現代アート系/20世紀写真作品のいま
シンディー・シャーマン作品が200万ドル越えで落札

2025年秋シーズン定例のニューヨークでのモダン/現代アート系オークションは、11月中旬に開催された。マスコミで話題になったのが、11月18日にサザビーズで行われた“ Leonard A. Lauder, Collector | Evening Auction”に出品された、グルタフ・クリムト(Gustav Klimt)の“Bildnis Elisabeth Lederer (Portrait of Elisabeth Lederer)”。本作は今年亡くなった米化粧品大手「エスティローダー」名誉会長だったレナード・ローダー氏のコレクションで、美術品の歴代高額2位の2億3636万ドル(約354.5億円)で落札された。ちなみに歴代1位は、2017年11月にクリスティーズ・ニューヨークで落札されたレオナルド・ダ・ヴィンチの“サルバトール・ムンディ”で、落札額は4億5030万ドルだった。最近は、高額評価の写真作品も一連のこの分野のオークションに出品されるのが当たり前になっている。ここでは、同カテゴリーに出品された写真作品の市場動向を紹介する。

Sotheby’s NY, Gustav Klimt “Bildnis Elisabeth Lederer (Portrait of Elisabeth Lederer)”

オークションの名称は各業者により異なり、サザビーズは“Now & Contemporary Evening and Contemporary Day Auctions”、クリスティーズは“20th Century Evening, 21st Century Evening, and Post-War & Contemporary Art Day Sales”、フィリップスは“Modern & Contemporary Art Day Sale, Morning and Afternoon Sessions”となる。写真作品の注目作は、クリスティーズに出品されたマン・レイのヴィンテージ作品の“Sade, Pas Terminé, 1933”。落札予想価格は180万~200万ドルだったが不落札だった。今シーズンの最高額落札は、クリスティーズに出品されたシンディー・シャーマンの代表作“Untitled Film Still #13、1978″だった。これは、1978年に製作されたエディション3の、40 x 30 インチ(101.6 x 76.2 cm.)の大判作品。落札予想価格50~70万ドルのところ、227.1万ドル(約3.46億円)で落札された。彼女の初期作品の人気の高さが改めて強く印象付けられた。

Christie’s NY, Cindy Sherman “Untitled Film Still #13、1978″

続くのはサザビーズに出品されたヘルムート・ニュートンの3点の組写真 “Walking Women, Paris、1981”。各135.3 x 113cmの大判サイズ、エディション3のヴィンテージ作品。落札予想価格120~180万ドルのところ、控えめの100万ドル(約1.5億円)で落札された。本作は、2015年4月にフィリップス・ニューヨークで90.5万ドルで落札された作品。当時の落札予想価格は70~90万ドルだった。10年所有して業者手数料などの経費を考えるとかなり厳しいリターンだったと思われる。本作は絵柄が代表作のアザーカットで、特に有名ではない。やはり有名アーティストでも、コレクターは高額でも代表的な作品を求める傾向が強いことが入札に影響しているのだろう。

Sotheby’s NY, Helmut Newton, “Walking Women, Paris、1981”

フィリップスの最高額はアンドレアス・グルスキーのスニーカーのディスプレイを作品化した“Untitled V, 1997”だった。184.5 x 442 cmサイズ、エディション4/6。落札予想価格20~30万のところ、38.7万ドル(約5805円)で落札された。

今シーズンのモダン/現代アート系オークションに出品された、評価が5万ドル以上の高価格帯の写真関連作品の落札率は約78%で、好調な結果だったといえるだろう。

Phillips NY, Andreas Grusky, “Untitled V, 1997”

以前に結果を紹介した、10月のニューヨークの大手業者によるファインアート写真オークションの後には、欧州で中小業者による低価格帯中心のオークションが開催された。Aderパリ、Millonパリ、Leitz Galleryウィーン、OstLichtウィーンなどの結果をみるに、1万ドル以下の低価格帯の20世紀写真の市場が苦戦している印象だ。4つのオークションで、低価格帯の作品は1142点出品され、567点が落札。不落札率は約50.36%で、約半分の作品に買い手が見つからなかった。落札作品もほとんどが落札予想価格の範囲内かそれ以下で、上限を超えることはほとんどなかった。

写真市場黎明期の1980~1990年代には、当時の新しい世代のコレクターがパッションや写真の表層の好みで、まだ割安だったアナログの銀塩写真を買っていた。その世代はいまや高齢化してコレクション整理を考え始めていると思われる。中小業者が取り扱う低価格帯作品の流通量は明らかに増加している。しかし、それに続くデジタルや現代アートに慣れ親しんでいるミレニアル世代/Z世代は、前世代と比べてコレクションの特徴や傾向が変化しているといわれている。パッションだけでなく、作品の背景にあるストーリ性や資産価値も重視するようになってきたのだ。中高価格帯の20世紀写真はそのような要素を持っている場合が多い。しかし低価格帯の20世紀写真の多くでは、文脈が語られるのは稀なのだ。それゆえに伝統工芸品の写真ヴァージョン的な評価を受けるようになっており、新世代のコレクターはあまり興味を示さないのだ。供給が増加しているに需要は伸びていないわけで、結果的に落札率も低迷しているのだと思われる。

また今回の20世紀写真の結果はユーロ圏の市場動向となる。欧州の低調な景気もアート市場に影響を与えている可能性が高いだろう。有名アーティストの代表作品に人気が集中する傾向が今後も続くのか、市場を注視していきたい。

(為替 1ドル/150円換算)

