鋤田正義 写真展の見どころ
AIが生成できないファッション写真

ブリッツ・ギャラリーでは、鋤田正義の初期ファッション作品と有名ミュージシャンのポートレートを紹介する「SUKITA : Photographs from Early Fashion to Rock Icons」展を開催中。本展で展示されているのは、ファインアートに成りうるファッション写真。現在主流の洋服の情報を提供する目的で制作される、美しいだけのイメージとは異なる。写真家が自らの身体で感じ取った撮影時の世の中の無意識、つまり当時の時代の気分や雰囲気、都市の空気などが反映された写真なのだ。それらには写真家がその時、その場所で受けた感動が詰まっており、そのメッセージを通して見る側とのコミュニケーションが発生する可能性がある。その先に、もし写真からストーリーが立ち上がってくれば、見る側にとって意味ある写真作品となる。ファインアート写真としてのコレクションの対象に成りうるのだ。

鋤田は70年代初めから若者文化の最前線の地にあこがれて、ロンドンやニューヨークに旅立っている。60~70年代といえば反抗と自由、そして退廃と解放の緊張が世の中に横たわる時代だった。特に当時のロンドンは活気に満ちていた。50~60年代の新しい若者文化が開花した、スウィンギング・ロンドン直後の熱量がまだ溢れていた時代だった。またエキゾティシズムがもてはやされており、歌舞伎の上演などもあり、ジャポニスムが再注目されていた。

今回の展示作品は、そのような当時の世相が見事に反映されている。モデルの山口小夜子が山本寛斎デザインの洋服を着た作品3点展示されているが、それらはエキゾティシズムが反映されたファッション写真の典型例だろう。日本人モデルの起用により当時の身体感覚が強く作品に表現されている点にも注目したい。「Motion Blur series」では、眩い色彩とモデルの動きで当時のサイケデリック・ムーブメントの世相を見事に取り入れている。
そして鋤田は、ミュージシャンも時代の気分づくりに欠かせない象徴的な存在だととらえていた。彼にとっては、特にボウイのポートレートは、時代性が反映された広義のファッション写真なのだと理解したい。

なぜ鋤田のファッション写真が私たちの目に魅力的に映るのだろうか?
いまはAIがどんな画像も生成してくれる。たとえば。60年代風、70年代風のファッション写真も簡単に生成される。しかし、それらは各時代の平均的な面白みのない画像でしかない。AIは写真家が感じ取った時代性を写真に反映させ、再現はできない。だから私たちは実際にその時代に生きた写真家の生の写真に魅了されるのだろう。それらには、各時代の人々の持つ、身体感覚、価値観、社会的緊張、欲望、あこがれや夢が反映されている。鋤田は実際にその時代に生きていたが、AIは生きていない、また肉体を持たないAIは身体性も表現できない。いまアート界は生成的・ネットワーク的世界観を持つ作品が趨勢を強めている。このような時代だからこそ、AIには代替できない、時代の気分が濃厚に刻まれたファッション/ポートレート写真、そのなかでも特に手作業で個別に制作された銀塩写真はますますコレクターに求められるようになると考えている。ちなみに、どの時代のファッション写真の市場での人気が一番高くなるかをAIに質問したところ、「1960〜70年代」と「1990年代」とのことだった。都市の空気が写真に一番刻まれていて、社会の変化とファッションが密接に連動していたからという、珍しくあまり違和感のない回答だった。

鋤田はいま過去のファッション写真のアーカイヴを本格的に見直している。今回セレクションされた作品はほとんどがスタジオでの撮影だった。私が興味あるのは、スタジオから飛び出してストリートで撮影された鋤田のファッション写真の発見だ。彼は当時英国のファッション写真にストリートやドキュメントの撮影を導入して新風を巻き起こした、デヴィッド・ベイリーやダフィーの作品を見ているはずだ。間違いなく、自らのファッション写真で当時最新のアプローチを取り入れていたと思う。彼がボウイを京都で撮影した1980年の一連の写真は極めて有名だ。これらこそがまさに背景の時代性を取り込んだストリート系のファッション写真だといえるだろう。今後のアーカイヴ調査の進展に期待したい。
Photographs ©SUKITA

(お知らせ)
好評につき写真展の会期が2月22日(日)まで延長されました!
2月11日の祝日も通常営業します。
ぜひ鋤田の濃厚な時代性を感じるファッション作品をご高覧ください。

“SUKITA : Photographs from Early Fashion to Rock Icons”
2026年2月22日 (日)まで
水曜~日曜、 1:00  PM~ 6:00  PM
月曜火曜は休廊、 入場無料
ブリッツ・ギャラリー

鋤田 正義 写真展
60~80年代のファッション写真の見どころ!
@ブリッツ・ギャラリー

ブリッツ・ギャラリーは、鋤田正義の初期ファッション作品とミュージシャンのポートレートを紹介する「SUKITA : Photographs from Early Fashion to Rock Icons」展を開催中。

本展の見どころで注目して欲しいのは、鋤田のファッション写真が、モデルのスタイリング、ディレクション、ヘアメイクだけでなく、写真のライティング、構図、色合い、デザインなど、ほとんど彼自身の意図とディレクションにより行われていること。そしてその結果生まれた写真を特徴づけているのが、現実離れして、奇抜な、極めてシュールな雰囲気に仕上がった独創的なビジュアルなのだ。
一般的な日本のファッション写真は、商品である洋服の情報提供を目的として制作される。そして洋服デザイナー、アート・ディレクター、編集者の指示で撮影されるのが一般的になっている。業界で優秀だといわれる写真家は、それらの関係者の意向を的確に忖度したビジュアルづくりがうまい人なのだ。残念ながら写真家はカメラ・オペレーターで、そこにはクリエイティブな要素は全くない。当然、それらの写真に表現上の面白さは全くないのだ。

しかし鋤田のファッション写真の場合、彼は洋服自体をメインに撮影していない。たぶん彼は当時の活気ある気分や雰囲気は、シュールで自由なスタイリングや色彩を通して表現できると感じ、それを写真を通して伝えようとしたのだろう。ファッション写真を通して写真家がパーソナルに感じた時代性を表現しようとしたわけで、まさに欧米のファインアートに成りうるファッション写真と同じ構図で制作されているのだ。写真に撮影者の感動が落とし込まれているから、同じような時代感覚を持つ人たちとのコミュニケーションが起き、彼らを魅了するのだ。

