
2025年秋の大手3業者によるニューヨーク定例アート写真オークション。今回は10月上旬から下旬にかけて、複数委託者によるライブとオンラインの合計3件が開催された。
フィリップスは、10月8日にアーヴィング・ペン財団所蔵作品によるアーヴィング・ペン単独オークション“Visual Language: The Art of Irving Penn”(70点)と、9日に複数委託者による“Photographs”(212点)、クリスティーズは、10日に複数委託の“Photographs(Online)”(209点)、サザビーズは、21日にニューヨーク近代美術館から出品された20世紀写真のコレクション“Selections from The Museum of Modern Art: c. 1900–1990(Online)”、そして新しい試みとして高額評価のプリントと写真の混成オークションの“Prints & Photographs Part I””(17点)、と中低価格帯の写真を取り扱う“Photographs Part II”(101点)を開催した。
さてオークション結果だが、3社合計で654点が出品され、516点が落札。全体の落札率は約78.9%と春の約78.7%とほぼ同じレベルだった。
ちなみに2024年秋は出品737点で落札率75.6%、2024年春は出品766点で落札率73.5%だった。出品数の減少傾向は、大手3社が高額評価作品の取り扱いを重視し、中小業者に低価格帯作品の取り扱いがシフトしているからだと思われる。
総売り上げは約1581万ドル(約23.39億円)、同時期の昨秋の1466万ドル、今春の約1009万ドルより増加。落札作品1点の平均落札金額は23,261ドルで、今春の約21,691ドルより増加している。
過去10回のオークションの落札額平均と比較したグラフでは、総売上高は増加に転じている。

業者別では、売り上げ1位は久しぶりに約844万ドルを達成したフィリップス(落札率76%)だった。アーヴィング・ペンの単独セールの影響が大きかった。2位は約377万ドルのサザビース(落札率78%)、3位は約359万ドルでクリスティーズ(落札率83%)という結果だった。

年間ベースでドルの売上を見比べると、2025年ニューヨーク・セールの年間売り上げは約2591万ドル(落札率約78.8%)で前年比微減だった。ちなみに2024年は約2626万ドル(落札率約74.5%)、2023年は約1865万ドル(落札率約73.7%)、2022年は約2029万ドル(落札率67.4%)だった。
2025年の売り上げ結果は高額落札が相次いだ今秋フィリップスで開催されたアーヴィング・ペンの単独セールがかなり貢献している。同セール単体で66点が落札され、486万ドルを売り上げている。これがなければ、総売り上げ、落札率、平均落札金額ともに、ほぼ最近のトレンドに沿った結果となる。

今シーズンの最高額落札は、サザビーズの新機軸のオークション“Prints & Photographs Part I””に出品されたダイアン・アーバスの名作“Identical Twins, Roselle, N. J., 1966”だった。シート68.6X68.6cm、イメージ37.5×37.5cmという大きなサイズの作品、サインは娘のドーン・アーバスによる。一流ギャラリーの取り扱い、美術館の展示などの記録がある来歴が良い作品。落札予想価格50~70万ドルのところ69.85万ドル(約1.03億円)で落札された。

第2位は、フィリップスによるアーヴィング・ペンの単独オークション“Visual Language: The Art of Irving Penn”に出品された“Ginkgo Leaves, New York, 1990/1992”。1991年刊の写真集“Passage: A Work Record”のカバー・イメージ。イメージサイズ57.5X47cmのダイ・トランスファー・プリント。落札予想価格20~30万のところ、56.76万ドル(約8400万円)で落札、ペン作品のオークション最高落札額記録となる。

高額落札第3位は、クリスティーズ“Photographs(Online)”に出品されたアンセル・アダムスの“Aspens, Northern New Mexico, 1958/c1968”。イメージサイズ77.5 x 97 cmの大判銀塩作品。落札予想価格30~50万ドルのところ33.02万ドル(約4886万円)で落札されている。
さて今回サザビーズが新しい試みとして高額評価のプリント(版画)と写真の混成オークションの“Prints & Photographs Part I”を開催した。その内容と結果を詳しく見てみよう。アンディー・ウォーホール、ロイ・リヒテンシュタインなどのプリント作品とともに、ダイアン・アーバス、エドワード・ウェストンなどの写真作品が出品。全体55点のうち17点が写真関連だった。
出品作家は、ダイアン・アーバス、マン・レイ、ロバート・メイプルソープ、アルバート・ワトソン、ヘルムート・ニュートン、ラースロー・モホリ=ナジ、マヌエル・アルバレス・ブラボ、エティエンヌ=ジュール・マレー、エドワード・ウェストン、ゴードン・パークス、ザネレ・ムホリ、杉本博司と、幅広い分野と年代におよぶ。落札予想価格も下限額が10万ドル越えが7点、10万ドル以下が10点で、特に高額価格帯だけの出品ではなかった。それにプリント作品が加わるので、全体的に方向性や、まとまりは感じられなかった。現在の写真がアート界で置かれている中途半端な状況が反映されているともいえるかもしれない。このようなアプローチで写真をカテゴリー分類するのではなく、むしろ一つの表現方法ととらえて、評価額を考慮したカテゴリー分類の方がしっくりくると感じた。

落札結果は17点のうち11点が落札された(落札率64%)。高額評価のロバート・メイプルソープ、ヘルムート・ニュートン、杉本博司(Sea of Buddha 004, 005, 006)は不落札だった。最高額落札は前記のダイアン・アーバスの名作“Identical Twins, Roselle, N. J., 1966”の69.85万ドル、続いたのはエドワード・ウェストンの貴重な初期プリント“Nude on Sand, Oceano,1936”で、落札予想価格25~35万ドルのところ30.48万ドル(約4510万円)で落札されている。

ちなみにプリント作品の最高額はロイ・リキテンスタイン(1923-1997)の、“Water Lilies with Japanese Bridge, from the Water Lilies series (Corlett 265; RLCR 4167)”。約211X147cmサイズのエディション23の作品。落札予想価格40~60万ドルのところ76.2万ドル(約1.12億円)で落札されている。
(1ドル/148 円で換算)











































