2021年秋ニューヨーク写真オークションレヴュー
写真NFT作品の高額落札で市場が騒然

2021年秋の大手業者によるニューヨーク定例アート写真オークション、
今回は9月下旬から10月上旬にかけて、複数委託者、単独コレクションからによる合計7件が開催された。
サザビーズは、9月29日に現代アート系作品中心のプライベート・オークションから“A Life Among Artists: Contemporary Photographs from an esteemed private collection”、10月5日に“Classic Photographs”と、“Contemporary Photographs”を開催。
クリスティーズは、10月6日に複数委託者による“Photographs”、メトロポリタン美術館コレクションからの単独セール“Photography of the Civil War: Property from The Metropolitan Museum of Art”を開催。
フィリップスは、10月7日にプライベート・コレクションからの“Reframing Beauty: A private Seattle collection”、複数委託者による“Photographs”を開催している。
昨年の春以来、オークションハウスはコロナウイルスの影響により、開催時期の変更、オンライン開催などの対応を行ってきた。今秋からほぼ通常通りの開催モードに戻った印象だ。

結果は、3社合計で922点が出品され、654点が落札。不落札率は約29.1%だった。総売り上げは、約1484万ドル(約16.32億円)で、コロナ禍で相場環境が状況が厳しかった2020年秋の約765万ドル(約約8.41億円)、2021年春約969万ドル(約10.65億円)から大きく改善。ほぼ約2020年春の約1368万ドル(約15億円)、2019年秋の約1381万ドル(約15.2億円)の売り上げレベルを回復している。
落札作品1点の平均金額は約22,692ドルと、2021年春の23,774ドルと同じレベルにとどまった。2021年秋の約16,000ドル。2020年春の約17,000ドルよりは改善しているものの、 2019年秋の26,800ドル、2019年春の約38,000ドルと比べるといまだに低い水準だ。高額セクターの動きにまだ活気がないとともに、中価格帯セクターも全般的に上値を積極的に追っていくような力強さは感じられなかった。
これで2021年のニューヨークの大手業者の総売り上げは、約2454万ドル(約26.9億円)となった。2020年の約2139万ドル(約23.47億円)より微増している。しかし、コロナ禍前だった2019年の約3528万ドルには及ばない。

NY 大手オークション会社 春/秋 シーズンの売上 推移

今シーズンの写真作品の最高額は、クリスティーズに出品されたジャスティン・アベルサノ(Justin Aversano/1992-)の、“Twin Flames”シリーズのポートフォリオ・セット。本作は主要オークションハウスが写真オークションでNFT(Non-Fungible Token)写真作品を出品した最初の事例となった。出品されたのは、アベルサノの作品集のカヴァー作品“Twin Flames #83. Bahareh & Farzaneh”に対するNFTと、100枚の同シリーズの物理的なプリント作品が含まれる。落札予想価格10万~15万ドルが、予想をはるかに上回る111万ドル(約1.22億円)で落札された。写真オークションで初めて落札されたNFTであり、写真NFTの世界記録となる。またクリスティーズの2021年の最高額の写真作品となった。

Christie’s NY, Justin Aversano, “Twin Flames #83. Bahareh & Farzaneh”

2位は、同じくクリスティーズに出品されたアンセル・アダムスの名作“Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941”。60年代後半にプリントされた103.8 x 150.4 cmサイズの超大判作品。このサイズは15~20作品位しか存在しないと言われている。落札予想価格50万~70万ドルが、予想上限を超える93万ドル(約1.02億円)で落札された。本作は1996年4月のササビーズ・ニューヨークで取引された作品。当時の落札予想価格は3万~5万ドルだった。

Christie’s NY, Ansel Adams, “Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941”

3位もクリスティーズのダイアン・アーバスの代表作“Child with a toy hand grenade in Central Park, N.Y.C., 1962”。本作は極めて貴重なダイアン・アーバス本人によるプリントされた作品。落札予想価格50万~70万ドルが、予想予想価格の範囲内の62.5万ドル(約6875万円)で落札。

Christie’s NY, Diane Arbus “Child with a toy hand grenade in Central Park, N.Y.C., 1962”

4位はササビーズに出品されたマン・レイのソラリゼーション作品“Calla Lilies, 1931”。落札予想価格30万~50万ドルが35.2万ドル(約3872万円)で落札されている。同作は、2002年10月のクリスティーズ・ニューヨークで18.55万ドルで落札された作品。約19年の利回りは各種手数料などのコストを考慮しなくて1年複利で単純計算すると約3.41%となる。

Christie’s NY, Justin Aversano, “Twin Flames”

今秋、一番話題なったのは、やはりクリスティーズに出品されたジャスティン・アベルサノによる、“Twin Flames”シリーズの写真NFT作品。落札価格が、ダイアン・アーバス、アンセル・アダムス、マン・レイなどの希少なヴィンテージ作品を遥かに上回ったことは大きな驚きだった。歴史をみても、オークションでの高額での取引実績は市場ルールを変えるきっかけになっている。
果たして今回の落札がNFTブームが反映された特殊例なのか、それとも写真の伝統的市場がさらに流動化する兆候なのか?この判断は極めて難しいだろう。実際、今後の展開を注意深くを見守りたいという、写真関係者の意見が多いようだった。

(1ドル/110円で換算)

ブリッツ関連の最新情報!
六本松 蔦屋書店で
鋤田正義の写真展示など

・六本松 蔦屋書店で鋤田正義写真作品を展示
写真集「SUKITA ETERNITY」刊行を記念する写真展示が、銀座 蔦屋書店に続き、鋤田の地元福岡の六本松 蔦屋書店で開催される。デヴィッド・ボウイ、T-REX、YMO、忌野清志郎など、新刊写真集に収録されるミュージシャンのポートレート作品を中心に約18点をアートスペースにて展示し、受注販売する。飾りやすいお買い得価格の小作品も含まれる。

写真集特装版に付いてくる3点のプリント作品の現物も展示される。九州在住のお客様は現物を見て購入予約ができる貴重な機会だ。プリントの1枚は、カラー作品のデヴィッド・ボウイ“Dawn of Hope”。2018年春に鋤田の生まれ故郷の直方谷尾美術館で開催された、鋤田正義写真展「ただいま。」で、会場エントランスに同作大判作品が展示されていた。地元の人にはなじむ深い作品が購入できるチャンスとなる。