そしてその鋤田の感性はまさにデヴィッド・ボウイの持っていた”現状維持バイアスにとらわれないためにシュールな感性を愛でる”という世界観と重なるのだ。70年代前半の英国では、歌舞伎の上演や浮世絵の展示があり、西洋と全く異質な日本文化の存在が紹介されていた。ボウイは間違いなく、それらを奇抜でシュール存在に感じたと思われる。その影響は、その後のステージ衣装、メイク、スタイリング、パフォーマンスに反映されていく。特に山本寛斎が1973年に制作した舞台衣装「Tokyo Pop」は、幾何学的ラインと鮮烈な色彩を持ち、歌舞伎衣装の大胆さや誇張されたシルエットが反映されている。そのような問題意識を持ったボウイの前にまだ30歳代の若い無名の日本人写真家鋤田が現れたのだ。彼は自分が求めていた日本文化のエッセンスを鋤田の写真の中に見出したのだと思われる。二人の出会いは本当に絶妙なタイミングに起きたといえるだろう。
今回展示している一連の鋤田の初期ファッション写真を見るに、その一部だけを見て鋤田のオリジナリティーを見抜いたボウイの目利きは本当に凄いと思う。その後、約40年にわたって続く二人の信頼関係の原点のファッション写真の紹介が、本展開催の趣旨であり、一番の見どころなのだ。

作品展示に際して、当時の情報を鋤田本人に確認してみた。しかしかなり昔の撮影だったので本人の記憶はあまりはっきりしていなかった。想像するに、これだけ自由に撮影できたのは、多くがファッション雑誌等のエディトリアル・ページに掲載された作品だったからだと思われる。
“1981-ryuko-09”は、雑誌の流行通信に掲載された作品とのこと。同誌はデザイナー森英恵のPR誌からスタートした歴史あるファッション誌。当時の流行通信は、撮影時に写真家にかなり自由裁量を与えていたと思われる。あの横尾忠則がアート・ディレクターだったり、なんと横尾本人、藤原信也、浅井慎平もファッション写真を撮影しているのだ。

鋤田はミュージシャン坂本龍一の1981年のアルバム“左うでの夢”のジャケット写真を手掛けている。本展の展示作品 “1981-ryuko-09”も顔と左腕が白く塗られており、たぶん坂本作品のオマージュではないかと思われる。
また、案内状にも使用した、カラフルでアシッド感あふれる動きのある“Motion Blur series“はカメラ毎日に掲載された記録があるそうだ。あるコレクターから、雑誌プレイボーイに掲載されたのを見た記憶があると指摘があった。カメラ雑誌に撮りおろしはあまりないので、その可能性はあるようだ。

また当時の元祖日本人スーパーモデル山口小夜子が被写体の作品も3点展示されている。このファッションは山本寛斎デザインとのこと。またこちらは別のコレクターから資生堂の広報誌「花椿」に掲載された作品ではないかとの指摘があった。これらの情報の真偽は鋤田本人に確認中だ。もし当時の資料を持っている人がいたらぜひ提供して欲しい。ギャラリーとしても、作品展示をきっかけとして初期ファッション写真の撮影に関わる情報アーカイブを充実させたいと考えている。

鋤田作品の魅力は、写真と対峙することで見る側に様々なストーリーや想像が生まれること。それらの物語を通して、ファッション写真に意味が紡ぎだされるからこそ、多くのコレクターを魅了し続けるのだと思う。年内の展示は12月21日(日)まで、ぜひご覧ください!

“SUKITA : Photographs from Early Fashion to Rock Icons”
2025年10月29日 (水)~2026年2月15日 (日)
水曜~日曜、 1:00  PM~ 6:00  PM
月曜火曜は休廊、
年末年始休廊:12月24日~1月9日、
*年内の最終営業日は12月21日(日)となります。
入場無料
ブリッツ・ギャラリー

ギャラリー・アーティストの近況
Terri Weifenbach
Duffy
Steve Schapiro

テリ・ワイフェンバック(Terri Weifenbach)
 パリで美術館展開催

テリ・ワイフェンバッハの展覧会「Jardins parisiens(パリの庭園)」がパリのユージェーヌ・ドラクロワ国立美術館で開催中です。同館は、19世紀フランスのロマン主義を代表する画家ユージェン・ドラクロワが1857年から1863年までアトリエ兼自宅にしていた邸宅が美術館として公開されています。今回の企画は、『シティ・ブック パリ』のためにルイ・ヴィトンが制作しています。
同展では、ワイフェンバックの眩いカラー写真シリーズを展示。彼女の写真は、フランスの首都を象徴する緑の空間の美しさと静けさを、詩的で親密な視点で捉えており、観る者を都市中心部への視覚的な散歩へと誘っています。また同館には来館者が写真の鑑賞体験後に散策できる庭園があり、まさに最適の展示会場だといえるでしょう。
この展覧会は、画家ドラクロワの作品と対話する現代作家に焦点を当てる、同館の「Regards Croisés(交差する視線)」プロジェクトの一環として開催されています。

「画家と庭園の間には、人間の痕跡、野生の花や雑種の花、都市の庭園に適応した鳥など、さまざまな側面を持つ風景があります。定義と構成としての色。ラインとボケを提案します。セシリー・ブラウン、ドラクロワのエネルギー、ある特定のヴュイヤールの色、テオドール・ルソーの自然なパレット、ジョアン・ミッチェルの抽象画を思い浮かべています。私はこの宇宙にいて、庭で写真を撮りながら、3次元を2次元に変換する方法を考えています。私は自分のニーズに基づいて、自分が感じたことを記録します。絶え間なく続くものとともに存在する、儚さについて思いを馳せています。」
テリ・ワイフェンバック

「Terri Weifenbach : Jardins parisiens」
 ウジェーヌ・ドラクロワ国立美術館(Musée National Eugène Delacroix)
 会期:2025年11月6日~2026年1月4日

ダフィ ー(Duffy)
 デヴィッド・ボウイ「アラジン・セイン」ジャケット写真が高額落札!

Brian Duffy, original dye transfer print for Aladdin Sane album cover, 1973.
Courtesy of Bonhams.
Photo Duffy © Duffy Archive & The David Bowie Archive ™

1973年リリースのデヴィッド・ボウイの「アラジン・セイン」のアルバム・ジャケット写真は「ポップのモナリザ」として知られる、英国人写真家ブライアン・ダフィー(1933–2010)撮影の超有名作品です。11月5日にロンドンのボナムズ(Bonhams)で開催された「Mona Lisa of Pop Property From The Duffy Archive」オンライン・オークションで、本作のヴィンテージ・ダイ・トランスファーによるオリジナル作品が381,400ポンド(497,088ドル)で落札されました。1ポンド201円で換算すると約7666万円です。

本作のボウイのメイクはピエール・ラ・ロシェ(Pierre La Roche)が担当、ダフィーがHasselblad 500C 6X6  カメラで撮影したオリジナルのカラースライド(color transparency)に、フィリップ・キャッスル(Philip Castle)がエアブラシで加工したもの。キャッスルはボウイの肩に「Water mark」を描き、さらにダフィーの指示のもと、ボウイの胴体の上の白い部分を強調し、まつげを長くしています。作品サイズは32X40cm、ダフィーのサインと日付が書かれています。

