「DUFFY… PORTRAITS」展開催!
ダフィの60~70年代セレブたちのカッコいいポートレイツ

新年のごあいさつが遅くなりましたが、今年もよろしくお願いします。

ブリッツ・ギャラリーはダフィー(Brian Duffy 1933-2010)の写真展「DUFFY… FASHION / PORTRAITS」(ダフィー…ファッション/ポートレイツ展)のパート2「PORTRAITS(ポートレイツ)」を2025年1月15日から開催します。ダフィーは60~70年代に活躍した英国人写真家。彼は、デビット・ベイリー、テレス・ドノヴァンとともに60年代スウィンギング・ロンドンの偉大なイメージ・メーカーであるとともに、有名なスター・フォトグラファーでした。

ダフィーはパート1で展示したファッションとともに、各界で活躍していた時代を代表するセレブリティーのポートレイツを撮影しています。特に知られているのはデヴィッド・ボウイ(1947.1.8 – 2016.1.10)とのセッションです。70年代に、“ジギー・スターダスト Ziggy Stardust”(1972年)、“アラジン・セイン Aladdin Sane”(1973年)、“シン・ホワイト・デューク The Thin White Duke”(1975年)、“ロジャー Lodger”(1979年)、“スケアリー・モンスターズ Scary Monsters”(1980年)の5回の撮影を行っています。特にアラジン・セインのアルバムジャケットに使用された写真は極めて有名で、「ポップ・カルチャーにおけるモナリザ」とも呼ばれています。2013年夏、ロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館で開催された“DAVID BOWIE is”展では、ダフィーによるアラジン・セイン・セッションでのボウイが目を開いた未使用カット作品が展覧会のメイン・ヴィジュアルに採用され話題になります。同展は2017年東京で巡回開催されています。

ダフィー写真展パート2では、珠玉のポートレイツ合計約30点が展示されます。シドニー・ポワティエ、マイケル・ケイン、アーノルド・シュワルツェネッガー、テレンス・スタンプ、ブリジッド・バルドー、サミー・デイヴィス・ジュニア、ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ニーナ・シモン、ウィリアム・バロウズ、デビー・ハリー、アマンダ・リア、ジョアンナ・ラムリー、ブラック・サバス、ポール・ジョーンズ(マンフレッド・マン)などが含まれます。また、本展ではデヴィッド・ボウイの作品の特集コーナーを設置、5回のセッションで撮影された珠玉の14点を紹介します。

ダフィーのポートレートの特徴はどんな有名な被写体でも彼の前ではとてもリラックスしていることです。つまり彼は人たらしで、相手の気分を乗せることに長けていたのでしょう。カメラの前の被写体は時に調子に乗って自然でユニークな動きを見せています。ファインアートになるポートレイツは、写真家と被写体が同等な関係性であり、お互いが見たことがないようなビジュアルを作り上げるのだという共通意識を持つことが重要になります。つまり二人は共犯関係で、写真は一種のコラボ作品なのです。だから彼のポートレートはカッコよく、見る人を魅了するのです。
そのような関係性がないほとんどのポートレイツは単なるセレブの広報や記録を目的とするブロマイド的なつまらない写真になってしまいます。しかし、現代では写真家と被写体がこのような関係性を構築するのは非常に困難でしょう。80年代以降は、大衆消費社会の到来とともにファッションと同様に音楽や映画はビックビジネスへと発展していき、セレブは多くの取り巻きに囲まれるようになります。写真家にとっては自由にコミュニケーションをとって関係性を構築する余地が次第に少なくなっていくのです。

本展で展示されるのは、作家の意思を受け継いだ息子クリス氏が運営するダフィー・アーカイブが監修/制作したエステート・プリント作品です。また日本のコレクター向けに、今回のブリッツでの写真展限定オープン・エディション・プリント(サイン入り作品証明書付き)もリーズナブル価格で特別販売されます。パート1で展示したファッション写真も写真展開催期間中はご注文可能です。またボウイの作品は、ファッション写真よりも小さいスタンダード・サイズ(約19X19cm 、19X12.7cm)のプリントの額装作品も用意しています。(フレーム約28X 36cmサイズ)

ダフィーによる、60~70年代の時代を代表する各界セレブリティーたちの珠玉のポートレイツ作品をぜひご高覧ください!

DUFFY…PORTRAITS ダフィー…ポートレイツ展
2025年1月15日 (水)~3月22日 (土)
1:00PM~6:00PM/休廊 月・火・/入場無料
ブリッツ・ギャラリー
〒153-0064  東京都目黒区下目黒6-20-29

公式サイト

「DUFFY… FASHION / PORTRAITS Part-1」
ダフィーの傑作ファッション写真を見逃すな!

ブリッツ・ギャラリーは、主に60 ~ 70年代にかけて、ファッション雑誌、広告、ボートレイトの分野で活躍した英国人写真家ダフィー(Brian Duffy 1933-2010)の写真展「DUFFY… FASHION / PORTRAITS」(ダフィー…ファション/ポートレイツ展)を開催中。ファッション写真中心に展示するPart-1はいよいよ12月22日まで。お見逃しのないように!

彼のファッション写真の特徴は洋服をメインに撮っていないこと。60 ~ 70年代にかけての撮影では、写真家に多くの自由裁量が与えられていた。いまのように、エディター、アート・ディレクター、ファッション・ブランドが撮影に口をはさむことがあまりなかったのだ。ファッション写真は作り物のイメージだからアート性がないという指摘があるが、当時の状況は全く違っていた。広い意味で仕事の写真撮影だが、写真家の自己表現がある程度発揮できたのだ。ダフィーは、ドキュメントの手法をファッション分野に取り入れることで、時代性を作品に落とし込んでいるといえるだろう。いま市場で愛でられているファインアート系のファッション写真は、実はこのように撮影ができた時代の作品が中心になっているのだ。かつてアメリカ人作家スーザン・ソンダクは“偉大なファッション写真は、ファッションを撮影した写真以上のものだ”という発言している。つまり洋服の情報を正確に伝えるファッション写真が存在している一方で、最先端の写真家による洋服販売目的にあまりとらわれないファッション写真が存在するという意味だ。まさにダフィーのこの時代の写真そのものだろう。

その後、大衆消費社会の到来とともにファッションはビックビジネスへと発展していき、写真家の創造力を発揮する余地が次第に少なくなっていく。同時に各種圧力団体による社会的抗議活動が活発化して、雑誌や広告ではタバコや過度の性的表現が自己規制の対象になる。80年代以降、特に規制が厳しいアメリカの雑誌や広告のファッション写真が単なる洋服の情報を伝える面白みがない表現になってしまうのだ。

今回展示しているダフィーの作品では、当時の活気あるロンドンなどの都市のストリートに漂っていた気分や雰囲気が見る側に伝わってくる。ダフィーにとってそれを感じ取り、伝えるツールがモデルでありファッションだった。彼は時代をドキュメントする手段としてファッション写真を撮影していた。

