現代アート系写真作品のいま
リヒター、クルーガー作品が100万ドル越えで落札

2026年春シーズンのニューヨークのモダン/現代アート系オークションは、5月中旬に開催された。今シーズンの最高額は、5月14 日にサザビーズで行われた“Robert Mnuchin: Collector at Heart Evening Auction”に出品された、マーク・ロスコ(Mark Rothko)の“Brown and Blacks in Reds, 1957”。Robert Mnuchin コレクションから出品されたトップロットで、8578万ドル(約132.95億円)で落札されている。

Sotheby’s, “Robert Mnuchin: Collector at Heart Evening Auction”, Mark Rothko, “Brown and Blacks in Reds, 1957”

写真系作品が出品されたオークションの名称は各業者によりことなり、サザビーズは、“Contemporary Day”、クリスティーズは、“20th Century Evening, Marian’s Richters and 21st Century Evening, Post-War and Contemporary Art Day, and Breaking Ground”、フリップスは、“Modern and Contemporary Art Evening and Afternoon Sessions”となる。

Christie’s NY, Gerhard Richter, “Strip, 2012″

今シーズンの写真系最高額落札は、クリスティーズに出品されたゲルハルト・リヒターの有名作“Strip, 2012″だった。これは、210 x 230 cmサイズのデジタル・プリント(digital print on paper between Alu-Dibond and perspex <Diasec>, in two parts)の1点もの作品、予想落札価格80~120万ドルのところ、176.53万ドル(約2.73億円)で落札された。本作が厳密に写真作品に分類されるかは様々な意見があると思うが、彼の手作業による絵画(oil on canvas)などとは区別してここでは写真系とした。ちなみに彼の、ろうそくを描いた代表作の絵画“Kerze (Candle)”は、おなじくクリスティーズ“Marian’s Richters & 21st Century Evening Sale”で、桁違いの3513.5万ドル(約54.4億円)で落札されている。

Christie’s NY, Aleksander Rodchenko, “Maquette for ‘War of the Future’, 1930”

同じくクリスティーズに出品されたロシア構成主義の主要人物アレクサンドル・ロトチェンコの“Maquette for ‘War of the Future’, 1930”が次点だった。50.8 x 34.9 cmサイズのフォトコラージュ(photomontage, collage and gouache on black paper)のマケット作品。ロット資料では、同作を”アーティストがアメリカ近代の象徴を取り込み再解釈。超高層ビルは進歩、資本、技術的成果の象徴でありながら、支配と破壊のより大きな機械の一部として再構築されている。建築、航空、兵器の融合を通じて、ロドチェンコは民間空間と軍事空間の境界を崩壊させ、現代文明の成果が権力と統制のシステムと密接に結びつく未来を示唆している”と解説している。落札予想価格45~65万ドルのところ、152.4万ドル(約2.36億円)で落札された。

Phillips NY, Barbara Kruger, “Untitled (My face is your fortune),1982”

続くのはフリップスでの最高額のバーバラ・クルーガー“Untitled (My face is your fortune),1982”。189.5 x 123.5 cmサイズ、エディション/アーティスト・プルーフが共に1点の銀塩作品(gelatin silver print)。落札予想価格60~80万のところ、103.2万ドル(約1.59億円)で落札された。ちなみに現存するもう1点はシンシナティー美術館(Cincinnati Art Museum, Cincinnati, Ohio)に収蔵されているとのこと。

Christie’s NY, Cindy Sherman, “Untitled Film Still #48、1979”

クリスティーズに出品されたシンディー・シャーマンの初期作も落札予想価格を大きく上回って落札されている。“Untitled Film Still #48、1979”は、サイズ20.3 x 25.4 cm、エディション10の銀塩作品(gelatin silver print)。落札予想価格25~35万ドルのところ、60.96万ドル(約9448万円)で落札された。彼女の初期作品の人気の高さが改めて強く印象付けられた。

今シーズンのモダン/現代アート系オークションに出品された、評価が5万ドル以上の高価格帯の写真関連作品の落札率は100%で、上位の高額落札作品は軒並み落札予想価格の上限越えだった。中東情勢の不安定さやインフレ懸念など、社会・経済状況の先行きに不透明さはあるものの、高額カテゴリーの写真分野の市場は好調が継続しているといえるだろう。

一方で低価格帯の写真作品に対する需要はあまり盛り上がっていない。4月のニューヨークの大手業者によるファインアート写真オークションの後には、米国/欧州で中小業者による低価格帯中心のオークションが開催された。Ragoニューヨーク、Lempertzケルン、Aderパリ、OstLichtウィーンなどの結果をみるに、1万ドル以下の低価格帯の20世紀写真の市場が苦戦している印象だった。

(為替 1ドル/155円換算)

2026年春ニューヨーク写真オークション・レヴュー
希少な名作ヴィンテージ作品が高額落札!

2026年春の大手3業者によるニューヨーク定例ファインアート写真オークション。今回は4月22日~26日にかけてPark Avenue Armoryで開催される世界最大フォト・フェアーのAIPAD Photography Showの前の時期にあわせて、複数委託者によるライブとオンラインの合計5件が開催された。

フィリップスは、4月10日に“”Sebastião Salgado: A Life’s Voyage(online)”、11日に複数委託者による “Photographs”を、サザビーズは、4月14日に“Print & Photographs Part 1″と、16日に”Photographs Part II(online)”を、クリスティーズは、4月17日に“Photographs(Online)”を開催した。

さてオークション結果だが、3社合計で720点が出品され、544点が落札。全体の落札率は約75.6%と秋の約78.9%よりも若干悪化した。総売り上げは約1274万ドル(約19.7億円)、昨秋の1581万ドルより減少、昨春の約1009万ドルより増加している。落札作品1点の平均落札金額は23,125ドルで、昨秋の約23,161ドルとほぼ同じ、昨春の約21,691ドルより増加している。過去10回のオークションの落札額平均と比較したグラフを見ても、総売上高は若干増加。総合的にほぼトレンドに沿った落札結果だったと判断できるだろう。サザビーズは比較的高額評価の20世紀のヴィンテージ作品、ファッション、現代アート系の写真作品28点を”Print & Photographs Part 1″で版画と同カテゴリーで、評価の低い作品は”Photographs Part II(online)”で取り扱っていた。いまやオークションでの写真作品は、評価額によって、高価格帯の現代アート/20世紀アート系、中価格帯の版画/プリント系、そして低価格帯のデザイン/フォトグラフス系にまたがって出品されるのが当たり前になりつつある。今後も各業者の実験的なカテゴリー分けの挑戦は続くと思われる。

Phillips NY, Tina Modotti, “Bandolier, Corn, Sickle, 1927”

