2021年前期の市場を振り返る アート写真のオークション高額落札

2021年前半のアート写真主要オークション・スケジュールは、クリスティーズ・パリで6月29日開催された「Photographies」で終了した。7月のアート界は通常は夏休みシーズンにはいるのだが、今年はササビーズ・パリがファッション写真家パオロ・ロベルシの作品やコレクションを特集した「In the Studio of Paolo Roversi」を7月9日にオンライン開催している。昨年ほどではないにしても、パンデミックによる開催スケジュールへの影響はまだ残っているようだ。
昨年前期と比べると、オークション数は18から21に増加。昨年12もあったオンライン・オークションは6に減少。オークション業界は1年の経験から今回のパンデミック時代に合った業務形態を模索し適応してきたといえるだろう。

昨年の前半はパンデミックの環境下で、開催延期が頻発して、オンライン中心の極めて異例なオークション開催が続いた。今年との比較はあまり意味がないと思うが、出品数はほぼ同数の2611点、落札率は68%から73.6%に改善した。総売り上げは約32億円で、昨年同期比で約59%アップしている。1点の落札単価が約168万円と約49%アップしたことが影響している。これは、4月21日にササビーズ・ニューヨークで開催された、「50 Masterworks to Celebrate 50 Years of Sotheby’s Photographs」で、高額落札されたタルボットとリー・ミラー作品による影響が大きいと思われる。まだ相場はやっと通常モードに戻ってきたような印象だ。
今後の見通しだが、ワクチン接種は進んでいるが、変異株などのよる不透明要素が残る状況が続いている。秋シーズンのオークションに、相場回復期待から高額作品の出品がどれだけ戻ってくるかにかかっているだろう。

私どもは現代アート系と19/20/21世紀写真中心のアート写真とを区別して継続分析を行っている。厳密には、アンドレアス・グルスキー、マン・レイなどは作品評価額によって両方のカテゴリーに出品される。しかし、統計の継続性などを鑑み、ここでは出品されたカテゴリー別の高額落札作品のランキングを制作している。それではアート写真オークションでの高額落札をみてみよう。

◎19/20/21世紀写真部門

1.ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボット
“Henry Fox Talbot’s Gifts to his Sister: Horatia Gaisford’s Collection of Photographs and Ephemera, 1820-1824, 1844, 1845-1846”
(salt Print の写真作品とアルバムのセット)

ササビーズ・ニューヨーク、
50 Masterworks to Celebrate 50 Years of Sotheby’s Photographs 、4月21日、
195万ドル(約2.15億円)

2.リー・ミラー
“Nude, 1930”

ササビーズ・ニューヨーク、
50 Masterworks to Celebrate 50 Years of Sotheby’s Photographs 、4月21日、
50.4万ドル(約5544万円)

3.マン・レイ
“Le Violon d’Ingres, 1924/1950s”

クリスティーズ・ニューヨーク、
Photographs、4月6日、
47.5万ドル(約5225万円)

4.ロバート・フランク
“Trolley-New orleans, 1955”

フィリップス・ニューヨーク、
Photographs、4月8日、
40.3万ドル(約4435万円)

5.マン・レイ
“Erotique voilee, 1933”(9作品)

クリスティーズ・パリ、
Man Ray et les surrealistes. Collection Lucien et Edmonde Treillard、3月2日、
31.25万ユーロ(約4062万円)

◎現代アート系

現代アート系ではリチャード・プリンス作品が200万ドル越えで落札されている。久々に高額評価の作品が市場に戻ってきたのだ。彼の作品は写真でも現代アートと同じカテゴリーでの取り扱いとなる。同じオークションではジャン・ミシェル・バスキアのアクリル製絵画“In This Case, 1983”が9310.5万ドル(約102.4億円)で落札されている。

1.リチャード・プリンス
“Untitled (Cowboy), 2000”

クリスティーズ・ニューヨーク、
21st Century Evening Sale、
5月11日
219万ドル(約2.4億円)

2.ジョン・バルデッサリ
“Dining Scene (Two Greys) with Disruption at Source (Red, Yellow, Blue), 1990”
クリスティー・ロンドン、
Post-War and Contemporary Art Day sale、
3月25日、
31.25万ポンド(約4750万円)

(1ドル/110円、1ポンド・152円、1ユーロ・130円)

リチャード・プリンス作品が高額落札 NY現代アート系オークション

春のニューヨーク現代アート系オークションで、リチャード・プリンス作品が写真関連では久しぶりに200万ドル越えで落札された。
クリスティーズ・ニューヨークでは、新しい3カテゴリー分けのオークションが5月11日から13日にかけて開催された。
“21st Century Evening sale” は1980年から現代までの作品、“20th Century Evening sale”は、1880年から1980年の作品、“Post-War and Contemporary Art Day sale” は主に低価格帯作品が出品された。ちなみに、“21st Century Evening sale” では、ジャン・ミシェル・バスキアのアクリル製絵画“In This Case、1983”が、9310.5万ドル(約102.4億円)で落札されている。

写真の最高額も同じオークションに出品されたリチャード・プリンス(1949-)の“Untitled (Cowboy), 2000”だった。落札予想価格100万~150万ドルのところ219万ドル(約2.4億円)で落札。132 x 184.1cmサイズ、エディション2/AP1のエクタカラー・プリント、ブランド・ギャラリーのガゴシアンが取り扱ったという来歴の作品だ。

Christie`s NY, Richard Prince “Untitled (Cowboy), 2000”

リチャード・プリンスは、70年代後半から80年代前半にかけて、シンディ・シャーマン、バーバラ・クルーガー、シェリー・レヴィンなど、「ピクチャーズ・ジェネレーション」と呼ばれる若手アーティストたちとともに登場してきた。既存の広告や写真を再度撮影することで、イメージを「流用(appropriation)」し、新たな文脈の作品として提示した。これは作品のオリジナリティや神聖さを疑うポストモダン的なアプローチだと言われている。プリンスは約40年にわたって「Untitled (Cowboy)」シリーズで、アメリカの象徴であるカウボーイにこだわり続けてきた。カウボーイは、アメリカの最初の開拓者たちを鼓舞したワイルド・ウェストの憧れを呼び起こすとともに、西部開拓者たちの勤勉さ、決意、独立精神を象徴している。オリジナルの「カウボーイ」シリーズは1980~84年年に制作。それらは70年代後半から80年代前半にかけてのマルボロのタバコ広告を10×14インチサイズで表現したものだった。本作は、プリンスが2000年頃に制作を開始した「カウボーイ」シリーズの第2弾。デジタルスキャナーを使って加工し、現代アート的な巨大サイズに拡大。しかし、プリンスは意図的に作品にオリジナルの粒状性を残している。これによりオリジナル画像が雑誌広告であることが強調されているのだ。