そして彼が積極的に取り入れていたのが、当時の大衆の憧れだったラグジュアリー・カーのジャガーEタイプ、アストン・マーチン、メルセデス・ベンツなど。そして一般大衆にもなじみのある、ミニ、アルファスッド、スクーターのヴェスパなどもファッション写真の小物として取り入れている。元祖スーパーモデルのジーン・シュリンプトンがミニの運転席に座っている写真などは、60年代を生きる若い働く英国女性が、好みのファッションを身にまとい、自分の愛車で自由に動き回るライフスタイルを見事に表現している。また写真集「DUFFY…PHOTOGRAPHER」の表紙のクルマはジャガーEタイプ。お洒落なファッションのショーファー(運転手)とモデルとの気見合わせで、当時の憧れを表現している。

ダフィーが撮影しているモデルのジーン・シュリンプトン(Jean Shrimpton、1942年11月7日生まれ)にも注目したい。彼女は今までの貴族的でグラマラスな雰囲気のモデルとは異なり、長い脚とスリムな体型が特徴。60年代のスウィンギング・ロンドンのアイコンで元祖スーパーモデルなのだ。英国発祥のミニスカートの伝道師としても知られている。シュリンプトンは、写真家デビッド・ベイリー(David Bailey)が見出したと思われているが、実はそれ以前にまだ無名の彼女を起用していたのはダフィーだった。その後に、ベイリーのミューズとして知られるようになる。彼女のニッネームは「The Shrimp」、和訳するとエビちゃん。ある写真家が日本のモデル蛯原友里が彼女にスタイルやヘア・メイクが似ていると指摘していた。本展では、シュリンプトンがモデルのファッション写真コーナーも設置されている。興味深いのは、写真を見比べるに、展示作品がすべて同じモデルだと全く気付かないこと。つまり制作側の意図により、ヘア・メイクやファッションで自由自在に雰囲気やイメージを作り上げることができるモデルだったのだ。同じ英国人モデルのケイト・モスの元祖ともいえるだろう。

ダフィーはその他にも当時を代表するモデルたちを撮影している。昨年に亡くなった、英国生まれの歌手、モデル、俳優のジェーン・バーキン(Jane Birkin, 1946-2023)。フランスの老舗メゾンエルメスの定番バッグ「バーキン」の由来にもなったのはあまりにも有名だろう。ダフィーは、若かりしまだ20歳前後の彼女を1965年に撮影している。そのほかにも、ドイツ出身の元祖スーパーモデルのヴェルーシュカ( Veruschka, 1939-)や、イナ・バルケ(Ina Balke, 1937 )なども起用している。

ダフィーが撮影したカラー写真にも注目してほしい。彼の輝かしい業績にピレリー・カレンダーの撮影を1965年と1973年に行ったことがある。同カレンダーは、イタリアタイヤメーカーのピレリーが1964年から制作されている。一般販売は行われてなく、取引先や重要顧客に配られている。かつてリチャード・アヴェドン、ハーブ・リッツ、ブルース・ウエーバー、ピーター・リンドーバークなど超有名写真家が手掛けている。ちなみに2025年は、イーサム・ジェームス・グリーンが担当。時代が反映された有名写真家によるイメージは、過去に何度も写真集化されている。最近では、2015年に過去50年の作品を収録した「Pirelli. The Calendar. 50 Years And More」(Taschen刊)が刊行。本展ではダフィーが1973年度に撮影した2点を展示している。その他、フレンチ・エルやテレグラフ・マガジンでのカラーによる仕事も紹介。1978年の黄色いアルファスッドを背景に取り込んだ作品などは、何気ないストリートの雰囲気の中で撮影されたように感じるが、実はすべてが完全に計算されつくされているのです。ヴォーグ誌のアート・ディレクターだったアレクサンダー・リーバーマンが、理想の写真だと語ったといわれる”最高のセンスをもったアマチュアで、カメラマンの存在を全く感じさせない(写真)”を思い越す、見ていて飽きない素晴らしいファッション写真の傑作だ。

作品のコレクション情報も伝えておこう。展示作品には、3種類の購入オプションがある。

・Signed Limited Edition Print
有名な代表作品の限定/銀塩写真で、ブライアン・ダフィーのサイン、
アーカイブのスタンプ、クリス・ダフィー直筆サイン入り証明書付き
シートサイズ35X24cm、35X28cm(長方形)、30X30cm(スクエア)
Edition 12~18

・Unsigned Limited Edition Print
主に代表作以外の作品となり、シートにサインはなし、
アーカイブのスタンプ、クリス・ダフィー直筆サイン入り証明書付き
シートサイズ35X24cm、35X28cm(長方形)、30X30cm(スクエア)
Edition 15
デジタル・アーカイバル・プリント

・Open Edition Print /オープン・エディション作品
(ブリッツ・ギャラリーの写真展用限定販売プリント)
アーカイブのスタンプ、財団のクリス・ダフィー直筆サイン入り証明書付き
シートサイズ31X21cm(長方形)、27X27cm(スクエア)
デジタル・アーカイヴァル・プリント、16X20“で額装済

販売価格は、美術館やシリアスなコレクター向けの銀塩プリントによるダフィーのサイン入りのリミテッド・エディションは約50万円からと高額になる。しかしその他の仕様の作品はかなりお買い求めやすい価格設定になっている。特にコレクション初心者向けのブリッツでの写真展限定のカスタム・プリントは、ダフィー・アーカイブの協力により実現したリーズナブル価格の作品。こちらはオープン・ンエディション作品なのだが、アーカイブの作品証明書が付く。展覧会の会期中のみ受注生産作品となる。おかげさまで初心者はもちろんシリアスなコレクターにも大好評だ。

本展パート1ではダフィーの珠玉の28作品を展示、店頭では素敵な写真展カタログも限定数製作して販売中。パート1の会期は12月22日まで、ダフィーのファッション写真の傑作を日本で見る機会はたぶんこれが最後になるだろう。目黒方面にお出かけの際は、ぜひご来廊ください。お見逃しのないように!

パート2では、デヴィッド・ボウイをはじめとしたダフィーの珠玉のポートレイト作品を1月15日より展示する。

20世紀の写真ギャラリー経営
アナログ時代の仕事術(2)

ニューヨークのフォトフェア ”フォトグラフィー・ショー”

21世紀のいま、ネット普及により海外アート情報は現地に行かなくても低コストで手に入るようになった。一方で展覧会やフォトブックの情報は膨大になりすぎて、人々の関心が一気に希薄化している。
私はこの分野を専門にしているのだが、すべての展示や新刊フォトブックの中身を確認するなど不可能だ。質の良い情報の理解と評価にはある程度時間を使っての内容の吟味が必要になる。超多忙な現代人は溢れる情報に対して瞬間的な感情による反応だけになりがちだ。特にSNSではその傾向が顕著になっている。情報の良し悪しの時間をかけての判断がますます行われ難くなっている。

私たちはどうしても、知名度のあるアーティスト、有名美術館、ブランド・ギャラリー、人の目を引くビジュアルに関連する情報に偏って反応しがちになる。新興ギャラリーや出版社が斬新な視点を持った若手アーティストを写真展やフォトブックで紹介しても、その情報が多くが人の目に留まらないで消えていく状況なのだ。
そして一方では多くの業界関係者は、最近は良い作品や優れた新人がいない、文化が停滞していると嘆いている。いま多くの情報の受送信を担う商業的なインターネット環境では、主流でないアートの内容が注目されにくい構造になっているのだ。

