スティーブン・ショアMoMAで回顧展開催
巨匠は良い写真やデジタル時代をどう考えているのか?

Stephen Shore MoMA回顧展カタログ

 

 

 

 

 

スティーブン・ショアー(1947-)は、70年代初期からカラーでシリアス作品に取り組んでいる。写真史ではウィリアム・エグルストンとともに70年代のニューカラーの代表写真家と分類されている。

ニューヨーク近代美術館(MoMA)では、2017年11月から2018年5月まで大規模な回顧展が開催されている。キューレションは同館のクエンティン・バジャックが担当、ショアーの一連の作品を新たな視点から紹介して、ニューカラーの写真家というステレオタイプのイメージを覆そうという挑戦を行っている。

同展は50年以上のショアーのキャリアを、60のテーマ別セクションで構成して紹介。10代に撮影されてMoMAに購入されたモノクロ銀塩写真、アンディ・ウォーホール・スタジオだったファクトリーの日常生活を撮影した作品、ファウンド・フォトのコラージュ作品、古き良きアメリカン・シーンを撮影した代表的なカラー作品、イスラエル、ヨルダン川西岸地区、ウクライナを探求した作品、最新のデジタルによるインスタグラム作品までを年代順に紹介している。

彼は使用するカメラや撮影手法をキャリアを通して変化させ、様々なフォームの写真作品に取り組んでいる。70年代には安価なオートマチック・カメラ、その後は8X10″の大判カメラに切り替えてカラーフィルムを使用する先駆者となる。1990年にはモノクロ写真に再び戻り、2000年代にはデジタル写真、デジタル・プリント、ソーシャルメディアによる新たな表現の可能性を追及している。

昨年、彼が行った記者会見の様子をMoMAのウェブサイトで見ることができる。彼の創作の背景にある深遠な思想が垣間見れて非常に興味深い。彼はどのように考えて様々な写真作品に取り組んでいるかを自分の言葉で明確に語れる人なのだ。私が興味を持ったのは、参加者からの質問への彼の示唆に富んだ回答だった。
写真を教えているという女性から、生徒はみんなスティーブン・ショアのような良い写真(good pictures)を目指している。どうすれば、あなたのような独自のオリジナリティーを持つことができるのか、というようなストレートな質問があった。彼はやや視点を変えると前置きして以下のように回答している。
「私や生徒が尊敬する良い写真はそれ自体を追及して生まれたのではない。写真家が何らかのヴィジュアルを通して解決したい問題点を持っていて、それを追及した過程で誰かが評価するものが生まれている。良い写真は結果的にたまたま生まれたもので、それを目指したものではない。良い写真を撮ろうと誰かの真似をするのは本末転倒だ」

アマチュア写真家は良い写真を撮ろうと悪戦苦闘する。自己表現するファインアート作家は、写真撮影の段取りが全く違うようだ。撮影前に何らかの問題点を世の中で見つけ出しており、写真を通してそれを提示・追及するとともに、それに対する答えを探している。
ショアーによればその制作過程で見る側がよいと感じる写真が生まれるというのだ。彼は決して、グラフィカルや色彩的にバランスが取れたヴィジュアルを良い写真と定義してないのがよくわかる。

私はショアーの言う良い写真は、見る側にとって意味がある写真のことだと思う。写真家がアーティストとして認められるには、提示されたテーマやコンセプトが見る側にも共有されなければならない。そのようなコミュニケーションが成立すると、見る側は写真に意味が見いだす、つまり良い写真になるということだろう。だから見る側の知識、経験、理解力によって、良い写真が全く違っているともいえるだろう。

インスタグラムなどが登場してきた現代写真界の現状についての質問もあった。70年代と比べて写真は進化したのか、変化したのかの意見を聞かせてほしいというものだった。
ショアーの回答は、「技術進化で誰でもカメラをいつでも持ち写真を撮る環境が訪れた。この事実はアーティストの写真による作品制作を何ら減少させることはないだろう。誰でも文字を書ける、伝票を書くし、法律的な文章も書く、しかしそれは小説家の仕事に影響を与えるわけではない。デジタル化で写真もそのようになったと考えればよい。誰でも写真を撮るが、偉大なアート作品はそれらとは違う」というようなものだった。

