2014年春のアート写真シーズン到来 オークション・プレビュー

長い冬が終わり、いよいよ春のアート・シーズンの到来だ。
今週から始まるニューヨーク・アート写真・オークションのプレビューをお届けする。
私が注目しているのは、現代アート系コレクターの動向だ。ウィリアム・エグルストン、リチャード・ミズラック、ピーター・ベアードなどはもともとは写真分野だったが、現代アート系コレクターが評価したことで相場が上昇している。
20世紀写真のうち、ヴィンテージ・プリントの相場展開も興味深い。同じように、貴重な20世紀写真も上記コレクターの物色対象になりつつあるからだ。つまり、どんな貴重な写真でも現代アート写真と比べると割安だということ。
またアンセル・アダムスはクラシック写真の巨匠だが、彼の大判サイズ作品は現代アート写真の元祖的な解釈が行われるようになってきている。クリスティーズに出品される彼の巨大作品の入札にも注目したい。

・フィリップス(Phillips de Pury & Company)、ニューヨーク
4月1日

フィリップスは、大手3社では一番多い約271点が出品される。
注目されているのは13点が出品されるウィリアム・エグルストン。目玉となるのは赤くペイントされた天井を撮影した名作”Greenwood, Mississippi,1973″。これはエディションが付けられて販売される前に制作された1970年代の貴重作品。落札予想価格は22万~28万ドル(約2200~2800万円)。杉本博司のポートレートシリーズからの134.9 x 106 cmの大作”The Music Lesson, 1999″が出品される。これは17世紀のオランダの画家ヨハネス・フェルメールの絵画がベースの作品で、落札予想価格20万~25万ドル(約2000~2500万円)。人気が高いピーター・ベアード作品も複数出品される。
注目は”Tsavo north on the Athi Tiva, circa 150 lbs.- 160 lbs. Side bull elephant, February, 1965″。これは約122.9 x 202.6 cmの超大作で、落札予想価格は8万~12万ドル(約800~1200万円)。現代アート系では、トーマス・ディマンドの182.9 x 243.8 cmサイズの”Abgang/ Exit, 2000″が注目されている。落札予想価格は10万~15万ドル(約1000~1500万円)。アンドレアス・グルスキーの約101.6 x 194 cmサイズの”Paris, Centre Pompidou, 1995″の落札予想価格12万~18万ドル(約1200~1800万円)。
20世紀写真も非常に充実しており、アンドレ・ケルテス、ロバート・フランク、ダイアン・アーバス、ドロシア・ラング、アーヴィング・ペン、ヘルムート・ニュートンなどの逸品が出品される。
その中で注目されるのは彫刻家として知られるコンスタンティン・ブランクーシの珍しい写真作品”Endless Column in Steichen’s Garden at Voulangis, circa 1923″。落札予想価格は、8万~12万ドル(約800~1200万円)。ラースロ・モホリ=ナジの”Mein Name ist Hase ?ich weiss von nichts (My Name is Hare ? I Know Nothing), 1927″は落札予想価格6万~8万ドル(約600~800万円)。

・ササビーズ、ニューヨーク
4月1日~2日

ササビーズは”The Inventive Eye: Photographs from a Private Collection”で31点、複数委託者の”Photographs”で187点がオークションに出品される。19世紀から現在に至るまでの写真史を網羅する興味深い名作が並んでいる。
特に20世紀初頭のヴィンテージ作品が数多く出品されているのでその動向は要注目だろう。カタログ表紙のエドワード・スタイケンの”Gloria Swanson,1924″、アルフレッド・スティーグリッツの”Georgia O’Keeffe (Nude Study),1918-19″、同じくスティーグリッツの”Georgia O’Keeffe (By Car),1933″はすべて落札予想価格が30万~50万ドル(約3000~5000万円)。
エドワード・ウェストンの”Head Of An Italian Girl (Tina Modotti)”の落札予想価格は25万~35万ドル(約2500~3500万円)。マン・レイの1点物”Rayograph (With Coil, Handkerchief and Chain)”も注目作。落札予想価格は40万~60万ドル(約4000~6000万円)。ラースロ・モホリ=ナジ作品は4点出品されるが、”Fotogramm (Photogram with Spiral Shape)”の落札予想価格15万~25万ドル(約1500~2500万円)。もう1枚のカタログ表紙作品はアウグスト・ザンダーの”The Painter Heinrich Hoerle”。こちらの落札予想価格も15万~25万ドル(約1500~2500万円)。

・クリスティーズ、ニューヨーク
4月3日

クリスティーズは”The Range of Light:Photographs by Ansel Adams”という、アンセル・アダムスの単独オークションと複数委託者オークション”のPhotographs”を開催する。
それぞれ25点と212点が出品される。アダムス・オークションのハイライトは、大判約92X139cmサイズの”Winter Sunrise, Sierra Nevada from Lone Pine, California,1941″。落札予想価格は30万~50万ドル(約3000~5000万円)。ちなみに同作品の35X45cmサイズも出品されており、こちらの落札予想価格は希少性が違うことから3万~5万ドル(約300~500万円)。
複数委託者オークションはほとんどがモダンプリントの出品、そのなかで注目作は、カタログ表紙のフィリップ・ハルスマンのライフ誌のカヴァー写真”Marilyn Monroe,1952″。これは作家のエステートから出品された貴重作で、落札予想価格は7万~9万ドル(約700~900万円)。
ピーター・ベアード作品はここでも複数出品されるが、注目作は”Orphaned cheetah cubs at feeding time, Mweiga, near Nyeri, Kenya, March 1968″。これは約84 x 113 cmの大作。落札予想価格は15万~25万ドル(約1500~2500万円)。
今回アーヴィング・ペンは25点が出品。そのなかでも初期プラチナ・プリントの”Woman with Roses on Her Arm (Lisa Fonssagrives-Penn), 1950″と”Cuzco Children,1948″が注目されている。落札予想価格はともに15万~25万ドル(約1500~2500万円)。
(為替レートは1ドル100円で換算)

2013年アート写真市場を振り返る

今年はいままで続いていた市場2極化がさらに大きなスケールで進行した印象だ。ふとフラクタルという言葉を思い起こした。これは細部の構造が全体に似ているということ。この1年を振り返ると、大きなアート界全体とその一部のアート写真のそれぞれの市場のなかで2極化が拡大している印象を強く感じる。

アート界のハイエンド分野では、アート作品のオークション史上最高額が更新された。
11月のニューヨーク・クリスティーズで開催された現代アートセールでフランシス・ベーコン(1909- 1992年)の“Three Studies of Lucian Freud” (1969年)が142,405,000ドル(約142億4050万円)で落札。2012年の春にササビーズ・ニューヨークでつけたエドヴァルド・ムンク“叫び”の119,922,496ドルを上回った。

