2015年春のNYアート写真シーズン到来!
最新オークション・レビュー

いよいよ2015年春のニューヨーク・アート写真シーズンが始まった。3月31~4月2日にかけて大手のクリスティーズ、ササビーズ、フィリップスがオークションを開催した。
3社の総売り上げは約1772万ドル(約21.2億円)と、昨秋より約3.7%減、昨春より約20%減だった。過去2年間は秋と比べて春の売り上げが勝る状態が続いていた。残念ながら今春の売り上げは伸びず、3シーズン連続の減少となった。
過去5年の平均売り上げを比較すると、2013年春から2014年春にリーマンショック後の売り上げ減少傾向からプラスに転じている。しかし昨年秋から回復の勢いが弱くなって来た感じだ。今回は1年ぶりに50万ドル(約6000万円)超えの作品が2点でたものの、全体の落札率は70%をやや欠ける水準と大きな改善はなかった。
総合的に評価するにやや弱めだが標準的な落札結果だったといえるだろう。

クリスティーズは、3月31日に「20/21 PHOTOGRAPHS」と銘打って、William T. Hillmanコレクション単独セールと複数委託者のセールを行った。前者の結果はかなり厳しく、落札率が48.7%、総売り上げも約127万ドル(約1.52億円)にとどまった。同コレクションの半分はカーネギー美術館に寄贈され、残りがオークションに出品されている。この事情からコレクションの方向性が同セールでは明確に打ち出せず、まるで複数委託者のオークションのようだった。これがセール人気が盛り上がらなかった理由の一因ではないか。ダイアン・アーバス、ヘンリ・カルチェ=ブレッソン、ウィリアム・エグルストン、ジュリア・マーガレット・キャメロンなどの高額落札予想価格の20世紀写真が軒並み不落札だった。
最高額はベッヒャー夫妻の”Blast Furnacesm Frontal View,
1979-1986″の9点もの作品で、11万2500ドルで落札された。

複数委託者オークションはやや改善して、落札率が57.2%、総売り上げは約419万ドル(約5億280万円)だった。最高額落札は、アルフレッド・スティーグリッツの4点しか存在が確認されていないヴィンテージ・プラチナ・プリント”From the Black-Window,- 291″,1915″。落札予想価格上限を超える47.3万ドル(約5676万円)で落札。続くのは、同じくスティーグリッツのプラチナ・プリント”Georgia O’Keeffe, 1918″ で41.3万ドル(4956万円)だった。リチャード・アヴェドンのアイコン的作”Dovima with Elephants,
1955″の130X106cmサイズの巨大作品は34.1万ドル(4092万円)で落札された。

ササビーズは4月1日に複数委託者による「PHOTOGRAPHS」を開催。落札率76.6%、総売り上げも約516万ドル(約6億2000万円)だった。最高額はカタログ・カヴァー作品のリー・フリードランダーの”The Little Screens Series, 1961-70″。38点のポートフォリオで、落札予想価格上限の2倍を超える85万ドル(約1億200万円)で落札された。2位にもポートフォリオ作品が続き、ニコラス・ニクソンの40点からなる”The Brown Sisters Series,1975-2014″が37万ドル(約4440万円)だった。

高額落札が期待された、20~30万ドルのエスティメートだった、ポール・ストランドのプラチナ・プリント”Rebecca, 1921″は不落札だった。フィリップスは、4月1日に貴重な高額作品による「PHOTOGRAPHS」イーブニング・セールを、4月2日に中低価格帯の「PHOTOGRAPHS」デイ・セールを行った。オークションを昼夜2回に分けるのは現代アートなどでは一般的。私の記憶する限りでは、アート写真オークションでは初めての試みだと思う。
全体の落札率は79%、総売り上げは約708万ドル(約8億4996万円)、これでフィリップスは、二季連続のNYオークションでの売上高トップとなった。
最高額は、イーブニング・セールでのメイン作品だったヘルムート・ニュートンの”Walking Women, Paris, 1981″ 。これは、171.5 x 149.5 cmサイズの銀塩写真の3枚セット。落札予想価格の上限に近い、90.5万ドル(約1億860万円)で落札された。今シーズンの最高額でもあった。続いたのが現代アート系のジョン・バルデッサリの”Green Sunset (with Trouble), 1987″  で、36.5万ドル(約4380万円)で落札されている。
ファッション、現代アートの次が、20世紀のクラシックといえるマン・レイの作品。”Reclining Nude with Satin Sheet, 1935″が
32.9万ドル(約3948万円)だった。
上位の3作品が象徴しているように、高額中心のイーブニング・セールの出品作は、写真史の巨匠の希少なクラシック作品、 アイコン的ファッション写真、そして現代アート系に大きく分類される。これらが、いま富裕層コレクターが反応する写真分野ということだろう。

今シーズンで気になったのはアーヴィング・ペンの相場だ。全オークションで44点が出品されて27点が落札。落札率は全体平均よりも低めの約61.3%にとどまっている。
注目のフィリップスのイーブニングセールでは、高額の3点が完売。”Picasso (B), Cannes, 1957″が10万ドル。”Black and White Fashion with Handbag (Jean Patchett)NY,1950″と
“Frozen Foods, New York, 1977” がともに10.6万ドルだった。
しかし、中低価格帯の作品は、不落札や落札予想価格の下限付近での落札が多かった。いままでのファッション写真ブームでペンの落札予想価格はかなり上昇してきた。今シーズンの結果から判断するに、どうもこのあたりのレベルが短期的には相場のピークのような予感がする。

いま、世界的には数多くの不安要素が存在している。米国の金利引き上げによる新興国での流動性縮小懸念、ギリシャなどの欧州債務問題、中東やロシアでの紛争、中国の景気悪化懸念などだ。しかし、ニューヨークのダウ平均株価は17,000ドル台でのレンジ内取引が続いている。 何かのショック的な出来事が発生して株価が急落しない限り、今年のアート写真相場の大崩れはないと思われる。ただし、決して将来が楽観できない状況の中で、昨年来続いているコレクターの精緻な作品評価の傾向は続くだろう。アート写真の主要購買者である中間層の経済状況の改善があまり込めないことから低価格帯作品の苦戦は続くと予想する。
日本のコレクターは約120円程度のドル高では、なかなか海外オークションへの参加に積極的になれないだろう。しかしこの頃は、特に低価格帯分野で意外に割安に買える作品が見つかることもある。また写真作品の出品数は多くないが、国内のオークションでも時に掘り出し物との出会いがある。ただし値段の割安感だけを見るのではなく、自分のコレクションの方向性を明確にしたうえで、欲しい作品に特化して相場動向をフォローするべきだ。悩んだときはぜひ専門家に相談してほしい。