今シーズンの最高額落札は、フィリップス“Photographs”に出品された女性写真家ティナ・モドッティ(Tina Modotti/1896-1942)が20年代のメキシコで撮影/制作したヴィンテージ作品の“Bandolier, Corn, Sickle, 1927”だった。イメージサイズは22.2×19.1cm、当時のメキシコ革命期の社会状況が色濃く反映された弾帯、トウモロコシ、鎌の静物写真。落札予想価格10~15万ドルのところなんと4倍以上の64.5万ドル(約9997万円)で落札された。

Sotheby’s NY, Tina Modotti, “Roses, Mexico, 1924”

2位もサザビーズ“Prints & Photographs Part I”に出品された由緒あるThe Jill and Marshall Rose Collection 収蔵のティナ・モドッティ“Roses, Mexico, 1924”だった。イメージサイズは21.6×18.7cmのpalladium print、落札予想価格25~35万のところ、40.96万ドル(約6348万円)で落札されている。資料によると、同作は1929年12月にメキシコシティの国立図書館で開催された彼女の存命中の数少ない展覧会に出品されていたと考えられているとのこと。また存命中に制作されたpalladium printは極めて貴重で、1点はエドワード・ウェストンがMoMA(ニューヨーク近代美術館)に寄贈したものが確認されているという。

Sotheby’s NY, Edward Weston, “Nautilus, 1927”

高額落札第3位も、サザビーズ“Prints & Photographs Part I”に出品された、同じくThe Jill and Marshall Rose Collection 収蔵のエドワード・ウェストン“Nautilus, 1927”だった。イメージサイズは24.1×18.7cmの1930年代にプリンとされた銀塩写真、落札予想価格30~50万のところ、38.4万ドル(約5952万円)で落札されている。本作は、20世紀初頭の数十年間に、多くのアメリカ人写真家がストレート・フォトグラフィーへと移行したことを示す代表例。特に20~30年代のプリントは極めて希少でオークションへの出品はほとんどない。

Christie’s NY, Irving Penn, “Ginkgo Leaves, New York, 1990”

続いたのはクリスティーズ“Photographs(Online)”に出品されたアーヴィング・ペンの“Ginkgo Leaves, New York, 1990”。サイズ57.8 x 49.5 cm、エディション22のダイ・トランスファー作品。写真集“Passage: A Work Record”(Alfred A. Knopf/Callaway, 1991年刊)の有名なカヴァー作品だ。落札予想価格25~35万のところ35.56万ドル(約5511万円)で落札されている。

私が注目していたのはサザビーズ“Print & Photographs Part 1”に出品されていたアーヴィング・ペンが1950年から1951年に手掛けた“Small Trade”シリーズ7点の動向だった。これはパリ、ロンドン、ニューヨークの様々な職業の無名の職人たちを、仕事着と職に欠かせない道具と共に自然光スタジオで撮影したもの。華麗なファッションと比べると職人たちのポートレートはやや地味な印象を受ける。すべてplatinum-palladium printで多くが60年代にプリントされた作品になる。落札予想価格は4~7万ドルのレンジだったが、4点が落札予想価格の上限を超え、残りも予想落札価格の範囲内で全作が落札された。最高額は“Gas Company Mechanic, N. Y.’、1951”。1967年にプリント、エディション4/4、サイズ42.4X30.6cm で、7.68万ドル(約1190万円)で落札された。“Small Trade”は、いまやペンのファッション、静物に次ぐ人気シリーズになったのだ。

Sotheby’s NY, Irving Penn, ”‘Gas Company Mechanic, N. Y.’、1951″


今シーズンで高額落札が期待されたのがヘルムート・ニュートンの巨大な2枚組“Sie Kommen, Paris (Dressed and Naked)、1981”だった。壁画サイズの銀塩写真4点からなる2枚組作品。落札予想価格120~180万だったが残念ながら不落札。ちなみに同作は2002年4月17日にサザビーズ・ニューヨークのオークションで落札予想価格20~25万のところ18.55万ドルで落札されている。約24年で評価が6~7倍になっているので、ファッション系はブームではあるものの、やや過大評価だったかもしれない。

今回のティナ・モドッティ作品の高額落札は、極めて流通量が少ない本人がプリントしたヴィンテージ作品であったことと、いま世界的なトレンドになっている女性写真家の再評価に流れが影響していると思われる。また“Bandolier, Corn, Sickle”は、1920年代のメキシコ革命後の社会主義的象徴(弾帯・鎌・トウモロコシ)を扱った作品であり、重要な歴史的写真の価値を見直す動きとも呼応しているだろう。また2位のサザビーズの“Roses, Mexico, 1924”、3位のウェストンの“Nautilus, 1927”は、由緒ある“The Jill and Marshall Rose Collection” からの出品であったことも高額落札の一因だと思われる。

ニューヨーク・ファインアート写真オークションの2026年春シーズンは、貴重なヴィンテージ作品、ファッション系、20世紀写真の有名作への需要の強さ、という最近のトレンドに沿った驚きの少ない落札結果だったといえるだろう。

(1ドル/155 円で換算)

日本の写真オークション市場最前線
「LIVE STREAM」@SBIアートオークション

欧米では写真はファインアート表現として定着しており、ギャラリーのプライマリーとともに、オークションのセカンダリー市場も大きな取り扱い規模を誇る。かつては、「Photographs」として独立した分野で取引されていたが、最近は写真が現代アートの表現方法のひとつだと考えられるようになり、その境界線はかなりあいまいになってきている。高額評価の作品は現代アートやコンテンポラリー分野で他のアート作品と一緒に取り扱われている。また中低価格帯は、「プリント / マルチプル」分野で版画などと一緒に売買される場合も多い。

最近は日本でも、SBIアートオークションが中低価格帯の写真作品をデザイン、オブジェ、ペインティング、イラストレーション、ペーパーワーク、プリントなどの幅広い分野のコレクタブルのカテゴリーの一部として主にオンライン・オークションで取り扱っている。たいがいは写真の出品数は少ないのだが、ちょうど4月10日から11日にかけて行われた「LIVE STREAM」オンライン・オークションでは珍しく65点の写真関連作品が取引された。日本の写真市場の今を知るために、今回はその結果を分析してみよう。なお銀塩写真以外に、オフセット・リトグラフ、フォトグラヴュール、ライトジェット・プリント、ポストカードも写真作品にカウントした。

内訳は出品65点のうち不落札は8点、落札率は約87.7%だった。総売上高は1189.1万円(15%の手数料込/税別)、落札予想価格の下限以下の落札が14点、上限越えは20件だった。やはり欧米市場と同じく20世紀写真の人気が今一つ盛り上がらなかったという印象だ。