アート写真の世界も、特に前半は好調だったといえよう。春のニューヨーク・オークションで総売り上げは昨秋と比べ何と約81%も伸び、約3086万ドル(約30.8憶円)となった。これはほぼリーマンショック前の2007年のレベルとなる。
久しぶりに100万ドル超の高額落札も実現、クリスティーズの"the deLIGHTed Eye, Modernist Masterworks from a Private Collection"に出品されたマン・レイの"Untitled Rayograph, 1922"は、落札予想価格の3倍を超える、$1,203,750.(約1億2千万円)で落札された。(グルスキー、シュトゥルートなどは現代アート分野の写真なのでここでは含めないことにする。)
ところが秋のニューヨーク・オークションはその反動か売上高、落札率ともに低迷。しかし春秋合計の2013年の大手3社の年間総売上は約4782万ドル(約47.8億円)となり、2012年を約40%も上回った。
これはほぼリーマンショック前の2005年の水準と同レベル。中央銀行の量的緩和策継続でNYダウがオークション開催時に15000ドル台まで回復してきたことがコレクターのセンチメントを向上させたのだと思う。
しかし、その後、パリ・フォトに合わせて行われたクリスティーズ、ササビーズのオークション、低価格作品やフォトブック中心のレンペルツ(ドイツ)やスワン・ギャラリー(米国)のオークションは全般的に高めの不落札率で推移した。欧州経済の低迷も一因だと考えられるが、ここ数年ずっと続いている、貴重な高額作品の活況と低価格帯の低迷という2極化傾向がさらに進んでいる印象だ。

2013年は日本人写真コレクターにとって買い場が見つかりにくい1年だったようだ。特に昨年来の為替の円高修正傾向が購入心理に微妙に影響を与えていた。ドル円相場は、数年前に一時80円以上の円高だったのが2013年は100円台に突入した。海外の作品価格が20から30%も円貨で上昇したことになる。アート写真はドル資産を持つと同じ意味になる。すでにコレクションを持っている人はドルの外貨預金同様に資産価値が大きく上昇したわけだ。しかし円高時にタイミングを逃してあまり買えなかった人は、為替変動が急だったので新しい価格レベルでのコレクション購入には躊躇していた。5年間にわたる円高に慣れ切っていたので、もう一度円高に振れた時を狙っており大きくは動きにくかったのだ。

しかし、金融緩和策の段階的終息で米国金利が上昇する見込みで、今後はどうも100円台のドル高が定着する見通しだ。2014年、もし金利上昇で株価が下落しアート写真市場が弱くなる局面があればぜひ買い場ととらえて欲しい。100万円以下の価格帯の相場は強くない。ドル高局面の今の為替レベルでも以前とあまり変わらない円貨で買えるチャンスもないとはいえないのだ。本格的に米国景気が上向いてくればドル高になるとともに、いままで低迷していた価格帯の相場も上昇すると思われる。
注目したいのは日本のオークションに出品される外国人作家作品。まだ落札予想価格にドル上昇が完全に反映さていない場合が多い。もしかしたらお買い得作品が見つかるかもしれない。
コレクション購入には思い切りと買う覚悟が必要だ。いつまでも円高の時に最安値で買いたいと思っていると、永遠にチャンスは巡ってこないかもしれない。もし中期的に米国経済が本格回復してくるとすれば、2014年前半は最後の買いのチャンスかもしれない。

2013年秋のロンドン現代アートオークション グルスキー、シュトゥルート人気は続くのか?

最近の米国では、経済状況は決して楽観できるものではないのに株高傾向が続いている。 実態は企業の労働生産性が伸びない中で低賃金労働に従事する人が増加しているようだ。 これだと企業収益や消費の見通しも明るくないだろう。そのような状況で中央銀行の金融緩和策が継続されている。結果的に資産インフレが起こり株高や貴重なアート作品の高騰を招いているのだ。資産を持つ人と持たない人との格差が拡大しているわけだ。

この流れの影響をアート写真セクター、特に現代アート分野の作品も受けている。有名作家の貴重な作品の相場は上昇傾向にある。
10月中旬にロンドンで大手オークションハウスの現代アートオークションが開催された。この時期のロンドンは、11月のニューヨークの現代アートアートクションの前で、またフリーズなどのアートフェア開催期間中に行われるので大きな目玉がないことが多い。しかし、写真作品では案外ドイツ系の注目作が登場することがある。今シーズンも、アンドレアス・グルスキー、トーマス・シュトルートをはじめ、シンディー・シャーマン、ジェフ・ウォールなどが出品された。

落札予想価格の上限を超えるサプライズの落札はクリスティーズのトーマス・シュトゥルート”SAN ZACCARIA, VENICE,1995″だった。これはヴェニスのサン・ザッカリア教会内を撮影した185X234cmの巨大作品。中央にはイタリア・ルネッサンス期の画家ジョヴァンニ・ベッリーニの祭壇画があり、それを鑑賞している観客も含めて撮影されているミュージアム・シリーズの1枚。シュトゥルートの写真の中で、ベッリーニの絵と前景が違和感なく完璧に一体化している。絵の中の光と同じヴェネチアの光線を取り入れて空間を撮影しているのでそのように見えるのだろう。
作品の中に、時間の永遠性と移ろい、また理想と現実を同時に表現している点が高く評価されている。

落札予想価格150,000 – 200,000ポンド(約2400~3200万円)のところ、上限を3倍も超える698,500ポンド(約1億1176万円)で落札された。エディション10だがその他の作品はニューヨークのメトロポリタンなど多くの美術館のコレクションになっている。要は美術館は売りだすことはあまりないので市場で入手することが難しい名作ということだろう。

写真作品のロンドンでの最高額落札はササビーズに出品されたアンドレアス・グルスキーの”PARIS, MONTPARNASSE,1993″だった。新国立美術館の個展でも展示されていた彼の代表作品の1枚だ。1993年制作の本作はデジタル技術を最初に作品に取り込んだ彼の転換点にもなったものといわれている149X395cmにもなる横長巨大作品。パリのジャン・デュビュイッソンによる戦後の代表的なモダン住宅を撮影したもの。グルスキーは2枚の写真を完璧に合成。建物の余計な部分をトリミングして抽象的なグリット状の構図の人工的な構造物を作り上げている。それは画面の左右に果てしなく連続しているかのような印象だ。同時に精緻な画像の中には750のアパートの画一化したユニットに閉じ込められた住民の生活までもが描かれている。システムの中に閉じ込められて価値を与えられている都市住民の姿を象徴的に表現しているのだ。

本作は企業コレクションから売却だった。落札予想価格1,000,000 – 1,500,000ポンド(約1億6000万~2億4000万円)のところ、 1,482,500ポンド(約2億3720万円)で落札された。

その他の高額落札は以下の通り。
クリスティーズのジェフ・ウォール”THE CROOKED PATH,1991″が落札予想価格250,000 – 350,000ポンド(約4000~5600万円)のところ、上限を超える482,500ポンド(約7720万円)で落札。
シンディー・シャーマンの”UNTITLED (#201),1989″落札予想価格120,000 – 180,000ポンド(約1920~2880万円)のところ、132,100ポンド(約2113万円)で落札されている。