この落札価格は、アルバムカバーとして、また写真家ブライアン・ダフィーにとっても、オークション新記録となりました。これまでのアルバムカバーの最高額は、レッド・ツェッペリンの同名デビューアルバム(1969年)のジャケットを飾った英国人デザイナーのジョージ・ハーディー(George Hardie)による1937年のヒンデンブルク号事故を題材としたアートワーク。2020年にクリスティーズで32.5万ドル(約3億5000万円)で落札されています。

Courtesy of Bonhams. Photo Duffy © Duffy Archive & The David Bowie Archive ™

また同オークションには、アラジン・セインのオリジナルコンタクトシート 2 枚も19,200 ポンド(25,040 ドル/約385万円)で、撮影時にボウイが座ったスツール(丸椅子 )が2,816ポンド(3,680ドル/約56.6万円)で落札されています。

・スティーブ・シャピロ (Steve Schapiro)
 ドキュメンタリー映画「Being Everywhere」が公開

スティーブ・シャピロ(Steve Schapiro, 1934 – 2022)の新作ドキュメンタリー映画「Being Everywhere」が今秋に米国で公開されます。シャピロは、1934年ニューヨーク市ブルックリン生まれ。アンリ・カルティエ=ブレッソンに憧れて写真家を志し、ウィリアム・ユージン・スミスから写真技術や取り組み姿勢を学びます。1961年にフリーランスの写真家として活動を開始。1960年代の激動するアメリカの政治、文化、社会のドキュメントに取り組みます。また、ロバート・F・ケネディの大統領選挙キャンペーンに同行し、公民権運動の重要な瞬間を撮影。彼の写真は、「LIFE」、「Vanity Fair」、「Sports Illustrated」、「Newsweek」、「TIME」、「Paris Match」などの雑誌に掲載されています。

1974年、シャピロはロサンゼルスでデヴィッド・ボウイと濃厚なフォトセッションを敢行。二人のコラボレーションの成果は、アルバム「Station to Station(1976年)」、「Low(1977年)」、「Nothing has changed(2014年)」のジャケットや、雑誌「People」、「Rolling Stone」のカバーに生かされています。有名人ポートレートや映画関連の写真でも知られおり、特にフランシス・フォード・コッポラ監督の「The Godfather(1972年)」や、マーティン・スコセッシ監督の「Taxi Driver(1976年)」のスチール写真が有名です。シャピロの写真は、パーソナルな視点でアメリカ現代史の重要な瞬間をドキュメントしていると高く評価されています。

この映画は脚本家兼映画監督モーラ・スミス(Maura Smith)が手がけており、シャピロの数えきれないほどの写真作品を通してその生涯を解き明かしています。故シャピロは映画の中で自身の作品アーカイブに囲まれながら、「どんな被写体でも挙げてくれれば、おそらく私はその人を撮影しただろう」と語っています。

映画のニューヨーク市プレミアは11月14日、その後はシカゴ、ロスアンゼルスで上映される予定です。なおニューヨーク・タイムズ紙がこの冬見るべき65本の映画の一つとして本作品をセレクト。ドキュメンタリー作品の数少ない選出作品です。日本での公開は未定です。

ブリッツ・ギャラリーでは、2023年10月に『SUKITA X SCHAPIRO PHOTOGRAPHS』(鋤田 正義 / スティーブ・シャピロ 写真展)を開催しています。

鋤田正義 60~80年代のファッション写真/
ロック系ポートレーツを展示!
@ブリッツ・ギャラリー

ブリッツ・ギャラリーは、鋤田正義(1938-)の初期ファッション作品とロック・ミュージシャンのポートレートを紹介する「SUKITA : Photographs from Early Fashion to Rock Icons」展を10月29日から開催する。展示作品の多くの未発表作となる。

鋤田は、福岡県直方市生まれ。日本写真映像専門学校卒業後、棚橋紫水に師事。大広、デルタモンドを経て、1970年からフリーとなる。70年代のはじめに時代の最先端の若者文化や音楽に惹かれニューヨークやロンドンに撮影に出かける。1972年夏、ロンドンでT・レックスのマーク・ボランやデヴィッド・ボウイと出会い、彼らを撮影。その後、多くのミュージシャンを世界中で撮り続ける。彼は被写体となったそロック・アイコンたちや、彼らの楽曲とともに、活気ある20世紀の時代の気分と雰囲気づくりにビジュアル面から関わってきた。いまでは彼のポートレート写真のアート性は特に海外で高く評価されており、2021年には彼のキャリアを回顧するフォトブック「SUKITA : ETERNITY」(ACC Art Books / 玄光社 ) が世界同時出版。また2010年代からは欧米各国で数多くの美術館展が開催されており、2025年にはスペイン・バルセロナのFotoNostrum で「Bowie X Sukita」展が開催されている。

しかし、ロック・アイコンたちのポートレートは鋤田の膨大な作品群の一部にしか過ぎない。彼はキャリアを通して、ファッション、広告、映画関係に取り組む一方で、ドキュメント、ストリート、風景、静物など様々なタイプのパーソナル・ワークにも取り組んできた。戦後の50~60年代の初期作品では、戦後混乱期の地元福岡のストリート・シーンや長崎の原爆被爆者、原子力空母入港反対デモなどの社会問題をパーソナルな視点でモノクロ写真でドキュメントしている。それらには「プロヴォ―ク」の写真家たちと同様の戦後日本の政治、社会、文化の混乱へのアンビバレントな感情が見られる。

Jazz #3, 1969 ⓒ Sukita

一方で60~80年代の初期ファッション写真では、広告の枠にとらわれない自由な発想の作品を制作。特に1969年のメンズ・ブランド「JAZZ」のファッション写真はよく知られている。これは、彼がシュールレアリスム画家ルネ・マグリットの絵画作品に触発されて制作した作品。当時の日本は女性ファッションが花盛り、メンズは超マイナー分野だった。逆にそれが鋤田に幸いして、表現に数多くの制限があるファッション写真で写真家に多くの自由裁量が与えられたのだ。つまりそれらはファッションの仕事の写真なのだが、鋤田の自己表現の作品でもあるのだ。それらのシュールなビジュアルは70年代初めにデヴィッド・ボウイを魅了し、二人の40年にも及び信頼関係を構築した原点となる。そして後にアルバム「Heroes」のジャケット写真につながっていく。本展では初期作品の中から、この鋤田のあまり知られていない未発表を含むシュールでカラフルなファッション写真を紹介する。70年代、海外で“東洋の神秘”と称賛されるなど注目されたスーパーモデルの山口小夜子のイメージも含まれる。