ニューヨーク/ソーホー地区のフォト・ギャラリー

また作品の海外での市場価格も誰でも簡単に入手可能になった。20世紀は売り手と買い手の持つ情報が非対称性だった。つまりアート作品やフォトブックについて、両者が持つ情報に大きな格差があり、国内コレクターが海外の作品相場を簡単に知るすべはほとんどなかったのだ。
いまや個人でも海外からの直接購入が可能になったので、輸入業者の利益率は大きく下がった。輸入作品の国内販売価格は、いまでは現地価格に送料を上乗せするくらいになっている。かつては、現地価格に20~50%程度のマージンを上乗せして国内価格が決められていた。インターネット普及による情報の民主化により利益率は一貫して下がり続けた。独自の専門分野を持たない、小売り流通企業経営による高コスト商業ギャラリーは2000年代にはすべてが撤退していった。
企業系ギャラリーは、アートで自身の差別化を目的に運営されるラグジュアリー・ブランド系のみになっている。

マンハッタンの野外アート

また写真メディアのアナログからデジタル化への移行にともない、作品種類も多様化した。現代アート系、ファインアート系、コレクタブル系、インテリア系が生まれた。また低価格の写真関連商品を取り扱うショップ/専門店も現れては消えていく状況繰り返されている。20世紀の海外都市のハイストリートによくあったポスター/フレーム販売業者の新形態だといえるだろう。

特に市場が未整理の日本の業界では、いま作品がランダムに局地的に存在する傾向が顕著だ。それぞれの業者がエゴを抑えて、業界全体を発展させようという機運が盛り上がった時期もあった。しかし伝統的なハイコンテクスト的社会であることと、最近のリベラルな考えが相まって、様々な組織、写真家、業者がバラバラに混在/乱立する状況になっている。グローバルな共通の価値評価基準である、作品制作の背景にあるアイデア/コンセプトの共通理解と、その延長線上の市場確立は成功しなかった。残念ながら90年代の混とん状態に戻ってしまった。

いま作品の情報量が増大し、選択肢が膨大になった。このような状況では、コレクターの将来に残るコレクション構築を手伝うファインアート系ギャラリーの役割は極めて重要になっていると思う。今まで以上に専門性を明確にする必要性に迫られている。そしていまの社会の価値観を見極め、作品への高い目利き力が求められるようになったと感じている。予算額が決まっている美術館は運営自体が目的化する傾向があり、次第に魅力がなくなっていくことがある。最近は、ギャラリーでも同じような状況に陥ることがあり、非常に危険だと考えている。継続を目的化して、運営趣旨を逸脱して取り扱い作品を選ぶようになる事態はぜひ避けたいものだ。情熱を持って語れる取り扱い作品がなくなった時がギャラリスト引退の時だと思う。

20世紀の写真ギャラリー経営
アナログ時代の仕事術(1)

ロンドンの老舗フォト・ギャラリーのハミルトンズ

私どものギャラリーは開業以来、主に海外アーティストの作品を日本に紹介してきた。ネットが存在しなかった20世紀後半にどのように仕事を行ってきたかを記録を残す意味も込めて紹介しておこう。

すべてはニューヨーク、ロンドンなどの気になる写真家の作品の取り扱いギャラリー訪問から始まる。日本の新設ギャラリーが信用を得る方法はただ一つ、何回か現地を訪問して、そのたびに作品購入して顔を覚えてもらい個人的な信頼関係を構築していくのだ。
日本での写真展開催には、海外から作品を借りてくる必要がある。信頼されることで作品を提供してくれるようになるのだ。通常は、ギャランティーという、作品の一部買い取りが借りる条件となる。

NYで開催される世界最大のフォトフェアのフォトグラフィー・ショー


いまは海外のギャラリーやアーティストのスタジオとの連絡はeメールだが、インターネット普及前の連絡はFAXだった。事務の流れは、まずワープロでレターを書くことから始まる。翻訳ソフト/サイトなどないので辞書片手に悪戦苦闘したものだ。文章をプリントアウトしてFAXで先方に送る、そして返答も同じくFAXでの受け取りだ。写真作品を取り扱うので、画像を先方に送る機会も多い。それもすべてモノクロのFAXでの時間もコストもかかる受送信だった。毎朝の送られてきた受信FAXの確認、機械のロール紙管理は重要な仕事だった。その上、FAXはすべてアナログなので、膨大な量の紙が残ることになる。毎日、送受信しているeメール、受信トレイやフォルダーに保存されているものすべてが紙として物理的に残ることを想像して欲しい。いまのメールと同様に5年くらいは保存していたので、その量は膨大になった。保存方法も物理的なフォルダーやファイルに紙を入れて残していた。

NYの書店Rizzoli、ちょうどアヴェドンの写真集” An autobiography”が刊行された時

海外の最新写真展情報を得る手段は、実際に現地に行くしかなかった。現地ギャラリーに行って、お願いすると日本にも写真展のDMを郵送してくれた。彼らも情報提供の手段はDM郵送しかなかったのだ。それも顧客に存在感をアピールするためにデザインやサイズにはかなりこだわりがあった。海外の家庭では、美しいデザインのカードはインテリア内に飾る習慣があり、それを意識していると聞いたことがあった。それらのカードは今でも保存している。機会があれば展示やブログなどで紹介したいと考えている。

ファインアート写真の中心地はNYだったので、春か秋のオークションやフォトフェアーには可能な限り出張して情報収集と作品/フォトブック仕入れを行っていた。90年代前半、ドル円の為替レートは125~140円程度に推移していたが、その後は円高になって少し仕入れが楽になった。いまの為替レートは当時以上にドル高/円安だ。海外から作品を輸入するには厳しい環境だといえるだろう。業界を見渡すに、最近は外国人写真家の日本での展示が美術館、ギャラリーでも減ってきている。東京都写真美術館では、いまアレック・ソスの展覧会を開催中だが、外国人写真家の個展は約5年ぶりだそうだ。 

90年代、広尾時代のブリッツの展示風景、デボラ・ターバヴィル展

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若い人は芳名帳という言葉を知っているだろうか。ギャラリー来場者が名前や住所などの個人情報を記載する一種の名簿で、ギャラリーの入り口付近には必ず置かれていた。レンタルギャラリーが多い日本では、知り合いが見に来たことを主催者の写真家に伝える意味で用意されていた。来場者の情報収集のために芳名帳は必需品で、店頭では次回展の案内のDMを郵送するので、と伝えて名前と住所を書いてもらうように営業したものだ。そして、実際に写真展のDMはすべての芳名帳記入者に郵送していた。来廊者にも自分の個人情報公開に関する意識は今のように高くはなった。カメラ付き携帯電話など存在しないので、芳名帳の記載者情報が外部に漏れる心配もあまりなかったのだ。

次回、アナログ時代の仕事術(2)に続く

「DUFFY… FASHION / PORTRAITS」開催!
ダフィーによる60~70年代の珠玉のファッション/ポートレイト

ブリッツ・ギャラリーは、主に60 ~ 70年代にかけて、ファッション雑誌、広告、ボートレイトの分野で活躍した英国人写真家ダフィー(Brian Duffy 1933-2010)の写真展「DUFFY… FASHION / PORTRAITS」(ダフィー…ファション/ポートレイト展)を2024年10月から開催する。本展ではダフィーのキャリアの軌跡を本格的に紹介。彼の作品をパート1ではファッション写真中心に、パート2ではポートレイト写真を中心に展示する。彼は、デビット・ベイリー、テレス・ドノヴァンとともに60年代スウィンギング・ロンドンの偉大なイメージ・メーカーだった。また彼ら自身も、被写体の有名俳優、ミュージシャン、モデルと同様のスター・フォトグラファーだった。3人の写真家はそれまで主流だった、ライティングで厳密にコントロールされた写真スタジオでのポートレイト撮影を拒否。ファッション写真にドキュメンタリー的な要素を取り込んで、業界の基準を大きく変えた革新者だった。彼らこそは、いまでは当たり前のストリートでのファッション・フォトの先駆者たちだったのだ。

