鋤田正義”SUKITA ETERNITY”展
名古屋で8月に開催!

鋤田正義は、自らの半生を振り返ったとき、ずっと「あこがれ」を追い求めてきたと語っています。その強い思いが彼のニューヨーク/ロンドン進出へと突き動かしたのです。そして彼のキャリアを本格的に回顧する集大成が、写真集「SUKITA  ETERNITY」(ACC Art Books/玄光社)なのです。この写真集刊行により、初期のプロヴォーグ的ドキュメント作やライフワーク的な風景作品が紹介され、鋤田作品の全体像がはじめて明らかになりました。被写体の内面を引き出した代表作のポートレート写真にとどまらず、その多彩な作品の作家性の再評価が始まるきっかけとなりました。
デヴィッド・ボウイは鋤田のことを“may he click into eternity”と語っています。写真集のタイトル「ETERNITY SUKITA」は、編集に携わったカンベル・ガン氏の発案によりこの言葉から取られています。これは、鋤田は悠久の時を刻むようにシャッターを切る、というような意味になります。

写真集「SUKITA  ETERNITY」が世界同時発売したのが2021年の7月でした。コロナ禍に関わらず、いままでに刊行記念の写真展や作品展示のイベントを、ブリッツ・ギャラリー、銀座蔦屋書店、六本松蔦屋書店などで行ってきました。「SUKITA  ETERNITY」のデヴィッド・ボウイ作品やプリント付き特装版は、いま美術館「えき」KYOTOで7月24日まで開催中の「時間~TIME BOWIE×KYOTO×SUKITA リターンズ 鋤田正義写真展」でも紹介されています。

発売から約1年が経過して、東京、福岡、京都を経て、ついに刊行記念写真展が名古屋で開催されます。実は、名古屋/中部地方には数多くの鋤田正義ファンがいます。2018年には、デヴィッド・ボウイを撮影した、テリー・オニール、ダフィー、などの複数写真家のグループ「BOWIE:FACES」名古屋展に鋤田は参加。参加写真家を代表して鋤田が伏見の電気文化会館で行ったトークイベントは大盛況でした。
今回の「SUKITA  ETERNITY」展も、「BOWIE:FACES」と同じ納屋橋 髙山額縁店2Fで行われます。展示作は写真集に収録された、デヴィッド・ボウイ、イギー・ポップ、マーク・ボラン、YMO、忌野清志郎などのミュージシャンの代表的ポートレート作品を中心にセレクションされました。またキャリアを通して撮影してきた風景、ストリートなどのパーソナル作品など、様々なサイズの約30点が展示予定です。

「BOWIE:FACES」展、@納屋橋 髙山額縁店

また本展でぜひ注目して欲しいのは写真集のプリント付きの限定特装版です。豪華な布張りの特製ケース付きのコレクターズ・アイテムで、付属する3点のプリント作品の現物が名古屋で初めて展示されます。
作品は“David Bowie, Dawn of Hope, 1973”、“David Bowie, from ‘Heroes’ Session, 1977”、“Tate Modern, 2008” の3種類です。これら写真作品は特装版のみでの販売となります。すべて鋤田正義の直筆サイン入り。写真サイズは8X10″(約20.3X25.4cm)。特装版は3仕様が用意されていて、コレクター向けに全作が収録される3枚セット(A)が70点、特にボウイ・ファンのために、
“David Bowie, Dawn of Hope, 1973” と “Tate Modern, 2008” の2枚セット(B)が90点、 “David Bowie, from ‘Heroes’ Session, 1977” と
“Tate Modern, 2008” の2枚セット(C)が40点用意されています。

SUKITA:ETERNITY 特装版の収録プリント

鋤田正義の約40X50cm、エディション30の作品は、約22万円(税込み)。特装版のプリントサイズは小さいですが、3枚セットが74,800円(税込み)、2種類ある2枚セットが44,000円(税込み)で購入可能。極めてお値打ちの価格設定になっています。これには、日本でも写真がファインアート作品としてコレクションの対象になってほしいという鋤田の願いが込められています。一部セットは残り僅かになっています。ぜひ会場で現物の価値を見極めてください。鋤田やボウイファンはもちろん、写真を初めて買う人にも最適な作品だと言えるでしょう。

・名古屋展開催情報
2022年8月6日(土)-14日(日)
9:00-19:00(日曜/12:00-19:00)(*ご注意 最終日は17:00まで)
会場:納屋橋 髙山額縁店2F 
〒450-0003 愛知県名古屋市中村区名駅南一丁目1-17
写真展詳細

「ファインアート写真の見方」刊行記念
著者によるトークイベントを名古屋で開催

*新型コロナウイルス感染拡大の状況を鑑み、本イベントの開催は中止となりました。何卒ご了承ください。

(ご注意)
新型コロナウイルスの感染状況によっては、写真展/イベントが中止/延期になる場合があります。予めご了承ください。

展覧会レビュー
TOPコレクション
メメント・モリと写真
@東京都写真美術館

東京都写真美術館(TOP MUSEUM)は、約36000点にも及ぶ膨大な国内外の写真コレクションを誇っている。開館が写真の市場価格高騰前の90年代前半で、また当時の東京都の財政状況が良好で購入予算が豊富だったので、いまでは高額で購入が難しい作品を多数収蔵している。定期的に開催されるTOPコレクション展は優れた収蔵品を紹介する非常に質の高い展示になる。担当キュレーターの選んだ企画テーマによりコレクションを見せる方向性が決まってくる。
幅広い分野にまたがる作品をできるだけ自由に見せるには、大きなテーマを採用したほうが都合が良いだろう。今回のキーワードは「メメント・モリ」。死を思えということ。これは、人間はいつか死ぬという、すべての写真作品に当てはめ可能な、誰も文句が言えない大きなテーマとなる。今までのコレクション展では、テーマに引きずられて、多少無理のあるような作品や作家セレクションが見られた。今回の展示では、死を表現した作品が含まれるものの、膨大なコレクションから自由に有名写真家の珠玉の作品が紹介されている印象を持った。

今回の展示にはいくつかの見どころがある。
まず藤原新也(1944-)の「メメント・モリ」(情報センター出版局、1983年刊)からの12点の展示を上げたい。その中の1点となる、“ニンゲンは、犬に食われるほど自由だ、1973”は、1981年(昭和56年)12月4日号雑誌フォーカスに連載された「東京漂流」の第6回の掲載作品。編集部が掲載内容を変更したことで連載がその号で打ち切りになり、当時は大きな話題になった。その経緯は、「東京漂流」(情報センター出版局、1983年刊)に詳しく書かれている。

同作に込められていたのが、経済成長を続ける80年代日本のコマ―シャリズムやマスコミに対する写真家の違和感なのだ。「東京漂流」を読むと、それは生産の拡大と能率のために、無駄、邪魔と考えられる世界の構成要素を汚物畏敬として排除する性向を現代のコマーシャリズムは宿命として持っている、という藤原の認識だとわかる。コマ―シャリズムの発するメッセージは人間や事物の持つ明暗の「明」の部分のみを拡大し、生命や生存の全体像を欠落させている。「死の意味」に対する認識が希薄なのだ。藤原は「ニンゲンは、犬に食われるほど自由なんだ」というコピーと、ガンジス川で野犬が人に食いついている写真作品で「死の意味」をタブー化している日本社会に一撃を加えた。日本社会は、表層は自由な世の中のようだが、実際はここで取り上げられた「死の意味」以外にも様々なタブーが存在する。彼は、政治、大新聞、差別問題、天皇問題、コマ―シャル批判などが世間のタブーになっていることを指摘している。

