定型ファインアート写真は様々に定義する可能性があると考えている。たとえば、カルチェ=ブレッソンの写真撮影スタイルの「決定的瞬間」。それはストリートでのスナップ写真において、構図の中で絶妙なバランスと調和がとれた一瞬をカメラで切り取り残す行為。その行為追求が撮影の目的であると解釈される場合が多いが、撮影者が無心の状態で世界と対峙して、ストリートシーンの中に絶妙な「決定的瞬間」を発見した時にフレーミングしてシャッターを押した場合もあるだろう。そのような調和を切り取った写真は定型ファインアート写真の「Zen Space Photography」と同様な意味合いを持つと考える。
定型ファインアート写真「Zen Space Photography」の基本を今一度確認しておこう。 そこで提案しているのは、決まり事として撮影者が思考(思い込み)にとらわれていない精神状態、つまり無心で自然や世界と対峙することが前提となる。ワークショップでは、頭ではなく心で世界と接するというように説明している。 そして調和して美しく整っている瞬間の訪れを発見した時に撮影した写真。 そのようなシーンは頻繁には出現しない。次々と自然と湧いてくる思考にとらわれないように、心を無の状態にして行動している時にふと現れるのだ。普段の忙しい日常生活から離れた旅行の際はそのような精神状態を維持しやすい。だから、普段に持ち歩くスマホやコンパクトデジカメが撮影に向いている。
自然と湧いてくる思考を消し去り無の精神状態になることで、私たちは日常の思い込みから解放される。社会生活を送っていると悩み事は多いのでこれは容易ではない。しかし写真撮影がそのきっかけになるかもしれない。 その行為の実践自体が「Zen Space Photography」の作品コンセプトになる。「決定的瞬間」に戻ると、それゆえに最初から頭でそのようなシーンを撮ることを目的としたもの、また人や背景の動きを予想して意図的に撮影されたものとは意味合いが違うと考える。自然風景の中に、モノクロームの抽象美、グラフィカル、デザイン・コンシャス、色彩、詩的な印象の美を意識的に発見しようとする、いわゆるインテリア用写真制作と同様の行為となる。それは人の思考により生み出された別の種類の写真となる。 写真史的にも、カルチェ=ブレッソンが無心で切り取った、すぐれた「決定的瞬間」の作品は、完璧な構図や抽象性、プリントの質を追求した伝統工芸の職人技とは一線を画している。それらは定型ファインアート写真の意味合いを持った作品であると再解釈可能なのではないか。20世紀写真市場での彼の代表作の高い評価はこのような背景があると理解している。「決定的瞬間」をとらえた写真には、撮影者の姿勢の違いにより、この2種類が混在しているのだ。
「Zen Space
Photography」は、写真撮影を通して無の精神状態になることを目指す。そして「決定的瞬間」を意識することで、世の中の通常状態が決して秩序ではなく混沌なのだと気付かせてくれる。これらがきっかけで、自分の思い込みに気付き、世の中を違う視点から認識できるようになれば全く異なる世界観が描けるようになる。間違いなく、私たちの生き方に影響を与えると思われる。世の中は混沌と偶然性が支配する。その中で、生き難いのは誰にとっても当たり前なのだ。それに気付けば開き直ることができ、少しは楽な気持になるのではないか。
中国からはチェン・ウェイ作品が展示されている。令和5年度の新規収蔵作品とのことだ。彼のプロフィールには、メインの展示になっている「In the Waves」シリーズは、ダンスクラブで音楽に陶酔する若者を写しだし、彼が作り出すシーンにおいて、今日の中国における社会問題を表現している、と記載されている。 社会問題とは非常に幅広い意味を持つ。それは何なのかに疑問に感じたので、会場にいた本人に通訳を通して質問してみた。 私たちは、クラブは一般の若い世代が集う西洋的な息抜きやストレス発散の場だと感じる。しかし、彼によると中国のクラブ文化は80年代に独自に発展したとのこと。西洋のクラブ文化が中国に輸入されたのではないそうだ。したがって作品制作には西洋文化/民主主義と中国文化/共産主義とは関係性の提示はないそうだ。そして中国でそこに集うのは、一般人ではなくインテリ層だったとのこと。たぶん当時のクラブの若い人たちは中間層以上の社会的に恵まれた人々であり、彼らが日常生活のストレス発散目的で踊りに陶酔したのだろう。会場で展示されている2点の大判写真「In the Waves」のクラブシーンは2013年制作だ。 私は同じ政治思想を持つ国家のキューバを思い出した。米国人写真家マイケル・ドウェックは「Habana Libre(ハバナ・リブレ)」(2011年)で、西洋社会では知られていないキューバのクリエイティブ・クラスという階級の存在を私たちにドキュメントを通して知らせてくれた。キューバの多くの住民はいまでも経済的には非常に貧乏だ。しかしキューバ政府が文化振興に力を入れた結果、アーティスト、作家、俳優、モデル、ミュージシャンたちの一種の特権階級が生まれているとのこと。彼らは裕福ではないが、ファッショナブルな生活を楽しんでおり、そこにも彼らがダンスを楽しんでいるナイトクラブのシーンが撮影されていた。