ここ数年続いている有名作家の代表作が物色される傾向はまだ続いている印象だ。上記のシュトルートの例のように、作家の代表作の場合は、既に美術館や有名コレクション所有が多くエディション作品でも希少性が高いのだ。
しかし今回のグルスキーは、高額価格帯作品が全体で6点出品されたが、”CHICAGO MERCANTILE EXCHANGE,1997″と”STATEVILLE, ILLINOIS,2002″は不落札だった。
当たり前なのだが、グルスキーならどんな作品でも高額で落札されるわけではない。代表作が高額で取引されるとどうしても周辺の作品の落札予想価格も高めになる傾向があるのだ。しかし、いくら人気作家でも人気作と不人気作ががより明確に意識されており、その価格差が拡大している。どうせ買うのなら、高くても人気作、貴重作が良いという心理が働き、同じ作家の作品の中でも2極化が進行している印象を持った。

今後の市場の関心は、11月開催のササビーズ・パリ、フィリップス・ロンドンのアート写真オークション、ニューヨークの現代アートオークションへと移っていく。

(為替レートは1ポンド160円で換算)

秋のニューヨーク・アート写真セールが開催 最新オークション・レビュー

2013年秋のニューヨーク・アート写真オークションは売上高、落札率ともに春よりも低迷。大手3社の総売り上げは前回比約45%も減少した。一番大きな要因は高額落札が大きく減少したこと。今春は100万ドル越えのマン・レイなど、50万ドルを超える作品が5点あった。今秋の最高額はアルフレッド・スティーグリッツの $557,000(約5570万円)にとどまった。今回は春の売り上げが非常に大きく上昇したことの調整の面もあった思われる。市場環境が同じ場合、年間の市場取引額はそんなに変わらない。オークション会社が春の実績を踏まえてあえて今秋は供給を絞った面もあるのだろう。

開催されたオークションも、クリスティーズがピーター・ベアード28点の小規模単独オークションを開催した他は複数委託者オークションが中心となった。実際に出品数は約13%減少している。オークションハウスのコメントは、「貴重作品には強い需要が見られる」と強気だが、決して先行きを楽観していない姿勢が感じられる。
しかし春秋合計の2013年の大手3社の年間総売上は約4782万ドル(約47.8億円)となり、2012年を約40%も上回っている。これはほぼリーマンショック前の2005年の水準と同レベル。中央銀行の量的緩和策の継続で株価のNYダウが2012年後半の13000ドルから15000ドル台まで回復してきたことが素直に市場に反映されてきたのだと思う。私の経験則によるとNYダウの推移とオークションの取引総額はかなり方向性が一致するのだ。

最近、市場で言われているのがモダンプリントの中での差別化だ。貴重なヴィンテージプリントが市場に出てくることが減っており、物色の対象が撮影時に比較的近いモダンプリントにも広がってきたということだ。
今秋もヴィンテージとは言えないが古い時代にプリントされたアンセル・アダムスやヘルムート・ニュートンや、ダイアン・アーバスのエステート・プリントの高額落札が散見された。かつては撮影から1年が経過したヴィンテージと、それ以外のモダンプリントとに単純に分けられていた。しかし、同じ銀塩のモダンプリントでも、ペーパーの質が時代ごとに変化しており、古い方が銀の含有量が多いことがある。市場の歴史が積み重なったことで、これからは撮影時から何年経過したプリントなのかが作品評価時により考慮されるようになると思われる。このようにプリント自体の価値よりも、作家性を重んじるようになってきたのは間違いなく現代アート市場の影響だろう。

今秋の各社の高額落札を紹介しよう。
ササビーズは230点のオークションを実施。落札率は75%と平均的な結果だった。最高額はアルフレッド・スティーグリッツのオキーフのパラディウム・プリントによるヌード作品”GEORGIA O’KEEFFE: A PORTRAIT-TORSO、1918-19″だった。
落札予想価格は30万~50万ドル(約3000~5000万円)のところ $557,000(約5570万円)で落札された。これは現存する3作品のうち1点で残りは美術館に収蔵されている逸品。ロダンなどがブロンズ作品で行ったヌードでの美的探求を写真で行っていると評価されている。本作が今秋の最高額の落札だった。
アンセル・アダムスの”THE TETONS AND SNAKE RIVER, GRAND TETON NATIONAL PARK, WYOMING,1942″は100.3X130.8 cmの大判作品。これは50~60年代にプリントされたモダンプリント。落札予想価格は25万~35万ドル(約2500~3500万円)を上回る $401,000.(約4010万円)で落札されている。
カタログの表紙を飾る、ラースロ・モホリ=ナジの40X30.2cmの大判フォトグラム作品”Fotogramm”は残念ながら不落札。しかし同じく小さい28.3X21cmサイズの”Fotogramm(Hand)”は落札予想価格20万~30万ドル(約2000~3000万円)の範囲内に収まる $245,000.(約2450万円)で落札されている。

クリスティーズが行ったピーター・ベアードの単独オークション”Into Africa: Photographs by Peter Beard”は、28点中24点が落札された。彼の作品はその他のハウスでも数多く出品されていることから、コレクターも慎重に作品を選んでいるようだ。
注目されていた約160X220cmの大作”Orphaned Cheetah Cubs, Mweiga, Kenya, 1968″は、落札予想価格は15万~25万ドル(約1500~2500万円)。これは1998年制作の1点物作品で、 なんとシーズン第2位の$449,000.(約4449万円)で落札された。
しかし高額落札が期待されていたもう1点の巨大作品”Tsavo Tusker, on the Athi-Tiva River, 1965″は不落札だった。

クリスティーズの243点に及ぶ複数委託者のオークション。春よりも総売り上げは約60%ほど低下、落札率も約84%から約65%と大手では一番大きな減少だった。注目作のウィリアム・エグルストンの写真集カヴァーに掲載されている”Memphis (Tricycle), c. 1970″。これは1980年に制作されたエディション20点のダイ・トランスファープリント。落札予想価格は25万~35万ドル(約2500~3500万円)のところ$293,000(約2930万円)で落札された。
それに続く高額落札は、アーヴィング・ペンによるジャズの帝王マイルズ・デイヴィスの手を撮影した”The Hand of Miles Davis (New York), July 1, 1986″。これは1986年にプリントされた作品で、落札予想価格は7万~8万ドル(約700~800万円)のところなんと驚きの$245,000(約2450万円)で落札された。
もう一つのサプライズはフランチェスコ・ウッドマンの”Self Portrait,1979″。なんと落札予想価格上限の3.5万ドル(約350万円)を大きく超える$173,000(約1730万円)で落札。
一方で、高額額落札が期待されたエドワード・ウェストンの抽象的ヌード作品”Nude, 1925″、ラースロ・モホリ=ナジのフォトグラム”Untitled, Dessau, 1926″、100万ドル越えの期待があったエドワード・カーティスの貴重な全作揃いのポートフォリオ”The North American Indian, Portfolios 1-20; and Text Volumes 1-20″はいずれも不落札だった。カタログ表紙のアーウイン・ブルメンフェルドの”New York、c.1948″(上記掲載図版)は落札予想範囲内の$50,000(約500万円)で落札されている。