40年以上経過した現在の日本でも、その状況はあまり変化していないのかもしれない。しかし、変化の兆しは地域の公共美術館による藤原新也の作品展示にあるのではないか。1944年生まれで、すでに1977年には第3回木村伊兵衛賞、81年に第23回毎日芸術賞を受賞している。美術館での大規模な回顧展が既に開催されていても全くおかしくない存在といえるだろう。今回の東京都写真美術館では、“ニンゲンは、犬に食われるほど自由だ、1973”を含む、「メメント・モリ」からの12点の展示。そして2022年9月10日からは北九州市立美術館で「祈りの軌跡 藤原新也展」が開催、11月には世田谷美術館に巡回する予定だ。80年代に藤原が感じた日本社会の違和感に共感する新しい世代が増加していると解釈したい。一連の美術館での作品展示が多様な価値観を持つ社会が訪れるきっかけになることを願いたい。

現代アメリカ写真の展示にも注目したい。ロバート・フランク(1924-2019)、ダイアン・アーバス(1923-1971)、リー・フリードランダー(1934-)などだ。彼らが表現しているのは、それ以前の雑誌「ライフ」のような、世界を記録するドキュメンタリー、そして「決定的瞬間」重視ではなく、写真家のパーソナルな視点で切り取られた普通の写真だ。そこにはマスコミが吹聴するアメリカンドリームの中に埋没している一般市民の日常生活が切り取られている。それは繁栄の裏にあるアメリカ社会のダークサイドであり、市民が抱くリアルな孤独や狂気なのだ。
ロバート・フランクは5点、ダイアン・アーバスは5点、リー・フリードランダーは6点を展示。
ダイアン・アーバスの“Identical twins, Roselle, N.J. 1966”は、彼女の没後の1972年にMoMA(ニューヨーク近代美術館)で開催された回顧展のカタログ「Diane Arbus: An Aperture Monograph」の表紙作品。2018年にクリスティーズNYで開催されたオークションでは、アーバス本人が生前にプリントした極めて貴重な同作が73.2万ドル(@110円/約8052万円)で落札されている。展示作品は、本人によるプリントか、死後に制作されたエステートプリントかは不明だ。

ロバート・フランクの代表作“Trolley-New orleans, 1955”にも注目したい。本作は、1950年代のニューオーリンズに残るアメリカの人種隔離を提示した象徴的イメージ。フランクは、長期にわたる全米旅行で、大勢の人々が歩道に群がる賑やかなニューオーリンズのカナル・ストリートで通り過ぎるトローリーを撮影する。それは路面電車の乗客を囲むように窓が並んでいて、前方に白人、後方に黒人が乗っているイメージ。フランクは、ワークシャツを着た疲れた様子の黒人男性や、彼の目の前に座っている人種ごとに区分エリアを示す木製看板に手をかけている若い白人女性など、長方形の窓越しから外を見つめる個々の表情を捉えたのだ。1958年、フランクは「これらの写真で、私はアメリカの人々の断面を見せようと試みました。私が心がけたのは、それをシンプルに混乱なく表現することでした」と書いている。ニューオーリンズの路面電車とバスでは、1958年の裁判所の命令で人種差別撤廃が行われた。しかし1959年にアメリカで出版された写真集「The Americans」では、まだ差別が残っている事実を意識して、表紙にはあえて本作が採用している。アメリカにおける人種的正義のための継続的な戦いでは、本作のような写真の力が極めて重要な役割を果たしてきたのだ。
ちなみに、本作のヴィンテージ・プリントは、2021年4月フィリップスNYのオークションに出品されている。落札予想価格15万~25万ドルのところ40.32万ドル(@110円/約4435万円)で落札された。今回の展示作品のプリント年は不明。

そしてニューカラーの先駆者ウィリアム・エグルストン(1939-)の作品も必見だろう。エグルストン作品は米国南部の色彩豊かな情景をカラーとシャープ・フォーカスで表現しているのが特徴。画家エドワード・ホッパーの描いた風景画や、スーパー・リアリズムの絵画作品と対比して語られることも多い20世紀を代表する人気写真家。70年代のファインアート写真はモノクロが主流でカラーは広告分野での利用が中心だった。エグルストンは大判カメラと染料を転写してカラー画像を作り出すダイ・トランスファーという手法を使用して、レンズは絞りこんで、当時に流行していたスーパー・リアリズム絵画のようなカラー作品を制作した。1976年にニューヨーク近代美術館で開催された展覧会で華々しくデビューする。写真史では、同展が本格的カラー写真時代の到来のきっかけだとしている。エグルストンが好んで撮影したのは、出身地であるアメリカ南部の色彩豊かな何気ない日常生活や風景などだった。それはアメリカ人が無意識に持っているアメリカ原風景と重なるのだ。カラーを取り入れたことで、モノクロでは難しかった被写体表面の質感や色彩のコントラストの表現を可能にした。
本展では、高価なダイ・トランスファー・プリントによる6点を展示している。

同展では、ハンス・ホルバイン(子)、マリオ・ジャコメッリ、ロバート・キャパ、澤田教一、セバスチャン・サルガド、ウォーカー・エヴァンズ、W. ユージン・スミス、牛腸茂雄、荒木経惟、ウジェーヌ・アジェ、ヨゼフ・スデック、小島一郎、東松照明など、19世紀から現代を代表する写真約150点を4つのセクションで展示している。これだけの優れた多分野に渡る歴史的写真作品が一度に鑑賞できる機会は世界的にも珍しい。私はニューヨークで大手業者により開催される「Photographs」オークションに先立ち行われる、出品作品すべてを紹介する作品プレビュー会場のシーンを思い出した。ファインアート写真のコレクションに興味ある人、アーティストを目指す人、アマチュア写真家には必見の展覧会だ。

開催情報
TOPコレクション メメント・モリと写真 -死は何を照らし出すのか-
東京都写真美術館(恵比寿)
6月17日(金)~9月25日(日)
http://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4278.html

美術館「えき」KYOTOのボウイ展がリターンズ!
鋤田がボウイ目線で約40年後の京都を撮影

デヴィッド・ボウイは、京都をこよなく愛したことで知られている。山科区に住居を持っていたという都市伝説もあるくらいだ。その発信源だといわれているのが、鋤田正義がボウイをまるで京都で暮らしているかのように撮影した一連のスナップなのだ。1980年3月、ボウイは宝酒造(伏見区)の焼酎「純」の広告の仕事で京都を訪れている。ロケ地はボウイが指定した正伝寺だった。ボウイは鋤田をアーティストとして尊敬していたから、広告撮影はあえて彼に依頼しなかったことが知られている。日本とは違い、欧米ではアーティストは自己表現を追求する人だと考えられており、めったに広告の仕事を行わないのだ。