シンディー・シャーマン(1954)の“Untitled #150,1985”は、落札予想価格60万~80万ドルのところ52.5万ドル(約5775万円)で落札された。125.7 x 168.5 cmサイズ、エディション6/AP1のタイプCプリント。こちらもブランド・ギャラリーで、2021年末に閉廊するメトロ・ピクチャーズが取り扱ったという来歴の作品だ。本作は、1985年のメトロ・ピクチャーズで個展で展示された「Fairy Tales」シリーズの重要作品。彼女は、子供向けのおとぎ話に隠された深い闇からインスピレーションを得て創作。グロテスクさと魅惑的な雰囲気が象徴的に表現された作品で、アーティストにとって重要なコンセプトの出発点と言われている。同作は、その後の彼女の作品の多くに影響を与えており、作家に関する文献/資料にも広く引用されている。

Christie’s NY, Cindy Sherman, “Untitled #150,1985”

一方でサザビーズ・ニューヨークでは、5月12日から13日にかけ“Contemporary Art”の2回のオークションを開催。こちらも最高額はリチャード・プリンスの「Untitled (Cowboy)、1993」だった。落札予想価格20万~30万ドルのところ40.32万ドル(約4435万円)で落札された。50.8x 61 cmの小さめサイズ、エディション2/AP1のエクタカラー・プリント。

シンディー・シャーマンの「Cover Girl (Vogue),1976-2011」は、落札予想価格6万~8万ドルのところ16.38万ドル(約1801万円)で落札。小ぶりの26.7 x 20.3 cmサイズの3点組作品、エディション3/AP1のゼラチン・シルバー・プリント。
サザビーズに出品されたのは、有名現代アート系アーティストによる、“Photographs”で取り扱われるような小さいサイズの作品。彼らの代表的作品はサイズが小さくても高額で取引されるようになってきたようだ。

ここ数年、現代アート系を含めて写真関連作品の高額落札はあまり多くなく、2017年からは、200万ドル超えの落札はなかった。リチャード・プリンス作品でも、2018年秋のサザビーズ・ニューヨーク“Contemporary Art”において169.5万ドルで落札された「Untitled (Cowboy), 2013」以来となる。新型コロナウイルスの経済対策として世界中の政府が行っている積極財政策と中央銀行による超金融緩和の影響だと思われる。米国の中銀に当たるFRBが出口戦略の模索を開始したとの報道も見られる。有名アーティスト/写真家の代表シリーズへの人気集中は続くのだろうか?今後の動向を注視していきたい。

(為替レート 1ドル/110円で換算)

2021年春
NYファインアート写真市場
最新オークション・レビュー!

通常は4月に集中的に行われる大手3業者によるニューヨーク定例アート写真オークション。2020年は、前例のないコロナウイルスの感染拡大により、開催時期の変更、オンライン開催などと各社がそれぞれの手探りの対応を行った。1年の経験で、オークションはオンラインなどを有効的に活用することで十分に機能することが証明された。

今シーズンは、約1年ぶりに大手3社の複数委託者による“Photographs”オークションが4月に集中して行われた。クリスティーズは、4月6日、ササビーズは、4月7日、フィリップスは、4月8日に開催している。
今春の大手3社のオークションでは、トータル557点が出品された。コロナ禍で昨年の開催時期が変則になり、単純比較はあまり意味がないかもしれないが、昨年秋は709点、昨年春は1074点の出品数だった。平均落札率は73.2%、昨秋の67.7%より改善。ちなみに昨年春は74.4%だった。
今春は総売り上げが約969万ドル(約10.65億円)だった。昨秋は約765万ドル、昨春は約1368万ドル。2期続けて1000万ドル割れは、2003年春/秋シーズン以来となる。今春の結果は、過去5年間10シーズンの売上平均と比べても約33.8%減となる。リーマンショック後は、2009年春に大きく売り上げが減少しているが、2009年秋には急回復していた。今回の結果はコロナウイルス感染拡大が長引いていることが影響していると思われる。しかし1点の落札単価は約2.3万ドルに改善している。昨秋は約1.59万ドル、昨春は1.71万ドルだった。(過去5年間10シーズンの売上平均と比べて約12.9%減) 落札額単価の上昇は高額作品の出品が増えたことを意味する。コレクターの市場先行きの過度な不安感が減少したと解釈したい。

業者別では、売り上げ1位は約541万ドルのフィリップス(落札率80.4%)、2位は約219万ドルでクリスティーズ(落札率63.3%)、3位は209万ドルでサザビース(落札率70.3%)だった。
今シーズンの最高額は、クリスティーズ“Photographs”に出品されたマン・レイの代表作“Le Violon d’Ingres, 1924”。これは50年代に制作された作品で、落札予想価格20万~30万ドルのところ47.5万ドル(約5225万円)で落札された。本作は1995年10月5日のクリスティーズ・ニューヨークのオークション“Photographs, Part 1”で4.83万ドルで落札された作品。ちなみに1年複利で諸経費を無視して単純計算すると約25年で約9.33%で運用できたことになる。

Christie’s NY “Photographs”, Man Ray“Le Violon d’Ingres, 1924”

2番は、フィリップス“Photographs”オークションに出品されたロバート・フランクの代表作で写真集「The American」の表紙作品の、“Trolley-New Orleans, 1955”。落札予想価格15万~25万ドルのところ40.32万ドル(約4435万円)で落札された。“1956”と日付とサインが入った貴重なヴィンテージ作品。

Phillips NY, “Photographs”, Robert Frank “Trolley-New Orleans, 1955”

続いたのは、クリスティーズ“Photographs”に出品されたルイス・W・ハインの代表作“Mechanic and Steam Pump, 1921”。落札予想価格10万~15万ドルのところ27.5万ドル(約4435万円)で落札された。本作は1994年4月20日のクリスティーズ・ニューヨークのオークション“Photographs, Part 1”で9.05万ドルで落札された作品。ちなみに1年複利で諸経費を無視して単純計算すると約26年で約3.99%で運用できたことになる。

Christie’s NY, “Photographs”, Lewis Hine “Mechanic and Steam Pump, 1921”