David Bowie, 2002 ⓒ Sukita

また本展では、鋤田作品の代名詞となるデヴィッド・ボウイ、マーク・ボランら20世紀のロック・アイコンたちのポートレートを展示する。ギャラリーとしては、それらもミュージシャンの表情とファッションで当時の時代性が反映された、広義のファッション写真だと考えている。デヴィッド・ボウイの2点は、ギャラリーでの未取り扱い作品で、今回初めてエディション付きファインアート作品として販売される。モノクロ作品は、最近発売されたボウイの2002年から2016年の歩みをまとめあげた豪華13枚組CDボックス・セット『I Can’t Give Everything Away (2002-2016)』のジャケット写真に採用された2002年撮影の渋いイメージ。もう1点は1973年撮影の”ジギー・スターダスト”ライブの眩いカラー作品となる。ちなみに、海外では愛する人へのクリスマスプレゼントに写真作品を送るという素晴らしい習慣があるという。鋤田作品はボウイ好きの人への贈り物に選ばれることもよくあるらしい。毎年、秋ごろになると海外から鋤田事務所に問い合わせがあるという。今年は今回の写真展開催があるので、久しぶりにボウイ作品の新作が発表されたということだ。モノクロの方はCDジャケットのカヴァーだけにコレクター人気が盛り上がりそうだ。

Vivienne, 1974 ⓒ Sukita

本展の展示作品数は、ファッションとロック・アイコンズを合わせて約30点を予定。また、鋤田作品を使った鋤田アーカイブス公認のオフィシャルグッズ(Tシャツ・トートバッグ)の販売も行う予定。こちらは東京では初お目見えとなる。先般の博多展では、グッズは大人気で一部商品は完売して追加制作したという。ただし、今回の写真展の限定品のグッズではありません、ご注意ください。

鋤田はキャリアを回顧する写真集「SUKITA : ETERNITY」(2021年)の刊行以来、膨大な作品アーカイブスの本格的な調査を開始している。今回の初期ファッション写真の展示はアーカイブスの調査結果を紹介する写真展の一環になり、2021年開催の「SUKITA : Rare & Unseen」展に続く第2弾となる。調査作業は現在も進行中で、鋤田事務所によると、ファッション系は忘れ去られていた未発表イメージがかなり残っているという。嬉しいことに今年で87歳の鋤田巨匠はファッション関連アーカイブスの調査に積極的だという。今後、未発表のファッション写真展パート2も開催されると思う。どうか楽しみにしていてほしい!

“SUKITA : Photographs from Early Fashion to Rock Icons”
2025年10月29日 (水)~2026年2月15日 (日)
水曜~日曜、 : 1 PM~ : 6 PM
月曜火曜は休廊、年末年始休廊:12月24日~1月9日、 入場無料
ブリッツ・ギャラリー

鋤田正義 写真展「Rock Faces by Sukita」展
博多で9月21日まで開催!

福岡県直方市出身の写真家・鋤田正義の写真展 ”Rock Faces by Sukita” (Sukita’s Works + Collections)が9月12日(金)より博多のギャラリー OVERGROUNDにてスタートした。
鋤田は長年にわたり東京世田谷の経堂に事務所を構えていたが、最近になって活動拠点を故郷福岡へ移している。本展は地元の人たちへ「ただいま」のメッセージとともに、これからは福岡から世界へ情報発信を行う意思/覚悟を広くアナウンスする目的の写真展になる。
アートファンだけでなく、地元のロックファンの来館を見込んでいるようで、鋤田の写真家のキャリアから、デヴィッド・ボウイ、イギー・ポップ、T. Rex、YMO、シーナ&ロケッツなど、特にロック系ポートレートの代表作を中心に紹介する展示となる。展覧会ポスターに使用されたメインビジュアルは福岡出身アーティストシーナ&ロケッツの名作「Main Songs, (Album Cover), 1985, Tokyo」だ。

地元と音楽関係イベントに合わせて行われる短期間のギャラリー展で、展示作品は過去のイベントで展示された額付きプリントからセレクションされていると思われる。一部はシート作品が壁面にカジュアルに直接に貼られている。展示会場は、ニューヨークのソーホーにあるような、古き良き時代の「寂び」の趣を感じるような展示スペースで、過去に製作されたややユーズド感のあるプリントや額との相性がとても良いと感じた。日本伝統工芸のエッセンスが散りばめられた、主催者のセンスが光る見事な会場設営/プロデュースだと思う。

また本展では、鋤田が個人的に所有している写真プリント・コレクションを初展示している。お互いにリスペクトし合う関係性を持つ海外の写真家同志は、自らの写真を交換し合うという習慣がある。実は鋤田も多くの海外写真家と交流があり、エディションが付かないアーティスト・プルーフ(A/P)の写真を交換している。展示されているのは鋤田の海外の有名写真家との華麗な交流を垣間見ることができる作品群となる。ボウイやエルトン・ジョン、フェイ・ダナウェイなどのハリウッドスターの撮影で有名なテリー・オニール作品、初期ビートルズの写真で知られるアストリッド・キルヒャー作品、またリンダ・マッカートニーから贈られた作品などが鑑賞できる。ヒプノシスのジョン・ブレイクがデザインした「Pink Floyd, Atom Heart Mother(原子心母), 1970」は、東京経堂の事務所玄関に展示してあり、長年にわたり来訪者を出迎えてくれた作品だ。個人的には、若くして亡くなったマーク・ボランが直接サインした「Get it on, London, 1972」の小振りサイズのヴィンテージ・プリントに目が釘付けになった。

ギャラリー OVERGROUNDは、徒歩だと博多駅から約20分程度、古い佇まいの「鏡屋」さんの先、セブンイレブンの裏側の外階段を登った2階にある。開催期間は9月21日(日)までになる。

期間:2025年9月12日(金)〜9月21日(日)
場所:ギャラリー OVERGROUND
福岡市博多区美野島1-17-5寿ビル2F  14:00〜20:00
812-0017 福岡市博多区美野島1-17-5 寿ビル2F
+81 92 984 0896
入場料:一般 500円、学生 無料(学生証の提示)

(ブリッツ・ギャラリー 写真展情報 / 鋤田正義 写真展
“SUKITA : Photographs from Early Fashion to Rock Icons”開催!)
ブリッツ・ギャラリーでは10月下旬から鋤田正義の初期ファッションを中心にした写真展を開催する予定です。60~80年代の未発表ファッション作品約22点とロック系・ポートレートの新作を展示します。ボウイを魅了したことで知られる鋤田のシュールな雰囲気のファッション写真は一見の価値ありです。近日中にプレスリリースを公式サイトに公開予定。会期はまだ先になりますが、ぜひお立ち寄りください!