本展はファインアート写真のコレクションに興味ある人、写真撮影が趣味の人には今年の夏休み必見の写真展だ。 地下1階の展示室では、絵本作家/メディア・アーティストの岩井俊雄の展覧会「いわいとしお X 東京都写真美術家 光と動きの100かいだてのいえー19世紀の映像装置とメディアアートをつなぐ」も開催中。こちらは子供や学生を意識した展示内容になっているので、家族で一緒に訪れても皆が十分に楽しめるだろう。
本書はスタンフォード大学のカンター・アート・センター(Cantor Arts Center)で2014年秋に開催された、50年代アメリカで撮影されたフランク作品に初めて注目した展覧会に際して刊行。1991~2011年までニューヨーク近代美術館の写真部門チーフ・キュレーターだったピーター・ガラッシ(Peter Galassi)が企画編集を担当。未発表作による「The Americans」の第2巻ともいえる内容だが、収録131点中の22点はオリジナル版収録作と重複している。ガラッシはエッセーで、フランクのルーツであるプロ・フォトジャーナリズムを探求。また当時主流だったグラフ雑誌と一線を画して、35mmカメラで作家性を確立させた彼の革新的な写真提示方法を分析。1949~1961年にわたる全米旅行の過程を記した見開きの詳細マップ”Locations of photographs in 「The Americans」 and 「Robert Frank in America」”も収録され、収録写真のページ・ナンバーが地図の撮影地横に記載。「The Americans」が好きな人は必読。 ハードカバー: 195ページ、サイズ2.5 x 23.5 x 24.8 cm、モノクロ131点を収録。 (マーケット情報) 状態により、50ドル(7,500円)~100ドル(15,000円)程度で購入可能
ジョセフ・クーデルカ(1938-)は、旅に生きるチェコスロバキア出身の写真家。60年代からエンジニアのかたわら劇場写真家としてキャリアを開始する。1961~1967年にかけて主に東欧でジプシーを撮影。1968年には反ソ連デモが続くプラハへのソ連軍侵攻をドキュメント。1970年に英国に亡命し、1971年よりマグナム・フォトのメンバーとなる。 被写体のジプシーのように、自由に放浪する生き方自体をテーマとしたクーデルカの作家性はアート界でも広く認められるようになる。いまでは世界中の美術館で展覧会が開催されるとともに、作品がコレクションされている。2013年に東京国立近代美術館で個展、2014年には米国で回顧展が行われている。 本書は、クーデルカが祖国を脱出後に欧州や米国を放浪しながら撮影した代表作「Exiles」の待望の改定版。「Exiles」は流浪者や亡命者の意味。彼は広告や報道の仕事を行うよりも、自由に放浪する生き方をえらび、世界各地の辺境で生きる運命を受け入れている人々の誕生、結婚、死などの日常生活を粘り強く撮影している。特にスペイン、アイルランド、イタリア、ギリシャなどの同じ場所を何度も訪れている。 本書のオリジナル版は、1988年にパリの国立写真センターとニューヨークのICP(国際写真センター)で行われた展覧会の際に刊行。(フランス語版、英国版、米国版が同時刊行) 新版では未発表作10点が追加収録されている。エッセーは、クーデルカの写真集や美術館展企画を手掛けているロベール・デルピエールが担当。 ハードカバー: 188ページ、 サイズ30.4 x 27.4 x 2.4 cm、約75点の図版を収録。 (マーケット情報) 状態により、50ドル(7,500円)~100ドル(15,000円)程度で購入可能
・The Open Road: Photography & the American Roadtrip David Campany(デビット・カンパニー著) 出版社: Aperture (2014/10/31) ISBN-10: 1597112402 ISBN-13: 978-1597112406 出版社のウェブサイト 著者のウェブサイト
またカンパニーは紹介分で「ロード・トリップが終わった後に何が起きるべきか?それは、現状への復帰か? 革命的な新しい人生の始まりか?将来の見通しのいくつかのマイナーな調整だろうか?明らかに西部にドライブしていくだけでは約束の地(Promised Land )に着くことはできないのだ」とも語っている。本書が伝えたいのはアメリカン・ドリームとその挫折の歴史なのだろう。 ハードカバー: 272ページ、サイズ 30 x 25.6 x 3.8 cm、約150点の図版が収録。