杉本博司は出品6点すべてが上限越えでの落札だった。杉本は6月から東京国立近代美術館で「杉本博司 絶滅写真」展開催を控えている。今回は低価格帯のオフセット・リトグラフや印刷物が中心だったが、今後のオークションで人気の高い「海景」の銀塩写真が出品されると国内外のコレクターは大いに注目すると思われる。最近は安定していた作品相場が上振れする可能性があるかもしれない。

SBI ART AUCTION, 植田正治「小狐登場、1947」

最高額はLOT197の植田正治「小狐登場、1947」。東京都写真美術館にも収蔵されている有名作だ、イメージサイズ 13.7 X 20.7cmの銀塩写真、落札予想価格30万~50万円のところ149.5万円(手数料込)で落札された。カタログには作品の詳細の記載はないが、たぶん落札者は貴重な撮影時に近い時期にプリントされたものだと判断したと思われる。

今回の出品作の来歴で注目されたのが、ツァイト・フォト・サロンの取り扱い作が18点あったこと。アンドレ・ケルテス、エドワード・ウェストン、ロベルト・ドアノー、リー・フリードランダ―など欧米の20世紀写真の代表写真家を同ギャラリーが取り扱っていた事実がよくわかる。私が注目したのは、なんとファッション系のブルース・ウェバー作品も販売していたことだ。1983年にTwelvetrees Pressより刊行された初写真集「Bruce Weber」に収録されている2作品が出品されていた。改めて写真市場黎明期での、石原悦郎氏(1941-2016)の優れた目利きには本当に驚かされる。


ツァイト・フォト・サロン 取り扱い作品は、日本における写真市場の黎明期の80年代に輸入販売された作品になる。当時のコレクターはいまではかなり高齢になっていると思われる。今回の多くの出品作は終活を意識したコレクションの整理の一環だと思われる。これからは、バブル期の80年代後半から90年代前半に流通系企業ギャラリーが販売したファッション/ポートレート系の作品が市場に出てくると思われる。今後も日本のオークションにおける写真関連作品の出品状況に注目していきたい。

詳しい落札結果はコチラからどうぞ

2025年写真作品
オークション高額落札ベスト10
マン・レイが現代アート系を抑え第1位!

2025年の写真作品オークション最高額落札は、マン・レイの20世紀シュルレアリスムの象徴といわれる「Noire et blanche (Black and White), 1926」だった。6月にサザビーズ・ロンドンで開催された“Modern & Contemporary Evening, Contemporary Day Auctions”で、2,114,000 ポンドで落札されている。作品サイズは、17.5X 22.8cm、制作年は1926年で1935年までにプリントされた初期ゼラチン・シルバー・プリント。落札予想価格は1,500,000 – 2,000,000ポンド、落札額は1ポンド/1.37ドル換算で、2,896,180ドル、1ポンド/201.25円で換算すると約4.25億円となる。本作は、1926年5月にパリ版『ヴォーグ』に初掲載、1920年代半ばのパリでのマン・レイとキキの創造的なコラボの象徴だと言われている。

マン・レイは決して失敗を恐れない実験的な精神を持つアーティストで、作品制作では常に即興的なアプローチを行っていた。本作の現存するプリントは、意図的な異なるトリミング、多種多様な写真用紙の使用、そして異なるレベルのレタッチにより、厳密には2つとして同じものは存在しないと言われている。ほとんどの流通作品は、修正が施されたプリントから作成されたインターネガティブから制作されている。しかし今回のプリントには、特徴的な緊密なトリミングと修正の痕跡から、専門家はマン・レイのカンパーニュ・プルミエール通りの暗室で、オリジナルのガラスプレートネガティブから直接制作された初期作の可能性が高いと評価している。

2位以降はランキング常連の現代アート系アーティスト、シンディー・シャーマン、リチャード・プリンス、バーバラ・クルーガーが入っている。

3位には、3月18日にフィリップス・ニューヨークで 開催されたウィリアム・エグルストンによるダイ・トランスファー作品43ロットの単独オークション「Color Vision: Masterworks by William Eggleston from Guy Stricherz and Irene Malli」の出品作が入った。同セールの目玉だった、1965年~1974年までに撮影されたエグルストンの代表作「Los Alamos」のポートフォリオ。オリジナルの75点のセットに、2組の各13点からなるダイ・トランスファー作品の「Cousins」と「Lost and Found」が追加され、プリント総数は101点におよんだ。オリジナル・ポートフォリオを含む包括的なシリーズのオークション出品は初めてとのこと。落札予想価格は、200~300万ドルのところ、 1,875,000ドル(約2.82億円)で落札。これはエグルストン作品の単一ロットの新記録となる。高額落札上位20にはエグルストン作品が4点入っている、彼の市場での人気が確固なものになっている事実が強く印象付けられた。その他、20世紀写真では、エル・リシツキーの珍しいヴィンテージのフォトモンタージュが6位、ヘルムート・ニュートンが7位だった。

参考までに総合順位の上位20位の円貨合計額を比較すると2025年は約29.9億円で2024年の27.7億円から微増だった。1位マン・レイの落札金額£2,114,000 (約4.25億円)も、2024年1位のリチャード・プリンスの£2,097,000 (約4.14億円)とほぼ同じだった。全般的にサプライズの落札のない平均的な1年だったといえるだろう。また2024年のオークションハウスの実績面では、上位10位のうちトップ8位までがクリスティーズが独占した。2025年は他の大手業者も健闘し、クリスティーズがトップのマン・レイをはじめ4件、サザビーズが5件、フリップスが1件の落札実績だった。

2025年の年間平均TTS 為替レートは、対ドル150.71円、対ユーロ170.50円、対英ポンド201.25円(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)で、ほぼ2024年と同じレベルだった。しかし2026年になり、高市早苗首相が早期に衆院を解散するとの観測をきっかけにした積極財政リスクへの懸念からさらに円安が進行している。日本人コレクターにとっては引き続き厳しい為替水準が続く気配だ。

2025年オークション高額落札ランキング

1.マン・レイ「Noire et blanche, 1926/1935」

サザビーズ・ロンドン(Sotheby’s London)
“Modern & Contemporary Evening, Contemporary Day Auctions”
2025年6月24、25日
£2,114,000 (約4.25億円)

2.シンディー・シャーマン「Untitled Film Still #13, 1978」

クリスティーズ・ニューヨーク(Christie’s NY)
“20th Century Evening, 21st Century Evening, and Post-War & Contemporary Art Day Sales”
2025年11月17、19、20日
$2,271,000.(約3.42億円)