フィリップス(Phillips de Pury & Company)が行った264点のオークションは春の85%の落札率より低下して平均的な70%だった。最高額の入札は、リチャード・アヴェドンのローリング・ストーン誌に掲載された69点のポートフォリオ”The Family,1976″。落札予想価格20万~30万ドル(約2000~3000万円のところ$341,000(約3410万円)で落札。続く高額落札はウィリアム・エグルストンのダイトランスファー11点からなる”Graceland 1984″ のポートフォリオ。落札予想価格10万~15万ドル(約1000~1500万円のところ$197,000(約1970万円)で落札された。
ヘルムート・ニュートンの大判作品”Parlour games, Munich, 1992″とピーター・ベアードの”Giraffes in Mirage on the Taru Desert, Kenya, June 1960″がともに$173,000(約1730万円)で落札。
サプライズはダイアン・アーバスの”King and Queen of a senior citizens’ dance,N.Y.C., 1970″。これはドーン・アーバスによるサインの財団スタンプ付きのエステート・プリントだが、 落札予想価格上限8万ドル(約800万円)の2倍に近い$161,000(約1610万円)で落札された。ロバート・フランクの”From the bus, 1958″も高値が付いた。落札予想価格上限6万ドル(約600万円)をはるかにに超える$102,500(約1025万円)で落札。

今後のアート写真市場の関心は、10月開催のクリスティーズ・ロンドン、11月開催のササビーズ・パリ、フィリップス・ロンドンに移っていく。

(為替レートは1ドル100円で換算)

2013年秋のアート写真シーズン到来 最新オークション・プレビュー

夏休みが終わり、いよいよ2013年秋のアート写真シーズンが到来した。今月末から始まる秋の海外オークションの出品情報も揃ってきたのでプレビューをお届けする。

まずシーズンに先駆けて、9月10に米国フィラデルフィアのフリーマンズ(Freeman’s)で”Photographs And Photobook”オークションが開催された。これはフォトブックを含むほとんどが1万ドル以下の低価格帯作品オークション。
注目されたのは、化粧品会社AVONの女性アーティストによる作品コレクションの売却と、バート・スターンによるマリリン・モンローの死直前に撮影された10枚ポートフォリオ・セットの”MARILYN MONROE: THE LAST SITTING,1962″の出品だった。
最高額は上記のモンロー作品で落札予想価格を大きく上回る、$41,250.(約412万円)で落札されている。全体の落札率は順調と言える約70%だった。しかし今回のAVONコレクションからの売却87点のうち約67点余りが最低落札価格が設定されていない成り行き販売だった。
以上から、最近ずっと続いている、需要が強い貴重作品、弱い平均的作品という相場基調はまだ続いている印象だった。NYダウ株価は4月よりは高いものの、チャート的には中期の取引レンジの上限に近い。 さらに上昇するエネルギーはなさそうだ。いままで続いてきた市場の流れに変化の兆しがみられるのか、月末から始まるニューヨークの主要オークションが注目される。

・”Kate Moss From The Collection of Gert Elfering”
クリスティーズ・ロンドン
9月25日

ニューヨークでの定例オークションの前に、スーパーモデルのケイト・モスをフィーチャーしたオークションがクリスティーズ・ロンドンで開催される。彼女は多くの有名写真家やアーティストの創造力を刺激し続けてきた時代のミューズ。 著名なコレクターGert Elferingのコレクションから、ヨーガン・テラー、マリオ・ソレンティ、ニック・ナイト、アニー・リーボビックらによる写真作品、ペインティング、コラージュ、彫刻、タペストリーなど計58点が出品される。

・”Photographs”
フィリップス(Phillips de Pury & Company)、ニューヨーク
9月30日、10月1日

フィリップスでは2日にまたがって約264点が出品される。注目されているのは、リチャード・アヴェドンのローリング・ストーン誌に掲載された69点のポートフォリオ”The Family,1976″。落札予想価格20万~30万ドル(約2000~3000万円)。 ロバート・フランクの70年代にプリントされた代表作”Parade Hoboken, New Jersey, 1955″は落札予想価格10万~15万ドル(約1000~1500万円)。ヘルムート・ニュートンの1.5X2メートルの大判作品”Parlour games, Munich, 1992″と”Nude and Police Dog, St.Tropez,1975″の落札予想価格15万~20万ドル(約1500~2000万円)。
日本人では荒木経惟の”101 works for Robert Frank(Private Diary),1993″と杉本博司の建築シリーズからの”United Nations Headquaters, 1997″がともに落札予想価格8万~12万ドル(約800~1200万円)となっている。

・”Photographs”
ササビーズ、ニューヨーク
10月2日

ササビーズは232点が出品される。注目作品は、アンセル・アダムスの”WINTER SUNRISE, SIERRA NEVADA FROM LONE PINE, CALIFORNIA,1944″。72.1X101cmの大判作品で、落札予想価格は15万~25万ドル(約1500~2500万円)。同じくアダムスの”THE TETONS AND SNAKE RIVER, GRAND TETON NATIONAL PARK,WYOMING,1942″。これはさらに大きい100.3X130.8 cm。落札予想価格は25万~35万ドル(約2500~3500万円)。
アルフレッド・スティーグリッツのオキーフのヌード作品”GEORGIA O’KEEFFE: A PORTRAIT-TORSO”。これはパラディウム・プリントで、落札予想価格は30万~50万ドル(約3000~5000万円)。
カタログの表紙を飾る、ラースロ・モホリ=ナジの40X30.2cmの大判フォトグラム作品、同じく”Fotogramm(Hand)”は、ともに落札予想価格20万~30万ドル(約2000~3000万円)。

・”Photographs”、”Into Africa: Photographs by Peter Beard”
クリスティーズ、ニューヨーク
10月3日

クリスティーズは”Into Africa: Photographs by Peter Beard”という、ピーター・ベアードの単独オークションと複数委託者のオークションを開催する。ベアード・オークションには28作品が出品される。ハイライトは人気作の”Orphaned Cheetah Cubs, Mweiga, Kenya, 1968″。これは約160X220cmの大作。落札予想価格は15万~25万ドル(約1500~2500万円)。またシート・サイズが304X177cmもある巨大な”Tsavo Tusker, on the Athi-Tiva River, 1965″の落札予想価格は20万~30万ドル(約2000~3000万円)。

複数委託者では約243作が出品される。注目作は、ウィリアム・エグルストンの写真集カヴァーに掲載されている”Memphis (Tricycle), c. 1970″。本作は1980年に制作されたエディション20点のダイ・トランスファープリント。落札予想価格は25万~35万ドル(約2500~3500万円)。エドワード・ウェストンの抽象的ヌード作品”Nude, 1925″は落札予想価格15万~25万ドル(約1500~2500万円)。ラースロ・モホリ=ナジのフォトグラム”Untitled, Dessau, 1926″は落札予想価格20万~30万ドル(約2000~3000万円)。
エドワード・カーティスの貴重な全作揃いのポートフォリオ”The North American Indian, Portfolios 1-20; and Text Volumes 1-20″は、落札予想価格100万~150万ドル(約1億~1億5000万円)となっている。100万ドル越えの入札があるか注目されている。
カタログ表紙は、アーウィン・ブルメンフェルドのシルバー・プリント”New York, ca. 1948″。こちらの落札予想価格は4万~6万ドル(約400~600万円)。その他、ブルメンフェルドの美しいファッション系作品が複数出品される。

(為替レートは1ドル100円で換算)

2013年春NYアート写真オークション結果 景気回復期待で取引額が増大!