ダフィーのキャリアは、ザ・サンデータイムズの仕事から始まる。その後1957~1963年まではブリティシュ・ヴォーグ誌で仕事を行い、ジーン・シュリンプトンなどのトップ・モデルを撮影。60年代はフランスのエル誌など英国以外の雑誌、新聞で活躍する。70年代以降は、ベンソン&ヘッジス、スミノフの広告キャンペーン、2度に渡るピレリー・カレンダー(1967年、1973年)の仕事で知られている。本展パート1では、これらのファッション写真を中心に約28点を展示する。特に、時代の憧れであったスポーツカーとファッションの斬新な融合が見どころだ。ジャガーEタイプ、アストン・マーチン、メルセデス・ベンツ、ミニ・クーパー、アルファスッドなどが積極的に作品に取り上げられている

またダフィーは時代を代表する、シドニー・ポワティエ、マイケル・ケイン、トム・コートニー、サミー・デイヴィス・ジュニア、ニーナ・シモン、ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、チャールストン・ヘストン、ウィリアム・バロウズ、アーノルド・シュワルツェネッガー、ブリジッド・バルドーなどのセレブリティーを撮影している。特にミュージシャンのデヴィッド・ボウイ(1947.1.8 – 2016.1.10)と深い交流があり、70年代には“ジギー・スターダスト Ziggy Stardust”(1972年)、“アラジン・セイン Aladdin Sane”(1973年)、“シン・ホワイト・デューク The Thin White Duke”(1975年)、“ロジャー Lodger”(1979年)、“スケアリー・モンスターズ Scary Monsters”(1980年)の5回の撮影セッションを行っている。特にアラジン・セインのアルバムジャケットに使用された写真は極めて有名で、「ポップ・カルチャーにおけるモナリザ」とも呼ばれている。これらの珠玉のポートレートはパート2で約25点が展示される。ボウイの特集コーナーも設置する予定だ。

ダフィーは、撮影に多くの自由裁量が与えられたファッションやポートレイト写真の延長線上にアート表現の可能性があると信じていた。しかし彼の活躍した時代のファイン・アート写真界では、モノクロの抽象美やプリントのクオリティーを愛でるものが主流だった。作り物のイメージであるファッション写真にアート性はないと考える人も多かった。ファッション写真家が繊細な感性から紡ぎだす、時代の気分や雰囲気はアート表現だとは認識されていなかったのだ。彼は、「In my time there was no such things Art photography(私の時代にはアート・フォトグラフィーのようなものは存在していなかった)」と語っている。アート志向が強いダウィーは写真表現の未来に絶望する。そして1979年には写真撮影の仕事をやめてしまい、スタジオ裏庭で多くのネガを燃やしてしまう。ファッションやポートレートがファイン・アートとして業界や市場で認識されるのは1990年代になってから。いまでは最も注目されるコレクション分野に成長している。

しかしこれには後日談がある。2006年から息子のクリスがダフィーの資料精査を開始するのだ。幸運にも全てのネガが消失していないことが判明し、新たに多くのネガが再発見された。その後2011年に、ダフィー作品は「DUFFY… PHOTOGRAPHER」(ACC Art Books)として写真集化が実現するのだ。その後、60年代ブームの訪れとともに、当時に活躍したベイリー、ドノヴァンに次ぐ第3の男として再注目され、写真展が世界中で数多く開催されるようになる。2013年夏、ロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館で開催された“DAVID BOWIE is”展では、ダフィーのアラジン・セイン・セッションでのボウイが目を開いた未使用カット作品がメイン・ヴィジュアルに採用され大きな話題になり、ダフィー人気が再燃するのだ。(同展は2017年東京で巡回開催)。

ブリッツでは、2014年の「DUFFY… PHOTOGRAPHER」(ダフィー・フォトグラファー展)、2017年の「Duffy/Bowie-Five Sessions」(ダフィー・ボウイ・ファイブ・セッションズ展)以来の開催となる。本展で展示されるのは、作家の意思を受け継いだ息子クリス・ダフィーが運営するダフィー・アーカイブが監修/制作したエステート・プリント作品。また日本のコレクター向けに、今回のブリッツでの写真展限定プリントもリーズナブルな価格で特別販売される。サイズ約31 X 21cm/27 X 27cm、プリントにアーカイブのエンボス/サイン入り作品証明書付きとなる。コレクター初心者には最適の写真作品だろう。60年代~70年代の気分や雰囲気が楽しめる、ダフィーによる珠玉のファッション/ポートレート作品をぜひご高覧ください。

DUFFY…FASHION/PORTRAITS ダフィー…ファッション/ポートレイト展
Part 1 FASHION : 2024年10月16日 (水)~12月22日 (日)
Part 2 PORTRAITS : 2025年1月15日 (水)~3月22日 (土)
1:00PM~6:00PM/休廊 月・火・/入場無料


ブリッツ・ギャラリー
〒153-0064  東京都目黒区下目黒6-20-29  TEL 03-3714-0552
JR目黒駅からバス、目黒消防署下車徒歩3分 / 東急東横線学芸大学下車徒歩15分

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「SUKITA X SCHAPIRO PHOTOGRAPHS」
日米二人の巨匠の写真展を振り返る(2)

鋤田正義(1938 -)と米国人写真家スティーブ・シャピロ(1934 – 2022)による「SUKITA X SCHAPIRO  PHOTOGRAPHS」が先月末に無事に会期を終えた。前回に続き、二人展の主要な見どころの振り返りのパート2をお届けする。

Jazz, 1969 (C)Delta Monde & Sukita

本展では、鋤田とボウイとの出会いのきっかけとなったキャリア初期1969年のメンズ・ブランド「JAZZ」のファッション写真が展示されていた。これは、鋤田がシュールレアリスム画家ルネ・マグリットの絵画作品に触発されて制作した作品。当時の日本は女性ファッションが花盛り、メンズは超マイナー分野だった。逆にそれが鋤田に幸いして、表現に数多くの制限があるファッション写真で写真家に多くの自由裁量が与えられたのだ。つまり本作は、仕事の写真なのだが鋤田の自己表現の作品でもあるのだ。
本展には、ちょうどスティーブ・シャピロが撮影したルネ・マグリットの有名なポートレートも展示されていた。二人のつながりは、デヴィッド・ボウイ、ユージン・スミス、映画のスチールだけではないのだ。その後のストーリーは、ボウイ・ファンにはよく知られている。鋤田は「JAZZ」のファッション写真のポートフォリオを持って当時の若者文化の最先端地ロンドンに行くのだ。その作品がきっかけでT-Rexの撮影につながり、シュールレアリスムを愛するボウイに注目される。「JAZZ」のファッション写真がなければ、鋤田とボウイの約40年にもわたる関係は生まれなかったのだ。