ショアーが例えた”文字”は国によって違い、また文法などがある。私は彼の意図は、写真が絵やイラストなどのヴィジュアルと同等になり、絵筆やペンのような制作手段の一つにデジカメやスマホが加わったという風に理解したい。写真デジタル化の良いところは、技術がなくてもそれなりの高いクオリティーのヴィジュアルが制作可能になったことだ。また現代アートが主流となったことで、作品クオリティー自体の追及が昔よりも重要視されなくなった。いまやすべての分野のアーティストが写真を使用する。デジタル化で写真は真に民主的な表現メディアとなったのだ。しかし子供を含めて、誰でも絵やイラストは描けるがプロのイラストレーターにはなれない。趣味で絵を描く人は、若い時から専門教育を受けてアート界でキャリアを積んできた画家にはなれない。同じようにいまや誰でも良い写真は撮れるが、それだけではスティーブン・ショアのようなアーティストにはなれないのだ。

ニューヨークを訪れる機会があればぜひ行きたい展覧会だ。それができそうもないファンは、MoMAのウェブサイトのヴィデオ映像を見て展示の気分を味わってはどうだろうか。またやや高価だが豪華なカタログを購入してもよいだろう。大手通販サイトでは日本にいても現地とほぼ同価格で購入可能だ。同書は、約400点にも及ぶ図版を駆使して、アーティストの広範囲な経歴の斬新かつ、万華鏡的な展望を行っている。独特の百科事典スタイルの本のフォーマットを通して、アーティストのテクニックと作品の多様性の提示を試みている。

・カタログは以下で紹介しています。

www.artphoto-site.com/b_977.html

・MoMAのウェブサイト

https://www.moma.org/calendar/exhibitions/3769

MoMAオンラインオークションの続報 いま20世紀写真は誰がコレクションするのか?

アート写真市場の本格的な幕開けは、ニューヨークで4月に行われる大手業者のオークションからだ。今年は、クリスティーズで昨年秋から断続的に行われているニューヨーク近代美術館(MoMA)の重複コレクションを売却するオンラインオークションが既に年初に行われている。124日締め切りが“MoMA: Bill Brandt”25日締め切りが“MoMA: Garry Winogrand”だった。二人はMoMAにゆかりの深い20世紀写真家として知られる。

“Bill Brandt: A Life” Stanford Univ Pr, 2004

英国人写真家ビル・ブランド (1904-1983)は、1941年のグループ展で展示されて以来、ドキュメントやヌードなどが何度も展示されている。初個展“Bill Brandt”1969年に開催、その時にプリントされた多くの作品が今回のオークションに出品されているという。その後、19831984年に2回目の個展“Bill Brandt 1905-1983”、死後の2013年にも “Bill Brandt: Shadow and Light”が開催されている。
本オークションでは、落札予想価格2000ドル~10000ドルの43点が出品。落札率は100%、総売り上げは43万ドル(約4730万円)だった。最高落札作品は、目部分を拡大したポートレート“Jean Arp, 1960”で、落札予想価格5000~7000ドルのところ35,000ドル(約385万円)で落札されている。(紹介している写真集“Bill Brandt A Life”の表紙は別作品)

“Garry Winogrand: The Game of Photography” Tf Editions, 2001

米国人写真家ゲイリー・ウィノグランド (1928-1984) は、ウォーカー・エバンスを崇拝し、ロバート・フランクをリスペクトしていたことで知られている。1955年にエドワード・スタイケンが企画した伝説的展覧会“The Family of Man”に選出される。スタイケンは、彼のプリント3枚を合計30ドルで購入したとのことだ。1963年には、同館の当時の新任写真部長ジョン・シャーカフスキーが企画した“Five Unrelated Photographers”に選出。ウィノグランドはシャーカフスキーの多大な影響を受けたことで知られている。
1967年には、これも写真史上重要な“New Documents”展にダイアン・アーバス、リー・フリードランダーとともに選出された。しかし彼は56歳という若さで亡くなってしまう。なんと死亡時には約2500本の未現像フィルムが残されていたという。それを整理するのには約4年の時間がかかり、1988年に死後の回顧展“Garry Winogrand : Figments from the Real World”が開催された。90年代には、コレクターのBarbara Schwartzが同館に約200点のウィノグランド作品を寄贈。その後、1998年には“Garry Winogrand : Selections from a major Acquisition”が開催された。今回のオンラインオークションの出品作はこの時の展示作品が多くを占めるとのことだ。こちらは、落札予想価格3000ドル~10000ドルの作品48点が出品。落札率は約96%、総売り上げは18.68万ドル(2054万円)だった。最高額は、“World’s Fair, New York City, from Women Are Beautiful, 1964″、こちらは1981年プリントのエディション80点の作品。落札予想価格8000ドル~12000ドルを超える16,250ドル(178万円)で落札。(上記写真集の表紙作品)