3.ウィリアム・エグルストン「Los Alamos (101 prints), 1965-1974/2001-2007」

フリップス・ニューヨーク(Phillips NY)
“Color Vision: Masterworks by William Eggleston from Guy Stricherz and Irene Malli”
2025年3月10日
$1,875,000.(約2.82 億円)

4.リチャード・プリンス「Untitled (Cowboy), 2016」

クリスティーズ・ニューヨーク(Christie’s NY)
“Leonard & Louise Riggio: Collected Works, 21st Century Evening Sale, and Post-War and Contemporary Art Day Sale”
2025年5月12,14,15日
$1,502,000.(約2.26 億円)

5.リチャード・プリンス「Untitled (Cowboy), 2000」

サザビーズ・ニューヨーク (Sotheby’s NY)
“Now and Contemporary Evening and Contemporary Day Auction”
2025年5月15、16日
$1,392,000.(約2.09 億円)

6.エル・リシツキー「Self-Portrait (The Constructor), 1924」

サザビーズ・ロンドン (Sotheby’s London)
“Modern & Contemporary Evening, Contemporary Day Auctions”
2025年6月24、25日
£889,000 (約1.78億円)

7.ヘルムート・ニュートン「Walking Women, Paris, 1981」

サザビーズ・ニューヨーク (Sotheby’s NY)
“Now and Contemporary Evening and Contemporary Day Auctions”
2025年11月18、19日
$1,000,000.(約1.5 億円)

8.リチャード・プリンス「Untitled (Cowboy), 2000」

クリスティーズ・ニューヨーク (Christie’s NY)
“20th Century Evening, 21st Century Evening, and Post-War & Contemporary Art Day Sales”
2025年11月17、19。、20日
$889,000.(約1.33億円)

9.バーバラ・クルーガー「Untitled (Love for Sale), 1989」

サザビーズ・ニューヨーク (Sotheby’s NY)
“Now and Contemporary Evening and Contemporary Day Auctions”
2025年5月15、16日
$787,900.(約1.18 億円)

10.バーバラ・クルーガー「Untitled (You Are Not Yourself), 1983」

クリスティーズ・ニューヨーク (Christie’s NY)
“Leonard & Louise Riggio: Collected Works, 21st Century Evening Sale, and Post-War and Contemporary Art Day Sale”
2025年5月12,14,15日
$756,000.(約1.13億円)

2025年/年間平均円貨TTS 為替レート、
対ドル150.71円、対ユーロ170.50円、対英ポンド201.25円
(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)

現代アート系/20世紀写真作品のいま
シンディー・シャーマン作品が200万ドル越えで落札

2025年秋シーズン定例のニューヨークでのモダン/現代アート系オークションは、11月中旬に開催された。マスコミで話題になったのが、11月18日にサザビーズで行われた“ Leonard A. Lauder, Collector | Evening Auction”に出品された、グルタフ・クリムト(Gustav Klimt)の“Bildnis Elisabeth Lederer (Portrait of Elisabeth Lederer)”。本作は今年亡くなった米化粧品大手「エスティローダー」名誉会長だったレナード・ローダー氏のコレクションで、美術品の歴代高額2位の2億3636万ドル(約354.5億円)で落札された。ちなみに歴代1位は、2017年11月にクリスティーズ・ニューヨークで落札されたレオナルド・ダ・ヴィンチの“サルバトール・ムンディ”で、落札額は4億5030万ドルだった。最近は、高額評価の写真作品も一連のこの分野のオークションに出品されるのが当たり前になっている。ここでは、同カテゴリーに出品された写真作品の市場動向を紹介する。

Sotheby’s NY, Gustav Klimt “Bildnis Elisabeth Lederer (Portrait of Elisabeth Lederer)”

オークションの名称は各業者により異なり、サザビーズは“Now & Contemporary Evening and Contemporary Day Auctions”、クリスティーズは“20th Century Evening, 21st Century Evening, and Post-War & Contemporary Art Day Sales”、フィリップスは“Modern & Contemporary Art Day Sale, Morning and Afternoon Sessions”となる。写真作品の注目作は、クリスティーズに出品されたマン・レイのヴィンテージ作品の“Sade, Pas Terminé, 1933”。落札予想価格は180万~200万ドルだったが不落札だった。今シーズンの最高額落札は、クリスティーズに出品されたシンディー・シャーマンの代表作“Untitled Film Still #13、1978″だった。これは、1978年に製作されたエディション3の、40 x 30 インチ(101.6 x 76.2 cm.)の大判作品。落札予想価格50~70万ドルのところ、227.1万ドル(約3.46億円)で落札された。彼女の初期作品の人気の高さが改めて強く印象付けられた。

Christie’s NY, Cindy Sherman “Untitled Film Still #13、1978″

続くのはサザビーズに出品されたヘルムート・ニュートンの3点の組写真 “Walking Women, Paris、1981”。各135.3 x 113cmの大判サイズ、エディション3のヴィンテージ作品。落札予想価格120~180万ドルのところ、控えめの100万ドル(約1.5億円)で落札された。本作は、2015年4月にフィリップス・ニューヨークで90.5万ドルで落札された作品。当時の落札予想価格は70~90万ドルだった。10年所有して業者手数料などの経費を考えるとかなり厳しいリターンだったと思われる。本作は絵柄が代表作のアザーカットで、特に有名ではない。やはり有名アーティストでも、コレクターは高額でも代表的な作品を求める傾向が強いことが入札に影響しているのだろう。

Sotheby’s NY, Helmut Newton, “Walking Women, Paris、1981”

フィリップスの最高額はアンドレアス・グルスキーのスニーカーのディスプレイを作品化した“Untitled V, 1997”だった。184.5 x 442 cmサイズ、エディション4/6。落札予想価格20~30万のところ、38.7万ドル(約5805円)で落札された。

今シーズンのモダン/現代アート系オークションに出品された、評価が5万ドル以上の高価格帯の写真関連作品の落札率は約78%で、好調な結果だったといえるだろう。

Phillips NY, Andreas Grusky, “Untitled V, 1997”

以前に結果を紹介した、10月のニューヨークの大手業者によるファインアート写真オークションの後には、欧州で中小業者による低価格帯中心のオークションが開催された。Aderパリ、Millonパリ、Leitz Galleryウィーン、OstLichtウィーンなどの結果をみるに、1万ドル以下の低価格帯の20世紀写真の市場が苦戦している印象だ。4つのオークションで、低価格帯の作品は1142点出品され、567点が落札。不落札率は約50.36%で、約半分の作品に買い手が見つからなかった。落札作品もほとんどが落札予想価格の範囲内かそれ以下で、上限を超えることはほとんどなかった。