直方での展覧会エントランス 2018年(C)SUKITA


また緊急事態宣言解除を受けて、10月23日(土)に限定数のお客様を入れてのトークイベントも開催する。トークイベントに参加できないお客様へ、サイン本のみご購入の予約も受け付ける予定。鋤田正義のサイン本は貴重なので、福岡のファンはこのチャンスをお見逃しなく!(サイン本の予約は10月23日(土)イベント開催前まで受け付け)

期間 2021年10月19日(火)~2021年11月3日(水)
場所 六本松 蔦屋書店アートスペース
展示会詳細
イベント詳細

・鋤田正義写真展の最新情報
ブリッツでは、鋤田正義の写真展「SUKITA Rare and Unseen」を10月11日まで開催中。東京の緊急事態宣言の解除を受けて、最終日の11日は午後1時~6時まで、予約不要で営業を行う予定。それ以前の日は、面倒をかけて申し訳ないが、引き続き予約制で営業を行う。

今週からから鋤田正義の新作の追加展示を行っている。鋤田が最近に取り組んでいるテーマが、写真表現での時間の可視化だ。写真集「SUKITA ETERNITY」の最初の収録写真が「母 1957年」。盆踊りの浴衣をまとい、笠をかぶった母親のポートレート。最後に収録されている作品が「姪 2018年」。親戚の姪が母親を撮影したのと同じ場所で、同様の格好で、カラーで撮影されている。2枚の写真はともに、笠をかぶっていることから顔はあごのラインしか見えない。しかし、時代は約60年離れているものの、二人のあごのラインはまさに瓜二つなのだ。
鋤田は2枚の作品を通して、時代経過の可視化に挑戦している。カメラはフィルムからデジタルへ移行し、ほとんどの事象は変化したものの、それとは一線を画して受け継がれていく血の流れの存在をも提示している。

今回展示する新作は彼が長年にわたり撮影しているデヴィッド・ボウイを被写体に時間の可視化に挑戦している。ボウイの2枚のポートレートが組み合わされて、1枚のシートにプリントされている。
サイズはA3ノビ、デジタル・アーカイヴァル・プリント、エディション、販売価格は未定だ。来場者の反応を聞きたいという鋤田の希望で今回のサンプル展示が急遽実現した。

(C)SUKITA

1973年のジギー・スターダスト時代、1989年のティン・マシーン時代の作品で、ともにニューヨークで撮影されている。2枚の構図、ライティング、トリミングはほとんど同じに仕上げられている。まるで同種類の被写体の集積や比較により違いを浮かび上がらせるタイポロジ―的作品なのだ。本作で表現されているのは、ボウイの顔に刻み込まれた、時間の経過、人間の人生、そして背景にある時代性の変化なのだ。

本作制作のきっかけは、複数写真家が撮影したボウイのポートレートをコレクションした写真集「David Bowie : Icon」のフランス版(Flammarion、2020年刊)。表と裏カバーには、ともに鋤田によるボウイのポートレートが採用されている。

鋤田の膨大なアーカイブの中から、本テーマに合致したする2枚の写真の組み合わせが新たに発見されることを期待したい!

・もう一つビッグニュースがある。
今回の写真展のアピール・ポイントは、タイトルの「Rare and Unseen」で象徴されているように、貴重な未発表のヴィンテージ作品の展示となる。キャリアを回顧する写真集刊行に際して、膨大な作品アーカイブスの本格的な調査が行われ数多くの未発表作が発見された。本展ではそれらのうち7点が展示されている。当初は貴重な鋤田本人の手焼きの1点もののヴィンテージ作品ということで非売品扱いだった。しかし複数の熱心なコレククターのお客様からの要望があり、今週から販売が開始された。
作品の撮影年は1973年~1992年、1992年刊行の写真集「デヴィッド・ボウイ ki “氣”」の準備過程で本人が制作したと思われる。やや専門的になるが、厳密にはファインアート写真市場の成立以前の、だいたい80年代くらいまでの写真作品で、撮影して5年以内にプリントされた写真がヴィンテージ・プリントと呼ばれている。今回の展示作品は、撮影後5年以降にプリントされたのでヴィンテージ作品と呼んでいる。販売価格もそれを考慮して付けている。裏面にサインはあるが、エディションはない。しかしすべて鋤田様自身が暗室でのプリントを行っており、女性用ストッキングなどを利用してイメージに紗がかかる効果を引き出している。ネガは残っていると思われるが、プリント自体は手作業での個別制作なので1点ものになる。おかげさまで早くも多くのお客様からお問い合わせをもらっている。古い作品だが保存状態は極めて良好だ。しかし興味ある人には額から作品を外して現物を確認可能としている。

希望者は来場予約の段階で現物確認したい旨をコメント欄に書いて欲しい。

見どころ満載の鋤田正義展も残すところ10日。どうお見逃しなく!
この度は予約制によりたいへんご不便をおかけしました。ご来廊いただいた皆様、ありがとうございました。

ブリッツギャラリー今秋の予定
次回はテリ・ワイフェンバック
「Cloud Physics」展

ブリッツでは、鋤田正義の写真展「SUKITA Rare and Unseen」を完全予約制で10月11日まで開催中。銀座蔦屋書店での関連イベントが終了したことから、同店で人気の高かった“Kiyoshiro Imawano, In Memphis, 1992”や、デヴィッド・ボウイの8X10″サイズの3点セットなどが今週からブリッツで追加展示されている。

会場では、鋤田正義のオリジナル・プリントや、今までに刊行された写真集の貴重なサイン本が限定販売されている。「SUKITA ETERNITY」の3種類ある特装版の付属作品の現物も展示している。なお、ブリッツで販売する特装版は3種類とも持ち帰り用の限定トートバックが付いてくる。完全予約制なので、各1時間に限定2名の入場となる。来場客が密になることなくゆっくりと安全な環境で作品と対峙できる。コレクション希望者への個別相談にも対応している。今週末から始まるシルバーウイークの休廊は9月20日、21日。祝日の9月23日もオープンする。週末は予約が取り難い状況だが、平日や25日以降ならまだ余裕がある。
初めてブリッツへの来廊を考えている人は、私どもはあくまでも写真作品や写真集などを展示販売するコマーシャル・ギャラリーであることを理解してから予約して欲しい。本展は作品の展示数も34点程度、鋤田正義の作品を数多く紹介するイベント的な大規模写真展ではない点を予めご理解ください。