鋤田 正義 写真展
60~80年代のファッション写真の見どころ!
@ブリッツ・ギャラリー

ブリッツ・ギャラリーは、鋤田正義の初期ファッション作品とミュージシャンのポートレートを紹介する「SUKITA : Photographs from Early Fashion to Rock Icons」展を開催中。

本展の見どころで注目して欲しいのは、鋤田のファッション写真が、モデルのスタイリング、ディレクション、ヘアメイクだけでなく、写真のライティング、構図、色合い、デザインなど、ほとんど彼自身の意図とディレクションにより行われていること。そしてその結果生まれた写真を特徴づけているのが、現実離れして、奇抜な、極めてシュールな雰囲気に仕上がった独創的なビジュアルなのだ。
一般的な日本のファッション写真は、商品である洋服の情報提供を目的として制作される。そして洋服デザイナー、アート・ディレクター、編集者の指示で撮影されるのが一般的になっている。業界で優秀だといわれる写真家は、それらの関係者の意向を的確に忖度したビジュアルづくりがうまい人なのだ。残念ながら写真家はカメラ・オペレーターで、そこにはクリエイティブな要素は全くない。当然、それらの写真に表現上の面白さは全くないのだ。

しかし鋤田のファッション写真の場合、彼は洋服自体をメインに撮影していない。たぶん彼は当時の活気ある気分や雰囲気は、シュールで自由なスタイリングや色彩を通して表現できると感じ、それを写真を通して伝えようとしたのだろう。ファッション写真を通して写真家がパーソナルに感じた時代性を表現しようとしたわけで、まさに欧米のファインアートに成りうるファッション写真と同じ構図で制作されているのだ。写真に撮影者の感動が落とし込まれているから、同じような時代感覚を持つ人たちとのコミュニケーションが起き、彼らを魅了するのだ。

そしてその鋤田の感性はまさにデヴィッド・ボウイの持っていた”現状維持バイアスにとらわれないためにシュールな感性を愛でる”という世界観と重なるのだ。70年代前半の英国では、歌舞伎の上演や浮世絵の展示があり、西洋と全く異質な日本文化の存在が紹介されていた。ボウイは間違いなく、それらを奇抜でシュール存在に感じたと思われる。その影響は、その後のステージ衣装、メイク、スタイリング、パフォーマンスに反映されていく。特に山本寛斎が1973年に制作した舞台衣装「Tokyo Pop」は、幾何学的ラインと鮮烈な色彩を持ち、歌舞伎衣装の大胆さや誇張されたシルエットが反映されている。そのような問題意識を持ったボウイの前にまだ30歳代の若い無名の日本人写真家鋤田が現れたのだ。彼は自分が求めていた日本文化のエッセンスを鋤田の写真の中に見出したのだと思われる。二人の出会いは本当に絶妙なタイミングに起きたといえるだろう。
今回展示している一連の鋤田の初期ファッション写真を見るに、その一部だけを見て鋤田のオリジナリティーを見抜いたボウイの目利きは本当に凄いと思う。その後、約40年にわたって続く二人の信頼関係の原点のファッション写真の紹介が、本展開催の趣旨であり、一番の見どころなのだ。

作品展示に際して、当時の情報を鋤田本人に確認してみた。しかしかなり昔の撮影だったので本人の記憶はあまりはっきりしていなかった。想像するに、これだけ自由に撮影できたのは、多くがファッション雑誌等のエディトリアル・ページに掲載された作品だったからだと思われる。
“1981-ryuko-09”は、雑誌の流行通信に掲載された作品とのこと。同誌はデザイナー森英恵のPR誌からスタートした歴史あるファッション誌。当時の流行通信は、撮影時に写真家にかなり自由裁量を与えていたと思われる。あの横尾忠則がアート・ディレクターだったり、なんと横尾本人、藤原信也、浅井慎平もファッション写真を撮影しているのだ。

鋤田はミュージシャン坂本龍一の1981年のアルバム“左うでの夢”のジャケット写真を手掛けている。本展の展示作品 “1981-ryuko-09”も顔と左腕が白く塗られており、たぶん坂本作品のオマージュではないかと思われる。
また、案内状にも使用した、カラフルでアシッド感あふれる動きのある“Motion Blur series“はカメラ毎日に掲載された記録があるそうだ。あるコレクターから、雑誌プレイボーイに掲載されたのを見た記憶があると指摘があった。カメラ雑誌に撮りおろしはあまりないので、その可能性はあるようだ。

また当時の元祖日本人スーパーモデル山口小夜子が被写体の作品も3点展示されている。このファッションは山本寛斎デザインとのこと。またこちらは別のコレクターから資生堂の広報誌「花椿」に掲載された作品ではないかとの指摘があった。これらの情報の真偽は鋤田本人に確認中だ。もし当時の資料を持っている人がいたらぜひ提供して欲しい。ギャラリーとしても、作品展示をきっかけとして初期ファッション写真の撮影に関わる情報アーカイブを充実させたいと考えている。

鋤田作品の魅力は、写真と対峙することで見る側に様々なストーリーや想像が生まれること。それらの物語を通して、ファッション写真に意味が紡ぎだされるからこそ、多くのコレクターを魅了し続けるのだと思う。年内の展示は12月21日(日)まで、ぜひご覧ください!

“SUKITA : Photographs from Early Fashion to Rock Icons”
2025年10月29日 (水)~2026年2月15日 (日)
水曜~日曜、 1:00  PM~ 6:00  PM
月曜火曜は休廊、
年末年始休廊:12月24日~1月9日、
*年内の最終営業日は12月21日(日)となります。
入場無料
ブリッツ・ギャラリー