(為替レートは1ドル120円で換算)

2014年現代アート系写真の高額落札
アイコン系作品の人気が継続する予感

今年の現代アート系写真市場の動きはどうようになっているのだろうか?
まず2014年の高額取引を振り返っておこう。以下に2014年の現代アート系写真のオークション高額落札ベスト10リストを掲載しておく。
1位はシンディー・シャーマンの代表作”Untitled Film Stills”21点のポートフォリオで$6,773,000(約7.45億円)。1点ものだとリチャード・プリンスの$3,973,000(約4.37億円)が最高額となった。
昨年のプリンス人気はすさまじいものだった。特に1980~1992年までに制作されたマルボロの広告写真から引用されて制作されたカウボーイス・シリーズが多数ランクインしている。アメリカの男らしさの理想像と、メディアにより作られているカウボーイの実像をテーマにした同シリーズは、プリンスの代表的なアイコン作品になったといえるだろう。現代アート市場の活況からの希少作品への需要の高まりが影響しているとも考えられる。

2013年のランキングを席巻したアンドレス・グルスキーだが、昨年はわずか8位にはいっただけだった。彼の人気はやや鎮静化してきたようだ。
7位は現代アート作家マイク・ケリー(Mike Kelley)の写真作品。中古のぬいぐるみを撮影した8作品からなるチバクローム作品で、ロックバンドのソニック・ユースの1992年発売のアルバムジャケット”Dirty”に採用されているアイコン的作品だ。

 1.シンディー・シャーマン $6,773,000(約7.45億円)
“Untitled Film Stills (21photographs),1977-1980”
クリスティーズNY 11月
 2.リチャード・プリンス  $3,973,000(約4.37億円)
“Spiritual America, 1983” クリスティーズNY 5月
 3.シンディー・シャーマン $3,861,000(約4.24億円)
“Untitled#93, 1981”
ササビーズNY 5月
 4.リチャード・プリンス  $3,749,000(約4.12億円)
“Untitled (Cowboy),1998”
クリスティーズNY 5月
 5.リチャード・プリンス  $3,077,000(約3.38億円)
“Untitled (Cowboy),2000”
ササビーズNY 5月
 6.シンディー・シャーマン $2,225,000(約2.44億円)
“Untitled Film Still #48, 1979”
ササビーズNY 11月
 7.マイク・ケリー $1,925,000(約2.11億円)
“AH…YOUTH,1990”
ササビーズNY 5月
 8.リチャード・プリンス $1,805,000(約1.98億円)
“Untitled(Cowboy),1998-1999”
フィリップスNY 11月
 8. アンドレアス・グルスキー $1,805,000(約1.98億円)
“RHEIN I、1996”
ササビーズNY 11月
 10.リチャード・プリンス $1,745,000(約1.91億円)
“Untitled (Cowboy), 1994”
クリスティーズNY 5月
 (2014年の実績は1ドル110円で換算)

2015年になり、現代アート系作品のオークションが、2月ロンドン、3月ニューヨークで開催された。今回はそこでの高額落札作品をレビューしてみたい。

クリスティーズ・ロンドンは、2月11日~12日に”Post-War
and Contemporary Art”を開催。アンドレアス・グルスキーが香港の証券取引所を撮影した180X280cmの “Hong Kong Borse II,1995,”が302,500ポンド(約5590万円)で落札された。

ササビーズ・ロンドンでは2月10日~11日に”Contemporary
Art”を開催。アンドレアス・グルスキーのゴシック様式の教会を撮影した237X333cmの大作”Kathedrale I,2007″が461,000ポンド(約8500万円)、トーマス・シュトルートの”Museo Del Prado I Madrid 2005″は、158,500ポンド(約2932万円)で落札されている。

ニューヨークでは、3月5日~8日にかけて開催された世界的に有名なアートフェアのザ・アーモリー・ショー(The Armony Show)の会期に合わせて大手がキュレーションに趣向を凝らした現代アート系オークションを行った。

フリップス・ニューヨークでは、3月3日に”Contemporary Art & Design Evening” 、4日に”Under the Influence”を開催。 リチャード・プリンス人気は相変わらず高く、”Richard Prince, Untitled (Cowboy), 1986″が114.5万ドル(約1.37億円)で落札されている。

ササビーズ・ニューヨークでは3月5日に”Contemporary Curated”を開催した。バーバラ・クルーガーの “Untitled (Our Prices Are Insane!), 1987″、250 X 248.3 cmサイズの作品が、50.2万ドル(約6024万円)で落札された。

クリスティーズ・ニューヨークでは、3月6日に”First Open”を開催。トーマス・シュトルートのエディション10、227.3 x 186 cm.の大作”Musee d’Orsay II, Paris, 1990″が19.7万ドル(約2364万円)で落札。

5月にニューヨークで開催される本格的現代アート・オークションへの助走はとりあえず順調のようだ。いままでアート写真市場での特徴だった、アイコン的作品の人気が現代アート系写真にも拡大してきた印象だ。高額の現代アート系写真セクターの中でも2極化が起こる予感がする。さていよいよ、来週から本格的アート写真のオークション・シーズンがニューヨークで始まる。低・中価格帯の写真市場の動向が注目される。

(1ドル120円、1ポンド185円で換算)

欧州アート写真オークション結果 コレクションの歴史が作り上げた多様で重層的な市場

ここ数年はパリ・フォトが行われる11月中旬に合わせて欧州各都市でアート写真オークションが活発に開催されている。ついに今年は以下のような凄まじい過密スケジュールになっている。出品作の種類も、19世紀写真、20世紀写真のヴィンテージ・プリントやモダン・プリントから現代アート系まで本当に雑多。大手業者は、クリスティーズが  “Kaspar M. Fleischmann”コレクションの単独セール、 ササビーズがマン・レイ作品に絞ったセール、フィリップスが現代アート系のエマージング作家を中心にした”Ultimate  Contemporary”を開催するなどかなり力を入れている。中小業者は、大手が扱わない知名度の低い作家の作品、サインがないヴィンテージ作品やフォトブックなども出品。
全体を俯瞰するに、富裕層から中間層までのあらゆる種類のコレクター向けの多種多様な作品が提供されている印象だ。