(C)Terri Weifenbach

ブリッツの次回展は、テリ・ワイフェンバックの新作展「Cloud Physics」となる。本作は、2015年に授与されたグッゲンハイム奨学金のプロジェクト。作品完成は、当初の予定よりかなり遅れているが、新型コロナウイルスの感染拡大による自宅待機で、本人は集中して編集作業に取り組めたそうだ。彼女は、自らの自然をテーマにした作品スタイルを、気象と関連付ける可能性を探求。天候と科学をキーワードに、私たちが眼で見えるものと見えないものをテーマにしており、やや難解だが「思考と感受性との関係性の提示を目指している」と本人は語っている。

Terri Weifenbach “Cloud Physics”

本展の展示レイアウトはすべて彼女が考えてくれた。昨年に埼玉の大宮で展示した「Saitama Notes」を彷彿させるような、大小様々なサイズの作品を組み合わせたシークエンスで見せる展示になっている。

写真集はフランスのAtelier EXBと米国のThe Ice Plantから刊行。テキストは写真史家/キュレーターのリュス・ルバール(LUCE LEBART)が担当。2021年11月11日~14日に開催予定のパリ・フォトで初お披露目されると聞いている。世界中で撮影された作品が収録されているが、日本のファンに嬉しいのは奈良、東京、香川などで撮影されたものも含まれることだろう。

(C)Terri Weifenbach

彼女は本書に寄せて「 私が言わずにおきたいのは、しかし暗示しておきたいのは、気候変動によって失われるものは美しさだということです。 」と記している。 本作では、まさに現代社会で世界中の人がいま大きな関心を持つ大きなテーマに挑戦しているのだ。
本書がきっかっけとなって、彼女のアーティストとしての評価がさらに高まるのではないだろうか。写真展に際しては、詳しい「Cloud Physics」の作品分析を行いたいと考えている。現在、展示用の作品はパリで制作中。写真集は10月に日本に到着予定。サイン本も含まれる。
写真展はパリ・フォトでの写真集発表に合わせて11月上旬頃に開始する予定だ。どうか楽しみにしていて欲しい!

ありのままを受け入れる
運を呼ぶ鋤田正義の写真流儀

いまブリッツで好評開催中の写真展「SUKITA Rare and Unseen」。同展の大きな特徴は、被写体のほとんどが男性だということ。代表作のデヴィッド・ボウイ、T-Rex、YMO、イギー・ポップ、 デヴィッド ・シルビアンなどはみんな男性ミュージシャン。女性が被写体の代表作は母親を撮った初期作“Mother,1957”となるのだ。
実際のところ、アート系ファッション/ポートレートの写真展では、女性の俳優、モデル、ミュージシャンなどが被写体になる場合が圧倒的に多い。しかし、これは鋤田が特に男性を専門にしているというわけではない。女性が被写体の写真作品もあり、最近では資生堂のウェブマガジン花椿の「GIRLS ROCK BEGINNINGS」という連載で、矢野顕子、尾崎亜美、小泉今日子などの日本の女性ミュージシャンを撮り下ろしている。

ところが、写真展で男性被写体の作品が大部分を占める事実は、意識して見ないとなかなか気付かない。私はこの分野を専門としているが、最初のうちはそれに全く気付かなかった。その後、これこそが鋤田によるポートレート写真の魅力の秘密なのだと気付いた。この分野の写真のコレクターはいまだに男性が多い。彼らは、自分好みのスタイルや表情の女性が被写体の写真作品を購入する傾向が強い。つまり彼らは被写体自体の魅力で作品をコレクションしているのだ。しかし、例えば鋤田によるデヴィッド・ボウイのポートレート作品は、多くの男性コレクターが購入している。ボウイには男性コレクターを魅了する色香があることは事実だろうが、購入理由は鋤田作品の高い作家性によるところが大きいと思う。つまり、ただボウイの写真が欲しいのなら、安価なスナップ的/ブロマイド的写真は世の中に数多ある。また写真集で十分だろう。
一方で、一般的な鋤田作品は、約40X50cmサイズ、エディション30で約21万円~となる。つまり鋤田作品はコレクターにとって単にボウイの写っている写真ではない。鋤田の作家性が反映されたボウイが被写体のファインアート系ポートレート写真なのだ。もちろん対等のアーティストである鋤田とボウイによるコラボ作品であるという認識もあるだろう。

先日、銀座蔦屋書店で写真集「SUKITA ETERNITY」の刊行記念のオンライントークが開催された。実はトーク終了後の控室で、鋤田から非常に興味深い若かりし時代のエピソードを聞くことができた。

1965年、鋤田は大阪から東京に移り住み、デルタモンドプロダクションに勤務し、ファッション・美容会社向けの広告キャンペーンを手掛けている。当時はちょうど既製服の女性ファッション市場が盛り上がっていた時期だった。女性ファッション誌もこの時期に相次いで生まれている。1969年に「流行通信」、1970年に旧平凡出版の「anan」、1971年に集英社の「non-no」が創刊されている。
それらの女性ファッションの分野では、写真家の立木義浩、操上和美、十文字美信、篠山紀信などが活躍していた。実は、大阪経由で東京に来た鋤田はこの女性ファッション・ブームに乗り遅れることになる。
そこで、彼が眼をつけたのは当時の売れっ子写真家が行わなかった外国人男性モデルのファッション撮影だった。その仕事の一部がメンズファッションブランドのJAZZのキャンペーンだったのだ。当時は主流でなかったメンズ・ファッション。予算は少なかったが、逆に写真家に多くの自由裁量が与えられたという。たぶん女性ファッションの仕事では、写真家はクライアント、編集、デザイナーから撮影上のかなりの制約が課せられたと思う。
鋤田は画家ルネ・マグリットに触発されたシュールレアリスム的作品のポートフォリオを制作する。写真集「SUKITA ETERNITY」も、“Jazz,1968”、“Flower I &II、1968”など5点が収録されている。

“Jazz, 1968” (C)SUKITA

これは、この時代の鋤田作品は厳密には広告だが、現在の定義でいうとファインアートになりうるファッション作品だったことを意味する。言い方を変えると、それらはJAZZの広告写真であるとともに、鋤田正義のパーソナルワークでもあったのだ。その後、このポートフォリオが鋤田の人生に大きな影響を与えることになる。

