2016年秋ニューヨーク中堅業者オークション 中低価格帯で進む市場の2極化現象

ニューヨークでは、大手3社の秋の定例アート写真セールに続いて、10月下旬にかけて、中堅業者のボンハムス(Bonhams)、ヘリテージ(Heritage Auctions)、スワン(Swann Auction  Galleries)による、中間~低価格帯中心のアート写真、ファウンド・フォト、フォトブックを取り扱うオークションが行われた。出品作品の価格帯を見ると、スワンでは一部に1万ドルを超える中間から5万ドルを超える高額作品が含まれていたが、他の2社はほとんどが1万ドルどころか5000ドル以下の低価格帯だった。
今シーズン好調だったのがスワン。珍しく落札結果のプレスリリースまで発表していた。
総売上は約182万ドル(約1.91億円)、平均落札率は70.88%だった。エドワード・カーティスの”The North American Indian”のコンプリート・セットが144万ドルの高額で落札された2012年秋以来の売上成績ではないだろうか。最高額は、ジュリア・マーガレット・キャメロンの”Portrait of Kate Keown, 1866″で、落札予想価格上限を大きく超える10.6万ドル(約1113万円)だった。その他の注目作品は、ロバート・フランク”Political Rally, Chicago, 1956″ が6万7500ドル(約703万円)、ヨゼフ・カーシュの15点のポートレートは8.75万ドル(約918万円)、マーガレット・バーク・ホワイト貴重なライフ誌掲載作品”At the Time of the Louisville Flood, Kentucky,1936″の6.5万ドル(約682万円)などだった。高価格帯の落札予想価格作品はすべて落札されている。
ヘリテージは、総売上は約69.6万ドル(約7308万円)、平均落札率は48.88%と低迷した。今回から同社は、ヴィンテージ・カメラやレンズのオークションを写真・フォトブックと同時開催している。
最高額はイアン・マクミラン(Iain Macmillan)による、ザ・ビートルズのLPアビーロードのヴァリエーション・カット6点、”The Beatles, Abbey Road (six rare alternate cover photograph outtakes), 1969″。6.25万ドル(656万円)で落札された。70年代後半にプリントされた、アンセル・アダムスの名作”Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1942″は、2万7500ドル(約288万円)だった。
ちなみにカメラ部門に出品された、アンセル・アダムス使用のアルカスイス4×5ビュー カメラ”Ansel Adams’ Arca-Swiss 4×5 View Camera Outfit used from 1964 to 1968 (Total: 2 Items)”は、落札予想価格7万~10万ドルだったが不落札だった。
ボンハムスの売り上げも不振。総売上は約29.8万ドル(約3129万円)、平均落札率43.33%だった。最高額はアンセル・アダムスの名作”Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1942″。1963~1973年にプリントされた作品で4万7500ドル(約498万円)だった。1万ドルを超える作品や、ジャンルー・シーフ以外の、ホルスト、ウィリアム・クラインなどのファッション系作品が不落札が目立った。

3社の合計を今春結果と比べると、出品数はほぼ同じで総売上合計は約282万ドル(約2.96億円)と約3.5%の伸びだった。中身はスワンの売り上げが大きく増えて、他の2社が大きく減少している構図だ。しかし平均落札率は61.9%から56.88%に低下。中高価格帯が中心の大手の秋のオークションの平均落札率が約65.16%なので、低価格帯作品市場の不振が反映された結果だったいえるだろう。しかし、適正な最低落札価格がついたアンセル・アダムスなどの巨匠の有名作は確実に落札されている。今回のオークションで不落札だった20世紀写真、ファッション系、現代アート系の作品相場は今後さらに調整されるだろう。

有名写真家でも不人気作の落札率はかなり低くなっており、人気度が普通の作品は落札されても90年代の相場レベルになっている。買うなら高くても人気写真家の人気作を、それ以外はいらない、という傾向が強いようだ。写真家とイメージの、人気・不人気による相場の2極化がいまだに進行中なのだ。しかし、写真家のブランドや有名作にこだわらなければ、かなり魅力的な価格の作品が数多くみられるようになってきた。個人的には買い場探しの時期が近づきつつあると考えている。
需給的には、相場の見通しがあまり良くないことから中価格帯以上の貴重で人気作品の出品が手控えられている中で、換金目的の低価格帯の出品が増えていると考えられる。まさにアート界全体の状況と市場環境の構図は変わらないわけだ。
アート写真市場の関心は11月に行われる大手3業者によるロンドン・パリで開催されるオークションに移っている。英国は為替が急激にポンド安になっており英国外のコレクターには魅力的な状況だ。しかし、10月20日にDreweatts & Bloomsburyロンドンで行われた低価格帯作品中心の”Fine Photographs”オークションは落札率36%とかなり厳しい結果だった。
今秋のロンドンでのオークションはフリップス・ロンドンだけになるが、中高価格帯作品の動向が注目される。
(為替レート 1ドル/105円で換算)