(収録写真家) Robert Frank, Ed Ruscha, Inge Morath, Garry Winogrand, Joel Meyerowitz, William Eggleston, Lee Friedlander, Jacob Holdt, Stephen Shore, Bernard Plossu, Shinya Fujiwara, Victor Burgin, Joel Sternfeld, Alec Soth, Todd Hido, Ryan McGinley, Justine Kurland, Taiyo Onorato and Nico Krebsなど (マーケット情報) 状態により、200ドル(30,000円)~300ドル(45,000円)程度で購入可能
(フォトブック・コレクションの購入ガイド)
もし欲しい洋書フォトブックが見つかったら、まず通販大手のアマゾンで在庫を検索してみよう。アマゾンでは、新刊と古書を同時に販売している。本の大体の相場観を掴むのにとても便利だ。ここで紹介しているリストにはISBNを記載しているので、この番号をコピペして在庫を調べることから始めればよい。本によっては、流通在庫があり新品で購入可能な場合もある。特に名作の改訂版は、出版社も多めに印刷する場合が多い。売り切れて絶版になった場合、昨今の急激な円安と送料高騰により、もしAmazon Co.jpに日本の業者が本を売りに出していたら一番安い価格である可能性が高い。しかし、古書の場合は新品と違い状態は個別の本ごとにかなりばらつきがある。また状態の良し悪しの判断は主観的だ。もし状態にこだわるのなら、古書店や専門店に行って個別に状態を確認して納得したうえで購入することを薦める。ブリッツで定期的に行っている「Photo Book Collection」ではすべての本の状態を確認できる。
・ダイアン・アーバス 「Identical twins, (Cathleen and Colleen), Roselle, New Jersey, 1966/1967-1969」
落札予想価格80万~120万ドルのところ、1,197,000ドル(@155/約1.85億円)で落札。本作は、1967~1969年にかけて、 ダイアン・アーバス本人によりプリントされた、イメージサイズ38.1
x 36.1 cmの極めて貴重なヴィンテージ作品。来歴を見ると、「Sotheby’s, New York, April 27, 2004, lot 11」 と記載されている。当時の落札価格は、約47.8万ドル、約20年で約2倍になっている。
・リチャード・アヴェドン 「Marilyn Monroe, Actress, New York City, 1957」
アヴェドンの代表作が、落札予想価格60万~80万ドルのところ、882,000ドル(@155/約1.36億円)で落札。エディション10、AP2、イメージサイズ100.3 x 77.4 cmの大判サイズ作品。
〇クリスティーズ 「20th Century Evening Sale」、5月16日
・アンドレ・ケルテス 「Satiric Dancer, 1926」
落札予想価格50万~70万ドルのところ、567,000ドル(@155/約8788万円)で落札。本作は、イメージサイズ9.5
x 7.5 cmの極めて貴重なヴィンテージ作品。
・エドワード・ウェストン 「Shell (Nautilus), 1927」
落札予想価格80万~120万ドルのところ、1,071,000ドル(@155/約1.66億円)で落札。本作は、イメージサイズ24.1
x 18.4 cmのヴィンテージ作品。来歴を見ると、「Sotheby’s,
New York, 13 April 2010, lot 122」 と記載されている。当時の落札価格は、落札予想価格30万~50万ドルのところ、評価上限の2倍の1,082,500ドルだった。約15年で価値がほとんど変わっていないのが興味深い。2010年、写真分野ではまだ20世紀写真の評価が高かった。たぶん落札者が過大評価したのだろう。
〇クリスティーズ 「POST-WAR AND CONTEMPORARY ART DAY SALE」、5月17日
・杉本博司 「North Pacific Ocean, Ohkurosaki, 2002」
落札予想価格25万~35万ドルのところ、327,600ドル(@155/約5077万円)で落札。エディション5、イメージサイズ119.4 x 149.2 cmの大判作品。2013年に、サンフランシスコのフレンケル・ギャラリーが販売した作品。
〇サザビーズ 「Contemporary Day Auction」、5月14日
・シンディー・シャーマン 「Untitled #420, 2004」
