遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。
さてアート業界に目を向けると、2017年にはまだ変化が訪れるような際立った兆しは見られなかった。それどころか、市場の1極集中が進行した印象だった。まずアーティスト人気の集中化が進んだ。artnetニュースの分析によると、2017年前半の戦後/現代アートオークションでは25人の有名アーティストがオークション売り上げの約50%を占めたという。1位バスキア、2位ウォーホール、3位リヒテンシュタインとのこと。まさに一部の勝者が市場シェアを席巻したといえよう。
アート界も資本主義の一部として成立している。ギャラリーやディーラーは、経済グローバル化の影響を受け、コストのかかる世界的なアートフェアへの参加、家賃の高い世界的大都市でのギャラリー運営などを強いられてきた。しかしここにきて一部の富裕層を世界中で奪い合うという、コストのかかるアートビジネスは限界にきている印象だ。それに生き残り可能なのは、豊富な資金力を持つ大手ディーラーのみ。視点を変えれば、貧富の格差拡大により、富裕層相手の大手が繁栄して、中間層相手の中小ギャラリーが苦戦している構図ともいえるだろう。
中堅ギャラリーがビジネスを見直すのは、フランスの学者エマニュエル・トッドがいう”グローバリゼーション・ファティーグ(グローバル化の疲れ)”のアート版の動きともいえるだろう。もしかしたら、中期的には地元の幅広い中間層相手の民主的なアート・ビジネス回帰が始まったのかもしれない。もちろんそれにはやせ細った中間層の復興が前提となる。
現在は、写真表現は現代アート分野まで広がっている。また、高額な19~20世紀写真が現代アートのカテゴリーに出品される場合もある。しかし、統計数字の継続性を重視して、ここでは従来の“Photographs”分野のオークションの数字を集計している。
それによると総売り上げは約78.9億円で、前年比約17%増加した。内訳は米国が約18%増加、欧州が約70%増加、英国が約27%減だった。主要市場での高額落札の上位20位の落札総額を比べると、2016年比で約9.3%減少している。
これは、高額セクターの19~20世紀の写真作品が現代アートのカテゴリーに出品される傾向が強まったことによると判断したい。
しかし2014年秋以降は再び弱含んでの推移が続き、ついに2015年秋にはリーマンショック後の2009年春以来の低いレベルまで落ち込んだ。
2016年はすべての価格帯で低迷状態が傾向が続いていたものの、2017年は春から市場が回復傾向を示し、年間総売上高では急減前の2015年春のレベルを上回ってきた。過去5年の売上平均値を春と秋ともに上回ってきた。売り上げサイクルは2016年秋を直近の底に2017年に回復したと判断できるだろう。
戦後・現代アート市場と同様に、写真市場も一部の人気作家の人気作品への需要集中傾向が見られた。これは、従来中心だった中間層のアート写真コレクターではなく、現代アート分野の富裕層コレクターが主導したと思われる。現代アート分野で、だれでも知っている人気作品を購入するのには多額な資金が必要だ。
しかし、エディションがあるアート写真ならいまでも写真史上の名だたる写真家の代表作品を現代アート系と比べるとはるかに手ごろな価格で購入可能なのだ。
もちろん、それは従来のアート写真コレクターの相場観からは高額なのはいうまでもない。
中間価格帯の特徴がない作品が売れない状況がしばらくは続きそうだ。
日本ではアート写真はまだ20世紀写真を意味する場合が多い。欧米市場ではますますアート写真と現代アート系写真との融合が進んだ。
ちなみに2017年に現代アートのカテゴリに出品されたされた写真関連作品は867点となり、落札総額は約67.6億円にもなるのだ。現在はちょうど過渡期にあたりカテゴリー分類の考え方は各業者により違いがある。将来的には19~20世紀のクラシック写真と、現代アートの一部のコンテンポラリー写真に分類されていくのではないだろうか。今年からは、それを考慮したより多面的な市場分析を検討したい。