1972年、憧れの若者文化最前線のロンドンを訪問した時、T-Rexが鋤田のポートフォリオをみて、撮影セッションを承諾する。男性モデルをスタジオで撮影した作品で、彼の高い撮影技術と表現力を見抜いたのだ。そして、スタジオでライブ演奏に没頭するマーク・ボランをとらえた名作”Get it on”が誕生することになる。

“Get it on, 1972” (C)SUKITA

さらに鋤田作品は、シュールリアリズム映画「アンダルシアの犬」が好きだったデヴィッド・ボウイも魅了する。シュールなJAZZやFlowerのポートフォリオがきっかけで、撮影セッションが実現するのだ。

“Backstage By door, Royal Festival Hall, London, 1972” (C)SUKITA

若かりし鋤田は当時主流の女性ファッションを撮ることができなかった。しかし、彼はその状況を嘆くことなく、外国人男性モデルの撮影を丁寧に行って、経験や撮影ノウハウを積み重ねた。その結果に生まれたポートフォリオがきっかけとなり、ボウイを40年以上も撮影することになる。そして1977年には、名作「Heroes」のLPカバー写真が生まれたのだ。もし60年代後半に鋤田が女性ファッションを撮影していたら、現在のような世界的なファインアート系ポートレート写真家の地位はなかっただろう。

才能だけでは成功をつかむことはできない。私たちは致命的失敗という地雷をできるだけ避けながら、運を引き寄せなくてはならない。そのために必要なのは、“いつも、ものごとをありのままに受け入れること”なのだ。実はこれこそが禅で言う「空性」の意味に他ならない。「ファインアート写真の見方」でも書いたが、私は彼のこの生きる姿勢がボウイを魅了したと考えている。鋤田の歩んできたキャリアは、その時その瞬間にある仕事に全霊を注ぐことにより、運が引き寄せられることを私たちに教えてくれる。
今回の「SUKITA Rare and Unseen」展はその軌跡の展示でもある。結果的に、彼に運と成功をもたらした男性被写体の写真の展示が多くなっているのだ。

SUKITA : Rare and Unseen 鋤田 正義 写真展
2021年7月28日(水)~ 10月11日(月)
1:00PM~6:00PM / 月曜火曜休廊 / 完全予約制 / 入場無料
http://blitz-gallery.com/index.html

鋤田正義の豪華本がコロナ禍でも刊行された理由とは
オンライントークイベント8月21日に開催!

7月に世界同時発売された、鋤田正義の集大成となる本格的にキャリアを回顧する豪華写真集「SUKITA ETERNITY」。本来ならば、大規模な写真展、トークイベント、サイン会などを大々的に開催して出版を祝いたいところだ。しかし、コロナウイルスの感染状況は全く改善の兆しはない。ワクチン接種は進んでいるものの、デルタ株の蔓延で新規感染者や重症者が急増中。東京にはいまだに緊急事態宣言が発令中で、再延長される可能性が高いと言われている。アート業界を見回しても、展覧会の途中での中止など、厳しい状況が過去1年以上も続いている。鋤田正義の写真展も、2021年4月に美術館「えき」KYOTOで開催された「時間~TIME 鋤田正義写真展」が、会期途中で強制的に中止になってしまった。

しかし、ないものねだりしてもしょうがない。いまは、今回のような豪華写真集が、この厳しい環境下に刊行された事実を素直に喜びたいと思う。周りには中断や延期になった出版プロジェクトは数多くある。正直のところ、昨年の英国での感染急拡大期には「SUKITA ETERNITY」刊行の一時中断を覚悟したこともあった。コロナ禍の厳しい経済状況でも最終的にこの豪華本が出版に至ったのは、単に運が良かっただけではないだろう。やはり鋤田のポートレート作品は、ボウイなどの被写体とで共同制作された極めて優れたコラボ作品であり、そのブランド価値はコロナ禍でもあまり影響を受けないと考えられたのだと解釈したい。
出版に至る過程で、1点だけ大きな変更が行われている。ACC Art Books版カバーの掲載写真は、当初はT-Rexの「Get it on」の予定だった。それがコロナ禍の昨年秋にボウイ作品「Just for one day」に変更になったのだ。鋤田自身の提言とともに、出版社側にも70年代のスーパースターよりも、ボウイのヴィジュアルの方がブランド価値が高く、より広い世代にアピールするとの考えがあったのだろう。

”SUKITA ETERNITY” ACC Art Books版の幻のT-Rexのカヴァー・ヴァージョン

これは景気悪化時に必ず起こる、中途半端なものは売りにくくなる、という消費のトレンドと同じことだ。コロナ禍でも高級車や高級ブランド品は売れているという報道は聞いたことがあるだろう。またマンションなどの不動産も同じで、景気が悪化すると、付加価値の高い物件には買い手が集まり、価値の低い物件には値もつかないような状況が発生するという。コロナ禍ではこのような流れが加速したのだろう。アート系では、ブランド価値や知名度の低い若手新人の作品、また強いアート性が前面に出た作品ほど苦戦しているのだ。
どちらにしても、本書出版元の英国ACC Art Booksと玄光社の、この環境下における英断には心より感謝したい。

とても重い高価な豪華本なのだが、いったん出版されれば、売り上げに関しては心配無用だと考えていた。日本版は約2000部弱が特装版を含めて刊行されている。売り上げは、日本にはデヴィッド・ボウイ、T-Rex、YMO、イギー・ポップなどの熱狂的なファンがどれくらいいるか?写真家・鋤田正義のファンや応援団、フォトブック・コレクターがどれだけいるか?を想像すれば容易に予想がつくだろう。それらの人数の合計のうちで、購入してくれる熱心なファンやコレクターは、どんなに低く見積もっても、たった2000人ということはないだろう。すぐというわけではないが、完売にはそんなに長い時間がかからないのではないか。本書のような豪華本は完売したら再版されることはほとんどない。個人的には将来のレアフォトブックの候補だと考えている。