(C)SUKITA

ボウイは仕事が終わった後に、鋤田を京都に招待して共にプライベートな時間を過ごしている。鋤田は自らの提案で、ロックのカリスマの鎧を脱いだ普段着のボウイを、京都の街並みを背景にドキュメント風に撮影した。数々の歴史的名作がこの時の撮影から生まれている。
名盤「ジギー・スターダスト」裏カヴァーのオマージュのテレフォン・ボックスでの電話通話、町屋の並ぶ路地の散策、古川町商店街での鰻の八幡巻きの買い物、阪急電車による移動、旅館での浴衣姿などの写真は、ボウイのファンなら見覚えがあるだろう。自然なたたずまいのボウイの姿を見た人が、彼が京都に暮らしていると思ったのも納得する。

(C)SUKITA

2019年から3回にわたり、鋤田はコロナ禍の京都で約40年前にボウイを撮影した場所を再訪する。彼はボウイの新旧の写真を通して悠久の都「京都」における、時間経過の可視化に挑戦した。“京都は変わってないと思っていたが、3回撮ってみたら、変わっていた……”と鋤田は語っている。(カタログから)
展覧会ディレクションは、プロデューサー立川直樹氏。カタログに掲載されている同氏のエッセーは、とても読み応えがある。

実は2021年4月3日に開幕した写真展「時間~TIME BOWIE×KYOTO×SUKITA」は新型コロナウイルス感染拡大により、5月の大型連休前に急遽中断となってしまった。大型連休に訪問予定だった多くのファンは、残念ながら同展を見ることができなかったのだ。その後アンコール開催の声が多数寄せられたことから、同展は「時間~TIME BOWIE×KYOTO×SUKITA リターンズ 鋤田正義写真展」として、再び開催されることになった。展覧会のフライヤー中央部には黄色の文字で「リターンズ」と追加記載がされている。今回はボウイの名盤「ジギー・スターダスト」誕生50年の年でもあることから、この時代の作品が前回よりも多数展示されているとのことだ。残念ながら、本展では鋤田正義のトークイベントやサイン会は予定されていない。しかし、会場では同展カタログの他に、昨年7月に刊行された「SUKITA:ETERNITY」のサイン本やプリント付き特装版が予約販売される予定だ。

京都ではちょうどアンビエント・ミュージックの第一人者で、ボウイのベルリン3部作の制作に関わったブライアン・イーノの音と光の展覧会「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」が8月21日まで、京都中央信用金庫 旧厚生センターで開催中だ。鋤田はイーノが手掛けたボウイの「Heroes」のカバーを撮影している。京都は鋤田に、ボウイ、イーノとの不思議な縁をもたらしている。

展覧会を見て回って時間があったら、ぜひボウイが訪れた、画材屋「彩雲堂」、老舗蕎麦屋「晦庵 河道屋」、正伝寺なども訪れたい。

時間~TIME BOWIE×KYOTO×SUKITA リターンズ
鋤田正義写真展
美術館「えき」KYOTO(ジェイアール京都伊勢丹7階隣接)
2022年6月25日(土)~7月24日(日)

【展示作品】
出展数:約200点
①1980年3月29日、京都で撮影したボウイ=39点
②2020~2021年 京都撮りおろし作品=115点
③ボウイとの仕事、ボウイゆかりの地など=22点
④ボウイ(タペストリープリント)=4枚

開催情報

マン・レイ名作が1千2百万ドルで落札!
写真のオークション史上最高落札額更新

2022年5月にニューヨークで開催された現代アート系オークションでは、写真系作品の高額落札が相次いだ。

アートフォトサイトで既報のように、5月14日にクリスティーズ・ニューヨークで開催された「The Surrealist World of Rosalind Gersten Jacobs and Melvin Jacobs」オークションではマン・レイの歴史的名作”Le Violon d’Ingres, 1924″の、極めて貴重なヴィンテージ作品が、写真作品のオークション最高落札額となる12,412,500ドル(@128/約15億8880万円)で落札された。
本作は、サイズ19 x 14 3⁄4 inch (48.5 x 37.5 cm)の1点ものの銀塩写真、落札予想価格は500万ドル~700万ドルだった。
これまでの写真のオークション最高額は、2011年11月にクリスティーズ・ニューヨークで落札されたドイツ人現代アーティストのアンドレアス・グルスキーの”Rhein II”の4,338,599ドル。ちなみにいままでのマン・レイの最高額は、2017年11月9日にクリスティーズ・パリで開催された「Stripped Bare: Photographs from the Collection of Thomas Koerfer」に出品されたヴィンテージ作品“Noire et Blanche, 1926”で、2,688,750ユーロ(@135/約3.63億円)だった。今回の落札はもちろんマン・レイ作品のオークション最高落札額になる。

Christie’s NY, Man Ray “Le Violon d’Ingres, 1924”

“Le Violon d’Ingres, 1924”は、マン・レイの最も有名な写真作品。アートや写真に興味ない人でも一度は見たことがあるだろう。クリスティーズは、作品の興味深い解説を掲載している。一部を参考までに紹介しておこう。
本作は、モデルのアリス・プリン(通称キキ・ド・モンパルナス)の画像と、レイヨグラフ技法で制作されたバイオリン系の管楽器にある「F」の文字をかたどった開口部「Fホール(f-hole)」を組み合わせて作られた作品。マン・レイは、まず露光する感光紙の表面を覆う紙/ボードなどにFホールの穴を切り抜いた。そして引き伸ばし機の下に印画紙を置き、その上にFホールのテンプレートを置いて露光。すると両方のFホールの形がプリントに真っ黒に焼き付けられる。テンプレートを外した後、キキのネガを引き伸ばし機のネガホルダーに入れ、同じプリントで2回目の露光を行った。現像すると、キキの背中のイメージは、すでに印画紙に焼き付けられたFホールと魔法のように融合したのだ。
作品タイトルの“Le Violon d’Ingres, 1924”も非常に興味深い意味が含まれている。フランス語を直訳すると「アングルのバイオリン」という意味になる。これは19世紀のフランスの有名画家ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル(1780-1867)にちなんでいるという。アングルは画家としての才能だけでなく、ヴァイオリンの腕前も世間に認められていたそうだ。しかしアングルは画家として優秀であったため、ヴァイオリンの演奏は単なる娯楽や趣味だと考えられていたそうだ。この言葉はいまでは定着し「アングルのバイオリン(Ingres’s violin)」はフランス語の慣用句で、喜びやくつろぎのために行う活動、つまり趣味を意味するという。
たぶんこのころの、マン・レイにとって写真は「アングルのバイオリン」だったと思われる。写真は、自分の仕事や友人の活動を記録するためのメディアであって、自分の芸術制作での表現方法ではないと考えていたのだ。彼は写真を、モデルでありミューズだったキキとのロマンチックな関係、そして画家アングルへの憧れを表現する手段として使用したのだ。

Christie’s NY, Helmut Newton “Big Nude III (Variation), Paris, 1980”