上記のマン・レイ作品とルイス・W・ハインとの利回りの違いは、過去25年間に写真の評価基準が大きく変化したことが如実に反映されている。90年代、ファインアート写真は、他のアート分野と独立して存在していた。そこでは、撮影後数年以内に制作されたヴィンテージ・プリントが極めて珍重されていたのだ。94年のルイス・W・ハインの落札予想価格は7万~9万ドルで、マン・レイの95年当時の落札予想価格は1.2万~1.8万ドルにとどまっていた。2021年では写真は大きな現代アート市場における表現の一部だと考えられるようになった。ファインアートとして認知されているマン・レイ作品と、骨董的価値が高いルイス・W・ハインの20世紀ヴィンテージ作品の評価は逆転したのだ。ルイス・W・ハインの落札予想価格は10万~15万ドルにとどまっているが、マン・レイは落札予想価格20万~30万ドルに大きく上昇している。
市場における評価基準の変化は「ファインアート写真の見方」(2021年玄光社)に詳しく書いてある。興味ある人はぜひご一読ください。

いまニューヨーク・ダウの株価は金融緩和の継続やワクチン接種進行を背景に高値で推移している。しかしワクチン接種による感染収束や楽観的な景気回復予想など、すでに市場は良いニュースを大方織り込んでいると思われる。実際のところ、日本や欧州では感染者数が再上昇している。日本の一部都市では、まん延防止措置法が適用、欧州の一部都市ではロックダウンが再度実施されている。またこれらの地域ではワクチンの普及も遅延している。市場が楽観視するほど新型コロナウイルスの感染問題は世界規模では簡単に解決しない可能性もあるだろう。株価とアート市場とは関連があると言われている。富裕層のコレクターは株を持っているからだ。先行きに予断は許されないが、今後にコロナウイルスの感染者数が減少に転じ、株価も順調に推移すれば、高額作品の出品も増えてオークションの売り上げも回復してくると思われる。しかしリーマンショック後の2019年秋のような、急激なV字回復は難しいと思われる。

ルース・オーキン単独オークション開催
アート写真オークションレビュー

2021年のファインアート写真オークションが2月2日から始まった。中堅業者のボナムス・ニューヨークで米国人女性写真家(Ruth Orkin, 1921-1985)の単独オークションが開催された。彼女は女性フォトジャーナリストの草分け的な存在。フリーランスとして雑誌の「ライフ」、「ルック」などの仕事で世界中で撮影旅行を行っている。フォトブックでは、ニューヨーク市のアパートからセントラルパークをカラーで撮影した「A World Through My Window」(Harper Collins, 1978)が知られている。1995年にはニューヨークの国際写真センター(ICP)で回顧展が開催されている。今回の単独オークションは、彼女の生誕100年を記念するとともに、最近の20世紀に活躍した女性写真家の再評価の流れの一環だと思われる。ファインアート市場がまだ成熟していなかった1985年に亡くなっていることからサインが入ったプリント作品の流通量は多くないと思われる。

今回の総売り上げは約17.63万ドル(約1851万円)、54点が出品されて33点が落札、落札率は約61.1%だった。最高額は彼女の代表作<<An American Girl in Italy (1951)>> で、US$ 52,812(約554万円)だった。

Bonhams NY, Photographs by Ruth Orkin, “American Girl in Italy, 1951”

フローレンスの市街地を、一人のアメリカ人女性がやや不安げに大勢のイタリア人男性に声をかけられる中をさっそうと歩く作品。女性の海外一人旅の楽しさを表現した彼女の名作。本作は演出されたものではないという、文脈が語られることで魅力が一層高まる作品だ。

興味深いのは、本オークションには同作のモダンプリントが複数点出品されていたこと。上記の最高額で落札されたのは80.7 x 122cmサイズの、サイン付き大判作品だった。一方で10.5 x 21.2cmサイズの、クレジット、写真家アドレス、スタンプのみ、サインなしの作品はUS$ 1,020(約10.7万円)、28 x 35.5cmサイズのサイン入り作品は US$ 12,750(約133万円)だった。作品のサイズ、サインの有無が相場に与える影響が明確に反映されていたと思う。

本オークションは、彼女の関連アイテムも一緒に出品している。オーソン・ウェルズから彼女への手紙、作品が掲載されたカタログ、カメラとカメラバックも出品されていた。1955年に購入されたニコンF、50㎜と135㎜レンズ、カメラバックは、 US$ 1,402(約14.7万円)で落札されている。
同ロットには、「A Photo Journal, Viking Press, 1981」に掲載された、以下のような彼女のコメントが紹介されていた。
“写真を撮るということは、被写体の人に「これを見てください」「あれを見てください」とお願いすることだと思っています。自分が撮った写真が、それを見た人に自分が意図したことを感じてもらえれば、目的は達成されたことになります。”
作品売買の場であるオークションだが、そこでも作品の価値を高めるために様々な写真家の情報が提供されていのだ。

(為替 1ドル105円で換算)

2020年オークション高額落札ランキング
20世紀ファッション写真が大健闘 アヴェドンが第1位!

2020年は、ファイン・アート写真市場にとって波乱の1年だった。2月にロンドンで開催された大手業者の現代アート系オークションまでは通常通りに実施された。しかし3月には、ニューヨーク、ロンドンなどで新型コロナウイルスの感染が拡大、都市のロックダウンが発生。通常は春と秋に行われるオークション・スケジュールは中止または延期を余儀なくされた。そしてオークションは、多くの人が集まる華やかなライブから、無参加者のオンライン/電話へと大きく運営システムが変化することになる。またスケジュールの遅れから、通常は夏休みに入る7月まで、また年末の12月になってからも、単独コレクション、企画もののオンライン・オンリーの複数セールが複数業者により開催される事態となった。少なくとも、2020年は各オークションハウスの努力により、オンライン・オークションが十分に機能することは明確になった。

2020年は世界中の写真作品中心の37のオークションをフォローした。いまや現代アート系オークションの一部にアーティストによる写真作品や高額な20世紀写真が当たり前に出品されている。それらを取り出して、集計に加えるという考え方もあるが、ここでは比較可能な統計数字の一貫性を保つために除外している。ただし、高額ランキングには現代アート系オークションの落札結果を反映させている。しかし、例えばジョン・バルデッサリ(1931-2020)の作品などには、写真素材を使ったコンセプチュアルな混合作品がある。それらを写真作品に含めるかどうかの解釈は分かれると思う。またオークションは世界中で開催されている。今回の集計から漏れた高額落札もあるかもしれない。もし漏れた情報に気付いた人はぜひ連絡してほしい。また為替レートは年間を通じて大きく変動している。どの時点のレートを採用するかによって、ランキング順位が変わる場合もある。それらの点はどうかご了承いただきたい。
以上から、本ランキングは写真作品の客観的なランキングというよりも、アート・フォト・サイトの視点によるものなのだ。