鋤田が1980年に京都で撮影したモノクロのボウイ作品も好評だった。特に人気の高かったのは姉小路麩屋町にある老舗画材屋「彩雲堂」で撮られた1枚。実はこのお店は、ほぼ当時のままの姿をとどめているファンの聖地なのだ。満面の笑顔をたたえているボウイは、完全に素顔のデヴィッド・ロバート・ジョーンズに戻っている。鋤田とボウイの深い信頼関係があったから撮れた名作だ。もう1枚は、地下鉄東山駅東側出口付近、三条通の南側にあった、いまはすでにない電話ボックスでのショット。これは1972年に発表したアルバム「ジギー・スターダスト」のレコードジャケットの裏面を彷彿とさせる写真。以前、鋤田は意識的に電話ボックスでの撮影をボウイに提案したと語っていた。こちらでは、対照的に彼はロック・ミュージシャンのデヴィッド・ボウイのモードに入っている。ボウイは、京都をこよなく愛したことで知られており住居を持っていたという都市伝説もあるくらいだ。その発信源といわれているのが、彼がまるで京都で暮らしているかのように鋤田が撮影した一連のスナップなのだ。鋤田の京都作品は美術館「えき」KYOTOで2021年と2022年に、立川直樹氏プロデュースで開催された大規模展覧会「時間~TIME BOWIE×KYOTO×SUKITA」で紹介されていた。興味ある人は同展開催を機に刊行された同名フォトブック(ワニブックス /2021年刊)を見てほしい。

Mother & Neice, 1957 – 2018, Nogata, Fukuoka (C)Sukita

鋤田は本展で最新プロジェクトも紹介している。彼は、目に見えない「時間経過」の写真での可視化を試みている。会場入り口横に展示していたのが、「Mother、1957」と「姪、2018」の2枚組写真。彼は、母親をモデルにした名作「Mother」と全く同じ場所で、同じ衣装/格好の「姪」を撮影。アナログのモノクロ、デジタルでカラーの写真は、時間経過による環境変化、そして二人の全く同じようなあごのラインを通して、受け継がれて変わらない人のDNAを、組み写真で表現している。

もう1枚がボウイの組み写真。本作制作のヒントになったのが複数の写真家が撮影したボウイのポートレートをまとめた「David Bowie: Icon(FLAMMARION、2020年刊)」という写真集。そのフランス語版が、鋤田の2枚のボウイの写真を表と裏のカバーに採用している。

David Bowie: Icon(FLAMMARION、2020年刊)

一方で日本に一般的に輸入されている英語版のカバーは複数の小さなサイズの写真がグリッド状に羅列されたデザインなのだ。カバー違いで、中身はまったく同じなのだが、本の印象は全く違う。一人の被写体の変化を写真で見せるには、同じ環境とフレーミング/ライティングでの撮影が必須になる。そして二人の関係性や心理的距離感が変化しないことも重要。特に相手が有名人だと極めて実現困難なプロジェクトなのだ。同作は1973年と1989年にニューヨークで撮影された写真が組み合わされている。鋤田は、ほぼ同じカットのボウイの顔の表情としわなどで時間の経過を表現している。二人に長きにわたる確固たる信頼関係があったからこそ生まれた名作だ。鋤田の写真表現の限界を広げる挑戦は、85歳のいまでも継続中、今後の展開がとても楽しみでだ。本展でこの2点の組作品は、非売品扱いだった。しかし、本当に多くのお客様から販売を開始したらぜひ購入を検討したいという声が聞かれた。

今回の二人展はカラーのパート1とモノクロのパート2の2部構成で開催した。写真展を続けていくうちに、将来的に特にシャピロ作品はモノクロとカラーを同時に展示したいという思いが強くなった。いま鋤田の大規模展の企画が地元福岡で進行中だと聞いている。新型コロナウィルスの感染拡大で中断された企画が再び動き出したとのことだ。しかし大きな展示企画は関係者が多く、利害の調整に長い時間がかかる。たぶん実現しても、まだ数年先のことだろうと思う。しかし、鋤田の大規模展の際には、何らかの形でスティーブ・シャピロの全作品を紹介する展示の可能性を探求したい。またそれとは別に、70年代のボウイを撮影した、アラジン・セイン、ロジャー、スケアリーモンスターのダフィー、ダイヤモンド・ドッグのテリー・オニール。そして今回のスティーブ・シャピロ、もちろん鋤田正義を含めた作品展示の可能性を考えている。これらは将来を見据えて写真家の関係者との交渉を始めたいと思う。

さてブリッツの次回展は5月の連休明けからスタートする。様々なジャンルのフォトブックと写真作品の展示になる。この企画は今はなき渋谷パルコ地下1階のロゴスギャラリーで、2000年代から行ってきた「Rare Photobook Collection」が始まり。覚えている人も多いだろうが、あれはブリッツの企画だったのだ。
今回、写真作品は、アーヴィング・ペン、ハーブ・リッツ、ジャンルー・シーフ、リリアン・バスマン、シーラ・メッツナー、ベッテイナ・ランス、ダフィー、テリー・オニール、テリ・ワイフェンバック、ロン・ヴァン・ドンゲン、マイケル・ケンナなどを壁面に展示する予定。ミュージシャンのポートレート関連では、鋤田正義、ダフィー、テリー・オニールのボウイのコンタクト作品を展示する予定。フォトブックのセレクションはいま進行中だ。どうか楽しみにしていてほしい。

「Blitz Photo Book Collection 2024」
2024年5月8日(水)~7月7日(日)
13時~18時、月/火曜 休廊

「SUKITA X SCHAPIRO PHOTOGRAPHS」
日米二人の巨匠の写真展を振り返る(1)

鋤田正義(1938 -)と米国人写真家スティーブ・シャピロ(1934 – 2022)による二人展「SUKITA X SCHAPIRO  PHOTOGRAPHS」が先週に無事に終了した。カラー/モノクロの二つのパートで開催された日米二人の巨匠による写真展に、本当に多くの人が来廊してくれた。写真コレクター、ボウイ・ファン、アート/写真愛好家の人たちから寄せられた写真展への応援/サポートに心から感謝したい。

本展は2022年に亡くなったシャピロが生前に望んでいた日本での写真展示を、同時代に活躍した鋤田正義のアイデアで二人展として実現したもの。シャピロ作品は日本初公開だった。
鋤田は本展の開催終了に際し、以下のようなコメントを寄せている。
「今回はスティーブ・シャピロさんとの写真展が開催できて本当に良かったです。シャピロ写真事務所、ギャラリー関係者、そして来場してくれた皆さま、どうもありがとうございました。シャピロさんの生前に直接関わることはありませんでしたが、同世代の写真家として、ボウイを撮影した写真家として、作品を通じてシャピロさんのことはよく知っていました。こういう形で一緒に写真展が行えて本当に光栄です。私自身は東京から福岡に拠点を移しましたが、いずれまた何かシャピロさんと一緒にやれたら良いなと思います。私もまだまだ写真家として元気に頑張ります」
(鋤田正義)