5月10日に同じくクリスティーズ・ニューヨークで開催された「21st Century Evening」オークションで、唯一出品された写真作品のヘルムート・ニュートン(1920-2004)“Big Nude III (Variation), Paris, 1980”が、落札予想価格は80万ドル~120万ドルのところ2,340,000(@128/約2億9952万円)で落札された。196.2 x 110.8 cmサイズの大判作品で、記録上1点しか存在しないプリントで、1990年に写真家から著名なギャラリストのルドルフ・キッケン(Rudolf Kicken)に寄贈された作品とのこと。今回はニュートン作品のオークション最高落札額になる。ちなみにいままでのニュートン最高額は、2019年4月4日にフィリップス・ニューヨーク「Photographs」オークションに出品された“Sie Kommen, Paris (Dressed and Naked), 1981”。美術館などでの展示用の197.5X198.8cmと196.9X183.5cmサイズの巨大組作品で、落札予想価格60~80万ドルのところ182万ドル(@110/約2億円)で落札されている。

Christie’s NY, Richard Avedon “Blue Cloud Wright, Slaughterhouse Worker, Omaha, Nebraska, August 10, 1979”

続いて5月13日に同じくクリスティーズ・ニューヨークで開催された「Post-War and Contemporary Art Day Sales」オークションで、リチャード・アヴェドン(1923-2004)の「In The American West」シリーズの“Blue Cloud Wright, Slaughterhouse Worker, Omaha, Nebraska, August 10, 1979”が、落札予想価格は25万ドル~35万ドルのところ378,000(@128/約4838万円)で落札されている。142.2 x 113 cmサイズの大判で、エディション6/6の作品。ちなみに2016年11月3日にフィリップス・ロンドンで161,000ポンド(@130/2093万円/@1.25/約201,250ドル)で落札された作品。手数料や保管管理を無視して複利で単純計算すると約6年間で11.08%程度で運用できたことになる。
同オークションでは、シンディー・シャーマン(1954-)のカラー作品“Untitled、1981”も、落札予想価格は40万ドル~60万ドルのところ882,000(@128/約1億1289万円)で落札されている。こちらは61 x 121.9 cmサイズで、エディション1/10の作品。

今回のオークションでは、有名アーティストの貴重なヴィンテージ作品の価値がアート市場で過小評価されていた事実が明らかになった。初めての1000万ドル越えは、高額セクターの写真作品相場の新たな基準になると思われる。また特にファインアート系ファッション/ポートレートの大判写真作品の、落札予想価格上限を超える落札は、それらは20世紀写真ではなく現代アート作品だという認識が定着してきた証だといえるだろう。他の現代アート作品と比べて割安だった有名写真家の作品。ここにきて特に数が少ない大判作品の再評価の兆しが感じられる。

クリスティーズ
https://www.christies.com/en/auction/the-surrealist-world-of-rosalind-gersten-jacobs-and-melvin-jacobs-29818/browse-lots

フォトブック・コレクションへの誘い
Blitz Photobook Collection 2022 開催中!

ブリッツでは国内外の貴重な写真集、限定本、サイン本、プリント付き写真集を紹介する「ブリッツ・フォトブック・コレクション2022」を開催している。

5月はブリッツにとって写真集を紹介する季節だ。私どもは、1990年代から2000年代にかけて、かなり積極的に貴重な絶版写真集を取り扱っていた。特に2000年代には、いまはなき渋谷のパルコパート1のロゴスギャラリーで「フォトブック・コレクション」展を5月の連休明けに開催していた。2004年から2010年までに7回行っている。
インターネットの普及前の時代は、絶版になった人気写真集の入手はかなり困難だった。今では信じられないだろうが、海外の専門店が定期発行する在庫目録を郵送してもらい、希望する本をファックスで注文していた。決裁はクレジットカードで、荷物が届くのに早くても1か月くらいかかったものだ。
画像などないので、本の状態は受け取るまでは正確には分からなかった。「Very Good」という海外の状態表記が、日本人の感覚ではかなり傷みがある「普通」状態なのだと実体験を通して学んだものだ。その後、インターネットが一般に普及するようになり、大手のアマゾンやヤフオクでも絶版写真集を取り扱うようになる。市場での本の相場は、だれでもネット検索で調べられるようになる。その結果、利益率が大幅に縮小して、ビジネスとして成立しなくなるのだ。ブリッツは2010年代には絶版写真集の輸入販売からは撤退することになる。そして、ギャラリーでは数年に1回程度、オリジナル・プリントとともに絶版写真集を展示するイベントを開催するようになる。この辺の経緯は「ファインアート写真の見方」(玄光社2021年刊)に詳しく書いた。興味ある人はどうか読んで欲しい。

過去20年ぐらいで写真のデジタル化が進行し、写真表現は写真家以外の幅広い分野のアーティストに広く取り入れられるようになった。いまでは写真はアート表現のひとつの方法として一般化しているといえるだろう。そして多数のヴィジュアルをシークエンスで紹介する写真集フォーマットがアーティストの世界観やコンセプトを伝えるのに適していると認識されるようになった。いまでは、ファインアート系の写真を収録した写真集は、単なるコレクターの資料ではなく、それ自体が資産価値を持ったアート作品と認められているのだ。海外市場では、いま一般的な写真を多数収録したフォト・イラストレイテッド・ブックと区別されて、それらはフォトブックと呼ばれるようになった。

今年の企画では、フォトブックと写真のオリジナル・プリント作品の関係性を探求した。ブリッツが取り扱う写真家/アーティストの名作フォトブックと、収録されている写真作品を壁面で紹介するコーナーを設けている。またコレクター人気の高いファインアート系ファッション写真のコーナーも設置。多くの名作と関連フォトブック、60年代のヴィンテージ・ファッション・マガジンを紹介している。もちろん、すでに絶版になって入手が困難なレアブックも多数展示している。いま海外では、優れたフォトブックはオークションでも取り扱われるようになり、コレクション市場も拡大している。販売価格が数万円するフォトブックも数多く存在している。コレクターはそれらをコレクションの資料ではなく、フォトブック形式のエディション数が大きな写真のマルチプル作品だと考えているのだ。本としては高価だが、ファインアート作品だと認識すると非常にリーズナブルなのだ。特にコレクターは高価でもサイン本を購入する傾向が強いのだ。

ファインアート系写真のコレクションに興味を持っている人は多いだろう。しかし、有名写真家の作品は以前と比べてかなり高価になってしまった。また最近の円安傾向や輸送費高騰により、特に海外作品の価格の上昇傾向が強まっている。しかし、フォトブックのコレクションならまだリーズナブルな価格のものが数多くある。さすがに海外の有名アーティストのプリント付きのフォトブックとなると価格は決して安くはない。しかし、最近はそれらを外貨資産を持つような意識で抵抗なくコレクションする人も見られるようになった。まずはフォトブックから始めて、次第に高額な写真作品をコレクションするようになる人が日本でも増加している印象だ。フォトブック分野は、コレクター初心者にとっては、アート・コレクションが低予算で始められる最後の魅力的分野だといえるだろう。今回のイベントがそのきっかけになることを願いたい。

・写真家別のフォトブック&オリジナルプリント コーナー
テリ・ワイフェンバック
「Between Maple and Chestnuts」、「Cloud Physics」、「Instruction Manual」や過去のレアブックなど

マイケル・ドウィック
「The End: Montauk NY」(10周年記念版)、「Mermaids」など

鋤田正義
「Sukita : Eternity」、「Bowie Icons」、「Bowie X Sukita」など

テリー・オニール
「Rare and Unseen」、「Every picture tells a story」、「Terry O’Neill’s Rock ‘n’ Roll Album」など