百瀬俊哉「Silent -scape」展
心に沁みる写真/見どころを紹介

ブリッツ・ギャラリーでは百瀬俊哉「Silent-scape」を開催中。
本シリーズでは、以前に解説したように地球環境問題が意識され、「水」をモチーフにした、ノルウェー、アルゼンティン、エジプト・カイロ、ツバル、ウズベキスタン、ベニスの作品が多くセレクションされている。一見すると外国の美しい都市や風景の写真に見えるが、その背景には私たち人間が宇宙/自然の一部である事実を思い起こさせるアーティストのメッセージが込められている。
作品の背景にあるアイデア/コンセプトが一番わかりやすいのは、7月にソニーイメージングギャラリーで展示する最新シリーズ「地の理 (Chinokotowari) セレニッシマ/ヴェネチア(7月11日~7月24日)」展用の案内状に使用されている水没したベニス市街地の写真だろう。実は地球温暖化の被害が顕在化した最前線の写真なのだが、百瀬はまばゆい色彩の一種ミステリアスな静謐な風景として作品を提示している。逆説的にそのような美しいシーンが地球環境の変化により危機に直面している事実を私たちに訴えているのだ。

「Silent-scape」シリーズの写真は、百瀬独自の一定の撮影ルーティンを経て、自分自身を客観視しながら撮られている。そこには、アマチュア写真家のような風光明媚な風景を撮ろうというエゴが一切ない。それゆえに、彼の風景写真は決して特別な世界ではなく、逆にそれが大きな魅力になっている。それらの写真は、撮影場所がどこであれ、普通に旅先で遭遇するさりげないシーンなのだ。そして、ありきたりの世界だからこそ、私たちは自分の存在を彼の写真世界の中に自然と重ね合わせことができる。見る側は写真家とのコミュニケーションを通して、百瀬の風景写真の魅力に引き込まれていく。

百瀬の撮影地は、日本の東京や博多などの近代的大都市からみれば、辺境と呼べる地域や途上国だろう。しかし特に古代遺跡や未踏のジャングルなどの記録を目指してはいない。ほとんどのイメージに人間の姿はないが、人の気配を感じる、生活の痕跡が残るシーンを多く撮っている。喧騒に満ちた現地マーケットやコミュニティーの中に入り込んで、直接に現地人と対峙してドキュメントするのではなく、あえて距離を置いているように感じる。たぶん彼は誰も知り合いがいない、言葉も通じない外国の地に身を置いて、写真撮影を通して自分自身と向き合っているのだろう。そして一見普通のイメージが私たちの心に沁みるのは、そこに人間の人生や存在をリアルにとらえた彼の生き方が反映されているからだろう。それは、日本独特のムラ意識や皆が一蓮托生のような認識ではなく、アーティストとして孤独と自由を求めて生きる姿勢が反映されている。人はどのように生きようが、所詮一人で生きて死んでいく存在だという、冷徹な人生を見つめる感覚が反映された写真作品は私たちの心を揺さぶるのだ。

本展では、本人制作によるピグメント・インクジェット・プリントも見どころだといえるだろう。使用しているのは、フレスコジグレー・ペーパー(Fresco Giclee paper)。漆喰のシート化技術を応用して開発された表現力豊かな高級ペーパーだ。その特徴は、デジタル画像データを元にしながら、アナログ的な自然な奥行き感のある画像が得られること。再現される画像は、一般インクジェット用紙のようなインク受像層を持たず、光透過性と独自のテクスチャーを持つ「未硬化の漆喰」に顔料インクが浸透することで生まれるとのこと。使用されている漆喰は自然素材「石灰石」で、山口県秋吉台の良質な石灰岩を原材料にしているとメーカーは公表している。興味深いのは、プリント後に漆喰の炭酸化反応によって顔料インクがCaCO₃=炭酸カルシウムの薄膜で覆われ、有機物である顔料インクの酸化劣化を抑える構造に変化するという特徴だ。百瀬によると、プリント後に時間が経過すると、表面に被膜ができて写真が落ち着いてくるという。ただし制作時の取り扱いにはかなり気を遣うと語っていた。特に古い壁面や建築物などの素材、またクルマなどの質感がとても表情豊かに感じる。興味のある人はぜひ会場で実物を見て確かめてほしい。ちなみに、7月にソニーイメージングギャラリーで展示する百瀬の最新シリーズ「地の理 (Chinokotowari) セレニッシマ/ヴェネチア(7.11-7.24)」展では、表面にアクリルを使用しない展示方法が採用されるという。フレスコジグレー・ペーパーの質感そのものが直に確認できるだろう。

百瀬俊哉 写真展 「Silent Scape 静寂の風景」
2025年5月16日(金)~7月6日(日)
プレスリリースは公式サイトで公開中

なお百瀬の在廊予定は、6/28(土)時間未定、6/29(日)終日、を予定。ただし、事前の告知なしに予定を変更、中止する場合があります。あらかじめ、どうかご了解ください。目黒方面にお出かけの際はぜひご来廊ください。

静謐でミステリアスな風景
百瀬俊哉「Silent -scape」展

ブリッツ・ギャラリーは、5月16日(金)から、写真家 百瀬俊哉(1968-)の「Silent-scape(静寂の風景)」展を開催する。当ギャラリーでは、2013年に開催した「Silent Cityscapes」以来の個展で、本展はその続編となる。百瀬は東京都出身、九州産業大学大学院芸術研究科修了。90年代より世界の都市風景を撮影し、写真展や写真集で作品を発表している。作品は、清里フォトアートミュージアム、東京都写真美術館、九州産業大学美術館で収蔵。現在、九州産業大学芸術学部教授を務めている。

百瀬は、7月にソニーイメージングギャラリーで最新シリーズ「地の理 (Chinokotowari) セレニッシマ/ヴェネチア」の個展を開催する。ブリッツの展示は、彼の過去約14年の作品を振り返ることで、ヴェネチアの最新作へと展開していった創作の経緯を紹介する意味合いを持つ。また本展は、前回の写真展後に亡くなった、百瀬の写真集を数多く手がけた窓社の名編集者の西山俊一氏を追悼する写真展でもある。

百瀬の風景写真は、ただ感覚的に優雅で美しいシーンを探して撮影しているのではない。彼には、いま宇宙、自然界、また都市のストリートのどこかで、誰も気付かない見たことがない、心が「はっ、ドキッ」とする、美しく整っている奇跡的な瞬間が出現しているはずだという認識がある。「Silent-scape」シリーズは、そのような日常に出現した宇宙の神秘的シーンを発見し、その瞬間を撮影して集める行為なのだ。撮影時に、彼は自分をニュートラルな心理状態にして、一般的な良い写真を求めるエゴから自由になろうとする。あえて外国に行くのは、自分が生まれ育った日本だと、無意識のうちに様々な歴史文化や社会的な価値観の影響を受けてしまうから。彼は意識的に先入観が全くない外国の環境に身を置いて創作しているのだ。