いずれのオークションも落札率が高かったのは、通常のような価格に最低落札価格(リザーブ)が設定されていなかったからだと思われる。リザーブは通常は未公開だが、だいたい落札予想価格下限の80%前後に設定される。結果を見渡してみると、写真集掲載の有名作などは落札予想価格上限を超える価格で落札されている。しかし一部の不人気作は予想落札価格下限を大きく下回る1000ドル台でも落札されている。通常通りの最低落札価格が設定されていれば不落札だったと思われる。

MoMAオンラインオークションという、最高の来歴の写真作品でも、ブランド力が弱い写真家の市場性は相変わらず低いようだ。実際に昨年末に開催された、より知名度が低い20世紀の女性写真家のオンライン・オークション“MoMA:Women in photography”の落札率は約62%201710月に開催された“MoMA: Pictorialism into Modernism”の落札率は約52%同じく10月に行われた“MoMA: Henri Cartier-Bresson”でさえ落札率は約71%だった。
20世紀を代表する有名写真家による、MoMA収蔵作品でも、有名作以外は需要が思いのほか低いのが現状のようだ。ここ数年続いている市場の傾向がここでも明らかだった。
もし一連のオークションが15年位前に行われていたら状況はもっと良かったのでないか。有名写真家の銀塩モノクロ写真は、従来のコレクターが最も好んだカテゴリーだ。しかし、2010年代に入りベテラン・コレクターが亡くなったり引退し、また売り手に回ることで、購入サイドでの彼らの影響力が落ちてきている。一方でベビーブーマーやジェネレーションX世代が市場に参加してきたものの、彼らの好みは現代アート系や有名写真作品が中心なのだ。またコレクション構築に興味があるというよりもデコレーションの一環として写真を含むアート作品を購入する傾向が強い。オークションハウスはそれらのニーズの受け皿として、マルチ・ジャンルのオークションを企画している。新しい世代の人たちは、コレクションを通してアートや世界を学ぶという姿勢があまりないのだろう。個人的には、販売価格があまり変わらない、現役アーティストによる派手で大判サイズのデジタルによるコンテンポラリー写真よりも、有名写真家による地味で小ぶりの銀塩の20世紀写真の方が将来的には高い資産価値を持つと考える。しかし、そこにアート的価値があると気づくには、様々な経験の積み重ねと地道な勉強が必要となる。かつてのアート写真コレクターは学んで視野が広がることに喜びを感じていたものだ。ただし、もし多くの人が価値を見出さないと作品の相場は永遠に上昇しないで忘れ去られてしまうという冷徹な現実もある。はたして未来のアート写真は高級ブランド品と同じ贅沢品の一部と、それ以外になってしまうのだろうか?
今後の動向を注意深く見守っていきたい。

(為替レート 1ドル/110円で換算)

2018年アート写真市場 ジャンル横断のアート・オークションが開催!

今年のアート写真オークションはいよいよ今週からスタートする。

215日に、米国の中堅業者スワン(Swann Auction Galleries)“Icons & Images:Photographs & Photobooks”が例年通り開催される。アート写真、ヴァナキュラー写真、フォトブックなど、ほとんどが1万ドル以下の低価格帯作品332点が出品される。今回はフォトジャーナリズムが特集されており、ルイス・ハイン (1874-1940) の作品が数多く出品されている。
高額落札が予想されるのは、カタログの表紙を飾るハインの代表作“Mechanic at Steam Pump in Electric Power House, Circa 1921”。落札予想価格は7万~10万ドル(770~1100万円)。ややブームが去った感があるレア・フォトブックはわずか19点の出品にとどまっている。

Swann Auction Galleries NY Catalogue

春前のアート市場は閑散期となる。オークション・ハウスは新しいコレクターを獲得するために新たな切口でアート作品やコレクタブルの紹介を試みる。今年はササビーズが積極的で、ロンドンとパリでユニークな取り組みを行う。