さて2020年のオークション市場で特筆すべきは、オンラインのシェアー急拡大だ。出品点数ベースで約45.7%、落札金額ベースで33%となった。昨年までは、オンライン・オークションは低価格帯作品を取り扱う場だった。コロナウイルス感染拡大で状況は様変わりした。2019年のオークション・データと比較すると、2020年の特徴が見えてくる。出品点数は5452点から6276点に増加、落札率は約65.94%から67.88%に上昇している。開催地の通貨が違うので円貨換算して比較した落札金額合計は、73.13億円から50.8億円に約31%減、1点の単純落札単価も203万円から119万円に大きく減少している。相場の見通しが極めて不透明なことから、高額評価の作品の委託者は出品を先送りする傾向が明確に見られた。
逆に中低価格帯の作品は換金売り的な売却も目立った。出品数は高額価格帯が減少し、中低価格帯が増加したのだ。

落札ランキングでは、ここ数年の市場の低迷から特に現代アート系の高額落札件数が大きく減少している。2016年以来、300万ドル越えの高額落札は記録されていない。2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響による市場の先行き不透明感から、現代アート系の高額作品の不落札が相次いだ。その影響から年後半には高額の写真作品の出品取り止めが多く見られた。
2020年の現代アート系第1位は、ササビーズ・ニューヨークで6月29日に開催された“Contemporary Art Evening Auction”に出品されたリチャード・プリンスの約152X228cmサイズ、エディション1/2のタイプCプリント作品「Untitled (Cowboy),2015」で、約128万ドル(@110/約1.4億円)だった。しかし総合順位では第2位となる。

Sotheby’s NY, “Contemporary Art Evening Auction”, Richard Prince, 「Untitled (Cowboy),2015」


2020年の高額落札は、7月10日にクリスティーズが実施した企画オークション“ONE, a global 20th-cantury art auction”に出品されたリチャード・アヴェドンの代表作「Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955/1979」。約203X161cmサイズ、エディション9/10の銀塩プリント作品で、落札予想価格は80~120万ドルのところ、なんと作家最高落札額の181.5万ドル(約1.99億万円)で落札されている。

Christie’s “ONE, a global 20th-cantury art auction”, Richard Avedon「Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955/1979」

2019年は、総合の高額落札ベスト10のうちの20世紀写真系が1位を含む7作品を占めた。2020年も、20世紀写真系が1位を含む5作品を占めている。特にササビーズ・ニューヨークで12月に開催されたアンセル・アダムスの単独セールの“A Grand Vision: The David H. Arrington Collection of Ansel Adams Masterworks”では、高額落札が相次いだ。総合3位になったのは、60年代にプリントされた、約98X131cmサイズの銀塩プリント作品の「The Grand Tetons and the Snake River, Grand Teton National Park, Wyoming, 1942」で、98.8万ドル(約1.08億円)の作家最高落札額を記録している。

2020年は、各オークションハウスの努力により、セカンダリー市場はコロナ禍でもオンライン・オークションなどを取り入れることで十分に機能することが証明された。2021年も同じようなやり方が踏襲しつつも、新たな企画の試行錯誤が行われると予想される。ただし、委託者は引き続き高額評価の作品の出品を先送りするだろう。

一方でプライマリー市場のギャラリーは、業務の100%オンライン化は難しい。新型コロナウイルス感染拡大が一向に収まる気配を見せない中で、2021年の展示企画に本当に頭を悩ませていると聞いている。多くの集客なしでも経営が持続可能な企画を考えないといけないのだ。特に若手新人を中心に取り扱っているところが厳しいと思う。今春以降の市場動向に注視していきたい。

総合順位

1.リチャード・アヴェドン
「Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955」
クリスティーズ “ONE, a global 20th-cantury art auction”
2020年7月10日開催
約1.99億円

2.リチャード・プリンス
「Untitled (Cowboy), 2015」
ササビーズ・ニューヨーク “Contemporary Art”
2020年6月30日開催
約1.4億円

3.アンセル・アダムス
「The Grand Tetons and the Snake River, Grand Teton National Park, Wyoming, 1942」
ササビーズ・ニューヨーク “A Grand Vision”
2020年12月14日開催
約1.08億円

Sotheby’s NY,“A Grand Vision: The David H. Arrington Collection of Ansel Adams Masterworks”, Ansel Adams 「The Grand Tetons and the Snake River, Grand Teton National Park, Wyoming, 1942」

4.アンセル・アダムス
「Half Dome, Merced River, Winter, Yosemite Valley, 1938」
ササビーズ・ニューヨーク “A Grand Vision”
2020年12月14日開催
約7,540万円

4.アンセル・アダムス
「Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941」
ササビーズ・ニューヨーク “A Grand Vision”
2020年12月14日開催
約7,540万円

6.バーバラ・クルーガー
「Untitled (Don’t Shoot), 2013」
クリスティーズ・ニューヨーク “Post-War and Contemporary Art”
2020年10月7日開催
約7,425万円

7.ゲルハルド・リヒター
「Untitled (Park), 1990」
クリスティーズ・ニューヨーク “Post-War and Contemporary Art”
2020年2月12~13日開催
約7,045万円

8.ラースロー・モホリ=ナジ
「Photogram cover for the magazine Broom, 1922」
ササビーズ・ニューヨーク “Photographs”
2020年3月24日~4月3日開催
約5,764万円

9.ティナ・モドッティ
「Interior of Church Tower at Tepotzotlan, 1924」
ササビーズ・ニューヨーク “Photographs from the Ginny Williams Collection”
2020年7月14日開催
約5,500万円

9.杉本博司
「North Atlantic Ocean, Cape Breton Island, 1996」
クリスティーズ・ニューヨーク “Post-War and Contemporary Art”
2020年10月7日開催
約5,500万円

為替レート(1ドル/110円、1ポンド/140円)

2020年秋/ロンドン・パリ アート写真オークションレビュー

通常は11月に開催されるフォトフェアー「Paris Photo」に合わせて行われる大手業者によるパリ/ロンドンの定例公開アート写真オークション。今シーズンは、春と同様にコロナウイルスの影響により、開催時期の変更、オンライン開催などと各社がそれぞれの対応を行った。

フィリップスは、“Photographs”オークションを日程前倒しで9月25日にロンドンで開催。ササビーズは、10月14日にロンドンで“Photographs”をオンライン開催、クリスティーズは、11月10日にパリで“Photographies”を開催している。
個別の結果は、業者によってかなりばらつきがあった。