そして撮影地に着いたら、市内地図を買って、撮影用の4×5インチサイズの大判カメラを持って、全ての通りをひたすら歩き観察を続ける。それは1日8時間にもおよぶこともあるそうだ。外国での撮影なので、時差と疲労により途中で睡魔が襲うこともあるだろう。このように自らを極限に近い状態に追い込んでの撮影では、湧き上がってくる様々な雑念やエゴは完全に消え去っている。撮影セッションは座禅や瞑想も近いような行為で、彼は宇宙もしくは自然のリズムと一体化し、過去にも未来にも囚われずに真に今という時間を生きて、心が「はっ、ドキッ」とする奇跡的な瞬間の訪れを待つのだ。

いま写真は広い意味で現代アートのひとつの表現法になっている。写真家は作品制作した理由をオーディエンスに説明する責任を負う。しかし自然や都市を撮影した写真はアート作品としてのテーマ性を提示するのが非常に難しいカテゴリーだと言われている。今回の百瀬の「Silent-scape」シリーズでは、地球環境問題が意識されている。21世紀のいま、化石燃料を消費して経済成長を続けていく近代の経済モデルは、それが原因で急激な気候変動や環境破壊を世界的に引き起こし、誰もが持続不可能だと感じている。彼は頭で思考するのではなく、自分の内面に向かい心で世界と対峙してこの問題に取り組んでいる。彼は心を落ち着かせて日常にある宇宙の神秘を世界中で探し求める。そして、まばゆい色彩の一種ミステリアスな静謐な風景を通して、逆説的にそのような美しいシーンが地球環境の変化により失われつつある事実を私たちに訴えている。いま地球温暖化によりツバルやベニスの海面水位が上昇しているとマスコミで盛んに報道されている。百瀬のこの地で撮影された風景写真を見て、それらの美しい地が水没の危機に瀕しているという事実に多くの人は気づくのではないだろうか。

また私たちは本作をきっかけにして、広大な宇宙に思いをはせることができるだろう。普段は忘れている宇宙の中の小さな自分の存在に気付かされ、忙しい日常生活を送るなかで、思い込みにとらわれている自分を客観視できるのだ。「Silent-scape」シリーズは、旅立ちから撮影までの一連の創作行為自体が作品の一部になっている。一見すると外国の美しい都市や風景の写真に見えるが、その背景には私たち人間が宇宙/自然の一部であることをもっと意識して行動しようという深淵な現代社会へのメッセージが込められているのだ。

本展では、2011~2024年までにノルウェー、アルゼンティン、エジプト・カイロ、ツバル、ウズベキスタン、イタリア・ベニスで撮影された作品が初公開される。全作品が本人制作によるピグメント・インクジェット・プリントで、漆喰のシート化技術を応用して開発された表現力豊かなフレスコジグレー・ペーパー(Fresco Giclee paper)が使用されている。

ぜひ世界中で撮影された、百瀬俊哉の心洗われる、ミステリアスで静謐な写真世界を堪能して欲しい。

百瀬俊哉 写真展「Silent-scape 静寂の風景」
2025年5月16日(金)~7月6日(日)

公式サイトでは展示作品画像などを公開中

「DUFFY… PORTRAITS」展開催!
ダフィの60~70年代セレブたちのカッコいいポートレイト

新年のごあいさつが遅くなりましたが、今年もよろしくお願いします。

ブリッツ・ギャラリーはダフィー(Brian Duffy 1933-2010)の写真展「DUFFY… FASHION / PORTRAITS」(ダフィー…ファッション/ポートレイト展)のパート2「PORTRAITS(ポートレイツ)」を2025年1月15日から開催します。ダフィーは60~70年代に活躍した英国人写真家。彼は、デビット・ベイリー、テレス・ドノヴァンとともに60年代スウィンギング・ロンドンの偉大なイメージ・メーカーであるとともに、有名なスター・フォトグラファーでした。

ダフィーはパート1で展示したファッションとともに、各界で活躍していた時代を代表するセレブリティーのポートレイトを撮影しています。特に知られているのはデヴィッド・ボウイ(1947.1.8 – 2016.1.10)とのセッションです。70年代に、“ジギー・スターダスト Ziggy Stardust”(1972年)、“アラジン・セイン Aladdin Sane”(1973年)、“シン・ホワイト・デューク The Thin White Duke”(1975年)、“ロジャー Lodger”(1979年)、“スケアリー・モンスターズ Scary Monsters”(1980年)の5回の撮影を行っています。特にアラジン・セインのアルバムジャケットに使用された写真は極めて有名で、「ポップ・カルチャーにおけるモナリザ」とも呼ばれています。2013年夏、ロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館で開催された“DAVID BOWIE is”展では、ダフィーによるアラジン・セイン・セッションでのボウイが目を開いた未使用カット作品が展覧会のメイン・ヴィジュアルに採用され話題になります。同展は2017年東京で巡回開催されています。

ダフィー写真展パート2では、珠玉のポートレイツ合計約30点が展示されます。シドニー・ポワティエ、マイケル・ケイン、アーノルド・シュワルツェネッガー、テレンス・スタンプ、ブリジッド・バルドー、サミー・デイヴィス・ジュニア、ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ニーナ・シモン、ウィリアム・バロウズ、デビー・ハリー、アマンダ・リア、ジョアンナ・ラムリー、ブラック・サバス、ポール・ジョーンズ(マンフレッド・マン)などが含まれます。また、本展ではデヴィッド・ボウイの作品の特集コーナーを設置、5回のセッションで撮影された珠玉の14点を紹介します。

ダフィーのポートレイトの特徴はどんな有名な被写体でも彼の前ではとてもリラックスしていることです。つまり彼は人たらしで、相手の気分を乗せることに長けていたのでしょう。カメラの前の被写体は時に調子に乗って自然でユニークな動きを見せています。ファインアートになるポートレイツは、写真家と被写体が同等な関係性であり、お互いが見たことがないようなビジュアルを作り上げるのだという共通意識を持つことが重要になります。つまり二人は共犯関係で、写真は一種のコラボ作品なのです。だから彼のポートレイトはカッコよく、見る人を魅了するのです。
そのような関係性がないほとんどのポートレイトは単なるセレブの広報や記録を目的とするブロマイド的なつまらない写真になってしまいます。しかし、現代では写真家と被写体がこのような関係性を構築するのは非常に困難でしょう。80年代以降は、大衆消費社会の到来とともにファッションと同様に音楽や映画はビックビジネスへと発展していき、セレブは多くの取り巻きに囲まれるようになります。写真家にとっては自由にコミュニケーションをとって関係性を構築する余地が次第に少なくなっていくのです。

本展で展示されるのは、作家の意思を受け継いだ息子クリス氏が運営するダフィー・アーカイブが監修/制作したエステート・プリント作品です。また日本のコレクター向けに、今回のブリッツでの写真展限定オープン・エディション・プリント(サイン入り作品証明書付き)もリーズナブル価格で特別販売されます。パート1で展示したファッション写真も写真展開催期間中はご注文可能です。またボウイの作品は、ファッション写真よりも小さいスタンダード・サイズ(約19X19cm 、19X12.7cm)のプリントの額装作品も用意しています。(フレーム約28X 36cmサイズ)

ダフィーによる、60~70年代の時代を代表する各界セレブリティーたちの珠玉のポートレイツ作品をぜひご高覧ください!