2013年春のニューヨーク・アート写真オークションは、クリスティーズ、ササビーズ、フィリップス(Phillips de Pury & Company)ともに、有力コレクションからの単独オークションをメインとして、それとともに複数委託者のオークションも開催した。結果はおおむね順調で、優れたアート写真に対する需要が強いことを改めて印象付けられた。ちょうど開催期間が、世界最大のアート写真フェアのAIPADフォトグラフィー・ショーと重なった。一部には、フォト・フェアの売り上げに影響が出たという意見も聞かれた。

有力コレクションの優れた来歴を持つ逸品が多かったことから、総売り上げは昨秋と比べ約81%も伸びて約3086万ドル(約30.8憶円)となった。これはほぼリーマンショック前の2007年のレベルとなる。売り上げ高トップは今期もクリスティーズ。開催した二つのオークションともに売り上げ総額は落札予想価格上限合計を超えている。

最近はトップエンド価格帯市場の勢いがやや弱まっている傾向がみられていた。今春、大手オークションハウスはこのセクターにかなりの逸品を投入してきた。結果は、5万ドル以上の高価格帯セクターでの予想落札価格上限の総額をオーバーしたのはクリスティーズだけだった。ここの落札率も約92%~68%とかなりばらつきがあった。価格推移についてはほぼニュートラルな結果だったと言えよう。主要3社全オークションの落札率は約81%。その後に開催されたフォトブックを含む低価格帯作品の出品の多いスワン・オークションズの落札率はずっと下がって66%だった。昨年来ずっと続いている、”高額作品の活況と動きが鈍い低価格帯”という傾向はまだ変わってないようだ。

高額落札は以下の通り。
最高額はクリスティーズの”the deLIGHTed eye, Modernist Masterworks from a Private Collection”に出品されたマン・レイの”Untitled Rayograph, 1922″。もちろん貴重はオリジナルの1点物。本作は最初に雑誌メディアで紹介されたマン・レイのレイヨグラフとのことだ。落札予想価格の3倍を超える、$1,203,750.(約1億2千万円)で落札された。久しぶりの100万ドル越えの作品だ。
同オークションからは高額落札が続き、ポール・ストランドの”Akeley Motion Picture Camera, New York, 1922″は落札予想価格25万~35万ドルのところ、$783,750 (約7837万円)で落札されている。

クリスティーズも複数委託者オークションでは、ロバート・フランクの歴史的写真集「The Americans」の表紙イメージの” Trolley-New Orleans, 1955″が注目された。本作は、1961年にニューヨーク近代美術館でエドワード・スタイケンのキュレーションで開催された、ハリー・キャラハンとの二人展用にフランク自身により制作されたもの。サイズが29X42.4cmと大きいことも作品の評価を高めている。落札予想価格40万~60万ドルのところ、$663,750(約6637万円)で落札されている。

驚きの高値が付いたのがフリップスに出品されたのダイアン・アーバス”Identical Twins Cathleen and Colleen, Roselle, NJ, 1967″。落札予想価格18万~22万ドルを大きく超えて$602,500(約6025万円)で落札。これはアーバス作品のオークションでの最高額だった。

ササビーズで高額落札が期待されていたのがエドワード・ウェストンの”Two Shells, 1927″。本作は珍しいマット系ペーパーにプリントされている上にサインも初期のものだ。
落札予想価格60万~90万ドルのところ、ややがっかりさせられる$533,000(約5330万円)で落札された。
クラシカルなエドワード・ウェストンの高額落札はクリスティーズでも続き、”Nude, 1925″は
$483,750(約4837万円)で落札されている。

次のアート写真市場の関心は、5月開催のロンドン、パリのオークションに移っていく。
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2013年春New Yorkアート写真オークションプレビュー 高額価格帯市場の活況は続くのか?

世界的な金融緩和の継続で株価は上昇し、債券市場も比較的安定している。これで富裕者層のセンチメントは大きく改善して、高額なアートの市場は好調な動きが続いている。しかし、中間価格帯、低価格帯のアート市場は相変わらず低迷状態から脱していない。
特に知名度がない若手新人の市場が芳しくない。そしてほとんどの写真作品はこの中間~低価格帯になる。

さて4月2日のフィリップス(Phillips de Pury & Company)を皮切りに春のニューヨーク・アート写真オークションが始まる。オークション・カタログに一通り目を通すと、上記の市場動向が見事に反映された内容になっている。
主要3社ともに、有力コレクションのセールを単独オークションで開催予定。メインに有名写真家の珠玉のヴィンテージ作品を競って持ってきている。それとは別にバリエーション豊富な複数委託者のオークションを開催する。
アート写真市場が本格的にコレクターに認識されたのが、70年代後半以降。市場規模が拡大し、作品価格が上昇したのは90年代後半以降なのだ。ちょうど第1世代の写真コレクターが高齢になり、コレクションを手放す時期が訪れつつあるという印象だ。彼らは市場の黎明期に本当に安い価格で写真史に残る名品を買えた幸運の人たちだ。当時はまだ一般的には写真のアート性は認識されていなかった。彼らが優れた先見性を持っていたということだろう。
しかし一つ疑問がわいてくる。誰にでもチャンスはあったのになんで彼らだけが写真を買い始めたのか?調べてみると、有力コレクションには優れた指南役の専門家がついていたことが分かる。彼らは写真史を踏まえた上で、将来性のあると思われる作家の購入をアドバイスしていた。 コレクターとディーラーとの深い信頼関係が優れたコレクションを作り上げていたわけだ。
興味深いのは彼らの全てが裕福な資産家であったわけではないこと。例えば、ササビーズの複数委託者オークションの中に”Charles and late Barbara Reiher”という素晴らしいコレクションが含まれる。これはアート写真界の伝説のディーラーだったハリー・ランのアドバイスで70年代後半から蒐集されたもの。なんとその半分はロバート・フランクの「The American」「The Lines of my hands」からの初期プリントや、あまり知られたいない貴重作品19点なのだ!ハリー・ランが取り扱ったという来歴もプリントの価値を高めていると思われる。この夫妻は、政府の役人と地方のハイスクールの教師だったという。まるで現代アート・コレクター夫妻として映画化された話題になった「ハーブ&ドロシー」のアート写真版だ。

以下に各オークションハウスの目玉を紹介してみよう。

フィリップスは “DR. ANTHONY TERRANA”コレクションがメインとなる。ヴィンテージからモダン、ファッションまでかなり幅広い分野の写真が出品される。個人の成長とともに蒐集テイストが変化する過程が垣間見れて面白い。