・ファッション写真コーナー
ノーマン・パーキンソン、ホルスト、ジャンルー・シーフ、ダフィー、デボラ・ターバヴィル、ベッテイナ・ランスなどの写真作品、60年代のヴィンテージ・ファッション・マガジン、各種ファッション系フォトブックを展示

・サイン入りフォトブック
リチャード・アヴェドン、アーヴィング・ペン、ウィリアム・エグルストン、メルヴィン・ソコルスキー、ジャック・ピアソン、マリオ・ソレンティ、ライアン・マッキンレイ、トッド・ハイド、シンディー・シャーマンなど

・オリジナル・プリント付フォトブック
メルヴィン・ソコルスキー、マイケル・デウィック、テリー・オニール、鋤田正義、テリ・ワイフェンバック、アレック・ソスなど

(ブリッツ・フォトブック・コレクション 2022)
2022年 5月11日(水)~ 6月26日(日)
1:00PM~6:00PM/ 休廊 月・火曜 /入場無料 

2022年春ニューヨーク写真オークションレヴュー
高額セクターに相場調整の気配

Christie’s NY, “Photographs from the Richard Gere Collection(Online), ”František Drtikol「Temná vlna (The Dark Wave), 1926」

2022年の大手3業者によるニューヨーク定例アート写真オークションは、昨年同様に各社の判断で、オンラインとライブにより4月に集中して開催された。複数委託者による”Photographs”オークションは、クリスティーズが4月5日(オンライン)、フィリップスは、4月6日(ライブ)、サザビーズは、4月13日(オンライン)に行われた。また前回紹介したように、クリスティーズは4月7日に俳優リチャード・ギア(1949-)の写真コレクションの単独セール”Photographs from the Richard Gere Collection”をオンラインで開催した。今回は4月に行われた4つのオークション結果の分析を行いたい。
ちなみに、平常時はオークション開催時期に同じくニューヨークで行われるファインアート写真の世界的フェアのipad主催のThe Photography show。2022年は、5月20日~22日にニューヨーク市のCenter415で開催される予定だ。

さて現在のアート市場を取り巻く外部の経済環境を見てみよう。昨年までは世界的な新型コロナウイルスの感染拡大に翻弄されていた。いま世界的に注目されているのはインフレ懸念の高まりだ。新型コロナウイルス対策後の世界的景気回復により特に米国で消費が拡大した。さらにウクライナ危機による資源価格急騰、また米国では名目賃金も上昇しはじめてインフレ懸念が強まっている。コロナウイルスの感染拡大によるサプライチェーンの混乱により、効率的だった経済のグローバル化の見直しが迫れれている。これもコスト上昇要因になる。米ミシガン大の3月の消費者調査(速報)によると、人々の1年先の物価見通しを示す予想インフレ率が5.4%と約40年ぶりの高水準になったと報道されている。以上の状況により米国の中央銀行にあたるFRBは、インフレ対策のため3月には量的緩和を終了。その後は、かなり急激な複数回の利上げが予想されている。インフレによる消費者の購買力低下予想などが反映され、株価も変動が大きくなっている。NYダウは2022年1月4日に36,799.65ドルだったのが、3月8日には32,632.64まで下落、いまでも33,000前後で取引されている。
ハイテク株が多いNASDAQは、昨年11月に16,000ドル台まで上昇したもののその後は下落傾向が続き、いまは12,000ドル台まで下落している。株価動向はオークションの入札者に心理的な影響を与えると言われている。また高額評価作品の出品が控えられる傾向も強くなる。アート市場を取り巻く環境は決して良好とは言えないだろう。

さて今春のオークション結果だが、3社合計で702点が出品され、494点が落札。不落札率は約29.6%だった。ちなみに2021年秋は922点で不落札率29.1%、2021年春は557点で不落札率26.8%。
総売り上げは、約978万ドル(約11.7億円)で、昨秋の約1484万ドルから大きく減少、ほぼ2021年春の約969万ドルと同じレベルにとどまった。
落札作品1点の平均金額は約19,810ドルと、2021年秋の約22,692ドルから約12.7%下落、2021年春の23,774ドルも下回る。昨秋とは出品数が増加するなか、落札率は同水準で、総売り上げが減少したことによる。
業者別では、売り上げ1位は約393万ドルのフィリップス(落札率76%)、2位は約384万ドルでクリスティーズ(落札率73%)、3位は200万ドルでサザビース(落札率59%)だった。

厳しい外部環境の中、高額落札が期待された作品が苦戦し、5万ドル以上の高額作品の不落札率は54.4%と高かった。フィリップス“Photographs”では、シンディー・シャーマンの「Untitled #580, 2016」、落札予想価格25万~35万ドルなど、高額落札が期待された彼女の3作品が不落札、アーヴィング・ペンの「Woman in Chicken Hat (Lisa Fonssagrives-Penn) (A), New York,1949」も、落札予想価格8万~12万ドルが不落札。
サザビーズ“Photographs(Online)”では、リチャード・アヴェドンの代表作「Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955/1980」、57.4 x 45.7 cmサイズ、エディション50の作品が、落札予想価格18万~28万ドルのところ不落札。1979年プリントの同じ作品は、クリスティーズ“Photographs(Online)”で、落札予想価格15万~25万ドルのところ、なんと12.6万ドル(約1512万円)で落札されている。
サザビーズのオークションでは、高額落札が期待された、ダイアン・アーバスの本人サイン入りの代表作「Family on Lawn One Sunday in Westchester, N.Y」、イモージン・カニンガムのヴィンテージ・プリント「False Hellebore (Glacial Lily)」が不落札だった。
今春のオークションでは、入札には高値を追うような力強さが欠けており、特に高額価格帯のファッション、ドキュメンタリー系が弱い印象だった。

今シーズンの最高額は、クリスティーズ“Photographs from the Richard Gere Collection(Online)”に出品されたチェコ出身のモダニスト写真家フランチシェク・ドルチコル(František Drtikol)による希少性の高い女性ヌード作品 「Temná vlna (The Dark Wave), 1926」だった。落札予想価格10万~15万ドルのところ35.28万ドル(約4233万円)で落札されている。

2位は、サザビーズ“Photographs(Online)”の、トーマス・イーキンズ(Thomas Eakins)の19世紀写真「Untitled (Male Nudes Boxing), c1883」だった。落札予想価格3万~5万ドルのところ、なんと上限の6倍以上の32.76万ドル(約3931万円)で落札されている。ヌードの若い男性がボクシングをしている、とても小さい9.5X12.1cmサイズの鶏卵紙(albumen print)作品だ。

Sotheby’s, “Photographs(Online)”, Thomas Eakins「Untitled (Male Nudes Boxing), c1883」

3位もクリスティーズ“Photographs from the Richard Gere Collection(Online)”の、アルフレッド・スティーグリッツ(Alfred Stieglitz)によるオキーフのポートレート「Georgia O’Keeffe, 1918」。落札予想価格30万~50万ドルのところ30.24万ドル(約3628万円)で落札されている。