DUFFY…PORTRAITS ダフィー…ポートレイト展
2025年1月15日 (水)~3月22日 (土)
1:00PM~6:00PM/休廊 月・火・/入場無料
ブリッツ・ギャラリー
〒153-0064  東京都目黒区下目黒6-20-29

公式サイト

「DUFFY… FASHION / PORTRAITS Part-1」
ダフィーの傑作ファッション写真を見逃すな!

ブリッツ・ギャラリーは、主に60 ~ 70年代にかけて、ファッション雑誌、広告、ボートレイトの分野で活躍した英国人写真家ダフィー(Brian Duffy 1933-2010)の写真展「DUFFY… FASHION / PORTRAITS」(ダフィー…ファション/ポートレイツ展)を開催中。ファッション写真中心に展示するPart-1はいよいよ12月22日まで。お見逃しのないように!

彼のファッション写真の特徴は洋服をメインに撮っていないこと。60 ~ 70年代にかけての撮影では、写真家に多くの自由裁量が与えられていた。いまのように、エディター、アート・ディレクター、ファッション・ブランドが撮影に口をはさむことがあまりなかったのだ。ファッション写真は作り物のイメージだからアート性がないという指摘があるが、当時の状況は全く違っていた。広い意味で仕事の写真撮影だが、写真家の自己表現がある程度発揮できたのだ。ダフィーは、ドキュメントの手法をファッション分野に取り入れることで、時代性を作品に落とし込んでいるといえるだろう。いま市場で愛でられているファインアート系のファッション写真は、実はこのように撮影ができた時代の作品が中心になっているのだ。かつてアメリカ人作家スーザン・ソンダクは“偉大なファッション写真は、ファッションを撮影した写真以上のものだ”という発言している。つまり洋服の情報を正確に伝えるファッション写真が存在している一方で、最先端の写真家による洋服販売目的にあまりとらわれないファッション写真が存在するという意味だ。まさにダフィーのこの時代の写真そのものだろう。

その後、大衆消費社会の到来とともにファッションはビックビジネスへと発展していき、写真家の創造力を発揮する余地が次第に少なくなっていく。同時に各種圧力団体による社会的抗議活動が活発化して、雑誌や広告ではタバコや過度の性的表現が自己規制の対象になる。80年代以降、特に規制が厳しいアメリカの雑誌や広告のファッション写真が単なる洋服の情報を伝える面白みがない表現になってしまうのだ。

今回展示しているダフィーの作品では、当時の活気あるロンドンなどの都市のストリートに漂っていた気分や雰囲気が見る側に伝わってくる。ダフィーにとってそれを感じ取り、伝えるツールがモデルでありファッションだった。彼は時代をドキュメントする手段としてファッション写真を撮影していた。

そして彼が積極的に取り入れていたのが、当時の大衆の憧れだったラグジュアリー・カーのジャガーEタイプ、アストン・マーチン、メルセデス・ベンツなど。そして一般大衆にもなじみのある、ミニ、アルファスッド、スクーターのヴェスパなどもファッション写真の小物として取り入れている。元祖スーパーモデルのジーン・シュリンプトンがミニの運転席に座っている写真などは、60年代を生きる若い働く英国女性が、好みのファッションを身にまとい、自分の愛車で自由に動き回るライフスタイルを見事に表現している。また写真集「DUFFY…PHOTOGRAPHER」の表紙のクルマはジャガーEタイプ。お洒落なファッションのショーファー(運転手)とモデルとの気見合わせで、当時の憧れを表現している。

ダフィーが撮影しているモデルのジーン・シュリンプトン(Jean Shrimpton、1942年11月7日生まれ)にも注目したい。彼女は今までの貴族的でグラマラスな雰囲気のモデルとは異なり、長い脚とスリムな体型が特徴。60年代のスウィンギング・ロンドンのアイコンで元祖スーパーモデルなのだ。英国発祥のミニスカートの伝道師としても知られている。シュリンプトンは、写真家デビッド・ベイリー(David Bailey)が見出したと思われているが、実はそれ以前にまだ無名の彼女を起用していたのはダフィーだった。その後に、ベイリーのミューズとして知られるようになる。彼女のニッネームは「The Shrimp」、和訳するとエビちゃん。ある写真家が日本のモデル蛯原友里が彼女にスタイルやヘア・メイクが似ていると指摘していた。本展では、シュリンプトンがモデルのファッション写真コーナーも設置されている。興味深いのは、写真を見比べるに、展示作品がすべて同じモデルだと全く気付かないこと。つまり制作側の意図により、ヘア・メイクやファッションで自由自在に雰囲気やイメージを作り上げることができるモデルだったのだ。同じ英国人モデルのケイト・モスの元祖ともいえるだろう。

ダフィーはその他にも当時を代表するモデルたちを撮影している。昨年に亡くなった、英国生まれの歌手、モデル、俳優のジェーン・バーキン(Jane Birkin, 1946-2023)。フランスの老舗メゾンエルメスの定番バッグ「バーキン」の由来にもなったのはあまりにも有名だろう。ダフィーは、若かりしまだ20歳前後の彼女を1965年に撮影している。そのほかにも、ドイツ出身の元祖スーパーモデルのヴェルーシュカ( Veruschka, 1939-)や、イナ・バルケ(Ina Balke, 1937 )なども起用している。

ダフィーが撮影したカラー写真にも注目してほしい。彼の輝かしい業績にピレリー・カレンダーの撮影を1965年と1973年に行ったことがある。同カレンダーは、イタリアタイヤメーカーのピレリーが1964年から制作されている。一般販売は行われてなく、取引先や重要顧客に配られている。かつてリチャード・アヴェドン、ハーブ・リッツ、ブルース・ウエーバー、ピーター・リンドーバークなど超有名写真家が手掛けている。ちなみに2025年は、イーサム・ジェームス・グリーンが担当。時代が反映された有名写真家によるイメージは、過去に何度も写真集化されている。最近では、2015年に過去50年の作品を収録した「Pirelli. The Calendar. 50 Years And More」(Taschen刊)が刊行。本展ではダフィーが1973年度に撮影した2点を展示している。その他、フレンチ・エルやテレグラフ・マガジンでのカラーによる仕事も紹介。1978年の黄色いアルファスッドを背景に取り込んだ作品などは、何気ないストリートの雰囲気の中で撮影されたように感じるが、実はすべてが完全に計算されつくされているのです。ヴォーグ誌のアート・ディレクターだったアレクサンダー・リーバーマンが、理想の写真だと語ったといわれる”最高のセンスをもったアマチュアで、カメラマンの存在を全く感じさせない(写真)”を思い越す、見ていて飽きない素晴らしいファッション写真の傑作だ。