アルフレッド・スティーグリッツのプラチナ・パルディウム・プリントの”Georgia O’Keeffe,1919″、落札予想価格 $300,000 – 500,000(@95、約2850~4750万円)。
アーヴィング・ペンの”Harlequin Dress (Lisa Fonssagrives-Penn), 1950 “は何と1979年制作の貴重なエディション1/30。落札予想価格 $300,000 – 500,000。
ロバート・フランクの写真集表紙イメージの”Trolley, New Orleans, 1955-1956 “。落札予想価格 $200,000 – 300,000。

クリスティーズの4月4日開催の、”the deLIGHTed eye, MODERNIST MASTERWORKS FROM A PRIVATE COLLECTION”はかなり高いクオリティーの作品群が出品される。

エドワード・ウェストン”Nude, 1925″、落札予想価格 $400,000 – 600,000。ティナ・モドッティの”Untitaled (Texture and Shadow)”、落札予想価格 $200,000 – 300,000。マン・レイ”Untitled Rayograph, 1922″、落札予想価格 $250,000 – 350,000。アルフレッド・スティーグリッツのプラチナ・プリントの”From the Back Window -“291”- N.Y. Sommer 1914″、落札予想価格 ”$300,000 – 500,000。アンドレ・ケルテスの”Chairs, the Medici Fountain, Jardin du Luxembourg, 1925″、落札予想価格 $200,000 – 300,000。

ササビーズでは、”THE MODERN IMAGES”が4月5日に開催される。ロバート・フランクの写真集「アメリカ人」の最初の収録写真の”Hoboken, 1955″、落札予想価格 $150,000 – 250,000。エドワード・ウェストン”Two Shells, 1927″これは珍しいマット系ペーパーにプリントされたもの。20年代後半には彼はグロッシー系のペーパーに変えている。サインも初期のものだ。この古い年代の”Two Shells”は美術館の収蔵品にもないそうだ。 これは長年コレクターのJames J.Rochilis氏が所有していた名品。彼の死後2003年にササビーズで$200,000 – 300,000.のエスティメートのところ、$467,200.で落札されている。今回の落札予想価格は、$600,000 – 900,000。今シーズン最注目のウェストン作品だ。

昨秋のオークション・レビューで超トップエンド価格帯市場の勢いがやや弱まっていると指摘した。今春、主要オークションハウスはその市場にかなりの高レベルの逸品を大量投入してきた。はたして高額作品の活況が続くのか? 今春の一番の注目点だろう。

2012年秋NYアート写真オークション結果 平均的売上げだが高額セクターの相場調整の気配

最近のアート市場では一点もの価値がより高まっている。写真を含む複数枚制作されるアート作品市場が横ばいの一方で歴史に残る美術館収蔵クラスの有名作家による絵画や彫刻は記録的な値段で落札されている。

11月ニューヨークで開催された戦後コンテンポラリー作品のオークションは記録的な売上高だった。目玉作品が出品されるイーブニングセールでは、クリスティーズで412,253,100ドル(約329億円)、ササビーズでは375,205,000ドル(約300億円)もの総売上を達成している。
高額落札も続出。ササビーズではマーク・ロスコの“No.1 (Royal Red and Blue),1954”が$75,122,500(約60億円) 。クリスティーズではアンディー・ウォーホールの“Statue of Liberty,1962”が$43,762,500(約35億円) で落札されている。

マーク・ロスコ、ジャクソン・ポロック・ウィレム・デ・クーニング、アンディー・ウォーホール、ゲハルト・リヒター、フランシス・ベーコンなど、高いクオリティーで市場に新鮮な作品が高額落札の上位を独占している。
この分野のデイ・セールにも写真作品が出品されているが、アーティストが写真で表現していると考えられておりエディション数も少なく他のアート作品と同列に取り扱われている。杉本博司などは順調に落札されている。ただ一つ気になったのが、15万ドルを超える高額落札予想価格がついたシンディー・シャーマンの不落札が散見されたこと。いままでにやや相場が上がり過ぎた感じがする。アンドレアス・グルスキーの相場も同様な調整の気配を感じた。

さて、2012年秋のニューヨーク・アート写真オークション。以前、11月6日のブログでは趣向を変えて高額落札予想で不落札作品を紹介して市場動向を分析してみた。(前回の解説はこちらをどうぞ)今回はいつものように高額落札作品を紹介しておこう。

主要ハウスの売り上げは、ササビーズ約448万ドル(約3.59億円)落札率約65%、クリスティーズ約779万ドル(約6.23億円)落札率約63%、フィリップス(Phillips de Pury & Company)約470万ドル(約3.76億円)落札率約76%、 だった。ちなみに写真とレアブックを取り扱うスワンは、エドワード・カーティス”The North American Indian”のコンプリート・セットが144万ドルの高額で落札されたことから、総売り上げ約271万ドル(約2.16億円)と最高売上記録を達成、落札率は約63%だった。
売り上げはササビーズ、クリスティーズが微増、フィリップスが20%強の減少、スワンは約倍増。トータルではスワンが貢献したことで200万ドル弱の上昇だった。しかし、落札率は各社とも春より減少している。

シーズンは10月2日のフィリップス(Phillips de Pury & Company)からスタートした。 ここが得意の現代アート系が好調。最高額の落札はトーマス・デマンドの”Wand/ Mural,1999″で、約24万ドル(約1940万円)だった。ピーター・ベアードの、”Happy Easter/ Alia Bay Croc Hatchery, Lake Rudolf for Eyelids of Morning,1965″は落札予想価格は12万~18万ドル(約960万~1440万円)のところ19.55万ドル(約1564万円)で第2位。同じくベアードの2枚組作品、”Cheetah cubs orphaned at Meiga nr.Nyeri for The End of the Game, 1968 and Hunting Cheetah on the Taru Desert, Kenya, June, 1960″も約11万ドル(約884万円)で第5位だった。
カタログ表紙のスティーブン・マイゼルによる187 x 147.5 cmの超巨大の1点もの作品、”Walking in Paris, Linda Evangelista & Kristen McMenamy, Vogue, October, 1992″は、8.65万ドル(約692万円)だった。
写真雑誌カメラワークの完全セットは約12万ドル(約980万円)と予想の下限だったが第3位となった。

ササビーズは10月3日に開催。
第1位はカタログ表紙作品のハンス・ベルメール”Self Portrait with die Puppe,1934″。これは作家本人が写ったドール・シリーズの1枚。美術館での展示など輝かしい来歴を持つ1枚。
落札予想価格は10万~15万ドル(約800万~1200万円)をはるかに超えて、約37.4万ドル(約2996万円)で落札。同じく、チャールス・レンダー・ウィード(Charles leander Weed)の19世紀制作の30点セット”Yosemite Valley and Big Tree Views, 1864″も同額で落札されている。
3位はシンディー・シャーマンの2作品。”Untitled Film Still #83, 1980″と、”Untitled #19, 1978″がともに約18.2万ドル(約1460万円)で落札されている。ピーター・ベアードの1点もの作品”Rothchild’s Giraffes from The Uganda Line”も同額だった。
6位には、イモージン・カニンガムのクラシックなヌード作品”Nudes (Two Sisters),1928″が約11万ドル(約884万円)がはいった。