昨秋にジャスティン・アベルサノ(Justin Aversano/1992-)の、“Twin Flames”シリーズのNFT(Non-Fungible Token)写真作品を出品して話題をさらったクリスティーズ。今春も、複数アーティストによるNFTの12セットとなる「Quantum Art: Season One, 2021-2022」を出品させている。落札予想価格15万~20万ドルのところ16.38万ドル(約1965万円)で落札、これは同社の今シーズンの最高額落札になった。

Christie’s NY, “Photographs”, Various Artists「Quantum Art: Season One, 2021-2022」

余談になるが、最近の外国為替市場での急激なドル高/ユーロ高/円安の進行で、ギャラリーでは知名度の高い写外国人真家の作品への問い合わせが増加している。海外市場で取引されている写真家の有名作品のコレクションは、外貨資産を持つと同じ意味になる。約25年以上もそのように説明してきたが、やっと多くの人が急激な円安進行によりこの事実に気付き始めてくれた印象だ。

(1ドル/120円で換算)

リチャード・ギア写真コレクション・セール
クリスティーズでオンライン開催

2022年春の大手業者によるファインアート写真の定例オークションは、3月下旬から4月中旬にかけてニューヨークで開催された。今シーズンで注目されたのが、米国の俳優リチャード・ギア(1949-)の写真コレクションの単独セール「Photographs from the Richard Gere Collection」だった。クリスティーズが、3月23日から4月7日にかけてオンラインで開催した。

Christie’s, Diane Arbus, “Audience with projection booth, N.Y.C., 1958” Sold at $75,600.

ギアは「愛と青春の旅だち」、「プリティー・ウーマン」などの映画で主演を演じている有名俳優。実はシリアスな写真コレクターとしても業界では知られている。今回の単独オークションで、そのコレクションの全貌が初めて明らかになった。その中には、エドワード・S・カーティス、ギュスターヴ・ル・グレイなどの19世紀写真、アルフレッド・スティーグリッツ、エドワード・ウェストンといった20世紀初期作品、リチャード・アヴェドン、アーヴィング・ペン、ダイアン・アーバスといった20世紀作品まで、写真メディアの巨匠たちの有名作が多数含まれていた。クリスティーズの国際写真部門責任者のダリウス・ヒメス氏は、「非常に高いレベル」のコレクションだと賞賛している。

クリスティーズのメディア資料によると、ギアは、ボーイスカウト時代に母親から贈られたコダック・ブローニーカメラがきっかけで写真表現に魅了されるようになったという。1970年代半ばにキャリアを舞台から映画へと移行したことで、彼の写真への興味はさらに深まる。複数のカメラアングルにより物語が構築されることを目の当たりにし、「それぞれの写真が異なる物語を語る」ことを実感したという。ニューヨークとロサンゼルスで過ごした若かりし時代には、本屋でアーヴィング・ペンやエドワード・カーティスなどの写真集を立ち読みしていたそうだ。
本格的に映画デビューする前のギアは、これも写真家デビュー前のハーブ・リッツ(1952-2002)とプライベートで親しくなる。2人は、それぞれが俳優とカメラマンとして成功の階段を上っていく。リッツは、巨匠ブルース・ウェバーとの出会いがきっかけで、ファッション写真家として成功をつかむことになる。そして、同じく俳優として有名になっていくギアの写真をほぼ専属カメラマンとして撮影するようになるのだ。さらにギアは、仕事先で「美しいものを見るのが目的として」展覧会に行ったり、リッツと一緒にアート・オークションに参加するなど写真の趣味を広げていく。そしてギアの言うところの「自分の目と感性を鍛えるための進化プロセス」の一部として、本格的に写真コレクションを開始する。リッツが撮影した若かりしギアの写真「Richard Gere, San Bernadine, 1979」は写真集「Herb Ritts Pictures」(Twin Palms, 1988年刊)に収録されている。

“Herb Ritts Pictures” (Twin Palms),「Richard Gere, San Bernadine, 1979」

クリスティーズが紹介しているインタビューでは、「俳優である私の基本的なツールは感情、つまりストーリーテリングです。私が反応する写真のほとんどにはストーリーがあると思います」、また「これらの写真は、私が彼らに何かを感じたからこそ、私の人生に届いたのです。これらの写真には魂があり、人間らしさがある。技術的なことは関係ない」と、ギアは自らのコレクションを語っている。彼が写真をファインアート作品と認識していた事実がよく分かるコメントだ。

さて、今回のリチャード・ギア単独オークションでは、写真史を網羅する珠玉の139点が出品され、106点が落札、不落札率は約23.7%、総売上高は約242.23万ドル(約2.9億円)という結果だった。
俳優リチャード・ギアが所有していたという輝かしい来歴を持った作品群のオ―クションだったことから、ダイアン・アーバス、サリー・マンなどの一部作品は落札予想価格上限を大きく上回る落札が見られた。しかし、全体的には落ち着いた結果だったといえるだろう。

最高額は、チェコ出身のモダニスト写真家フランチシェク・ドルチコル(František Drtikol)による希少性の高い女性ヌード作品 「Temná vlna (The Dark Wave), 1926」だった。落札予想価格10万~15万ドルのところ35.28万ドル(約4233万円)で落札されている。

Christie’s, František Drtikol, “Temná vlna (The Dark Wave), 1926”

2位は、アルフレッド・スティーグリッツ(Alfred Stieglitz)によるオキーフのポートレート「Georgia O’Keeffe, 1918」。落札予想価格30万~50万ドルのところ30.24万ドル(約3628万円)で落札されている。

Christie’s, Alfred Stieglitz,”Georgia O’Keeffe, 1918″

3位は、エドワード・ウェストン(Edward Weston)の「Nude on Sand, Oceano, 1936」。落札予想価格7万~10万ドルのところ10.71万ドル(約1285万円)で落札されている。

Christie’s, Herb Ritts, “Djimon with Octopus, Hollywood, 1989”

リチャード・ギアの友人だったハーブ・リッツ作品は12点出品され10点が落札されている。最高額は「Djimon with Octopus, Hollywood, 1989」、83.8 x 68.5 cmサイズでエディション12の作品。落札予想価格2.5万~3.5万ドルのところ4.788万ドル(約574万円)で落札されている。

Christie’s/「Photographs from the Richard Gere Collection」

2022年ニュ-ヨーク春の大手業者によるその他のオークション結果は現在集計中。次回にレポートをお届けする。

(為替レートは1ドル120円で換算)

マイケル・ドウェックの名作解説(3) “Habana Libre”(2011年作品)

ブリッツ・ギャラリーは、米国ニューヨーク出身の写真家/映画監督マイケル・ドウェック(1957-)の写真展「Michael Dweck Photographs 2002-2020」を開催中。彼が監督/制作した第2作目の長編ドキュメンタリー映画「The Truffle Hunters (白いトリュフの宿る森)」の日本での劇場公開記念展となる。

本展では、「The Truffle Hunters (白いトリュフの宿る森)」からの作品と共に、ドウェックのいままでの主要シリーズ「The End: Montauk, N.Y.」、「Mermaids」、「Habana Libre」のアイランド三部作から、代表作も含めた27点を展示中。最近になってドウェックの存在を知った人は、今までの作品をあまり知らないだろう。本展開催に際して、彼の代表作が生まれた背景や評価されている理由を解説してきた。