ササビーズ・ロンドンでは、216日までのオンライン・オークションでエロティック・アートに特化した“Erotic Art Online”を開催。

Sotheby’s London

絵画、彫刻、ドローイング、ヌード系写真など78点が出品。ハーブ・リッツ、パトリック・デマルシェリエ、ミッシェル・コンテ、ヘルムート・ニュートン、ボブ・カルロス・クラーク、ベッティナ・ランス、荒木経惟などが含まれる。

215日には、“Erotic: Passion & Desire”オークションを開催。こちらにはやや高めの評価の、リチャード・アヴェドン、ロバート・メイプルソープ、ヘルムート・ニュートン、マン・レイ、トーマス・ルフなどのヌード写真が他分野の作品とともに出品される。

ササビーズ・パリは、お求めやすい価格帯の現代アート、家具などのデザイン、アート写真をまとめ販売する“NOW!”228日に開催する。

Sotheby’s Paris NOW!

続いてササビーズ・ロンドンでは、英国にゆかりのある低価格帯の、絵画、版画、アート写真、陶器などを取り扱う“Made in Britain”320日に開催。

一方、フィリップス・ニューヨークは、高額セクターを含む幅広い価格帯の写真表現を含む現代アート系作品のオークション“NEW NOW”228日に開催する。このシーズンに行われる新機軸のオークションは徐々に定着しつつあるようだ。

定例のニューヨークの大手業者のアート写真オークションは、世界最大のフォト・フェア“The Photography Show”45日から8日に開催されるのに合わせて開催される。クリスティーズが46日、フィリップスが49日、ササビーズが410日を予定している。

実は今年になってからクリスティーズでは昨年来から続いているMoMAコレクションのオンラインセールが行われている。
1月には“MoMA: Bill Brandt”“MoMA: Garry Winogrand”が開催。こちらの分析は近日中にお届けする予定だ。

(為替レート 1ドル/110円で換算)

アート系ファッション写真のフォトブック・ガイド(連載) (5)
“The History of Fashion Photography”の紹介

アート系ファッション写真の意味はよく誤解される。それは洋服の情報を提供している写真が単純にアート作品になるという意味ではない。ファッションの意味を辞書でひくと、流行の洋服以外に、時流、風潮のような幅広い意味を含んでいる。ここではファッションを幅広い意味で解釈した、時代性が反映された写真がアート作品になりうると理解してほしい。

この点の理解をより深めるために、私たちの生きている時代は、どのようにアーティストによって作品として提示されるかを考えてみよう。
いま主流の現代アート系の人は、時代にある様々な価値基準を頭で色々と考えてテーマとして抽出する。一方でアート系ファッション写真は、人々が心で感じる、言葉では表せない時代の気分や雰囲気をヴィジュアルで提示しているのだ。時代の価値を作品として提示するのは同じなのだが、一方は頭で考えるもの、他方は心で感じるものとなる。ファッション写真家の作品が過小評価されていたのは、多くの自由裁量が与えられるファッション誌のエディトリアル・ページの仕事やファッション的なパーソナルワークがある一方で、クライエントの意図が強く反映される、高額のギャラが支払われる広告写真が共存するからだ。欧米のアート界では、広告はアートと比べて一段低く見られる。日本とは全く逆の構図なのだ。
それは、リチャード・アヴェドンのような大物でも例外でなかったようだ。昨年、彼の長年のマネージメントを担当していたノーマ・スティーブンスらによって書かれた“Avedon: Something Personal”という一種の暴露本が発売された。それによると、アヴェドンが存命中に行った数々の美術館の展覧会に対して多くのアート評論家の評価は厳しいものだったそうだ。アヴェドンは、常にファッション写真家を超えてアーティスととしての評価を期待していた。しかし、レヴロン、シャネル、ヴェルサーチなどの高額ギャラの広告も手掛けるアヴェドンの作家性は、当時の正統なアート界には理解してもらえなかったのだ。