写真市場黎明期の1980~1990年代には、当時の新しい世代のコレクターがパッションや写真の表層の好みで、まだ割安だったアナログの銀塩写真を買っていた。その世代はいまや高齢化してコレクション整理を考え始めていると思われる。中小業者が取り扱う低価格帯作品の流通量は明らかに増加している。しかし、それに続くデジタルや現代アートに慣れ親しんでいるミレニアル世代/Z世代は、前世代と比べてコレクションの特徴や傾向が変化しているといわれている。パッションだけでなく、作品の背景にあるストーリ性や資産価値も重視するようになってきたのだ。中高価格帯の20世紀写真はそのような要素を持っている場合が多い。しかし低価格帯の20世紀写真の多くでは、文脈が語られるのは稀なのだ。それゆえに伝統工芸品の写真ヴァージョン的な評価を受けるようになっており、新世代のコレクターはあまり興味を示さないのだ。供給が増加しているに需要は伸びていないわけで、結果的に落札率も低迷しているのだと思われる。

また今回の20世紀写真の結果はユーロ圏の市場動向となる。欧州の低調な景気もアート市場に影響を与えている可能性が高いだろう。有名アーティストの代表作品に人気が集中する傾向が今後も続くのか、市場を注視していきたい。

(為替 1ドル/150円換算)

2025年秋ニューヨーク
写真オークション・レヴュー
ダイアン・アーバスの名作が高額落札

2025年秋の大手3業者によるニューヨーク定例アート写真オークション。今回は10月上旬から下旬にかけて、複数委託者によるライブとオンラインの合計3件が開催された。

フィリップスは、10月8日にアーヴィング・ペン財団所蔵作品によるアーヴィング・ペン単独オークション“Visual Language: The Art of Irving Penn”(70点)と、9日に複数委託者による“Photographs”(212点)、クリスティーズは、10日に複数委託の“Photographs(Online)”(209点)、サザビーズは、21日にニューヨーク近代美術館から出品された20世紀写真のコレクション“Selections from The Museum of Modern Art: c. 1900–1990(Online)”、そして新しい試みとして高額評価のプリントと写真の混成オークションの“Prints & Photographs Part I””(17点)、と中低価格帯の写真を取り扱う“Photographs Part II”(101点)を開催した。

さてオークション結果だが、3社合計で654点が出品され、516点が落札。全体の落札率は約78.9%と春の約78.7%とほぼ同じレベルだった。
ちなみに2024年秋は出品737点で落札率75.6%、2024年春は出品766点で落札率73.5%だった。出品数の減少傾向は、大手3社が高額評価作品の取り扱いを重視し、中小業者に低価格帯作品の取り扱いがシフトしているからだと思われる。
総売り上げは約1581万ドル(約23.39億円)、同時期の昨秋の1466万ドル、今春の約1009万ドルより増加。落札作品1点の平均落札金額は23,261ドルで、今春の約21,691ドルより増加している。
過去10回のオークションの落札額平均と比較したグラフでは、総売上高は増加に転じている。

業者別では、売り上げ1位は久しぶりに約844万ドルを達成したフィリップス(落札率76%)だった。アーヴィング・ペンの単独セールの影響が大きかった。2位は約377万ドルのサザビース(落札率78%)、3位は約359万ドルでクリスティーズ(落札率83%)という結果だった。

年間ベースでドルの売上を見比べると、2025年ニューヨーク・セールの年間売り上げは約2591万ドル(落札率約78.8%)で前年比微減だった。ちなみに2024年は約2626万ドル(落札率約74.5%)、2023年は約1865万ドル(落札率約73.7%)、2022年は約2029万ドル(落札率67.4%)だった。
2025年の売り上げ結果は高額落札が相次いだ今秋フィリップスで開催されたアーヴィング・ペンの単独セールがかなり貢献している。同セール単体で66点が落札され、486万ドルを売り上げている。これがなければ、総売り上げ、落札率、平均落札金額ともに、ほぼ最近のトレンドに沿った結果となる。

Sotheby’s NY, Diane Arbus, “Identical Twins, Roselle, N. J., 1966”

今シーズンの最高額落札は、サザビーズの新機軸のオークション“Prints & Photographs Part I””に出品されたダイアン・アーバスの名作“Identical Twins, Roselle, N. J., 1966”だった。シート68.6X68.6cm、イメージ37.5×37.5cmという大きなサイズの作品、サインは娘のドーン・アーバスによる。一流ギャラリーの取り扱い、美術館の展示などの記録がある来歴が良い作品。落札予想価格50~70万ドルのところ69.85万ドル(約1.03億円)で落札された。

Phillips NY, Irving Penn, “Ginkgo Leaves, New York, 1990/1992”

第2位は、フィリップスによるアーヴィング・ペンの単独オークション“Visual Language: The Art of Irving Penn”に出品された“Ginkgo Leaves, New York, 1990/1992”。1991年刊の写真集“Passage: A Work Record”のカバー・イメージ。イメージサイズ57.5X47cmのダイ・トランスファー・プリント。落札予想価格20~30万のところ、56.76万ドル(約8400万円)で落札、ペン作品のオークション最高落札額記録となる。

Christies NY, Ansel Adams, “Aspens, Northern New Mexico, 1958/c1968”

高額落札第3位は、クリスティーズ“Photographs(Online)”に出品されたアンセル・アダムスの“Aspens, Northern New Mexico, 1958/c1968”。イメージサイズ77.5 x 97 cmの大判銀塩作品。落札予想価格30~50万ドルのところ33.02万ドル(約4886万円)で落札されている。

さて今回サザビーズが新しい試みとして高額評価のプリント(版画)と写真の混成オークションの“Prints & Photographs Part I”を開催した。その内容と結果を詳しく見てみよう。アンディー・ウォーホール、ロイ・リヒテンシュタインなどのプリント作品とともに、ダイアン・アーバス、エドワード・ウェストンなどの写真作品が出品。全体55点のうち17点が写真関連だった。

出品作家は、ダイアン・アーバス、マン・レイ、ロバート・メイプルソープ、アルバート・ワトソン、ヘルムート・ニュートン、ラースロー・モホリ=ナジ、マヌエル・アルバレス・ブラボ、エティエンヌ=ジュール・マレー、エドワード・ウェストン、ゴードン・パークス、ザネレ・ムホリ、杉本博司と、幅広い分野と年代におよぶ。落札予想価格も下限額が10万ドル越えが7点、10万ドル以下が10点で、特に高額価格帯だけの出品ではなかった。それにプリント作品が加わるので、全体的に方向性や、まとまりは感じられなかった。現在の写真がアート界で置かれている中途半端な状況が反映されているともいえるかもしれない。このようなアプローチで写真をカテゴリー分類するのではなく、むしろ一つの表現方法ととらえて、評価額を考慮したカテゴリー分類の方がしっくりくると感じた。