クリスティーズは10月4日から5日にかけて、プライベート・コレクター所有のリチャード・アヴェドン作品28点の単独セールと、複数委託者の約347点のオークションを開催。今春の売上トップだったクリスティーズは出品数で今秋も他社をリードしている。
断トツの1位はカタログ表紙のピーター・ベアード作品”Orphan Cheetah Triptych, 1968″。127 X 248.9cmサイズの中に3枚のチータの写真が貼られ、ヘビの皮などで様々なコラージュがなされている。激しい競り合いの末、落札予想価格15万ドルを遥かに超える66.2万ドル(約5300万円)で落札された。これは、もちろんベアードのオークション新記録、今シーズンの最高額でもあった。
リチャード・アヴェドン・セールの2点が同額で第2位。彼の代表作”Evening dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, August 1955″。今秋出品されたのは記録上最も初期にプリントされた極めて貴重な作品。20X24″の大判サイズの”Brigitte Bardot, 1959″とともに、26.6万ドル(約2132万円)で落札。
第4位はヘルムート・ニュートンのパノラマ作品、”Panoramic Nude with Revolver,Como, Italy,1989″。24.2万ドル(約1940万円)だった。
5位と6位はこれもともにアヴェドン・セールから。”Stephanie Seymour, model,New York City, May 9, 1992″が、23万ドル(約1844万円)。69点のポートフォリオ”The Family,1976″
が、20.6万ドル(約1652万ドル)だった。
7位はアーヴィング・ペンの”Black and White Vogue Cover, 1950″。これは1976年にプリントされた貴重なプラチナ・プリント。予想落札価格以下だったが、19.4万ドル(約1556万円)で落札された。

2010年春以降は主要3社の総売り上げは1600万ドルから1900万ドル台の範囲内に落ち着いている。今回のオークションもそのレンジ内に収まる結果だった。しかし、以前指摘したように高額落札が見込まれていた多くの作品が売れなかった。いままでは、好調なトップエンドのアート作品の高額落札に引きずられ、写真分野でも貴重作品に対するオークションハウスの落札予想価格設定は強気だった。 今秋の傾向は絵画などの本当に貴重作品が並ぶ超トッ
プエンドの相場は金余りの影響で強いものの、それ以下については相場の調整が始まってきた気配を感じた。希少性が劣る写真作品はその影響を受けている印象だ。今後は、超トップエンドの活況がいつまで続くかが注目だろう。バブルでないことを祈るばかりだ。

2012年秋のニューヨーク・アート写真オークション結果 気になる高額作品の不落札増加

今秋のニューヨーク・アート写真オークションはほぼ春並みの売り上げ額だった。主要3社の売り上げ合計は、春の約1676万ドル(@80、約13.4憶円)に対して約1698万ドル(@80、約13.58憶円)だった。スワン・オークションを合計すると売り上げ額は上昇している。これは、エドワード・カーティスの”The North American Indian”のコンプリート・セットが144万ドルの高額で落札された影響による。総売り上げ、落札率などを総合的に評価すると、きわめてニュートラルな結果だったといえるだろう。しかし内容を精査すると、高額落札が見込まれていた多くの作品が売れていないのが気になる。いままでは特に希少作品は確実に落札されていただけに目立って感じた。

フィリップス(Phillips de Pury & Company)では、注目されていた、エドワード・ウェストンの代表作”Pepper No. 30″、落札予想価格20万~30万ドル(約1600万~2400万円)と、ポール・アウターブリッジの”Standing Nude with Chair”、落札予想価格15万~20万ドル(約1200万~1600万円)がともに売れなかった。

クリスティーズでは、エドワード・ウェストンのプラチナ・プリント”Piramide del Sol, Mexico, 1923″、落札予想価格は12万~18万ドル(約960万~1440万円)。ウィリアム・エグルストンの有名な写真集の表紙のダイトランスファー作品”Memphis (Tricycle), c. 1970″、落札予想価格は25万~35万ドル(約2000万~2800万円)が不落札。
いままで人気のあったアーヴィング・ペン”Picasso,Cannes,France, 1957″や”Two Liqueurs,NY,1951″も買い手がつかなかった。
リチャード・アヴェドン・コレクション28点の単独オークションでも、あの有名な、”Marilyn Monroe, actress, NY,1957″、落札予想価格15万~20万ドル(約1200万~1600万円)が不落札という結果だった。

ササビーズでは、以下の注目作品が不落札だった。
アルフレッド・スティーグリッツの季刊”Camera Work”の1903~1917年の完全セット、落札予想価格20万~30万ドル(約1600万~2400万円)。ポール・ストランドの”Lusetti Family, Luzzara, Italy,1957″、落札予想価格25万~35万ドル(約2000万~2800万円)、アーヴィング・ペンの”Girl Drinking, 1947″、落札予想価格8万~12万ドル(約640万~960万円)、ラウル・ユバックの”La Triomphe dela Sterilite ou Penthesilee, 1937″、落札予想価格15万~25万ドル(約1200万~2000万円)。
また今回注目されていた、日系アメリカ人イチロー・ミスミのエドワード・ウェストン作品コレクションのうち、”Nude on sand, Oceanno, 1936(Asleep)”落札予想価格10万~15万ドル(約800万~1200万円)、”Nude on sand, Oceanno(Face down), 1936″、落札予想価格15万~25万ドル(約1200万~2000万円)がともに売れていない。

冷静に考えると現在は世界的な景気後退期。米国では住宅セクターの最悪期は脱したものの雇用はまだ伸びていない。また欧州債務危機は長引きそうだし、中国の景気後退が取りざたされてきた。将来の見通しも決して明るくないだろう。しかし貴重作品の需要が今まで強かったことを反映して、特に高額セクターの落札予想価格だけは非常に強気だった。
過去の落札記録が残っている上記フィリップスでのポール・アウターブリッジ作品で分析してみよう。本作は1996年にわずか7,820ドルで落札された作品だ。その後2003年10月のクリスティーズでは、落札予想価格6万~8万ドルのところ、153,100ドルの高額で落札されている。2003年の秋は低金利から金余りにとなり住宅着工の増加を誘発して米国経済は大きく回復していた時期。それ以降住宅価格が急上昇してバブル化する。好調な市場センチメントと金余りが高額落札となったのだろう。リーマンショック、欧州債務危機後の現在とは景況感が違う。今回のオークションハウスの落札予想価格が高すぎたと思う。当時の落札予想価格6万~8万ドルあたりが最低落札価格ではないだろうか。