第3回はアイランド3部作の完結編「Habana Libre」を取り上げる。
ブリッツでは、写真集「Habana Libre」(Damiani/2011年)の刊行に際して、2011年12月から2012年2月かけて写真展を開催している。同作でドウィックが舞台に選んだのは共産主義国家のキューバ。彼は2009年以来、同地を8回も訪問しフィルム約500ロール分の撮影を行っている。本作で撮影されているのは、ナイトクラブのパーティー、若者のナイトライフ、スケートボーダー、ファッションショー、音楽ライブ、ビーチライフ、サーフィンなどのシーン。まるでマイアミや南米リオデジャネイロなどの観光地のような写真作品だが、撮影場所はキューバなのだ。
本作で、ドウィックは階級がないはずの共産主義国キューバに存在するクリエィティブな特権階級のファッショナブルな生活を探求している。西側はもちろん、キューバでも知られていない同国内のシークレット・ライフを初めて紹介するドキュメント作品なのだ。 ドウィック によると、かれらのコミュニティーはまるで多分野の芸術家、文化人が集った30年代のパリのサロンの雰囲気を彷彿させたとのこと。

ⓒ Michael Dweck

「Habana Libre」も 、前2作と同様に被写体はモデルのようなカッコイイ人たちばかりだ。しかし決してファッション写真の様なモデルを起用して撮影した作り物のイメージではない。
撮影にはキューバ政府が非常に協力的だったという、カメラ機材の持ち込みにも配慮があったそうだ。その背景には、当時高齢だった最高指導者フィデル・カストロ(1926-2016)後のキューバの青写真があったようだ。将来的に文化観光事業を国の根幹の産業に育てたいという意図があり、ドウィックのキューバでの作品制作はその意図に合致していたのだろう。
キューバというと、ライ・クーダとヴィム・ヴェンダース監督による「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の、古い街並みと50年代の古いアメリカ車が走っているイメージがあるだろう。いまでも多くの住民は経済的には非常に貧乏だという。しかしキューバ社会には、本作で紹介されたような、アーティスト、作家、俳優、モデル、ミュージシャンたちの階級が存在するのだ。彼らの生活で重要なのはお金ではなく、社会的コネクションなのだという。それは、お互いの才能を認め合った多分野のクリエイティブな人たちのコミュニティーなのだ。なんとその中には、革命家のチェ・ゲバラ、フィデル・カストロの息子二人も含まれている。ドウィックは彼らの貴重なポートレートも撮影、それらは写真集に収録されている。
この分野の人材が育ったのは、1959年の革命以来、キューバ政府が文化振興に力を入れたという歴史的背景があるそうだ。この状況を的確に言い表しているのが、“キューバは経済的には貧乏だが、人材的には豊かだ” というキューバUNICEFの副代表Viviana Limpias氏のコメント(同名写真集に収録)。これは、お金がなくてもそれぞれが自分を磨いて魅力的になれば、周りに人が集まり幸せになれる、ということ。これこそは、過度にお金を追求し続ける現代アメリカ人に対しての、本作を通してのドウィックからのメッセージではないだろうか。
なお同写真展はハバナのFototeca de Cuba museumでも2012年に開催されている。これはキューバ革命後、アメリカ人写真家による初めての個展だったという。米国とキューバとの文化的な関係性を取り上げるとともに、オバマ政権下の2015年の国交再開を示唆した作品として注目された。

ⓒ Michael Dweck

会場では、写真集「Hbana Libre」(2011年Damiani刊)の限定100部のプリント付き、サイン入り特装版が限定数販売されている。彼のほとんどの作品は今やかなり高額になっている。この特装版は極めてお買い得といえるだろう!

ⓒ Michael Dweck

〇開催情報

「Michael Dweck Photographs 2002-2020」
(マイケル・ドウェック 写真展)
2022年 2月16日(水)~ 4月24日(日)
1:00PM~6:00PM/ 休廊 月・火曜日 / 入場無料
(*ご注意)新型コロナウイルスの感染状況によっては入場制限や予約制を導入します。詳しくは公式サイトで発表します。

ブリッツ・ギャラリー
〒153-0064 東京都目黒区下目黒6-20-29

映画「白いトリュフの宿る森」
公式サイト

マイケル・ドウェックの名作解説(2) “Mermaids”(2008年作品)

ブリッツ・ギャラリーでは、米国ニューヨーク出身の写真家/映画監督マイケル・ドウェック(1957-)の写真展「Michael Dweck Photographs 2002-2020」を開催中。彼が監督/制作した第2作目の長編ドキュメンタリー映画「The Truffle Hunters (白いトリュフの宿る森)」の日本での劇場公開記念展となる。
本展では、「The Truffle Hunters (白いトリュフの宿る森)」からの作品と共に、ドウェックのいままでの主要シリーズ「The End: Montauk, N.Y.(ジ・エンド・モントーク、N.Y.)」、「Mermaids(マーメイド)」、「Habana Libre(ハバナ・リブレ)」のアイランド三部作から、代表作も含めた27点を展示している。
ブリッツのマイケル・ドウェック写真展は、2016年の「Michael Dweck : Paradise Lost」以来となる。最近になって彼の存在を知った人は、今までの作品をあまり知らないだろう。本展開催に際して、彼の代表作が生まれた背景や評価されている理由を解説する。

第2回は彼の第2作目で、出世作となった「Mermaids」を取り上げる。ブリッツでは、写真集「Mermaids」(Ditch Plain Press/2008年)の刊行に際して、2008年10月から12月かけて「American Mermaids」展として開催している。ドウェックは、デビュー作に続き本作でも、現代に残る古きよき時代の憧れのアメリカン・イメージの追求行っている。マーメイドというと、ロン・ハワード監督によるダリル・ハンナ主演の映画「スプラッシュ」や、ディズニー映画の「リトル・マーメイド」など、若く美しい女性像が思い浮かべる人が多いだろう。

ⓒ Michael Dweck 禁無断転載

本作では、現代に生きる実際のマーメイドたちのドキュメントを通して、理想のアメリカン・ガール像の提示に挑戦している。最初、本作を見た多くの人はモデルをプールで泳がせて撮影した作り物の作品だと勘違いした。本作ではフロリダ州の小さな漁村アリペカが主要な舞台になっている。被写体はすべて澄み切った水と共に実際に生活している現地の女性たちで、本作は彼女たちのドキュメンタリー作品なのだ。彼女たちは「ウォーターベイビース」と呼ばれており、まるで水中が住みかのように生活し、5~6分間も水中に潜ることができるとのこと。ドウェックは、現地の美女たちを現代のマーメイドに見立てているのだ。
ブロンドヘアーの女性たちはブルーやグリーンの美しい水中空間を背景に、光、影、反射、水のレンズ効果を駆使することでまるで抽象絵画のように表現されている。夜間の水中撮影では、彼女たちの美しい肉体フォルムが闇の中に、シンプルかつモダンに浮かび上がる。マーメイドたちは完璧なボディーフォルムを際立たせるために、大掛かりな投光機材を現場に持ち込んで撮影が行われたという。しかし、彼女たちの素顔がシルエットになり良く見えないなのが本作の特徴でもある。価値観が多様化した現代では、誰もが認める絶対的な美人などもはや存在しないだろう。見る側は顔がはっきり見えないマーメイドのイメージに想像力が掻き立てられ、それぞれが持つ理想のアメリカン・ガール像を重ね合わせる仕掛けなのだ。本作はマーメイド像を通して現代の価値観の多様化を表現する広義のファッション写真ともいえるだろう。
欧米文化の影響を受けた日本人にとってもマーメイドは憧れの西洋女性像の象徴だ。同展の来場者や写真集購入者は、自分の持つ理想像をドウェックのマーメイドたちの姿に重ね合わせたのではないだろうか。