フィリップス・ロンドンの“Photographs”は、予想外に良い結果で市場関係者を驚かせた。総売り上げ約270万ポンド(約3.78億円)、173点が出品されて149点が落札、落札率は約86.1%と良好な結果だった。
高額落札には、リチャード・アヴェドン、マリオ・テスティーノ、ハーブ・リッツなどのアート系ファッション写真が続いた。最高額はマリオ・テスティーノの、“Exposed, Kate Moss, London, 2008”だった。

Phillips London “Photographs”, Mario Testino “Exposed, Kate Moss, London, 2008”

これは230X170cm、エディション2の大判カラー作品。ヴォーグ誌英国版の2008年10月号に掲載された作品。落札予想価格8~12万ポンドのところ、23.5万ポンド(約3,290万円)で落札された。
続くはリチャード・アヴェドンの“Brigitte Bardot, hair by Alexandre, Paris, January 27, 1959”。約58.7X51cmサイズ、エディション35もモノクロ銀塩作品。ハ―パース・バザー誌1959年3月号に掲載された作品。落札予想価格18~22万ポンドのところ、21.25万ポンド(約2,975万円)で落札されている。

一方で、ササビーズ・ロンドンのオンライン開催の“Photographs”は苦戦を強いられた。総売り上げ約107.7万ポンド(約1.50億円)、149点が出品されて77点が落札、落札率は約51.6%と非常に厳しい結果だった。
特に高額価格帯が不調で、最高額の落札予想作品だった、今年亡くなったピーター・ベアードの巨大サイズ作品“Large Mugger Crocodile, Circa 15-16 Feet, Uganda,1966”は、落札予想価格10~15万ポンドだったものの不落札。トーマス・シュトルートの“MUSEE D’ORSAY I’, PARIS, 1989”も、落札予想価格8~12万ポンドだったが不落札だった。最高額で落札されたのは、これもフィリップス・ロンドンと同じマリオ・テスティーノの、“Exposed, Kate Moss, London, 2008”だった。こちらは、サイズが多少小さい180X125cm、エディション3の作品。落札予想価格6~8万ポンドのところ、7.56万ポンド(約1,058万円)で落札された。
この中で好調な結果を残したのが、ウォルフガング・テイルマンズ。8点が出品されて7点が落札。そのうち5点が落札予想価格上限越えの高値による落札だった。

Sotheby’s London “Photographs”, Wolfgang Tillmans ““PLAN, 2007”

最高額は人気の高い抽象作品“PLAN, 2007”。61X50.7cmサイズの1点もの作品。落札予想価格3~4万ポンドのところ、4.78万ポンド(約669万円)で落札された。

クリスティーズ・パリの“Photographies”は、結果が極端だった上記2つのオークションと比べるとちょうど平均的だった。総売り上げ約209.9万ユーロ(約2.62億円)、129点が出品されて90点が落札、落札率は約69.7%だった。
最高額はヘルムート・ニュートンの代表作“Elsa Peretti as a Bunny, Costume by Halston, New York, 1975”だった。

Christie’s Paris “Photographies”, Helmut Newton “Elsa Peretti as a Bunny, Costume by Halston, New York, 1975”

これは102X67cmの大判作品。落札予想価格12~18万ユーロのところ、なんと40万ユーロ(約5000万円)で落札された。同作は2005年10月にクリスティーズ・ニューヨークで開催された“The Elfering Collection”に出品され9.84万ドルで落札されている。為替レートの違いで単純比較はできないが、円貨に直すとが2005年当時のドル円は1ドル/114円だったので、約1,121万円、2020年11月のユーロ円レートが125円なので約5,000万円になった計算になる。約15年で1年複利で約10.482%で運用できた計算になる。
続いたのはアーヴィング・ペンの「Small Trades」シリーズからの約49X37cmサイズのプラチナプリント“Lorry Washers, London, 1951”。落札予想価格6~8万ユーロのところ、11.875万ユーロ(約1484万円)で落札されている。ちなみにペンの同シリーズからは4点が出品されているがいずれも落札予想価格範囲内から上限越で落札。高額落札順位では2位~5位を占めていた。

今秋のロンドンとパリで開催された大手業者によるオークションでは、コロナ禍でもファインアート写真市場が十分に機能していることが明らかになった。開催地の通貨が違うので円貨換算して昨年同期と単純比較すると、合計売上は2019年の約7.64億円に対して2020年は7.87億円とほぼ同額。落札率は2019年の約75.6%に対して、2020年は約70%となっている。米国市場の売り上げが落ち込んでいるのと比べて英国/欧州市場は検討したと評価できるだろう。セカンダリー市場はオンラインなどを取り入れることで、コロナ禍でも十分対応できることが証明された。この非常時における関係者の努力に心より敬意を表したい。
ただし落札作品の内容を見ると、絵柄が分かりやすい有名写真家のアイコン的アート系ファッション写真が高額売り上げの上位を占めていた。人気作と不人気作の2極化が続いているのだ。今後もこの傾向が続くのか、来春以降の市場動向を注視していきたい。

(1ポンド・140円、1ユーロ・125円で換算)

2020年秋ニューヨーク
アート写真オークションレヴュー
コロナ禍でも市場は機能/売上額は減少

通常は10月に集中的日程で行われる大手業者によるニューヨーク定例公開アート写真オークション。今シーズンは春と同様に、コロナウイルスの影響により、開催時期の変更、オンライン開催などと各社がそれぞれの対応を行った。

クリスティーズは、9月30日に複数委託者による“Photographs”を、10月14日には単独コレクションからのセール“The Unseen Eye: Photographs from the W.M. Hunt Collection”をともにオンラインで開催した。
ササビーズは “Photographs”を、“Contemporary Photographs”と“Classic Photographs”の2部にわけて10月1日に開催。
フィリップスは、“Photographs”オークションを日程を10月14日にずらして開催している。

今秋のオークションは、コロナウイルスの影響が本格的に反映される初めての機会として注目された。結果は、3社合計で709点が出品され、480点が落札。不落札率は約32.3%だった。最終的な出品点数は2019年秋の772点(不落札率33.4.8%)から若干減少。不落札率はほぼ同様な水準で推移している。しかし2020年春の、1079点で799点落札、不落札率約25.6%と比べると、出品数が約34%減少、落札率も約6.7%悪化している。総売り上げは、約765万ドル(約8.42億円)で、2020年春の約1368万ドル(約15億円)、2019年秋の約1381万ドル(約15.2億円)から大きく減少。落札作品1点の平均落札額は約16,000ドル。2020年春の約17,000ドル、2019年秋の26,800ドル、2019年春の約38,000ドルルから大きく減少している。