*11月中旬に欧州各都市で行われたオークションのリスト
  • 11/13
    Christie’s Paris  “Collection of Kaspar M. Fleischmann”
    148点、70%
  • 11/14
    Christie’s Paris “New York par Berenice Abbott Collection
    Kaspar M. Fleischmann” 67点、76%
  • 11/14
    Christie’s Paris “20/21”
    113点、76%
  • 11/14
    Sotheby’s Paris “Photographies”
    196点、57.6%
  • 11/15
    Sotheby’s Paris “MAN RAY”
    272点、65%
  • 11/14
    Artcurial Paris “Andre Kertesz: An Important French
    Collection”  99点、69%
  • 11/14
    Artcurial Paris “Photography”
    142点、58%
  • 11/18
    Phillips London “Photographs from the Collection of the  Art Institute of Chicago” 86点、64%
  • 11/18
    Phillips London”Photography”
    122点、62%
  • 11/21
    Dreweatts & Bloomsbury London”Photographs & Photobooks”
    224点、47%
  • 11/21
    WestLicht Vienna “Photographica”
    191点、75%

(記載の数値は、出品作品数、落札率)

高額落札は、やや場違いの感じがする現代アートの巨匠アンドレアス・グルスキー(Andreas  Gursky)の”Sans titre、2006″が、ササビーズ・パリで落札予想価格上限の2倍を超す409,500
ユーロ(約5937万円)で落札。
Dreweatts & Bloomsbury・ロンドンでは、イアン・マクミラン(Ian Macmillan)がビートルズのアルバム・アビーロードを撮影した”The Abbey Road Session, The Complete Set、1969″が、驚異の179,800ポンド(約3326万円)で落札された。作家の知名度は低いものの、イコン的な作品への強い需要が改めて印象付けられた。
フィリップス・ロンドンでは、ロドニー・グラハム(Rodney Graham)の”Welsh Oaks、1998″が122,500ポンド(約2265万円)で落札されている。

単純に計算すると上記オークションの平均落札率は約64%。もちろん最近はネットが普及したことで中心市場の米国のコレクター、業者も参加している。しかし米国と比べて低成長が続く欧州で、約1週間強の期間中に約1000点もの写真作品が活発に売買され、約19億円を売り上げたことになる。

興味深いのは、中小業者開催のオークションでは地元密着の写真家の作品が数多く出品されていることだ。世界的に知名度がない写真家は高額落札されることはないが、重要なのはローカルの写真家の作品でさえ市場で流動性のあることだ。たぶん買い手は地元欧州のコレクター・業者と思われる。
オークションのセカンダリー市場は、これまでのギャラリー店頭で売買された膨大な写真作品の積み上げがあるから成立している。セカンダリー市場の存在は、ギャラリー店頭で購入する写真作品は資産価値を持ち、将来的にオークションなどで売却できることを意味する。フォトフェアやギャラリーで写真が売れるのは、このような重層的なセカンダリー市場が背景にあるからだともいえる。
翻って日本には、日本人写真家のセカンダリー市場自体が存在しない。過去にギャラリーで売られた作品でも、写真家が世界的に知名度のないと相場が存在しない。売ろうとしてもネット・オークションくらいしかなく、値段がついても二束三文のことが多い。ギャラリーで高い写真が売れないのは当然のことなのだと思う。

さて次のマーケットの関心は12月11~12日にササビーズ・ニューヨークで開催される”175 MASTER WORKS TO CELEBRATE 175 YEARS OF PHOTOGRAPHY”となる。これはアート写真の振興のために活動を行っている”Joy of giving something foundation”コレクションからのセールとなる。内容は、銀塩写真だけでなく、ダゲレオタイプ、ダイトランスファー、デジタル写真までを含む写真史を包括的に網羅する多様なコレクション。非常に貴重な、アルフレッド・スティーグリッツ、エドワード・スタイケン、エドワード・ウェストン、ポール・ストランドなどの20世紀写真の珠玉のヴィンテージ・プリントが複数点出品される。落札予想価格の上限が50万ドル(約6000万円)を超える多数作品もあり、年末の市場にどれだけのエネルギーが残っているかが試されることとなる。(1ユーロ/145円、1ポンド/185円、1ドル/120円で換算)

2014年秋のニューヨーク
現代アートオークション フォトグラフィー関連作品の動向は?

今秋になって米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は量的緩和策第3弾を終了させた。しかし、景気の先行きにはいまだ慎重でゼロ金利は継続されるという。NYダウは、金融緩和の継続見通しや景気の先行き期待から17000ドル超えの歴史的高値圏で推移している。
11月にニューヨークで行われた大手オークションハウスの現代アートセールでは、相変わらず傑作アート作品への強い需要が続いていた。低金利で株高のうちはアート市場も安泰のようだ。

11日と12日でササビースで行われた”Contemporary Art”セールでは、マーク・ロスコの”NO. 21 (RED, BROWN, BLACK AND ORANGE),1951″が4496.5万ドル(約5.17億円)で落札された。ちなみに彼の作品の最高落札額は2012年クリスティーズで記録された“Orange,  Red, Yellow、1961”の8690万ドル。

