーズ・ロンドン、11月開催のササビーズ・パリ、フィリップス・ロンドンに移っていく。

(為替レートは1ドル100円で換算)

2013年秋のアート写真シーズン到来 最新オークション・プレビュー

夏休みが終わり、いよいよ2013年秋のアート写真シーズンが到来した。今月末から始まる秋の海外オークションの出品情報も揃ってきたのでプレビューをお届けする。

まずシーズンに先駆けて、9月10に米国フィラデルフィアのフリーマンズ(Freeman’s)で”Photographs And Photobook”オークションが開催された。これはフォトブックを含むほとんどが1万ドル以下の低価格帯作品オークション。
注目されたのは、化粧品会社AVONの女性アーティストによる作品コレクションの売却と、バート・スターンによるマリリン・モンローの死直前に撮影された10枚ポートフォリオ・セットの”MARILYN MONROE: THE LAST SITTING,1962″の出品だった。
最高額は上記のモンロー作品で落札予想価格を大きく上回る、$41,250.(約412万円)で落札されている。全体の落札率は順調と言える約70%だった。しかし今回のAVONコレクションからの売却87点のうち約67点余りが最低落札価格が設定されていない成り行き販売だった。
以上から、最近ずっと続いている、需要が強い貴重作品、弱い平均的作品という相場基調はまだ続いている印象だった。NYダウ株価は4月よりは高いものの、チャート的には中期の取引レンジの上限に近い。 さらに上昇するエネルギーはなさそうだ。いままで続いてきた市場の流れに変化の兆しがみられるのか、月末から始まるニューヨークの主要オークションが注目される。

・”Kate Moss From The Collection of Gert Elfering”
クリスティーズ・ロンドン
9月25日

ニューヨークでの定例オークションの前に、スーパーモデルのケイト・モスをフィーチャーしたオークションがクリスティーズ・ロンドンで開催される。彼女は多くの有名写真家やアーティストの創造力を刺激し続けてきた時代のミューズ。 著名なコレクターGert Elferingのコレクションから、ヨーガン・テラー、マリオ・ソレンティ、ニック・ナイト、アニー・リーボビックらによる写真作品、ペインティング、コラージュ、彫刻、タペストリーなど計58点が出品される。

・”Photographs”
フィリップス(Phillips de Pury & Company)、ニューヨーク
9月30日、10月1日

フィリップスでは2日にまたがって約264点が出品される。注目されているのは、リチャード・アヴェドンのローリング・ストーン誌に掲載された69点のポートフォリオ”The Family,1976″。落札予想価格20万~30万ドル(約2000~3000万円)。 ロバート・フランクの70年代にプリントされた代表作”Parade Hoboken, New Jersey, 1955″は落札予想価格10万~15万ドル(約1000~1500万円)。ヘルムート・ニュートンの1.5X2メートルの大判作品”Parlour games, Munich, 1992″と”Nude and Police Dog, St.Tropez,1975″の落札予想価格15万~20万ドル(約1500~2000万円)。
日本人では荒木経惟の”101 works for Robert Frank(Private Diary),1993″と杉本博司の建築シリーズからの”United Nations Headquaters, 1997″がともに落札予想価格8万~12万ドル(約800~1200万円)となっている。

・”Photographs”
ササビーズ、ニューヨーク
10月2日

ササビーズは232点が出品される。注目作品は、アンセル・アダムスの”WINTER SUNRISE, SIERRA NEVADA FROM LONE PINE, CALIFORNIA,1944″。72.1X101cmの大判作品で、落札予想価格は15万~25万ドル(約1500~2500万円)。同じくアダムスの”THE TETONS AND SNAKE RIVER, GRAND TETON NATIONAL PARK,WYOMING,1942″。これはさらに大きい100.3X130.8 cm。落札予想価格は25万~35万ドル(約2500~3500万円)。
アルフレッド・スティーグリッツのオキーフのヌード作品”GEORGIA O’KEEFFE: A PORTRAIT-TORSO”。これはパラディウム・プリントで、落札予想価格は30万~50万ドル(約3000~5000万円)。
カタログの表紙を飾る、ラースロ・モホリ=ナジの40X30.2cmの大判フォトグラム作品、同じく”Fotogramm(Hand)”は、ともに落札予想価格20万~30万ドル(約2000~3000万円)。

・”Photographs”、”Into Africa: Photographs by Peter Beard”
クリスティーズ、ニューヨーク
10月3日

クリスティーズは”Into Africa: Photographs by Peter Beard”という、ピーター・ベアードの単独オークションと複数委託者のオークションを開催する。ベアード・オークションには28作品が出品される。ハイライトは人気作の”Orphaned Cheetah Cubs, Mweiga, Kenya, 1968″。これは約160X220cmの大作。落札予想価格は15万~25万ドル(約1500~2500万円)。またシート・サイズが304X177cmもある巨大な”Tsavo Tusker, on the Athi-Tiva River, 1965″の落札予想価格は20万~30万ドル(約2000~3000万円)。