Sotheby’s NY, Edward Weston, “Nude on Sand, Oceano,1936”

落札結果は17点のうち11点が落札された(落札率64%)。高額評価のロバート・メイプルソープ、ヘルムート・ニュートン、杉本博司(Sea of Buddha 004, 005, 006)は不落札だった。最高額落札は前記のダイアン・アーバスの名作“Identical Twins, Roselle, N. J., 1966”の69.85万ドル、続いたのはエドワード・ウェストンの貴重な初期プリント“Nude on Sand, Oceano,1936”で、落札予想価格25~35万ドルのところ30.48万ドル(約4510万円)で落札されている。

Sotheby’s NY, Roy Lichtenstein “Water Lilies with Japanese Bridge, from the Water Lilies series (Corlett 265; RLCR 4167)”

ちなみにプリント作品の最高額はロイ・リキテンスタイン(1923-1997)の、“Water Lilies with Japanese Bridge, from the Water Lilies series (Corlett 265; RLCR 4167)”。約211X147cmサイズのエディション23の作品。落札予想価格40~60万ドルのところ76.2万ドル(約1.12億円)で落札されている。

(1ドル/148 円で換算)

2025年秋 New Yorkアート写真
オークション・プレビュー
サザビーズが新カテゴリー
「Prints & Photographs」創出!

Sotheby’s NY「Prints & Photographs Part I」, 2025-Oct-22, Diane Arbus”Identical Twins, Roselle, N. J., 1966″

ニューヨークで定期的に行われているファインアート写真関連作品の大手3業者による秋の定例オークション。今年の大体の開催概要、スケジュールと注目作品の情報をお届けする。

これまで何度も指摘しているように、いま現代アート市場の拡大とデジタル化の進行により「写真」の概念が大きく変化している。従来の19/20世紀写真に加えて、現代アート作品の影響を受けた、21世紀写真、現代アート系写真が市場で混在して取引されている。オークション会社も様々なアプローチで写真のカテゴリー分けを行っている。最近よく見られるのは、高額作品とそれ以外を作品の評価額により選別化する試みだ。また写真をプリント(版画)作品と同じオークションで取り扱うケースも散見されるようになった。今期のオークションでその傾向がより鮮明化してきたのがサザビーズだ。彼らは「Prints & Photographs」というカテゴリーを新設。10月22日開催のパートIではプリントと写真の高額作品11点が出品。その後、写真とプリントの単独オンライン・オークションが、10月14日から23日にかけて「Print Part II」、10月16日から23日にかけて「Photographs Part II」として開催される。以下がサザビーズによるプレスリリースの内容だ。

“「Prints & Photographs Part I」は、版画と写真の巨匠たちによる傑作を称える新たなライブ・オークション・プラットフォームです。2025年10月、主要な季節オークションと同時開催される本オークションでは、古典的な巨匠版画家から現代に影響を与えた現代・現代美術家まで、厳選された作品群を一堂に集めます。ハイライトには、アルブレヒト・デューラー、マン・レイ、ダイアン・アーバス、ロバート・メイプルソープ、ロイ・リキテンスタインらによる版画・写真作品が含まれます。”

同社のオークションでの高額落札候補は、ダイアン・アーバスのフォトブック表紙にもなった代表作“Identical Twins, Roselle, N. J., 1966”。落札予想価格は50万~70万ドル(約7400万~1.03億円)となる。

Christie’s NY 「Photographs Online」,lot27 Ansel Adams “Aspen, Northen New Mexico,1958”

一方、クリスティーズは「Photographs」のオンライン・オークションを9月25日から10月10日まで開催する。幅広いカテゴリーの209点が出品される。高額落札候補は、ロット47のアンセル・アダムス“Aspen, Northen New Mexico,1958”。1968年ごろにプリントされた、77.5X97cm サイズの大判作品、落札予想価格は30万~50万ドル(約4400~7400万円)となる。ちなみに同作は2017年4月6日にクリスティーズNYで開催されたオークションで落札予想価格20万~30万ドルのところ、43.95万ドルで落札されている。

Phillips NY「Photographs」, Diane Arbus, “A Jewish giant at home with his parents in the Bronx, N.Y.,1970”

フィリップスは、10月8日に 20世紀ファッション写真の巨匠アーヴィン・ペンの写真とペインティングの代表作を含む70点の「 Visual Language: The Art of Irving Penn 」を開催。ファッション、ポートレートからスティル・ライフまで、 彼の約70年の多彩な キャリアを回顧するオークションとなる。落札予想価格は、1万ドルから30万ドルのレンジとなる。また10月9日にはライブオークションの「Photographs」を開催する。こちらは幅広いカテゴリーの213点が出品される。高額落札候補は、ダイアン・アーバスのロット119“A Jewish giant at home with his parents in the Bronx, N.Y., 1970”。これはアーバス本人が1970~1971年かけて自らがプリントしたヴィンテージ作品となる。落札予想価格は30万~50万ドル(約4400~7400万円)。続いてはシンディー・シャーマンの“Untitled #470. 2008”で、落札予想価格は20万~30万ドル(約2960~4400万円)となる。

全般的に、大手3社の取り扱い写真作品は、評価1万ドル以下の低価格帯の作品数が少なくなっている印象だ。サザビーズは上記のように高額作品が中心となっている、5000ドル(約74万円)以下の作品は、クリスティーズで209点中44点、フィリップスで213点中45点にとどまっている。低価格帯の写真作品の取り扱いは、Bonhams、Swann、Heritageなど中小のオークション会社とオンライン・オンリーにシフトしていくのだろう。ニューヨーク秋のオークション落札結果の本格的レビュー/分析は今月末にはお届けできると思う。

(1ドル/148 円で換算)

海外オークション情報@ロンドン
サザビーズでマン・レイの代表作が高額落札!