さて、ずっと過小評価されていたファッション写真にアート性が見いだされるきっかけの一つは、ニューヨーク州北東部ロチェスター市にあるジョージ・イーストマン・ハウスにあるInternational Museum of photography 1977625日~102日に開催され、その後に全米を巡回した“The History of Fashion Photography”展なのだ。
前回に美術館や公共機関で開催されたファッション写真の展覧会のカタログをリスト化した。今回はリストの最上位の、1979年に Alpine Book Co.Inc New Yorkより刊行された同展のカタログの内容を紹介しよう。

キュレーション担当はナンシー・ホール・ダンカン。最初の系統だったファッション写真の歴史を記した解説書だと同書紹介文には書かれている。表紙はサラ・ムーンのフレンチ・ヴォーグ1973年2月号掲載の作品。
“The Beginnings”“Pictrialism”“Modernism”“Realism”“Surrealism and Fantacy”“The Hiatus:World War II”“Avedon and Penn”“The Photographer-Hero”“The Seventies”の9章で構成されている。
イントロダクションには、ファッション写真の中身は洋服だけではなくそれを身にまとう人の態度や習慣を現している。それは文化と社会においての、人々の希望やテイストのコンパクトな索引のようなものです。それはモードの移り変わりを提示しますが、最高のファッション写真はただの流行を超越して、その時代が持つスタイルが反映されています。その時代の人々の自己イメージとともに、夢や欲望を反映していますと書かれている。
現在のアート系ファッション写真の解説とほぼ重なるといえる。しかし、当時はここで書かれている内容の意味は多くの人には理解されなかったと思う。

紹介されているのは以下の写真家。簡単なプロフィールも巻末に掲載されている。

“Avedon and Penn” page 144-145

James Abbe, Diane Arbus, Richard Avedon, David Bailey, Cecil Beaton, Bissonnais and Taponnier, Erwin Blumenfeld, Guy Bourdin, Anton Bruehl, Hugh Cecil, Henry Clarke, Clliford Coffin, Louise Dahl-Wolfe, Baron Adlf de Meyer, D’Ora, Andre Durst, Joel, Feder, Felix, John Fremch, Toni Frissell, Arnold Genthe, Hiro, Emil Otto Hoppe, Horst P. Horst, George Hoyningen-Huene, Andre Kertesz, Art Kane, William Klein, Francois Kollar, Herman Landshoff, Remie Lohse, George Platt Lynes, Henri Manuel, Frances McLaughlin-Gill, Harry Meerson, Lee Miller, Sarah Monn, Jean Moral, Martin Munkacsi, Arik Nepo, Helmut Newton, Norman Parkinson,  Irving Penn, Phillipe Pottier, John Rawlings, Man Ray, Charies Reutlinger, Bob Richardson, Peter Rose-Pulham, Egidio Scaioni, Seeberger Freres, Charies Sheeler, Jeanloup Sieff, Edward Steichen, Bert Stern, Maurice TRabard, Deborah Turbeville, Chris von Wangenheim

リストを一覧するに、今では名前を聞かない写真家の名前が数多く見られる。本書が書かれた70年代後半の時点では、写真自体がまだコレクションの対象としては目新しいカテゴリーだった。ましてや広告の匂いがするファッション写真がアート作品としての市場性を持つとは多くの人は考えていなかった。現在では、写真家が撮影時の時代性を的確に感じ取り、それが反映されたファッション写真が評価されるようになっている。たぶん当時のファッション写真家は、知名度や露出度などを基準に評価されていたのだと思う。

1979年に写真コレクションのガイドブック“Photographs : A Collector’s Guide”(Richard Blodgett著、Ballantine)が刊行されている。同書がファッション写真でコレクション候補として挙げているのは、Erwin Blumenfeld, Horst P. Horst, Richard Avedon, Irving Penn, George Platt Lynes, James Abbe
ちなみにペンの相場は7002000ドル、アヴェドンの8X10″プリントが300900ドル、ホルストが200600ドルと記載されている。ちなみに1979年のドル円の為替レートの平均は1ドル/219円。

写真家のセレクションはともかく、今に至るアート系ファッション写真の歴史はこの展覧会から始まったのは間違いない。資料的価値が高いので、この分野に興味ある人はぜひ同展のカタログを古書市場で探してみてほしい。なお本書は、ハードカヴァーとペーパーバックがあり、英語版とフランス語版がある。フランス語版は安いが読めない人は注意してほしい。流通量は多いが、ダストジャケットの状態が悪い場合がある。古書の相場は普通状態で10,000円~。