ⓒ Michael Dweck 禁無断転載

ⓒ Michael Dweck 禁無断転載

2015年、ドウェックはシルエットで泳ぐマーメイドの姿を使ったサーフボード型の手作りオブジェの制作に挑戦する。このころになると、写真のデジタル技術が大きく進歩し、アーティストはアナログ時代の技術上の様々な制限から解放されて作品を自由に思い通りに制作できるようになる。デジタル写真の持つ様々な可能性が探求され、数多くのハイブリッドな作品が登場した時期と重なる。ドウェックの写真彫刻は、非常に手間がかかり、制作コストも高額だった。まずマーメイドのイメージをシルクにアーカイバル・ピグメントを使用してプリントし、ボード型のポリエステル・フォームに巻き付ける。その後、グラスファイバーと7層の高光沢樹脂でコーティングされている。本作はインクジェット技術の進歩により可能になった写真彫刻なのだ。
これらは写真のマルチプル作品として市場でも高く評価されている。2017年11月2日のフィリップス・ロンドンの“Photographs”オークションでは、サーフボード3枚に“Mermaid 18b”作品がプリントされた“Triple Gidget from Sculptural Forms, 2015”が、57,500ポンド(1ポンド150円/約862万円)で落札されている。従来の写真作品というよりも、写真表現を使った現代アート作品だと市場では認識されているのだ。

現在開催中の写真展では写真集「Mermaids」(Ditch Plain Press/2008年)と「Mermaids 18」 の大判ポスターを限定数だけ販売中。

〇開催情報「Michael Dweck Photographs 2002-2020」
(マイケル・ドウェック 写真展)
2022年 2月16日(水)~ 4月24日(日)
1:00PM~6:00PM/ 休廊 月・火曜日 / 入場無料
(*ご注意)新型コロナウイルスの感染状況によっては入場制限や予約制を導入します。詳しくは公式サイトで発表します。
会場:ブリッツ・ギャラリー
〒153-0064 東京都目黒区下目黒6-20-29 アクセス

〇映画「白いトリュフの宿る森」大ヒット上映中
上映情報は公式サイトでご確認ください。

アンセル・アダムスの
単独オークション
サザビーズ・ニューヨークで開催!

今年最初の大手業者による写真オークションが2月17日にサザビーズ・ニューヨークで開催された。これは投資家デビッド・H・アリントン・コレクションからのアンセル・アダムス(1902-1984)作品約100点の単独オークションとなる。2020年12月に行われ、約640万ドルを売り上げて大成功を収めた同コレクションからアンセル・アダムス単独の“A Grand Vision: The David H. Arrington Collection of Ansel Adams Masterworks”セールのフォローアップ・オークションとなる。
近年、来歴の良いアンセル・アダムス作品に対する需要は極めて高い。特にサイズの大きな作品は現代アートの視点から再評価が進行して高騰している。いまや彼はアナログ時代に「ゾーンシステム」などの技法を駆使して、銀塩写真の表現の可能性拡大に挑戦してきた先駆的アーティストだと考えられているのだ。今回の結果でも貴重なアダムス作品の人気の高さが改めては確認された。
100点のうち不落札は僅か2点で、落札率は驚異の98%。落札額合計は約380万ドル(約4.37億円)だった。入札も活発で、落札予想価格上限を超える落札も数多く見られた。

Ansel Adams “Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941” / Sotheby’s New York

最高額は、20世紀写真を代表する名作“Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941”。極めて貴重な1940年代にプリントされた、イメージサイズ31.1 X 40.7 cmのヴィンテージ・プリント。落札予想価格50万~70万ドルのところ、50万4,000ドル(約5796万円)で落札された。
アンセル・アダムスの同作“Moonrise”は極めて暗室でのプリントが困難なことで知られている。 かつてアダムスは、“It is safe to say that no two prints are precisely the same.”「正確に同じプリントは2つとないといってもいい」と語っている。実は彼は、1948年12月にネガの再処理という苦渋の決断をしている。それ以降のプリントは数十年にわたり次第に濃くなり、1970年代後半には空が真夜中の黒の様に変化していった。従って、今回のようなオリジナルネガによる空部分があまり濃くない初期プリントは極めて貴重で高価になっているのだ。

実は同作“Moonrise”のオークション最高落札価格は、2021年10月6日にクリスティーズ複数委託者による“Photographs”に出品されたプリント。60年代後半にプリントされた103.8 x 150.4 cmサイズの超大判作品。このサイズは15~20作品位しか存在しないと言われている。落札予想価格50万~70万ドルの上限を超える93万ドルで落札されている。
この落札価格93万ドルと、今回の50.4万ドルとの違いは現代のマーケット状況が反映されている。市場を席巻する現代アート分野のコレクターが好む大判サイズという事実が、かつての20世紀写真でのヴィンテージプリントの貴重性を上回って評価されているのだ。

ちなみにアダムス作品のオークション作家最高額は、サザビーズ・ニューヨークで2020年12月に行われた第1回目のデビッド・H・アリントン・コレクション・セールに出品された、“The Grand Tetons and the Snake River, Grand Teton National Park, Wyoming, 1942”。60年代にプリントされた、大判約98X131cmサイズの銀塩作品で98.8万ドルで落札されている。

Ansel Adams “Clearing Winter Storm, Yosemite National Park,c1937” / Sotheby’s New York

さて今回のオークションの高額落札の2位は、“Clearing Winter Storm, Yosemite National Park, c1937”だった。 やや低めの落札予想価格3万~5万ドルのところ、22.68万ドル(約2608万円)で落札されている。
3位は“The Teton Range & the Snake River,1942”で、
こちらも低めの落札予想価格5万~7万ドルのところ、20.16万ドル(約2318万円)で落札されている。

実はいまここで紹介したアダムスの名作”Moonrise”が日本で鑑賞できる。東京恵比寿の東京都写真美術館で「TOPコレクション 光のメディア」が2022年6月5日まで開催されている。同展は、同館コレクションを中心に、29人の写真家の作品を担当キュレーターがパーソナルな視点で選んで展示する企画だ。アンセル・アダムス作品も6点が紹介され、”Moonrise”も含まれている。プリント時期の詳細な情報はないが、空の部分はかなり暗い印象。 後期のプリントだと思われる。興味ある人はぜひじっくりと珠玉のプリント・クオリティーを鑑賞して欲しい。
同展は、その他にもアルフレッド・スティーグリッツの有名作
“Equivalent, 20 No.9,1929″、アンドレ・ケルテスのヴィンテージ・プリントと思われる超貴重作品”Notre-Dame, 1925″や、ヨゼフ・スデク、ポール・ストランドなど数多くの20世紀写真の傑作を見ることができる。ファインアート写真コレクションに興味ある人は必見の写真展だ。

(為替レートは1ドル115円で換算)