クリスティーズで不落札になったリチャード・アヴェドンの”Marilyn Monroe, actress, NY,1957″、落札予想価格15万~25万ドル、はどうだろうか。実は本作は2006年春にフィリップスで40,800ドルで落札された作品。2006年秋には同じエディション数の作品が72,000ドルで落札されている。その時の落札予想価格3万~5万ドルだった。2006年はリーマンショック前の市場のピークだった時期。景況感が今とは全く違う。また本作はエディションが50点もある作品だ。2006年秋と比べ3倍近い落札予想価格はこの時期にしては過大評価だったと思う。

今までは不況が続くものの、非常にレアな作品だけは市場の弱いトレンドとは逆の動きを見せていた。どうもその流れにも変化の兆しが出てきた感じだ。現在の市場取引総額は2004年~2005年のレベル。当時よりは株価は高いので、その時期の相場までは落ちないだろう。しかし、これから低価格帯から高価格帯まで全ての分野においてニュートラルな状況になるのではないか。来春のオークションでは特に高額商品の落札予想価格が見直されると思う。

秋のオークションの詳細は情報整理が済み次第、アート・フォト・サイトの海外オークション情報欄に掲載します。

2012年秋のアート・シーズン到来!ニューヨーク・アート写真オークション・プレビュー

米連邦準備制度理事会(FRB)は9月の連邦公開市場委員会で「住宅ローン担保証券」の購入額を追加する量的緩和第3弾いわゆるQE3の導入を決めた。またゼロ金利政策の継続期間も15年半ばまで延長。これは、リーマンショック以来ずっと低迷している住宅市場を活性化させるための措置。 経済の波及効果が大きいこのセクターを刺激して雇用を回復させようという意図があるという。
その後、日銀も追加緩和を実施、南欧の国債の買い取り決めた欧州中銀とともに日米欧の中銀が経済活性化のために連携して動き出したということだ。中長期的には中央銀行の財政赤字の引き受けは問題があると識者が指摘しているが、景気悪化を抑えるために短期的にはやめられない政策だろう。
その後、とりあえずは世界的に株価は上昇傾向となったものの上値は限られている感じがする。
米国では上位10%の高額所得層が株全体保有の75%を占めるという。オークションでアートを購入するのは富裕層なので、株価による資産効果は高額作品には間違いなくあるだろう。ただし写真に関しては中所得者層の占める割合が現代アートなどと比べて高いと言われている。ここの部分のセンチメントどう変化しているかが入札結果を左右するだろう。
NYダウは2007年の水準である13,500ドル台に戻している。市場のセンチメント自体は悪くないと思う。

今秋のオークションの各社の目玉作品を見てみよう。
フィリップス(Phillips de Pury & Company)は、10月2日に開催。270点が出品されている。
クラシック作品では、エドワード・ウェストンの”Pepper No. 30, 1930″が注目作。これは1949年にプリントされた作品。落札予想価格は20万~30万ドル(約1600万~2400万円)。
ポール・アウターブリッジのプラチナムプリント”Standing Nude with Chair, circa 1924″は1点物の可能性が高いとのこと。落札予想価格は15万~20万ドル(約1200万~1600万円)。
現代アート系ではピーター・ベアード作品の出品が目につく。評価が高いのは”Happy Easter/ Alia Bay Croc Hatchery. Lake Rudolf for Eyelids of Morning, 1965″。落札予想価格は12万~18万ドル(約960万~1440万円)。
またトーマス・デマンドの182.9 x 269.9 cmの巨大作品”Wand / Mural, 1999″も注目されている。エディション6で、落札予想価格は12万~18万ドル(約960万~1440万円)。
ファッション系の目玉は表紙を飾るスティーブン・マイゼルの187 x 147.5 cmの巨大作品”Walking in Paris, Linda Evangelista & Kristen McMenamy, Vogue, October, 1992″。これは貴重な1点もの。落札予想価格は4万~6万ドル(約320万~480万円)。オークションにはめったに登場しない作家なので、今後の相場に影響を与えると思われる。

ササビーズは10月3日にオークションを開催。19世紀から21世紀までの幅広い作品約271点が出品される。
カタログ表紙の作品はハンス・ベルメールの”Self Portrait with die Puppe,1934″。これは作家本人が写ったドール・シリーズの1枚。美術館での展示など輝かしい来歴を持つ1枚。落札予想価格は10万~15万ドル(約800万~1200万円)。その他、マン・レイ、ラウル・ユバックなどのシュルレアリスム系の良質作品が多く見られる。
アルフレッド・スティーグリッツの季刊”Camera Work”の1903~1917年の完全セットも注目のロット。落札予想価格は20万~30万ドル(約1600万~2400万円)。
現代写真で興味深いのは、日系アメリカ人イチロー・ミスミのエドワード・ウェストン作品のコレクション4枚。ニューヨーク近代美術館とウェストン本人から1946年に購入したという来歴だ。当時は美術館は展示作品を販売していたという。ちなみに当時の販売価格は25ドル。出品作の1枚、”Nude on sand, Oceanno, 1936″の落札予想価格は15万~25万ドル(約1200万~2000万円)。
現代アート系では、シンディー・シャーマンのUntitled #19 と Untitled #83、ピーター・ベアードの1点ものの巨大作品”Rothschild’s Giraffes from The Uganda Line”が注目だ。
個人的には丸山晋一の”Kusho#2″の動向が気になるところだ。

クリスティーズは10月4日~5日に渡って開催。プライベート・コレクター所有のリチャード・アヴェドン作品28点の単独セールに続いて、複数委託者の約347点がオークションにかけられる。今春の売り上げトップに躍り出たクリスティーズは出品数で今秋もリードしている印象だ。
アヴェドン・セールとともに話題になっているのが、20世紀写真界の巨匠カルチェ=ブレッソンが彼のプリンターVoja Mitrovicに寄贈した貴重な作品コレクション32点のセールだ。
クラシック写真ではエドワード・ウェストンのプラチナ・プリント”Piramide del Sol, Mexico, 1923″の入札が楽しみだ。落札予想価格は12万~18万ドル(約960万~1440万円)。
今回は春の単独セールいらい話題が多い、ウィリアム・エグルストン作品7点が出品される。最も関心が高いのがエディション13/20のダイトランスファー作品”Memphis (Tricycle), c. 1970″。有名な写真集の表紙作品だ。落札予想価格は25万~35万ドル(約2000万~2800万円)。現代アート系では、杉本博司の”Colors of Shadow, C1032, 2006″、落札予想価格3万~5万ドル(約240万~400万円)。 トーマス・ルフの”09h 58m/-40°,1990″、落札予想価格8万~12万ドル(約640万~960万円)などが出品される。
カタログ・表紙を飾るのは人気の高いピーター・ベアード。”Orphan Cheetah Triptych,1968″は127X248cmサイズの大作。落札予想価格は10万~15万ドル(約800万~1200万円)。

オークション主要3社の総売り上げはリーマンショック後の2009年春に急減しその後、 株価同様に回復トレンドが続いている。2010年春以降は1600万ドルから1900万ドルの範囲内に落ち着いている。最近はレンジの下限に向かいつつある感じもする。外部環境の先行きがやや不透明な中、今回のオークションも上記レンジ内の売り上げに収まるか注目したい。