©Steve Schapiro

それでは会期終了に際して、本展の主要な見どころを今一度振り返っておこう。特にボウイ・ファンに注目されたのが、シャピロが1974年ロサンゼルスで撮影したデヴィッド・ボウイのポートレートだろう。本展ではシャピロによるボウイ作品の代表作で、LPジャケットに採用された「The Man Who Fell to Earth」、「Low」などが展示された。70年代のカラー作品はボウイのキャリアを語るうえで重要だが、モノクロの銀塩写真もプリントに趣があり本当に素晴らしかった。

©Steve Schapiro

一連の作品は、シャピロの写真集「Bowie」(powerHouse Books、2016年刊)に収録されている。同書によると、初対面だった二人は、シャピロが自分は喜劇俳優バスター・キートンを撮影したことがあるとボウイに語ったところ、二人はすぐに打ち解けたとのことだ。キートンはボウイにとって憧れの人物。パート2で展示した、ルディ・ブレッシュ著のキートンの本を顔の横に並べて撮影された作品からは、ボウイのキートン愛が伝わってくる。また同書によると、1976年のアルバム「Station to Station」発売時に行われたIsolar Tourのツアープログラムブックにはボウイの希望でシャピロ1964年撮影のキートンの写真が収録されているとのこと。

カラー作品を展示したパート1では、ボウイの1977年のLPジャケット「Low」の作品が最注目作だった。しかし上記写真集「Bowie」の表紙写真にもディープなボウイ・ファンが反応していた。この時期のボウイはオカルトに興味をもっていたことが知られている。同セッションの写真でボウイは手描きの斜めの白いストライプの入った青いスーツを着て、壁には複雑に連なった一連の円でカバラ図のような落書きをしている。それが2016年の「ラザウス」のビデオにつながってくるのだ。この死を意識した一種のお別れのメッセージで、ボウイは約40年前と同じように見える衣装で踊り、机に座り、考え、ページの余白から恍惚状態でノートに必死に走り書きをする。個人的な印象だが、1974年に始まった何らかの探求の続きを改めて行い、その答えを発見したかのようなのだ。最後に、後ろ向きにワードローブの暗闇の中に去っていく。ボウイ・ファンなら約40年の時を隔てた二つのイメージのつながりの意味を色々と考えるだろう。今回のシャピロの展示写真はその原点となるオリジナル写真2点を日本で初公開したものだった。

©Steve Schapiro

余談ではあるが、2024年の第96回アカデミー賞で映画『オッペンハイマー』が作品賞などを含む7部門で受賞した。主演のキリアン・マーフィーの衣装がデヴィッド・ボウイのシン・ホワイト・デューク期から影響が受けたことが明らかになった。このことから、この時代のボウイを撮影しているシャピロのパート2での展示作品があらためて注目された。

二人の写真家の活躍範囲は、ボウイのポートレートだけではない。二人の事務所は本展開催に際して、ボウイの写真展にはしたくない、幅広い分野で活躍していた写真家がボウイも撮影していたことを示すものにしたい、と 強調していた。二人の活動範囲はドキュメンタリー、ポートレート、映画のスチールにわたる。シャピロが激動する60年代に全米を旅して撮影した作品は「AMERICAN EDGE」(Arena Edition, 2000年刊)にまとめられている。鋤田も50年~60年代に、戦後混乱期の地元福岡のストリート・シーンや長崎の原爆被爆者や原子力空母入港反対デモなどの社会問題を撮影、それらは「SUKITA : ETERNITY」(玄光社, 2021年)の「EARLY WORK」の章で初めて紹介された。彼の創作の原点は、プロヴォ―クの写真家たちと全く同じだったことが明らかになったのだ。

Anti-US nuclear submarine demonstration,
Sasebo, Nagasaki, 1965 ⓒ Sukita

本展では主にパート2で二人の60年代に撮影された初期ドキュメンタリー系作品が展示された。特にシャピロ作品は市場で実際に取引されている貴重なオリジナル作品だった。パーソナルな視点で撮影された、モノクロ作品はロバート・フランクやヴィヴィアン・マイヤーのように経済的な繁栄に浮かれる戦後アメリカ社会のダークサイドに注目した名作なのだ。実は欧米ファインアート写真市場では、彼のドキュメンタリー作品は非常に高く評価されており、市場価格も上昇中なのだ。いまの写真界は作品自体よりも、現代アート的なテーマ性が重視された表現が中心だが、彼の写真は銀塩写真のプリントの美しさやモノクロの抽象美が再発見できる逸品だった。特にアナログ写真を愛するアマチュア写真家にとても評判が良かった。多くの作品はエディションが進んでおり、すでに高価になっていた。作品が多く売れると、残りの供給が少なくなるので値段が上昇するのだ。昨今の1ドル150円を超えるドル高/円安の状況では、欲しいけど手が出ないというコレクターの悲鳴が聞こえた。嘘偽りなく、美術館で展示しても遜色のない写真史上でも重要な作品だったといえるだろう。写真展は終了したが、作品はもう少しの期間ギャラリーで保管する予定だ。美術館のキュレーターやシリアスなコレクターで作品に興味のある人は、事前連絡の上でぜひ見に来てほしい。

©Steve Schapiro / ©Sukita

次回 日米二人の巨匠の写真展を振り返る(2)に続く

ブリッツ・ギャラリーの2024年予定
「SUKITA X SCHAPIRO展
Part-2」見どころ解説

本年のブリッツ・ギャラリーの企画展予定をお知らせしよう。

David Bowie, 1973-1989, New York ⓒ Sukita

・「SUKITA X SCHAPIRO : PHOTOGRAPHS Part-2」
鋤田正義と米国人写真家スティーブ・シャピロによる二人展パート2は、3月24日まで開催。パート1では、日米二人の巨匠による主にボウイのカラー作品を展示した。パート2では二人の原点となるドキュメンタリー系、有名人ポートレートなどのモノクロ作品を、もちろんボウイ作品も含めて展示している。パート1とは雰囲気が全く違い、ギャラリー内がとても新鮮に感じる。

Jazz, 1969
ⓒ Sukita ⓒ Delta Monde

見どころは数多くあるが、まず鋤田のキャリ初期1969年のJAZZのファッション写真には注目したい。これは、彼がシュールレアリスム画家ルネ・マグリットの作品に触発されて制作した作品。当時の日本は女性ファッションが花盛り、メンズはマイナー分野だった。逆にそれが鋤田に幸いして、表現に制限がありがちなファッション写真で写真家に多くの自由裁量が与えられたのだ。つまり本作は、仕事の写真なのだが自己表現の作品でもあるのだ。
本展には、ちょうどスティーブ・シャピロが撮影したルネ・マグリットのポートレートも展示中。二人のつながりは、デヴィッド・ボウイ、ユージン・スミスだけではないのだ。
その後のストーリーは、ボウイ・ファンの人の間ではよく知られている。鋤田はJazzのファッション写真のポートフォリオを持って当時の若者文化の中心地ロンドンに行く。その作品がきっかけでT-Rexの撮影につながり、シュールレアリスムを愛するボウイに注目されるのだ。Jazzのファッション写真がなければ、鋤田とボウイの約40年にもわたる関係は生まれなかったのだ。

Three Men, New York, 1961
ⓒ Steve Schapiro

パート2のもう一つの見どころは、シャピロの初期60年代のドキュメンタリー作品だろう。パーソナルな視点で撮影された、銀塩のモノクロの抽象美が表現された写真は必見だ。実は欧米では、彼の60年代のモノクロ写真の方がボウイ作品より高く評価されており、市場価格も高くなっている。いまの写真界は現代アート的な表現が中心だが、彼の作品にはモノクロ写真の美しさの原点が再発見できる。ロバート・フランクなど戦後の現代米国写真のファンの人にも見てほしい作品展示だ。