Sotheby’s London, “Modern & Contemporary Evening, Contemporary Day Auctions”, Man Ray 「Noire et blanche (Black and White), 1926」

6月24~25日にサザビーズ・ロンドンで開催された“Modern & Contemporary Evening, Contemporary Day Auctions”で、シュルレアリスムの象徴であり、20世紀で最も称賛されているアート作品の一点と言われているマン・レイの「Noire et blanche (Black and White), 1926」が、2,114,000 ポンドで落札された。作品サイズは、17.5X 22.8cm、制作年は1926年で1935年までにプリントされた初期のゼラチン・シルバー・プリント。落札予想価格は1,500,000 – 2,000,000ポンド、落札額は1ポンド/1.37ドルで換算すると、2,896,180ドル、1ポンド/197円で換算すると約4.16億円となる。

本作「Noire et Blanche」は、マン・レイの恋人でありミューズでもあるキキの「完璧な楕円形」の頭と様式化されたバウレ族のマスクを対比させたもの、制作から100年近く経った今でも画期的で斬新なイメージだ。1926年5月にパリ版『ヴォーグ』に初めて掲載された、1920年代半ばにおけるパリでのマン·レイとキキの驚くべき創造的なコラボの象徴だと言われている。当時のマン・レイは米国291ギャラリーのスティーグリッツとの交流があったものの、パリではダダイストの仲間、デュシャンとトリスタン・ツァラに励まされたと言われている。彼は当時の主流だった写真制作の慣習に逆らい、想像力を駆使することで現実を代替的に提示する写真の可能性を追求した。

作品の来歴も極めて由緒正しいといえるだろう。オークションの作品解説によると、本作はロンドンで写真オークションが開始されてから数年後の1978年に、サザビーズ・ベルグラビアで取引された写真作品のうちの一点とのこと。次に、1980年11月にクリスティーズ・イーストのオークションに出品され、 米国の写真商業ギャラリーの創始者のひとりのMargaret W. Westonのコレクションに加わっている。彼女のコレクションは、2007年4月にサザビーズ・ニューヨークでオークションにかけられ、本作は落札予想価格は200,000 – 300,000ドルのところ、落札額396,000ドルで今回のコレクターが入手している。2025年までの約18年の利回りは各種手数料などのコストを考慮しなくて1年複利で単純計算すると約11.68%となる。

マン・レイは決して失敗を恐れない実験家で、その作品制作では常に即興的なアプローチを行っていた。この「Noire et Blanche」のプリントは、意図的な異なるトリミング、多種多様な写真用紙の使用、そして異なるレベルのレタッチにより、厳密には2つとして同じものは存在しないと言われている。現存するほとんどの作品は、修正が施されたプリントより作成されたインターネガティブから制作されている。しかし、今回出品されたプリントは、2つの顔の形状とその影のバランスが慎重に計算されており、キキの腕と彼女が頭を乗せている表面に影が落ちている他のプリントとは異なる点が見られる。 専門家はこの特徴的な緊密なトリミングと明らかな修正の痕跡から、マン・レイのカンパーニュ・プルミエール通りの暗室で、オリジナルのガラスプレートネガティブから直接制作された可能性が高いと評価している。本作同様のトリミングを施した初期プリントは、ヒューストン美術館のマンフレッド・ハイティング・コレクションに所蔵されている。 


Modern print from a copy negative at Centre Pompidou

ちなみにこ「Noire et Blanche」の最高額落札は、2022年11月17-18日のクリスティーズ・ニューヨーク、“20th Century Evening, 21st Century Evening, and Post-War & Contemporary Art”で落札された4,020,000ドル。同プリントは、マン・レイがカンパーニュ・プルミエール通りの暗室で、オリジナルのネガから制作したもの。おそらく、より大判の、よりタイトにトリミングされ、その後何枚ものコンタクトプリントを制作するネガ制作以前の貴重なものだと高く評価されたのだ。同様のプリントはMoMAに収蔵されている。

今回の出品作のような初期プリントのほとんどは美術館のコレクションに収められており、コレクターの入手機会は極めて稀なのだ。それに加えて、上記のような高い作品評価や一流の来歴が今回の高額落札の理由だと考えられる。マン・レイ作品は、市場では写真ではなく絵画同様の価値があると認識されているのだ。

2025年春NewYork写真オークションレヴュー
アンセル・アダムスの名作が高額落札!

2025年春の大手3業者によるニューヨーク定例アート写真オークション、今回は4月上旬から中旬にかけて、複数委託者によるライブとオンラインの合計3件が開催された。
フィリップスは、4月2日に複数委託者による”Photographs”(223点)、サザビーズは、4月3日に複数委託者による”Photographs(Online)”(128点)、クリスティーズは、4月17日に”Photographs(Online)”(222点)を開催した。
さてオークション結果だが、3社合計で573点が出品され、451点が落札。全体の落札率は約78.7%と秋の約75.6%よりも若干改善した。ちなみに2024年秋は出品737点で落札率75.6%、2024年春は出品766点で落札率73.5%だった。総売り上げは約1009万ドル(約14.9億円)、昨秋の1466万ドル、昨春の約1159万ドルより減少している。落札作品1点の平均落札金額は21,691ドルで、昨秋の約26,328ドルより減少、ほぼ昨春の約20,600ドルと同じレベルだった。

過去10回のオークションの落札額平均と比較したグラフを見ても、総売上高は再び減少に転じている。今年も、ダイアン・アーバス、エル・リシツキーなどの高額評価のヴィンテージ作品が現代アート系オークションに出品されている。”Photographs”分野は中低価格帯の作品が中心になるので、売り上げの減少傾向は続きそうだ。

業者別では、売り上げ1位は久しぶりに約374万ドルを達成したクリスティーズ(落札率76%)、2位は約353万ドルのフィリップス(落札率80%)、3位は約281万ドルでサザビーズ(落札率80%)という結果だった。

しかしフィリップスは、2025年3月18日にウィリアム・エグルストンによるダイ・トランスファー作品43ロットの単独オークション「Color Vision: Masterworks by William Eggleston from Guy Stricherz and Irene Malli」を行い、約566万ドルを売り上げている。実際はフィリップスが売り上げ1位だったといえるだろう。

Sotheby’s NY, Ansel Adams,”Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941″

今シーズンの最高額落札は、サザビーズ”Photographs(Online)”に出品されたアンセル・アダムスの”Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941/c1942″だった。イメージサイズは37.5×47cm、落札予想価格50~70万ドルのところ63.5万ドル(約9398万円)で落札された。本作は、40年代初頭にプリントされた、現存数が少ない1948年12月のネガ再処理以前の貴重な初期プリントの1枚。

Phillips NY, Richard Avedon, “Avedon/Paris, 1947-1957”

第2位は、フィリップスに出品されたリチャード・アヴェドンのファッションの有名作”Avedon/Paris, 1947-1957, 1978”だった。本作は、1947年から1957年にかけてハーパーズ・バザーのスタッフ・フォトグラファーとして撮影された初期の写真で構成されたポートフォリオ11点。1978年にメトロポリタン美術館で開催されたアヴェドンのキャリア初期の回顧展のために編集。1950年代の「ニュールック」ファッションを定義したファッション写真だと言われている。落札予想価格15~20万のとろ、21.59万ドル(約3195万円)で落札されている。

Christie’s NY, Alfred Steieglitz, ”The Hand of Man, 1902”

高額落札第3位は、いずれもクリスティーズに出品された、アルフレッド・スティーグリッツによる、24 x 31.7 cmサイズのphotogravure作品”The Hand of Man, 1902/c1910”と、アンセル・アダムスのポートフォリオ15点の”Portfolio Two: The National Parks and Monuments”で、ともに17.64万ドル(約2610万円)だった。