今秋クリスティーズでは、1回のオークションでの落札最高額を記録。なんと75点のアート作品で8億5288万ドル(約981億円)が売上られた。最高額はアンディ・ウォーホールの“Triple Elvis (Ferus Type)、1963”で、8192.5万ドル(約9.42億円)で落札されている。
さて写真系作品の入札はどうだっただろうか?
人気の高い、シンディー・シャーマン、アンドレアス・グルスキー、リチャード・プリンス、ジョン・バルデッサリ、アンドレ・セラノなどへの需要は相変わらず強かった。その中でも、シャーマン、プリンス、グルスキーはいまや別格扱いになっている。彼らが取り扱われるのは目玉作品が出品されるメイン・イベントとなるイーブニングセールが中心。今回一番高額で落札されたのがシンディーシャーマン。クリスティーズでは”Untitled Film Stills (21 prints),1977-1980″21枚セットが677万ドル(約7,78億円)で落札。ササビーズでも”Untitled Film Still #48, 1979″が222万ドル(約2.56億円)、”UNTITLED #88、1981″が114万ドル(約1.316億円)で落札されている。
アンドレアス・グルスキーは、ササビーズで”RHEIN I、1996″が180.5万ドル(約2.07億円)、フィリップスでは”James Bond Island I, 2007″が72.5万ドル(約8337万円)で落札されている。
リチャード・プリンスは絵画作品などもあるのだが、写真ではフィリップスで代表作の”Untitled (Cowboy),1998-1999″が180.5万ドル(約2.07億円)で落札されている。
その他の作家では、アート写真分野のセールと重なることが多い、杉本博司、デビット・ラチャペル、ウォルフガング・ティルマンズ、ナン・ゴールディンなどがほぼ予想価格内で落札されていた。
今回の写真関連の出品作家は、知名度と落札予想価格が高い人が中心だった。どうもオークションハウスは現代アートカテゴリーに出す写真系作家を慎重に選んでいる様子だ。結果的にはセカンダリー市場でブランドが未確立の中堅やエマージング作家の取り扱いが減少している。低価格帯の写真系現代アート作品の多様性が急激に失われつつあるのだ。たぶんこれも市場2極化の影響だろう。それらが価格帯の振り分けからアート写真オークションに登場するケースも散見される。しかし二つのカテゴリーのコレクターはそれぞれが中間層と富裕層でまったく違うので、落札結果は好調とは言えない。
このような状況では、現代アート系写真の新たな価格帯のカテゴリーが必要なのではないだろうかと感じている。5万ドル(約575万円)以上の作品は、従来のように現代アート分野での取り扱いとして、 より価格帯がアート写真に近い5万ドル(約575万円)以下の作品は、新しい受け皿として「現代アート系写真」のようなカテゴリーの創出が必要ではないだろうか。それらに中間・高額価格帯の現代アート写真も含めてもよいだろう。
オークションハウスも、未来のスーパースターの必要性は認識しているようで、色々と試行錯誤を行っている。フリップスは11月にロンドンで開催したアート写真オークションで、セールの一部を”Ultimate
Contemporary”として、現代アート写真系の中堅・エマージング作家をフィチャーしている。これからも各業者によって写真作品の様々なカテゴリー分けが行われるだろう。今回のオークション結果を俯瞰するに、高額セクターの写真系作品は現代アート市場の熱気が反映されて相変わらず好調を維持しているようだ。それでは、中間・低価格帯のアート写真市場はどのようになっているのだろうか?
11月にはパリフォトの週にかけて、大手と中小業者による複数のオークションが欧州各地で開催された。ササビーズ・パリの「マン・レイ」や、フィリップス・ロンドンの「シカゴ美術館コレクション」など注目されるオークションもあった。全般的に結果は決して芳しいものではなかった。レビューは近日中にお届けしたい。

(1ドルは115円で換算)

2014年秋ニューヨーク・アート写真・オークション結果
米国の量的金融緩和終了の影響は?

2014年秋のニューヨーク・アート写真・オークションは主要3社で合計6つのオークションが開催された。複数委託者オークション以外に、クリスティーズではフォーブス・コレクションとドン・サンダース・コレクション、フィリップスはシカゴ美術館コレクション。またササビーズはコール・ウェストン・トラストの548点のエドワード・ウェストン・マスター・セットのセールが行われた。
主要3社の売上合計は、春より約17%減少して1841万ドル(約19.3億円)、年間ベースでも2013年と比べて約15%減少している。これはほぼ2005~2006年くらいの売り上げで、リーマン・ショックによる市場規模縮小からの回復ペースがやや弱まってきた印象だ。高額落札が減少したことが総売り上げ減少の理由と思われる。今春は50万ドル越えが6点あったが、今秋は1点もなかった。
今季の高額落札は、クリスティーズのエドワード・ウェストンの”Nautilus Shell,1927″が461,000ドル(約4840万円)。ササビーズのマン・レイ”Lee Miller, c1930″が455,000ドル(約4777万円)だった。
今季の業者売り上げ高トップは、シカゴ美術館コレクション・セールが貢献したことからフィリップスが獲得した。同社の売り上げはここ数年安定的に推移している。ちなみに今春はササビーズがトップだった。

今季は、ササビーズで開催された548点のエドワード・ウェストン・マスター・セットの一括オークションが特に注目を集めていた。いわゆるコール・プリントと呼ばれるウェストンの息子コールにより制作されたエステート・プリントだ。豊富な解説付きの単独カタログを制作するなど、ササビーズは大変な力の入れようだったが残念ながら不落札だった。落札予想価格は200~300万ドル(約2.1~3.15億円)。単純計算すると1枚当たりが3650ドル~5474ドル。コール・プリントの相場はイメージの人気度によりかなり異なる。人気作は1万ドル(約105万円)以上するが、不人気作は値がつかないこともある。不人気作品のヴァリューと、資料的価値をやや過大評価しすぎたのではないだろうか。

アート写真にとって作品の来歴は作品価値に大きく影響を与える。特に最強の来歴は美術館のコレクションだったこと。美術館が所蔵作品を売却することなどは日本では想像できないだろう。しかし海外の美術館はコレクターによる作品寄贈が多く、重複コレクションを市場で売却して新規購入資金にあてることはよくある。
今回のフィリップスで行われたシカゴ美術館コレクション・セールはそれに当たる。通常はかなり高い落札率なのだが今回は73.5%と特に際立って良い数字ではなかった。特に1万ドル以下(約105万円)の低価格帯の不落札率が30%をこえていたことが影響した。
最近は写真史上有名写真家の作品でも、不人気作は売れないことが多い。これは美術館コレクションの来歴でも不人気作だとコレクターは無理して買わないということなのだと思う。少しばかり気になる兆候だ。