各シーズンごとの合計売上の数字を比較すると、リーマンショック後に急激に落ち込んだ2019年春の約582万ドル以来の低い結果だった。2020年春秋合計のニューヨーク大手オークション売上は約2133万ドルで、2019年の年間約3528万ドルから約39.5%減少した。これも2009年の約1980万ドル以来の低水準だった。2020年のコロナウイルスの影響は、売り上げで見るとリーマンショック級のインパクトを市場に与えたということだろう。市場の先行きの見通しが不透明なときには、貴重な高額評価の作品は市場に出てこなくなる。どうしても中低価格の作品中心の売買となり、落札単価が下がり全体の売上高は減少する。

Phillips NY “Photographs”, László Moholy-Nagy, “Fotogramm1925-1928”

今シーズンの写真作品の最高額は、フィリップス “Photographs”オークションに出品されたラースロー・モホリ=ナジ(1895-1946)の、“Fotogramm, 1925-1928,1929”だった。落札予想価格8万~12万ドルのところ37.5万ドル(約4125万円)で落札された。
続いたのはクリスティーズ “Photographs”に出品されたリチャード・アヴェドンの大判156.2 x 149.8 cmサイズの“Tom Stroud, oil field worker, Velma, Oklahoma, June 12, 1980,1985”。落札予想価格8万~12万ドルのところ35万ドル(約3850万円)で落札された。本作は2000年10月13日のクリスティーズ・ニューヨークのオークションで3.525万ドルで落札された作品。ちなみに1年複利で諸経費を無視して単純計算すると約20年で約12.16%で運用できたことになる。

Christie’s NY “Photographs”, Richard Avedon “Tom Stroud, oil field worker, Velma, Oklahoma, June 12, 1980,1985”

ササビーズの“Classic Photographs”には、アンセル・アダムスの39.7X48.9cmサイズの30年代後半から40年代前半にプリントされた貴重な
“Clearing Winter Storm, Yosemite National Park, California, 1937”が出品された。こちらは落札予想価格20万~30万ドルのところ約27.7万ドル(約3047万円)で落札されている。

Sotheby’s NY “Classic Photographs” Ansel Adams “Clearing Winter Storm, Yosemite National Park, California, 1937”

今秋のオークションでは高額落札が期待された作品の不落札が目立った。
フィリップスでは、アンドレス・グルスキーの“Sao Paulo, Se, 2002”、落札予想価格40万~60万ドル、ササビーズの“Classic Photographs”に出品されたダイアン・アーバスの“A Family on their Lawn One Sunday in Westchester, N.Y., 1968”と、ヘルムート・ニュートン“Charlotte Rampling at the Hotel Nord Pinus II, Arles, 1973”がともに落札予想価格30万~50万ドルだったが不落札だった。

いまグルスキーをはじめドイツのベッヒャー派の作品相場は10年前と比べて大きく下落しているという。2011年に現代ドイツの写真家の作品はオークションで合計2,100万ドルを売り上げているが、2019年には総額が50%近く減少し、1,060万ドルになったとアートネット・ニュースは報じている。(アートネット価格データベースによる)今シーズンは相場がやや調整局面の中で、更なるコロナウイルスの影響による心理的要因が重なり、売り手も買い手が積極的にならなかったのだろう。だがグルスキーなどの市場での高評価に変わりはない。彼の人気の高い作品は既に美術館などの主要コレクションに収蔵されており、それらは再び市場に出ることがない。もし代表作がオークションに出品されることがあれば売上高も再び上昇するだろう。

いまニューヨークの株価は金融緩和の継続やワクチン開発期待を背景に高値で推移している。株価とアート市場とは関連があると言われている。富裕層のコレクターは株を持っているからだ。来春のシーズンには、コロナウイルスの感染者数が減少に転じ、株価も順調に推移すれば、高額作品の出品も増えてオークションの売り上げも回復してくるのではないだろうか。
ちなみにリーマンショック後の2019年春には売り上げが激減したものの、秋には急回復している。

(1ドル/110円で換算)

2020年前半のアート写真市場
コロナ禍でもオンライン・オークションが機能する

通常は3月下旬から4月上旬にかけてニューヨークで行われる大手業者による定例公開アート写真オークション。今シーズンはコロナウイルスの影響で、メインの複数委託者による“Photographs”オークションへの対応が、開催時期の変更、オンライン開催などと各社で分かれた。また通常は夏休みに入る7月まで、単独コレクション、企画もののオンライン・オンリーのセールが複数開催される事態となった。

ちなみにメインの“Photographs”を含めて、ササビーズ4件、クリティーズ4件、フィリップスが2件を開催。3社合計で1079点が出品され、799点が落札。不落札率は約25.6%だった。最終的な出品点数は2019年春の739点(不落札率24.8%)、2018年春の761点(不落札率26.5%)から大幅に増加。不落札率はほぼ同様な水準で推移している。
一方で総売り上げは、約1381万ドル(約約15億円)。2019年春の2146万ドル、2018年春の1535万ドルからは減少。しかしほぼ2019年秋と同じレベルを確保している。従って落札作品1点の平均落札額は、2020年春は約17,000ドル(約187万円)だった。2019年春の約38,000ドル、2018年春の約27,000ドルから大きく減少している。

New York アート写真オークション3社売り上げ Spring/Autumn

今シーズンの写真作品の最高額は、既報のように7月10日にクリスティーズが実施した企画オークション「ONE, a global 20th-cantury art auction」に出品されたリチャード・アヴェドンの代表作「Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955/1979」。落札予想価格は80~120万ドルのところ、なんと181.5万ドル(約1.99億万円)で落札されている。ファインアート写真中心のオークションでの最高額は、ササビーズの“Photographs”に出品されたラズロ・モホリ=ナギの「Photogram cover for the magazine Broom, 1922」。落札予想価格40~50万ドルのところ52.4万ドル(約5764万円)で落札された。続いては、ササビーズの“Photographs from the Ginny Williams Collection”の、ティナ・モドッティ“Interior of Church Tower at Tepotzotlán, 1924”。落札予想価格20~30万ドルのところ50万ドル(約5500万円)で落札された。

Sotheby’s, Tina Modotti “Interior of Church Tower at Tepotzotlán, 1924”