二つのパートから成るカラー作品、落札予想価格25万~35万ドルのところ、330,200ドル(@155/約5118万円)で落札。エディション6、イメージサイズはそれぞれ186.1 by 120 cmの大判作品。
2024年春の大手業者によるニューヨーク定例アート写真オークションは、4月上旬から中旬にかけて、複数委託者、単独コレクションによるライブとオンラインの合計4件が開催された。 クリスティーズは、4月3日に複数委託者による“Photographs(Online)”(164点)を、フィリップスは、4月4日に単独コレクションのセール“ Photographs from the Martin Z. Margulies Foundation”(158点)、4月5日に複数委託者による“Photographs”(245点)を、サザビーズは、4月10日に複数委託者による“Photographs(Online)”(199点)を実施した。
さてオークション結果だが、3社合計で766点が出品され、563点が落札。全体の落札率は約73.5%と、ほぼ昨年の73.77%と同じだった。ちなみに2023年秋は出品668点で落札率70.4%、2023年春は555点で落札率77.8%だった。 総売り上げは約1159万ドル(約17.62億円)、昨秋の約903万ドル、昨春の約962万ドルより増加している。 落札作品1点の平均金額は約20,600ドルで、昨秋の約19,217ドルより微増、昨春の約22,273ドルよりは減少している。過去10回のオークションの落札額平均と比較したグラフを見ても、減少傾向が継続、マイナス幅も若干拡大がした。昨秋と比べると、経済先行きの不透明さが影響して、高価格帯の出品に変化がなく、中低価格帯出品数が増加。全体の落札率はほぼ横ばいで、中低価格帯作品の落札件数増により総売り上げは増加したといえる。 業者別では、売り上げ1位は昨秋と同じく約524万ドルのフィリップス(落札率75%)、2位は約358万ドルでサザビーズ(落札率72%)、3位は約277万ドルでクリスティーズ(落札率73%)だった。クリスティーズの売り上げが比較的少ないのは、既報の2月にエルトン・ジョンの単独コレクションセールの“The Collection of Sir Elton John”(合計364点)を行ったからだろう。
ドアノー作品には数々のエピソードがあることが知られている。展示しているようにライフ誌1950年6月12日号の「パリの恋人」という企画で発表された1枚の作品で、1986年にポスターになったことで大人気となった。世界中で50万枚以上がポスターに複製されたとのこと。実は写真のモデルだった元女優のフランソワ・ボネが90年代に写真の肖像権料の支払いをドアノーに求めた裁判を起こし、この写真が純粋なドキュメントでなかったことが明らかになった。彼女によると、写真は演出して撮影されたが当時恋人だった二人のキスには偽りがなかったそうだ。実は数々の名作のコンタクトシートを収録した写真集「The Contact Sheet」(編集Steve Crist、2009年
Ammo Books刊)に、本作が収録されている。実際のコンタクトを見ると、ドアノーがカップルを様々な場所で演技させて撮影していることが分かる。
本作のエピソードはさらに続く。彼女は裁判では敗れるものの、2005年4月25日にパリArtcurial Briest Pulain le Fuで開催されたオークションで、彼女が所有する同作のオリジナル作品が155,000ユーロ(当時のレート@140、約2千2百万円)、落札予想価格の十倍以上でスイスのコレクターが落札されたのだ。同作は1950年に撮影された数日後にドアノーからプレゼントされた非常に貴重なヴィンテージ・プリントで、裏面にはドアノーのスタンプが押されていた。超人気イメージの来歴が確かな正真正銘のヴィンテージ・プリントだったことが高額落札の理由だった。今回の展示作品は特に記載はないので、年月経過後にプリントされたモダンプリントだと思われる。
それでは会期終了に際して、本展の主要な見どころを今一度振り返っておこう。特にボウイ・ファンに注目されたのが、シャピロが1974年ロサンゼルスで撮影したデヴィッド・ボウイのポートレートだろう。本展ではシャピロによるボウイ作品の代表作で、LPジャケットに採用された「The Man Who Fell to Earth」、「Low」などが展示された。70年代のカラー作品はボウイのキャリアを語るうえで重要だが、モノクロの銀塩写真もプリントに趣があり本当に素晴らしかった。