現代アート系の結果はどうだっただろうか?アンドレアス・グルスキーなど、落札予想価格の高い作品は現代アート・オークションで取り扱われている。アート写真分野にはエディションが多いか、小さめサイズの作品が出品されることが多い。今回注目されたのが、ドン・サンダース・コレクションに出品されたデヴィット
レヴィンソール(David Levinthal)の272点からなる”XXX: Volumes I, II, and III, 1999-2001″。落札予想価格25~35万ドル(約2625~3675万円)だったが不落札だった。全般的に高額カテゴリー作品の動きがやや鈍い印象だった。

「イコン&スタイル」系の写真は全般的に良好だった。注目されたのは、ヘルムート・ニュートンの”Private Property, Suites I, II, and III, 1984″。各15枚の合計45点からなるニュートンの代表作品。フィリップスとクリスティーズのドン・サンダース・コレクションのセールで2セットが出品された。落札予想価格に10万ドルの開きがあったのは興味深かったが、ともに389,000ドル(約4084万円)で落札されている。巨匠リチャード・アベドン、アーヴィング・ペンのファッション系作品も順調に落札されていた。この分野の代表作家の代表作品には相変わらず強いコレクター需要が感じられた。

もともと市場環境が良くない中で金融緩和による高額セクターの活況がアート写真市場を引っ張ってきた。しかし今秋は落札価格5万ドル(約525万円)以上の高額セクターの不落札率が高かった。 クリスティーズの複数委託者、ドン・サンダース・コレクションのセールでは高額セクターの不落札率が50%を超えていた。フィリップスの複数委託者セールも不落札率が40%以上だった。ササビーズのエドワード・ウェストン・マスター・セットの一括セールが不落札だったことがこの状況を象徴しているといえるだろう。

ここにきて米国の量的金融緩和の終了が取りざたされ、世界的な流動性の縮小が懸念されている。いままではアートも含むほとんどの優良資産が買われてきた。これからは資産価値のより精緻な評価が行われるようになると予想されている。アート写真でも主要購買者である中間層の経済状況の改善がないかぎり、より厳しい選択と評価が行われるようになるだろう。今秋のオークションでは、上記のように市場の先行きに一抹の不安を感じるいくつかの兆候が見られた。今後とも注意深く市場の動向を見守りたいと思う。

(為替レートは1ドル105円で換算)

2014年後半のアート写真市場見通し 市場2極化進行の中でフォトブックに注目

米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は、今秋からは緊急的金融緩和からの出口戦略を始めるといわれている。しかしまだ景気は本格回復したわけではなく緩和的政策は続くといわれている。そのような背景からいま米国株式市場ではNYダウが史上最高値近辺で取引されている状況だ。 世界的な超金融緩和策による弊害も散見されるようになり、米国債、社債、クレジットカードの与信などのバブルが発生しているという指摘もある。
アート市場も特に高額セクターの売り上げが順調だ。大手オークションハウスは、2014年前期に軒並み歴史的な売上を記録している。
ササビーズの上半期のオークション売り上げは昨年同期比約24%増の27億ドル(@100、約2700億円)。なんと百万ドル(@100、約1億円)以上の値を付けた落札が487点もあった。同時期のクリスティーズの売り上げも、昨年同期比約13%増の36億ドル(@100、約3600億円)だった。

オークション全般では特に現代アート系、印象派などが好調。アジア部門もやや売り上げを落としているが存在感は相変わらずだ。高額セクターのアート市場はややバブルが発生しているのではないかと感じられる。今秋にかけてオークションハウスは、落札保障金額を増加させる傾向にあるという。これは、貴重で高額落札が見込める作品に関しては、彼らが委託時に金融的落札保証をつけること。委託者はその条件が良い、会社を選ぶということだ。これはオークション市場の活況や過熱を示す指標と考えられている。ITバブル崩壊やリーマンショック時にはオークションハウスはこの保証で多額の損失を被っている。大手はこれから益々ハイエンド作品での勝負の時代になると考えているのだろう。貴重作品を持つ委託者の熾烈な奪い合いの構図が見て取れる。

アート写真の市場はどうだろうか? 前期の売り上げは昨年下期は上回っているが、昨年前期よりは下回っている。一時よりは活況だが、決してバブルと呼べる状態ではないだろう。売れている中身をみると、高額落札されているのは、7月にクリスティーズ・パリで開催された「イコン&スタイル」で象徴される、誰でも知っている有名アーティストの有名イメージが中心だ。リチャード・アヴェドン、アーヴィング・ペン、ヘルムート・ニュートンなどファッション系もその中に含まれる。ヴィジュアルの親しみやすさが好人気の背景にあると思われる。
これはアート界で良く言われる「目ではなく耳で作品を買う」コレクターが増加しているのと考えられる。いわゆるブランド志向の人たちだ。彼らは業界ではあまり良い意味ではとらえられていない。この種のコレクターは継続して作品を買わないし、ある程度の期間が経過すると興味が他分野に移ってしまうことがあるからだ。つまり現状は、表面の売上的には順調に推移しているものの、中身は新しいシリアスなコレクターが増えているわけではないということだ。何らかの政治経済上の外的ショックなどが発生すれば相場環境が急変する危うさを抱えている。

以前に欧州の中小オークションハウスの売上状況を紹介したように、100万円以下の価格帯の市場はいまだに低迷しているのだ。これはリーマンショック後の景気回復では、中間層がその恩恵を受けていないことが大きな原因だと思われる。どうもこのような状況は一時的なことではないようだ。いま欧米ではフランス人経済学者トマ・ピケティの著書「21世紀の資本論」が話題になっている。最近の格差拡大は資本主義システムに内在する要因により引き起こされており、グルーバル資本主義の先に中間層のさらなる減少の可能性を示唆している。最近の状況を分析するに、もしかしたらその兆候や影響があらわれているのかもしれないと感じる。
現在のメイン・プレーヤーの富裕層は、前述のようにアーティストの評判やブランド性で作品をコレクションすることが多い。その結果、彼らが興味を示さない若手や新人の市場で競争激化が起きている。また知名度の高いアーティストでも、不人気作品は売れない状況になっている。特にアート写真では、自分の眼を信じて無名や新人アーティストを買っていたのは主にアッパー・ミドルクラスといわれる上位中間層の人々だった。この市場の主な担い手だった層の減少は、コレクターの世代交代とともに中期的に市場に影響を与えるだろう。それはプライマリー市場でのコレクター数の減少、セカンダリー市場では彼らの既存コレクションの換金売り増加による低中価格帯作品の供給過剰として現れるだろう。そのような状況では、アーティストの階層化と人気作品への需要集中が一段と進むと思われる。今後はブランドが確立できないアーティストの作品は、インテリア向けの低価格帯以外はかなり苦戦するのではないか。当然それらを取り扱うギャラリーも同様だ。サイズが大きく、製作費がかかる現代アート系が一番苦戦するだろう。公務員夫婦が優れた現代アートコレクションを構築する映画「ハーブ&ドロシー」的なストーリーは本当におとぎ話になってしまうのだ。