Andy Warhol and the Velvet Underground
at the Window, Los Angeles, 1966
ⓒ Steve Schapiro

またシャピロ作品では、ルー・リード、ニコ、アンディー・ウォーホールなどによるザ・ヴェルベェット・アンダーグラウンドの作品も含まれる。バンドは商業的には成功しなかったものの、前衛的で高い音楽性は、ボウイなどに影響を与えたことでも知られている。その他、マーロン・ブランド、モハメド・アリ、バーバラ・ストライザンド、ニコなどの珠玉のポートレートも見ることができる。

ボウイ作品では、シャピロが「The Man Who Fell To Earth, 1976」、人気の高い「Low」作品を引き続き展示。 鋤田は本展のためにHeroesセッション、「A Day In Kyoto」シリーズからセレクションした作品を展示している。
また鋤田は、時間の経過の可視化を写真で行うことを目指した、2枚組の最新プロジェクト作品も出品。(ブログの一番最初に掲載している組写真) 鋤田の、写真表現の限界を広げる挑戦は継続中なのだ。

パート2は、ボウイやミュージックファンはもちろん、写真ファン、アートファンも十分に楽しめる内容だ。また今回は、来廊者用の記念撮影スポットをドキュメント系写真の展示エリアに2か所設置。展覧会カタログもパート2用ギャラリー・カード付きで限定販売している。

・「ブリッツ・フォトブック・コレクション2024」

春にはフォトブックと写真作品を展示するイベントを不定期ながら長年にわたり開催している。原点は当時の渋谷パルコパート1の地下1階にあったロゴスギャラリーで、2000年代に5月の連休明けに毎年開催していた「レアブックコレクション」だ。写真がアート表現のひとつのカテゴリーとして一般化し、多数のヴィジュアルをシークエンスで紹介する写真集フォーマットがアーティストの世界観やコンセプトを伝えるのに適していると認識されるようになった。いまでは、アーティストが自らのメッセージを伝えるために制作した写真集は、単なるコレクターの資料ではなく、それ自体が資産価値を持ったファインアート作品だと認識されており、それらは一般的な写真集と区別されてフォトブックと呼ばれるようになった。ブリッツは長年にわたりフォトブックの啓蒙活動と新刊/レアブックの紹介を行ってきた。フォトブックガイド本も2014年に「アート写真集ベストセレクション101」として玄光社から刊行している。
今年の企画では、特に特定のテーマを設けずに、ファッション、ポートレート、ドキュメンタリー、ヌード、風景、ネイチャーなど幅広い分野のモチーフのフォトブックと写真作品をともに紹介する予定。写真作品は、ブリッツが取り扱う写真家/アーティストの名作、また多くが初公開となるギャラリー・コレクションを展示する。海外の写真オークションのプレビュー会場を意識して会場を構成する予定だ。

・「Duffy:Fashion Photographs」

PONTE VECCHIO, FLORENCE
VOGUE UK – 1961 s
ⓒ Brian Duffy

年後半には英国人写真家ブライアン・ダフィー(1933-2010)のファッション写真の展示を予定している。ダフィーは、デビット・ベイリー、テレス・ドノヴァンとともに60年代スウィンギング・ロンドンの偉大なイメージ・メーカーであるとともに、モデルと同様に有名なスター・フォトグラファーだった。彼らはそれまで主流だったスタジオでのポートレート撮影を拒否し、ドキュメンタリー的なファッション写真で業界の基準を大きく変えた革新者で、いまでは当たり前のストリート・ファッション・フォトの先駆者たちだったのだ。
彼はまた70年代にデヴィッド・ボウイ(1947.1.8 – 2016.1.10)と、ジギー・スターダスト(Ziggy Stardust、1972年)、アラジン・セイン(Aladdin Sane、1973年)、シン・ホワイト・デューク(Thin White Duke、1975年)、ロジャー(間借人)(Lodger、1979年)、スケアリー・モンスターズ(Scary Monsters、1980年)の5回の撮影セッションを行っている。特にアラジン・セインは有名で、「ポップ・カルチャーにおけるモナ・リザ」とも呼ばれている。
本展では、60年代から70年代に撮影された、ヴォーグ英国版、エル・フランス版、ピレリー・カレンダーなどに発表された作品を展示する予定だ。

以上が今までに決定している展示になる。その他、いろいろな企画の可能性を現在検討している。2024年もブリッツの活動を楽しみにしていてほしい。

スティーブ・シャピロの写真作品を
日本初公開
同時代に活躍した鋤田正義との二人展開催

ブリッツ・ギャラリーは、10月18日から、鋤田正義(1938 -)と米国人写真家スティーブ・シャピロ(1934 – 2022)による二人展「SUKITA X SCHAPIRO PHOTOGRAPHS」を開催する。シャピロ作品の展示は日本初となる。

今回の二人の写真家の作品には個人的に強い思い入れがある。実は私のデヴィッド・ボウイのライブ初体験は、1978年12月の武道館公演だった。78年のアメリカン・ツアーの2枚組ライブアルバム「STAGE(ステージ)」を踏襲したもので、CDではオフイシャルではないが2枚組の「Stage At Budokan Live In Japan」の内容となる。時期的には、ちょうど1977年にベルリン時代の名盤、「Low(ロウ)」と「Heroes (ヒーローズ)」が発売された直後だった。ライブのオープニング曲は「Low(ロウ)」に収録されている「Warszawa」だったと記憶している。実は、この2枚のアルバム・カバーを撮影したのが今回紹介する二人の写真家で、前者がスティーブ・シャピロで、後者が鋤田正義だった。

1978年のボウイ日本公演のカタログ

鋤田とシャピロは、活動した拠点は異なるものの、ほぼ同時代に活躍した写真家だ。二人のキャリアはとても似通っており、ともに社会問題のスナップから写真家としての活動を開始している。シャピロは、アンリ・カルティエ=ブレッソンに憧れて写真家を志し、ウィリアム・ユージン・スミス(1918-1978)から写真技術や取り組み姿勢を学んでいる。ジョニー・デップ主演でユージン・スミスの後半生を映画化した「MINAMATA-ミナマタ-」が公開されたのは記憶に新しいところだろう。鋤田もユージン・スミスを、自分が影響を受けた写真家に挙げており、写真集「SUKITA ETERNITY」 プリント付き特別限定版の「Tate Modern, 2008」は、ユージン・スミスの代表作「楽園への歩み、ニューヨーク郊外、1946」のオマージュで、果てしない未来がある子供二人を、意識的に人生の残り時間が限られた老人二人に置き換えたと語っている。様々なストーリーが連想され浮かび上がってくる、とても味わい深い作品なのだ。

左がユージン・スミス作品、右側が鋤田正義作品

二人の写真家の活躍した範囲は、ともにドキュメンタリー、ポートレート、映画のスチールにわたる。シャピロが激動する60年代に全米を旅して撮影した作品は「AMERICAN EDGE」(Arena Edition, 2000年)にまとめられている。同書は絶版で、いまではプレミアム付きで売られているレアブックだ。鋤田も50年~60年代に、戦後混乱期の地元福岡のストリート・シーンや長崎の被爆者や原子力潜水艦入港反対の社会問題を撮影、それらは「SUKITA : ETERNITY」(玄光社, 2021年)の「EARLY WORK」の章で初めて公開された。