”SUKITA ETERNITY” プリント付き特装版 玄光社刊

特にプリント付きの特装版は、写真集というよりもファインアート写真の作品だと考えて欲しい。日本では、海外の出版社のような高品質のプリント付き豪華版はほとんど制作されない。今回の特装版の、豪華化粧箱、輸送ケース、などのデザイン、クオリティーなどは非常に高品質。完全に国際標準レベルをクリアしている。日本人の、編集者、デザイナー、職人による妥協のない質の高い仕事を見せてもらったと高く評価したい。
ついでに、ファインアート写真の取り扱いディーラーの視点から、特装版の将来の価値を予想してみよう。まず収録の3作品は、40X50cm、エディション30の通常サイズでは販売されていないイメージである点に注目している。貴重な作品である上に、鋤田作品の国際的な作品相場と比べて極めて割安なのだ。1枚のサイズは8×10インチと小さく、エディション数も多いが、1枚換算で約2.5万円程度で購入可能。写真集、豪華化粧箱、輸送ケースが付いていることを考えると、鋤田正義のオリジナル作品が1枚2万円程度で購入できるのだ。ちなみに、日本版の特装版は国内限定販売となっている。つまり輸出ができない契約になっているからこれだけの低価格が実現したのだ。日本のファインアート写真市場の規模は極めて小さい。鋤田が将来的な市場拡大を願って特別に配慮して低めの価格設定に協力しくれたのだ。初めて写真を買う人は、当然のこととして価格の相場感がない。できるだけ安くすることで、そのような人に買ってほしいとの願いなのだ。
ちなみに、海外のACC Art Booksにも特装版がある。販売方式が違うので単純比較はできないが、同じ8X10″サイズのプリント1枚が付いたエディション50の作品が現地価格で約5.6万円(350ポンド)もする。いや、このくらいの価格が鋤田作品の国際相場として適正なのだと思う。もしかしたらこれでも割安かもしれない。日本版は直接は海外に輸出できない。しかし、いまはグローバル経済の時代だ。遅かれ早かれ、何らかの方法で海外に流れていくと思われる。各国の市場で、同じアーティストの同様の作品に価格差が存在すると、時間経過と共に裁定取引が行われて価格差は次第になくなっていくのだ。完売後には、特装版はかなり短期間にセカンダリー市場でプレミアムが付いて売られるようになると考える。今日の段階では、特装版は3種類ともにまだ在庫があると聞いている。セールス・トークではなく、興味ある人は早く行動を起こした方が良いだろう。

現在、銀座 蔦屋書店では鋤田正義の作品展示を8月25日まで行っている。メインは、写真集表カヴァーの「David Bowie, Just for one day」、またボウイが昨年に亡くなった山本寛斎デザインのテージ衣装「TOKYO POP」を着た「Watch That Man III、1973」、忌野 清志郎を米国のメンフィスで撮影した「Kiyoshiro Imawano – In Memphis、1992」の16X20″サイズ作品3点の展示。飾りやすい小ぶりの作品中心に約15点を展示している。写真集特装版の3点のプリント作品の現物も展示されている。

なお、8月21日(土)14:00~15:30には、鋤田によるオンライントークイベントが開催される。鋤田自らが写真家人生を振り返り、写真集『SUKITA ETERNITY』についての思いを語る予定だ。普段聞くことができない、撮影時の数々の興味深いエピソードや写真の流儀などを聞くことができる貴重な機会となるだろう。写真を趣味とする人、アーティストを目指す写真家・学生、ファインアート写真・コレクションコレクションに興味のある人、などにおすすめのトークイベントだ。
実は本イベントには特典が用意されている。参加券の他に、書籍付参加券として、特別に鋤田正義のサイン入写真集『SUKITA ETERNITY』も用意される。極めて貴重なサイン本が入手できる絶好のチャンスだ。早い者勝ちなので、もし既に予定数に達していたらどうかご容赦いただきたい。

[オンライン・トークイベント開催日時]
会期:2020年8月21日(土) / 時間:14:00~15:30
聞き手 ブリッツ・ギャラリー 福川芳郎
[参加条件]
イベントチケット予約・販売サービス「Peatix」にて、以下のいずれかをご購入いただいたお客様
・イベント参加券 1,500円 (税込)
・サイン入り書籍付きイベント参加券 9,900円 (本7,000円+イベント参加費/送料・税込み)

*サイン本はなくなり次第終了。数に限りがあるのでご了承ください。

■イベントページ
https://store.tsite.jp/ginza/event/art/21493-0958440730.html

■PEATIXお申込みページ
https://peatix.com/event/2456088/view

鋤田正義「SUKITA: Rare and Unseen」
写真展の見どころ(1)

ブリッツでは、鋤田正義写真展「SUKITA: Rare and Unseen」を開催中。同展は英国ACC Art Booksの企画/編集で刊行される回顧写真集「SUKITA : ETERNITY」の刊行記念展となる。日本版は玄光社から刊行、原文は英国版原書と同じく英語表記で欧州で印刷され、日本語訳の小冊子が付いてくる。
特設サイト

東京は、8月末まで緊急事態宣言が発令中なので完全予約制での営業となる。現在は特に週末の予約は取りにくくなっている。しかし、同展は夏休み中も営業するし、10月までと開催期間を長めにとってる。どうかコロナウイルスの状況を見極めたうえで、余裕をもって予約して欲しい。
ギャラリーの公式サイトでは、インスタレーション・ヴューをアップしている。まずは、こちらをご覧になって写真展会場の気分を味わっていただきたい。今回は、展示画像と共に写真展の見どころの解説を行いたい。

本展の大きな見どころは、鋤田とデヴィッド・ボウイとのセッションにおける数々の未発表作や代表作のアザー・カットの展示となる。鋤田は2021年5月に83歳になった。いまやボウイなどの親しかった多くの被写体たち、また親交があった同世代の写真家テリー・オニールなども亡くなっている。
今回のキャリアを回顧する写真集刊行に際して、膨大な作品アーカイブスの本格的な調査が行われ、その過程で数多くの未発表作が発見され、一部作品は今回の写真集にも収録されている。

今回は、鋤田アーカイブスの調査結果を紹介する最初の写真展となる。ヴィンテージ作品はすべて参考展示となり、販売はされない。市場価値は、だいたい6,250ポンド(約95万円)くらいだと思われる。それら7作品はギャラリーの中央あたり展示されている。たぶんボウイの写真集「気」(TOKYO FM出版、1992年刊)制作時にプリントされた作品だと思われる。
作品の中には、ソフトな感じの雰囲気を狙って、いわゆる紗がかかったようなプリントが多くみられる。鋤田によると、それらはすべて暗室作業で作り出されたものだという。通常は薄い布が使われるのだが、彼は女性用のストッキングを使用したとのことだ。納得のいく効果を得るために、様々な種類のストッキングと露光時間を試みたという。いまは画像処理ソフトで同様の効果を出すことができるのだが、当時は1回ごとのアナログ作業だった。気の遠くなるほどの試行錯誤を行ったのだと想像できる。理想のボウイ像を創り出すための、鋤田の並々ならぬ執念を感じる作品群だ。
ちなみにこれらは、ファインアート写真の専門用語で規定されているヴィンテージ・プリントではない。それらは、写真撮影からだいたい3年~5年以内にプリントされた作品とされている。しかし、写真家の手作業で丁寧に制作された作品は極めて価値が高いといえるだろう。