アートでは心は豊かになるがお腹は膨らまない。不況時のアートが売れない理由にされる例えだ。しかし、食事をした次に何にお金を使うかは人によって様々だろう。知的好奇心が強い人は、心を豊かにしてくるアートに目を向けると思う。もし中間層が今後減少していくのなら、彼らの収入減に合致した優れた低価格のアートが求められることになると思う。彼らは目が肥えた人たちなので、値段に関係なく価値が見いだせない作品は絶対に買うことがない。そこで注目されているのがフォトブックなのだと思う。これは本ではなくアート写真の一つの表現形態のこと。欧米ではフォトブックをアート写真のコレクションの対象にしている人が増加しているのだ。

Twelvebooksの濱中氏によると、最近のロンドンではMACKをはじめ優れたスモール・パブリッシャーが乱立しているという。これは間違いなく新しい需要が世界的に生まれているからだろう。私はこの状況はパブリッシャーのアート工房化、アーティスト化だと理解している。MACKの本は市場で高い評価を受けているが、これをフォトブック単体で評価するだけではなく、制作しているマイケル・マックのアート作品だと理解することが必要なのだと思う。フォトブックは写真集としては高価だが、アート写真としては低価格だ。今後の社会経済状況を予想するに、フォトブックはアート写真分野の中の成長分野になると思う。

2014年現代アート・オークション 現代写真はどのようになっているのか?

米国の中央銀行にあたるFRBは、いまや金融緩和策の出口を模索している。しかし、金融緩和による株高や貴重な現代アート作品の高騰はまだ続いているといってよいだろう。株が高値圏にいる限りアート市場も安泰のようで、ここ数年続いている市場の2極化傾向にも変化はないようだ。

2014年5月にニューヨークで行われた一連の現代アート・オークションは凄いことになっている。クリスティーズが一晩で驚異的な
約745百万ドル(約745億円)を売り上げるなど、今シーズンに行われた4つのイーブニング・セールでなんと、前例のない約1,373百万ドル(約1373億円)の総売り上げを記録している。アンディー・ウォーホール、マーク・ロスコ、ジェフ・クーンズ、ジャン・ミチェル・バスキアなどが相変わらず高額で落札される一方で、バーネット・ニューマン、フランク・ステラ、アレクサンダー・カルダーなどがオークション落札新記録を達成している。

その中には写真が表現に使用された作品も含まれる。それらの動向を簡単に見てみよう。

写真でも市場の2極化傾向に変化がない様子だ。目立ったのはリチャード・プリンスとシンディー・シャーマンの人気の高さだろう。

クリスティーズで5月12日に開催された”If I Live I’ll See You”オークションでは、 リチャード・プリンスの初期作品”Spiritual America,
1983″が落札予想価格範囲内の3,973,000ドル(約3億9730万円)で、149 x 99 cmサイズの”Untitled (Cowboy), 1998″も3,749,000ドル(約3億7490万円)で落札。ちなみに、彼の絵画作品”Nurse of Greenmeadow”は8,565,000ドル(約8億5650万円)という高額で落札されている。ササビーズの5月14日と15日のコンテンポラリー・アート・オークションでは、シンディー・シャーマンが好調だった。”Untitled #93, 1981″が落札予想価格上限を超える3,861,000ドル(約3億8610万円)で落札されている。これは1998年に Sender collectionが、わずか96,000ドル(約960万円)で落札したものとのことだ。リチャード・プリンスも相変わらず人気が高く、”Untitled (Cowboy), 2000″が、落札予想価格上限約2倍の3,077,000ドル(約3億770万円)で落札された。

フリップスの5月15日と16日のコンテンポラリー・アート・オークションでは、全般的に写真系の目玉作品はなく低調だった。トップはシンディー・シャーマンなどに影響与えたことで知られるジョン・バルデッサリの2つのパーツからなる”Green  Gown (Death), 1989″。落札予想価格下限近くの389,000ドル(約3890万円)で落札されている。

最近、ある大手オークションハウスの写真担当者と意見交換する機会があった。私が色々なところで主張しているように、彼も現代アート、現代写真、クラシック写真などの境界線があいまいになってきていると感じているようだった。いまのオークションは、コンテンポラリー・アート、フォトグラフス、フォトブックなどのカテゴリーで分かれているが、この区分は将来的に崩れてくるという見方をしていた。実際、いまや出品される作品数の減少から19世紀写真というカテゴリーは消滅しつつある。それは20世紀のヴィンテージ・プリントにも当てはまる。将来的に、春と秋に定期的に行われているフォトグラフスは年1回になる可能性もあるようだ。その代わりに、種類別に、時代のイコン的な作品、ファッション写真などを集めた独自企画のオークションが増えてくる可能性が高いとのことだ。実際、オークションハウスの作品出品にその傾向があるのをここ数年強く感じている。
また、コンテンポラリー・アート分野では、写真表現を使うアーティストが非常に多いので、たとえばデイ・セールは写真関連だけになる可能性もあるようだ。
デジタル革命第2ステージを迎えて、ギャラリー店頭市場では写真とその他のアート作品との境界線があいまいになってきた。今後は、セカンダリー市場であるオークションでも、カテゴリーの大幅な見直しが進行していくのだろう。

写真オークション結果(2014年ロンドン)全年同様の驚き少ない平均的な落札結果

例年5月に開催されるロンドンのアート写真オークション。今年はササビーズとフリップスのみの開催となった。クリスティーズはパリコレに合わせて7月にパリで開催する予定とのこと。