また二人は70年代にデヴィッド・ボウイと数々の重要なコラボレーションを行っている。1974年、シャピロはロサンゼルスでデヴィッド・ボウイと濃厚なフォトセッションを行い、その成果はアルバム「Station to Station」 (1976年)、「Low 」(1977年)に生かされている。鋤田は1977年にイギー・ポップとともに来日したボウイを撮影。その濃密なセッションの写真は「Heroes」 (1977年)のアルバム・カバー写真になっている。本展ではその時のアザー・カットも紹介される。  

また、映画関連の仕事では、シャピロはフランシス・フォード・コッポラ監督の「The Godfather」(1972年)や、マーティン・スコセッシ監督の「Taxi Driver」(1976年)の現場を撮影。映画ファンならだれでも見覚えがある上記作の代表的なスチール写真は実はシャピロによるものなのだ。本展でも、パート2で「The Godfather」のマーロン・ブランドの作品が展示される予定だ。

一方、鋤田は寺山修司と交流があり、長編映画「書を捨てよ町へ出よう」(1971年)の撮影監督を務めている。またジム・ジャームッシュ監督の映画「ミステリー・トレイン」(1989年)、是枝裕和監督の映画「ワンダフルライフ」(1999年)、「花よりもなほ」(2006年)のスチール撮影を行っている。

シャピロは2022年に87歳で亡くなっている。その後、残された家族により彼の遺志を継ぐSteve Schapiro Estate(スティーブ・シャピロ・エステート)が設立され活動を行っている。同エステートは、残されたシャピロの遺作を熱心な写真や映画/ロックファンが多い日本で紹介されることを強く希望。鋤田が、同世代でボウイの撮影をはじめ、自分と同様のキャリアを歩んだシャピロに共感し、自作との共同展示を発案してブリッツでの二人展開催が実現した。将来的には個展開催の可能性を模索するものの、まずは知名度の高い鋤田との二人展開催で日本での写真家シャピロの知名度浸透を図ることにしたわけだ。

 本展はボウイ・ファンや写真のコレクター/ファンにとって見どころ満載の内容だ。鋤田正義はデヴィッド・ボウイやデヴィッド・シルヴィアンとのセッションでの未発表作や代表作のアザー・カット作品、ポートレート写真で時間経過を可視化した2枚組作品、ライフワークとして取り組んでいるドキュメンタリー作品などを代表作とともに展示する。また2023年に亡くなった、鋤田と生前に親交があったミュージシャンの鮎川誠、高橋幸宏、坂本龍一を追悼するコーナーをパート1で設けて作品展示も行う。

 日本初公開となるスティーブ・シャピロ作品は、70年代の代表的なデヴィッド・ボウイ作品を中心に紹介する。しかし、ボウイの写真展にはしたくないというエステートの意向から、その他アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)、ニコ(Nico)、ルネ・マグリッド(René Magritte)、モハメド・アリ(Muhammad Ali)、バーブラ・ストライサンド(Barbra Streisand)、マーロン・ブランド(Marlon Brando)などのポートレート、写真集「AMERICAN EDGE」や「Seventy Thirty」に収録されている激動するアメリカの珠玉のドキュメント作品もパート2で展示する。コンパクトに彼のキャリアを垣間見ることができる作品セレクションとした。

 本展ではモノクロ・カラーによる様々なサイズの約60点の作品を2回に分けて展示する。年内開催のパート1では、主にボウイのカラー作品を中心に紹介。2024年開催のパート2では作品を入れ替えて、二人の原点となるドキュメンタリー系、ボウイや有名人ポートレートのモノクロ作品を中心に展示する。

 デヴィッド・ボウイや有名映画監督たちを魅了した、同時代に活躍した日米二人のアーティストの珠玉の写真表現をぜひ堪能してほしい。

SUKITA X SCHAPIRO:PHOTOGRAPHS
鋤田 正義 / スティーブ・シャピロ
Part 1 : 2023年10月18日(水)~12月24日(日)
Part 2 : 2024年1月13日(土)~3月24日(日)
1:00PM~6:00PM/ 水曜~日曜 月曜火曜は休廊  /入場無料

ブリッツ・ギャラリー
〒153-0064  東京都目黒区下目黒6-20-29  TEL 03-3714-0552
JR目黒駅からバス、目黒消防署下車徒歩3分/東急東横線学芸大学下車徒歩15分
https://blitz-gallery.com/index.html




ファインアート写真セミナー
2023年秋に少人数制で再開!

ブリッツは長年にわたりセミナー業務として、ファインアート写真に関するレクチャーやワークショップなどのイベントを行ってきました。しかし新型コロナウィルス蔓延の影響で、写真作品を中心に多くの人が集り、濃厚接触となる可能性が高いイベント開催を約2年以上にわたり自粛してきました。

今年5月に新型コロナウィルス感染症の感染症法上の位置付けが「5類感染症」に移行され、いま世の中は平時に戻ってきました。ブリッツ・ギャラリー店頭でも感染予防に気を付けつつもアクリルボードをなくして接客を行うようになりました。そしてこのたび、セミナー業務も再開を決定いたしました。
この約2年間は無駄に過ごしたわけではありません。ギャラリーの完全予約制の導入にともない時間ができたので、過去のセミナーのレジメをベースに内容を加筆して「ファインアート写真の見方」(玄光社2021年刊)を上梓することができました。実は出版に際して本の内容を解説するレクチャーなどを実施したかったのですが、新型コロナウィルスの感染予防のためにオンラインのみでの開催となり、対面では実現できませんでした。実は同書の内容はやや難解なので、前提となった考えなどの詳しい解説が必要だとずっと感じていました。実際、ギャラリーの店頭でも本の内容について多くの専門的な質問を受けました。

従いましてセミナーは、まず同書に関連した内容のレクチャーを9月に少人数向けに行うことにしました。基本は、「ファインアート写真の見方」をすでに読んだ人が対象となります。もちろん、未読の人も大歓迎で参加可能です。同書はギャラリー店頭やアマゾンで販売しています。

レクチャーでは、本ではあえて書かなかったやや専門的な文化的背景などについても触れたいと思います。また最近にこのブログで展開している「定型ファインアート写真への取り組み方」についても解説します。これも内容が複雑なので、よく質問を受けます。このアイデアは実は上記の本で明らかになった日本の写真市場の現状を踏まえて、どのような可能性があるかを考えて展開したものなのです。ぜひ多くの人と意見を交換したいと考えています。

またレクチャー参加者のうち希望者には、後日にポートフォリオ・レビューを行います。アーティストを目指す人には、本の中で明らかにした欧米のファインアート写真市場の価値基準から行うだけではなく、趣味としての写真を極めたい人には日本独自のアプローチの可能性を提案するつもりです。

その他、ファインアート写真コレクションに興味を持つ人向けにコレクター講座も開催を計画しています。

写真を通して自己表現に興味ある人、写真で自分らしさを見つけたい人、またファインアート写真コレクションに興味ある人はぜひ参加してください。

日程などの詳細はこちらに掲載しております。