本展では、写真集「SUKITA : ETERNITY」からの代表作も展示している。表カバーの「David Bowie, Just for one day」と、裏カバーの「T-Rex, Get it on」は、30X40″(約76X101cm)は大判サイズでの展示。前者はエディション10、後者がエディション8の作品となる。

「Just for one day」は、ほかに16X20″/エディション30と20X24″/エディション20の小さめ作品が販売されている。以前、銀座蔦屋書店のオンライントークイベントで指摘したように、この作品は販売価格の逆転現象が起きている。実は本作品は通常の英国からではなく、日本で初めて販売が開始された。もちろん販売開始時は、小さいサイズが安く、大きいサイズが高く設定されている。しかし日本は住宅事情から小さめのサイズの方が圧倒的に人気が高い。従って16X20″はなんと完売が近くまで売れてしまい、販売価格が大幅上昇。3サイズの中で一番高額な約80万円以上になっている。30X40″の大判サイズは、本日時点で約44万円と一番安いのだ。ただし、サイズが大きいので、額装費用は高額になる。またプリントの平滑性を保つために裏打ちが必要になる。それを考慮しても、まだ16X20″と20X24″よりも安く購入できるのだ。市場価格の歪みは、遅かれ早かれ、海外のコレクターやディーラーから注文が入ることで適正に戻ると思われる。「Just for one day」は、英国ACC Art Books版でもカバーを飾っている。広い展示スペースが確保できるなら、写真集の表紙を飾る本作はまさにお薦めの1点といえるだろう。興味ある人はできるだけ早く問い合わせて欲しい。

銀座 蔦屋書店 展示風景

現在、銀座蔦屋書店でも鋤田正義作品の展示を8月25日まで行っている。メインは、前述の写真集表カバーの「David Bowie, Just for one day」、また昨年亡くなった山本寛斎さんがデザインしたステージ衣装「TOKYO POP」を着たデヴィッド・ボウイ「Watch That Man III、1973」、忌野 清志郎を米国のメンフィスで撮影した「Kiyoshiro Imawano – In Memphis、1992」の16X20″サイズ作品3点の展示となる。その他、「ヒーローズ・セッション」から生まれた、ボウイが手でそれぞれ目、耳、口を隠している「見ざる、言わざる、聞かざる」の3点セットも必見だろう。写真集特装版の3点のプリント作品の現物も展示されている。飾りやすい小ぶりの作品中心に約15点を展示している。

なお。8月21日(土)14:00~16:00には、鋤田正義によるオンライントークイベントも企画されている。参加条件などの詳細は近日中に発表予定とのことだ。
銀座蔦屋書店

次回、写真展の見どころ(2)に続く

2021年前期の市場を振り返る アート写真のオークション高額落札

2021年前半のアート写真主要オークション・スケジュールは、クリスティーズ・パリで6月29日開催された「Photographies」で終了した。7月のアート界は通常は夏休みシーズンにはいるのだが、今年はササビーズ・パリがファッション写真家パオロ・ロベルシの作品やコレクションを特集した「In the Studio of Paolo Roversi」を7月9日にオンライン開催している。昨年ほどではないにしても、パンデミックによる開催スケジュールへの影響はまだ残っているようだ。
昨年前期と比べると、オークション数は18から21に増加。昨年12もあったオンライン・オークションは6に減少。オークション業界は1年の経験から今回のパンデミック時代に合った業務形態を模索し適応してきたといえるだろう。

昨年の前半はパンデミックの環境下で、開催延期が頻発して、オンライン中心の極めて異例なオークション開催が続いた。今年との比較はあまり意味がないと思うが、出品数はほぼ同数の2611点、落札率は68%から73.6%に改善した。総売り上げは約32億円で、昨年同期比で約59%アップしている。1点の落札単価が約168万円と約49%アップしたことが影響している。これは、4月21日にササビーズ・ニューヨークで開催された、「50 Masterworks to Celebrate 50 Years of Sotheby’s Photographs」で、高額落札されたタルボットとリー・ミラー作品による影響が大きいと思われる。まだ相場はやっと通常モードに戻ってきたような印象だ。
今後の見通しだが、ワクチン接種は進んでいるが、変異株などのよる不透明要素が残る状況が続いている。秋シーズンのオークションに、相場回復期待から高額作品の出品がどれだけ戻ってくるかにかかっているだろう。

私どもは現代アート系と19/20/21世紀写真中心のアート写真とを区別して継続分析を行っている。厳密には、アンドレアス・グルスキー、マン・レイなどは作品評価額によって両方のカテゴリーに出品される。しかし、統計の継続性などを鑑み、ここでは出品されたカテゴリー別の高額落札作品のランキングを制作している。それではアート写真オークションでの高額落札をみてみよう。

◎19/20/21世紀写真部門

1.ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボット
“Henry Fox Talbot’s Gifts to his Sister: Horatia Gaisford’s Collection of Photographs and Ephemera, 1820-1824, 1844, 1845-1846”
(salt Print の写真作品とアルバムのセット)

ササビーズ・ニューヨーク、
50 Masterworks to Celebrate 50 Years of Sotheby’s Photographs 、4月21日、
195万ドル(約2.15億円)

2.リー・ミラー
“Nude, 1930”

ササビーズ・ニューヨーク、
50 Masterworks to Celebrate 50 Years of Sotheby’s Photographs 、4月21日、
50.4万ドル(約5544万円)

3.マン・レイ
“Le Violon d’Ingres, 1924/1950s”

クリスティーズ・ニューヨーク、
Photographs、4月6日、
47.5万ドル(約5225万円)

4.ロバート・フランク
“Trolley-New orleans, 1955”

フィリップス・ニューヨーク、
Photographs、4月8日、
40.3万ドル(約4435万円)

5.マン・レイ
“Erotique voilee, 1933”(9作品)

クリスティーズ・パリ、
Man Ray et les surrealistes. Collection Lucien et Edmonde Treillard、3月2日、
31.25万ユーロ(約4062万円)

