ワイフェンバックは、2002年にイタリア北部の南チロル地方の自治体のラーナ(Lana)で集中的に撮影を行い、美しい写真集「Lana」Nazraeli Press)を制作している。今回は場所をさいたま市に移して、全く同様のスタイルと、被写体へのアプローチで同地を撮影している。作品からは「Lana」に近い、光と乾いた空気感が感じられる。タイトルの撮影地情報がなければ、見る側はイタリアやフランスのネイチャー・シーンだと勘違いするのではないか。同じ日本での作品でも、夏場の伊豆三島周辺で撮影された「The May Sun」では、対照的に湿った空気感が表現されている。
本展の象徴的な写真に、女性が手に桜の花を持ったイメージがある。先日、なんと手のご本人が来廊してくれた。作品の前で彼女の手を記念撮影してワイフェンバック本人に送ったところ、「このモデルのOさんはとても良いスピリチュアルな感覚を持っている。彼女と、その手と再会できて嬉しいです!」とのメッセージが返ってきた。人によっては、このような写真はアマチュアが好む、ややわざとらしい演出した作品だと感じる人もいるかもしれない。しかし、彼女はモデルのOさんに演技をさせたわけではない。彼女が、空間を舞う桜の花に手を差し伸べて、花弁が手のひらに落ちたシーンに、ワイフェンバックは一種の自然と人間との精神的な交わりを感じてシャッターを押したのではないだろうか。 彼女は以前に伊豆の三島に滞在して名作「The May Sun」を制作した時に、自然に神を感じる、古の日本の伝統的な美意識の「優美」を意識するようになった。たぶん日本人の血に流れる、自然に精神的なものを感じる感覚を、桜の舞う瞬間に直感したのではないだろうか。
「Saitama Notes」は、前作「Cloud Physics」で明らかになった、気候変動問題や自然環境保護という大きなテーマを踏襲している。彼女は前作で「私が言葉ではなく、写真で表現したいのは、気候変動によって失われるものは美しさだということです」というメッセージを寄せている。いま世界規模で様々な気候変動問題や地球温暖化による環境破壊が起きている。彼女はその残酷かつ悲惨な最前線を撮影するのではなく、あえて美しい理想化された自然を意識的に切り取って作品化している。私たちは彼女のヴィジュアルを見るに、こんな美しい地球の風景や、精一杯生きている鳥や植物たちを大切にしないといけないと、心で直感的に理解できるのだ。 本作は、個別作品としては「The May Sun」の続編にあたり、撮影アプローチは、イタリアで撮影した「Lana」やオランダを撮影した「Hidden Sites」の流れを汲んでいるといえるだろう。
ぜひワイフェンバックが見つけ出した、さいたま市の知られざる自然美をぜひご高覧ください!
「Saitama Notes」テリ・ワイフェンバック 写真展 Part 1「Flowers & Trees」 2022年 10月14日(金)~ 12月25日(日)
Part 2「Cherry Blossoms」 2023年 1月14日(土)~ 4月2日(日)
1:00PM~6:00PM/ 休廊 月・火曜日 / 入場無料
〇ギャラリー店頭では、テリ・ワイフェンバックの最新刊”GIVERNY, A YEAR AT THE GARDEN”(ATELER EXB,2022年刊) “(直筆サイン入り)を限定販売中です。
ワイフェンバックは2002年にイタリア北部の南チロル地方の自治体のラーナ(Lana)で撮影を行い、美しい写真集「Lana」(Nazraeli Press)を制作している。今回は撮影場所をさいたま市に移して、全く同様のスタイルと、被写体へのアプローチで同市内の各地を撮影した。タイトルの撮影地情報がなければ、見る側はイタリアやフランスのネイチャー・シーンだと勘違いするのではないだろうか。さいたま市の撮影場所は、市民の森・見沼グリーンセンター、深井家長屋門、氷川女體神社、井沼方公園、見沼通船堀、見沼代用水東縁、見沼代用水西縁、見沼氷川公園、見沼自然公園、見沼臨時グラウンド、武蔵第六天神社、尾島農園、さぎ山記念公園 青少年野外活動センター、芝川第一調節池、田島ケ原サクラソウ自生地など。今回の写真展をきっかけに、美しい自然を持つさいたま市が間違いなく再発見され、これらの地はワイフェンバックが撮影した聖地となり、自然を被写体にするアマチュア写真家が巡礼する場所になるかもしれない。本展では、「Saitama Notes」シリーズから、デジタル・アーカイヴァル・プリント作品による大小様々なサイズの約37点が2回のパートで展示される。一部の主要作品は2会期にわたって重複展示される。 会場では彼女が美術館の依頼でフランス・ジベルニーの庭の花や草木を撮影した最新写真集”GIVERNY, A YEAR AT THE GARDEN”(ATELER EXB,2022年刊)も販売予定。
「Saitama Notes」テリ・ワイフェンバック 写真展
Part 1「Flowers & Trees」 2022年 10月14日(金)~ 12月25日(日)
鋤田正義は、自らの半生を振り返ったとき、ずっと「あこがれ」を追い求めてきたと語っています。その強い思いが彼のニューヨーク/ロンドン進出へと突き動かしたのです。そして彼のキャリアを本格的に回顧する集大成が、写真集「SUKITA ETERNITY」(ACC Art Books/玄光社)なのです。この写真集刊行により、初期のプロヴォーグ的ドキュメント作やライフワーク的な風景作品が紹介され、鋤田作品の全体像がはじめて明らかになりました。被写体の内面を引き出した代表作のポートレート写真にとどまらず、その多彩な作品の作家性の再評価が始まるきっかけとなりました。 デヴィッド・ボウイは鋤田のことを“may he click into eternity”と語っています。写真集のタイトル「ETERNITY SUKITA」は、編集に携わったカンベル・ガン氏の発案によりこの言葉から取られています。これは、鋤田は悠久の時を刻むようにシャッターを切る、というような意味になります。
京都ではちょうどアンビエント・ミュージックの第一人者で、ボウイのベルリン3部作の制作に関わったブライアン・イーノの音と光の展覧会「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」が8月21日まで、京都中央信用金庫 旧厚生センターで開催中だ。鋤田はイーノが手掛けたボウイの「Heroes」のカバーを撮影している。京都は鋤田に、ボウイ、イーノとの不思議な縁をもたらしている。