複数委託者では約243作が出品される。注目作は、ウィリアム・エグルストンの写真集カヴァーに掲載されている”Memphis (Tricycle), c. 1970″。本作は1980年に制作されたエディション20点のダイ・トランスファープリント。落札予想価格は25万~35万ドル(約2500~3500万円)。エドワード・ウェストンの抽象的ヌード作品”Nude, 1925″は落札予想価格15万~25万ドル(約1500~2500万円)。ラースロ・モホリ=ナジのフォトグラム”Untitled, Dessau, 1926″は落札予想価格20万~30万ドル(約2000~3000万円)。
エドワード・カーティスの貴重な全作揃いのポートフォリオ”The North American Indian, Portfolios 1-20; and Text Volumes 1-20″は、落札予想価格100万~150万ドル(約1億~1億5000万円)となっている。100万ドル越えの入札があるか注目されている。
カタログ表紙は、アーウィン・ブルメンフェルドのシルバー・プリント”New York, ca. 1948″。こちらの落札予想価格は4万~6万ドル(約400~600万円)。その他、ブルメンフェルドの美しいファッション系作品が複数出品される。

(為替レートは1ドル100円で換算)

2013年春NYアート写真オークション結果 景気回復期待で取引額が増大!

2013年春のニューヨーク・アート写真オークションは、クリスティーズ、ササビーズ、フィリップス(Phillips de Pury & Company)ともに、有力コレクションからの単独オークションをメインとして、それとともに複数委託者のオークションも開催した。結果はおおむね順調で、優れたアート写真に対する需要が強いことを改めて印象付けられた。ちょうど開催期間が、世界最大のアート写真フェアのAIPADフォトグラフィー・ショーと重なった。一部には、フォト・フェアの売り上げに影響が出たという意見も聞かれた。

有力コレクションの優れた来歴を持つ逸品が多かったことから、総売り上げは昨秋と比べ約81%も伸びて約3086万ドル(約30.8憶円)となった。これはほぼリーマンショック前の2007年のレベルとなる。売り上げ高トップは今期もクリスティーズ。開催した二つのオークションともに売り上げ総額は落札予想価格上限合計を超えている。

最近はトップエンド価格帯市場の勢いがやや弱まっている傾向がみられていた。今春、大手オークションハウスはこのセクターにかなりの逸品を投入してきた。結果は、5万ドル以上の高価格帯セクターでの予想落札価格上限の総額をオーバーしたのはクリスティーズだけだった。ここの落札率も約92%~68%とかなりばらつきがあった。価格推移についてはほぼニュートラルな結果だったと言えよう。主要3社全オークションの落札率は約81%。その後に開催されたフォトブックを含む低価格帯作品の出品の多いスワン・オークションズの落札率はずっと下がって66%だった。昨年来ずっと続いている、”高額作品の活況と動きが鈍い低価格帯”という傾向はまだ変わってないようだ。

高額落札は以下の通り。
最高額はクリスティーズの”the deLIGHTed eye, Modernist Masterworks from a Private Collection”に出品されたマン・レイの”Untitled Rayograph, 1922″。もちろん貴重はオリジナルの1点物。本作は最初に雑誌メディアで紹介されたマン・レイのレイヨグラフとのことだ。落札予想価格の3倍を超える、$1,203,750.(約1億2千万円)で落札された。久しぶりの100万ドル越えの作品だ。
同オークションからは高額落札が続き、ポール・ストランドの”Akeley Motion Picture Camera, New York, 1922″は落札予想価格25万~35万ドルのところ、$783,750 (約7837万円)で落札されている。

クリスティーズも複数委託者オークションでは、ロバート・フランクの歴史的写真集「The Americans」の表紙イメージの” Trolley-New Orleans, 1955″が注目された。本作は、1961年にニューヨーク近代美術館でエドワード・スタイケンのキュレーションで開催された、ハリー・キャラハンとの二人展用にフランク自身により制作されたもの。サイズが29X42.4cmと大きいことも作品の評価を高めている。落札予想価格40万~60万ドルのところ、$663,750(約6637万円)で落札されている。

驚きの高値が付いたのがフリップスに出品されたのダイアン・アーバス”Identical Twins Cathleen and Colleen, Roselle, NJ, 1967″。落札予想価格18万~22万ドルを大きく超えて$602,500(約6025万円)で落札。これはアーバス作品のオークションでの最高額だった。

ササビーズで高額落札が期待されていたのがエドワード・ウェストンの”Two Shells, 1927″。本作は珍しいマット系ペーパーにプリントされている上にサインも初期のものだ。
落札予想価格60万~90万ドルのところ、ややがっかりさせられる$533,000(約5330万円)で落札された。
クラシカルなエドワード・ウェストンの高額落札はクリスティーズでも続き、”Nude, 1925″は
$483,750(約4837万円)で落札されている。

次のアート写真市場の関心は、5月開催のロンドン、パリのオークションに移っていく。
(為替レートは1ドル100円で換算)