◎現代アート系

現代アート系ではリチャード・プリンス作品が200万ドル越えで落札されている。久々に高額評価の作品が市場に戻ってきたのだ。彼の作品は写真でも現代アートと同じカテゴリーでの取り扱いとなる。同じオークションではジャン・ミシェル・バスキアのアクリル製絵画“In This Case, 1983”が9310.5万ドル(約102.4億円)で落札されている。

1.リチャード・プリンス
“Untitled (Cowboy), 2000”

クリスティーズ・ニューヨーク、
21st Century Evening Sale、
5月11日
219万ドル(約2.4億円)

2.ジョン・バルデッサリ
“Dining Scene (Two Greys) with Disruption at Source (Red, Yellow, Blue), 1990”
クリスティー・ロンドン、
Post-War and Contemporary Art Day sale、
3月25日、
31.25万ポンド(約4750万円)

(1ドル/110円、1ポンド・152円、1ユーロ・130円)

ブリッツ・ギャラリー今後の予定
“SUKITA: Rare & Unseen”展
開催!

「ファインアート写真の見方」(玄光社)に紹介されている写真家/アーティストの作品やフォトブックを展示するグループ展「Fine Art Photography Now(ファインアート写真の現在)」展は、緊急事態宣言により延長してきたが7月4日(日)まで。東京はまん延防止等重点措置地域なので、引き続き予約制での営業となる。

次回展は、鋤田正義写真展「SUKITA: Rare & Unseen」を開催する。同展は鋤田の英国ACC Art Booksの企画/編集で刊行される初の本格的回顧写真集「SUKITA : ETERNITY」の刊行記念展となる。日本版は玄光社から刊行、原文は英国版原書と同じく英語表記で欧州の工場において印刷、日本語訳の小冊子が付いてくる。

特設サイト

このたび、日本版の発売日が7月28日に正式決定。プリント付き特装版も専用サイトで7月1日から予約開始となった。写真集の発売に合わせて、写真展の開始日もやっと7月28日に決定した。
特装版は、布張りケース入りの豪華写真集とともにプリント作品が付いてくる。3種類あり、3枚セットAが80点、2枚セットBが80点、2枚セットCが40セットとなる。写真展会場では、実際のプリントを見ることができる。
こちらは、ファインアート写真の市場規模が極めて小さな日本国内向けの限定販売となる点に注目して欲しい。サイズが小さめの20X25cm、エディション数合計200と比較的多いものの、鋤田正義のオリジナル・プリントの国際価格と比べて非常に割安に価格設定されている。写真が売れない日本で、ファインアート写真コレクションの定着を願う、鋤田本人の強い意向で実現したのだ。もちろん全てのプリント作品は鋤田の直筆サイン入り。もし絵柄が好きならば、初めてファインアート写真を買う人には最適の選択ではないだろう。

(C)SUKITA 、3種類のプリントの1枚、Aセット、Bセットの収録作品

今回の写真展の大きな見どころは、鋤田とボウイとのセッションにおける未発表作や代表作のアザー・カットの展示となる。鋤田は2021年5月に83歳になった。いまやデヴィッド・ボウイなどの親しかった多くの被写体たち、また親交があった同世代の写真家テリー・オニールなども亡くなっている。
ここ数年、彼は新たな視点から過去の作品群の総合的な見直し作業が必要だと意識するようになる。今回のキャリアを回顧する写真集刊行に際して、膨大な作品アーカイブスの本格的な調査が行われたのだ。数多くの未発表作が発見され、一部作品は今回の写真集にも収録されている。本展は、鋤田アーカイブスの調査結果を紹介する最初の写真展となる。新発見された、撮影当時に鋤田本人がプリントした貴重なヴィンテージ作品を中心に、新刊写真集収録のエディション付き代表作品があわせて展示される

(C)SUKITA、展示されるヴィンテージ作品
(C)SUKITA、展示されるヴィンテージ作品

本展の開催期間となる7月下旬から8月は、アート業界は夏休み期間で休廊が一般的。極めて異例の時期の写真展となるので、開催期間については検討中だ。またまん延防止等重点措置の延長も取りざたされている。イベント等の開催については状況を見て判断するつもりだ。
なお銀座 蔦屋書店でも「SUKITA : ETERNITY」刊行記念の写真作品展示が予定されている。こちらでも、カヴァー作品「Just for one day, 1977」などの代表作を見ることができる。
写真展の正式な会期や、イベント開催の詳細が決まったらギャラリー公式サイトで発表します。

オンライントークイベントを
銀座 蔦屋書店主催で開催!
『ファインアート写真の見方』
刊行記念連続トーク

本年4月に「ファインアート写真の見方」が玄光社より刊行された。ブリッツ・ギャラリーでは刊行記念展「Fine Art Photography Now」を6月20日まで開催中。(会期は7月4日まで再延期の予定)本展では、作品解説や無料ポートフォリオ・レビューなどの開催を企画していたが、残念ながら東京都の緊急事態宣言延長のため開催延期となった。

この度、銀座 蔦屋書店様の主催で、オンライントークイベント開催が決定した。

16日の第1回は、同書の内容の中から、写真コレクションに興味ある人を対象に「アート写真コレクションをはじめよう」を行う。コレクションの基本的考え方、海外市場の現在、作品評価ルールの変遷と最新トレンド、ファインアート写真投資の可能性、いま何を買うべきか/ギャラリストの特選情報なども話す予定だ。特典として、書籍には写真画像のようなブリッツの過去の写真展の大判カードが複数枚付いてくる。
今回、トークイベントの目玉として、近日発売予定の鋤田正義写真集や、今秋発売予定のテリ・ワイフェンバック写真集の最新情報をいち早く参加者に提供する予定だ。もちろん、人気の高いコレクター注目のプリント付き特装版情報も含まれる。また後日、第1回参加者に対する、ファインアート写真コレクションの個別アドバイスを東京目黒のブリッツ・ギャラリーで行う予定。こちらは写真展の開催期間に、予約制(無料)での実施となる。希望者は、ギャラリー公式サイトからお問い合わせください。

24日の第2回は、写真でのファインアート表現を目指す人を対象として、「アートとしてコレクションされる写真作品×公開ミニポートフォリオレビュー」を開催予定。講義では、ファインアート写真のポートフォリオ作品への取り組み方を解説。内容は、写真の機能別分類、市場での写真評価の実際、ギャラリーの仕事/役割、作品テーマの見つけ方、フォトブックの可能性、成功の方程式はあるのか、ポートフォリオ・レビューへの取り組み姿勢など。講義の後には、2名に対面式公開ミニポートフォリオレビューを行う予定。