米国経済は、トランプ政権による通貨や通商の秩序を変えようとする動きで不確定要素が多くなってきている。関税、財政、インフレなどの先行きが非常に読みにくい状況だといえるだろう。米国の中央銀行に当たるFRBは「様子見姿勢」を明確にするなど、早期の利下げも遠のいたようだ。このような社会・経済の環境の中、アートの高額価格帯市場では、知名度の高いアーティストの資産価値が確かな代表作に人気が集中し、20世紀写真や若手新人のコレクションは様子見のような状況が続いている。また一時よりも円高になったものの、今の為替レベルは肌感覚ではまだまだ円安水準といえるだろう。日本のコレクターは、積極的購入には動き難くい状況だと思われる。輸送費の高騰も心理的に影響しているだろう。最近は日本のSBIアートオークションなどに良質の海外アーティストの写真作品が出品されるケーズが散見される。これらは、今の為替レートよりも円高のレベルで作品が評価されていると思われる。また国内だと作品輸送費が低く抑えられるメリットもある。まだ写真作品は少ないが、今後の出品状況を注視したい。

(1ドル/148 円で換算)

ファッション写真を特集したオークション開催
フィリップス・NY・PHOTOGRAPHS

Phillips NY” PHOTOGRAPHS”, Horst P. Horst “Mainbocher Corset, Paris, 1939”

フィリップス・ニューヨークで開催された春のオークション「PHOTOGRAPHS」では、ファッション写真の特集が興味深かった。ミッドセンチュリーのリチャード・アヴェドン、アーヴィング・ペン、ヘルムート・ニュートン、ウィリアム・クライン、フランク・ホーヴァット、リリアン・バスマンなどの戦後時代のファッション写真と、単独コレクションから「VENUS」と命名された、主に80年代から2000年代のコンテンポラリーのファッション写真を絶妙に織り交ぜてセレクションされていた。たぶんオークション内覧会に行くと、20世紀ファッション写真を網羅する展覧会のような構成になっていると思われる。

Phillips NY” PHOTOGRAPHS”,Chuck Close “Kate Moss (diptych)、2008”

単独コレクションから出品された「VENUS」は、理想化された女性像の神話的な姿を意味するとのこと。落札結果のウェブ上のオークションカタログを見ると、Horst P. Horstの戦前の名作“Mainbocher Corset, Paris, 1939”から、2000年代のChuck Closeによる “Kate Moss (diptych)、2008”までの20ロットが紹介されている。解説文には22点と書かれているので、もしかしたら2点は出品取りやめになったのかもしれない。出品作の中心は80年代と90年代で、各6点と8点。
写真家も当時を代表する11人が名を連ねている。内訳は、パトリック・デマルシェリエ(Patrick Demarchelier) 4点、アルバート・ワトソン(Albert Watson) とハーブ・リッツ(Herb Ritts)が 3点、サンテ・ドラツィオ(Sante D’Orazio) とホルスト(Horst P. Horst) が2点、デボラ・ターバヴィル(Deborah Turbeville)、チャック・クロース(Chuck Close) 、ブル-ス・ウェバー(Bruce Weber) 、アーサー・エルゴート(Arthur Elgort) 、 マイケル・ドウェック (Michael Dweck) 、ランキン(Rankin) が1点となる。被写体は当時のスーパーモデルたちだが、ケイト・モスの写真が8点と多く、なんと7名の写真家が撮影、続くのがクリスティー・ターリントンが4点、シンディー・クロフォードが2点となる。ケイト・モスはこの時代に多くの写真家の創作意欲を掻き立てた代表的なミューズだった事実がよくわかる。

Phillips NY” PHOTOGRAPHS”, Michael Dweck “Mermaid 128, Aripeka, FL, 2002″

個人的にはブリッツ・ギャラリーが取り扱う、最近は映画監督としても有名な
マイケル・ドウェックの「Mermaids」シリーズ作が含まれていたことが嬉しかった。“Mermaid 128, Aripeka, FL, 2002”は、落札予想価格3,000~5,000ドルのところ、4,445ドル(@150/約66.6万円)で落札。同シリーズは実はドキュメント作なのだが、間違いなく広義では時代性が反映されたファッション写真だと思う。

「VENUS」のオークション結果だが、20点が落札。落札予想価格の上限以上の落札が15点、予想範囲内が5点、下限以下の落札はないという、好調な結果だった。このようにカテゴリーを特集したオークションは、とても宣伝効果が強い。今回も間違いなく、インテリアにも相性が良いこの分野のコレクターが注目したのだと思う。また、いまやファインアート系のファッション写真のカテゴリーは、人気コレクション分野として確立している事実が改めて印象付けられた。

Phillips NY” PHOTOGRAPHS”,Deborah Turbeville, “Three Nudes, 1986”

最高額はChuck Closeによる“Kate Moss (diptych)、2008”。落札予想価格15,000~25,000ドルのところ、24,130ドル(@150/約362万円)で落札されている。ちなみに、デボラ・ターバヴィルの“Three Nudes, 1986”は、落札予想価格3,000~5,000ドルのところ、8,890ドル(@150/約133万円)で落札。これは作家のオークション・最高落札額になるとのことだ。近年進行している、女性ファッション写真家再評価の流れが影響していると思われる。

Phillips NY” PHOTOGRAPHS”, Richard Avedon “Avedon/Paris, 1947-1957, 1978”

全てのオークションでのファッション系最高額はリチャード・アヴェドンの有名な“Avedon/Paris, 1947-1957, 1978”だった。本作は、1947年から1957年にかけてハーパーズ・バザーのスタッフ・フォトグラファーとして撮影された初期の写真で構成されたポートフォリオ11点。1978年にメトロポリタン美術館で開催されたアヴェドンのキャリア初期の回顧展「Avedon: Photographs 1947-1977 」のために編集。当時の劇的な社会文化の変化に対応した、ストリートや野外で撮影された動きのある映画的なアプローチの作品が収録されている。それらは、1950年代の「ニュールック」ファッションを定義したファッション写真だと言われている。いま見ても十分に斬新でカッコいいイメージ群だ。落札予想価格15~20万のところ、215,900ドル(@150/約3238万円)で落札されている。個別作品には、もちろん人気・不人気があるが、平均すると1点はだいたい294万円くらいになる。アヴェドンの代表的なパリのファッション作品なら、決して高価すぎないように感じるのは私だけだろうか。

2025年春のニューヨーク・ファインアート写真オークションはまだ一部が17日まで行われている。近日中に全体レビューをお届けしたいと思う。