同セールでは、エドワード・ウェストンの美術館での展示歴のあるヴィンテージ・プリント“DUNES, OCEANO, 1936”も、落札予想価格12~18万ドルのところ37.5万ドル(約4125万円)で落札されている。
モドッティの次は、既報のようにフィリップスの“Photographs”ではアンセル・アダムスによる壁画サイズ99.1 x 160.7 cmの“Winter Sunrise, Sierra Nevada from Lone Pine California, 1944”となる。落札予想価格30~50万ドルのところ41.25万ドル(約4537万円)で落札されている。

世界市場に目を向けると、2020年7月末までにニューヨーク、パリ、ウィーン、ベルリン、ケルンなどで17件の“Photographs”関連オークションが開催されている。合計2462点が出品され、1664点が落札。不落札率は約32.4%。円貨換算の売り上げ合計が約19.9億円。ちなみに2019年前半の結果は、欧米で18件のオークションが行われ、合計2723点が出品され、1838点が落札。不落札率は約32.5%。円貨換算の合計が約43.2億円だった。出品数、落札率はほぼ変化がないものの、売り上げが約54%減少。1点当たりの落札金額が、約234.8万円から約119.5万円へと約49%減少している。これはコロナウイルスの影響でほとんどがオンライン中心のオークションになったことで、貴重で評価の高い作品の委託が減少するとともに、中価格以下の作品の出品が増加したからだと思われる。

また今シーズンは、最低落札価格がない、もしくは極めて低いレベルに設定されていたオンライン・オークションが、ササビーズ“Legends, Landscapes, and Lovelies”、“The Ginny Williams Collection: Part II” の2件、クリスティーズ“Walker Evans: An American Master”、“From Pictorialism into Modernism: 80 Years of Photography”の2件が行われた。以前にも紹介したように、これらのセールは、19世紀/20世紀写真が多かった。全作落札されたものの、一部作品が極端に低い、やや投げ売りのような印象さえある価格で落札されているのだ。これが売り上げ総額を引き下げた一因だと思われる。
市場を取り巻く環境はコロナウイルスの影響で非常に悪いと言えよう。委託者にはオークション出品見合わせで、様子見という選択肢もあったと思う。しかし、あえて厳しい環境下で出品を強行したのは、感染の終息まで待ってもこの分野の写真作品の相場が大きく改善する可能性は高くない、またさらに悪化する可能性すらあるという判断なのかもしれない。

南半球が夏期を迎えたに関わらず、世界的にコロナウイルス感染が収まる気配がない。空気が乾燥する秋以降の第2波に対する懸念も問い沙汰されている。2020年前半、各オークションハウスの努力により、オンライン・オークションが十分に機能することは明確になった。大手各社の危機時の積極的かつ柔軟な対応が非常に印象深かった。全体的には、ニューヨークの大手業者の結果はオンライン・オークションにより昨秋並みを確保しているものの、米国、欧州の中小業者はかなり苦戦したという構図だ。秋冬も同じようなやり方が踏襲しつつも、新たな企画の試行錯誤が行われると予想される。ただし、委託者は引き続き高額評価の作品の出品を先送りすると思われる。

一方で業務の100%オンライン化が難しいギャラリーは、コロナウイルスの先行きが読めない中で、秋冬の展示企画に本当に頭を悩ませていると聞いている。多くの集客なしでも可能なビジネス企画を考えないといけないのだ。わたしどものギャラリーも他人ごとではない。

(1ドル/110円で換算)

海外最新オークション情報 (Part-2)
現代アート化する20世紀写真

前回は、大判サイズのアイコン的ファッション写真が市場で現代アート作品として高額で取り扱われる事例を紹介した。同様の事例は、モノクロの抽象美とファインプリントの美しさを愛でる20世紀写真でも散見される。

7月13日にフリップス・ニューヨークで「Photographs」オークションが開催された。これは春のオークションがコロナウイルスの影響で延期されたもの。最注目作品だったのが20世紀写真の代表的写真家アンセル・アダムスの壁画サイズ99.1 x 160.7 cmの「Winter Sunrise, Sierra Nevada from Lone Pine California、1944/1967」。落札予想価格は30~50万ドルのところ、41.2万ドル(約4532万円)の同オークションでの最高額で落札された。

Phillips New York “Photographs”, Ansel Adams, 「Winter Sunrise, Sierra Nevada from Lone Pine California 1944/1967」

アンセル・アダムスの壁画サイズの巨大作品は1930年代に主にパブリック・アートとして考案され制作されている。フリップスの資料によると、最初にこのサイズの写真作品が展示されたのは1932年ニューヨーク近代美術館で開催された「Murals by American Painters and Photographers」。同展カタログでアート・ディーラーのジュリアンレヴィ(Julian Levy)は、「良い壁画は、単に小さな写真を機械的に拡大したものではありません。拡大された壁画は新しい独立した作品であり、写真の最終的なスケールを事前に視覚化していない写真家は、たいていの場合、その結果に驚きと落胆を覚えるでしょう」と書いている。その後、1935年にアンセル・アダムスは、ヨセミテパーク&カレーカンパニーの依頼でヨセミテ国立公園の壁画サイズ作品を初めて製作している。主にアメリカン・トラスト・カンパニー(後のウェールス・ファーゴ銀行)やポラロイドなどの企業の依頼でこのサイズの作品を限定数制作している。本出品作品は、Schwabacher Brokerage Companyの依頼で1967年に制作依頼された作品。その後、弁護士Roger Poynerに購入され、彼の法律事務所に展示されていた。大きな特徴は保険目的で依頼された、アンセル・アダムスのサイン入り作品証明書が付いていること。通常、このサイズ作品は、当初は展示目的であり、裏打ちされることからサインは入らない。興味深いのは、この手紙には同作の1969年の価値が600ドルで、保険つまり再制作費用は、その60%の360ドルだと記していること。
本作は、約53年で約686倍、年複利で計算すると約13.1%程度で運用できた計算になる。

Christie’s, The Range of Light : Photographs by Ansel Adams”

アンセル・アダムスの同じ壁画サイズの“Winter Sunrise, Sierra Nevada from Lone Pine, California,1941”作品は、2014年4月3日にクリスティーズで行われた、アンセル・アダムス単独オークション“The Range of Light : Photographs by Ansel Adams”に出品されている。2014年の米国は穏やかな景気回復が続いており株価も堅調だった時期だ。同作はカタログ表紙を飾り、サイズはやや小さい約92X139cm。落札予想価格は30万~50万ドル(約3000~5000万円)のところ、54.5万ドル(当時は1ドル100円/約5450万円)で落札されている。
今回のウィズ・コロナ時代においてのオークション高額落札は、2014年の落札が決して偶然の競り合いによる結果でなかったことを証明しているだろう。