一連の作品は、シャピロの写真集「Bowie」(powerHouse Books、2016年刊)に収録されている。同書によると、初対面だった二人は、シャピロが自分は喜劇俳優バスター・キートンを撮影したことがあるとボウイに語ったところ、二人はすぐに打ち解けたとのことだ。キートンはボウイにとって憧れの人物。パート2で展示した、ルディ・ブレッシュ著のキートンの本を顔の横に並べて撮影された作品からは、ボウイのキートン愛が伝わってくる。また同書によると、1976年のアルバム「Station to Station」発売時に行われたIsolar Tourのツアープログラムブックにはボウイの希望でシャピロ1964年撮影のキートンの写真が収録されているとのこと。
前回にレポートした、クリスティーズNYで開催されたポップミュージック界の巨匠エルトン・ジョンの「The Collection of Sir Elton John」セール。ライブと同時に、2月9日から月末まで中低価格帯の、アート作品、衣装/装飾品、インテリアなどのオンライン・オークション、「Honky Château」、「Elton’s Versace」、「The Jewel Box」、「Elton’s Superstars」、「Love, Lust and Devotion」、「Out of the Closet」が開催された。
またオークションの特性上当たり前なのだが、エルトン・ジョンが所有していた、エルトン自身が被写体の写真作品は高額で落札されている。普段のオークションだとあまり人気が高くない、テリー・オニールの1975年のドジャーズ・スタジアムのライブ写真も落札予想価格を超えて落札。エルトン作品の最高額は、「Elton’s Superstars」に出品された、テリー・オニールの「Elton John
Performing a Handstand, 1972」で、50.&X60.6cmサイズのゼラチン・シルバー・プリント、落札予想価格8000~12000ドルのところ、2.268万ドル(約340万円)で落札されている。
また「HONKY CHÂTEAU」に出品されたアンドレ・ケルテス作品にも注目したい。彼のアイコニック作品「Melancholic Tulip, 1939」は、普段のオークションでも見られる25 x 20 cmサイズのゼラチン・シルバーのモダンプリント作品。落札予想価格6000~8000ドルのところ、2.016万ドル(約302万円)で落札された。これは明らかに、ファインアート写真の価値だけではなく、高い名声を誇るエルトン・ジョンが所有していたことに価値を見出した新規コレクターが購入したのだと思われる。本作のフレーム裏には「Sir Elton John Photography collection」ラベル、美術館展出品の作品ラベルが貼られていた。最高の来歴だといえるだろう。
メール・ヌード系では特にブルース・ウェバーが好調で、落札予想価格上限の10倍を超える驚異的な落札も見られた。「Love, Lust and Devotion」に出品された「Peter at my loft, NYC, 1997」は、35.2X27.6cmのエディション1/10のゼラチン・シルバー・プリント。落札予想価格2000~3000ドルのところ、なんと3.276万ドル(約491万円)で落札されている。
一連のオークションで高額評価で注目された写真作品が、「Love, Lust
and Devotion」に出品されたシャリン・ネスハット(Shirin Neshat)の「Stripped, from Women of Allah, 1995」。彼女は、イラン生まれニューヨーク在住のアメリカ人アーティスト。写真、ビデオ、長編映画で、抑圧的な社会で女性がいかに自由を見出すかを探求している。同作は、121.6 x 81.9 cmサイズ、エディション2/3のゼラチン・シルバー・プリント。落札予想価格3~5万ドルだったが、2.772万ドル(約415万円)での落札だった。
写真関連作品での最高額落札は、「Honky Château」に出品されたラドクリフ・ベイリー(Radcliffe Bailey/1968-2023)による、111.7 x 146 cmサイズの写真コラージュ作品「PINNIN LEAVES、1999」だった。彼は、ミックス・メディア、ペイント、彫刻、写真、既製のオブジェやイメージを通してアフリカ系アメリカ人の過去、現在、未来を探求してきた米国人アーティスト。落札予想価格1~1.5万ドルのところ、9.45万ドル(約1417万円)で落札されている。2023年11月に55歳で亡くなっていることも高額落札の背景にあるかもしれない。
その他の私物ではコレクタブルとして人気の高い腕時計が高価で落札されていた。「The Jewel Box」に出品された「CARTIER, PLATINUM AND DIAMOND-SET ‘SANTOS OCTAGON’ WITH ONYX DIAL,
REF. 2965」は、落札予想価格7000~10000ドルのところ、なんと8.19万ドル(約1228万円)で落札されている。やはりスーパースターが実際に身に着けていたことがコレクターに大きくアピールしたのだろう。