アートの中では低価格帯と考えられているアート写真。さらにロンドンでは目玉となる高額の貴重作品の出品はあまりない。今回も大きなサプライズはなく、絵にかいたような普通の結果だった。

5月7日、ササビーズ・ロンドンでは複数委託者による148点のオークションが開催された。

落札率はほぼ60%とあまり良くなかった。売り上げはほぼ落札予想価格の真ん中となる1,851,575ポンド(約3.14憶円)だった。
最高額落札は、19世紀のJohn Beasley Greeneの写真アルバム”Album of Egypt and Algeria, 1852-1856″。落札予想価格上限150,000ポンドを大きく上回る482,500ポンド(約8200万円)で落札された。
リチャード・アヴェドンの11枚からなるファッション・ポートフォリオの”Avedon, Paris, 1978″は、落札予想価格下限近くの134,500ポンド(約2286万円)で落札。これは、1979~1980年ころにコレクションされた貴重な初期作品だ。
アーヴィング・ペンの”Anemone/Anemone Coronaria: Irna Blue, New York, 2006″ は、落札予想価格上限18,000ポンドを大きく上回る69,700ポンド(約1184万円)で落札された。これはエディション9のピグメント・プリント。ペンのダイ・トランファーでない花のカラー作品としては驚きの高額落札だ。

ちなみにカタログ表紙の掲載写真は、アダム・フスの”Untitled, 2007″。1点もののフォトグラム作品。落札予想価格上限近くの37,500ポンド(約637万円)で落札されている。

5月8日にフリップス・ロンドンで開催された複数委託者によるアート写真オークションもほぼ予想通りの結果だった。出品数は142点、落札率は約68%、総売上高は落札予想価格のほぼ下限値の合計1,189,625ポンド(約2.02億円)。ただし、中価格帯から高額価格帯作品の落札がやや弱かった。全般的に、クラシックのファッション写真、カラーによる現代アート系作品の動きが鈍く感じられた。

最高額落札は、アーウィン・ブルメンフェルドのソラリゼーションによるポートレートの”Manina, Paris, 1937″。落札予想価格上限30,000ポンドを大きく上回る80,500ポンド(約1368万円)で落札された。
ウィリアム・エグルストンのダイトランスファー作品の”Untitled (Near Minter City and Glendora, Mississippi), 1970″は、落札予想価格範囲内の62,500ポンド(約1062万円)で落札されている。

(1ポンドは170円で換算)

2014年春のアート写真・オークション結果 貴重な20世紀ヴィンテージ・プリント 大判作品の高額落札が続く

2014年春のニューヨーク・アート写真・オークションは売上高が昨秋よりも好転した。大手3社の総売り上げは前期比約30%増加して約2200万ドル(約22億円)だった。しかし好調だった1年前の春と比べるとまだ約28%減となる。売上アップの大きな要因は高額落札が増加したこと。昨秋は50万ドル越えが僅か1点のみだったのが、今春は6点となった。残念ながら100万ドル越えはなかった。売上自体は、貴重作品がどれだけ出品されるかにより左右される。今回はオークションハウスの営業力でそれらが多く出品されたということだ。複数委託者オークションの落札率は70~79%とほぼ普通レベルだった。ここ数年続いている、強い高価格帯、普通の中価格帯、弱めの低価格帯という相場環境に大きな変化はないと思われる。

今春の売り上げトップはササビーズだった。
“The Inventive Eye: Photographs from a Private Collection”で、20世紀初頭のヴィンテージ作品を含む貴重な31点が出品されたことが影響した。最高金額をつけたのはエドワード・ウェストンの”Shells, 1927″。落札予想価格は30万~50万ドル(約3000~5000万円)のところ、なんと90.5万ドル(約9050万円)で落札。
注目のエドワード・スタイケンの”Gloria Swanson,1924″は、落札予想価格が30万~50万ドル(約3000~5000万円)のところ、62.9万ドル(約6290万円)で落札された。
最も高額の落札予想だったマン・レイの1点物”Rayograph (With Coil, Handkerchief and Chain)”は、落札予想価格40万~60万ドル(約4000~6000万円)のところ48.5万ドル(約4850万円)にとどまった。
複数委託者オークションでは、アルフレッド・スティーグリッツの”Georgia O’Keeffe (Nude Study),1918-19″、が落札予想価格30万~50万ドル(約3000~5000万円)のところ、36.5万ドル(約3650万円)で落札されるも、同じくスティーグリッツの”Georgia O’Keeffe (By Car),1933″は不落札。

フィリップスでは、杉本博司の作品が予想外の高額で落札された。17世紀のオランダの画家ヨハネス・フェルメールの絵画がベースの134.9 x 106 cmの大作”The Music Lesson, 1999″。落札予想価格20万~25万ドル(約2000~2500万円)のところ、その上限を遥かに超える62.9万ドル(約6290万円)で落札されている。
注目されていた、ウィリアム・エグルストンの、赤くペイントされた天井を撮影した名作”Greenwood, Mississippi, 1973″の1970年代制作の貴重作品は不落札だった。

クリスティーズで行われた、アンセル・アダムスの単独オークション”The Range of Light:Photographs by Ansel Adams”では、彼の大判作品2点が高額で落札された。カタログ表紙を飾る、大判約92X139cmサイズの”Winter Sunrise, Sierra Nevada from Lone Pine, California,1941″は落札予想価格は30万~50万ドル(約3000~5000万円)のところ、54.5万ドル(約5450万円)で落札。予想外だったのがその後に入札が行われた”CLEARING WINTER STORM, YOSEMITE VALLEY, C. 1939″。こちらはマウントサイズが約66X81.3cmとやや小ぶりで、落札予想価格は20万~30万ドル(約2000~3000万円)だったが、その上限を超える53.3万ドル(約5330万円)で落札された。
最近ずっと続いているのがアンセル・アダムスのパネルなどに貼られていた巨大作品の高額落札。かつてはそれらはコンディションの問題もありポスター的な作品と考えられており、評価も決して高くなかった。最近の傾向は、アダムスがアナログ銀塩写真のサイズの限界に挑戦していたアーティストだったことが再評価されている証拠だと考えている。つまりいま主流の巨大な現代写真の元祖的な存在だということだ。
50万ドルを超える写真作品は高額だが、現代アートのカテゴリーで取引されているアーティストの相場と比べると安いと思う。もし状態の良い、優れた来歴の作品が市場に出てくれば今後も高値による落札が続くのではないだろうか。