作品のコレクション情報も伝えておこう。展示作品には、3種類の購入オプションがある。

・Signed Limited Edition Print
有名な代表作品の限定/銀塩写真で、ブライアン・ダフィーのサイン、
アーカイブのスタンプ、クリス・ダフィー直筆サイン入り証明書付き
シートサイズ35X24cm、35X28cm(長方形)、30X30cm(スクエア)
Edition 12~18

・Unsigned Limited Edition Print
主に代表作以外の作品となり、シートにサインはなし、
アーカイブのスタンプ、クリス・ダフィー直筆サイン入り証明書付き
シートサイズ35X24cm、35X28cm(長方形)、30X30cm(スクエア)
Edition 15
デジタル・アーカイバル・プリント

・Open Edition Print /オープン・エディション作品
(ブリッツ・ギャラリーの写真展用限定販売プリント)
アーカイブのスタンプ、財団のクリス・ダフィー直筆サイン入り証明書付き
シートサイズ31X21cm(長方形)、27X27cm(スクエア)
デジタル・アーカイヴァル・プリント、16X20“で額装済

販売価格は、美術館やシリアスなコレクター向けの銀塩プリントによるダフィーのサイン入りのリミテッド・エディションは約50万円からと高額になる。しかしその他の仕様の作品はかなりお買い求めやすい価格設定になっている。特にコレクション初心者向けのブリッツでの写真展限定のカスタム・プリントは、ダフィー・アーカイブの協力により実現したリーズナブル価格の作品。こちらはオープン・ンエディション作品なのだが、アーカイブの作品証明書が付く。展覧会の会期中のみ受注生産作品となる。おかげさまで初心者はもちろんシリアスなコレクターにも大好評だ。

本展パート1ではダフィーの珠玉の28作品を展示、店頭では素敵な写真展カタログも限定数製作して販売中。パート1の会期は12月22日まで、ダフィーのファッション写真の傑作を日本で見る機会はたぶんこれが最後になるだろう。目黒方面にお出かけの際は、ぜひご来廊ください。お見逃しのないように!

パート2では、デヴィッド・ボウイをはじめとしたダフィーの珠玉のポートレイト作品を1月15日より展示する。

20世紀の写真ギャラリー経営
アナログ時代の仕事術(2)

ニューヨークのフォトフェア ”フォトグラフィー・ショー”

21世紀のいま、ネット普及により海外アート情報は現地に行かなくても低コストで手に入るようになった。一方で展覧会やフォトブックの情報は膨大になりすぎて、人々の関心が一気に希薄化している。
私はこの分野を専門にしているのだが、すべての展示や新刊フォトブックの中身を確認するなど不可能だ。質の良い情報の理解と評価にはある程度時間を使っての内容の吟味が必要になる。超多忙な現代人は溢れる情報に対して瞬間的な感情による反応だけになりがちだ。特にSNSではその傾向が顕著になっている。情報の良し悪しの時間をかけての判断がますます行われ難くなっている。

私たちはどうしても、知名度のあるアーティスト、有名美術館、ブランド・ギャラリー、人の目を引くビジュアルに関連する情報に偏って反応しがちになる。新興ギャラリーや出版社が斬新な視点を持った若手アーティストを写真展やフォトブックで紹介しても、その情報が多くが人の目に留まらないで消えていく状況なのだ。
そして一方では多くの業界関係者は、最近は良い作品や優れた新人がいない、文化が停滞していると嘆いている。いま多くの情報の受送信を担う商業的なインターネット環境では、主流でないアートの内容が注目されにくい構造になっているのだ。

ニューヨーク/ソーホー地区のフォト・ギャラリー

また作品の海外での市場価格も誰でも簡単に入手可能になった。20世紀は売り手と買い手の持つ情報が非対称性だった。つまりアート作品やフォトブックについて、両者が持つ情報に大きな格差があり、国内コレクターが海外の作品相場を簡単に知るすべはほとんどなかったのだ。
いまや個人でも海外からの直接購入が可能になったので、輸入業者の利益率は大きく下がった。輸入作品の国内販売価格は、いまでは現地価格に送料を上乗せするくらいになっている。かつては、現地価格に20~50%程度のマージンを上乗せして国内価格が決められていた。インターネット普及による情報の民主化により利益率は一貫して下がり続けた。独自の専門分野を持たない、小売り流通企業経営による高コスト商業ギャラリーは2000年代にはすべてが撤退していった。
企業系ギャラリーは、アートで自身の差別化を目的に運営されるラグジュアリー・ブランド系のみになっている。

マンハッタンの野外アート

また写真メディアのアナログからデジタル化への移行にともない、作品種類も多様化した。現代アート系、ファインアート系、コレクタブル系、インテリア系が生まれた。また低価格の写真関連商品を取り扱うショップ/専門店も現れては消えていく状況繰り返されている。20世紀の海外都市のハイストリートによくあったポスター/フレーム販売業者の新形態だといえるだろう。

特に市場が未整理の日本の業界では、いま作品がランダムに局地的に存在する傾向が顕著だ。それぞれの業者がエゴを抑えて、業界全体を発展させようという機運が盛り上がった時期もあった。しかし伝統的なハイコンテクスト的社会であることと、最近のリベラルな考えが相まって、様々な組織、写真家、業者がバラバラに混在/乱立する状況になっている。グローバルな共通の価値評価基準である、作品制作の背景にあるアイデア/コンセプトの共通理解と、その延長線上の市場確立は成功しなかった。残念ながら90年代の混とん状態に戻ってしまった。

いま作品の情報量が増大し、選択肢が膨大になった。このような状況では、コレクターの将来に残るコレクション構築を手伝うファインアート系ギャラリーの役割は極めて重要になっていると思う。今まで以上に専門性を明確にする必要性に迫られている。そしていまの社会の価値観を見極め、作品への高い目利き力が求められるようになったと感じている。予算額が決まっている美術館は運営自体が目的化する傾向があり、次第に魅力がなくなっていくことがある。最近は、ギャラリーでも同じような状況に陥ることがあり、非常に危険だと考えている。継続を目的化して、運営趣旨を逸脱して取り扱い作品を選ぶようになる事態はぜひ避けたいものだ。情熱を持って語れる取り扱い作品がなくなった時がギャラリスト引退の時だと思う。