なお第2回の参加者(講義受講のみを含む)には、以下の様な対面式レビューの特典も用意した。

〇対面式ポートフォリオ・レビュー
オンライントークイベント参加者が、講義内容を踏まえて制作を行い、作品が完成した場合、後日に対面式ポートフォリオ・レビューを東京目黒のブリッツ・ギャラリーで行う。(予約制/有料)個別に評価やアドバイスを受けることが可能。

〇ポートフォリオ・コンサルテーション
講義内容を参考にして制作に取り組んでみたものの、どうしても作品テーマの方向性が見つからない人に対しては、後日に対面式ポートフォリオ・コンサルテーションを上記ギャラリーで行う。(予約制/有料) 個別に作品制作のためのアドバイスを受けることが可能。

(ご注意)
ポートフォリオ・レビュー/ポートフォリオ・コンサルテーションの希望者は直接にギャラリー公式サイトからお問い合わせください。

詳しくは以下の銀座 蔦屋書店イベントページからどうぞ。興味ある人はぜひご参加ください!

第1回のイベントページ
お申込み先のPeatix のページ

第2回のイベントページ
お申込み先のPeatix のページ

リチャード・プリンス作品が高額落札 NY現代アート系オークション

春のニューヨーク現代アート系オークションで、リチャード・プリンス作品が写真関連では久しぶりに200万ドル越えで落札された。
クリスティーズ・ニューヨークでは、新しい3カテゴリー分けのオークションが5月11日から13日にかけて開催された。
“21st Century Evening sale” は1980年から現代までの作品、“20th Century Evening sale”は、1880年から1980年の作品、“Post-War and Contemporary Art Day sale” は主に低価格帯作品が出品された。ちなみに、“21st Century Evening sale” では、ジャン・ミシェル・バスキアのアクリル製絵画“In This Case、1983”が、9310.5万ドル(約102.4億円)で落札されている。

写真の最高額も同じオークションに出品されたリチャード・プリンス(1949-)の“Untitled (Cowboy), 2000”だった。落札予想価格100万~150万ドルのところ219万ドル(約2.4億円)で落札。132 x 184.1cmサイズ、エディション2/AP1のエクタカラー・プリント、ブランド・ギャラリーのガゴシアンが取り扱ったという来歴の作品だ。

Christie`s NY, Richard Prince “Untitled (Cowboy), 2000”

リチャード・プリンスは、70年代後半から80年代前半にかけて、シンディ・シャーマン、バーバラ・クルーガー、シェリー・レヴィンなど、「ピクチャーズ・ジェネレーション」と呼ばれる若手アーティストたちとともに登場してきた。既存の広告や写真を再度撮影することで、イメージを「流用(appropriation)」し、新たな文脈の作品として提示した。これは作品のオリジナリティや神聖さを疑うポストモダン的なアプローチだと言われている。プリンスは約40年にわたって「Untitled (Cowboy)」シリーズで、アメリカの象徴であるカウボーイにこだわり続けてきた。カウボーイは、アメリカの最初の開拓者たちを鼓舞したワイルド・ウェストの憧れを呼び起こすとともに、西部開拓者たちの勤勉さ、決意、独立精神を象徴している。オリジナルの「カウボーイ」シリーズは1980~84年年に制作。それらは70年代後半から80年代前半にかけてのマルボロのタバコ広告を10×14インチサイズで表現したものだった。本作は、プリンスが2000年頃に制作を開始した「カウボーイ」シリーズの第2弾。デジタルスキャナーを使って加工し、現代アート的な巨大サイズに拡大。しかし、プリンスは意図的に作品にオリジナルの粒状性を残している。これによりオリジナル画像が雑誌広告であることが強調されているのだ。

シンディー・シャーマン(1954)の“Untitled #150,1985”は、落札予想価格60万~80万ドルのところ52.5万ドル(約5775万円)で落札された。125.7 x 168.5 cmサイズ、エディション6/AP1のタイプCプリント。こちらもブランド・ギャラリーで、2021年末に閉廊するメトロ・ピクチャーズが取り扱ったという来歴の作品だ。本作は、1985年のメトロ・ピクチャーズで個展で展示された「Fairy Tales」シリーズの重要作品。彼女は、子供向けのおとぎ話に隠された深い闇からインスピレーションを得て創作。グロテスクさと魅惑的な雰囲気が象徴的に表現された作品で、アーティストにとって重要なコンセプトの出発点と言われている。同作は、その後の彼女の作品の多くに影響を与えており、作家に関する文献/資料にも広く引用されている。

Christie’s NY, Cindy Sherman, “Untitled #150,1985”

一方でサザビーズ・ニューヨークでは、5月12日から13日にかけ“Contemporary Art”の2回のオークションを開催。こちらも最高額はリチャード・プリンスの「Untitled (Cowboy)、1993」だった。落札予想価格20万~30万ドルのところ40.32万ドル(約4435万円)で落札された。50.8x 61 cmの小さめサイズ、エディション2/AP1のエクタカラー・プリント。

シンディー・シャーマンの「Cover Girl (Vogue),1976-2011」は、落札予想価格6万~8万ドルのところ16.38万ドル(約1801万円)で落札。小ぶりの26.7 x 20.3 cmサイズの3点組作品、エディション3/AP1のゼラチン・シルバー・プリント。
サザビーズに出品されたのは、有名現代アート系アーティストによる、“Photographs”で取り扱われるような小さいサイズの作品。彼らの代表的作品はサイズが小さくても高額で取引されるようになってきたようだ。

ここ数年、現代アート系を含めて写真関連作品の高額落札はあまり多くなく、2017年からは、200万ドル超えの落札はなかった。リチャード・プリンス作品でも、2018年秋のサザビーズ・ニューヨーク“Contemporary Art”において169.5万ドルで落札された「Untitled (Cowboy), 2013」以来となる。新型コロナウイルスの経済対策として世界中の政府が行っている積極財政策と中央銀行による超金融緩和の影響だと思われる。米国の中銀に当たるFRBが出口戦略の模索を開始したとの報道も見られる。有名アーティスト/写真家の代表シリーズへの人気集中は続くのだろうか?今後の動向を注視していきたい。

(為替レート 1ドル/110円で換算)