(為替レートは1ドル100円で換算)

2014年春のアート写真シーズン到来 オークション・プレビュー

長い冬が終わり、いよいよ春のアート・シーズンの到来だ。
今週から始まるニューヨーク・アート写真・オークションのプレビューをお届けする。
私が注目しているのは、現代アート系コレクターの動向だ。ウィリアム・エグルストン、リチャード・ミズラック、ピーター・ベアードなどはもともとは写真分野だったが、現代アート系コレクターが評価したことで相場が上昇している。
20世紀写真のうち、ヴィンテージ・プリントの相場展開も興味深い。同じように、貴重な20世紀写真も上記コレクターの物色対象になりつつあるからだ。つまり、どんな貴重な写真でも現代アート写真と比べると割安だということ。
またアンセル・アダムスはクラシック写真の巨匠だが、彼の大判サイズ作品は現代アート写真の元祖的な解釈が行われるようになってきている。クリスティーズに出品される彼の巨大作品の入札にも注目したい。

・フィリップス(Phillips de Pury & Company)、ニューヨーク
4月1日

フィリップスは、大手3社では一番多い約271点が出品される。
注目されているのは13点が出品されるウィリアム・エグルストン。目玉となるのは赤くペイントされた天井を撮影した名作”Greenwood, Mississippi,1973″。これはエディションが付けられて販売される前に制作された1970年代の貴重作品。落札予想価格は22万~28万ドル(約2200~2800万円)。杉本博司のポートレートシリーズからの134.9 x 106 cmの大作”The Music Lesson, 1999″が出品される。これは17世紀のオランダの画家ヨハネス・フェルメールの絵画がベースの作品で、落札予想価格20万~25万ドル(約2000~2500万円)。人気が高いピーター・ベアード作品も複数出品される。
注目は”Tsavo north on the Athi Tiva, circa 150 lbs.- 160 lbs. Side bull elephant, February, 1965″。これは約122.9 x 202.6 cmの超大作で、落札予想価格は8万~12万ドル(約800~1200万円)。現代アート系では、トーマス・ディマンドの182.9 x 243.8 cmサイズの”Abgang/ Exit, 2000″が注目されている。落札予想価格は10万~15万ドル(約1000~1500万円)。アンドレアス・グルスキーの約101.6 x 194 cmサイズの”Paris, Centre Pompidou, 1995″の落札予想価格12万~18万ドル(約1200~1800万円)。
20世紀写真も非常に充実しており、アンドレ・ケルテス、ロバート・フランク、ダイアン・アーバス、ドロシア・ラング、アーヴィング・ペン、ヘルムート・ニュートンなどの逸品が出品される。
その中で注目されるのは彫刻家として知られるコンスタンティン・ブランクーシの珍しい写真作品”Endless Column in Steichen’s Garden at Voulangis, circa 1923″。落札予想価格は、8万~12万ドル(約800~1200万円)。ラースロ・モホリ=ナジの”Mein Name ist Hase ?ich weiss von nichts (My Name is Hare ? I Know Nothing), 1927″は落札予想価格6万~8万ドル(約600~800万円)。

・ササビーズ、ニューヨーク
4月1日~2日

ササビーズは”The Inventive Eye: Photographs from a Private Collection”で31点、複数委託者の”Photographs”で187点がオークションに出品される。19世紀から現在に至るまでの写真史を網羅する興味深い名作が並んでいる。
特に20世紀初頭のヴィンテージ作品が数多く出品されているのでその動向は要注目だろう。カタログ表紙のエドワード・スタイケンの”Gloria Swanson,1924″、アルフレッド・スティーグリッツの”Georgia O’Keeffe (Nude Study),1918-19″、同じくスティーグリッツの”Georgia O’Keeffe (By Car),1933″はすべて落札予想価格が30万~50万ドル(約3000~5000万円)。
エドワード・ウェストンの”Head Of An Italian Girl (Tina Modotti)”の落札予想価格は25万~35万ドル(約2500~3500万円)。マン・レイの1点物”Rayograph (With Coil, Handkerchief and Chain)”も注目作。落札予想価格は40万~60万ドル(約4000~6000万円)。ラースロ・モホリ=ナジ作品は4点出品されるが、”Fotogramm (Photogram with Spiral Shape)”の落札予想価格15万~25万ドル(約1500~2500万円)。もう1枚のカタログ表紙作品はアウグスト・ザンダーの”The Painter Heinrich Hoerle”。こちらの落札予想価格も15万~25万ドル(約1500~2500万円)。

・クリスティーズ、ニューヨーク
4月3日

クリスティーズは”The Range of Light:Photographs by Ansel Adams”という、アンセル・アダムスの単独オークションと複数委託者オークション”のPhotographs”を開催する。
それぞれ25点と212点が出品される。アダムス・オークションのハイライトは、大判約92X139cmサイズの”Winter Sunrise, Sierra Nevada from Lone Pine, California,1941″。落札予想価格は30万~50万ドル(約3000~5000万円)。ちなみに同作品の35X45cmサイズも出品されており、こちらの落札予想価格は希少性が違うことから3万~5万ドル(約300~500万円)。
複数委託者オークションはほとんどがモダンプリントの出品、そのなかで注目作は、カタログ表紙のフィリップ・ハルスマンのライフ誌のカヴァー写真”Marilyn Monroe,1952″。これは作家のエステートから出品された貴重作で、落札予想価格は7万~9万ドル(約700~900万円)。
ピーター・ベアード作品はここでも複数出品されるが、注目作は”Orphaned cheetah cubs at feeding time, Mweiga, near Nyeri, Kenya, March 1968″。これは約84 x 113 cmの大作。落札予想価格は15万~25万ドル(約1500~2500万円)。
今回アーヴィング・ペンは25点が出品。そのなかでも初期プラチナ・プリントの”Woman with Roses on Her Arm (Lisa Fonssagrives-Penn), 1950″と”Cuzco Children,1948″が注目されている。落札予想価格はともに15万~25万ドル(約1500~2500万円)。
(為替レートは1ドル100円で換算)