ちなみに、アンセル・アダムスの最高額は巨大な壁画サイズ作品ではない。ササビース・ニューヨークで2006年10月17日に開催されたオークションに出品された小さい14X19″サイズの代表作“Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941”。彼のアシスタントを勤め、生涯の友人だった写真家パークル・ジョーンズのコレクションからの出品。プリントが極めて困難だったネガを再処理する以前の1948年にプリントされた初期作品。1000枚以上プリントされたといわれる作品だが、その中でも抜群の来歴と希少性を兼ね備えていた。落札予想価格は15~25万ドルのところ、約60.96万ドル(1ドル115円/約7000万円)で落札されている。

Sotheby’s New York, Ansel Adams “Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941”

2000年代になり、アンセル・アダムスの木製パネルなどに貼られていた巨大作品の高額落札が定着してきた。1990年代には、それらはサインがないし、作品むき出しによるコンディションの問題もあり、ポスター的な作品と考えられており、市場の評価も決して高くなかった。近年の傾向は、アダムスはアナログ銀塩写真のサイズの限界に挑戦していたアーティストだったことが現代アート的視点から再評価されている証拠。いま主流の現代アート系写真の元祖的な存在で、巨大作品はその象徴だと認識されているのだ。もし状態の良い、優れた来歴の作品が市場に出てくれば今後も高値による落札が続くのではないか。

一方で、最近は現代アートの視点で作家性が再評価されない20世紀写真も顕在化している。それらは、知名度のある作家の代表作にコレクターの興味が集中する傾向がある。いま市場では、ファッション系を含む一部の20世紀写真と現代アートとの融合が着実に進行中なのだ。

(為替レートは1ドル110円で換算)

海外最新オークション情報(Part-1)
現代アート化する巨大ファッション写真

Christie’s「ONE, a global 20th-cantury art auction」

平常時の5月から6月にかけては、ニューヨーク、ロンドンで印象派、モダン、戦後アート、現代アート作品などの主要作品のライブ・オークションが開催される。しかし今シーズンは、コロナウイルスの影響で状況が一変した。大手のサザビーズ、クリスティーズ、フィリップスは、開催者、参加者の健康を考慮した、ライブ・ストリーミングなどを利用した新しい仕組み構築を短期間に求められた。多くは手探り状態で開催されたが特に大きな混乱はなかったようだ。結果をみるに、買い手の興味は、パンデミックがきっかけの景気悪化懸念の中でも大きく減速していないようだった。しかし、売り手は高額落札の可能性が薄い市場環境だとの判断から、貴重な良品を消極的に提供しようとしなかったようだ。

その中でも注目されたのが、7月10日にクリスティーズが実施した、「ONE, a global 20th-cantury art auction」。これは複数パートからなるライブ・セールが、アート界の主要ハブの、香港、パリ、ロンドン、ニューヨークを連続して移動しながら、時差を超えてリアルタイムで開催するもの。クリスティーズによると、「各地展示室のオークショナーが中心となって、イブニング・セールの興奮とドラマを、世界中の対面式とオンラインの両方の観客に向けて新たなセール体験を提供する試み。今回のグローバルセールでは、カテゴリーを超えた、国境を越えたアートが一つの究極のビジョンの中に集結し、この特別な時代とその先のための前代未聞のイベントとなります」とのこと。

Christie’s 「ONE」auction, Richard Avedon 「Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955/1979」

本セールに出品された写真作品はリチャード・アヴェドンの代表作「Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955/1979」の1点のみだった。203.2 x 161.2 cmの巨大サイズで、エディションは9/10、落札予想価格は80~120万ドルのところ、なんと181.5万ドル(約1.99億万円)で落札。これはアヴェドン作品のオークション最高価格となる。これまでの記録は、2010年11月20日に、クリスティーズ・パリで行われたアヴェドン作品の単独オークション「Photographies Provent de la Foundation Richard Avedon」で落札された同じイメージ作品の84.1万ユーロ(約115.3万ドル)だった。同作のサイズは、216.8 X 166.7cm、1978年のメトロポリタン美術館の展覧会で展示され、その後アヴェドン事務所の入り口に展示されていた極めて価値ある作品だった。モデルのドヴィマ着用のイーブニング・ドレスをデザインしたメゾン・クリスチャン・ディオールが落札している。

Christie’s Paris「Photographies Provent de la Foundation Richard Avedon」

今回の落札価格は、20世紀ファッション写真としては高額だが、数億円での落札が当たり前の現代アート作品の相場からみれば魅力的な価格といえるだろう。特にこの「ONE, a global 20th-cantury art auction」は、高額アート作品が数多く出品されたオークションだった。参加者の作品価格を判断する参照点が高くなっていたのかもしれない。ちなみに同オークションの総売上高は4.21億ドル(約463億円)、落札率は94%、最高額はロイ・リキテンスタイン「Nude with Joyous Painting (1994)」の4620万ドル(約50.8億円)だった。アヴェドンの落札価格は、同オークションの他の高額作品と比較すると心理的にとても安く感じてしまう。
ちなみに、ここ数年はファッション写真の壁画サイズ作品の高額落札が続いている。2019年の現代アート系以外の写真オークションの最高額落札は、フィリップス・ニューヨークで4月4日に行われた「Photographs」に出品されたヘルムート・ニュートンの2点組み写真「Sie Kommen, Paris (Dressed and Naked), 1981」だった。同作は、戦後社会の新しい女性像を表現したニュートンの代表作であり、197.5 X198.8cmと196.9 X 183.5cmの巨大サイズだった。落札予想価格60~80万ドルのところ182万ドル(約2億円)のニュートンのオークション最高額で落札されている。

Phillips NY, Helmut Newton 「Sie Kommen, Paris (Dressed and Naked), 1981」

2018年の最高額もヘルムート・ニュートン。フィリップス・ロンドンで5月18日に行われた「ULTIMATE Evening and Photographs Day Sales」オークションに出品された1点ものの可能性が高いという151.5 x 49.5 cmサイズの巨大作品「Panoramic Nude with Gun, Villa d’Este, Como, 1989」。落札予想価格25~35万ポンドのところ、72.9万ポンド(1ポンド150円/約1.09億円)での落札だった。

これらの作品は、従来のアート系ファッション写真の範疇というよりも、作家性と巨大サイズ作品とが現代アート的な価値基準で評価されたと考えるべきだろう。どちらにしても、いま市場では巨大サイズのファッション写真と現代アートとの融合が着実に進行中なのだ。

次回(Part-2)では、市場における20世紀写真と現代アートとの関係を分析してみたい。

(為替レートは1ドル110円で換算)